文研ブログ

2021年2月

文研フォーラム 2021年02月15日 (月)

#308 「正確で信頼できる情報をわかりやすく」~新型コロナ特設サイトの取り組みと利用実態

メディア研究部(メディア動向) 上杉慎一


 新型コロナウイルスを巡る報道が始まって1年以上がたちました。感染者や死者の数、ひっ迫する医療現場の現状、外食や観光など経済的な打撃を訴える声、ワクチンの最新情報など、さまざまなニュースが連日伝えられています。その一方で、社会には残念ながら間違った情報やデマも飛び交っているのが現状です。また、メディアが騒ぎすぎだという声も聞きます。

 「新型コロナウイルスに関する情報をどんな手段で入手しているか」を、インターネットを使ってアンケート調査(複数回答)したところ、最も多かったのは「テレビ・ラジオの放送」で70%に上りました。ステイホームやリモートワークなどで自宅で過ごす人が多くなったのを反映してのことだと思われます。一方、情報収集にはインターネットも使うという人も多く、「ネットメディア」という回答が46%、さらに「自治体サイト」34%、「新聞社サイト」18%、「テレビ局サイト」17%の順でした。

 「テレビ離れ・新聞離れ」が叫ばれる中で、テレビ・新聞メディアはインターネットでの情報発信を強化しています。ホームページやニュースサイトには新型コロナの特設ページを設け、関連ニュースを伝えるとともに、さまざまなコンテンツを展開しています。
 さらにこうした取り組みはメディアばかりではありません。東京都をはじめ各自治体も特設ページを作り、正確な情報を伝えようとしています。

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 「NHK NEWS WEBの特設サイト」

 3月3日から始まる文研フォーラムの初日のプログラムでは、この「新型コロナウイルス特設サイト」に焦点を当てます。メディア各社がどんなコンテンツを届けているのか。また「正確で信頼できる情報とは何か」「わかりやすく伝える工夫とは」といった視点で3人のパネリストの方とともに考察します。

 パネリストは▽ヤフーでスタートページユニットの責任者をされている小林貴樹さん、▽東京都の「新型コロナ対策サイト」の制作に携わったリンクデータ代表理事の下山紗代子さん、▽NHK のニュースサイト「NEWS WEB」で新型コロナ特設サイトのキャップを務める新本貴敏チーフ・プロデューサーです。

 新型コロナをめぐる報道は、今後、ワクチン接種などに焦点が移り、特設サイトでも息の長い取り組みが続きます。討論ではこれからの情報発信についても探っていきます。どうぞご参加ください。

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メディアの動き 2021年02月12日 (金)

#307 政治家を見る厳しい眼 ~垣間見えた責任感の欠如~

放送文化研究所 島田敏男


 “今は昔、永田町に「陣笠議員」なる言葉ありけり。議場を埋める頭数なれど、「選良」であることの矜持は忘れざりけり・・・”

 衆議院の選挙制度が今の小選挙区比例代表並立性になる前の中選挙区制の時代、長く一党支配を続けていた自由民主党は派閥政治全盛でした。つまり党内に割拠していた派閥のボスが政治を仕切っていたわけです。

 駆け出しの議員や、なかなか役職に就くことができない中堅議員は、そのボスの指示に従って議場で賛成・反対の1票を投じる(あるいは起立する)わけです。こういう頭数の議員を「陣笠議員」と称したのは、昔の下級武士たちが兜の替わりに笠をかぶったことに由来すると言われています。

 しかし「陣笠」であろうとも、選挙区の有権者から議席を託された「選良」であることに誇りや自負を持っていた議員は大勢いました。総理大臣を決め、法律を成立させることができるのは国会議員だけで、数をたのまなければそれができないのですから。

 本来、一人一人がそういう誇り・自負を持つべき国会議員であるにも関わらず、とりわけ年明けからの1か月あまりで目立ったのは、自らの職責に無自覚な与党議員の行動でした。

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 松本純元国家公安委員長ら自民党衆議院議員3人が、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための緊急事態宣言が出ているさなかに、銀座の高級クラブをはしごする夜遊びに興じ、程なく露見した一件。

 3人は自民党を離党し、同じように深夜の飲食が明るみに出た公明党の遠山清彦衆議院議員は辞職しました。でも、それでけじめがついたから良しではなく、もう一段深く考える必要がありそうです。

