過去の入選作

2024年03月29日 (金)【みえDE川柳】 お題:のんびり

天 百歳の手はのんびりと鶴を折る/スイッチ さん

丹川修先生  百歳まで長生きをしたおばちゃんは何事にもしばられることなくのんびりと陽の当たる部屋で折紙を楽しんでいる。こうしておられた鶴には、平和への願いが込められている。今日までの長い人生における数々の苦労や試練を乗り越えてこられたおばあちゃんの顔付きや指先のようすまではっきりと見えてくる。なにか、じんとさせられる。
「百歳の手は」と「手」を主語にしている表現方法が巧みである。

地 ゆっくりと食べて電車は次の便/だんでらいおん さん

丹川修先生 「のんびり」の文言こそ使われていないが、のんびりとした雰囲気が充分に伝わってくる句である。われわれ現代人では電車の時間を気にしながらせかせかと食事をかき込むのが普通であろう。しかし、この作者は、ゆっくりと食事を楽しみ、何時までに移動しなければならないという制約に縛られることなく、「次の便」で良いではないかという余裕を持っている。たまには、われわれも時間に追われることなく、この作者のように、のんびりとした過ごし方をしてみたいものである。句の背景にある「ゆっくりと流れる時間」が見事に表現されている。

人 老い二人時計を止めて日向ぼこ/あそか さん

丹川修先生 良く晴れたお昼下がりに縁側で日向ぼこを楽しんでいるお二人の姿がくっきりと目に浮かんでくる。お子さんたちもそれぞれ独立をされて、今は、ゆったりとお二人で人生を歩んでおられる。「時間を止めて」、こんなことは、現実的には願っても叶うことなどないが、二人のゆったりとした気持ちの中では時間は止まっているのである。何とも羨ましい限りであると同時にいつまでも仲良く長生きしてほしいと願う。

 

<入選>

 温泉にのんびりつかる猿の群れ/川端日出夫 さん

のんびりとよめないカルテのぞき見る/やすさん さん

のんびりと実家の茶の間子に戻る/なつ さん

のんびりとしてはいないとかたつむり/ぷいこると さん

日は昇りまだのんびりとしてる月/ムギ さん

のびているいや溶けている昼寝猫/ぱぱりん さん

面長なだけでのんびりしていない/IQより愛嬌 さん

のんびり屋妻が駆け出す目玉品/横手敏夫 さん

のんびりの時間が増えて背が伸びる/ぱせり さん

せっかちな友は誘わぬ放浪記/夜半亭あぶら一虫 さん

 

丹川修先生 丹川修先生

 のんびり」のお題に対して、多くの方が頭の中に思い浮かべることは、「猫の姿、温泉に浸る、日向ぼこ、鈍行列車、一人旅」などであろうと思います。やはり、予想通り、このあたりに照準を当てた句が、多く見受けられました。
 また、誰しものんびりとした時間を持てるものなら持ちたいという願望があるのでしょう。従い、そのような願望を詠まれた句も多数ありました。作り易いお題であった半面、前述のような思いの中に縛られることなく、その枠から出た意外性のある句は少ないように思いました。その意味合いでは、出題側にも責任の一端が、なくはないと言えます。しかし、その中において一読して心の底から「のんびり」を感じる句を選ばせていただきました。本当に、たくさんのご投句をいただきありがとうございました。

 

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50 | 過去の入選作 |   | 固定リンク


2024年03月06日 (水)【みえDE川柳】 お題:肉

天 肉無しのカレーに入れる笑い声/田舎のマダムさん

  橋倉久美子先生「肉無しのカレー」というと何だかわびしいものがあるが、この句からはそんなことは感じられない。それはもちろん、肉の代わりに「笑い声」が入っているからだ。「このごろお肉も高くてさー、今日は肉なしでがまんしてー」などと、あっけらかんとした調子で言われたら、「えーっ」と声を上げながらも、「しょうがないなー」と苦笑いして食べるしかない。
 ちなみに、ちくわのカレーがおいしいと聞いたので先日作ってみたら、シーフードカレーのような味でなかなかおいしかった。一度お試しください。

