【みえDE川柳】 お題:化ける
居酒屋ではがし合いする化けの皮/汐海 岬さん
居酒屋のざわめきの中で酌み交わせば、よけいな見栄や気兼ねも捨て、気楽に自分を出すことができる。いわゆる裃(かみしも)を脱ぐという状態だが、これを「化けの皮」を「はがし合いする」と表現したのがおもしろい。
ただ、「はがし合いする」の部分を意地悪に読むと、居酒屋で酔っ払わせて相手の本性を探ってやろう、さらには弱点をつかんでやろうと、互いにねらっているようにも読み取れる。
いずれにせよ、「居酒屋」という場面設定と、「はがし合い」という行動がおもしろいと感じた。
対面でなければ怖くないお化け/アカエタカさん
思わず笑ってしまった。お化けという得体のしれないものに親しみが持てるのは、それが本や画面の中に存在するもので、現実ではないとわかっているから。これが実際に目の前にいたら、たとえ自分に害を与えるものではなくても、やっぱり怖いと感じるだろう。
「対面」という堅い言葉が、自分のすぐ前でこちらを向いているお化けを想像させて成功している。でも対面でなくても、背後に気配だけ感じるのも、けっこう怖いと思いますよ。
ロボットが休日だけはヒトに化け/金子鋭一さん
このロボットは自分自身のこと。平日は文字通りロボットのようにベルトコンベヤーの傍らで働いているのかもしれないし、あたかも意思や感情などないかのように見せながら、機械的に仕事をこなしていることの比喩かもしれない。そんな自分が、休日だけは人間らしい自分になれるというのである。
人間をロボットにたとえた上、「休日だけは人に化け」るという逆転の発想がうまい。現代を感じさせる句である。
<入選>
ハロウィンがお化けカボチャの晴れ舞台/草かんむりさん
いつの間に化けた秋刀魚が高級魚/スイッチさん
マスクでは思うほどには化けられぬ/おじいさんさん
オンライン男もそっとする化粧/羽馬愚朗さん
揺れるバスそれでもちゃんとアイライン/ゆきちさん
変身願望せめて可愛いペンネーム/かぐや姫さん
眠ってる間に化ける美容院/久実さん
野菜室きゅうりが水に化けていた/ぷいこるとさん
人間に化けてはみたが楽でない/よしじろうさん
化け癖がついて自分を見失う/こまっぴさん
橋倉久美子先生
375句いただきました。予想通り化粧の句がたくさんありましたが、その他いろいろな「化ける」があり、楽しく選をしました。
川柳は5・7・5というわずか17音で表現する文芸ですから、次のようなことに気を付けるといいと思います。
・1句であれもこれもいうことはできません。言いたいことは一つに絞りましょう。
・句の中に不要な言葉がないか確かめましょう。たとえば「うちの」「わが」といった言葉は、なくてもよい場合が多いです。
・句ができあがったら、読み手にきちんと伝わるか考えましょう。自分でよくわからない場合は、身近な人に聞いてみるのもいいと思います。