文研ブログ

2018年9月

おススメの1本 2018年09月28日 (金)

#146 あさどらてれこのほうそく

メディア研究部(番組研究) 亀村朋子

連続テレビ小説『半分、青い。は今まさに最終回を迎えようとしています(2018/9/29(土)最終回放送)。北川悦吏子さんオリジナルの作品ということで、「物語がどのような結末を迎えるのか?」そこを楽しみに見ていた方も多かったと思います。
そんな今日このごろではありますが、朝ドラ研究プロジェクトでは、『放送研究と調査』9月号に、『半分、青い。』の前作である『わろてんか』の視聴者アンケート調査の結果を報告しました。「いまさら?」と思われたそこのあなた!申し訳ありません。放送終了直後の調査結果を分析しまとめるには、ある程度の時間を要するので、どうしても現在放送されている作品との「時差」が生まれてしまうことになります。

『半分、青い。』は、最終週に至るまでジェットコースターのような展開が度々あり、ハラハラドキドキすることが多かったのに比べて、『わろてんか』はそれほど心揺さぶられ過ぎずに、安心して見られた感が強い作品でした。その大きな理由として考えられるのは、『わろてんか』は実在の人物たちをモチーフとして作られた話だったことです。それを承知して見ていた視聴者は多く、「きっとハッピーエンドになる」と分かっているからこそ安心して見ていた…そんな意見もアンケートに多く見られました。

朝ドラは、半年ごとに作品が入れ替わります。『半分、青い。』のように振幅の大きなドラマは、見ていて「面白い」と同時に「少々疲れる」ところもあるのではないかと思います。『わろてんか』の感想には、「見ていて疲れないのが良い」という意見がありました。また、「わろてんか(=笑ってくれないか)」というタイトルどおりに「笑うことにより幸せになれる、という感じがとても好き」という心温まる感想もありました。そんな『わろてんか』の分析結果は、ぜひ『放送研究と調査』9月号「朝ドラ研究 視聴者は朝ドラ『わろてんか』をどう見たか」でお読みください。
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『わろてんか』『半分、青い』に続く今後の朝ドラは、『まんぷく』『夏空』と、「モデルあり」と「オリジナル」とが1作ごとに交互に登場します。朝ドラを長期で楽しんでいる人にとっては、タイプの違う作品を半年ごとに新鮮な気持ちで見ることができるので、「朝ドラという枠は、よく出来ている」と思いますし、そこに朝ドラがヒットしている要因もあると思います。当然、見る人の好みによって好き嫌いは生じますが、例え自分にとってあまり好きではない作品であっても、半年というスパンは、「そのくらいなら頑張って見よう」「次のドラマに期待しよう」と思って見続けられるギリギリの期間なので、離れないお客さんが多いのかもしれない、とも思います。もちろん好きな作品であれば、毎日の15分がささやかな楽しみの時間ともなります。「モデルあり」と「オリジナル」が テレコテレコ(交互)にやってくることも、飽きさせない工夫となっているのではないでしょうか。「朝ドラ・テレコの法則」は成功している、そんな気がするのです。
来年の春、朝ドラ100作を機に、文研の朝ドラ調査は総まとめに入ります。またブログでも報告させて頂きますのでご期待ください。

 

おススメの1本 2018年09月21日 (金)

#145 "カラー写真"は、語りかける

メディア研究部(メディア動向) 谷 卓生

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 73年前の今日。1945年9月15日、終戦直後にマーシャル諸島で撮影された日本軍の兵士たち。・・・ニューラルネットワークによる自動色付け+手動補正。


渡邉さんのツイートより(Twitter @hwtnv)


このツイートは、広島原爆の実相を伝えるデジタルアーカイブズ「ヒロシマ・アーカイブ」などの制作で知られる東京大学大学院の渡邉英徳教授が、今月(9月)15日に、ツイッターに投稿したものだ。元の白黒写真を、早稲田大学理工学術院の研究グループが開発したAI(人工知能)を使って自動でカラー化し、さらに画像処理ソフトも使って自然な感じに仕上げている。