地 焼き肉のタレでごまかす晩ごはん/かぐや姫 さん

 橋倉久美子先生最近では、砂糖やしょうゆといった基本的な調味料より、それだけで味付けできる合わせ調味料が売り上げを伸ばしているという。中でもめんつゆと焼き肉のたれは、応用も効いて使い勝手がいいらしい。
 さて、この晩ごはん、いったいどんなごまかし方をしたのだろう。安い肉をタレでさも高級な肉のように見せかけたのか、それとも野菜炒めの味付けに使ったのか。まさか白いご飯に焼き肉のタレだけをかけて焼き肉丼風、なんてことはないでしょうね。

人 肉食べて少し素直な反抗期/だんでらいおん さん

 橋倉久美子先生この肉は、焼き肉か唐揚げか、それともとんかつか。いずれにせよボリュームのある、いわゆるガッツリ系の皿が目に浮かぶ。ふだんは仏頂面で、家族との食卓もめんどうくさそうに囲む反抗期の子ども。それが「少し素直な」というのだから、小さな声で「おいしい」とつぶやいたり、「来週、授業参観」などとぼそっと言ったりしたのかもしれない。
 「肉」の題から、反抗期の子どもの表情や家族の情景を想像させる、ドラマ性のある句になった。

 

 

<入選>

競争で食べる焼肉いつもレア/ゆきち さん

※放送では別の作者のお名前をご紹介しました。お詫びいたします。

食べ放題 歳はとっても 肉が先/ミードラさん

肉眼で無理序の口の力士の名/中原政人 さん

ぜい肉は見せられないが隠せない/茶飯士 さん

世話されたお礼肉球触らせる/スイッチ さん

肉じゃがの牛か豚かに出る文化/夜半亭あぶらー虫 さん

いい肉が照明にまで指示を出す/せきぼー さん

牛丼がオシャレでのせる紅しょうが/せいじ さん

役柄に合わせ役者が落とす肉/流星 さん

焼き鳥の串から愚痴がこぼれ落ち/川端日出夫 さん

 

橋倉久美子先生 橋倉久美子先生 

 431句ものご投句をいただきましたが、大きく分けて、「食べる肉」の句と「体についた肉」の句がありました。
 「食べる肉」の句は、生活感のある句や現在の物価高を題材にした句が多く、共感しながら読みました。「すき焼き→高価、物価高」「焼き肉→取り合い」という句が多いのはわかるとして、どういうわけか「肉じゃが→男心をつかむ」「肉まん→部活・塾帰り」という相関関係があるようで、おもしろく思いました。
 一方、「体についた肉」の句の中には、入選とするにはやや品のない句もありました。川柳は庶民の文芸ですが、だからこそ、節度を持って詠むことも心がけてほしいと思います。

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:11:25 | 過去の入選作 |   | 固定リンク


2024年01月26日 (金)【みえDE川柳】 お題:つなぐ

天 語り部の声が平和の根を繋ぐ/八木五十八 さん

丹川修先生  戦争の経験のない世代が増えていく中において、その恐ろしさや悲惨な実態を今の人達に知らせしめる語り部の存在は大変貴重である。その語り部の方々も高齢化の危機にさらされている。しかし、その存在のおかげで、平和の大切さを若い世代へと語りつないでいくことができる。「平和の根」という表現が良い。根が腐ってしまうといかなる植物も育たない。「平和の根」をどんどん張って後世に伝えて欲しいものである。

 

地 突然の電話がつなぐ過去と今/汐海 岬 さん

丹川修先生 何十年振りかで、学生時代の同級生から電話があった。同窓会の誘いだろうか。初めは、電話の相手が誰だか判らなかったが、しばらくして「じゃあ あなた ○○ちゃんなの」と驚いた作者。一気に時計は何十年も逆戻りする。懐かしい思い出話の後、「ところで今はどうしているの?」などと話は続く。まさしく一本の電話がつないだ「過去と今」である。上手いところに川柳を見つけたものだと感心させられる。

