文研ブログ

2023年8月

調査あれこれ 2023年08月30日 (水)

関東大震災100年 ~地震と台風の「同時・時間差襲来」にどう備えるか~【研究員の視点】#502

メディア研究部(メディア情勢)中丸憲一

kantoudaisinnsaitunami_1_W_edited.jpg関東大震災の津波被害(気象庁ホームページより)

 2023年9月1日で、関東大震災の発生から100年になります。東京など首都圏を中心に約10万5,000人の犠牲者を出したこの大災害から学ぶべきことは多くあります。筆者は、元災害担当記者の経験を生かしながら、メディア研究の視点で、2023年9月1日発行予定の『放送研究と調査』9月号に、「地震と台風の『同時・時間差襲来』にどう備えるか」というテーマで論考を執筆しました。詳細な内容はそちらをご覧いただくとして、このブログでは、論考で書き切れなかったことも含めて記述し、関東大震災の教訓とともに考えていきたいと思います。

【関東大震災の被害を代表する火災旋風 だが…】
 「関東大震災」というと火が竜巻のようになって人々に襲いかかる「火災旋風」を思い浮かべる人も多いと思います。東京の本所区(現:墨田区)にあり、空き地になっていた「被服廠(ひふくしょう)跡」で発生し、家財道具や荷物を持ちながら避難してきていた約4万人が犠牲になったとされます1)
 この「火災旋風」をはじめとして、各地で火災が発生し、延焼が拡大。火災による犠牲者は約9万人にのぼり、全犠牲者の約9割に達しました2)。 その数の多さに加え、火災旋風という非常にまれな現象が引き起こした災害とあって、関東大震災をメディアが取り上げるときには、「火災の延焼と火災旋風」がメインに据えられることが多いです。しかし関東大震災の被害は、それだけではありません。土砂災害や津波などでも多くの犠牲者が出ています。このため論考では、あえて火災の記述を大幅に省き、火災以外の災害について多く記述するようにしました。

【関東大震災は「複合災害」 原因の1つが「同時襲来した台風」】
 前述した火災もそうですが、神奈川県などで多発した土砂災害も、震災発生当日の朝に能登半島付近にあった台風が関係しているとされています。この台風の震災発生2日前からの動きを、気象庁に残されている当時の天気図で見てみます。

まず震災発生2日前の8月30日午前6時には、台風は九州南部の南西海上にあることがわかります。

tenkizu0830_2_W_edited.jpg8月30日午前6時の天気図(気象庁図書館所蔵)

震災発生前日の8月31日午前6時には、台風は九州北部付近にあります。このあとおおむね北東へ進みます。この影響で、神奈川県などでは山地を中心にかなりの雨が降りました。

tenkizu0831_3_W_edited.jpg8月31日午前6時の天気図(同上)

そして震災発生当日の9月1日午前6時には、台風は能登半島付近にあることがわかります。この台風による強風が火災を、前日からの大雨が土砂災害を引き起こした原因の1つになったとされています3)。つまり、関東大震災は、地震と台風が重なり「同時襲来」した複合災害だったといえます。

tenkizu0901_4_W_edited.jpg9月1日午前6時の天気図(同上)

【「同時襲来」を思い起こさせた『ある地震』】
 実は、この「同時襲来」は関東大震災だけではありません。統計がないので正確な数はわかりませんが、筆者は以下の2つのケースがあげられると考えています。1つは、2022年9月の台風14号です。猛烈な勢力で九州南部に接近し、気象庁は鹿児島県に「台風の特別警報」、その後、宮崎県に「大雨の特別警報」を発表しました。この特別警報が出ているさなかに、台湾付近を震源とする大地震が発生。沖縄県の宮古島・八重山地方に津波注意報が発表され、各メディアは、台風報道と津波注意報の伝達をほぼ同時に行わなければならなくなりました。
 もう1つは、2009年8月11日午前5時7分に駿河湾を震源として発生したマグニチュード6.5の地震です。静岡県内で最大震度6弱の揺れを観測。静岡県沿岸と伊豆諸島に津波注意報が発表され、静岡県内で実際に津波が観測されました。当時は「東海地震が予知できる」と言われていたころで、地震が発生した場所が東海地震の想定震源域内だったことから、このときの各メディアの報道は「東海地震との関連性はあるのか」という方向に集中しました(最終的に気象庁は「今回の地震は想定される東海地震に直接結びつくものではない」と発表した4))。当時、筆者は社会部の災害担当記者で、「東海地震との関連性」への取材にもあたりましたが、それ以上に記憶に残っていることがあります。それは、地震発生当時に本州の南海上にあった台風9号です。当時のニュース原稿には、地震発生時刻に近い午前5時の推定位置が、「和歌山県の潮岬の東南東160キロの海上」で東北東へ進んでいる、と書かれています。駿河湾にかなり近い場所に台風が接近していたのです。実際に、地震発生から約1時間半後の11日午前6時32分までの1時間には、強い揺れがあった静岡県伊豆市の天城山で76ミリの非常に激しい雨を観測しました。この台風は、地震発生2日前の9日から前日10日にかけて兵庫県や徳島県など西日本に大雨をもたらし、浸水や土砂災害などで大きな被害が出ていました5)。このため、地震発生は早朝でしたが、この台風への対応で複数の災害担当記者が出勤していて、地震と台風の原稿を手分けして書き続けました。
 今回、関東大震災100年について調査を進める中で、この2つの事例を思い起こし、「もっと大きな地震と猛烈台風が重なった場合、メディアは適切な情報伝達が可能なのか」という問いが浮かびました。筆者にとっては、これが論考を執筆する出発点となりました。また論考では、台風が時間差で襲来したために土砂災害が多発した2004年の新潟県中越地震や2018年の北海道胆振東部地震についても触れています。

