文研ブログ

調査あれこれ 2024年04月30日 (火)

テレビはジャニー喜多川氏の死をどのように伝えたか② ―死去翌日、夜のニュース番組の分析から―【研究員の視点】#538

メディア研究部 東山浩太/宮下牧恵

【連載のこれまで】
 このブログ連載は、テレビ報道が生前のジャニー喜多川氏(以下、ジャニー氏)をどのように表象してきたかを分析・検討するもので、今回はその2回目にあたる。

 前回確認したことをおおまかに示す(詳しくは連載第1回を参照のこと)。
 旧ジャニーズ事務所(以下、ジャニーズ事務所)の創業者、ジャニー氏は2019年7月9日に死去した。死去した時点で、彼が同事務所に所属していた少年たちに性加害を行っていた事実は司法で認定されていた(2004年2月の最高裁)。ただ、彼が大多数の少年たちに対し、長年にわたって性加害を繰り返していたことが広く社会に認知されるようになったのは2023年からだったと言える。
 連載では、ジャニー氏の生前のふるまいを、テレビ報道がどのように伝えたかをみていく。その作業を通じて、ニュースには、ジャニー氏が持つ権力性や彼が培った芸能文化などに対する、送り手のどのような意識が反映されていたのか。その可能性を示すことが目的である。
 分析・検討の対象はジャニー氏が死去した翌日の2019年7月10日、夜21時以降の「キャスターニュース」時間帯の各局のニュース番組に絞った。その中の追悼にあたる特集を取り上げることとした。

 今回は、同日夜の各局のニュース番組におけるジャニー氏を追悼した特集の概要を示す。以下の一覧表を参照されたい。
 これは、コーダー(分析者)が実際に番組の録画を視聴したうえで、どのような属性の人物が・何人・どのような内容を語ったかなど、カテゴリーごとにコーディングし(分類し)、記述したものだ。NHK放送文化研究所の東山浩太と宮下牧恵の2人がコーディングし、誤差がないよう検討を繰り返した。
 なお連載の1回目と同様に、テレビ局と番組名は一部略称としている。

◎ジャニー氏追悼をめぐる特集内容の概要~一覧表

20190710_yorunews_1.png

 番組名は、上からチャンネル順に記載した。各番組の放送時間や、キャスター、またタレントの所属グループ名は全て2019年7月10日時のものである。テレ東のWBSはこの日、ジャニー氏関連のニュースを放送しなかった。
 この表について、筆者たちがなぜこうしたカテゴリーを設けたのか、これによって何がわかると考えたのかなどを補足する。

①キャスター
 キャスターについては、ジャニー氏死去に関するニュースの原稿を読み上げたり、そのニュースについて発言したりした者の名前のみを記載した(コメンテーターは除外)。この表をみると、テレビ局に所属、あるいは所属していないアナウンサーと報道記者出身者が起用されている。
 キャスターとは、ニュース番組の「顔」であり、そのコメントは、番組を代表してそのニュースに示される価値観や評価として視聴者に受けとめられがちである。その一方で、キャスターコメントは、番組の編集責任者と協議して練り上げられていたり、スタッフによって書かれていたりするケースもあるため、その発言に伴う責任は複合的に判断されるはずのものである。
 しかしながら、やはりジャニー氏の生前のふるまいについて、番組の抱く価値観や評価がわかりやすく表明されているポイントの一つではあると思われる。そこで次回以降、番組ごとにキャスターのコメントの意味するところを詳しく、分析・検討する。

②放送の順番
 ニュース項目の放送の順番については、その日のニュース番組の中で、ニュースバリューが大きいと判断されたものが優先される傾向にある。あくまで、判断基準は相対的なものであり、事件や事故、災害などのブレイキングニュース(速報)が優先されるケースもある。
 いずれにせよ放送の順番は、各番組でジャニー氏の死去のニュースバリューがどれほどのものと判断されたのかを測る目安である。送り手の明確な意思を読みとることができる。 
 以下の表では、テレ東を除いて分析対象とする5局・5番組のニュース項目の放送順を示した。
(ニュース項目のタイトルは、番組がテロップ(文字情報)で提示したままのものもあるが、わかりにくい場合は、筆者たちが内容から判断したタイトルを記述しているものもある)

nhk_nw9_housou_2.pngnewszero_housou_3.pnghousute_housou_4.pngtbs_nw23_housou_5.pngfuji_nwa_housou_6.png

