文研ブログ

2023年7月

調査あれこれ 2023年07月31日 (月)

テレビとYouTube、どんなときに役に立っている?【研究員の視点】#499

世論調査部(視聴者調査)行木 麻衣

 みなさんは、世の中の出来事や動きを知りたいと思ったとき、テレビを視聴しますか。新聞を読みますか。それともインターネットの検索サイトを見ようと思いますか。あるいは、癒やされたり、くつろいだりしたいと思ったときは、どのメディアを利用しようと思いますか。

 文研では、人々がどのようにメディアを利用しているのか、その背景にある意識は何か、2020年から「全国メディア意識世論調査」を実施しています。今回は、2022年の「全国メディア意識世論調査」から、メディアの効用、つまりそれぞれの目的ごとに、どのメディアがもっとも役に立つと思うかを尋ねた結果をご紹介します。

 まず、回答者全体の結果をみると(図1)、一番上の「世の中の出来事や動きを知る」ときはテレビが59%と半数を超え、もっとも役に立つと評価されています。また、グラフの2番目「感動したり、楽しんだりする」からグラフの下から2番目の「人のぬくもりを感じる」までについても、テレビに対する評価は、ほかのメディアと比べ、もっとも高くなりました。一方、テレビ以外で、どのメディアを利用しているかをみると、赤色のYouTubeは、グラフの真ん中ほどにある「癒やしやくつろぎを感じる」「退屈しのぎをする」で、テレビに迫っています。

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 全体でみると、多くの目的で、テレビがもっとも役に立っていると評価を受けていましたが、これを16~29歳の若年層に限ってみると、異なった様相がみられます(図2)。 全体の回答でテレビが6割ほどを占めていた「世の中の出来事や動きを知る」は、テレビが31%、Twitterが22%で、テレビとTwitterの間に有意差はなく同程度となっています。「癒やしやくつろぎを感じる」はYouTubeが51%と半数を超え、もっとも評価されています。また、「感動したり、楽しんだりする」「生活や趣味に関する情報を得る」「退屈しのぎをする」も、YouTubeがもっとも役に立つと評価されていました。

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 16~29歳では、「癒やしやくつろぎを感じる」という目的のときに、YouTubeがテレビを大きく上回って半数以上を占めました。この「癒やしやくつろぎを感じる」について、16~29歳以外のほかの年層がどのように思っているのかをみてみます(図3)。テレビは年層が高くなるほど評価が高く、反対にYouTubeは年層が低いほど評価が高く、対照的な結果となっています。この中間にあたるのが40~50代で、テレビとYouTubeが同程度でした。

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 このように、16~29歳では、テレビよりもYouTubeから癒やしやくつろぎを感じている人が多いですが、具体的にはどのような状況や場面で、どのようなコンテンツを見ているのでしょうか。今回の調査に関連して、2023年3月に30代以下の男女18人を対象に、オンライングループインタビューを行いました。その中での発言をいくつかご紹介します。

「癒やしやくつろぎを感じるうえで」(女性28歳 会社員)
(休日の朝にのんびりと、YouTubeでモデルの動画を見るときは)
「すてきなライフスタイルを送っていて憧れじゃないけど、そういう気持ちになれるのでなんか気分が高まる。それが自分のまったりしたい気分、のんびりしたい気分に合っているのかな。」

(女性29歳 パート・アルバイト)
(休日の朝、ご飯のあと、ソファでTwitter、パソコンでYouTube。YouTubeでは)
「このときは流し作業的な感じで、アーティストのライブ映像を流していたと思う。」


 時間に余裕があるときに、YouTubeで好きな動画を見たり、音楽を聴いたりしながら、のんびりとした時間を過ごしている様子がわかります。

 ここまでみてきたように、全体でみれば、テレビは「世の中の出来事や動きを知る」だけでなく「感動したり、楽しんだりする」「人と共通の話題を得る」など多くの目的や場面で、多くの人にもっとも役に立っていると思われています。一方で、16~29歳で顕著にみられたように、「感動したり、楽しんだりする」「癒やしやくつろぎを感じる」「生活や趣味に関する情報を得る」「退屈しのぎをする」といった場面では、その目的にかなう動画や情報をその場で見ることのできる、YouTubeを役に立っていると思う人が多くみられ、役に立っていると思うメディアが多様化している現状を垣間見ることができました。

 『放送研究と調査』2023年7月号では、今回ご紹介したメディアの効用をはじめ、メディアの利用実態、メディア利用と意識などについて、「全国メディア意識世論調査・2022」の結果をご紹介しています。
コロナ禍以降のメディア利用の変化と、背景にある意識~「全国メディア意識世論調査・2022」の結果から~
どうぞ、ご覧ください。