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 緊急事態なのだから国民は外出を控えること、宣言が出ている地域では飲食店の営業は午後8時で打ち切ること・・・自粛要請か、罰則を伴う指示であるかを問わず私権制限は多岐に及んでいます。

 こうした個人の自由な活動を制限する要請や指示を政府や自治体が出すことができるのは、国会議員が必要な法律を成立させてきたからです。

 平時であれば、国会で成立が図られる法案は、産業や福祉の支援制度を設けたり、見直したりするものなどが多く、様々な分野ごとに細分化されています。従って、自分に直接関係しない限り多くの国民は無関心なものです。

 しかし、コロナ対策のために基本的に全国民に対し政治が我慢を強いている状況は、まさに有事です。眼に見えず、耳に聞こえない、体感できない脅威に対し、日常生活の我慢で向き合っている有事です。つまり誰もが我がこととして政治の動きを注視する必要がある稀な状況なのです。

 このコロナ禍の1年間に、政治家を見る国民の厳しい眼差しは急速に鋭さを増してきました。その変化に無頓着な国会議員が少なくない、自分たちが国民に我慢を強いていることに対する責任感の欠如、無自覚・・・これが垣間見えたのが今回の問題だったと思います。

 もちろん、与野党を問わず全ての国会議員が責任感に欠けていると言うつもりはありません。コロナ禍の現実が、国民と政治の距離を近づけたという皮肉な現象に、政治家はもっと注意を払うべきだということです。

 そうしないと政治プロセスに対する国民の不信が生じ、民主主義の足元が揺らぐことにもなりかねません。ここは与党も野党も関係なく、危機に際して国民から信頼される姿勢を貫くことが全ての政治家に求められています。

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 さてそこで、菅内閣の今です。2月5日から7日にかけて行われたNHK世論調査で、菅内閣の支持率は1月より更に下がりました。「支持する」38%、「支持しない」44%で、不支持が支持を6ポイント上回りました。

 政党支持率を見ると、自民党が先月より3ポイント近く下がって35・1%、他の政党には目立った変化は見られませんでした。その一方「特に支持する政党はない」と答える無党派層の割合は、先月より2ポイント近く上がって42・3%。自民党支持者の流出が伺えます。

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 内閣支持率と自民党支持率の低下。根底にはコロナとの戦いの出口が見えてこないことへの不満があるでしょう。ただ、今月は先に見た自民党国会議員の「あってはならない行動」が影響したのは確かです。

 さらに、調査直前の3日に飛び出した東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長の問題発言。この女性蔑視と猛反発を浴びた発言も、菅総理と自民党にはマイナスでした。東京開催が決まった後、森元総理を会長に据えたのは当時の安倍総理・菅官房長官ですから、任命責任を免れることはできません。
 この問題はボランティアの人たちの協力辞退を引き起こしていて、さらに波紋を広げかねない危うさを抱え込んでいます。

 国会では新型コロナ対策の改正特別措置法が成立した後、2月4日から令和3年度予算案の審議が衆議院で行われています。それと並行して、政府は新型コロナワクチンの確保を急ぎ、医療従事者、高齢者の順で接種を行なう準備に追われています。

 この二つが順調に進むのか、あるいは新たな問題の発生で滞る事態が生じるのか。緊張感のある政治と行政の姿を国民に示し、一つ一つの問題を乗り越えていくことが肝要です。



文研フォーラム 2021年02月10日 (水)

#306 ?研フォーラム 「"自分快適化装置"としてのメディア」は3?3?午後3時??

世論調査部(視調者調査) 斉藤孝信


 初のリモート開催となる「文研フォーラム」。その初日、3月3日午後3時からは「“自分快適化装置” としてのメディア」と題して、世論調査部が去年秋に開始した新調査「全国メディア意識世論調査・2020」の結果報告を中心に、人々が現在の多様なメディアやサービスをどのように利用し、どのような意識を持っているのかを考えます。
 私たちが注目したのは、調査相手の中で一番若い16歳から29歳の若年層。とにかく、動画やSNSといったインターネットをよく使い、しかも高く評価しているんです。どうしてインターネットが重宝されるのか。今回は調査結果に加え、20代男女3人にご協力いただき、日常生活の観察やインタビューでも実態に迫ります。

