2019年3月

【みえDE川柳】 お題:開く

天 母さんの開店時間長すぎる/かぐや姫さん

吉崎先生 問題は「開店時間」だ。そのまま受け取ると母さんが家で何かのお店を開いているようにも取れる。例えば鯛(たい)焼き屋とか美容院とか…。だが、そう解釈するとこの句が生きてこない。この句の言う「開店時間」とは、母親業あるいは主婦業ということなのだ。母さんは、就寝時間以外は、ある意味営業時間なのだ。「営業時間」とすると、よけいに「商売」と間違われやすい。「開店時間」で良かった。作者は句の中で、「だからどうだ」とは一(ひと)言も言っていない。それでいいのだ。コトを詠めば思いは伝わる。母さんに対する感謝の思いが確実に伝わってくる。

 

地 グーチョキパーの順に開いていく新芽/さくらんぼさん

吉崎先生 この句には意表を突かれた。この句を読んですぐに連想したのは「辛夷(こぶし)」の新芽だった。蕾(つぼみ)がグー、半開きがチョキ、満開がパー。当たり前と言えば当たり前だが、おそらくまだ誰も川柳にはしていないだろう。早い者勝ちという川柳。どんな花でも、グーチョキパーの順番は成り立つとは思うが、形がどうかとか、そんな細かいことはどうでもいいのだ。作者もたぶん、辛夷の花が開いていく経過を見て、この句が閃(ひらめ)いたのではないか? そうであれば、選者としてはなお嬉(うれ)しい。

 

人 開いたらすぐに飛びたくなる花粉/ムギさん

吉崎先生 この場合の花粉は、やはり花粉症をもたらす杉花粉のことだろう。杉の雄花はあまり「開く」という感じはしないが、「花粉がすぐに飛ぶ」のは確か。いま正(まさ)に花粉症の最盛期で、タイムリーな句だった。日本人の四分の一が花粉症というから凄(すさ)まじい。
 この句の良さは、やはり花粉の擬人化にある。犬や猫などの動物、植物なら花や根などを擬人化した川柳は多いが、花粉はめずらしい。人間の生活に大いに関係する物質だったから成功したのだろう。「すぐに飛びたくなる」が良かった。

 

<入選>

半分もたまらず開ける貯金箱/毎日が日曜日さん

もう一度押せば開いた扉かも/渡辺勇三さん

新しいノート開けば鳩が出る/ブルードアさん

寝て起きて合格通知また開く/福村まことさん

自己紹介大きく開く鼻の穴/スイッチさん

何気なく開いた本に無我夢中/やんちゃんさん

内緒話だけに大きく開く耳/俊子さん

健診結果開封までの五秒間/いちかわいさおさん

3人になるまで開くクラス会/あけみちゃんさん

趣味の会いつも開いている門戸/デコやんさん

 

吉崎先生 吉崎柳歩先生

 「開く」というお題で、その反対語の「閉じる」「閉ざす」などの言葉を同格で読み込んだ句を、かなりの数見かけました。つまり、どちらの課題であっても句意は同じ、というわけですね。そのぶん訴える力が半減しました。また、「心を開く」「花開く」などの決まり文句の句も多かった。パスワードを忘れて開かないという句も、誰もが考えそうな着想です。お一人で何句応募しても構いませんが、なるべく違う着想の句を出しましょう。 
 中味(なかみ)があまり変わらないのでは、足の引っ張り合いになって損です。お題に縛られてはいても、独自の着想の句(あなたしか詠めない句)を詠むことを心掛けてください。

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50 | 過去の入選作 |   | 固定リンク


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