【行木麻衣】
2013年からNHK放送文化研究所で視聴者調査の企画や分析に従事。
これまで、全国個人視聴率調査、幼児視聴率調査、全国メディア意識世論調査などを担当。

調査あれこれ 2023年07月21日 (金)

動画配信サービスに見る 沖縄「慰霊の日」の地域放送番組【研究員の視点】#498

メディア研究部 高橋浩一郎

はじめに
 6月23日は慰霊の日です。この時期には例年沖縄戦を伝える番組が集中して放送されます。今年も全国向け、ローカル含めさまざまな番組が放送されました。本ブログでは、これまで沖縄県以外では見ることができなかった地域放送番組が動画配信サービスによって視聴可能になった現状を受け、NHKプラス、TVer、YouTube、各社ホームページで確認できる沖縄戦関連の地域放送番組を概観し、こういった状況が今後開いていく可能性と課題について考察します。

戦後78年の慰霊の日
 地域放送番組に言及する前に、全国向け番組の全体状況を概観します。今年6月23日の慰霊の日に地上波テレビでどれくらい関連報道がなされたのか、「沖縄戦」をキーワードにメタデータ(PTP社の全録型HDD「SPIDER PRO」による)を収集し報道量を算出しました。各局の報道量を比較すると局ごとに大きな差があることがわかります。
 NHKでは『おはよう日本』『ニュース7』『ニュースウオッチ9』『時論公論』などで、日本テレビでは『news every.』『news zero』などで、テレビ朝日では『大下容子ワイド!スクランブル』『スーパーJチャンネル』『報道ステーション』などで、TBSでは『ひるおび』『Nスタ』『news23』などで、テレビ東京では『ゆうがたサテライト』で、フジテレビでは『Live Newsイット!』などで、慰霊の日のニュースや関連企画を放送しました。

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 なお、6月23日以外に沖縄戦を伝えた番組として、TBS『報道特集』(6月17日/沖縄戦終焉(しゅうえん)の地・糸満市摩文仁に「平和の礎(いしじ)」が作られた経緯などを振り返ることで、戦没者を慰霊することの意味を問いかけた)や、『ETV特集 置き去りにされた子どもたち~沖縄 戦争孤児の戦後~』(6月24日/国や社会の支援がないまま過酷な人生を強いられた戦争孤児たちの戦後を描いた)、『NHKスペシャル 戦い、そして、死んでいく』(6月25日/アメリカ議会図書館に保管されていた海兵隊の音声記録を元に「あらゆる地獄を集めた」と言われる沖縄戦の実相を描いた)などが放送されました。

沖縄ローカル番組の配信状況
 全国向けに放送された「慰霊の日」関連のNHK・民放の番組は上記のとおりですが、これ以外にも沖縄でNHKと民放が県内向けに番組を放送しました。こうした番組は従来、基本的には沖縄県内で視聴できるだけでしたが、動画配信サービスの広がりによって県外でも見られるようになっています。ここでは沖縄の民放3局に関し、6月28日時点でTVer(在京民放キー局、準キー局、準キー局以外の系列局などが制作した番組を一元的に視聴できる動画配信サービス)やYouTube、各社ホームページで視聴できた番組について述べます。

【OTV沖縄テレビ】
 OTV沖縄テレビは6月23日当日、沖縄全戦没者追悼式の模様をオンライン中継し、その前後に過去に放送されたドキュメンタリー『むかし むかし この島で』(2005)やニュースで過去に放送された企画などを挟み、およそ2時間半にわたってYouTubeで生配信しました。
 『むかし むかし この島で』は『サンマデモクラシー』(2021)などのドキュメンタリー映画の監督でもある山里孫存さんが2005年に手がけた番組です。沖縄戦の記録フィルムの検証を続ける作家・上原正稔さんの活動に共感した山里さんは、1年半にわたって県内各地で上映会を開き、当時のフィルムに映っている人と場所を特定していきます。アーカイブ映像を戦争の悲惨さを伝える手段としてではなく、それぞれかけがえのない誰かの物語が刻まれた記録として丁寧に読み解き、視聴者と同じように当たり前に暮らしていた人たちが体験した沖縄戦を描き出しています。20年近く前の番組ですが、慰霊の日の数日前からYouTubeで公開され7月20日現在で14万回以上視聴されています。1)

