文研ブログ

2024年5月16日

調査あれこれ 2024年05月16日 (木)

若年層のSNS利用① 使っているサービスは ?【研究員の視点】#541

世論調査部 (視聴者調査)芳賀紫苑

あ~、やっと寝てくれた!
4歳・1歳の子育て中の筆者にとって、寝かしつけを終えたあと、布団の上で一息つく時間は、貴重な"自分の時間"である。
やり残した家事が頭をかすめつつ、もぞもぞとスマホに手を伸ばし、まずはXを開く。トレンド欄にて世間で盛り上がっているハッシュタグを一通りチェックしたら、お次はInstagram。おしゃれなレシピ動画や華やかなファッション投稿をスクロールして現実逃避しているうちに、あっという間に30分近くたってしまった。結局、起き上がる気力はわかず、そのまま、スマホとともに眠りにつく―。

30代半ばの筆者がSNSを使う際の典型的なシーンです。主にメッセージのやりとりのために利用しているLINEを除くと、使っているSNSはX・Instagramの2つです。20代の頃によく見ていたFacebookも、はやっていると聞いてインストールしたTikTokも今ではほとんど使わなくなってしまいました。

世の中の人たちは、どのSNSを利用しているのでしょうか。文研が2022年に行った世論調査の結果で確認してみましょう。図1は主要SNSの利用率を年層別で示したものです。Twitter(調査当時:現X)とInstagramは、16~29歳でともに66%と半数を大きく超え、他の年代よりも利用率が高くなっています。TikTokも同様に16~29歳での利用率が他の年層よりも高く、約3割となっています。ちなみにLINEは、16~29歳で90%、60代でも58%と、どの年代でも他のサービスよりずばぬけて高く幅広い年代で利用されています。LINEを除くと、主要SNSの多くは若年層によく使われているサービスだということがわかります。また、サンプル数が少ないため参考値となりますが、16~29歳をさらに男女別で分析すると、InstagramとTikTokは男性よりも女性、Facebookは女性よりも男性で利用率が高い結果となりました(図2)。

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若年層のSNS利用 その特徴は?
ここからは、16~29歳に対象を絞って実施した別の調査(WEBモニターアンケート*)の結果から、若年層のSNS利用にどのような特徴があるのかを詳しくみていきます。16~29歳の若年層は、どのような組み合わせでSNSを利用しているのでしょうか。
*調査概要 2023年2月実施・全国16~29歳男女(調査会社のインターネットモニター)1,280人

図3はLINEを除いたSNSの利用の組み合わせを示しています。注目してほしいのはTwitter、Instagram、TikTok、Facebookのいずれか1つだけを利用している人の割合です。16~19歳では男性41%、女性24%、20~29歳では男性42%、女性27%と、どちらの年層も男女で10ポイント以上、離れています。男性でも複数のSNSを利用する人は多いですが、ひとつのSNSだけを利用する人は女性よりも男性のほうが多い傾向にあるようです。

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SNSの長時間利用 その背景は?
では、利用する時間は年齢や性別によって違いはあるのでしょうか?休日を除くふだんの日(平日)にどのくらいの時間、SNSを利用するかたずねました(図4)。「3時間くらい」よりも長い時間利用していると回答した人の割合をみていきます。まず16~19歳では、男性は27%、女性は41%と14ポイント上回っています。20代では、16~19歳に比べ男女ともに長時間利用の割合は下がっていますが、女性のほうが男性よりも、長時間利用している人の割合が高い傾向は変わりません。

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では、SNSが「3時間くらい」以上と回答した人たち(以下、"3時間くらい以上")と、「3時間くらい」未満と回答した人たち(以下、"3時間くらい未満")ではどういった違いがあるのでしょうか。参考までに、SNSに対する意識をご紹介します。(図5)。