 

人 不意の客まずはみかんで間をつなぎ/中原政人 さん

丹川修先生 全く、予定していない人が、突然、尋ねて来たのだろう。従って何のおもてなしの準備もできていない。家人は慌てるばかりである。とりあえず「みかんでもどうぞ」と間をつなぐ。そしてキッチンで何かないかと冷蔵庫を開けたり閉めたり右往左往する。どこにでもあるような楽しい光景である。こんなところに目を向けた作者に拍手を送りたい。

 

<入選>

ランチ食べ若さをつなぐ熟女会/みほりん さん

路線バス地域をつなぐ足となる/一刀両断 さん

主役来るまで懸命に座をつなぎ/瑠珂 さん

フィナーレまで唄が心をつなぎ止め/コタロー さん

アリバイが崩れ動機とつながった/みく さん

配線を逆につないだ反抗期/ジャック天野 さん

三年目 我が家の味に なる雑煮/ごん太 さん

神界と俗世をつなぐ巫女の舞い/福村 まこと さん

母の思いを乗せた真珠のネックレス/久実 さん

どん底で心を繋ぐパートナー/野口一生 さん

 

丹川修先生 丹川修先生

 今年は元日から大変な惨事での幕開けとなりました。そのためでしょうか、例えば「被災地と心をつなぐ募金箱」などのように、上手く仕立てられている句もたくさんありましたが、あまりの多さに、残念ですが、一部を特定して入選にすることができませんでした。しかし皆様の優しいお気持ちは痛いほど伝わってきました。また、年賀状をモチーフにした句もたくさんいただきましたが、こちらも特定してご紹介することはできませんでした。同想句の選の難しさ、厳しさを痛感させられました。たくさんのご投句ありがとうございました。今年もよろしくお願いいたします。

 

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50 | 過去の入選作 |   | 固定リンク


2023年12月22日 (金)【みえDE川柳】 お題:キラキラ

天 呼出が困るキラキラ力士名/金子鋭一 さん

  橋倉久美子先生現在活躍中の力士でキラキラの四股名といえば、天空海(あくあ)と阿武咲(おうのしょう)が横綱級か。漢字を見ただけでその読み方を言い当てることは難しいし、「どうやったらそう読めるの?」と考えてしまう。翔猿(とびざる)や美ノ海(ちゅらのうみ)もキラキラっぽいが、こちらは一度読み方を聞けば納得できる。
 この句は、「呼出が困る」と具体的に詠んだことが成功した。実際に呼出が困ったりすることはないのだろうが、大げさに言って納得させるのも川柳のおもしろいところである。

地 宝石も値札のゼロもよく光る/なるほどマン さん

 橋倉久美子先生宝石が光るのは当たり前だが、「値札のゼロ」を並べたことで、思わず笑ってしまう句になった。冷やかしで見ているならまだしも、購入を検討しているなら、宝石よりゼロの列の方がより光って見えたかもしれない。
 二つのものを並べるときは、意外性のあるものやできるだけ遠いものを並べるとおもしろい句になることが多い。この句の「宝石」と「値札のゼロ」は、「理想」と「現実」のような落差や対比があり、うまい取り合わせになった。

人 光害の街に疲れている夜空/田舎のマダム さん

 橋倉久美子先生「光害」は「ひかりがい」と読み、過剰または不要な光による公害のこと。星が見えないなど天体観測への妨げになるほか、動植物に影響を与えることもあるそうだ。もちろん資源の無駄遣いにもなる。
 夜空は、人工の照明に負けないように光を届けようと懸命に月や星を光らせ、疲れ果ててしまったのだろうか。「疲れている夜空」という夜空の擬人化がうまく、それによって光害をやんわりと批判しているのが感じられる。

 

 