mukashi_2_W_edited.jpgYouTubeより

【RBC琉球放送】
 RBC琉球放送もOTV同様追悼式を中継で配信したほか、6月21日に県内で放送された特別番組『池上彰も知らない慰霊の日のこと』をTVerで配信しました。(あわせて昨年放送された『池上彰と復帰50年を総決算スペシャル』も配信。ともに配信終了)ジャーナリストの池上彰さんとRBCの仲村美涼アナウンサーが司会を務め、4人のゲストをスタジオに招き、VTRを交えながら進行するという構成で、サムネイル画像を見る限りではバラエティー番組のように見えます。しかし実際に見てみると、辺野古の新基地建設や南西諸島の自衛隊配備など、沖縄戦が過去の出来事ではなくさまざまな形で現在につながっていることを伝える報道番組でした。
 その中で、池上さんが自衛隊の駐屯地が開設された石垣島を取材したVTRを受け、ゲストの新城和博さん(沖縄の出版社ボーダーインク編集者)は次のようにコメントしました。「70年前の戦争を考えると、防衛ラインを引くっていうのは、その防衛ラインを守るのではなくて、その背後を守ろうとしているんですね。その背後って何だろうか。少なくとも我々はそういうところの犠牲になりたくないですね」。もし自分が沖縄に暮らし、身近に沖縄戦の体験者がいたら、このように感じるのは当然ではないでしょうか。RBCの担当者によると、全国的に知名度のある池上さんを司会として起用しているのは、沖縄県内向け放送としてだけではなく、動画配信によって多くの本土の人に見てもらいたいという意図が込められているということです。2)

ikegami_3_W_edited.jpgTVerより

【QAB琉球朝日放送】
 QAB琉球朝日放送は6月23日に、平日夕方に放送している地域向けニュース情報番組『キャッチ―』内で「慰霊の日特別編」として30分番組を放送、その後動画を番組HPで公開しました。『キャッチ―』は通常、16時台の第1部(情報番組)、18時台の第2部(ニュース)に分かれており、出演者もそれぞれ異なります。今回の特別番組では、第1部MCのタレント・東江万那美さんとお笑い芸人・金城晋也さんが番組第2部の司会の中村守アナウンサーと一緒に沖縄戦について考えるという内容で、ニュース番組だけではなく、普段の暮らしの中で自分に引き寄せてほしいというねらいが感じられました。
 中でも印象的だったのは、若い世代の演劇人が戦争体験を語り継ぐ創作劇に取り組む姿を取材した企画でした。11歳の時に日本兵によってスパイ容疑をかけられ殺されそうになったという、宜野湾市の大城勇一さんの実体験を元に、劇団O.Z.Eの永田健作さんは『平和劇』というタイトルの作品を作り上げます。6月に行われた公演には体験者である大城さんも立ち会いましたが、公演後、大城さんは劇団員たちの苦労をねぎらったうえで、自分が体験した苦しみや悲しみには到底及ばず「がっかりした」と率直に伝えました。大城さんの厳しい言葉に永田さんたちはぼう然としながらも、直接言葉をもらえたことを「これからの活動にプラスになる」と前向きにとらえ、大城さんも「次はもっといい劇を作ってほしい」と激励しました。
 実際にその場にいた人にしかわからない体験を、当事者以外の他者が想像し表現することには限界があります。一方わからないから何もしないのではなく、わからないからこそわかろうと努力しなくてはならないこともあります。沖縄戦から学ぶとはどういうことなのか、その大切さと難しさが予定調和でない形で伝わる企画でした。3)

qab_4_W_edited.jpgQAB番組ホームページより

NHKプラスに見る各地の番組
 NHKプラス(NHK総合・Eテレの常時同時配信・見逃し番組配信サービス)ではこれまで各県域でしか見ることができなかった数多くの地域放送番組が視聴可能になっています。まず沖縄では慰霊の日当日の番組として、平日夕方に放送されるニュース番組『おきなわHOTeye』(県内各地の追悼の様子や記憶の継承をテーマとした特集企画を伝えた)や、ドキュメンタリー『流転~沖縄 引き裂かれた集落~』(九州沖縄管内/米軍の土地接収によりブラジル移住を強いられた宜野湾市の伊佐浜住民の人生を描いた)、『ザ・ライフ 平和のバトン託し続けて~元学徒・中山きくさんの生涯~』(九州沖縄管内/後述)などを見ることができました。(いずれも配信終了)
 沖縄以外では、北海道『ほっとニュース北海道』、名古屋『まるっと!』、広島『お好みワイドひろしま』、宮崎『てげビビ!』、鹿児島『情報WAVEかごしま』などのニュース情報番組で沖縄戦や慰霊の日に関連する企画が確認できました。中でも広島放送局の『お好みワイドひろしま』は、原爆ドーム近くで沖縄戦の犠牲者を追悼する様子を中継したり、平和の礎に新たに広島県出身者296人の名前が刻まれたニュースなどを伝えたりしたほか、「沖縄戦 平和のバトン」という企画を放送しました。被爆と地上戦という違いはありますが、同じように多くの犠牲者を出した広島と沖縄のつながりを感じさせました。
 企画の「沖縄戦 平和のバトン」は九州沖縄管内で同日放送された先述の『ザ・ライフ “平和のバトン”託し続けて~元学徒・中山きくさんの生涯~』の素材を広島局で独自に編集したものです。沖縄局のクルーが番組の取材に訪れることを知り、広島に特化した形のニュース企画として編集したそうです。ここでは広島局の企画の元になった『ザ・ライフ』について説明します。この番組は今年1月に94歳でなくなった沖縄戦の語り部の中山きくさんの生涯を、甥(おい)でタレントの津波信一さん(沖縄局の地域放送番組『きんくる』MC)がたどるという内容です。中山さんは元白梅学徒隊の一人で、苛烈な地上戦の体験を全国から訪れる若い世代に語り続けましたが、戦後長らく自らの体験を話そうとはしなかったといいます。中山さんがどうして年に数十回に及ぶ講話をするようになったのか。そのきっかけは夫の転勤で広島に引っ越し、そこで被爆者たちの活動を目にしたことにありました。「自分たちが経験した悲惨な思いを繰り返させない」という広島の被爆者たちの思いは、沖縄戦の当事者である中山さんを突き動かします。「思っているだけでは平和は来ない。何か行動をすることが大切ではないか」中山さんが語り部になったきっかけを知った津波さんも、濃淡はあれやはり当事者の一人であることを改めて意識します。そして番組を見た視聴者も間接的ではありますが、バトンを託された者として無関係ではないと感じさせる番組です。4)

