2022年6月

【みえDE川柳】 お題:刻む

天 映画より泣ける玉ねぎみじん切り/田舎のマダムさん

橋倉久美子先生 句の中で二つのものを並べたり比べたりするときは、その取り合わせがカギとなる。意外性がありながら納得させられるものがよいが、両者の距離が遠いほど成功する可能性が高い。この句では、「泣ける」ものとして「映画」と「玉ねぎみじん切り」を並べて、成功している。
 「刻む」の題にタマネギやネギの句はたくさんあった。言わば第一発想である。「第一発想は捨てよ」とよく言われるが、第一発想であっても、そこからの広げ方によっておもしろい句になる好例と言えるだろう。

 

地 刻むより千切る男の粗料理/岩窟王さん

橋倉久美子先生 この句を読んですぐに思い浮かべたのはキャベツ。ちまちまと千切りにしてドレッシングをかけるのではなく、大振りに手でちぎってウスターソースで食べるイメージを持った。「粗料理」は魚のアラではなく一種の造語と受け取ったが、雰囲気のうまく表れた言葉だと思う。
 もっともこのごろは刻んだりカットしたりした野菜もごく普通に店頭に並んでいるし、包丁よりキッチンバサミをよく使うという声も聞く。男の料理に限らず、また千切るかどうかは別として、「刻む」という行為は減っているのかもしれない。

 

人 ライバルと刻んだ記録だと思う/ジャック天野さん

橋倉久美子先生 記録を刻むということは、1分1秒、あるいは1センチ1ミリを競う陸上競技だろうか。水泳や、スピードスケート、スキージャンプかもしれない。いずれにせよ、ライバルと切磋琢磨しながら、少しずつ少しずつ記録を作ってきたのである。
 ぶっきらぼうに言い放ったような句だが、その口ぶりから、ライバルへの感謝や畏敬の念、こつこつと努力してきた自信と誇り、そしてほんの少しの照れまでが感じられる。「ライバル」は川柳でよく使われる題材だが、この句ではプラスの存在として、うまく用いている。

 

<入選>

包丁の手元も香る新生姜/オクラの花さん

古時計時間を刻むのも忘れ/ムギさん

世界史に刻む愚行を見るライブ/船岡五郎さん

刻まれた名前の重さ鎮魂碑/ゆうさん

アナログの時計愚直に時刻む/草かんむりさん

雨垂れが刻むリズムで知る雨量/戴 けいこさん

放課後の僕の予定は分刻み/みくさん

背を向けてひたすらキャベツ刻む妻/汐海 岬さん

刻まれた名も風化する墓仕舞い/比呂ちゃんさん

刻んでもブランド名で売る和牛/福村まことさん

 

橋倉久美子先生 橋倉久美子先生

 365句のご投句をいただきました。ありがとうございます。
 ネギやタマネギ、しわ、時間、碑や石が多かったかと思いますが、意外性のある句も多く、楽しませてもらいました。ただ、意外性はあるものの、やや無理のある句やわかりにくい句もありました。また、「刻む」という言葉を使っていない句の中には、「刻む」という題があまり感じられないものもありました。
 よい川柳は、意外性がありながら、読者に「わかるわかる」と共感させたり、「なるほど」と納得させたりする力があります。ただしその前提として、読者にちゃんと伝わることが大切です。意外性を求めるあまり、わかりにくい句や題を離れた句になっていないか、もう一度確かめてみましょう。

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50 | 過去の入選作 |   | 固定リンク


【旬食!みえ】 モロヘイヤのカレー

料理監修:三重調理専門学校

モロヘイヤのカレー

《「モロヘイヤのカレー」作り方》

《材 料(4人分)》
モロヘイヤ     200g
たまねぎ      1/2個
にんにく      20g
しょうが      2かけ
マッシュルーム   100g
サラダ油      大さじ1
塩         少々
豚ミンチ      200g
鶏がらだし     大さじ2
カレー粉      大さじ2
固形スープのもと  2個
トマトの水煮    400g
水         100ml
生クリーム     200ml

 