 民放では時間尺が1分にも満たない、いわゆるフラッシュニュースを集めたコーナーを設けているが、そうしたニュースも1項目として数えた。また、和歌山市で警察官に職務質問をされていた男が車で逃走、警察官がけがをしたというニュースは、番組終了の22時近くになってNHKが放送したブレイキングニュースである。
 それらを踏まえたうえで、放送順の表をみると、全ての番組で上位3位以内にジャニー氏死去のニュースが入っていた。この日の夜のニュース番組ではそのバリューは大きいと判断されたと言えるだろう。
 唯一、テレ朝の報ステがジャニー氏のニュースをトップ項目に据えた。判断の詳しいポイントはわからないが、大勢の視聴者に関わりのあるという意味で、公共性のある文化的なニュースだと送り手が判断したことは間違いなさそうだ。

③特集時間占拠率
 特集時間の占拠率とは、「番組全体の放送時間尺に占める、ジャニー氏を追悼した特集の放送時間尺の割合」のことである。放送順のみならず、放送の量の観点からニュースバリューを測る目安であり、ここからも送り手の明確な意思を読みとれる。
 一覧表で全番組を比較すると、日テレのnews zeroの割合が突出して大きいことがわかる。全体の30%あまり、時間にして18分あまりである。NHK・NW9とテレ朝・報ステ、TBS・news23は10%台であるが、フジ・ニュースαは6%と最も割合が小さい。
 前回述べたが、この前日、死去当日のジャニー氏の訃報は、23時30分にブレイキングニュースとして入ってきた。ちょうど放送時間の最中だったnews zeroは、23時30分以降、気象情報を除いてジャニー氏に関してのみ伝え続けた。時間尺は26分あまりだった。死去当日と翌日をあわせると45分あまり。死去当日と翌日、夜のニュース番組で、最も多くの時間をジャニー氏に割いたのは同番組だったことになる。

④言及内容
 言及内容とは、「特集の中で、ナレーションのほか、キャスターやタレントなど出演者の発話を通じて語られたことの内容」である。
 前提として一覧表にも記したが、▼1999年から2000年にかけて、週刊文春がジャニー氏による少年たちへの性加害疑惑を告発する報道を展開したこと、▼そして、ジャニー氏側と雑誌の発行元である文藝春秋との間で争われた民事裁判において、2004年2月、最高裁で東京高裁の判決が確定し、ジャニー氏による性加害の事実が司法で認定されたことについて言及した番組は全くなかった。
 2019年7月のジャニー氏の追悼に際して、この点が一切触れられていなかったことは、報道の規範からすると不作為だったとみなされるであろう。
 それを踏まえたうえで、特集の中で語られたことについては、(1)追悼、(2)功績評価、(3)エンタメ(エンターテインメント)への思い、(4)本人(ジャニー氏)の素顔、の4つのサブカテゴリーに大別できると筆者たちは判断した。
 それぞれ、構成する要素を具体的に説明していく。

(1) 【追悼】:このカテゴリーを構成する要素は、ジャニー氏の死去に対して、「感謝の念、または、悲しみや惜しむ気持ちの表明など」とした。
 【追悼】は、全番組が扱った。ジャニーズ事務所の大勢の所属タレントたちが寄せた言葉こそ、まさに追悼にほかならない。しかし、それらからは悲しいといった後ろ向きのニュアンスは抑制されていた。
 例えば、NW9で、近藤真彦氏が寄せた言葉はこのように引用された。
(タレントたちのコメントの表記に関しては、番組でテロップ表示されている場合はそれに従った)

"あのころ13歳のあんな僕に声をかけてくれてありがとうございました" " 今の僕があるのはジャニーさんのおかげです"

また、news zeroで、嵐の松本潤氏が寄せた言葉はこのように引用された。

23年前一本の電話で僕の人生を変えたのはジャニーさんです それから数々の夢を見せてもらいました もっとジャニーさんの作るショーが観たかった もっと話がしたかったです
ジャニーさん ぼくをエンターテインメントの世界へ導いてくれてありがとう そして嵐を作ってくれてありがとう


 事務所所属のタレントのコメントとして引用されるものに頻出するのは、「ありがとう」「感謝」という言葉である。それは、例示したように、何者でもなかったはずの自分という存在を見いだしてくれたことにささげられるパターンが多い(松本氏のコメントには死を惜しむニュアンスも感じられる)。
 ニュースαで、Kinki Kidsの堂本光一氏のコメントはこのように引用された。

