文研ブログ

2016年12月

放送博物館 2016年12月22日 (木)

#59 NHK大河ドラマ "蔵出し"ポスター展

放送博物館 和田源二

NHK放送博物館は、大河ドラマや連続テレビ小説、NHKスペシャルなど、番組広報用にNHKが制作したポスターを多数所蔵しています。放送博物館では、来年1月に大河ドラマ第56作「おんな城主 直虎」の放送が始まるのにあわせ、歴代大河ドラマのポスターを一堂に展示します(会期:2017年1月17日~2月26日)。

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今回展示するポスターのうち最も古いのは第3作「太閤記」(1965年)です。豊臣秀吉を演じた緒形拳さんの野性味豊かな演技、第1回の冒頭で当時開業したばかりだった東海道新幹線の走行シーンを使うという斬新な演出などが視聴者の心をつかみ、大河ドラマの存在感を不動のものにした作品です。当時はモノクロ放送でしたが、ポスターはカラー写真で、緒形さん演じる秀吉(木下藤吉郎)の雄々しい笑顔と、寄り添う藤村志保さん(ねね役)の柔和な表情が好対照です。

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幕末から明治維新までを舞台に幕臣旗本の姉妹を描いた第5作「三姉妹」(1967年)は、岡田茉莉子さん・藤村志保さん・栗原小巻さんという3人の名優が武家の女性らしい気高い表情を見せているのが印象的なポスターです。

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このほか、第8作「樅ノ木は残った」(1970年)の吉永小百合さんの清新な笑顔、第21作「徳川家康」(1983年)の夏目雅子さん、第23作「春の波涛」(1985年)の松坂慶子さんの、いずれもあでやかな着物姿も必見です。ポスターの内容にも半世紀を超える時代の変遷が感じられます。初期のポスターがドラマのシーンを再現したような写真が多いのに対して、平成に入った頃から、ポスター独自の完成度を追求したものが増えてきます。

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足利尊氏役で鎧姿の真田広之さんを、ジーンズなど洋装の宮沢りえさんら3人の女性が囲むというユニークなデザインの第29作「太平記」(1991年)、モノトーンに近い薄い色調であたかも幕末に撮影した写真であるかのようなテイストの第47作「篤姫」(2008年)など、味わい深いポスターがめじろ押しです。

展示では、大河ドラマ全作品のタイトルバック映像もダイジェストでご覧いただく予定です。日本を代表する作曲家による歴代のテーマ曲とあわせお楽しみください。展示場は、放送博物館3階の企画展示室です。皆様のお越しをお待ちしております。

「NHK大河ドラマ “蔵出し”ポスター展」
2017年1月17日(火)~2月26日(日) 


NHK放送博物館

休館日 :月曜日(月曜日が祝日・振替休日の場合は火曜日休館)、年末年始
入場料 :無料
開館時間:午前9時30分~午後4時30分
所在地 :〒105-0002 東京都港区愛宕2-1-1  
TEL  : 03-5400-6900

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(ホームページはこちら)  


 

放送ヒストリー 2016年12月16日 (金)

#58 『NHK年鑑2016』を発行しました!

メディア研究部(メディア史研究) 三矢惠子

今回は、ブログに初登場、『NHK年鑑』の紹介です。
2015年度の動きをまとめた『2016』版を11月11日に発行し、今週13日から、その中のNHKに関連した情報をこのホームページ上で公開しています。

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『NHK年鑑2016』

『NHK年鑑』はその名のとおり、1年に1度発行する、NHKを中心とした放送界の動きを記録した刊行物です。
とても歴史が長く、1931年に『ラヂオ年鑑』として創刊されて以来、名称はテレビ放送の始まった翌年の1954年に『NHK年鑑』に変えていますが、戦時中と終戦直後の3年間(1944~1946年)を休刊したほかは毎年発行して、NHKの歩みを記録し続けています。
(1944~1946年の内容も1947年版でまとめて掲載しています。)

 
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『ラヂオ年鑑』の創刊号


私は、1年前に編集に携わるようになりましたが、掲載している内容や執筆・編集の工程の全容を知って、あらためて『NHK年鑑』の資料価値の高さを感じています。

 ◇歴史が長いことは、すでに述べた通りです。
 ◇これ1冊で放送、技術、経営、その他、NHKのことが何でもわかります。
 ◇「番組解説」というこの本でしかわからない情報があります。

最新刊『年鑑2016』の「番組解説」では、テレビ(地上、衛星)とラジオの定時番組約650、特集番組約300、合わせて1000に近い番組について、放送日時、波、番組の内容、出演者等を紹介しています。
定時番組については、その番組の第1回の放送年月日が記録されています。番組が終了した場合は最終放送日も記録しています。この情報は、ほかでは見ることはできません。

「番組解説」からは、例えば「『きょうの料理』の初回放送日は1957年11月4日、『きょうの料理ビギナーズ』は、『きょうの料理』放送50年を記念して2007年4月2日から始まったこと」などがわかります。

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(校正段階の「番組解説」)

『年鑑2016』では、「放送90年」と「戦後70年」の節目にあたって放送した番組を一覧表にまとめて、「放送界の動き」に掲載しました。

外部の研究者や番組批評家の方などからは、「過去の番組や放送のことを調べるのにいつも使っている」という声をいただきます。
こうした資料が何十年か先の研究に役立つのかもしれないと思うと、ちょっとわくわくします。

 

おススメの1本 2016年12月09日 (金)

#57 障害者スポーツを、共生社会の窓口のひとつに

メディア研究部(メディア動向) 山田 潔

今年9月、リオ五輪に続いて障害者スポーツの祭典、パラリンピックが開催されました。
中継やニュース等いろいろなメディアが取り上げたので、目にされた方も多いのではないでしょうか。