【「台風+地震」の複合災害を独自シミュレーション】
 では、台風と地震の「同時・時間差襲来」で何が起きるのでしょうか。国や自治体による想定がない場合に、専門家による監修をもとに、災害の新たな危険性を伝えることも、メディアの重要な役割です。このため筆者はメディア研究者の立場から専門家に依頼して独自にシミュレーションを行いました。依頼したのは、津波防災に詳しい常葉大学の阿部郁男教授。神奈川県沿岸の一部地域を対象にして、先に台風が襲来して高潮による浸水が起こり、その後、地震が発生して津波が押し寄せるという「台風先行→地震後発型」で行いました。台風がまず近づき、その後地震が発生したという状況は、関東大震災もそうですし、前述の「2009年の駿河湾の地震」にもあてはまるからです。また、今回のシミュレーションでは、関東大震災と同じタイプの相模トラフのプレート境界を震源とする地震で、対象地域周辺で津波が最大となる断層モデルを使用しました6)。対象とした地域は人口が多く大勢の観光客も訪れます。東日本大震災以降、「想定外をなくすこと」が重要視されていることから、多くの人の命を守るために、あえて最大級のケースをもとに計算しました。

「高潮+津波」の浸水シミュレーション動画(画像提供:常葉大学 阿部郁男教授)
 

 シミュレーションを動画で見てみます。赤く塗られた部分が浸水したエリアです。最初の画面では対象範囲の中央付近を中心に高潮で浸水していることがわかります。そして動画が動き出すのと同時に地震が発生。地震から30分後以降に、画面右上の海側から次々に津波が押し寄せ、浸水が広がっていきます。シミュレーションの結果、最大で対象範囲の44%にあたる3.63平方キロメートルが浸水。「台風による高潮のみ」のケースに比べて最大浸水範囲が約2倍に広がりました。

prof.abe_5_W_edited.jpg常葉大学 阿部郁男教授

この理由として、阿部教授は、先に高潮が発生し、潮位がふだんより上がっているところに津波が押し寄せるので、高潮で浸水したエリアよりも広い範囲が浸水すると分析しています。そのうえで、「9月などの台風シーズンは、もともと潮位がかなり高く高潮が発生しやすい。その高潮のあとに津波が来るという想定は、これまでほとんどされてこなかった。ただ、台風と地震がほぼ同時に襲来した関東大震災の例を考えても、十分ありうる」と指摘しています。

【同時襲来想定は『パンドラの箱』 メディアに何ができるのか】
 こうした地震と台風の「同時・時間差襲来」による複合災害にどう備えればいいのでしょうか。また、メディアには何が求められるのでしょうか。
 筆者は、災害時の避難や防災情報に詳しい、京都大学防災研究所の矢守克也教授と議論を重ねました。詳細は論考に記載していますが、議論からは▼たとえば高潮を対象に指定していた避難所が、津波にも対応できるのかなど、避難所が複数の災害に対応できるか点検する必要があることや、▼自分の住んでいる地域の外に早めに逃げるなど、「他地域への積極的な疎開」についても今後は考えるべきだ、といった意見が出ました。

prof.yamaori_6_W_edited.jpg京都大学防災研究所 矢守克也教授

 議論の中で矢守教授は、「台風と地震は、1つだけでもかなり厳しい災害なのに、2つ同時に襲来するとなるとさらにシビアになる。これまで多くの防災関係者が見て見ぬふりをしてきた課題だと思う」と指摘。その上で「まさに『パンドラの箱』を開けるようなものだが、地球温暖化の影響や巨大地震の切迫度などを考えると、考え始めなければならない課題だ」とその重要性に言及しました。
 東日本大震災以降、「想定外をなくすこと」が、求められるようになりました。論考やこのブログで摘示してきたデータなどからは、地震と台風の「同時・時間差襲来」はもはや想定外とはいえないと思います。
 関東大震災から100年。『パンドラの箱』を開けてみることに意義があると考えます。そして「他地域への積極的な疎開」などの新しい避難の形を実現するためには、交通情報の迅速かつ正確な伝達の重要性などが、これまで以上に増すことが考えられます。住民の命を守るために、メディアとしてできることを考えていくことこそが、災害の教訓を生かすことだと確信しています。


1)武村雅之『関東大震災 大東京圏の揺れを知る』(2003 鹿島出版会)p13-16 および
『令和5(2023)年版防災白書』p4

2)2006年7月 中央防災会議 災害教訓の継承に関する専門調査会
「1923関東大震災報告書-第1編-」p4

3)武村雅之『関東大震災 大東京圏の揺れを知る』p13,図1
2006年7月 中央防災会議 災害教訓の継承に関する専門調査会
「1923関東大震災報告書-第1編-」p50