渡邉さんは、元の白黒写真も同時に投稿する。

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2枚の写真を見比べて、皆さんはどのような印象を持たれるだろうか。
渡邉さんは、毎日のように「その日」の白黒写真をカラー化して投稿している。このような日付のシンクロとカラー化が生み出した生々しさによって、私には、73年の時空を越えて旧日本軍の兵士たちが語りかけてくるような気がする。同じように、カラー化された写真に触発された人が多くいるのだろう。このツイートは、3100あまりリツイートされ、およそ3800のが付いている(9月18日現在)。さらには、自分の身内の戦争体験や自身の戦争に対する考えなどが、コメントとして多数つけられている。コメント同士でやり取りが行われることもあり、渡辺さんのツイートから、いわば“小さな言論空間”が生まれたとも言えるのではないだろうか。

渡邉さんは、このようなプロセスを「記憶の解凍」と呼び、3つのフェーズから成り立っているとする。


まず,白黒写真が持つ“凍った“印象が,カラー化によって“解かされる“。次いで,創発する対話によって,人々の記憶がよみがえり“解凍“される。そして,元の写真への社会の関心が高まり,写しこまれた記憶が未来に継承される。


渡邉さんのツイートより(Twitter @hwtnv)


アーカイブされていた白黒写真がカラー化され、“現在のツイッター空間”に投げ込まれることで、写真は死蔵されるのでなく、息を吹き返すのだ(渡邉さんは、フェイスブックやインスタグラムにも、戦争の時代の写真を中心に、同様の投稿を行っている)。

さらに、現在は、写真だけでなく、白黒の“動画”もカラー化することが可能になった。これまでもカラー化は行われてきたが、かなりの時間とコストが必要で簡単に行うことは難しかった。しかし、NHK放送技術研究所(技研)が開発した「AIによる白黒動画カラー化」技術を使えば、容易にカラー化できるようになり、放送にも利用された(8月に放送されたNHKスペシャル『ノモンハン 責任なき戦い』で、ノモンハン事件の記録フィルムのカラー化に使われた)。
この技術が、一般にも広く使えるようになれば、白黒動画の分野でも、「記憶の解凍」が多数行われ、「記憶の継承」に大いに資することになるだろう。


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技研公開2018

※技研が開発した「AIによる白黒動画カラー化」技術については、『放送研究と調査』2018年8月号「人工知能で白黒フィルムの映像を自動でカラー化」をご覧ください。

メディアの動き 2018年09月14日 (金)

#144 受信料は時代遅れで不公平?-デンマークの選択

メディア研究部(海外メディア研究) 中村美子

4月に、デンマークに行って来ました。

いま、番組研究グループの渡辺誓司主任研究員と共同でパラリンピック放送をテーマに調査研究を進めています。デンマークの公共放送DRのパラリンピック放送を取材することが、デンマークを訪問する第1の目的でした。
ところが、1月に「受信料廃止/税金化」と「DRの予算を5年間で20%削減」の2点について与野党が合意し、4月にはこの政治合意を前提に、政府は2019年から5年間のメディア政策提案を発表しました。いま、ヨーロッパ各国で、公共放送の財源制度や財源規模の見直しが続いています。が、正直に言って、デンマークの動きはノーマークでした。

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他の国に比べると“電光石火”の決定に、いくつもの疑問がわきあがりました。受信料廃止の理由は?税金化のリスクをどれほど考慮したのか?また、DRに「ニュース、教育、文化」に集中することを政府は求めています。公共放送にとってコンテンツを通じて視聴者との関係の構築することがますます重要になっています。ましてや、NetflixやYouTubeなどの利用が高まり、情報や娯楽の選択肢は拡大しています。それなのに、公共放送の範囲を狭める意図は何か?

