2021年09月02日 (木)犬が鉄柱におしっこしたあと水をかけるのはNG?

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交差点で鉄製の信号機の柱が突然倒れました。警察が調べたところ、原因は「犬の尿の可能性が高い」ことがわかったのです。いったいどういうこと?

 

「散歩中の犬がおしっこするのは仕方ない」
「おしっこしても水をかけておけばいい」

 

そんなふうに思う人も多いでのは?調べてみると意外な事実が明らかになってきました。

(津放送局 記者 周防則志)

 

犬の尿で信号機が倒壊か

 

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現場は三重県鈴鹿市。

 

三重県警察本部の科学捜査研究所などが調べたところ、倒れた信号機の柱付近の地面からは、同じ交差点の別の柱付近の地面の約42倍、信号機の柱からも、8倍近い尿素が検出されました。

 

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警察は、倒れた信号機付近が犬の散歩コースだったことから「犬の尿に含まれる塩分などが原因となって腐食が通常よりも早く進んだ可能性が高い」という調査結果をまとめました。

 

このニュースを、NHKが伝えたところ、SNS上にはさまざまな意見が寄せられました。

 

「散歩は排せつのためだから、しかたないよね」

「おしっこかけたらそのままにせず、ちゃんと水をかけないと」

「腐食しないようにコンクリートの柱にすればいいのでは」

 

ニュースでは、犬のしつけに詳しい、東京にある赤坂動物病院の柴内晶子院長の話も紹介。

 

犬が散歩中に外で排せつをしないことで、大きなストレスになったり病気になったりすることはありません。犬の健康状態を把握するために、散歩中ではなく、自宅で排せつするようしつけるのを勧めます」というコメントを掲載しました。

 

①散歩は排せつのため?

 

このニュースが公開されるやいなや、SNSでは大きな話題に。

 

「驚き!そんなこともあるんですね」

「一体、何匹、何年がかりなんだ?」

 

さまざまな声が寄せられました。

 

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そうした中でも多かったのが、次のような声です。

 

「犬の排せつをすませてから散歩?排せつのために散歩させているのに」

「散歩でおしっこ禁止は現実的ではないです」

 

さきほどの柴内院長に「散歩は排せつの目的」という声についてあらためて聞いてみると。

 

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赤坂動物病院 柴内晶子院長:

「散歩に行って、排せつをさせて帰ってくるということが1つのセットになっているという人は多いと思います。でも、排せつは必ずしも散歩の目的ではないです。外では尿の状態を確認するのが難しいので、犬の健康のことを第一に考えるのであれば、家で済ませた方がいいです」

 

「マーキングしないことがストレスになるということはありませんし、根気強くしつけをしていくことで、十分に覚えてくれます。“犬と暮らす”という点をあらためて考えて、インストラクターや獣医師などに相談してみてください」

 

そのうえで、もし外でしてしまいそうになった時は、ペットシーツを敷いて尿をさせるのがいいといいます。

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また最近では犬のおむつのような役割をする「マナーベルト」をつける犬も見かけますが、この点については…。

 

柴内院長:
「マナーベルトをつけて散歩に出かければ中に尿が入るからOKという飼い主さんもいますが、あまり私はお勧めしたくないです」

 

「マナーベルトは、あくまで健康状態などが良くなくて尿が漏れてしまう、という時に使うものであってほしいです。ずっとそれをつけていますと尿道の周りがただれるトラブルも起きているので要注意です」

 

②おしっこしたら水をかければいい?

 

続いてよく見られた声がこちら。

 

「犬の散歩には、水を入れたペットボトルを持って行き、水で洗い流してください」

 

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たしかに最近は、よく見る光景です。

 

尿をしてしまったとしても、水で流しておけば腐食も防げるという考えなのだと思いますが、この対策について、警察に聞くと…。

 

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三重県警察本部 交通規制課:
「実はだめなんですよ。鉄の腐食の要因になるのは、水と酸素、そして塩分などの環境要因なんです。鉄の柱に尿をかけたうえに、さらに水をかけるってことは、腐食を防ぐ意味では好ましくありませんね」

 

ダメなんですね…。

 

三重県の工業研究所金属研究室にも聞いてみましたが、たとえ尿を洗い流したとしても、水分がついている状態を放置することになり、鉄にとってはよくないと話していました。

 

元々は、においを消すために始まったことかもしれないですが、少なくとも腐食を防ぐという点ではNGなようです。

 

念のため、におい対策としての意味について、柴内院長に聞いてみました。

 

柴内院長:
「ペットボトルにちょっとくんできたくらいの水の量では、1回の排尿量を十分に掃除するということにはとても至らないですね。逆に道路などに広げてしまうだけになることもあるので、においを消すっていう点でもそれほど意味のあることではないと思います」

 

③コンクリート柱にすればいい?

 

「コンクリート製ならこのようなことは発生しにくいのでしょうけど」

 

SNSには対策に関しての言及も見られました。実は三重県警では、コンクリート製の柱から鉄製の柱へと建てかえを進めています。なぜなのか聞くと。

 

三重県警交通規制課:
「耐用年数が長いというのと、地震に強いのが主な理由ですね」

 

耐用年数はコンクリート製の柱が42年なのに対して、鉄製の柱は50年。耐用年数通りであれば8年ほど長く使えます。さらに、鉄製の柱の方が、耐震性が高いことも大きなメリットです。

 

三重県は、南海トラフ巨大地震などで大きな影響も予想される地域。地震が発生した時の安全を考慮して、コンクリート製の柱はこれから減らしていきたいというのです。

 

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一方で、鉄製の柱については、施工方法などの見直しを進めています。

 

まずは、柱の根元の地面。もともとアスファルトを敷いていましたが、より隙間が小さくなって水がしみにくい、コンクリートにすることにして、傾斜もつけました。さらに、柱の根元部分そのものの厚みを持たせるなどしています。

 

また、点検の精度をあげることで、腐食がひどくなる前に表面の亜鉛メッキを再塗装することなども、これから実験していくことにしています。

 

ただ、こういった対策をとっても、日々尿がかけられることで、腐食が進んでしまう可能性が高いので、警察は尿をかけるのはやめてほしいとしています。

 

誰もが気持ちよく暮らせるように

 

ニュースを受けて、犬を飼っていると思われる人のアカウントでは、「こういう話が出ると、肩身が狭くなる」という声もみられました。

 

信号機の柱が倒れるのは、その道を利用する人たちにとっては、非常に危険なことですが、犬を飼う人と、飼っていない人が今回の件で対立してしまうことは、私たちにとっても本意ではありません。

 

取材を進める中で、ふだんから公共の場での犬の排せつに気をつけて散歩していて、犬のことを本当に大切に考えている飼い主が多いんだなと知ることができました。

 

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犬を家族の一員と考えるのが当たり前になっている今、飼い主と犬が社会の中でどうやったら気持ちよく、安心して暮らしていけるのか。犬を飼っている人も、飼っていない人も、そうしたことを考えるきっかけに、今回のニュースがなってほしいと思います。

 

 

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周防則志 2020年入局 

“地域の課題を解決する”報道を目指している

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:20:00


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