【みえDE川柳】 お題:薬
ポケットの飴がわたしの常備薬/まゆゆさん
「ポケットの飴(あめ)」と言えば、いわゆる「大阪のおばちゃん」が連想される。持ち歩きに便利で安価、小腹を満たすにも退屈しのぎにも、人間関係作りにまで役立つ飴は、常備薬には最適、最強のアイテムである。その効能は誰もが思い浮かべるだろうし、私も持ってるよと共感する人も多いだろう。
何を常備薬にするかは人によって違うだろうが、多くの人を納得させる常備薬として「ポケットの飴」を思いついたことが、この句のお手柄である。
母さんの指は全部が薬指/せきぼーさん
「手当て」という言葉は、文字通(どお)り「手を当てる」ことが語源だと聞いたことがある。手を当てて診察や治療をするのは医者だが、安心感を与えるには母親の手が一番である。
この句の「薬指」はまさに薬を塗る指、手当てをする指である。薬指に限らず、全ての指が、ひいては「母さん」の存在そのものが、最良の薬なのだろう。母親の句は多かったが、易しい言葉ですっきりと述べたこの句が光った。
念のため柩に薬入れる通夜/福村まことさん
柩(ひつぎ)には、愛用の品や大切にしていたものを入れることが多い。故人は晩年、薬が手放せなかったのだろう。三途(さんず)の川を渡る途中で体調を崩したりしては困るだろうと、薬を持たせるというのだ。あるいは故人が几帳面(きちょうめん)な人柄で、薬がないと飲み忘れを気に病むだろうと思ったのかもしれない。いずれにせよ、家族の故人に対する愛情が感じられる句である。
<入選>
薬飲むおいしそうねと孫の顔/大澤 葵さん
約束はすぐに忘れる薬指/夜半亭あぶらー虫さん
病人の姿で薬飲んでます/久実さん
薬より効く先生の大丈夫/ゆずきちゃんさん
旅先で金庫に入れる飲み薬/あおちゃんさん
気休めと分かっていても飲む薬/かぐや姫さん
朝の膳おかずみたいに出る薬/あさか舞さん
デザートはひいふうみいと薬飲み/三太郎さん
処方薬飲むさす塗ると忙しい/オクラの花さん
病院から薬局までの遠い道/たごまる子さん
橋倉久美子先生
433句いただきました。時節柄コロナに特効薬が欲しいという句の他、薬の多さを詠んだ句や「百薬の長」の句が多かったように思います。「母」や「恋」を使った句も、意外とたくさんありました。
薬が多いとか飲み忘れるとかは、経験している人も多いので共感は呼ぶものの、よくある内容になってしまい、独自の表現がないとなかなか入選には至りません。あまり人が思いつかない「もの」や「こと」まで発想を広げられると、おもしろい句が生まれる可能性が高くなります。
中八、下六など、五・七・五ではない句がかなりありました。川柳はリズムのよさが大切なので、中七、下五は守ってほしいと思います。上五は少し長くてもリズムは崩れにくいので、どうしても長くなるなら、上五に持ってきてみてください。