そこで、パラリンピック放送の現地調査をチャンスに、メディア政策に係る国会議員、メディア・コミュニケーションの研究者、当事者のDRにこうした疑問をぶつけてみました。その答えは、ぜひ『放送研究と調査』9月号 「受信料廃止を決めたデンマーク ~新メディア政策協定と公共放送の課題~」をご覧ください。

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原稿では、聞き取り調査での空気をお伝えすることができませんでしたが、国会議員は、DRを“governmental broadcaster”と呼び、「DRに対する政府のコントロールを維持し続ける」と正直に語るため、内心複雑な思いがありました。また、研究者とDRの幹部職員が、「政治的交渉に立ち入ることができない」と淡々と語る様子も想像とは違ったものでした。

デンマークでは来年総選挙が予定され、左派への政権交代があるかもしれません。その場合、メディア政策の修正も考えられますが、「受信料の廃止/税金化」は与野党合意ですから、よほどのことが起きない限り、これが覆ることはありません。

ところで、デンマークの取材は今回が2回目です。10年余りのブランクがありました。海外のホテルでは滞在中、部屋のテレビのチャンネルをあちこち変えながら、その国のテレビ番組をチェックします。なぜか、公共放送DRが放送する6つのチャンネルしか見ることができませんでした。広告放送のTV2など数チャンネルはあったはずなのに、どうしたのでしょうか。ホテルが悪い? 一応、三つ星には宿泊できました。あとで思い出したのですが、デンマークの地上デジタル放送は、DRのチャンネル以外すべて有料サービスで提供されています。これが、原因かもしれません。

それにしても、DRのどのチャンネルも超真面目。ドキュメンタリーやクラシック・コンサートが目に付き、夕方の子ども向けチャンネルはアニメ、若者向けと思われるチャンネルではテレビゲームの攻略をテーマにしたスタジオ番組でした。最近世界的にじわじわと人気が出てきた北欧ドラマ・ミステリーは、週末を含め5日間の滞在期間中、まったく見ることができませんでした。こんなところに、もうすでに政治の意向が影響しているのでは、と思ってしまいました。

おススメの1本 2018年09月07日 (金)

#143 海賊版サイトとブロッキングの問題 最近の動向

メディア研究部(メディア動向) 越智慎司

漫画やアニメなどを無断で掲載している海賊版サイトへの対策として政府が行うとした「ブロッキング」についての論考を、『放送研究と調査』9月号に書きました。ブロッキングとは、ユーザーがインターネットでウェブサイトにアクセスしようとした際、プロバイダーなどの判断で閲覧を遮断することです。国内では児童ポルノについてブロッキングの先例があり、どのような経緯でブロッキングの実施に至ったか、さらにどのように運用されているかを、関係者への取材などで探りました。取材を通じて、「まずブロッキング」ではなく、ほかのさまざまな策とともに考えていくほうが、海賊版サイトへの有効な対策になるのではないかという思いを強くしています。

政府は海賊版サイト対策の実現に向け、ことし6月から出版・動画の業界、通信事業者、法律の専門家などの有識者を集め、検討会議を開いています。9月中旬をめどに中間取りまとめの予定で、8月30日の会議でその骨子案が示されました。案は政府の知的財産戦略本部のウェブサイトで見ることができ、総合対策の案も示されています。この総合対策の中で、ブロッキングについては「ブロッキングに係る法制度整備について(P)」とだけ書かれています。記述の後ろの「P」とは?

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シンポジウムの様子

9月2日、プライバシーや情報法などの研究者で作る情報法制研究所が海賊版サイト対策についてのシンポジウムを開きました。この中で、「P」とは“霞が関用語”で「ペンディング=保留」の意味という説明がありました。つまり、ブロッキングについて検討会議が現時点で示せることは何もないということになります。

シンポジウムには検討会議のメンバーの方々も何人か出席し、ブロッキングも含めた議論が行われましたが、議論を聞くかぎりでは、検討会議での意見集約などがまだ十分でないという印象を受けました。このため、仮にブロッキングを行った場合に誰がイニシアチブをとり、どのようにコストを負担するのかといった議論には行きつきませんでした。

今回執筆した論考のまとめの中で、「インターネットに関わる多くの人たちの知恵を集めなければならない」と書きました。政府は海賊版サイト対策の実現に向けて進んでいますが、これまでほとんど接点のなかった関係者の知恵を集められているのでしょうか。中間取りまとめにある総合対策が決まったとしても、本当に現場でうまく機能するのか、それが心配になりました。

『放送研究と調査』9月号
調査研究ノート 海賊版サイトは “ブロッキングすべき” か ~著作権侵害コンテンツ対策の課題を考える~」