 さて、タイトルの「快適化装置」。
 念のため、くれぐれも、「テレビからリラックス効果のある匂いが出てくる」とか「スマホが勝手に肩をもんでくれる」とか、そういうことではありません(さすがにそんな想像をした方はいらっしゃらないですかね……)。
 でも考えてみれば、一昔前には、現在のように「テレビやスマートスピーカーに向かって、好きな俳優の名前を言えば、オススメの出演作を探して再生してくれる」などということはSF映画くらいでしか見たことがなかったわけですから、将来的にはあながちありえなくもないかもしれません。(無意味な冗談のようで恐縮ですが、じつは動画サービスの「検索」「オススメ・関連動画」機能も、今回のお話の重要な要素なのです)。

 話を戻しますと、じつはこのキーワードは、2001年に「放送研究と調査」に掲載された論考「“時間快適化装置”としてのテレビ」からヒントを得ました。当時の分析者は、テレビの娯楽・バラエティに対する意識を調査する中で、人々が、「楽しい気分になりたい、笑いたい」(主体的)、「退屈しのぎをしたい、らくに、つまらなさを紛らせたい」(受け身的)
といった要素で、自分の時間を快適にしてくれることを、テレビに期待しているのだと明らかにしたのです。

 それから20年。今回、このキーワードに注目したのは、「全国メディア意識世論調査」や若者たちへの取材を通じて、現在の若者たちが、多様なメディアを駆使して、見たい物を、見たい時に、見たい方法で楽しみ、心地よい人間関係の構築までしている、つまり“自分快適化”を実現している姿が浮かび上がってきたからなんです。
 調査は昨年末に終了し、現在鋭意分析している真っ最中で、もちろんこのフォーラムが、結果を皆様にご報告する最初の機会になります。たくさんの?にご参加いただければ幸いです。お申込み、お待ちしております?

※なお、『放送研究と調査』2?号では、「全国メディア意識世論調査」を始めるに至った私たちの問題意識や、質問文作成の過程をご紹介しております。お読みいただいてからフォーラムをご覧いただくと、いっそうお楽しみいただけると思います!

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文研フォーラム 2021年02月09日 (火)

#305 3月5日 13時から オンライン プログラムI シンポジウム「東日本大震災から10年 災害を伝えるデジタルアーカイブとメディアの公共性」

メディア研究部(メディア動向) 山口 勝


「震災アーカイブ」をご存じですか?
 災害の映像や画像をデジタルで保存して、誰もがネットで見られるようにしたものです。
私たちは、2016年の文研フォーラムで、東日本大震災から5年「伝えて活かす 震災アーカイブのこれから」と題したシンポジウムを開催しました。
https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/600/249824.html(文研ブログ)

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https://www.nhk.or.jp/bunken/research/domestic/20160701_4.html

震災からわずか5年で、東日本大震災を機につくられたアーカイブの閉鎖が相次いでいました。「デジタルアーカイブは、活用されてこそ持続できる」。使われなければすぐに閉鎖されてしまうのです。
そして、今年、東日本大震災から10年を迎えます。被災地では、震災を知らない子供たちが増え、デジタルアーカイブを活用した防災教育が始まりました。全国の小中学校で「端末1人1台」を実現させる「GIGAスクール構想」も、コロナ禍で前倒しされ、整備が進んでいます。震災後に改訂された文科省の学習指導要領は「生きる力」と名づけられ、新たな防災教育も始まります。
 地球温暖化を背景に、災害がさらに激化、多発化することが危惧される時代。メディアの使命としてNHKや民放各社は相次いで災害デジタルアーカイブの公開を進めています。 
 災害を「伝えて、活かし、備える」ために、メディアに求められる役割と課題は?
いま改めて、パネリストの皆さんと考えます。オンライン配信します。ぜひ ご参加ください!

【パネリスト】
今村 文彦(東北大学災害科学国際研究所所長)
森本 晋也(文部科学省総合教育政策局安全教育調査官、元釜石東中学校)
木戸 崇之(朝日放送テレビ報道情報デスク)
権田 裕巳(NHK知財センター アーカイブス部長)
【司会・報告】
山口 勝(NHK放送文化研究所 メディア研究部 主任研究員)
https://www.nhk.or.jp/bunken/forum/2021/program.html#programI

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文研フォーラム 2021年02月08日 (月)

#304 文研フォーラム 『新「再放送」論』は3月5日!!