4)駿河湾の地震については、気象庁 災害時自然現象報告書2009年度 【災害時地震・津波速報】
平成21年8月11日の駿河湾の地震(東京管区気象台作成/対象地域 静岡県)を参照した。
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/saigaiji/saigaiji_200903.pdf

5)2009年台風9号については、気象庁 災害時自然現象報告書2009年度 【災害時気象速報】平成21年台風第9号による8月8日から11日にかけての大雨(対象地域 九州、四国、中国、近畿、東海、関東甲信、東北地方)を参照した。
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/saigaiji/saigaiji_200902.pdf

6)神奈川県「津波浸水想定について(解説)」記載の「相模トラフ沿いの海溝型地震(西側モデル)」を参照した。
https://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/attachment/774580.pdf
また、国土地理院「重ねるハザードマップ」も参照した。
https://disaportal.gsi.go.jp/maps/?ll=35.012002,139.921875&z=5&base=pale&vs=c1j0l0u0t0h0z0

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【中丸憲一】
1998年NHK入局。
盛岡局、仙台局、高知局、報道局社会部、災害・気象センターで主に災害や環境の取材・デスク業務を担当。
2022年から放送文化研究所で主任研究員として災害や環境をテーマに研究。

★筆者が書いた、こちらの記事もあわせてお読みください
日本海中部地震から40年 北海道南西沖地震から30年 2つの大津波の教訓【研究員の視点】#494
1991年 雲仙普賢岳大火砕流から考える取材の安全【研究員の視点】#481
#473「災害復興法学」が教えてくれたこと
#460 東日本大震災12年 「何が変わり、何が変わらないのか」~現地より~
#456「関東大震災100年」震災の「警鐘」をいかに受け止めるか

調査あれこれ 2023年08月25日 (金)

朝のメディアに求めるものは?【研究員の視点】#501

世論調査部(視聴者調査)渡辺 洋子

 朝は必ず決まったテレビのチャンネルを見る、あるいは起きたらまず、好きなYouTuberの配信を確認するなど、毎日同じ時刻に特定のメディアを見るというような習慣はありますか?

 毎日の生活の中にメディアはどのように組み込まれているのか、そしてそれはなぜ使われているのでしょうか。
 調査からは、朝のメディア利用には、情報取得という目的に加えて、気分という要素も重要だということがみえてきました。
 世論調査のデータ、そしてオンラインインタビューで聞いた声をご紹介します。


 まずは、朝、決まって見たり聞いたりしているメディアについて、世論調査の結果をご覧ください。複数のメディアを使う人も多いと思いますが、ここでは「もっともよく利用するもの」を回答してもらっています。

朝:毎日、同じような時刻や状況で、決まって見たり聞いたりしているメディア
(もっともよく利用するもの)real-time-tv.png

※詳細な数値は『放送研究と調査』2023年8月号「朝のテレビ視聴減少の背景を探る~オンラインインタビューの発言から~」をご覧ください。

 「毎日決まって見たり聞いたりしているメディアはない」という人は全体では21%と、8割弱の人は何らかのメディアを決まって見たり聞いたりしていることがわかります。そして全体では、朝にもっとも利用するものとして、リアルタイムのテレビ放送を挙げた人が50%と、テレビが大きな存在感を占めています。
 もっとも利用しているメディアは性別や年齢で異なり、男性の30代以下ではリアルタイムのテレビ放送を挙げる人が3割以下と全体と比べて低くなっている一方、YouTubeは6~8%と全体(2%)と比べて高くなっています(男性30代:8%、男性16~29歳:6%)。また、SNSも全体では3%に過ぎませんが、男女の16~29歳では17~18%でした。

 30代以下では、朝、習慣としてYouTubeやSNSをもっとも使うという人が、他の年層より多くを占めていることがわかります。


 では、具体的にYouTubeやSNSは、朝の生活シーンの中でどのように使われているのでしょうか。19~39歳の方々にオンラインインタビューで朝のメディア利用を聞いた様子をご紹介します。

 まずは、朝起きてすぐにSNSを見る方の声です。

【女性29歳 パート・アルバイト】
(今朝、起きてからの時間の過ごし方は)
  8時半くらいに目覚ましのアラームで起きて、10分くらい二度寝をした。
  布団の中でTwitterを見て、起きて朝ご飯を食べたり、着替えたりして、今に至る。

(朝いちで立ち上げるのは必ずTwitterか)
  ほぼTwitter。

(Twitterではどんな情報を見ているのか)
  フォローしている人のタイムライン見たりTwitterのトレンドを見たりしている。

(寝ながらTwitterのチェックとのことだが)
  中身を見るというよりは、眠気覚まし的に見ている感じ。

(どんなところが眠気覚ましとして働いているのか)
  情報量がほぼないつぶやきが多いので、すぐに頭に入ってくる。

【女性34歳 主婦】
(布団の中で何かメディアを見ていたか)
  スマホでネットニュースとLINEとInstagramを見ていた。

(それぞれどんな目的でどんな気分で見ていたか)
  ネットニュースは新しいことが起きていないかとチェックする習慣がある。
  Instagramも暇さえあれば開いちゃう習慣になっている。

