文研ブログ

メディアの動き 2017年10月13日 (金)

#98 「トランプワールド」VR配信は放送に何をもたらすのか?

メディア研究部(メディア動向) 山口 勝

VR(バーチャルリアリティー、仮想現実)
は放送に何をもたらすのでしょうか?
2017年6月、NHKは、ドキュメンタリー番組のBS1スペシャル『知られざるトランプワールド~360°カメラが探訪する新大統領を生んだ世界~』で、世界初となる放送と同期させた360°映像のVR配信を行いました。視聴者は、放送を見ながらスマホを上下左右に動かすことで、テレビ画面の外側につながる世界を360°体験。TVの新しい見方を提案したのです。

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トランプタワーがあるマンハッタンの街並みやトランプ氏が学んだ軍隊式寄宿舎の内部の360°映像は、視聴者から「新たな映像体験!」と反響を呼びました。東京オリンピックの1000日前となる10月29日(日)のBS1スペシャルでは、360°VR同期配信第2弾として「カヌー競技」をテーマにした番組を放送する予定です。
NHKでは「ニュースや番組を360度で『体感』する」をコンセプトにVRジャーナリズムに取り組み、NHK VRをネット上で運用しています。
VRジャーナリズムでは、「どこにカメラを据えるのか」という取材者のスタンスの重要性が、改めて問われます。

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7月にアップされた「九州北部豪雨災害360°現場報告」(写真上)では、短時間に13万を超えるアクセスを記録しました。見る方向を変えるたびに、大量の土砂や木材が家屋を押しつぶす様子が次々と視野に入ってきて、ふだんのニュース映像以上に、災害現場の臨場感が伝わりました。災害報道におけるVRの新たな可能性を感じさせます。

一方、世界の注目が集まるオリンピックでも、VR元年と呼ばれた2016年のリオデジャネイロ大会からオリンピック放送機構(OBS)が、360°VR配信を開始。次世代通信規格5Gが試験導入される2018年 平昌、サービスが開始される2020年 東京のオリンピックでは、世界的IT企業や通信キャリアがオリンピックスポンサーとなり、多視点や自由視点などより高度なVR配信に乗り出そうとしています。

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競技場を取り囲むように複数のカメラを配置して、多視点、自由視点、360°リプレイ映像など多彩なVRコンテンツを作るTrueVR(インテル提供)

通信ベースのVR配信は、これまで様々な映像文化を開発してきた放送と通信の関係を逆転させる可能性もあります。VR配信は、新しい公共放送サービス、公共メディアサービスとなるのか。5G時代の公共放送サービスはどうあるべきか。IT、通信業界と世界の公共放送の最新動向から読み解き、『放送研究と調査』10月号に下記タイトルで報告しました。
「公共放送による360°映像のVR配信の意義~2020年とその先に向けて~」

ぜひご一読ください。