【みえDE川柳】 お題:好き
道草が好きで夕陽を困らせる/山路橙葉さん
擬人法と言って、人でないものを人に見立てて表現する技法があります。動物や石ころ、お月様などが一般的ですが、この句は「夕陽」を擬人化しています。地球の自転と公転によって、もう沈まなければならない夕陽。その夕陽を困らせている子供の道草。ユニークな視点でメルヘンチックな句になりました。
切り札にしておく「好き」というセリフ/加藤当白さん
う~む、持てる男(女かも)はこういう風にして相手の心を掴(つか)んで来たのか? やたら「好き、好き」と口走っても駄目なのだ。タイミングを見計らって一言(ひとこと)「好き」とささやけば、女(男かも)はイチコロなのだ。勉強になったが、もう私には遅い。説得力のある川柳です。
好きですと言えずあなたを見てました/よっちゃんさん
平抜きに「スマホと睨(にら)めっこ」という句がありましたが、この人は近くに居るのではなく、ただ遠くから「あなた」の一挙手一投足を眺めているだけなのですね。同病相憐(あわ)れむで、私はこういう「切ない恋」に弱いのです。現代ではこういうシャイな若者は絶滅危惧種なのかも知れませんね。でも私はエールを送ります。
<入選>
うまいもんいっぱいあって三重が好き/松ぽっくりさん
焼き芋が好きで始まるお付き合い/福村まことさん
酒好きな人で土産に迷わない/アラレさん
あほやなあ何度も言って好きになる/金子鋭一さん
好きですと言えずスマホと睨めっこ/あそかさん
先生が素敵で物理好きになる/あけみちゃんさん
学校を出ると勉強好きになる/正司さん
僻地まで名残惜しみにゆく電車/鶏冠さん
好きな方の手を挙げている招き猫/ジョーカーさん
ほどほどの好きであなたと住んでいる/アンドブルーさん
吉崎柳歩先生
「好き」には当然「愛する」も含まれます。「人を愛する」歌や詩は、古今東西数えきれないほど作られています。川柳も然り。しかし、「好き」にはもっと広い意味の愛や対象が含まれます。私たちの身の回りに「好き」は溢(あふ)れています。それだけに応募句の中には捨てがたい作品も多かったのですが、選者の独断で「一歩抜き出た句」を選ばせていただきました。選句というのも、けっこう辛(つら)い作業です。