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「SNSの内容を話題にすることが多い」「SNSで話題になっていることは知っておきたい」という項目に「あてはまる・まああてはまる」と回答した人は、"3時間くらい未満"でも約6割と多数派ですが、"3時間くらい以上"では約8割にのぼります。SNSが、友人などまわりの人との話題のきっかけになっていることを示すもので、SNSを実生活のコミュニケーションツールとして使っている人が多い傾向にあることがうかがえます。同時に「SNSをチェックしないと不安だ」という項目に回答した人も"3時間くらい以上"では約7割と、"3時間くらい未満"の5割を上回っています。「SNSをチェックしないと不安だ」という気持ちから長時間利用につながっているのではないかということも推測されます。

今回のブログでは、若年層に注目して、SNSの組み合わせや利用時間をご紹介しました。さて、冒頭に記したように30代半ばの筆者は後半で紹介したWEBモニターアンケートの対象年齢にはあてはまりませんが、SNSで話題になっていることは知っておきたいと思いますし、SNSの内容を家族や友人と話題にすることも多くあります。夜な夜なスマホでSNSを見てしまうのは、チェックしないと不安だという思いが少なからずあるからです。複数のSNSを利用し、その楽しさにハマっていくほどに、抜け出せなくなる傾向は、若年層に限らないのかもしれません。次回のブログでは、最もよく利用するSNSに注目して、若年層の特徴を分析してみます。

『放送研究と調査』では、人々のメディア利用について、さまざまな調査結果を報告しています。 また、今月開催する文研フォーラムでも、24日(金)プログラムCの後のミニコーナーにてこの内容のエッセンスをご紹介しますので、ぜひご覧ください。

文研フォーラムの視聴申し込みは5月17日(金)までとなっています。こちらのページからお申し込みください。
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【芳賀 紫苑】
2010年入局。山形放送局・制作局でディレクターとして番組制作を担当。2021年より放送文化研究所で視聴者調査の企画・分析に従事。

文研フォーラム 2024年05月16日 (木)

能登半島地震 災害時におけるメディアの役割~5月23日の「文研フォーラム」で考えます~#540

メディア研究部(メディア情勢)村上圭子

 能登半島地震から4か月半が過ぎました。私はこれまで、石川県七尾市、穴水町、珠洲市に調査に訪れていますが、5月14日に輪島市を訪れました。東京から「のと里山空港」までは飛行機、そこから車に乗って30分ほどで輪島市です。市内に向かう道路沿いには、地震の影響による土砂崩れで、地肌がむき出しになっているところが何か所もありました。

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 最初に訪問したのは輪島市役所です。3年前に建てられたばかりだったということで、建物に大きな被害はありませんでした。しかし、市役所の前を流れる河原田川(かわらだがわ)と鳳至川(ふげしがわ)という2本の川に沿った道を歩いてみると、15~20センチ近く陥没している所が続いていて、震度7の被害の大きさを改めて実感させられました。

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 市役所では、災害情報伝達の担当者に発災当時からの状況や課題について伺いました。市は、災害情報の伝達手段としてウェブサイトやLINEに力点をおいていましたが、デジタルサービスになじみの薄い高齢者への情報伝達については大きな課題を感じているそうで、この課題は、住民が広域避難しているいまも続いているとのことでした。それについては、後日、論考としてまとめて報告したいと思います。

 市役所から徒歩10分くらいのところに、元日夜の火災で大きな被害を受けた輪島朝市通りがありました。私は地震前、この朝市にはプライベートで何度か訪ねたことがあったのですが、海産物や輪島塗を求めて観光客でにぎわっていた当時の記憶をたどることができないほど変わり果てた光景が広がっていました。この4か月半、テレビでは繰り返し被害の様子を見ていたつもりでしたが、その映像から想像していたものをはるかに超える厳しさでした。
 焼け残った鉄筋コンクリートの店舗の2階を見ると、店舗の方と思われる子どもを連れた家族が、変わり果てた通りの様子をじっと見つめていました。ここには1時間ほど滞在しましたが、ほとんど人とすれ違うことはありませんでした。

