文研ブログ

2017年10月

調査あれこれ 2017年10月27日 (金)

#100 憲法改正への賛否、半世紀の推移

世論調査部(社会調査) 荒牧 央

今年は日本国憲法が施行されてから70年になります。少し前の話になりますが、5月の憲法記念日の前後には各地で記念行事や催しが行われました。東京の国立公文書館で開催された特別展では、日本国憲法の原本や、制定に至る過程で作成された資料が展示されていました。

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日本国憲法の原本(筆者撮影)

NHKの世論調査で憲法について尋ねたのは、1962年の「第6回参議院議員選挙全国調査」が最初です。今の憲法を改正する必要があるかどうかという質問に対し、「改正する必要があると思う」20%「改正する必要はないと思う」21%で、ほぼ同じ割合でした。残りの6割は「どちらともいえない」などです。

この質問は現在まで50年以上にわたって繰り返し使われており、(間隔の空いている時期はあるものの)改正に対する賛否の長期的な推移をみることができます。1960年代から70年代前半にかけては、「必要」が多くなったり「不要」が多くなったりしながらも、どちらかがもう一方を大きく上回ることはありませんでした。92年、93年の調査でも同様のことが言えます。

大きな動きがあったのは2000年代です。2002年の調査では「必要」が58%と半数を超え、「不要」を大幅に上回りました。1990年代以降、自衛隊と国際貢献のあり方について議論が高まったことや、「新しい権利」など憲法改正のテーマが多様化したことが影響したのではないかと考えられます。

今年3月に実施した直近の調査では「必要」43%、「不要」34%。「必要」が上回ってはいますが、両者が再び接近しました。憲法改正の論議が現実味を帯びる中で、人びとが改正に対して慎重な姿勢を示すようになったのかもしれません。

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22日に行われた衆議院選挙では、与党が憲法改正の発議に必要な3分の2の議席を維持し、改憲に前向きな野党も含めると議席の8割を占めました。内閣支持率の低下などから先行きが不透明になっていた憲法改正論議も、再び活発になると考えられます。世論調査部ではこれからも憲法に対する国民の意識を追って行きたいと考えています。

『放送研究と調査』10月号では、1974年、1992年、2002年、2017年の4回の世論調査の結果を中心に憲法意識の変遷について報告しています。

調査あれこれ 2017年10月20日 (金)

#99 幼児に人気の番組、いまむかし

世論調査部(視聴者調査) 星 暁子

最近の小さい子どもたちがよく見ている番組をご存じですか?
きょうは、文研が毎年6月に2~6歳の未就学児(東京30km圏)を対象として実施している「幼児視聴率調査」の結果から、幼児に人気の番組についてご紹介します。
こちらは、今年6月5日~11日の1週間で、幼児によく見られた番組のリスト(20位まで)です。
(このあとご紹介していく番組について、文字に色をつけています)

99-1020-11.png今回最もよく見られたのはEテレの「おかあさんといっしょ」です。長く続いている幼児向けの番組として知られていますが、さかのぼって調べてみたところ、実は調査が始まった1996年以降で視聴率がトップになったのは初めてのことでした。Eテレ(教育テレビ)の番組がトップになったのも初めてです。
では「おかあさんといっしょ」の人気が高まってきているのか(だとしたら嬉しい!)と調べると…実は、ほかの人気番組の視聴率が徐々に低下してきているため、「おかあさんといっしょ」がトップに浮上したということのようです。

では、過去はどんな番組がどのくらいの視聴率だったか、10年前(2007年)、20年前(1997年)の、幼児によく見られた番組のリスト(10位まで)を見てみましょう。