nhkplus_5_W_edited.jpg『ザ・ライフ“平和のバトン”託し続けて~元学徒・中山きくさんの生涯~』番組ホームページより

地域放送番組が地域外で見られること
 ここまで動画配信サービスを通じて、沖縄戦や慰霊の日を伝えた沖縄の民放とNHKの各地域のローカル番組を見てきました。沖縄の民放局の取り組みでは、デイリー番組の出演者が自分のこととして沖縄戦を考える企画や、著名人に出演してもらい広く関心を喚起しようとする番組、アーカイブ番組の活用など、多様なアプローチがありました。またNHKプラスでは、沖縄以外の地域で作られた関連企画を通して、全国向け放送からはわからない地域間のつながりを確認することができました。
 NHK放送文化研究所が2022年に行った「復帰50年の沖縄に関する意識調査」の結果によると、6月23日が「慰霊の日」であることを知っている割合は、沖縄が92%なのに対し、全国は27%にとどまるなど、沖縄戦に対する認識には沖縄と本土の間で差があります。これまで沖縄県内にとどまっていた地域放送番組が動画配信によって県外でも視聴可能になる状況は、沖縄戦とその結果としてもたらされた基地問題について、本土の人々の理解を深めることにつながります。実際にどのくらい見られているか俯瞰的に判断できる材料はありませんが、YouTubeで公開された『むかし むかし この島で』が14万を超える視聴回数を記録しているように、全国放送されなくても動画配信によって少なくない人に見てもらえる可能性があります。また、今回はNHKプラスでしか確認ができませんでしたが、沖縄以外の地域で関連企画が放送されていることを相互に参照できるようになれば、広島と沖縄の例のように、今後地域どうしのさまざまな連携が生まれることも期待できます。
 一方で、TVerにしてもNHKプラスにしても、視聴できる期間も番組も限定されており、すべての番組が見たいときに見られるわけではありません。特にTVerで視聴可能な地域放送番組は数としては増加しているものの、バラエティー番組やドラマが多く、単発のドキュメンタリー番組や報道番組はほとんどありません。確実により多くの人に届けるには各放送局は単独ではなく、複数のプラットフォームの活用を視野に入れるなどさまざまな取り組みが求められます。
 今後、沖縄と本土の意識の差を埋めるどのような試みがなされるのか、地域放送番組の動画配信サービスの動向を注視していきたいと思います。


1) https://www.youtube.com/watch?v=l0-oq8BUd8M
 https://www.fujitv.co.jp/b_hp/fnsaward/14th/05-330.html

2) https://www.rbc.co.jp/tv/tv_program/ikegami_ireinohi/

3) https://www.qab.co.jp/movie/movie/catchy230623

4) https://www.nhk.jp/p/ts/9RZY9ZG1Q1/episode/te/Q8RG52VY92/

メディアの動き 2023年07月15日 (土)

【メディアの動き】NHK放送文化研究所で世論調査対象者1,200人の個人情報紛失

 NHK放送文化研究所(文研)は6月2日,2022年11月に実施した世論調査「ISSP『家庭と男女の役割』に関する国際比較調査」の対象者1,200人分の個人情報が記載された資料を紛失したと公表した。

