2011年11月

2011年11月29日 (火)

コメの旅 虫送り

「コメの旅 イネの道」を担当した高島です。番組では、信仰、国家、国土、技術、経済、災害、そして家族など様々なアングルから、日本人がコメとともに育んだ風景を見つめてみました。取材では、少数の人たちによってかろうじて維持されている風習や風景をいくつも目にしましたが、その中でも、特に印象的だった「虫送り」についてご紹介します。

かつて、「虫害」は最も恐ろしい災害の一つでした。長雨が続くと、ウンカやイナゴなどの害虫が大発生し、イネの葉を食い散らかし、収穫に大きな打撃を与えたのです。江戸時代中期に起きた「享保の大飢きん」では1万人以上が餓死したと言われますが、飢きんの原因は虫害でした。被害を少しでも軽減しようと、人の手で害虫を一つ一つ取り除いたり、水田に油の膜を張り、害虫を払い落として殺したり、あぜ道にかがり火を焚(た)いて害虫を誘い寄せたり、とにかく色々やったものの、効果はあまりなかったようです。

そこで人々は、害虫をもたらすのは悪霊の仕業だと考え、あぜ道に松明(たいまつ)をかざすことで悪霊を退散させようとしました。それが「虫送り」です。地域によっては「稲虫送り」とか、「実(さね)盛(もり)送り」とも呼ばれます。ちなみに「実盛」とは、平家の武将、斉藤実盛のこと。実盛は源義仲の軍勢と田んぼで戦っていたところ、稲株に足をとられたために、討ち取られてしまったと伝えられています。「実盛送り」では、稲に恨みを持つ実盛が悪霊となって害をもたらすと考え、実盛のわら人形を作り、村の外まで盛大に送り出すそうです。

今回取材したのは、滋賀県竜王町で7月中旬に行われている「虫送り」です。夕方、菜種の殻などで作った巨大な松明に火をつけて、鉦(かね)や太鼓のリズムとともにあぜ道を練り歩き、悪霊を追い出します。
火の勢いは思ったより強く、近くで撮影しているとかなり熱いですが、夕暮れ時の田んぼに立ちのぼる煙が、悪霊が跋扈(ばっこ)した時代にタイムスリップさせてくれます。

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かつては全国で行われていた虫送りも、農薬の登場で虫害が激減してからはほとんどが途絶えてしまいました。近年は復活させる動きもありますが、その担い手は少なくなっているのが現実です。

にぎやかなようで、ノスタルジーを感じさせる「虫送り」。やり方は集落によって様々なので、自分ならではの「心のふるさと」を探してみるのも一興かも知れません。ただし、火にはくれぐれも気をつけて。

投稿時間:10:54 | カテゴリ:ディレクターおすすめスポット | 固定リンク


2011年11月22日 (火)

仏様のいる暮らし

「仏像の京都」を担当した中村です。取材を通して感じたこと。それは、京都の人たちと仏さまとの距離の近さです。寺社仏閣の建ち並ぶ京都には、数多くの仏像が祀られていますが、お寺以外にも、たくさんの仏さまが町の人々とともに暮らしています。京都の町中にある石仏の数は、8千とも1万とも云われ、町のあちこちにお地蔵さんの祠が点在しています。そのどれもが、いつ見ても綺麗に保たれ、新鮮なお花が供えられている・・・。町の人たちがいつも交代でお世話をしているからです。朝、祠の前を掃き清める人、お地蔵さんのお水を替える人、手を合わせる人・・・そんな光景が京都の町では日常で見られるのです。NHK京都放送局の前にも、お地蔵さんの祠があるのですが、毎朝、出勤の際、いつも誰かがお掃除をしていらっしゃる光景を目にします。お話を聞いてみると、皆さん子どもの頃から、ずっとお世話をしているのだとか。驚いたのは、祖母、母、息子の3世代が一緒になってお掃除されている様子を目の当たりにしたことです。京都の町では、仏様を大切にする習慣が、親から子、子から孫へと受け継がれ、自然に育まれているのだなと感じました。

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仏像ブームの昨今、京都を訪れる仏像好きの皆さんにも、是非こうした町中の仏様にも目を向けて頂けたらと思います。京都が仏像の都と呼ばれる所以は、こうした日常の中にあるのだと感じて頂ける筈です。


 

投稿時間:10:25 | カテゴリ:ディレクターおすすめスポット | 固定リンク


2011年11月15日 (火)