<入選>

のど自慢キラキラ光る貸衣装/だんでらいおん さん

冬銀河 トナカイたちを張り切らせ/汐見 岬さん

買う時は瞳キラキラ宝くじ/ぷいこると さん

太陽と戦っている霜柱/ムギ さん

キラキラの一番星を観る案山子/アカエタカ さん

絵に描いた餅をキラキラ撒く選挙/福村まこと さん

塗り替えるたびにキラキラする記録/中原政人 さん

いのちキラキラトンネルの向こう側/かざはな さん

つながったネギも楽しい新夫婦/市川勲 さん

ばあちゃんがキラキラしてる七五三/ゆきち さん

 

橋倉久美子先生 橋倉久美子先生
 393句のご投句をいただきました。時期的に、クリスマスやイルミネーションの句が多いかと予想していましたが、それほどではありませんでした。またこのような4音の擬態語(オノマトペ)の場合、「キラキラと」と上五に持ってきがちなのですが、そのような句は案外少なく、中七で「キラキラ」を使ったり、「キラキラ」を読み込まなかったりと、さまざまな作り方の句があり、工夫されていることが感じられました。
 ただ、よくある発想の他、「キラキラ」の使い方に無理があったり、「キラキラ」した感じが伝わって来なかったりする句もありました。「意外性はあるが納得させられること」を見つけたいですね。

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50 | 過去の入選作 |   | 固定リンク


2023年11月24日 (金)【みえDE川柳】 お題:働く

天 身を賭して盲導犬の気働き/あそか さん

丹川修先生  いろいろな「働く」の句の中にあり、盲導犬の働きにまで目を向けた、この句には驚かされた。よくもこのようなところに目を付けたものだと作者にはただただ感心させられる。身を賭してまで、ご主人を守ろうとする盲導犬の機転には、じんとさせられ目頭が熱くなる。上五の「身を賭して」がこの句をしっかりと引き締めている。下五の「気働き」は口語体ではあまり使われないかも知れないが、句全体として、リズムよくこなされているので、敢(あ)えて気にする必要はないだろう。

 

地 言い訳に女の勘が稼働する/汐海 岬 さん

丹川修先生 言い訳をすればするほどなにかあると勘ぐられるのは常である。そこに女の勘とくれば、もう、観念する他ない。下五の「稼働する」と言う硬い言葉に、強力なパワーで押し寄せてくる「女の勘」の凄みを感じる。句意としての意外性はないものの言葉の操り方が、素晴らしい。従って、「稼働する」が、この句を成功へと導いている。

 

人 女から戦士に変わるまとめ髪/いちかわいさお さん

丹川修先生 この句には「働く」という言葉は、使われていない。しかし、髪をまとめて、「さあ、仕事をするぞ」という姿が、はっきりと目に浮かんでくる。しかも「戦士に変わる」と言うのだから、きっと厳しい仕事なのだろう。たくましい女性の姿である。「まとめ髪」の下五に、その凛々しさが、詰まっている。

 

<入選>

座る暇ないほど動く割烹着/大澤 葵 さん

働いて底まで旨い大ジョッキ/奥田よし さん

働いたこともありますキリギリス/アーケード さん

持ち味を重ね働くおでんの具/福村まこと さん

AI が働き者の座を奪う/近江菫花 さん

ネイルには縁のなかった働く手/山吹みどり さん

労働を缶コーヒーに励まされ/だんでらいおん さん

定休日有っては困る警察署/録画は家康天  さん

皿洗い夫は家事をやった顔/はぐれ雲 さん

着ぐるみで汗をかくのも宮仕え/西井 茜雲  さん

 

丹川修先生 丹川修先生

 たくさんの「働く」の句に接し、楽しく選考をさせて戴(いただ)きました。働くことの大切さや悦(よろこ)び、仕事の厳しさ、など句を通じて改めて認識させられました。また、労働以外の働く(勘が働くなど)の楽しい句も多数、いただきました。しかし、その中には、お題が「働く」だけに、格言じみた内容の句やまた「働く」という言葉を用いるには、少し無理を感じる句もありました。出された「お題」に、句の内容がうまく向き合っているか見直してください。入選には、やはりリズムが良く、目の付け所に意外性のある句を戴(いただ)くことになりました。多数のご投句を戴(いただ)き誠にありがとうございました。