(LINEは何を見ているか)
  友人から来ていたLINEと、公式のアカウントで登録しているものを見ていた。

(ベッドの中でゴロゴロしながら見るインスタ、LINEはどんな助けになっているか)
  目を覚ますため。ちょっと気分転換になる。

【男性36歳 会社員】
(起きてから触れたメディアは)
  インスタ。あとはLINE。

(何を見たのか)
  LINEはメッセージが来ていたのでその確認。インスタは完全に暇つぶし。まだ起きたくないと。

(布団の中で見ていたのか)
  そう。

(インスタで具体的に見ていた内容は、流し見だったか)
  暇つぶしで本当に流し見だった。

(朝の気分の何がインスタやLINEに合っているのか)
  まだ起きたくない葛藤があり、そのためにインスタとかLINEとかをチェックしている。
  まだちょっと起きるには体がだるい。だるさから起きようと思う気持ちまでのつなぎ

(インスタLINEから得られる情報がどんなものだからか)
  情報がというよりも見る行為、光を目に浴びているから。それが目を強制的に起こしている感じだと思う。

 3人とも、朝布団の中でSNSを見ています。情報を取得するというより、まだ覚醒しきっていない状態で、いつも利用するSNSをタップして画面を眺めているという状況が見受けられます。友人からのメッセージを確認する人もいますが、どちらかというと、目が覚める状態に持っていくまで、頭と体に負荷をかけずに一定の時間を過ごすための道具として使われている様子がうかがえます。

 SNSは1日の生活のさまざまな時間帯で使われていますが、寝起きの場面では、頭が完全に起きていない中、内容を楽しむというより、朝までに起きたことや寝ている間に届いたメッセージを確認したり、あるいはただなんとなく眺めたりするために使われていることがわかります。


 続いて、朝に習慣としてYouTubeを見ている方の声です。

【男性25歳 会社員】
(朝食を食べながらYouTubeと書いてあるが、好きなYouTuberとして直近では何を見ていたか)
  芸人の霜降り明星が好きで、それを見ていた。結構、朝はほぼ毎日の習慣と言ってよいほどに見ている。
  更新が結構1日ごとにあるので、毎回面白いし見ている。

(ヘビーなネタが多いかと思うが、朝に見るのか)
  笑う要素があり、気分も楽しくなってくる。

(寝床で朝ゴロゴロしながら見ている動画はどんな役割を果たしているか)
  気分を上げるもの。

(望ましい内容は)
  お笑いとかで気分を上げていくのが一番望ましい

【女性25歳 会社員】
(朝は目についたYouTubeをテレビで見ているのか)
  そう。

(お笑い系が多いか)
  これ(YouTubeの【食の雑学2chスレ】)はお笑い系というより、外のサイトで一般人が討論、文章ですごいやりあったものをまとめて音声で流すようなチャンネルで、画面を見なくても良いのが一番のメリット

(選びたくなる内容は)
  本当に何でも良いけど、ライフハックとか、こういう牛丼700日食べたとかの挑戦とか、面白い感じが良い

(出かけるまでの時間がどんな時間だから、ライフハック、チャレンジ系が聴きたくなるのか)
  とりあえず楽しい気分になりたい。ニュースとかよりも面白いとか、楽しい気持ちになれるものを選ぶ傾向にある。

(朝のメディア視聴、動画を見たり聴いたりしている時間はどんな時間なのか)
  朝の時間は自分の1日のテンションを上げるような時間にしたい

(そのために必要な要素は)
  やはり動画や音楽など受け取れるので、自分はすごく楽しい、頑張ろうと思えるコンテンツを見る。東海オンエアとか読み上げ系。


 この2人に共通しているのは、1日が始まる朝、気分を上げたりテンションを上げたりすることを求めて、楽しい気分になるコンテンツを選択しているということです。それぞれ、面白いと思うコンテンツの内容は異なりますが、YouTubeの幅広いコンテンツはこうした個々の好みやニーズに応えるものとして使われていることがわかります。

 今回のインタビューからは、朝のメディア利用では「起きようと思う気持ちまでのつなぎ」だったり「テンションを上げるもの」だったり、その時々の気分に応じたコンテンツが求められているということがわかりました。
 もちろん、朝のメディア利用には情報性も重要な要素です。前述の世論調査の自由記述からも、朝は、世の中の動向や自分の関心ごとを確認し、最新の情報に更新するためにメディアに接するケースが多いことがわかっています。インタビューでも、出かける前にその日の天気や交通情報、最新のニュースをリアルタイムのテレビ放送やニュースアプリなどから得ているという声がありました。
 しかし、それだけではなく、朝の生活に寄り添うメディアとなるには、そのシーンに応じた気分を満たすということも重要だと言えるのではないでしょうか。

『放送研究と調査』2023年8月号「調査研究ノート・朝のテレビ視聴減少の背景を探る~オンラインインタビューの発言から~」では、こうしたインタビューでの発言を基に朝のメディア利用について考察しています。ぜひご覧ください。