99-1020-23.png今も続いている番組やシリーズがいくつもありますね。アニメやヒーロー・戦隊シリーズは今でもたいへん人気がありますが、当時の視聴率は今よりだいぶ高いことがわかります。
アニメに注目すると、2007年には「Yes!プリキュア5」「サザエさん」「ちびまる子ちゃん」が30%を超え、1997年には「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」が50%を超えていて、当時の人気ぶりがうかがえます。
ヒーロー・戦隊シリーズをみると、今年は「仮面ライダーエグゼイド」「宇宙戦隊キュウレンジャー」が10位圏外になっています(ちなみに「キッチン戦隊クックルン」は、食育番組です)が、2007年には「仮面ライダー電王」が30.9%、「獣拳戦隊ゲキレンジャー」が25.9%でした。1997年にはヒーローシリーズの「ビーロボカブタック」が39.8%、「ウルトラマンティガ」「電磁戦隊メガレンジャー」が29.2%と、いずれも高視聴率を記録していました。

ただ、この調査の「視聴率」はテレビの放送と同時の視聴(リアルタイム視聴)についてのものなので、録画やDVD、動画で見られているものを含めると、一概に「アニメやヒーロー・戦隊シリーズの番組が見られなくなってきている」とはいえないのかもしれません。この調査では、自由記述で「お子さんが録画してよく見るテレビ番組/DVD/動画」のタイトルを書いてもらっているのですが、アニメやヒーロー・戦隊シリーズの番組名も数多く挙がっており、今でも子どもたちの「お気に入り」には違いないようです。
見ている子どもたちは成長とともに入れ替わっていくのに、20年以上もの長きにわたって支持され続けている番組があるということは、テレビ業界にとっての「財産」なのでは、と思えます。

幼児にテレビはどのくらいの時間見られているのか、録画番組やDVD利用の状況…など、今年の詳細な結果は『放送研究と調査』10月号で報告していますので、お読みいただければ幸いです。

メディアの動き 2017年10月13日 (金)

#98 「トランプワールド」VR配信は放送に何をもたらすのか?

メディア研究部(メディア動向) 山口 勝

VR(バーチャルリアリティー、仮想現実)
は放送に何をもたらすのでしょうか?
2017年6月、NHKは、ドキュメンタリー番組のBS1スペシャル『知られざるトランプワールド~360°カメラが探訪する新大統領を生んだ世界~』で、世界初となる放送と同期させた360°映像のVR配信を行いました。視聴者は、放送を見ながらスマホを上下左右に動かすことで、テレビ画面の外側につながる世界を360°体験。TVの新しい見方を提案したのです。

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トランプタワーがあるマンハッタンの街並みやトランプ氏が学んだ軍隊式寄宿舎の内部の360°映像は、視聴者から「新たな映像体験!」と反響を呼びました。東京オリンピックの1000日前となる10月29日(日)のBS1スペシャルでは、360°VR同期配信第2弾として「カヌー競技」をテーマにした番組を放送する予定です。
NHKでは「ニュースや番組を360度で『体感』する」をコンセプトにVRジャーナリズムに取り組み、NHK VRをネット上で運用しています。
VRジャーナリズムでは、「どこにカメラを据えるのか」という取材者のスタンスの重要性が、改めて問われます。

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7月にアップされた「九州北部豪雨災害360°現場報告」(写真上)では、短時間に13万を超えるアクセスを記録しました。見る方向を変えるたびに、大量の土砂や木材が家屋を押しつぶす様子が次々と視野に入ってきて、ふだんのニュース映像以上に、災害現場の臨場感が伝わりました。災害報道におけるVRの新たな可能性を感じさせます。

一方、世界の注目が集まるオリンピックでも、VR元年と呼ばれた2016年のリオデジャネイロ大会からオリンピック放送機構(OBS)が、360°VR配信を開始。次世代通信規格5Gが試験導入される2018年 平昌、サービスが開始される2020年 東京のオリンピックでは、世界的IT企業や通信キャリアがオリンピックスポンサーとなり、多視点や自由視点などより高度なVR配信に乗り出そうとしています。

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競技場を取り囲むように複数のカメラを配置して、多視点、自由視点、360°リプレイ映像など多彩なVRコンテンツを作るTrueVR(インテル提供)

通信ベースのVR配信は、これまで様々な映像文化を開発してきた放送と通信の関係を逆転させる可能性もあります。VR配信は、新しい公共放送サービス、公共メディアサービスとなるのか。5G時代の公共放送サービスはどうあるべきか。IT、通信業界と世界の公共放送の最新動向から読み解き、『放送研究と調査』10月号に下記タイトルで報告しました。
「公共放送による360°映像のVR配信の意義~2020年とその先に向けて~」

ぜひご一読ください。

放送博物館 2017年10月06日 (金)

#97 企画展「ヒロインたちの肖像 連続テレビ小説ポスター展」をもっと楽しむ!