メディア研究部(メディア動向) 大髙 崇


3月3~5日、初のリモート開催となる「文研フォーラム」で、再放送について議論いたします。
5日午前10時からのプログラムH 「新『再放送』論 コロナ禍緊急意識調査 × “放送の価値” 再定義」です。

これまでもこのブログで触れてきましたが、コロナ禍でテレビは再放送や過去番組のリメイク版の放送が増え、インターネット上でも話題になりました。(過去のブログ投稿は、#286#291#294をご参照ください)

新しい情報、“今”を伝えるのが第一の使命だといえる放送局もコロナ禍で番組制作が滞る大ピンチに! 危うし、テレビ!!
・・・ではあるものの、いやちょっと待てよ。

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過去の名作がテレビで蘇ったことに、視聴者から「待ってました!」「もっと見たい!」という歓迎の声も多かったのも事実。つまりは、番組を見逃した人、もう一度見たい人が改めて視聴できるサービスをもっと手厚くすることも、今後の放送局に求められる大きな役割なのではないか? 
そして、どんな番組を、いつ、どのようなタイミングで見られるとよいのか?
新しい番組と、過去の番組は、放送の中でどう「共存」すべきなのか?
それを見極めることで、未来に向けた新しい“放送の価値”が発見できるのではないか!?

ということで、“新「再放送」論”と銘打ち、90分、語り合います!
(今頃になって、タイトル大きく出過ぎたかな、と怯むこともありますが^^;・・・負けるもんか!)

昨年秋に実施した再放送に関するWEBアンケート調査の結果などをもとに討論しますが、ゲスト登壇者には、テレビ界、学界、アーカイブの世界で活躍する、いずれも若い世代の方々にお願いしました。

★BSテレ東・編成局に勤務しながら漫画家としても活躍する異才・真船佳奈さん。
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★十年以上テレビを持たない生活をしてきたという、『テレビ離れ』世代のメディア学者・滝浪佑紀さん。
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★地域の家庭に眠る「8ミリフィルム」を発掘・収集し、そこに新たな価値を見出す映画監督・石川友美さん。
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放送・通信を取り巻く環境が激変している中で、未来の放送のあり方を、若い論客たちにたくさん語っていただきます。

テレビのジャンルは多種多様で、好きな番組も人それぞれ。簡単に「はい、これが答えです」とはいかないでしょう。
しかし、テレビ放送開始からまもなく70年になります。NHKでは1980年代後半から体系的に番組の保存に取り組んでいます。またそれ以前の番組も、かろうじて廃棄を免れたり、視聴者などから録画テープの寄贈を受けたりして、保存されている過去番組は膨大な数になります。見られないままでは、もったいない。

たくさんの方がこのプログラムにご参加いただき、一緒に考える場となればと思っています。
お申込み、お待ちしております!

『放送研究と調査』2月号の論文で調査結果の一部を掲載しています。こちらもぜひご一読ください。

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文研フォーラム 2021年02月05日 (金)

#303 メディアのダイバーシティー推進をどうする?