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50 | 過去の入選作 |   | 固定リンク


2023年10月27日 (金)【みえDE川柳】 お題:探す

天 ネットでは探せなかった青い鳥/かぐや姫 さん

  橋倉久美子先生「青い鳥」はメーテルリンクの童話。チルチルとミチルの兄妹が幸せの青い鳥を探す旅に出るが、結局は自分の家にいた、幸せは身近なところにあるものなのだという内容。 現代ならばやみくもに探すのではなく、まずはネット検索であたりをつけるということか。とはいえこの句は「ネットでは探せなかった」というのだから、結局は自分の足で探しに行くしかないらしい。「青い鳥」を具体的な何かと想定してみるのもおもしろい。

地 沈黙が続き星座を探すふり/汐海 岬 さん

 橋倉久美子先生デートの帰り道だろうか。二人が肩を並べて歩いている。それとも夜の公園。並んでブランコをこいでいる。さっきまでのおしゃべりがふとした瞬間に途切れ、何となく気まずい沈黙が流れる。新しい話題を持ち出すのもわざとらしいし、さて……。そこで、星座を探す「ふり」なのである。きょろきょろと空を眺めながら、あるいはひときわ光る星を見つめながら、「どうしたの?」なんて話しかけてくれるのを待っている。「ふり」としたのがうまい。 短編小説にもなりそうな、胸がキュンとする句。

人 折鶴も鳩も探している平和/八木五十八 さん

 橋倉久美子先生平和を祈る折鶴と、平和の象徴である鳩。日常それを意識することもないほど、戦後日本では平和な状態が続いている。とはいえ世界に目を向けると、戦争状態や、そうでなくても平和とは言えない環境にある国や地域があることが現実だし、むしろ昨今、平和から遠ざかりつつあるような気さえする。まるで折鶴も鳩も、平和を探しあぐねているようだ。 「平和」という抽象的なものを、「折鶴」や「鳩」が「探している」と詠んだことで、具体的な手触りのある句になった。

 

<入選>

あの頃の自分を探す入社式/松本俊彦 さん

持ち主に探す気がない忘れ傘/流星さん

見つかると信じて探す落とし物/こまっぴ さん

一度来た家がなかなか見つからぬ/ぱせり さん

探しても肉が見つからないカレー/火の鳥 さん

はじめからみえてる子らとかくれんぼ/夜半亭あぶらー虫 さん

ワンルームでも見つからぬ探し物/捜査網 さん

火星まで ウラン探しに 行きますか/ごん太 さん

探してもお宝はない天袋/草かんむり さん

ご先祖のロマンも探す蔵掃除/福村 まこと さん

 

橋倉久美子先生 橋倉久美子先生
 408句のご投句をいただきました。 眼鏡や鍵などの身近なものを探す句や、探し物が見つからないという句が多かったかと思います。ことに年齢を重ねるとちょっとした探し物が多くなり、共感はできるのですが、同じような句意で共倒れ、あるいはすでに詠まれた内容となり、入選から遠くなってしまいます。いわゆる自分探し、青い鳥、あら探しの句もたくさんありました。    このような中で、意外なものを探す句、表現に個性の見られる句、また、同じような事実でも少し見る角度を変えた句を入選にしました。発想を広げ何句か作る中で、これだ!と言えることや表現に出会えるとうれしいですね。

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50 | 過去の入選作 |   | 固定リンク


2023年09月29日 (金)【みえDE川柳】 お題:宝

天 端数さえ宝に見えた初任給/福村まこと さん

丹川修先生  なにかと不平不満を感じることが多い世において、この句のようにいつまでも感謝の気持ちを忘れずにいたいものである。確かに、初任給を手にしたときには誰しも感慨深いものがある。しかし、この句は、その気持ちが、「端数さえ」の上5に上手く詰められている。色々な宝の句の中で、初任給の端数までを宝とした作者の目の付け所に感心させられる。従い、迷うことなく〈天の句〉とさせて戴(いただ)いた。