『放送研究と調査』2023年7月号「コロナ禍以降のメディア利用の変化と,背景にある意識~「全国メディア意識世論調査・2022」の結果から~」


おススメ記事
『放送研究と調査』2023年7月号
「コロナ禍以降のメディア利用の変化と,背景にある意識~「全国メディア意識世論調査・2022」の結果から~」
https://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/20230701_5.html
『放送研究と調査』2023年8月号
「調査研究ノート 朝のテレビ視聴減少の背景を探る~オンラインインタビューの発言から~」
https://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/20230801_4.html

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【渡辺洋子】
2001年NHK入局。仙台放送局、千葉放送局でニュースなどの企画制作、国際放送局でプロモーション・調査を担当。
放送文化研究所では視聴者調査の企画・分析に従事し、国民生活時間調査は2005年から担当している。
共著『図説日本のメディア[新版]』『アフターソーシャルメディア 多すぎる情報といかに付き合うか』など。

メディアの動き 2023年08月22日 (火)

【メディアの動き】民放ローカル局13 社が系列を 超えて連携,地域の魅力発信のための コンソーシアム設立

7月14日,北海道から沖縄までの民放ローカル局13 社が,地方創生等のライブ配信事業を手がけるLiveParkや楽天グループとともに,地域の魅力を発信するコンソーシアム「のぞいてニッポン運営委員会」を設立,サイトを開設した。
放送エリアに限定されていた各局の番組やオリジナルコンテンツを全国配信することで,地方経済への貢献をめざす。

コンソーシアムのポイントは3 つ。
(1 )系列やエリアを問わない,志を同じくするローカル局による連携。
  これまで数年間のトライアルと議論を通じて,地域に共通する課題の共有と,互いに異なる魅力の発見からつながりを育んできた。
( 2)連携企画やサイト編成,SNS 展開などを横断的に手がける編集部の存在。
  地域コンテンツ流通の重要性は繰り返し指摘されているが,視聴してもらうための方法についてはどのメディアも苦戦中だ。
  地域情報の魅力を最大限引き立てる司令塔をめざす。
( 3)ネットショッピング,旅行予約,ふるさと納税等,オンライン上の総合サービスを手がけるプラットフォームとの連携。
  連携にはさまざまな課題が指摘される中,コンテンツを供給するローカル局にとって持続可能なビジネスモデルの構築をめざしている。

コンソーシアム発起人でLiveParkファウンダーの安藤聖泰氏は,キー局主導でさまざまな枠組みが構築されることが長年の慣習となっている放送業界の中で,ボトムアップで丁寧に組み立ててきたと思われる。
新しい座組みの今後に注目していきたい。

メディアの動き 2023年08月22日 (火)

【メディアの動き】あいテレビの深夜番組のセクハラ発言, BPOが「人権侵害なし」の見解

愛媛県の民放あいテレビで放送されていた深夜番組の女性出演者が,番組内でのたび重なるセクハラ発言で精神的苦痛を受けたと申し立てた問題で,BPOの放送人権委員会は7月18日,人権侵害は認められず,放送倫理上の問題もあるとまでは言えないとする見解を公表した。

問題になったのは,あいテレビが2016 年から2022 年の3月まで毎週放送していた深夜のバラエティー番組『鶴ツル』で,出演者の女性フリーアナウンサーが,番組内で2人の男性出演者からしばしば下ネタや性的な言動を受け,羞恥心を抱かせられ,自身のイメージも損なわれたと申し立てた。

委員会は審理の結果,申立人が番組での性的な言動に長年悩んできたことは「真実」と考えられるが,本人が2021年11月に番組プロデューサーに伝えるまでは,あいテレビがそれに気づくことができたとは言えず,その後の対応にも過失があったとは言えないと判断した。
また放送局の責任を問うことについては,表現の自由の制約につながりうることから「謙抑的であるのが妥当」という考え方を示したうえで,「申立人の人格の尊厳を否定するような言動」があったとは言えないことから,「人権侵害があったとは認められない」と結論づけ,「放送倫理上の問題があるとまでは言えない」とした。

一方で,フリーアナウンサーとテレビ局,男性中心の職場に置かれた女性,という視点に照らし,申立人が圧倒的に弱い立場だったとして,あいテレビに対し,出演者が気軽に悩みを相談できる職場環境やジェンダーに配慮した体制を整備することを要望した。

メディアの動き 2023年08月22日 (火)

【メディアの動き】NHK,NW9の新型コロナウイルス 関連動画をめぐり関係者を処分し,調査結果を公表

7月21日,NHKは5月15日に放送した『ニュースウオッチ9(NW9)』のエンディング動画の中で不適切な伝え方があったとして,取材を担当した職員や上司の編集責任者等を処分するとともに,内部調査の結果を公表した。

動画のテーマは「新型コロナ5 類移行から1週間・戻りつつある日常」。
約1分間の動画の中で3人の遺族のインタビューを紹介したが,実際はワクチン接種後に死亡した人の遺族であったにもかかわらず,新型コロナに感染して死亡した方の遺族だと視聴者に誤認させる伝え方をしていた。

翌5月16日のNW9では,NHKに遺族を紹介したNPO 法人理事長の反応やSNS 上の批判を受けて謝罪。
7月5日には遺族らがBPO放送人権委員会に申し立てを行い,放送倫理検証委員会でも審議入りが決まっている。