 紛失したのは,住民基本台帳法に基づいて自治体の台帳から閲覧・抽出し,2023年1月,委託先の調査会社から提出を受けた調査対象者の「氏名」「住所」「生まれた年」「性別」が書かれた資料100枚。

 1枚に12人分の情報が記載されていた。

 資料は研究所内の施錠された棚で保管されていたが,原則半年間の保管期限を前に廃棄のために確認した際,紛失に気づいた。

 居室内を繰り返し探したが見つからず,総務省などに報告するとともに,対象者にお詫びと経緯等を説明する書面を発送した。

 紛失した資料が流出,または悪用された事実は確認されていない。

 文研では,世論調査に関する個人情報の内部ルールを設け,保管場所から資料を取り出す際には名前や資料名などを台帳に記録することにしていたが,徹底されていなかった。

 NHKは「調査へのご協力をお願いした皆様や自治体の方々に大変ご迷惑をおかけし,深くお詫び申し上げます。(略)管理体制を強化し,二度とこのような事態を起こさないよう,対策を徹底してまいります」とコメントしたが,法律で住民基本台帳を利用できる特別な配慮を与えられていたにもかかわらず,個人情報の管理が甘かったことは痛恨の極みであり,筆者も含め,組織全体で文字どおり管理体制の抜本的な改革に取り組んでいかなければならないと考える。

メディアの動き 2023年07月15日 (土)

【メディアの動き】「5月は地震多かった」気象庁データ発表,メディアも詳細分析

 5月は「地震が多かった」と感じた方もたくさんいたのではないだろうか。

 6月8日に気象庁が発表した「5月の地震活動」のデータからもその多さが裏づけられた。

 それによると,▼5日午後2時42分に能登半島沖で発生したマグニチュード(以下,M)6.5の地震で最大震度6強を観測。

 その約7時間後には,この地震の震源付近でM5.9の地震が起きて震度5強を観測した。

 ▼11日には千葉県南部の地震(M5.2)で震度5強,▼13日には鹿児島県のトカラ列島近海の地震(M5.1)で震度5弱,▼22日には伊豆諸島の新島・神津島近海の地震(M5.3)で震度5弱,▼26日には千葉県東方沖の地震(M6.2)で震度5弱を観測した。

 これらを含め,震度4以上を観測した地震はあわせて17回に達した。

 各メディアは解説記事などを掲載。

 このうちNHKは気象庁のデータベースを使って調べた結果,「震度4以上が17回」は,▼熊本地震が発生した2016年4月,▼北海道胆振(いぶり)東部地震が発生した2018年9月に次いで,この10年で3番目に多くなったと報じた。

 専門家は「科学的にもあまりみられない“まれな現象”が起きていたといえる」などとしたうえで,いずれの地震も予測されている巨大地震の想定震源域から遠く離れていることなどから,「南海トラフ巨大地震や首都直下地震に直接関係するものではない」とみている。

 5月の地震をめぐっては,ネット上でも不安の声が広がった。

 「何が起きているのか」を視聴者や読者に丁寧に説明し,地震への備えを考える機会につなげることが,メディアの重要な役割であることを改めて認識させた現象だったといえるだろう。

メディアの動き 2023年07月14日 (金)

【メディアの動き】総務省で放送業界によるプラットフォームの在り方に関する検討始まる

 6月19日,総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会(在り方検)」に「放送業界に係るプラットフォームの在り方に関するタスクフォース(TF)」が立ち上がった。

 議論の主軸として想定されているのは,NHKによる「日本の放送業界への貢献」である。

 2022年6月の放送法改正ではNHKの民放への協力努力義務,2023年5月の改正ではNHKと民放で中継局の共同利用を可能とする規定がそれぞれ追加されたことが背景にある。

 提示された論点は,①在り方検で議論が進む「地上波放送の中継局」共同利用の加速化,②NHKの「衛星放送の番組制作」への外部制作者に対する機会提供,③ローカル局の番組も含めた「インターネット配信」の推進におけるNHK・民放の役割,④現状は2社が維持・管理・運用を行う「衛星放送」のハード設備の将来像,⑤放送業界あげての「国際発信」推進,の5点。

 初回ならびに6月29日の2回目に議論が集中したのは③であった。

 構成員からは,NHK,民放,ローカル局の番組がネット上で一覧性を持って選択・視聴できるプラットフォームが用意されることが望ましいとの声が相次いだ。

 それに対して民放連からは,ネットサービスは個別企業の経営判断であり,放送法という共通の基盤とは異なり,新たな共通基盤という考え方は難しいという見解が示された。

 TFは7月中にあと2回,計4回の議論を行ったうえでとりまとめる急ピッチの予定が示されている。

 NHKには自らの責任,役割範囲を示すことが期待されている。

メディアの動き 2023年07月14日 (金)