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 午後からは、市役所から車で山を越え、約1時間かけて門前町を訪ねました。門前町は2006年に輪島市と合併し、合併前に町役場だったという門前総合支所の目の前には、2年前に開創700年を迎えたという曹洞宗大本山總持寺(そうじじ)祖院がありました。こちらも大きな被害を受け、現在は参拝できない状況になっていました。

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 支所では、市が運営するケーブルテレビの現状について話を伺いました。地震前、輪島市では約半数の世帯がケーブルテレビ経由で地上放送を視聴していましたが、地震によって、放送信号を送る幹線や、契約者宅までの引き込み線などが大きな被害を受けました。契約していた約6,000世帯の家屋の状況はどうなっているのか、職員が手分けして1件1件様子を見て回っているといい、私もその活動に同行させてもらいました。

240516_noto6_.png輪島市ケーブルテレビ(輪島市企画振興部放送課)
放送課長 新雅基さん

 現在、ケーブルテレビ網の仮復旧が進められ、自宅の被害が少なかった契約世帯では地上放送が視聴できるようになっているといいます。ケーブルテレビ独自のコミュニティチャンネルも、4月22日に本格的に放送を再開したそうで、いまは地震前に制作して放送できていなかった番組や、以前放送した番組を流しているそうです。しかし、これらの番組に記録されているのは、地震前の町の姿です。放送することにためらいはなかったかと尋ねたところ、地震後のいまだからこそ放送したい、との答えが返ってきました。事務所に戻り、いま放送しているという去年7月の門前まつりの映像を見せていただきました。みこしを担ぎ、總持寺祖院に向かって街道を練り歩く町の人たちやそれを見守る人たちの笑顔が記録された映像を見て、ケーブルテレビ担当職員の思いが少し理解できた気がしました。

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 輪島市では、5月13日現在、市内45の避難所に約1,000人、そして約2,000人が市外に広域避難しているということです。応急復旧仮設住宅は約800戸完成し、現在約2,000戸が建設中とのこと。少しずつ日用品を購入できたり飲食できたりする店も再開し始めているとのことです。引き続き、被災地の今後や、被災した人たちの生活再建に向けた状況、そこにおけるメディアの役割について考えるため、能登半島に足を運びたいと思っています。

 これまでの被災地取材を踏まえ、文研では、5月23日(木)午後3時から、文研フォーラム2024「能登半島地震から5か月 ~地域メディアによる課題共有と今後を考える~」というオンラインシンポジウムを行います。地震発生直後からずっと被災地に向き合い続けてきた、石川県の新聞、民放、NHKの皆さんに登壇をお願いしています。

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 3人からは、出勤している職員が少なかった元日の発災、道路寸断によって困難を極めた取材、高齢の被災者も多い中での災害情報の伝達、そこでどんな課題を感じたのかを報告していただきます。その上で、メディアとして、今後、災害報道・災害情報伝達に対してどのような備えが必要なのか、参加者と共に考えたいと思っています。
 すでにたくさんの方から事前の申し込みをいただいています。申し込みの際に、メディアの災害対応についての意見や質問をいただいているのですが、非常に熱心に書き込んでくださっています。実際に今回の地震の対応にあたられたメディア関係者の生々しい体験、メディアや災害情報・防災関係の研究者の問題提起、通信会社やIT企業で災害情報伝達を担当されている方々からの質問も寄せられています。その全てを読み込みましたが、どんな点を課題と感じていて、今後に向けてどんな議論をすべきだと考えているのか、シンポジウムのモデレーターを務める私にとって大変参考になりました。いただいた意見や質問を踏まえながら、現在、シンポジウムの構成を検討中です。

 また、情報の送り手の視点だけの議論にならないよう、文研では連休中に、被災した能登半島の人たちを対象にしたWEBアンケートを実施しました。シンポジウムでは、速報的ではありますが、その結果も一部紹介する予定です。

 シンポジウムのお申し込みは、5月17日までとなります。多くの方々のご参加をお待ちしています。

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2024年5月23日(木)、24日(金)にWEB開催いたします。
お申し込みいただいた方には、3つのプログラムの視聴用URLを、配信日までにメールでお送りします。
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