文研ブログ

2016年7月

文研フォーラム 2016年07月29日 (金)

#38 東日本大震災から5年 NHK文研フォーラム

メディア研究部(メディア動向) 山口 勝

「震災アーカイブ」をご存じですか?
地震、津波、原発事故という未曽有の東日本大震災をきっかけに、災害を記録し教訓を広く未来に伝えようと、震災の写真や資料などをデジタルで収集・保存・公開する取り組みが広がりました。誰もがネットからアクセスすることができます。
あの日から5年を迎えた3月、私は、NHK文研フォーラム「東日本大震災から5年 “伝えて活かす“震災アーカイブのこれから」と題したシンポジウムを企画しました。『放送研究と調査』7月号に報告とその後の熊本地震をめぐる防災とメディアの動きをまとめました。

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NHK文研フォーラムの様子。
2枚目は、NHK NMAPS。アーカイブされた災害データを可視化するデジタル地球儀。防災・減災報道に欠かせない。

東北地方沿岸の被災地では、所によって10mを超えるかさ上げ工事が進み、風景が一変しています。過去と現在を結び、未来を考える復興に、震災アーカイブの資料は欠かせません。また震災の様子をネットで見るだけでなく、震災学習用のアプリやリアルタイム情報と統合した防災情報伝達に、アーカイブのデータを利活用する動きも始まっています。

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NPOみらいサポート石巻が制作した「石巻津波伝承ARアプリ
今話題の“あのゲーム”同様、その場に行くと、震災当時の映像や画像などが再生される。

一方で、集中復興期間の5年を前に、資金難などから補助金で作られたアーカイブや企業アーカイブの閉鎖が相次いだのも事実です。シンポジウムでは「利活用」と「持続性」をキーワードに、震災アーカイブの「」を見つめ「これから」を展望しました。アーカイブの担い手は、大学、自治体、国、メディア、NPOなどです。では、使い手、ユーザーは誰なのでしょうか。「誰が、何のために、どう使うのか」。「見る」だけでなく「使う」ことで持続されるデジタルアーカイブの世界。利活用を進めるためにオープン化することはできるのか。公共放送から公共メディアへの進化を見据えるNHKにとっても、インターネット時代の公共性やメディアの役割を考える上で重要な議論が展開されました。
パネリストは、今村文彦 東北大学災害科学国際研究所所長、小野史典 多賀城市地域コミュニティ課長、諏訪康子 国立国会図書館主任司書、渡邉英徳 首都大学東京准教授、倉又俊夫 NHKアーカイブス部チーフプロデューサー、コメンテーターは、吉見俊哉 東京大学大学院教授、司会・報告は山口勝が務めました。
また、4月の熊本地震をうけたメディアの動きについても加筆しました。

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熊本地震(前震)直後の、Yahoo!防災速報アプリの画面。
NHKニュース映像(ライブ)のタブがあった。

ネットの世界の変化は早く、6月20日には、NHKニュース防災アプリの提供が始まっています。
「放送研究と調査」8月号のメディア・フォーカスもご覧ください。

放送ヒストリー 2016年07月26日 (火)

#37 ポジティブでしなやか:女性テレビ美術デザイナー

メディア研究部(メディア史研究) 廣谷鏡子
 
   放送のオーラル・ヒストリー「放送ウーマン」史(2)
   國嶋芳子さん(テレビ美術デザイナー) ~しなやかに「男社会」を駆け抜ける~ 『放送研究と調査』7月号 


この椅子に、見覚えありませんか?
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『あさイチ』のプレミアムトークにも登場した、40年以上にわたって桂文枝とコケ続けてきた名物椅子です。ギネスにも認定された長寿番組『新婚さんいらっしゃい!』1971~、朝日放送)のセットデザインを、スタート時からずっと担当してきた人が、今回紹介する「放送ウーマン」國嶋芳子さん。この椅子も、プロデューサーの命を受けて彼女が探してきたもので、いまも修理を重ねながら使われています。
美人女性キャスターが闊歩(かっぽ)する華やかな業界のようだけれど、昔も今も圧倒的な男社会である放送業界。テレビ大好き、美術大好きで美大に進み、「テレビ美術デザイナー」という職業があることを知って、この仕事に挑んだ國嶋さんですが、当時、放送局で女子正社員の採用はなく、「よそで仕事をしていい、給料は社員並み、人事異動なし」という契約で嘱託のデザイナーに。結果的にはそのことが、彼女に自由な翼を広げさせ、デザイナー人生を幅広いものにしました。放送局も、70年代に全盛期を迎えるカラー放送に向けて実はてんてこ舞い。美大出のデザイナーもいないなか、國嶋さんはこの業界にピタッとはまったのです!