【メディアの動き】生成AIめぐり新聞協会にヒアリング,問われる日本の著作権法の「間口」

 ChatGPTの登場を機に,生成AIへの懸念が世界的に高まっている。

 EUでは生成AI規制法案の年内合意をめざして協議が続いているが,加盟国内の多くの企業が,競争力と技術開発を鈍化させるものだと強く反発している。

 日本政府は,6月9日に決定した知的財産推進計画の中で,生成AIによって著作権侵害が相次ぐおそれや,対策の検討に言及した。

 15日には,自民党のデジタルコンテンツ戦略小委員会が,生成AIと著作権について,日本新聞協会からヒアリングを実施。

 同協会は5月に生成AIに関する見解を発表し,報道コンテンツが「無秩序にAIに利用される」ことで,「筆者も内容も不確かな記事」が氾濫すれば,社会に動揺を与え,報道機関の経営悪化や国民の「知る権利」の阻害を招くことなどへの危機感を示し,政府の対応を強く要望している。

 また,同協会は声明の中で,AIの機械学習について,日本の著作権法は諸外国と比べて「極めて間口が広い」と指摘する。

 たしかに,2018年の法改正で,AIの学習データ収集など,人がその著作物を知覚しない利用は無許諾で行えると規定された。

 将来の技術革新にも柔軟に対応しうるとして,法改正時に大きな異議はなかったが,生成AIへの懸念が高まる今,規定に批判的な声が出始めている。

 生成AIの無秩序な氾濫に対処するための議論は今後,本格化するだろう。

 だが,今国会で成立した改正著作権法がめざす利用円滑化の議論も後景化させてはならない。

 著作物利用と表現の萎縮につながらないか,注視したい。

メディアの動き 2023年07月14日 (金)

【メディアの動き】EU議会,生成AI含む規制案を採択

 AI=人工知能に対する包括的な規制の整備をめざすEUのヨーロッパ議会は,6月14日,ChatGPTなど生成AIも対象にすべきとする修正案を採択した。

 EUの執行機関にあたるヨーロッパ委員会は,世界にさきがけて2021年にAIに規制を設ける法案を提出していたが,生成AIについては触れられてはいなかったため,今回,修正が加えられた。

 規制案では,AIについてのリスクを「容認できない」から「最小限」の4段階に分類し,それぞれのレベルでAIサービスの提供者とユーザーへの義務を定めている。

 捜査当局がAIを使った生体認証システムをリアルタイムで使うことを原則として禁じ,所得や職業などに関する政府のデータに基づいて市民を格づけする「ソーシャルスコアリング」(social scoring)のために利用することを禁じている。

 また生成AIについては,▼AIを使って作られた文章や画像,音声などはAIで作られたことを明示し,▼AIに学習させるために著作権で保護されたデータを利用した場合は公表することなど透明性の義務を課す,としている。

 こうした規制に違反した場合には,最大で4,000万ユーロ(約60億円)か,法人の場合は年間売り上げの7%のいずれかの高いほうを罰金として科すとしている。

 EUは今後,ヨーロッパ議会と加盟国が協議を重ねて最終案を作成し,年内の合意を目指す。

 AIをめぐっては,コンピューター大手のMicrosoftやIBMなどが何らかの規制は必要だとの立場をとるのに対し,FacebookやInstagramを運用するMetaなどは慎重な姿勢で,EUの規制案についてさまざまな意見が出るものとみられる。

メディアの動き 2023年07月13日 (木)

【メディアの動き】カナダ,プラットフォーム事業利益の報道機関への分配を義務づける

 カナダ議会は6月22日,Google(Alphabet)やMetaなど検索エンジンやソーシャルメディアのプラットフォーム事業者に,ニュース記事の掲載で直接・間接的に得るデジタル広告収入などの利益の一部を報道機関に分配することを事実上,義務づける「オンラインニュース法(OnlineNewsAct)」を可決・成立させた。

 同法は事業者に報道機関との交渉を義務づけ,一定期間内に合意が得られない場合は,監督機関(CRTC)のもとで調停者の判断により決着させられる。

 オーストラリアが2021年に導入した制度を参考にした。

 企業との間の力関係の不均衡に配慮してメディアのグループによる交渉を認め,一定の透明性を持たせるため毎年,独立監査も実施する。

 対象となるメディアやIT企業の認定基準,CRTCによる監督や調停の方法など,具体的な施行規則は官報で発表し,広く意見を募ったうえで確定させる。

 カナダ政府は,同法の施行は民主主義に不可欠なニュースメディアの存続のために必要で公正な措置だとしている。

 一方,同法に反対してきたMetaはカナダでは自社プラットフォーム上でニュースを閲覧させないようにすると発表。

 Googleも検索結果にカナダのニュース記事リンクを掲載しないなどの対応をとると表明した。

 新法はカナダ政府によるニュースメディア支援策の一環で,カナダではこのほか,報道に携わる労働者の雇用費の25%分の税控除や,オンラインニュース購読費の15%分の税控除,地方のニュースの空白地帯などで公的機関や公的課題を取材するジャーナリストの雇用費補助などが実施されている。