ジャニーさんが注いできた舞台への愛情 そして僕自身にくださった愛情は計り知れないほど大きく ずっと大事にぼくの中で生き続けます Show must go on この言葉を胸にこれからも

 これは、ジャニー氏から受け取ったショーにかける精神を大切にしてこれからも頑張る、という将来に向けての言葉だ。
 「ありがとう」と「これから」。所属タレントの寄せた言葉は、主に前向きなイメージを喚起させるものが紹介されていた。
 
 では、悲しみの声はどうか。タレントではなく、街頭で収録された一般の人のインタビューから聞くことができた。news23から引用すると、「すごく心配はしてましたけれども、けさのニュースで一報を聞いたときにはものすごくショックでした」との声が取り上げられている。
 【追悼】カテゴリーは、以上のような要素から構成されていると判断した。

(2)【功績評価】:このカテゴリーを構成する要素は、「ジャニー氏の日本の芸能界での存在感、大衆芸能史で果たした役割や、優れた人材発掘・育成への称賛など」とした。
 まず、【功績評価】は一覧表のごとく、全番組で取り上げられていた。ジャニー氏をSMAPや嵐など、大人気アイドルグループを生んだ存在として語っていた。
 そして、報ステとnews23は、ジャニー氏が日本の大衆芸能史で果たした役割の一つに言及していた。1960年代には一般的でなかった「歌って踊る男性アイドル」というジャンルを創り出した点である。
 さらに、NW9、報ステ、news23は、日本の芸能界の大きな存在であるジャニー氏が、海外でも認められる偉業を成し遂げたことを伝えた。2011年から翌年にかけて、「最も多くのナンバー1シングル」をプロデュースした人物などとしてギネス世界記録に認定されたことである。ちなみに前日の死去当日(7月9日)の夜のニュース番組では、news zeroとニュースαともにギネス世界記録に触れていた。2日連続でみれば全番組が触れているということだ。
 続いて、「優れた人材発掘・育成」という要素だが、これについては筆者たちが確認したところ、言及したのはNW9とnews zeroの2番組で、ほかの番組は言及していないという判断で一致した。
 優れた人材というのはこの場合、人気を博して活躍するタレントを指す。2番組でジャニー氏の人材発掘に関する語りはおおよそ共通していた。それは、ジャニー氏はオーディションに臨む少年たちをあまり観察していないようにみえて、実はしっかり観察しており、最終的には「本能」「インスピレーション」で合否を決めるというものである。2番組ともジャニー氏を長く取材しているという外部のジャーナリストに語らせていた。詳しい分析は次回以降に譲る。

(3)【エンタメへの思い】:このカテゴリーを構成する要素は、「ジャニー氏のエンターテインメントにかける情熱や、その背景に対する言及など」とした。これは、ニュースαを除いて4番組が取り上げていた。
 各番組とも、ジャニー氏のエンタメにかける情熱が最も注がれたのは、自ら構成演出した舞台でのショーだ、という描き方で一致していた。
 例えばnews zeroは、舞台上でプロジェクションマッピングとワイヤーアクションを融合し、高層ビルを飛び回っているかのように見える演出を行っていたことを紹介した。ジャニー氏が、ショーの質を高めるために最新技術まで気を配っていたという点を伝えていた。
 また、【エンタメへの思い】という要素の中で、彼がエンタメを何のために創っていたかという背景について、そこまで触れているところとそうでないところがあった。前者はnews zero、報ステ、news23の3番組で、いずれも「自らの戦争体験をもとにした平和への思いを主に舞台で表現した」というストーリーを採用していた。
 ジャニー氏は第2次世界大戦中、和歌山に疎開し、そこで大空襲に遭っている。3番組は、戦争の悲惨さを投影して制作されたショーを資料映像で見せながら、彼の平和を希求する思いを紹介していた。
 news23は、かつて朝日新聞に掲載されたジャニー氏のインタビュー1)からこのような言葉を引用していた。

説教がましくは言いたくない。ショーで日本にもかつて戦争があったことを知ってもらえれば。昔を生きているからこそ、平和の尊さが分かっている。

 ただ、この「自らの戦争体験をもとにした平和への思いを主に舞台で表現した」というジャニー氏に関する語りは、死去以前から主に新聞や雑誌媒体でみられていたものである2)。新しい切り口ではない。