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國嶋芳子さん

『プロポーズ大作戦』1973~85)の人気コーナー「フィーリングカップル5対5」のテーブルを考案したのも彼女と聞いて、この番組をかじりついて見ていた筆者は、思わずテーマ曲を口ずさんでいました。朝日放送お得意の「視聴者参加公開番組」のセットも、美大で舞台装置を学んできた大胆な発想で立ち上げ、周囲の度肝(どぎも)を抜きます。

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國嶋さんはまず模型を作ります。空間イメージが番組スタッフに一目で伝わります。
そしてこれが、実際のセットになると…こちら。

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2012年から現在までの『新婚さんいらっしゃい!』のセットです。
テーマは「蜂の巣、愛の巣、蜜の味」。

かつては「最近の女子アナはたばこ一つ買いに行かなくなった」などというトンデモ発言が飛び交うセクハラ職場でしたが、國嶋さんはその発想力とスキルで、実績をあげていきます。現在のほんわかした雰囲気の彼女からは、ガチガチの「キャリアウーマン」といったイメージはうかがえません。むしろ、クリエイターとしてのこんな言葉に、著者は共感するのです。
「迷ったときとか何も出てこないときは、そこはテレビのいいところで、流す。ディレクター、プロデューサーにこびる。こびるというか、よかったよかったと言ってもらう」
そうそう! 困難にぶつかったら、無理はせずにさっぱりあきらめる。でも褒めてもらいたいから、次は頑張る。そうやってテレビというメディアの現場は、ある時は健やかな、時にはしたたかな精神を育んできたんじゃないでしょうか。永さんや巨泉さんが生きていたら、きっと共感してくれたに違いない、と思うのですが…。
2011年に朝日放送を退職後、國嶋さんはいまも舞台装置家として活躍中。2013年、ようやく朝日放送2代目女性デザイナーが入社しました。彼女もまた、大先輩が「しなやかに」切り開いてきた道を、彼女ならではの軽やかさで、歩いていくことでしょう。
國嶋さんの切り開いてきた道がどんなだったかは、ぜひ、本文で!(概要はこちら

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語らう新旧女性デザイナー@朝日放送


メディアの動き 2016年07月22日 (金)

#36 ニュースのライブ配信サービスに注目してみました!

メディア研究部(メディア動向)黛 岳郎

私が所属しているメディア動向グループというのは、ざくっと言うと国内メディアの最新の動きを調査・研究することが主なミッションです。テーマは、放送行政や災害報道、放送法等々、幅広くありますが、私が関心を寄せているのは、「国内放送事業者がインターネットで展開する動画配信サービス」です。当然こうした領域に関心を寄せるとなると、NHKだけでなく民放各局の取り組みにも目を向けなければなりません。

そもそも、かつての私は、報道番組のディレクターをしていました。報道というジャンルは、世の中の最前線で起きている事象を取材し、それをニュース企画やドキュメンタリー番組などにします。ですから、私もさまざまな企業の最新動向を取材するなどしてきました。
ところが、当研究所に来て初めて認識したことなのですが、自分が身を置くメディア業界のことについては全く取材したことがなく、NHKはともかくとして、同業他社の最新動向などにはあまり関心を払っていなかったのです。
そしていざ各社の動きを調べてみると、民放各局はネットの世界でかなり先駆的な取り組みに挑んでいる実態を知るに至りました。まさに“灯台下暗し”です。

そうした中、『放送研究と調査』7月号に掲載されている「放送事業者によるニュースライブ配信サービスの行方」という論考を執筆しました。

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何を調査・研究対象にしたかというと、一つが、今ちまたをにぎわせているテレビ朝日とサイバーエージェントによるAbemaTVという動画配信サービスの中の、“入口”のチャンネル「
AbemaNews」です。
スマートフォンをテレビのように見立てて、テレビ番組とは異なる、ネットオリジナルのニュース番組をライブ配信しているサービスです。
そして、もう一つ取り上げたのが、こうしたサービスのいわば先駆けであるフジテレビによる「ホウドウキョク」です。
ネット上でテレビ局がどのようなニュース番組を展開しているのか、そして今後こうしたサービスはどのような展開をみせていくのか、両チャンネルの担当者に取材した上で、私なりに考えてみました。
両チャンネルともスマホなどで無料視聴できるので、是非この機会にご覧ください。そして、私の論考についても一読していただけると幸いです。

▼『放送研究と調査』7月号 「放送事業者によるニュースライブ配信サービスの行方」
 (ウェブ上では、8月に文研ホームページで全文を公開します。)

メディアの動き 2016年07月15日 (金)

#35 『EU国民投票』 BBCの報道は公平すぎ?