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障害者がスポーツに打ち込む姿を、どのように見て、どのようなことを感じられましたか?
「障害があっても頑張ってるね。私もがんばらなきゃ。」
「結構、スポーツじゃん!」
「日本がんばれ!」
「スポーツはオリンピックだけで十分。」 などなど

いろんな、見方、感じ方があると思います。

パラリンピックには、「パラスポーツを通じて、よりインクルーシブな社会(障害者も健常者も共に生きる社会)を創出する」という視点があります。スポーツを通して、共に生きるという理念を肌感覚にしていこうということです。こうしたムーブメントには、お茶の間に直接届く放送の役割が大きいのではないかと思います。
リオを終え、2020年に向けた取り組みが加速していくこの時点で、放送が「障害者」「障害者スポーツ」といったテーマとこれまでどう向き合ってきたのか、そして、その現在地がどこにあるのかを、今後に向けて俯瞰してみました。取りまとめた小論を「放送研究と調査」12月号に掲載しています。
取材で立ち寄った社会福祉法人「太陽の家」で、1964年の東京パラリンピックの牽引者であった中村裕博士が開発した「和室用車いす」と出会いました。畳が傷まないようにとタイヤを幅広にしたものです。障害のある相手を1人の生活者として見る視線こそ、共生社会への鍵のように感じています。

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2020年の東京大会に向けて、パラリンピアンや競技を取り上げた講演や放送、そして障害者スポーツの体験イベント等の取り組みが各地で行われます。NHKでも、オリンピックとともにパラリンピックについてもさまざまな取り組みを行っていきます。
どこかで見かけたら、参加してみませんか。障害者スポーツにちょっと触れてみて、放送も楽しんでみませんか。そして、12月号の「障害者スポーツと放送」も読んでいただけるとうれしいです。

実は、筆者自身、ポリオの後遺症で松葉づえを使う障害者です。これまでスポーツとは縁遠い生活でしたが、きつくなったズボンが、スポーツをやれと言っています。
パラリンピアンにはなれないとしても、スポーツセンターに行って見ようかな。
気持ちよく受け入れてもらえるといいな。
誰かとつながれるともっといいな。

メディアの動き 2016年12月02日 (金)

#56 "スマホでテレビ" は、いつ実現するの?

メディア研究部(メディア動向) 村上圭子

11月22日、福島県沖で発生した地震により、津波警報が発令されました。
NHKや民放では、放送と同じ内容、もしくは同じ情報源を活用した内容を、
地震発生後すぐにインターネットでリアルタイムに配信しました。
早朝だったので、ベッドの中や通勤中にスマホのアプリやSNSで
ご覧になった方も多いかもしれませんね。

(写真 NHKニュース・防災アプリ)
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こうした災害時や、アメリカ大統領選、小池東京都知事の会見など
人々の関心の高いニュースについては、
ネットでも放送と同じ内容が視聴できる、「同時配信」というサービスが当たり前になってきました。
5年前の東日本大震災の時には、発生から半日くらいたってから
各局が五月雨的に配信する状況でしたから、大きく変わったと言えるでしょう。

しかし、こうしたサービスは、何かあった時だけであり、
地上波放送のチャンネルまるごとをスマホで見ることはできません。
実験的な取り組みとして、TOKYO MXとNHKが実施しているのみです。
一方、イギリスでは約10年前から、アメリカでも数年前から、
こうしたサービスは一般的となっています。
なぜ日本では同時配信のサービスの実施が各国に比べて遅れているのでしょうか。

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(クリックすると大きくなります)

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(クリックすると大きくなります)

理由はいくつかありますが、最も大きな理由としては、
日本では2006年から「ワンセグ」サービスという、
携帯電話(ガラケー)にテレビと全く同じ内容を放送の電波を使って届けるサービスを、
地上波放送局各局が取り組んできたという経緯があったことがあげられます。
ただ、人々の持つモバイル端末が、ガラケーからスマホに移り、
ワンセグチューナーが入ったスマホはごく一部となり、
サービスは廃れていっています。
もしかすると、ワンセグって何だろう?と
サービスをご存じない方も少なくないのかもしれませんね。

同時配信は、テレビと同じ内容をスマホで見ることができる、という意味では、
ユーザーの皆さんにとってはワンセグとあまり変わらないかもしれません。
しかし、放送の電波ではなくインターネット回線を使う、という意味で技術的には大きく異なります。
そして、技術的に異なるだけでなく、放送法や著作権法上の扱いも異なります。
そのため、ワンセグに代わって同時配信をすぐに実施するということには
なかなかならなかったのです。

しかし、一人暮らしで家にテレビがない人、スマホで映像を見る人が増える中、
テレビで見ることができる内容をなぜスマホで見ることができないのか、という声はどんどん大きくなっています。
こうした状況を受け、現在、総務省では同時配信に関する議論が始まっています。

 「放送を巡る諸課題に関する検討会」
 「情報通信審議会 放送コンテンツの製作・流通の促進等に関する検討委員会」

先月くらいに、新聞を始めニュースでも大きく取り上げられていたので、
ご存じの方も少なくないかもしれませんね。

また、NHKでも今月半ばまで約1万人の方に参加していただいて、
一日約16時間、総合テレビとEテレを同時配信する実験を行っていて、
今後、NHKとしてどのようなサービスが求められるのかを検証中です。

(写真 NHK同時配信(試験的提供B)アプリ)
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(スマートフォン画面)


日本における同時配信サービスは今後、どのような姿になっていくのか、
実施に向けてはどのような課題があるのか、
放送研究と調査12月号』で詳細にまとめています。
同時配信の他にも、「AbemaTV」など、
複雑に絡み合う日本の動画配信事情についても最新状況をまとめていますので、
ぜひご一読ください。