2021年12月13日 (月)きっかけは1件のツイート 非常電話"8割故障"の衝撃 

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「名阪国道、非常電話で連絡しようとおもったけど、全部故障してる。一体どうなってんのよ」

 

先日、こんな内容のツイートがあるという連絡が、私のスマートフォンのメールに届きました。非常電話は、高速道路や自動車専用道路などで、いざという時に大切な存在。それがなぜ“全部”故障しているのか…。連絡をもとに取材を始めると、インフラをめぐる“変化の兆し”が見えてきました。

 

(津放送局 周防則志)

 

“SoLT”から届いたメール

 

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東京・渋谷にあるNHK放送センター。記者やデスクが集まる、いわば取材の中枢部分に「SoLT」=「Social Listening Team」はあります。「SoLT」では、ツイッターなどソーシャルメディア上に投稿された事件や事故の一報のほか、ネットで話題になったり、“炎上”したりしている事案を1年365日チェック。必要な情報を全国各地のNHKの放送局にいる記者などに知らせています。

 

私の元にも、火事や交通事故などの情報が週に何度か届き、取材に当たっていますが、この日のメールで寄せられたツイートは特に目を引くものでした。

 

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「名阪国道の、針から亀山方面に走ってたら、途中に金属の台みたいなの落ちてた。あぶないから、非常電話で連絡しようとおもったけど、全部故障してる。一体どうなってんのよ」

 

いいねは1件、リツイートは0件とほとんど拡散していない情報です。ただ、文面から見ても、ちょっとした故障ではなく、大変なことが起きているかもしれない。これはすぐに取材を始めないといけないと感じました。

 

すぐに、名阪国道を管理する国土交通省の北勢国道事務所に電話をかけたところ、落下物についてはすでに撤去済みだということ。さらに「非常電話が複数故障しているという話もあるが…」と聞くと、「確認して折り返す」と回答されました。

 

ここも、次も、その次も…みんな故障

  

ツイートをした、大阪市在住の『ぢぞう』さんにも話を聞きました。

 

この日、大阪から滋賀県の信楽に向かう途中で、バイクで名阪国道を走っていたという、ぢぞうさん。道路上に落下物を見つけたため、一番近くにある非常電話で通報しようとしたと言います。

 

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しかし、たどりつくと「故障中」の貼り紙。それならしかたないと、次の非常電話に向かうと…なんとそちらも「故障中」。不審に思って、そこから先は非常電話に注意してバイクで走っていくと、確認できたすべての非常電話が使えなくなっていたと言うのです。

 

「最初に見たときは、機械の切り替えでもするのだろうかと思ったのですが、気になってツイートしました。ただ、その後調べてみても更新工事のお知らせなどが出ておらず不思議に思っていました。

 『今時、携帯電話があるよ』という考えもあるかもしれません。でも、非常電話を1度使ったことがあるのですが、つながると場所が相手に自動でわかる仕組みなので、知らない土地でも安心できます。公衆電話がなくなっていくような、時代の移り変わりとも言えますが、やはりないのは不安ですね…」(ぢぞうさん)

 

8割以上の非常電話が故障

 

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後日、問い合わせをした国道事務所から連絡が来ました。

 

「現在、名阪国道に設置されている非常電話136台のうち、116台が経年劣化などで故障しています」

 

計算してみると、8割以上が故障していることになります。これはただごとではない。さらに取材を進めることにしました。

 

大動脈「名阪国道」の歴史

 

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「名阪国道」は、三重県の亀山インターチェンジと奈良県の天理インターチェンジの間を結ぶ無料の自動車専用道路です。

 

亀山インターチェンジでは、名古屋につながる高速道路の東名阪自動車道と、天理インターチェンジでは、大阪につながる高速道路の西名阪自動車道とそれぞれ接続しています。中部圏と関西圏を結ぶまさに“大動脈”です。

 

この名阪国道のうち、北勢国道事務所が管理する、亀山インターチェンジから奈良県の針インターチェンジまでのおよそ60キロの区間の上下線で、8割以上の非常電話が故障しているというのです。

 