地 ぬか床もリストに入れる形見分け/田舎のマダム さん

丹川修先生 この句には「宝」という言葉は使われていないが、「ぬか床」が、かけがえのない宝物であることは言うまでもない。加えて、下5で「形見分け」と表現したところに、その家庭に脈々と受け継がれた大切な伝統の味であることが、しっかりと伝わってくる。この句も天の句と同様に、目の付け所が何とも素晴らしい。作者の感性に拍手を送りたい。

人 ママチャリの前と後ろに宝もの/スイッチ さん

丹川修先生 お母さん(あるいは お父さん)が自身の前と後ろに幼い我が子を抱えて、自転車で買い物にでも向かっているのでしょうか。そんな姿が、はっきりと目に浮かんでくる。親の子に対する愛情と同時に、力強く生き抜く姿が美しい。ママチャリという質実剛健さが、よりその姿を際立たせている。どうか事故に遭うことなく、二人のお子様がすくすくと育たれることをお祈りする。

 

 

<入選>

宝もの広い世界におまえだけ/谷てる子 さん

大安じゃなくても当たる宝くじ/こまっぴ さん

可も不可もない一日が宝物/あそか さん

宝だと気付かぬままに半世紀/汐海 岬 さん

信じてるうちは宝に違いない/かぐや姫 さん

孫からの肩たたき券宝物/ 1刀両断 さん

見つけられない場所には隠さない宝/河内秀斗さん

二合呑み働く夫は宝物/奥田よし さん

輝きを増して宝が逃げて行く/アーネスト さん

こっぴどく叱ってくれた過去の鬼/夜半亭あぶらー虫  さん

 

丹川修先生 丹川修先生

 選考会には、どのような宝に巡り会えるかと楽しみにして出掛けて参りました。投句者の皆さんは、さすがに手慣れたもので〈宝石、骨董(こっとう)など=宝〉に限定されることなく、それぞれの日常生活(親子,夫婦、友人、恋人など平凡な生活の中にある人々の存在や健康に対する感謝の気持ちなど)を詠った作品(精神的な宝)が数多く見受けられました。その中にあって、いつも言わせてもらっていることですが、意外性の高いものに目を付けた句を評価させていただきました。また、宝くじ、子宝、家宝などの同想の多い句の中でもリズムの良いものやそのテーマの捉え方において特異性の高い句を入選といたしました。たくさんの楽しいご投句を戴(いただ)き誠にありがとうございました。

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50 | 過去の入選作 |   | 固定リンク


2023年08月25日 (金)【みえDE川柳】 お題:浴びる

天 紫外線浴びて日焼けをする案山子/アカエタカ さん

  橋倉久美子先生昔は「夏に日焼けをすると、冬に風邪をひかなくなる」などと言われ、子どもは真っ黒な日焼けを褒められた。現在では日焼けの害も言われるようになり、子どもたちも日焼け止めや肌を覆う水着を使用するようになってきている。とはいえこれはあくまでも人間の話。
この句は、最後に主人公が「案山子(かかし)」であることが明かされたとたん、日を遮るものもない田んぼの真ん中に一日中立ち尽くす姿が一気に目に浮かぶ。紫外線を浴び放題に浴びながら、仕事をしているのである。

地 日光を浴びせすぎても枯れる花/河内秀斗さん

 橋倉久美子先生水のやりすぎならわかるが、日光の浴びすぎも植物にとってよくないのか?と、一読したときは疑問に思った。しかし晴天の多かったこの夏、我が家ではインゲンの花が落ちて実にならなかったり、朝顔が8月後半になってようやく咲き始めたりした。詳しいメカニズムは知らないが、やはり雨が降らず日を浴びてばかりだったことが影響したのだろう。
ともすれば教訓的になりそうな内容を、花に具象化し、日光で意外性を持たせることで、うまく詠んでいる。

