【みえDE川柳】 お題:煮る
嫁が来て雑煮が変わるお正月/市川勲さん
お雑煮は地方によって具材から味付け、餅の形まで様々である。まさしく郷土料理である。新しくお嫁さんが来て、初めてのお正月に、お嫁さんは実家の母から教わった雑煮を作り、家族そろって新年を祝し、にぎやかに食している。今までの雑煮とは違った雑煮に、会話も弾み、明るいお正月を迎えられたに違いない。コロナ禍のなかにあってちょっと羨ましいご家族である。「雑煮が変わる」というところへの着眼点が素晴らしい句。
口癖も煮物の味も母に似る/やんちゃんさん
お煮しめも、その家々で伝統的な味付けがある。その味付けをお姑(しゅうとめ)さんからお嫁さんへ、母親から娘へと代々受け継がれていく。それどころか口癖まで母親に似てきて、すっかりその家の人になり切ったお嫁さん。ややもすると薄れつつある日本の家族制度の中で、楽しく明るいなかに、少し、しみじみしたものも漂っているように思われる。
生煮えで届きどうするプロポーズ/金子鋭一さん
しっかりとまだ気持ちが固まっていない時に、思いがけず受けたプロポーズ。嬉(うれ)しくもあるが、ちょっと困った作者の様子が見え隠れする。なんとも面白い句である。気持ちの整理が付いていない状況を「生煮え」と表現したところが良い。
これから、きっとお二人でたっぷりと煮込んで味のあるカップルになられることだろう。
<入選>
煮詰まって味が濃くなる立ち話/草かんむりさん
煮崩れたビーフシチューの妥協案/あそかさん
小包に母は煮物のメモも入れ/花キャベツさん
失恋の傷も煮込めば飲みこめる/汐海 岬さん
焦げつかぬように煮詰める話し合い/まゆゆさん
煮るうちに消えてしまった嫉妬心/富田さよ子さん
バージョンアップして煮えてくる噂/昭和青年さん
煮込まれておんなじ顔になるおでん/水たまりさん
煮崩れる前に本音を言っておく/橙葉さん
煮え切らぬ話ひと手間かけてます/久実さん
丹川修先生
今回のお題「煮る」は、思ったより広がりの少ないお題であったようです。それを物語るように、「豆」、「おでん」、「煮物」を句材にした作品が多くみられました。加えて、その句意もよく似たものが、多くみられました。その中でも独自性の強いものを入選とさせて頂きました。また、「煮ても焼いても食えぬ」という慣用的な言葉をそのまま引用した句も少なからずありました。たった17音のうち10音も使ってしまうと、随分もったいないですね。やはり自分自身の言葉で綴ってみたいものです。そして、よく言われることですが、他人の目線とは違った目線を持つことが、川柳作りには、不可欠です。多数のご投句ありがとうございました。