新宿人情横丁

  「東京の夜」を制作した小山です。「東京の夜」と聞いて、みなさんはどこを思い浮かべますか。夜景好きは六本木ヒルズや東京タワー、あるいはお台場?ちょっと気取った夜を過ごしたい時は銀座・赤坂・麻布?それぞれ思い入れの深い場所はあると思いますが、データを見れば東京一の夜の街は何といっても新宿です。1日350万人が利用する日本最大のターミナル駅、新宿駅。その界わいには不夜城・歌舞伎町を始め、立ち飲みの安酒場からホテルの高級料理店までそろい踏み。少し足を延ばせば新大久保の韓国料理店街も楽しめます。なかでもイチオシは「思い出横丁」。赤ちょうちんがぶら下がる居酒屋が軒を連ねる飲み屋街で、発祥は戦後のヤミ市です。やきとり、やきとん、もつやき、モツ煮・・・。ビールに良く合うB級グルメの王道を目当てにサラリーマンはもとより、若い女性やカップルも多く訪れます。旅行ガイドブックを手にした外国人バックパッカーの姿も珍しくなく、庶民の日本情緒を味わえる人気スポットになっています。

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 この横丁で飲む酒の醍醐味は、狭いカウンター席で偶然隣り合う人たちとの出会い。店主をぐるりと囲むようにして座る客どうしが、初めは店主を仲介役にしておずおずと、そのうち気心が知れてくるとワイワイガヤガヤ直接話を始めます。プロ野球やサッカーの話題はもちろん、家庭や政治、仕事の悩みなど、見知らぬ者どうしの気安さからか本音の会話が弾みます。それも愉快に。裸電球の優しい明かりがそうさせるのかもしれません。世知辛いご時世の中でつい忘れてしまいがちな「一期一会」、「袖すり合うも多生の縁」という言葉を思い出させてくれます。

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 新宿西口に隣接する一等地ということもあって、複合ビルへの立替再開発計画がくすぶり続けていますが、人情横丁としていつまでもあり続けて欲しいと思います。新宿西口から北へ歩いてすぐ、小田急ハルクの向かい側です。酒好きもそうでない人も、一献交えて陽気な夜をいかがですか。

 

投稿時間:10:36 | カテゴリ:ディレクターおすすめスポット | 固定リンク


2011年11月08日 (火)

松島の恵み

「松島」の取材を担当した堀部です。 番組の最後に「だからね、海は明日があるんですよ」と松島の漁師魂を聞かせてくださった蜂谷さん。番組ではあさり漁に活路を見出す蜂谷さんをご紹介しましたが、本業の牡蠣の養殖も動き始めています。牡蠣は通常、1年目に卵から親指の爪ほどの種牡蠣と言われる状態まで成長させ、2年目から太らせて出荷します。2年、3年と成長させて大きくする牡蠣の育て方もありますが、松島の牡蠣は1年だけ成長させる1年物。小振りだけど味のしまった松島湾の牡蠣は、素材そのものの味を楽しむ牡蠣料理に適しています。

今年育てるはずだった種牡蠣が全滅してしまった蜂谷さん初め松島地区の漁師のみなさんは、津波被害の少なかった地域から種牡蠣を手配して育てています。「津波で海が変ってしまったのでどう育つか分からない」と蜂谷さんは心配している時期もありましたが、順調に成長し、今年はなんと「最高の出来!」とのことです。長年の間に海底に溜まった牡蠣の殻などが津波で陸地に上げられて、海がすごく澄んだのが原因とのこと。毎年、今の時期になると牡蠣は卵を吐き出すのですが、それをすっかり出し切ってしまった方が良いできなんだそうです。

今年の牡蠣は澄んだ海に思いっきり卵を吐き出して、本当に上物だということです。3000円で牡蠣食べ放題の名物「牡蠣小屋」も、例年より遅れてではありますが、11月19日より開始とのこと。問い合わせは松島観光協会(022-354-2618)まで!私たちもまだ食していませんが、美味しいのは間違いありません!


 「復興のために色々な人に助けてもらった、牡蠣をしっかり育てて恩返ししたい」とおっしゃっていた蜂谷さんが忘れられません。

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 写真4 卵をすっかり吐き出し、
     最高級のできの今年の牡蠣

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 写真5 来年に向けた「種牡蠣」作りも順調
     来年は100%松島産の牡蠣が帰ってきます


 海苔養殖の設備が流されてしまった宮戸島(東松島市)の尾形幹夫さんのお宅でも海苔作りが始まっています。現在は息子さんが家業の海苔養殖の主な仕事をしていますが、その息子さんが新しい海苔養殖の設備を購入しました。息子さんがこれからも海苔の養殖をやっていく決意をみせてくれたのが何より嬉しいと尾形さんは言います。里浜地区では協同で海苔養殖を行ったり、ボランティアの方の協力等を得て、海苔造りが始まったところ。9月末に種付けをして海に入れた海苔は、11月末位から収穫できるそうです。宮城県のほとんどの海苔の種は松島湾で作られて、他の地域に運ばれて行きます。松島湾の豊富な栄養が良い漁場となっています。


 「雨乞い」を行っていたのは、宮戸島にある四大観の一つ・大高森(おおたかもり)です。山頂まで15分はなかなかの運動。しかし登った先に見えるのは、四大観一の広大な視界。太平洋と松島湾に挟まれ四方が海に囲まれたような景観は圧巻です。松島海岸を海の側から見ることになるので、島々の見え方もまた違って見えます。