人 剥製になっても悲鳴浴びる蛇/福村 まこと さん

 橋倉久美子先生蛇が嫌い、苦手という人は多い。毒蛇でなくても、あの姿かたち自体が人間には合わないのだろう。かくして蛇は、たとえ自分が人間に遭遇して驚いたり怖がったりしていても、人間から悲鳴を上げられ、石や棒で攻撃される一生を送る。それどころか、死んで剥製にされてからも、悲鳴を浴びるというのである。
剥製になること自体、蛇にとって本意ではない気がするが、まして悲鳴を浴びるというところに、蛇の悲哀を少々感じてしまう。

 

<入選>

蝉の声朝から浴びている酷暑/ひろりん さん

水よりも氷浴びたい40度/田舎のマダムさん

噴水を浴びる幼児に虹が立ち/だんでらいおん さん

黙祷へ読経のような蝉時雨/岡田孝道 さん

浴びるほどつけたんだけど美容液/ぷいこると さん

正論が批判のシャワー浴びている/なるほどマンさん

脚光を浴びて幾つか嘘がばれ/金子鋭一 さん

クレーマーの叱責浴びるのも仕事/火の鳥 さん

浴びたあと拭かずにおいた褒め言葉/汐海 岬 さん

酒あびていいよと医師の太鼓判/石川照夫 さん

 

橋倉久美子先生 橋倉久美子先生
 412句のご投句をいただきました。
水やシャワー、日差し、酒類、言葉、喝采や脚光、視線など、浴びる「もの」自体は一般的なものが多く、びっくりさせられるようなものはありませんでした。ただ、そこからの発想は様々で、おもしろく思いながら選にあたりました。
思いついたそのままを詠んだのでは川柳としてもの足りないことが多いのですが、かといってあまりに凝り過ぎた表現をすると相手に伝わりません。でき上がった作品を誰かに見てもらい、推敲(すいこう)の参考にするのもよいかと思います。

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50 | 過去の入選作 |   | 固定リンク


2023年06月30日 (金)【みえDE川柳】 お題:冷たい

天 すこしだけ冷たいほうがつづく愛/夜半亭あぶらー虫 さん

  橋倉久美子先生なるほど、追えば逃げるのが人間の常、恋愛においても、片方が熱くなりすぎると、もう片方はその分冷めてしまうということか。何事も、冷たい(冷静な)部分を残しておくのが、長続きさせるコツなのかもしれない。「すこしだけ」というところに説得力がある。
難しい言葉は一つもないが、何やら人生の達人めいた句で、おそれいりましたと言いたくなった。

地 最後まで姿勢保てぬ冷奴/アカエタカさん

 橋倉久美子先生豆腐と言えば、その形は四角いのが一般的。特に冷や奴は、隅をきっちりと直角に切るといっそう涼しげに感じられるし、薬味を従えて盛り付けると、安価な割に威風堂々とした風格さえ備えているように見える。
とはいえ、いかんせん柔らかい食べ物の代表ともいえる豆腐である。形を保ったまま食べ終えるなどということはどうやってもできず、薬味と混ぜ合わされ醤油にまみれ、ぐずぐずになって食べられることになるのだ。冷や奴の擬人化が愉快。

人 夕焼けもひんやりとする別れの日/汐海 岬 さん

 橋倉久美子先生夕焼けが「ひんやりとする」という表現に驚かされた。「冷たいもの」を探したとき、いかにも冷たいものや、逆に熱いものを思い浮かべることはできても、赤くて大きくて温かみのある夕焼けはなかなか思いつかないだろう。また、「冷たい」ではなく「ひんやりとする」と言うことで、体全体で冷たさを感じている雰囲気が醸し出されている。
一読したときは失恋の句と受け取ったが、もっと決定的な別れなのかもしれない。夕日の中に、肩を落としてとぼとぼと歩く姿が溶けていく様子を思い浮かべた。

 

 