放送博物館 堀田伸一

NHKの連続テレビ小説は現在放送中のわろてんか』で第97作を数えます。NHK放送博物館では、この連続テレビ小説のポスターを集めた「ヒロインたちの肖像 連続テレビ小説ポスター展」2018年1月28日(日)まで開催しています。今年の1~2月に開催した「NHK大河ドラマ"蔵出し"ポスター展」に寄せられた「朝ドラの展示も見たい!」という声にお応えするものです。
今回の記事では、この企画展を何倍も楽しく見るためのポイントをご紹介します。

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●  ポスターに見る「ヒロインたちの肖像」
今回の展示のメインは、なんといっても、当博物館で所蔵している、連続テレビ小説77作品・310種類の広報ポスターから厳選された49点のポスターです。連続テレビ小説のポスターは、ヒロインの顔が大写しになったものが多いのが特徴です。

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ポスターごとのヒロインの描かれ方や表情の違いを比べると、今回の企画展が何倍もお楽しみいただけると思います。


●  オープニング映像
今回の企画展では、ポスター展示のほか、NHKに映像が現存する91作品について、オープニング映像の冒頭部分を視聴できるコーナーを設けています。オープニングに描かれた日本各地の美しい風景や、懐かしのテーマ音楽をお楽しみいただけます。
また、出演者などのクレジットに目を向けると意外な発見があるかもしれません。例えばちりとてちん』(2007)のオープニング映像には、のちに『ゲゲゲの女房』(2008)でヒロインを演じる松下奈緒さんが「テーマ曲ピアノ演奏」でクレジットされています。
クレジットの中には、作品のリアリティを追及するための「時代考証」や「方言指導」なども表示されています。ヒロインの母の実家がかまぼこの老舗という設定だった『天花』(2004)の「かまぼこ製作指導」、戦時下が描かれる『梅ちゃん先生』(2012)の「竹やり指導」など、ちょっと変わったクレジットを探すのも楽しみ方のひとつです。


●  「職業でみるヒロイン像」「ヒロインを愛した男たち」
ヒロインの生涯が描かれることが多い連続テレビ小説では、ヒロインの職業や伴侶は重要な要素です。今回の企画展では、これまでのヒロインたちの職業と結婚相手を、写真で振り返ることのできるコーナーも設けています。
「職業でみるヒロイン像」からは、アイドルから宇宙飛行士にいたるまで、実にさまざまな職業で活躍する姿が描かれてきたことがわかります。「ヒロインを愛した男たち」に目を向けると、渋い演技が魅力的な実力派俳優からお笑いタレントにいたるまで、こちらも実にさまざまなタイプの男性の顔が並びます。
多種多様な職業や結婚相手を切り口に、ヒロイン像を思い浮かべながらポスターを眺めれば、ポスターに描かれたヒロインの表情も一味違って見えてくるはずです。

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このほか、連続テレビ小説に欠かすことのできない、名優や往年の名アナウンサーたちによる「語り」を楽しむことのできるコーナーや、老若男女で楽しめるクイズコーナーもあります。ぜひ、期間中にNHK放送博物館にお越しください。

「ヒロインたちの肖像 連続テレビ小説ポスター展」
2017年9月30日(土)~2018年1月28日(日)


NHK放送博物館

休館日 :月曜日(月曜日が祝日・振替休日の場合は火曜日休館)、年末年始
入場料 :無料
開館時間:午前9時30分~午後4時30分
所在地 :〒105-0002 東京都港区愛宕2-1-1  
TEL  : 03-5400-6900

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(ホームページはこちら)