(4)【本人の素顔】:このカテゴリーを構成する要素は、「生前、なかなか知られなかったジャニー氏の意外な側面など」とした。
 これはNW9、news zero、news23で確認できた。死去した著名人の意外な素顔を伝え、身近な存在として感じてもらうという手法は、追悼報道ではよくみられる。
 NW9では、ジャニー氏が他者を呼びかける際にいつも口にするとされていた、「YOU(ユー)」という言葉について触れている。生前、NHKのラジオ番組に出演した際3)、彼自ら「YOUと呼ぶ理由」について説明しているくだりを引用していた。

アメリカではみなYOUっていうのは主語になって言うからYOUって言っちゃうんですよ。ついね。例えば「痛い」って言いますよね。いまだにこの年になっても「アウチ」ですよね。そうなっちゃうんですよ。

 ジャニー氏は青年時代まで、アメリカで過ごすことが多かった。その名残で、(よわい)を重ねても、自然と他者にYOUと呼びかけてしまったり、日本語では「痛い」と言うところを思わず「アウチ」と言ってしまったりする‥‥‥そのような自分語りだった。

 ほかの番組でも、このようなジャニー氏にまつわる、いわば「本人は面白さを狙っていないのに受け取る側は面白い」というべきエピソードを、タレントたちに語らせるなどの形で紹介していた。

⑤追悼したタレント
 追悼したタレントとは、「ジャニー氏の死去について追悼コメントを寄せたタレントのうち、番組で紹介された者の名前」を指す。コメントはメディア一般に向けたものがほとんどだが、木村拓哉氏や山下智久氏のものはSNSで公開された。
 コメントのうち「音声あり」(青字で記載)は、タレント本人の音声をそのまま生かして放送されたものである。それ以外は本人の音声はないが、本人の映像や静止画を、テロップで表示したコメントとあわせて提示し、ナレーターがそれを読み上げる形で放送された。
 一覧表を見てわかるように追悼コメントは、音声がないものがほとんどだった。
 一方で、音声があるもののうち、報ステとnews23は、自局であるテレ朝とTBSの朝のニュース・情報番組に出演した際のタレントの映像と声を使用していた。前者は少年隊の東山紀之氏、後者はTOKIOの国分太一氏だ。
 タレントの追悼の言葉を次々と紹介することで、送り手は何を意図したのだろうか。筆者たちは、「最愛の子ども」などと称される事務所所属の人気タレントたちの追悼を大量に放送することで、「育ての親」としてのジャニー氏の偉大さを際立たせる狙いがひとつにはあったとみている。誰がどのような内容をどのように語ったのかは、今後詳しくみていく。

⑥街頭取材
 街頭取材とは、「街頭でインタビューを収録した人の数とその属性」を指す。
 性別の分類は、あくまでその人が外見でどう見えるかによってのみ判断した。news zero、報ステ、news23が街頭で取材を行っており、対象は女性ばかりだった。
 街頭インタは、特定の社会的出来事について、市井の人々の声を聞くという、報道では往年の手法である。ただ、そこに統計学的な代表性があるわけではなく、声の使われ方の恣意(しい)性はかねて指摘されるとおりである。
 筆者たちも、そうした送り手の恣意が入り込む余地に注目して「街頭取材」というカテゴリーを設けた。送り手は、主要な取材で得られた情報をさらに強調したり、あるいは欠けている部分を補足したりしてくれる街頭インタを選択して使う傾向がある(もちろん、意外な考え方を見つけだすという役割もある)。
 つまり、送り手の狙いを分析するうえで、街頭インタは有力な手がかりになってくれると言える。

 今回は、ジャニー氏が死去した翌日、各局、夜のニュース番組におけるジャニー氏を追悼した特集の概要をまとめた一覧表を示し、補足説明を加えた。今後、番組ごとに、一覧表におけるカテゴリーがどのように構成され、送り手の意識を反映している可能性があるのか、ひとつひとつの分析・検討に入っていく。


<注釈・引用資料>

1) 朝日新聞2017年1月23日夕刊「ショーに託す、平和の願い ジャニーズ事務所・ジャニー喜多川社長に聞く」

2) 上記の記事のほか
朝日新聞2015年1月21日朝刊「『フィーリングで感じて』 ジャニー喜多川さんインタビュー」
太田省一「ジャニーズの正体」(双葉社、2016年)p50~p51 など

3) NHKラジオ第一「蜷川幸雄のクロスオーバートーク」2015年1月1日放送

 

メディア研究部 東山浩太
2003年、記者として入局。2017年から文研に在籍  


メディア研究部 宮下牧恵
1999年ディレクターとして入局。2008年より文研に在籍