メディア研究部(海外メディア) 小笠原晶子


 国内外でダイバーシティー&インクルージョンへの機運が高まっています。
ダイバーシティーとは多様性、インクルージョンは包摂するという意味で、性別や人種などにかかわらず、社会を構成する多様な人々を、その違いを尊重してともに生きていく社会を目指すものです。日本の産業界、そしてメディアでは主に経営的側面からダイバーシティー推進が語られ、女性の活躍推進に焦点があてられてきました。
 それに対し、欧米メディアでは、採用や人事といった職場に関わること(Off Screen)だけでなく、出演者(On Screen)についても、ダイバーシティー推進が進められています。“テレビに映っている”出演者にも多様性を反映し、社会を反映することがメディアの使命と位置付けられているのです。いま欧米では、2016年のイギリスEU離脱国民投票、2018年のフランス黄色いベスト運動など、社会の分断を象徴する動きが続いています。こうした事態を防ぎ、民主主義を守るため、メディアが社会の多様性を反映して多様な意見、視点を反映しないと、その存在意義を失うという危機感があります。また去年世界に広がった黒人の人権尊重を求めるBlack Lives Matter運動も、ダイバーシティー推進を加速させる要因になりました。
 それでは、何をもって多様性としているのか?例えば欧米メディアは、男女や人種、障害者、LGBTなど、カテゴリー別に職場や出演者の比率を調べています。それを労働人口を比較し、社会を反映しているか監視しています。客観的データに基づいて問題提起し、改善策を講じています。
 日本には、まだ定期的に出演者のダイバーシティーについて量的な調査は行われていません。もちろんダイバーシティー推進は、数字だけで全て語れるものではありませんが、フォーラムでは、欧米の事例を参考に、日本でどのような指標、手法を用いて、メディアのダイバーシティー推進を進めるべきか、考えていきます。特に本来は構成比が1:1となるべき男女のジェンダーバランスに焦点を当てながら、その現状、課題を取り上げます。欧米のメディアはジェンダーバランスの実現に向けて、それなりの成果を上げています。そしてジェンダーバランス推進の考え方、手法を、人種や障害者、LGBTといった対象に展開しようという動きもあります。ダイバーシティー推進にメディアが果たすべきことについて、まずは、欧米で進んでいるジェンダーの観点から掘り下げていきたいと思います。

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文研フォーラム 2021年02月04日 (木)

#302 私たちは東日本大震災から何を学んだのか~震災10年・復興に関する世論調査報告~

世論調査部(社会調査) 村田英明


 2011年3月11日(金)午後2時46分。私は、東京・渋谷で震度5弱の非常に強い揺れを体感しました。かつて取材した阪神・淡路大震災の記憶がにわかに蘇り、この首都圏や遠く離れたどこかの都市で、ビルや高速道路が倒壊するほどの甚大な被害が出ていると直感しました。地震の揺れでNHK放送センターのエレベーターは停止してしまい、当時、ラジオセンターでニュースデスクをしていた私は、階上のフロアから職員が続々と避難してくる非常階段を1階から駆け登り、高層階にあるスタジオまでたどり着きました。そこで初めて、宮城県で最大震度7。東北から静岡にかけての広い地域で震度5弱以上の地震を観測したことを知り、かつて経験したことのない巨大災害が起きていることを理解しました。そして、その瞬間から、長くて、終わりの見えない取材が始まりました。
 あの日から10年。現在、文研で世論調査を担当している私は、3人の研究員とともに、東日本大震災からの復興と大規模災害に対する人々の意識を把握するため、大掛かりな世論調査を実施することにしました。思い描いていた復興は実現できたのか?福島の復興はどうか?国の復興対策の課題は何か?震災の記憶や教訓は風化していないか?災害や防災への意識は変わったか?等々、いま私たちが知りたいこと、多くの人に伝えたいことを質問して、全国と被災地の方々から数多くの回答が寄せられました。その貴重な回答の結果を、3月4日(木)の文研フォーラム(午前10時30分~)でご報告するとともに、専門家によるシンポジウムを開催して、被災地の復興と今後の大規模災害への備えについて考えたいと思います。
 パネリストは、防災や災害時の危機管理がご専門の河田惠昭さんと、災害情報学がご専門で全国各地で防災教育を指導されている片田敏孝さん。被災地からも、岩手県釜石市の野田武則市長にご参加いただく予定です。司会は、長年、国内外の災害を取材してきたNHK解説委員の松本浩司が務めます。ひとりでも多くの方の参加をお待ちしています。

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プログラムE:私たちは東日本から何を学んだのか~震災10年・復興に関する世論調査報告~
https://www.nhk.or.jp/bunken/forum/2021/program.html#programE

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文研フォーラム 2021年02月03日 (水)

#301 「アリバイ(不在証明)」と「自撮り」と「地域放送局」

メディア研究部(放送用語・表現) 井上裕之


 まずは、次の2つの絵をご覧ください。どちらも戦争を描いた絵です。

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絵-B
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 Aの絵は、1942年に中村研一という画家が発表した『コタ・バル』という作品です。ぐるぐると張り巡らされた鉄条網を、果敢に突破しようとしている兵士の姿。太平洋戦争の開戦と同時に、日本軍がイギリス領マレー半島に上陸したときの様子を描いています。
 一方、Bの絵に描かれているのは、雨中、赤ちゃんを背負い、子どもを連れて歩く女性の姿。ここには、沖縄戦で沖縄本島の南部に逃げる家族の姿が描かれています。描いたのは、この女性自身。NHK沖縄放送局が2004~2006年に実施した「体験者が描く沖縄戦の絵」というプロジェクトに寄せられた1枚です。
 どちらも、戦争をテーマにした“戦争画”と呼べるでしょう。しかし、両者には大きな違いがあります。「戦闘場面を描いているかどうか」「戦意高揚が目的かどうか」「プロの作品かどうか」…などの違いがあると言えるかもしれません。