なぜこうした問題が起きたのか。調査報告では,職員等の社会問題に対する認識の欠如,担当者間の情報共有不足,提案・取材・制作におけるチェック不足,取材先や視聴者に対する真摯な姿勢の欠如があるとしている。
NHKは2021年12月放送のBS1スペシャルにおいて,誤った内容の字幕をつけるといった,取材者や視聴者の信頼を損なう問題を起こしている。
再発防止策として,放送ガイドラインに沿って複眼的試写を行うなどのチェック機能の強化が行われたが,再び問題が起きてしまった。
NHKは今後,議論を尽くす組織への改善等を行っていくという。公共放送を担う1人1人の意識が根底から問われている。

メディアの動き 2023年08月22日 (火)

【メディアの動き】オーストリア議会,全世帯徴収型の公共放送の新財源制度法案を可決

オーストリアの議会下院は7月5日,受信機の有無にかかわらず,すべての世帯と企業から公共放送ORFの財源となる「ORF 負担金」を徴収することを定めた法案を可決した。
新財源制度は2024 年1月から施行される。

現行の受信料は,テレビやラジオ受信機を所有する世帯と企業から徴収しており,インターネットでORFのサービスを利用していても,テレビやラジオを所有していなければ徴収対象にならない。
これについてオーストリア憲法裁判所は2022 年7 月の判決で,「公共放送のサービスを利用できる人すべてに財源への貢献義務を課すことも,公共放送の独立性を保障する一側面である」とし,現行制度を違憲としたため,制度改正が必要となった。

ORF 負担金制度は,ドイツの「放送負担金」制度にならって設計され,世帯は住居ごとに一律額が徴収される(別荘は対象外)。
2024 年からの月額は15. 3 ユーロ(約2, 400 円)で,現行の18.59 ユーロ(約2,900 円)から値下げされる。企業からは,従業員の給与の総額に応じて設定された額が徴収される。
また可決した法案は,ORFのインターネットによる番組配信の範囲を拡大する条項も含む。

現在は,番組配信は放送後7日間のみとされているが,今後はジャンルによって30日や6か月などに延長され,放送前の先行配信や,配信専用の番組の制作も可能となる。

また,新聞社の事業を圧迫しないよう,ORFのウェブサイト上の文章記事は週に350 本までに制限され,コンテンツの割合を動画70%,文章30%にするよう定められる。

メディアの動き 2023年08月21日 (月)

【メディアの動き】台風進路予報円 精度良く表示, 災害危険度が高い地域を明確化

気象庁は,台風の進路を予報する際の予報円と暴風警戒域(台風の中心が予報円内に進んだ場合に風速25m以上の暴風となるおそれのある範囲)を,これまでより狭く絞り込んで,精度良く表示する方法を6月下旬に始めた。


数値予報技術の改善などにより実現したということで,台風による災害の危険度が高い地域の明確化につながると期待されている。
この方法が,7月15日に南シナ海で発生し,北西へ進んだ台風4号に初めて適用された。
この方法について,気象庁が2019(令和元)年に東日本や東北で河川の氾濫や土砂災害が相次ぎ,甚大な被害をもたらした「令和元年東日本台風」をモデルケースに検証したところ,3日先以降の予報円と暴風警戒域がこれまでより狭くなり,特に5日先の予報円は,約40%狭くなって,精度が向上したという。
気象庁は「災害の危険度が高い地域をより絞り込めるようになるので,早めの避難などの防災行動につなげてほしい」と話している。


ただ,変わらないこともある。▼予報円の定義が「台風の中心が70%の確率で入ると予想される範囲」(つまり30 %は入らない可能性がある)であることや,▼台風の進路予報が3・6時間おきに発表され,そのたびに変化すること,▼いわゆる「迷走台風」など進路予報の難しい台風については,どうしても予報円が大きくなること,などである。
今回の新たな表示方法の導入をきっかけに,メディアを通じて最新の情報を常に確認することの大切さを,改めて認識する必要があるだろう。

メディアの動き 2023年08月21日 (月)

【メディアの動き】韓国KBS,受信料の分離徴収が確定, 施行令改正受け,憲法裁に判断求める

韓国で7月12日,公共放送KBS の受信料を電気料金とともに徴収する方式から分離徴収に改める放送法施行令が施行された。
これを受け,KBSは,改正施行令が憲法に違反していないかなどの判断を憲法裁判所に求めた。

KBSは1994 年以降, 月額2,500ウォン(約270円)の受信料を電気料金とともに徴収してた。
この方式は,KBSに安定した収入をもたらした一方,放送を見ていなくても支払う仕組みとなっていることに対する国民の反発もあり,政府は制度の見直しを行っていた。
今回の改正について,ハン・ドクス(韓悳洙)首相は「国民の料金に対する意識と関連する権利への理解が深まると期待される」と述べた。

一方,KBSのキム・ウィチョル(金儀喆)社長は声明で,「受信料を徴収するために2,000億ウォン(約217億円)以上を浪費せざるを得なくなり,公共サービスのための番組の削減や廃止につながるだろう」との見通しを示し,「国民に多大な損害と混乱をもたらすことが予想されるので,改正を受け入れるのは困難だ」としている。
そのうえでキム社長は,憲法裁判所に判断を求めた目的について,「今回の改正が公共放送の憲法上の価値を損なう可能性の有無を検討し,どのような徴収方式が国民の大多数にとって有益かを判断することだ」と述べた。
同時にキム社長は,「KBSが最善の努力をしてきたにもかかわらず,急速に変化するメディア環境の中で,国民に対し,その価値を十分に発揮できていないことについて,心からお詫びする」と謝罪した。

