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調査あれこれ 2024年05月08日 (水)

中高生の"イライラ"や"不安"、背景にあるものは?【研究員の視点】#539

世論調査部(社会調査村田ひろ子

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 5月になると、大型連休明けの「五月病」が心配な方もいらっしゃるのではないでしょうか。とりわけ多感な時期の子どもたちは、新学期初めの緊張感が少しほぐれつつも、「なんとなく不安」「学校に行くのが嫌だな」と感じることもあるかもしれません。
 子どもたちは、日ごろ、どんな心理状態にあるのでしょうか?昔と最近の子どもでは、違いがあるのでしょうか?NHK放送文化研究所が、中高生の年代を対象に1982年から定期的に実施してきた「中学生・高校生の生活と意識調査」の結果からみていきましょう。
 調査では、中高生の心理的な状態を探るために、「思い切り暴れ回りたい」「何でもないのにイライラする」「すぐ不安になる」といったことについて、どの程度感じるかを聞いています。このうち、「思い切り暴れ回りたい」と感じることが『ある(よく+ときどき+たまに)』中高生は、1982年の調査では約8割に達していました。校内暴力や子どもの家庭内暴力が社会問題となっていた時代で、多くの中高生が「暴れ回りたい」と感じていたようです。この回答は、その後減少傾向をたどり、2012年には約3割にとどまっています。ただ、直近の2022年調査では再び増加し※1、半数近くにまでなっています。

 

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そのほかにも、「何でもないのにイライラする」や「すぐ不安になる」という中高生も、2022年調査では増加傾向がみられました。イライラ、不安を抱えながら過ごしている中高生が、増加に転じているようです。
 背景の一つとして考えられるのは、スマホ利用の浸透です。いまや多くの中高生がスマホを使ってSNSを駆使していますが、スマホに没頭しすぎて、片時もスマホを手放せなくなる「スマホ依存症」も社会問題となっています。2022年調査で「スマートフォンが手元にないと、不安になる」と回答したのは、中学生が24%、高校生が43%でした。スマホがないと不安になることが、スマホ依存に直結するわけではありませんが、データを詳しくみると、子どもたちの心の状態と何らかの関係がある可能性がうかがえます。「スマホが手元にないと、不安になる」と答えた人は、「不安にはならない」と答えた人に比べて、「思い切り暴れ回りたい」「何でもないのにイライラする」「すぐ不安になる」割合がいずれも高くなっています。

 

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 また、2020年以降のコロナ禍の影響も考えられます。新型コロナウイルスの感染拡大によるストレスの程度別※2にみると、コロナによるストレスが多い中高生のほうが、「思い切り暴れ回りたい」「何でもないのにイライラする」「すぐ不安になる」と答えた人の割合が高くなっています。

 

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 調査が実施された時期は、2年余り続いたコロナウイルス感染症によるさまざまな制限が大幅に緩和されたものの、まだ残っていた時期でした。
 直近の2022年調査はそれまでとは調査方法が異なるため、その違いによる影響の可能性も排除できませんが、スマホ利用やコロナによるストレスが、子どもたちの不安定な心理に何らかの影響を及ぼしているのかもしれません。

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「中学生・高校生の生活と意識調査」
https://www.nhk.or.jp/bunken/yoron-isiki/tyuko/


※1直近の2022年調査は、それまでとは調査方法が異なるため、過去の結果と単純に比較することはできず、意味合いについては質問ごとに慎重に検討する必要があります(2012年までは個人面接法、2022年は郵送法で実施)。
※2新型コロナウイルスの感染拡大によるさまざまなストレスについて複数回答で聞いた結果、選んだ項目数が4 個以上の人を「コロナによるストレス多」、1個以下の人を「ストレス少」と定義して、不安定な心理を尋ねる質問とのクロス集計を行いました。