 加えてもう1つ、両者には決定的な違いがあります。それは、「描き手がその場に立ち会っていたかどうか」です。
 Aを描いた中村氏は、作戦実行時、その場にはいませんでした。現地を訪れたのは半年後。浜辺の様子を見たり、軍の関係者に聞き取りをしたりして作品を完成させました。戦意高揚を目的に当時描かれた「作戦記録画」と呼ばれる絵の多くは、描き手がその場に立ち会っていないものでした。これについて、ある人が、描き手が戦地での“アリバイ”を恐れなくなっていたと指摘しました。アリバイとは、推理小説でおなじみの「現場不在証明」。作戦記録画は、その多くにアリバイがある(=現場にいなかった)ということになります。
 一方、絵-Bは、「私はその場にいた」ことを伝えている絵です。描かれているのは、戦闘場面ではなく、本人以外おそらく誰も知らない個人的な記憶の1シーン。今で言えば、私たちがスマホで撮る写真に近いでしょうか。特に、自身を描いているこの絵は「自撮り」に似ています。しかし、撮影するということは、何か撮りたい理由があるもので、この絵にも描かれた理由があるはずですが…。

 スマホがまだなかった戦時中に「私は立ち会っていた/見た/体験した」ことを、戦後、思い出して描いてもらったのが「戦争体験画」です。NHKの地域放送局はこうした絵を、1970年代から各地で断続的に集めてきました。その数、約5,000枚。どのように集められたのか、なぜ地域局だったのか。募集の呼びかけは地域に何をもたらしたのか。そうしたことを、文研フォーラム2021で取り上げてみたいと思っています。報告者は、上記した戦争体験画プロジェクトの元担当者。ここでお伝えしたBの絵を描いた女性のストーリーも、実際に取材をした者が詳しく報告します。

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文研フォーラム 2021年02月02日 (火)

#300 "メディアは"機密の壁" にどう向き合うか

メディア研究部(海外メディア) 佐々木英基


政府の“機密文書”
そこには、公にされていない軍の“不法行為”が記されていた。
その事実を国民に知らせようと、軍の関係者が公共放送に機密文書を提供し、
公共放送がそれを報じた結果、
軍の関係者は訴追され、
公共放送は家宅捜索を受け、データを押収される・・・

これは、2017年から2019年にかけて、オーストラリアで起きたことです。

ABC(オーストラリア放送協会)が報じた機密文書には、
“アフガニスタンに派遣されたオーストラリア軍兵士が、非武装の民間人を殺害した”
という衝撃的な内容が含まれていました。

この事例が注目を集めた理由は、
機密文書の内容を報じたメディアに対して家宅捜索が入ることが、
“民主主義国”では異例だったことです。

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ABC(オーストラリア放送協会)

日本人である私からみても、ABCが報じた内容は、
主権者であるオーストラリアの人々が知らなければならない重大な問題をはらんでいると思えました。

「なぜ“民主主義国家”オーストラリアでこんなことが起きたのか?」
「メディアは、“機密の壁”にどう向き合うべきなのか?」

こうしたテーマについて、徹底的に議論するシンポジウムを開催します。

登壇者は、いずれもこのテーマを語るにふさわしい方ばかりです。
柳澤秀夫さん(ジャーナリスト)
「あさイチ」の「ヤナギー」としてお茶の間の人気を集めましたが、
1991年の湾岸戦争では、特派員として、バグダッドから最新の情報をリポートし続けました。

太田昌克さん(共同通信社編集委員 論説委員兼務)
核をめぐる日米関係の闇に深く切り込んできた太田さんは、
日米政府の最奥部から情報を得て、知られざる数々の事実をスクープしてきました。