メディア研究部(海外メディア研究) 田中孝宜

イギリスの公共放送BBCは「EU国民投票」をどう報道したのでしょうか。
現地調査のため、ロンドンに行ってきました。

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この写真は、6月21日にロンドンのウェンブリー・アリーナで撮ったものです。
ウェンブリー・アリーナは、コンサート会場として知られていますが、
この日集まった6,000人の観客のお目当ては・・・
「イギリスは、EUに残るべきか出るべきか?」
BBCが開いた大ディベート大会です。

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幸運にも私はVIP席で見せていただきました。

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前ロンドン市長のボリス・ジョンソン氏ら離脱派3人と、
現ロンドン市長のサディク・カーン氏ら残留派3人が激しく討論。
観客席から時に拍手、時にブーイングを受けながら、まさに言葉による格闘技を繰り広げます。
「6月23日をイギリスの独立記念日にしよう!」 
ボリス・ジョンソン氏が叫ぶと、離脱派の観客から割れんばかりの歓声が上がりました。

イギリスでは、新聞は自らの立場を明確にします。
投票日当日の朝刊では「Leave(離脱)に投票しよう」「Remain(離脱)に投票しよう」と、
大きな文字で呼びかける新聞もありました。

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しかし、放送は別です。
議論が分かれる問題に関して、放送には『不偏不党』が義務づけられています。

「デモクラシー(民主主義)」という言葉を現地で何度も聞きました。
議論をして、最後は投票で決める。それが民主主義の基本だということです。
そして議論の場を作り、判断するための材料を提供する、
それが公共放送の役割だと考えられています。

ご存じの通り、イギリス国民は「EUからの離脱」を選択しました。
しかし、結果が出た後も、本当に正しい選択だったのか、納得できないという人も多くいます。
議論が尽くされていなかった、という意見も聞かれます。
離脱に投票したことを後悔している人もいるといいます。

そうした人たちの中にはBBCの報道に不満を持つ人がいます。
「BBCが公平すぎたために、かえって論点が見えなくなり、議論が深まらなかった」というのです。
デイビッド・パットナム上院議員(写真右端)もそんな一人です。

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パットナム議員は、『炎のランナー』や『キリングフィールド』などを制作した映画プロデューサー。
チャンネル4の副会長を務めたこともあり、メディア政策に影響力を持っています。
そのパットナム氏が、BBCの国民投票報道について、
「不偏不党の厳格なルールに手足を縛られ、“便秘状態”だった」と述べて、
BBCは報道姿勢を見直す必要があるという考えを示しています。

こうした批判についてBBCでは、
「意見をいうのは公共放送の使命ではない。不偏不党、公平な報道は守られるべきだ」
と反論しています。

国民投票後の週末、ロンドンでEU離脱に反対する大規模なデモ行進が行われました。
ピカデリー通りからトラファルガー広場まで大勢の人が埋め尽くし、
「イギリスはEUに残るべきだ」と訴える姿には、胸が熱くなりました。

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しかし、投票結果は簡単に覆せるものではありません。
デモ行進を見ながら、デモクラシーの素晴らしさと同時に怖さも感じました。
民主主義は数だ!といっても、
国の形を変え、国の将来を大きく左右する問題に関しては、
時間をかけて議論しなければ取り返しのつかない後悔が残るかもしれません。

BBCは世界の公共放送のモデルとして理想化して語られがちですが、
実際には政治家からの圧力を受けることもしばしばです。
そうした中で、BBCでは、国民投票報道にあたって、
6,000人の全報道職員を対象に研修を行ったり、
報道ガイドラインを作成し責任者が全国行脚したりして、
不偏不党、公平な報道を徹底するよう努めました。

詳細は・・・現在、原稿を執筆中、
『放送研究と調査』10月号に掲載予定です。

調査あれこれ 2016年07月08日 (金)

#34 日本人は、やはりカレーなのだ!