メディアの動き 2023年08月21日 (月)

【メディアの動き】女子W杯,FIFA 放送権交渉に課題も

サッカー女子の世界一を決める「FIFA女子ワールドカップ2023 」(以下,女子W 杯)が7 月20日,オーストラリアとニュージーランドの共同開催で開幕した。
FIFA(国際サッカー連盟)が2019 年の大会の成功などをふまえ,女子W杯の放送権を男子W 杯と切り離したが,欧州の主要国などとの交渉が難航し,合意が開幕直前までずれ込むなど課題を残した。

FIFAは初の南半球開催となった今回の女子W杯で,参加チームを8 増やして32とした。
FIFAによると,2019 年大会の視聴者数は11億人で女子サッカーの人気は高まっている。
女子W杯の放送権は初の単独での販売となったが,これまで男子W 杯とセットの契約だったこともあり,いわゆる欧州5大リーグがあるイギリス,スペイン,ドイツ,イタリア,フランスの欧州主要5か国で放送権交渉が難航した。

FIFA会長は5月,5か国の放送事業者の提示金額について,男子W杯の1/20 ~ 1/100と「落胆する内容」で,「このままでは放送をやめざるを得ない」と見直しを迫った。
その後,FIFAとEBU(欧州放送連合)が既存の契約を修正し,5か国を含める形で放送が決まったのは,女子W杯開幕のわずか1か月前であった。
日本でもNHK が日本代表の全試合放送を発表したのは7月に入ってからだった。

FIFAは,男女の格差解消に向け,今大会の賞金総額を前大会の3 倍以上の1億5,200万ドル(約215 億円)に増額し,次期W杯で男女同額をめざすとしている。
一方で,経営が厳しい放送事業者の放送権料負担の増加やFIFA が女子W 杯を過小評価してきた問題などを指摘する声も上がっている。

メディアの動き 2023年08月21日 (月)

【メディアの動き】英BBC,国際サービス利用者大幅減

イギリスの公共放送BBCは7月11日,2022年度の年次報告を発表した。
受信許可料の値上げが見送られ,財源削減策を進めたことなどの影響で,国際放送サービスで大幅に利用者が減少したことが明らかになった。


報告書によると,BBCの受信許可料による収入は,支払い件数が43万7,000 件減少した結果,37億4,000万ポンド(約6,769 億円)と前年比で1.6%の減少となった。
その他の収入は,商業部門の売り上げが28%伸び,19 億8,500万ポンド(約3,593 億円)となったが,インフレの影響やデジタル投資などで支出が増えた結果,グループ全体の収支は1億2,000万ポンド(約217 億円)の赤字となった。
利用実績は,統計の取り方を変えたため前年との比較はできないが,16歳以上の週間接触率は69%だった。
また動画配信サービスiPlayerの利用件数は前年比11%増の73 億件で過去最多となった。
一方,世界でBBCのテレビやラジオ,ウェブなどを利用した人は4 億4,700万人で,前年比9%減となった。
特に2022 年に一部言語のラジオ放送の廃止や人員削減策などを決めた国際放送BBC World Serviceでは,43のサービスのうち29で利用者減となった。
西アフリカで使われるヨルバ語やインドネシア語が70%以上の減となる一方,中国語は26%,ロシア語は19%,ウクライナ語は11%の増となった。


BBCは2023 年から,偽情報対策や同局のブランドを広める効果が低いプラットフォーム経由でなくBBCに直接アクセスしてもらうことを優先するとしたうえで「ニュース環境の変化や,経費削減のために国際放送は今後も難しい決断が必要になる」としている。

調査あれこれ 2023年08月01日 (火)

あなたはコンテンツや情報にお金を払いますか?【研究員の視点】#500

世論調査部(視聴者調査)渡辺 洋子

 インターネットで面白そうだと記事を読み始めたら、「ここから先は有料」の文字・・・。
 あるいは、面白そうな動画を見つけ、見たいと思ったら有料だった

 みなさんは、このような経験をしたことはありませんか。
 こうした時、あなただったらどうしますか。
 お金を払ってでも見る? それとも、お金を払ってまでは見ない?