西土彰一郎さん(成城大学教授)
憲法・メディア法の専門家です。
「放送の自由」について、国内外の法制度に精通すると同時に、
メディア関係者と議論を重ね、「あるべき放送」について発信を続けています。

VTRで参加するゲストにもご注目ください。
モートン・ハルペリンさん(国際政治学者)
アメリカ国防総省の上級担当官を務めたハルペリンさんは、米国の核政策に深く関わり、
“沖縄返還交渉”の当事者です。

マーティン・ブライトさん(英国ジャーナリスト)
イラク戦争の開戦直前、米国の政府機関が、違法な盗聴を英国政府機関に要請した事実をスクープしました。

3月3日(水)午後4時、1時間半にわたる白熱した議論にご注目ください。

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文研フォーラム 2021年02月01日 (月)

#299 コロナ禍の中の家庭学習で、デジタルメディアやオンライン授業はどのように利用されているのか

メディア研究部(番組研究) 渡辺誓司


 いまだ終息の気配がみえない新型コロナウイルスの感染拡大は、教育の分野にも大きな変化をもたらしました。そのひとつが、学校からのオンライン授業の配信です。各家庭で子どもたちが学習できるように、昨年春の休校期間中から配信が進みました。このような、家庭でインターネットを利用して学習を行う取り組みは、子どもたちの家庭学習をどのように変化させたのでしょうか。3月3日(水)開催の文研フォーラムのプログラムB「“コロナ時代”の家庭学習とメディア利用」では、昨年秋から冬にかけて中学・高校生の親子を対象に行った調査の結果を交えながら、オンライン授業をはじめとする、コロナ禍における家庭学習とデジタルメディアの利用に注目します。

 そもそもオンライン授業は、コロナ禍前にも、学習塾や予備校などでも行われていましたが、その利用は一部に限られていました。休校期間中に、必ずしもすべての学校がオンライン授業に対応できたわけではありませんでしたが、学校教育における新たなデジタルメディアの利用と位置づけることができるでしょう。その後、子どもたちが登校できるようになり、対面の授業が再開されてからも、家庭学習向けに、あるいはさまざまな事情で登校できない子どもたちに向けてなど、オンライン授業の配信を継続している学校もみられます。

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 文研が中高生に行った調査で、休校期間中のオンライン授業について尋ねたところ、その形態は、大きく2つのタイプに分かれました。授業を行う先生と、インターネットを通して家庭にいる生徒とが同時につながっていて、例えば授業中に先生とのやり取りもできる「リアルタイム型」と、先生の授業を事前に収録した動画が配信されて、指定された時間や自分の都合のよい時間に視聴する「録画授業型」です。
 「リアルタイム型」の場合、わからないところがあればその場で先生に質問できたり、画面を通してクラスメイトの顔も見られたりしたこと、多くが時間割に従って配信されたため、生活のリズムを崩さずに勉強できたことが全体的に好評でした。一方、「録画授業型」は、自分の都合やスケジュールにあわせて視聴できたり、一度の視聴で理解できない箇所は繰り返し視聴できたりした半面、意識的に時間管理をして学習することが必要で、自律的に学習ができた生徒とそうでなかった生徒との間で受け止めに差がみられました。
 国は、すべての小中学生に1人1台の端末を整備する「GIGAスクール構想」を進めていましたが、その達成時期も、当初予定されていた2023年度から今年度末に前倒しされました。自分の端末を学校から家庭に持ち帰り、家庭でオンライン授業を受けやすくなる環境の整備が進んでいるといえます。コロナ禍の中で始まったオンライン授業という新しい学びは、これから子どもたちの家庭学習においてどのように利用され、学びに役立てられるのでしょうか。

0201-2.PNG 当日は、オンライン授業についてだけでなく、スマートフォンやパソコンをはじめとする中高生の家庭学習におけるデジタルメディアの利用や、家庭学習からみた親子の関係がコロナ禍によってどのように変化したのか、調査結果から報告します。パネリストは、子どもたちに学びの場と居場所の提供を行うなど教育活動に取り組んでいる認定NPO法人カタリバの代表理事で、中央教育審議委員会委員でもある今村久美さんです。今村さんとともに、コロナ時代の教育とメディア利用の可能性について考えます。
 みなさまのご参加をお待ちしています。











↓↓文研フォーラムの詳細はこちらから、本日(2/1)正午より受付スタート!
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