メディアの動き 2023年07月13日 (木)

【メディアの動き】仏議会下院文化・教育委員会,公共放送改革に関する調査報告書公表

 フランス議会下院の文化・教育委員会は6月7日,議員調査団がまとめた,今後の公共放送のあり方に関する,提言を含む報告書を承認し,公表した。

 2022年8月に受信料にあたる公共放送負担税が廃止されたが,提言をふまえ,財源に関しては,改革に必要な法案も議会に提出されている。

 今回の調査報告書は,公共放送トップやメディア関係者など200人以上にヒアリングを行い作成された。

 公共放送の財源については,2024年末までの暫定措置として行われているTVA(付加価値税)の税収からの拠出を,2025年以降も継続するために必要な法改正を行うことを提言としてあげている。

 また,公共放送としての特性を改めて重視するため,公共テレビFranceTélévisionsの広告は,夜8時から翌朝6時の番組について,これまで規制の対象外だったスポンサーシップやデジタルサイトの広告を含めて一切廃止することもあげた。

 報告書によると,FranceTélévisionsの広告収入は,2022年度,全体で約4億ユーロ(約600億円)で,広告廃止による減収については,MetaやGoogleなどデジタルサービス事業者への課税による税収で補?すべきだとしている。

 さらにデジタル時代において,公共放送各局の連携を迅速に強化するため,公共テレビ,公共ラジオ,国際放送,INA(国立視聴覚研究所)を1つの持ち株会社のもとで統括することなどが盛り込まれた。

 持ち株会社設立については,上院の議員が作成した公共放送改革法案の中でも柱の1つにされ,6月12日に上院で採択されている。

メディアの動き 2023年07月13日 (木)

【メディアの動き】韓国KBS,受信料の分離徴収の動きが加速,財政基盤が脅かされる事態に

 韓国の規制監督機関である韓国放送通信委員会(KCC)は6月16日,公共放送KBS の受信料と電気料金の分離徴収を目的とする放送法施行令の改正案を公表し,国民から意見を募集した。

 韓国では,受信料は電気料金とともに徴収されているが,放送を見ていなくても支払う仕組みとなっていることから反発が強く,韓国政府は制度の見直しを行っていた。

 改正案の公表に対してKBSは,分離徴収が実施されれば受信料の大幅な減収が予想されるため,激しく反発した。

 キム・ウィチョル社長は19日,職員に対し「KBSの独立性を維持するための最後の砦となる」と述べたうえで,21日には施行令改正手続きの差し止めを求めて憲法裁判所に仮処分を申し立てた。

 また,BBCなど世界の公共放送8局の会長が組織するグローバル・タスクフォース(GTF)は22日,このままではKBSは存続の危機に直面し,使命を果たせなくなるとの声明を出した。

 GTFは,偽情報があふれ社会が二極化する中,信頼できる情報源である公共メディアを弱体化させるべきときではないとも警告した。

 意見募集は26日まで行われ,寄せられた約4,700 件のうち89.2%が分離徴収への反対意見だった。

 ただ,7月上旬に予定されているKCCの議決では改正案が可決される可能性が高い。

 差し止め訴訟の判断にもよるが,早ければ7月中にも改正施行令が公布され,分離徴収が確定する。

 公共メディアの必要性や役割について議論が深まる前に手続きが加速しており,KBSは受信料収入という財政基盤が脅かされる事態となっている。

調査あれこれ 2023年07月11日 (火)

夏、視界不良気味の岸田内閣 ~無党派層と若い世代の支持率低迷~【研究員の視点】#497

NHK放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 安倍元総理が遊説中に凶弾に倒れてから1年。命日の7月8日、岸田総理大臣は安倍氏をしのぶ会合で「あなたから受け継いだバトンを、しっかり次の世代へと引き継いでいく」と強調しました。

 安倍元総理の下で5年近く外務大臣を務め、安倍氏が首脳外交にかけた情熱をよく知る岸田総理は、3日後の11日朝、NATO (北大西洋条約機構)首脳会合に出席するためリトアニアに向かいました。NATOの加盟国ではない日本の総理大臣がこの会議に出席するのは、ロシアのウクライナ侵攻を受けて開かれた昨年の首脳会合に続いてのことです。

