文研ブログ

メディアの動き 2020年12月25日 (金)

#291 Eテレ「知られていない(?)」「名作(?)」の再放送番組たち

メディア研究部(メディア動向) 大髙 崇


先月のブログにも書きましたが、私は現在、コロナ禍でテレビの再放送が急増したことを受けて、「再放送に関する意識調査」の結果分析と考察に取り組んでいます(*)。

今は研究に専念していますが、もともと私は番組ディレクターで、なかでもNHK・Eテレの番組制作に長く携わってきました。

番組ディレクターは概して「変わり者」が多いのでありますが、Eテレの面々は中でも「変わり者率」がかなり高い、というのが私の経験に基づく独断と偏見です。
とにかくマニアック、よく言えばその道一筋の職人たちの集団、という感じで、その人の得意ジャンルについて質問したが最後、水を得た魚のように喋り始めて夢中になっちゃうので、「そんな詳しいところまで聞いてないんだけど…」と後悔する時もしばしばありました。

現代絵画の専門家。能や歌舞伎の「玄人(くろうと)」。昆虫愛のかたまりのような人。古代中国の漢詩のほとんどを暗唱できる人。あまりに仏教に詳しくてお寺の和尚さんを恐縮させちゃう人。甲冑を見ただけで、いつのどの武将のものか言い当てる戦国オタク。お前、何か国語話せるんだ⁉と度肝を抜くほど外国語をすぐに習得する“絶対語学感”の持ち主。どうしたら赤ちゃんが笑うかに全身全霊を捧げているオジサマ・・・。Eテレのディレクターが天職のような面々で、いい意味で「いい歳して子どもだなあ」と羨ましくなります。

Eテレの番組群は「視聴率」だけを基準にすると、正直なかなか“分が悪い”です。
しかし、手前味噌ではありますが、「職人」たちの知の蓄積と感性が冴える優れた出来栄えの番組も多く、とにかく一度ご覧ください、損はさせません!と訴えたい作品が(あくまで私見ですが!)たくさんあります。もちろんのことですが、Eテレ職人たちも番組制作にあたっては、皆さんどなたにも「見て良かった」と思っていただけるようにと、わかりやすく丁寧に、品質重視をモットーに取り組んでおります。念のため。

さて、冒頭で触れた再放送の意識調査の中で、ドラマやドキュメンタリー、教養番組などのジャンルごとに「どんな“要素”を持った再放送番組が見たいか」と質問しました。
そして、その結果がこちらです。

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赤文字で強調したのが・・・何を隠そう、Eテレのおすすめ番組が持つ要素ではないか、と私なりに希望を感じている部分です。
「名作」かどうかはさておき、Eテレ職人たちが個々の感性を武器に「好みや趣味」をとことん追求した番組は枚挙にいとまがありません。そして、「知られていない」「レア」な番組が・・・言い切ってしまうことにややためらいつつも・・・たくさんあります!

この年末年始の番組表を覗いてみると、Eテレでは、調査結果にあるニーズに合致するかもしれない番組の再放送が続々登場です。そのいくつかをご案内しましょう。

●12月26日(土)午後4時25分~
こころのおはなし ABUアジアこどもドラマシリーズ名作選
Eテレで2005年から15年続く「こどもドラマシリーズ」、ご存知ですか? ABU(アジア太平洋放送連合)が主催する国際共同プロジェクトで制作され、過去には「名作」「話題作」が数多くあります。“知られていない優れた番組”と言っていただけるかもしれません。

この日放送される『ヒカルの掃除』(2012年8月初回放送)は、今年のドラマ「おじさんはカワイイものがお好き。」(日本テレビ系)でも人気だった眞島秀和さんが父親役として出演する“レア”な作品。
そして、『ブラジルへの近道』(2015年7月初回放送)は、海外の映像祭での受賞歴もあり、今をときめく寺田心(当時6歳)さんが出演している、これまた“レア”な一品です。

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『ブラジルへの近道』より

なお、12月29日(火)午前10時からは、同シリーズの新作・ABUこどもドラマ2020『あやとり』が放送されます。こちらもお楽しみに!

1229日(火)午後10:00 ~
先人たちの底力 ()恵泉(えいず) 選「新しい女の生き方 昭和編 長谷川町子」(2020年9月初回放送)
「サザエさん」の作者、長谷川町子さん。今よりずっと女性の社会進出が難しかった昭和の時代に、どんな知恵をもって生き抜いてきたのか? 西原理恵子さんや熊谷真実さんのトークも必見です。「ために」なって、「今見ることに意義」を感じていただけたら幸いです!

コロナ禍に翻弄された2020年も残りあとわずか。年末は英気を養いつつ、Eテレの「底力」をご堪能ください!
そして、再放送に関する意識調査の結果は、年明けの『放送研究と調査』(2月号に前編を掲載予定)や、3月開催の『文研フォーラム2021』で詳しくお伝えしようと思っております。報告をお待ちください!



(*)2020年9月に実施したインターネットでのアンケート調査。対象者は全国20~69歳の男女1,000人で、テレビを1日1時間以上、NHK地上波を週1回以上視聴する人。サンプル構成は世代(20代~60代)ごとに男女100人ずつ(計200人×5世代)。