 そして、その大高森の足元に広がるのが里浜貝塚。松島湾は入り込む川が少なかったことから湾に土砂が堆積せずに、縄文からの景観を残していると言われています。貝塚が当時のまま「海の近く」にあるのはすごく珍しいことなのだそうです。そして島を歩くと、ここかしこに見える白い破片が縄文から続く貝殻です。ぜひ目をこらして集落を歩いてみて下さい。里浜貝塚では、縄文の後の時代、弥生、平安、室町の時代の遺跡も発掘され、ここにずっと人が住みづづけて来たことを教えてくれます。縄文から続く幸せな雰囲気が里浜貝塚には確かに流れています。奥松島縄文村歴史資料館は現在、震災の影響で閉館中ですが、スタッフの方は来年3月19日の開館のために、準備に奔走しています。また近くの住民が資料館に集まって、土器の整理などに尽力しています。


 外洋に面していることもあり、宮戸島は東日本大震災の被害の大きい地域ですが、宮戸島に渡る唯一の橋は、震災後ただちに復旧され渡ることができます。宮戸島の4つの集落、里浜・月浜・室浜・大浜では民宿も動き始め、泊まることができます。宮戸島に渡り、震災の被害を目の当たりにすると、漁師さんや資料館の方に声をかけるのに勇気がいりました。しかし、一度話すと、宮戸島の人々は驚くほど明るく前向きに、目の前のことに向かわれていました。宮戸島には、松島には、未来があるんだと感じさせてくれる明るさがありました。そして、宮戸島、松島に足を運んだことをすごく歓迎してくれます。ぜひ皆さんも、今の松島を訪れて欲しいと思います。きっとこれから寒くなって、景色はよりすばらしく、食はぐっと美味しくなってきます。そして松島の方々にぜひ声をかけてみて下さい。

投稿時間:10:14 | カテゴリ:ディレクターおすすめスポット | 固定リンク


2011年11月01日 (火)

松島の美とは・・?

「松島」の取材を担当した堀部です。松島と言えば「日本三景」の一つ、松尾芭蕉も絶句したと言う景勝地。その地に着く前から、誰もが身構えてしまうネームバリューがあります。さて、いざ目の前にその多島海(たとうかい)の美がひろがると、これはもうどこそこと比べるという次元を超えて「あぁここは特別な場所なんだな」ということが、なんというか身体全身に伝わってきます。そして、多島海の美が日本三景を生んだのですが、そこにはもう一つ秘密があり、景観が素晴らしいと言うことは重層な意味を持っているのだと今回の取材を通して学びました。そして、我慢できずに「松島や ああ松島や 松島や」と口をついてしまいます。ちなみにこの「松島や〜」は芭蕉の詠んだ句ではなく、江戸時代の狂言師の言葉が変化して伝わったものだと言われています。
 さて、撮影を始めて、まず最初にぶつかった関門はその「絶景を撮る」ことの難しさでした。目の前に広がるのは確かに絶景なのですが、それをカメラにおさめると言うのはまた違う話。今回、撮影を担当していただいたベテラン名カメラマンは、松島に着いた初日に「松島にベストショットはないんだ」と言いました。どこか決まった場所に行けば「はい、これが松島の美しさですよ」という所謂「分かりやすい絵」が撮れるわけではないんだ、という意味です。晴れの日も、雨の日も松島中(今回の取材は松島湾を中心に松島町・塩竈市・七ヶ浜町・利府町・東松島市に及んでいます)を回って描いた重層的な松島の美を見ていただければと思います。
 松島の美を撮るにあたって、地元の人にお話を伺う中でみなさん口を揃えておっしゃるのが「松島は寒くなってからが美しい」ということでした。寒くなって空気が澄み、海の色も変わって来るそうです。また松島には年に数回ほど雪が降るのですが、その雪に包まれた松島は本当に素晴らしいんだと、みなさん目をうっとりさせて語って下さいました。しかし残念ながら我々の取材期間は9月まで、どうしても夏の松島しか撮れません。そんな我々に希望を与えてくださったのは地元のアマチュアカメラマン・岩渕喜久男さんでした。日の出を撮るために、撮影ポイントごとに「日の出の方角と時間」の回転式早見表を作成するほどで、松島の撮影を誰よりも知る方です。その岩渕さんはただ1人「夏の松島も良いよ」と言いました。「夏はね、海から上がるもやが島を包むのが良いんだ」その言葉は私たちに大きなヒントを与えてくれました。

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 写真1 岩渕さんが撮った夏の松島。靄がかかり幻想的な島々。

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写真2 岩渕さんが撮った雪の松島。確かにこれは一度は訪れたい雪景色

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写真3 岩渕さんが撮った松島の日の出。日の出は一度たりとも同じ日はない。あなたにとって特別の日の出を!


他にも、お伝えしたいことがたくさんあります。次回は、松島で出会った、海の男たちについて書きたいと思います。

投稿時間:10:20 | カテゴリ:ディレクターおすすめスポット | 固定リンク


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