 世の中の人は、どうなのでしょうか。
 NHKが行った世論調査をもとに、考えてみようと思います。

 こちらは「全国メディア意識世論調査・2022」で、映像コンテンツや情報にお金を払うことについて、どのように思うかを尋ねた結果です(図1)。

図1 お金を払うことに対する意識
graph1_ishiki.png

「映像コンテンツ」と「情報」のそれぞれについて、お金を払ってでも見たい(手に入れたい)かどうかを尋ねたところ、「好きな番組や動画なら、お金を払ってでも見たい」と答えた人が35%、「自分の知りたい情報は、お金を払ってでも手に入れたい」と答えた人が31%で、お金を払ってでも見たい、あるいは手に入れたいという人はともに3割台でした。※「どちらかといえば」を含む

 一方、お金を払ってまで見たい、あるいは手に入れたいと思わないと答えた人が6割以上を占めていて、
好きな番組や動画、自分の知りたい情報に対して、お金を払ってまで見たい、手に入れたいという人は多くないことがわかります。

 回答者全体では、このような結果となりましたが、年齢による違いはあるのでしょうか?
 年層ごとの結果を示したのが下のグラフです(図2)。

図2 お金を払うことに対する意識(年層別)graph2_1_ishiki.pnggraph2_2_ishiki.png

 映像コンテンツでも、情報でも、若い人たちほどお金を払ってでも、見たい、あるいは手に入れたいという意識が強い傾向がみられます。
 特に16~29歳では、「好きな番組や動画なら、お金を払ってでも見たい」と答えた人が52%と半数を超えていて、自分の知りたい情報に対する「お金を払ってでも手に入れたい」の38%よりも高く、「映像コンテンツ」に対して、よりお金を払ってでも見たいという意識が強いことがうかがえます。
 この背景には、何があるのでしょうか。

 いくつか要素が考えられますが、そのうちの1つは、メディアの効用の重要度、つまり自分が重要だと思っている目的や場面に対して、どのメディアがもっとも役に立っていると思うかという意識の違いです。

 まず、下の表に示した「世の中の出来事や動きを知ること」「感動したり楽しんだりすること」などの項目について、それぞれどの程度重要だと思うかを尋ねました。
 「世の中の出来事や動きを知ること」を「とても重要」と回答した人の割合は、16~29歳を除いたどの年層でも、もっとも高い項目の1つで半数を超えています。

 ところが16~29歳では、上位を占めたのは「感動したり、楽しんだりすること」(59%)、「生活や趣味に関する情報を得ること」(51%)、「癒やしやくつろぎを感じること」(49%)で、「世の中の出来事や動きを知ること」は半数に至らず(42%)、4番目でした。

 若年層では「世の中の出来事や動きを知ること」よりも「感動したり、楽しんだりすること」のほうが、重要度が高いと考えている人が多いことがわかります。

表 効用の重要度 (「とても重要」と回答した人の割合)(年層別)chart_kouyou.jpg

 次に、16~29歳で高かった「感動したり、楽しんだりすること」について、どのメディアがもっとも役に立っていると思うか、回答結果をみていきます(図3)。「テレビとYouTube、どんなときに役に立っている?【研究員の視点】#499」参照

 16~29歳では、「感動したり、楽しんだりするうえで」もっとも役に立っていると思うメディアとして、YouTubeが42%で、テレビなど他のメディアを大きく引き離す結果となりました。

 また、YouTubeには及ばなかったものの、テレビやYouTube以外のインターネット動画が続いていて、上位3つはすべて映像メディアとなっています。

図3 「感動したり、楽しんだりするうえで」もっとも役に立っているもの(16~29歳)graph3_media.png

 ここまでみてきたように、若年層にとっては、「感動したり、楽しんだりすること」が重要だと思う人が多く、さらに、その「感動したり、楽しんだりするうえで」、YouTubeをはじめとした映像コンテンツがもっとも役に立つと考えている人が多いため、若年層で特に映像コンテンツに対して、お金を払ってでも見たいという意識が強いという結果になったと考えられます。

 さらに、こうした若年層の意識を知る上で、もう1つポイントになる結果を紹介します。
 それは「好きなものに対する意識」です(図4)。

 「好きになったものには、とことんのめり込む」ことや、「好きなものだけに囲まれて過ごしたい」と思うことについて、あてはまるかどうかを尋ねたところ、若年層ほど、「あてはまる」と答えた人の割合が高くなる傾向が出ています。※「とてもあてはまる」「まああてはまる」の合計

図4 好きなものに対する意識(年層別)graph4_1_favorite.pnggraph4_2_favorite.png※ピンクの文字は、「とてもあてはまる」「まああてはまる」の合計

 このように、若年層ほど、好きなものにのめりこんだり、好きなものだけに囲まれて過ごしたりしたいという思いが強く、そうした意識が、好きな番組や動画に対して、お金を払ってでも見たいという結果につながっているのではないかと考えられます。

 今回のブログでは、年層によって、メディアに対する意識の違いやお金を払ってまでみたいと思う意識の違いをみてきましたが、「放送研究と調査7月号」では、紹介した結果以外にも、コロナ禍以降のメディア利用の変化や、人々の意識とメディア利用の関係について、詳しく報告していますので、ぜひご覧ください。

おススメ記事
2023年7月号
コロナ禍以降のメディア利用の変化と,背景にある意識
~「全国メディア意識世論調査・2022」の結果から~
https://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/20230701_5.html

2022年8月号
テレビと動画の利用状況の変化,その背景にある人々の意識とは
~「全国メディア意識世論調査・2021」の結果から~
https://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/20220801_8.html

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【渡辺洋子】
2001年NHK入局。仙台放送局、千葉放送局でニュースなどの企画制作を担当。
放送文化研究所では10年以上にわたり視聴者調査の企画・分析に従事。国民生活時間調査は2005年から担当。
共著『図説日本のメディア[新版]』『アフターソーシャルメディア 多すぎる情報といかに付き合うか』など。