<入選>

定番はママの得意な冷や奴/谷てる子 さん
ちょっとしたミスに冷たいセルフレジ/かりんとうさん
言い負けておけばよかった冷たい目/あそか さん
遅刻して冷たい汗をかくデート/山吹みどり さん
既読さえ付かなくなった僕の恋/いちかわいさお さん
川遊び大人もはしゃぎたい猛暑/こまっぴ さん
同情はしても身銭は切らぬ主義/西井茜雲 さん
少子化の仕業冷たい滑り台/たちあおいさん
知っている手品冷たく拍手する/福村まこと さん
猫だから客に冷たくしても良いく/戴 けいこ さん

 

橋倉久美子先生 橋倉久美子先生

   402句のご投句をいただきました。
冷や奴、アイスクリームやかき氷、ビールなどの句がやはり目立ちましたが、予想以上にいろいろな「冷たい」ものがあったり、恋愛や人間関係を題材にした句が多かったりして、楽しく選をしました。
一方、中8、下6、あるいは575のリズムを大きく逸脱する句が少なからずあったのは残念でした。声に出して読むことで575のリズムをたしかめたり、時には指折り数えたりしましょう。特に中8、下6については、これぐらいならいいだろうと思わずに、推敲(すいこう)をしてみてください。

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50 | 過去の入選作 |   | 固定リンク


2023年05月26日 (金)【みえDE川柳】 お題:地図

天 先輩の手書きの地図が捨てられず/瑠珂 さん

丹川修先生  この地図にはどのようなことが記されていたのだろう。得意先の位置情報だけでなく、周辺の美味しいお店の情報なのだろうか。いえいえ、そんな甘い話ではなく、社内の危険地帯でも記されているのだろうか。下手に近づくと地雷を踏んでしまうぞ、あの辺には落とし穴があるぞ、などとでも書かれていたのだろうか。いろいろ想像させられる楽しい句だ。自分を育ててくれた地図だけに「捨てられず」と言うのだ。

地 白地図に武者震いする新任地/ジャック天野 さん

丹川修先生  右も左も分らない新しい地に赴任を命じられ、緊張で思わず、武者震いしたのだろう。さて、これから白地図にはどんな地図を描き、どんな色を塗っていかれるのだろうか。不安の中にも希望も同時に感じる句だ。白地図と新任地との取り合わせが、効いている。

人 四季の花辿れば出来る日本地図/ムギ さん

丹川修先生 日本列島は南北に長い国である。また、四季がはっきりしている国でもある。桜前線は南から北へと移動する。テレビのニュースなどを観ていると、もう沖縄では桜が咲いたのかと驚かされる。暫(しばら)くすると前線は、東北から北海道へと北上していく。日本地図を頭に浮かべながら情報を得る。なかなか、気付けないところに上手く目を付けたものだと感心する。

 

 

<入選>

もう着いていいはず地図の通りなら/アカエタカ さん

物価高一人楽しむ地図旅行/らっきー麗 さん

泣く笑う記憶あちこち残す地図/金子鋭一 さん

宇宙にまで国境線を引きたがる/ゆきち さん

上り坂ばかりで過ぎた若い地図/八木五十八 さん

晴天のマークで満ちる日本地図/ 汐海 岬 さん

ひとり旅地図のむこうに夢がある/風来坊 さん

地図よりも地元の人があてになる/こまっぴ さん

ふる里の地図の形の雲にあう/花キャベツ さん

子に渡す地図に迷路も足しておく/けい さん

 

丹川修先生 丹川修先生

    地図という言葉の持つ意味合いには、地理的なもの以外に、人生の指針(設計計画)、未知なる世界への道標(みちしるべ)などといろいろなものが含まれます。さらに地図と言えばカーナビ、白地図或(ある)いは地球儀など幅広いテーマでのご投句をいただきました。意外だったのは、地理的な地図を扱ったものより抽象的(精神的)な地図をテーマにした句が多く、難解句も多く、やや苦労しましたが、それだけに楽しく選をさせて戴(いただ)きました。たくさんのご投句ありがとうございました。

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50 | 過去の入選作 |   | 固定リンク


ページの一番上へ▲

カテゴリー

番組

ブログについて

  • はじめての方へ

RSS