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故障していない残りの2割弱、20台は、いずれも設置が義務となっているトンネル内。ぢぞうさんが見たように、実質、トンネル以外のすべてで使えない状態だったことになります。

 

名阪国道の成り立ちが影響か

 

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国土交通省によると、有料の自動車専用道路の場合、非常電話の設置は義務ですが、無料の場合は一般国道に分類され、トンネルを除き設置は義務ではなく、必要に応じて設置するものだといいます。では無料で、そもそも義務ではない名阪国道になぜ非常電話があるのでしょうか。

 

交通政策に詳しい関西大学の安部誠治教授は、名阪国道の成り立ちが影響しているのではないかと話します。

 

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「当初、国では名古屋と大阪の間すべてを有料の自動車専用道路で結ぶことを計画していたんです。しかし、奈良県と三重県からの要望を受けて、現在の名阪国道に当たる部分を無料の自動車専用道路として整備することになったんですね。
名阪国道は無料ではありますが、いずれも有料となっている現在の東名阪自動車道や西名阪自動車道と一緒に整備される中で、非常電話が設置されたのではないでしょうか」(安部教授)

 

つまり、名古屋から大阪を結ぶ道路のうち、東部分にあたる東名阪自動車道と、西部分に当たる西名阪自動車道は有料なので、非常電話が必要で設置。その2つの間の部分にあたる名阪国道も、その流れで非常電話が設置されたのではないかというのです。

 

非常電話 そして撤去へ…

 

とはいえ、設置したのに故障したままの状態になっていると危険です。

 

この点について安部教授は「携帯電話が普及するのに伴って、非常電話が使われなくなっていく。その中で、故障したとしても修理されずに、そのまま放置されたのではないでしょうか。利用者が使おうと思ったときに使えないのも、誤解を招く可能性もあります。早急に撤去すべきですね」と話します。

 

では、今後どうするのか。北勢国道事務所に聞くと…。

 

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「古くて部品が製造されていない電話もあり、更新は難しいです。時期は決まっていませんが、トンネル以外の非常電話のすべてを撤去することを検討しています」(北勢国道事務所 草川保重 副所長)

 

という回答が。すでに非常電話からは電話線が抜かれているほか、「故障中」としている非常電話の中には、意図的に使えなくしているものもあり、撤去の準備が進んでいるといいます。

 

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一方、安全面については、名阪国道には130台以上のカメラが設置され、道路の状況を24時間監視する態勢をとっているため、事故や落下物などがあってもすぐに対応できるとしています。

 

ほかの高速などはどうなの?

 

こうした事態、ほかの高速道路などでも起きているのでしょうか。

 

東名高速道路や伊勢湾岸自動車道などを管理するNEXCO中日本では、非常電話が故障した場合、道路管制センターに自動で連絡が行き、保守員が対応。また、名古屋支社管内だけでも、去年1年間でおよそ1万3000件の非常電話の利用があったといいます。そのため、今後も撤去予定はないとしています。

 

全国の状況を調べたわけではありませんが、誰もが携帯電話を持つようになったからと言って、すぐに非常電話がなくなるというわけではなさそうです。

 

安全かコストか…“変化の兆し”

 

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使われなくなりつつあるものの、すべてを維持していくとなるとコストがかかる…。でも、完全になくしてしまうのは安全上どうなのだろうか…。

  

安全に勝るものはありませんが、どちらが正しいか、すぐに結論を出すのは難しい問題です。技術が発展し、社会のあり方が大きく変わる中で、これまでとは異なる形で安全を担保する、そういう変化が、今後各地で起きていくのかも知れません。そして、今回の名阪国道はその始まりだったのかもしれないとも思っています。

 

奇しくも、今回取材のきっかけとなったのは、1件のツイートと、それを伝えてくれた「SoLT」という新しい技術の存在でした。取材の端緒といえば、「人から直接聞いてくる」ことが当たり前だったころから考えると、大きな変化です。

 

インフラも、報道機関も常に変わり続けていることを実感した取材になりました。

 

 

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周防則志 2020年入局

“地域の課題を解決する”報道を目指している

 

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:14:00


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