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 5月のG7広島サミットを終え「それなりの成果はあった」と総括していた岸田総理ですが、その後の報道各社の世論調査では軒並み内閣支持率が低迷し、内政・外交すべてに注がれる国民の視線には厳しいものがあります。

 7日(金)から9日(日)にかけて行われた7月のNHK電話世論調査も、そうした傾向と同様の結果になりました。

☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。

  支持する   38%(対前月-5ポイント)
  支持しない   41%(対前月+4ポイント)

2月から5月にかけて4か月連続で上向いていた内閣支持率が、6月、7月と連続して低下。「支持する<支持しない」になったのは、ことしの2月以来です。

 この1か月の間に内閣支持率がどこで低下しているかを詳しく見ると、与党支持者の微減、野党支持者の横ばいと比べて、無党派層の支持率が18%にとどまり前の月より9ポイント下がっているのが目立っています。

 また、年代別に見ると18歳~39歳の若い世代で前の月より8ポイント減、60歳代で10ポイント減という変化が出ています。

 では、こうした内閣支持率低下の要因になっているのは何か?今月の調査で国民の不評をかっている傾向が浮かび上がったのがマイナンバーカードの利用拡大に関する政府の方針です。

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☆政府はマイナンバーの利用範囲を拡大する方針です。あなたはこの方針に賛成ですか。反対ですか。

  賛成   35%
  反対   49%

反対がほぼ半数に上っています。これを詳しく見ると、与党支持者では賛成が反対をやや上回っているのに対し、野党支持者と無党派層では6割近くが反対と答えています。

☆政府は来年秋に今の健康保険証を廃止し、マイナンバーカードと一体化させる方針です。今の健康保険証を廃止する方針についてどう思いますか。

  予定通り廃止すべき   22%
  廃止を延期すべき   36%
  廃止の方針を撤回すべき   35%

「廃止を延期すべき」と「廃止の方針を撤回すべき」を合わせた、政府方針に待ったをかける答えが合わせて7割に達しています。この質問では与党支持者でも待ったをかける答えが7割近くに上り、野党支持者、無党派層はそれ以上に厳しい数字になっています。

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 マイナンバーカードの利用促進を掲げる河野デジタル担当大臣は、相次ぐトラブルを受けて、秋までにすべてのデータの総点検を行って対応するので、方針を変更する考えはないとしています。

 しかし、そもそもマイナンバーカードの利用拡大は、政府や自治体の側の行政効率化のために発想された政策です。確かに利用者にとっても便利になる面はありますが、「デジタル弱者」と呼ばれる高齢者などに対する配慮が十分でない点は大きな問題です。

 河野大臣は今の健康保険証を廃止した後も、経過措置を設けるので問題はないと言いますが、デジタルの世界とは無縁の高齢者やそうした高齢者を抱える家族にとっては大きな不安材料になります。

 ロシアのウクライナ侵攻の後、首脳外交に対する注目度が高まり、岸田総理は安倍元総理に劣らぬ情熱を傾けているように見えます。しかし、どうも政権運営の足元が危うい印象が拭えません。

 さらにもう一つ、岸田内閣が大きな看板を掲げる「異次元の少子化対策」についても、国民の期待感は薄いようです。

☆少子化対策について、政府は今後3年間をかけて年間3兆円台半ばの予算を確保し、児童手当の拡充策などに集中的に取り組む方針です。あなたはこの少子化対策の効果に期待していますか。期待していませんか。

  期待している   33%
  期待していない   62%

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全体の6割以上が期待していないというのは、岸田内閣にとって極めて厳しい数字でしょう。これを年代別に見ても、子育て世代にあたる18歳~39歳、40歳代でも、期待しているは3割台にとどまっています。

 少子化対策について、岸田総理は「国民に新たな負担は求めない」と強調していますが、そうなるとどういう方法で財源を確保するのかが不鮮明です。

 視界不良気味の岸田内閣の原因は、国民との間で共通了解を生み出す努力に欠けている点にあると思います。とりわけ日々の暮らしに直結するテーマでは、国民に率直にメリット、デメリットを伝え、協力を求める姿勢が必要です。

 岸田総理にとって、首脳外交を華々しく展開する一方で、国民の素朴な疑問に真摯(しんし)に応える力を磨くことが、この夏の課題になりそうです。

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島田敏男
1981年NHKに入局。政治部記者として中曽根総理番を手始めに政治取材に入り、法務省、外務省、防衛省、与野党などを担当する。
小渕内閣当時に首相官邸キャップを務め、政治部デスクを経て解説委員。
2006年より12年間にわたって「日曜討論」キャスターを担当。
2020年7月から放送文化研究所・研究主幹に。長年の政治取材をベースにした記事を執筆。