世論調査部(社会調査)村田ひろ子

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カレーと魚が2大好物
好きな料理は何ですか?と聞かれたら、どんな料理を思い浮かべますか?
文研が今春行った食生活に関する世論調査で、好きな料理の名前を、3つまで自由に挙げてもらったところ、最も多かったのは「カレーライス」の20%でした。このほか上位にあがったのは、「焼き魚」16%、「焼き肉・鉄板焼き」15%などです。魚離れが言われるようになって久しいですが、焼き魚や煮魚といった魚料理を挙げた人も多くいます。

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加齢(カレー)”とともに減る“カレー”派
それでは、性別や年齢によって好きな料理に違いはあるのでしょうか?全体の結果で上位に挙がったカレーライスと魚料理について詳しくみていきます。
魚料理については、性別で大きな差はありません。その一方でカレーライスが好きという人は、男性で25%となっていて女性の16%を上回っています。
男女年層別にみると、男性では50代以下でカレーライスを挙げた人が3割前後に上る一方で、60代以上の高齢層では魚料理を好む人が多く2割から3割台となっています。女性についても、若い人はカレーライスを好み、年齢が上がるほど魚料理が好きな人が多くなる傾向があります。男女ともに50代から60代にかけて、カレー派と魚派の割合が逆転し、“加齢カレー”とともに、“カレー”派が少なくなる傾向があります。

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少し前に、カレーに含まれるターメリックというスパイスが、ストレス解消に役に立つとインターネットで話題になっていました。働き盛りの若年・中年層を中心にカレーが人気を集めているのは、ひょっとしてカレーがストレス解消に役に立つからなのかもしれません。
このブログを読んで、カレーが食べたくなってきたあなた、ストレスがたまっているのかも?!
「食生活に関する世論調査」結果の詳細は、毎月発行している「放送研究と調査」に掲載予定です。どうぞお楽しみに。

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調査あれこれ 2016年07月01日 (金)

#33 幼稚園で利用されるメディアとは?

メディア研究部 (番組研究)小平さち子

1959年放送開始の『おかあさんといっしょ』は、3世代に親しまれてきた幼児向け番組ですが、それより前に、幼児向けテレビ番組の定時放送が始まっていたことをご存じでしょうか。1956年に、幼稚園・保育所向けの番組として、
『人形劇』『みんないっしょに』の2番組が登場していました。
1953年のテレビ放送開始から間もない時点から、家庭での視聴だけでなく、幼稚園や保育所という保育の場で、保育者の指導の下に、幼児たちが集団で視聴することを想定して、放送が行われてきたことは、世界的にも珍しいといえます。

このような背景もあって、文研では、テレビやパソコンなどの機器の普及や、NHKのテレビ・ラジオ教育番組をはじめとするさまざまなメディアの利用の様子を調べる全国調査を、1950年代から行ってきました。
最近では、2015年10月から12月にかけて「幼稚園におけるメディア利用と意識に関する調査」を実施しました。

早い段階で普及していたテレビや録画機器に加えて、パソコンやインターネット接続環境も一定程度整ってきたことや、デジタルカメラ・デジタルビデオカメラも9割を超える幼稚園が保有していることが、明らかになりました。 
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実際に保育の場で使われているメディアとしては、「絵本・物語本」「紙芝居」「図鑑」などの印刷メディアと、「CD教材」といった音声メディアの占める位置づけが大きいのが特徴です。特に「絵本・物語本」は、全国の幼稚園の9割が、毎日利用していることが、調査の結果に表れています。


NHKの幼児向け番組は、放送番組としての利用だけでなく、ビデオ・DVD教材CD教材といった形でも利用されています。さらに、番組に関連した楽譜や絵本、テキスト等の印刷物を利用している幼稚園もあります。全国の幼稚園の3分の2が、何らかの形でNHKの教育サービスを利用しています。

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現在、小学校以上の教育では、ICTの積極的な活用が国の施策として推進されていますが、その枠組みに含まれていない幼稚園では、パソコンやタブレット端末を保育の場に取り入れ、幼児に触れさせることについては、全般に慎重な傾向がみられます。しかしながら、タブレット端末等の新しいメディアを活用した成果を発表する幼稚園も登場し始めていますし、20代・30代の若い保育者たちの間では、パソコンやタブレット端末を、今後利用してみたいという関心もみられます。


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今回の調査では、全国の幼稚園の各種メディア利用実態のほか、幼稚園のメディア利用観や、若手保育者のメディア利用経験と利用関心についても、細かく調べています。調査の結果は、NHK幼児向けテレビ番組の年表とともに、『放送研究と調査』7月号に掲載されています。
(ウェブ上では、8月に文研ホームページで全文を公開します。)

※また、幼稚園・保育所から高等学校までを対象に、1950年から60年余、定期的に文研が実施してきた「NHK全国学校放送利用状況調査」の結果を総合的に分析した論文も、『NHK放送文化研究所年報2014』に発表しており、ホームページで全文公開されています。ご関心がおありでしたら、併せてお目通しください。
 上記の論文はこちらから。