〈作り方〉
① モロヘイヤの葉と茎を分け、葉の部分をカレーの具として使う。
② 塩を入れたお湯でモロヘイヤを30秒ほどゆで、氷水で冷やす。
③ 粗熱をとったモロヘイヤを細かく切り、粘りを引き出す。
④ たまねぎ、にんにく、しょうがをみじん切りに、マッシュルームを薄切りにする。
⑤ 油をひいたフライパンで、にんにく、しょうがを炒める。
⑥ 香りが出たら、塩で下味をつけた豚ミンチを加え、ほぐれるまで炒める。
⑦ 玉ねぎを加え、やわらかくなってきたら、マッシュルームを入れ火を通す。
⑧ 鶏がらだし、カレー粉、固形スープのもと、トマトの水煮、水を加える。
⑨ 煮立ってきたらモロヘイヤを入れ、全体にとろみがつくようよくかき混ぜる。
⑩ 仕上げに生クリームを加え、軽くかき混ぜたらできあがり。

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:12:00 | 旬食みえ レシピ集 |   | 固定リンク


オータマのもっかい会いたい~志摩マリンランド編~

志摩市の水族館「志摩マリンランド」が営業を休止して約1年。

マリンランドに関わった方々や動物たちの今をお伝えしました。

 

まず元館長の里中知之さん。

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いなべ市が行うネコギギの保護事業に携わっていらっしゃいます。

ネコギギは国の天然記念物に指定されている淡水魚。

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里中さんは「ネコギギを通して自然の大切さを子供たちに伝えたい」

と話してくれました。

 

続いて会いに行ったのはケヅメリクガメのセイラさん。

今は伊勢市の伊勢シーパラダイスで元気に暮らしていました。

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約12年前、セイラさんの体を洗ったりえさをやったり

お世話をさせていただきました。

当時はセイラさんを軽々と持ち上げていましたが、、、

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現在は30キロを超えて持ち上げるのも一苦労。

だいぶ大きくなりました。

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セイラさんを飼育するのは

同じく志摩マリンランドからやってきた安部瑞貴さん。

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安部さんは主に魚類や両生類を担当されています。

タイミングが合えば、セイラさんのお食事タイムはもちろん、

安部さんが膝にイグアナをのせてえさをやる姿が見られるかも!

 

こちらはペンギンのニットちゃん。(手前真ん中)

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マリンランドからやってきてすぐ環境にも慣れ

パートナーを見つけて赤ちゃんも誕生しました。

 

ニットちゃんをお世話するのは飼育係の森本陽介さん。

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森本さんはペンギンをはじめトド、アシカ、イルカなど海獣担当。

目標とするのはシーパラダイスの田村龍太館長なんですって!

 

その田村館長は「志摩マリンランドの思いも受け継いで

一生懸命お世話して、元気に長生きしてもらえるように

頑張ります」とおっしゃっていました。

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マリンランドにあったマンボウのモニュメントは紀北町の道の駅へ。

一部のケープペンギンは香川県にある四国水族館へ。

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四国水族館の方によると、ペンギンたちは病気もせずに

もとからいるペンギンたちとも仲良くしているそうです。

 

場所はそれぞれ違いますが、新天地で元気に暮らしている

方々や動物たちに会うことができました。

お世話になったみなさん、ありがとうございました。

 

番外編です。

ネコギギポーズ↓↓

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左から、いなべ市教育委員会の矢﨑充彦さん、里中さん、

佐藤俊介さん。実は佐藤さんには以前別の取材でお世話になっていて

約10年ぶりの再会でした。

 

伊勢シーパラダイスの皆さんです。

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今回の撮影は実は海獣が苦手という滝口カメラマンでした。

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投稿者:太田磨理 | 投稿時間:21:00 | 太田磨理 |   | 固定リンク


バスケ「ヴィアティン三重」B3参入決定!【太田磨理】

バスケットボールチーム「ヴィアティン三重」は

三重県で初めてプロバスケリーグ「Bリーグ」の下部組織

B3参入が決まりました。

そこで5月のまるっとトークでは「ヴィアティン三重」の

中心選手、阿部祐也選手をお招きしました。

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持ち味であるスピードを生かしたプレーはもちろん、

ハードなディフェンスもこなします。

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B3リーグの選手は、仕事をしながら活動している人が

ほとんど。

阿部選手は、今年度から津工業高校の教諭を

務めています。

学校の先生とBリーガーの二刀流です!

 

阿部選手は「B3でチームが活躍することで

三重のバスケットボールのレベルアップや

地域の活性化に貢献したい」と話してくれました。

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B3リーグは秋に開幕。

阿部選手の活躍も楽しみですね!

応援しましょう!!

 

実はお茶目な阿部選手です。

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投稿者:太田磨理 | 投稿時間:20:45 | 太田磨理 |   | 固定リンク


オータマのもっかい会いたいin関宿

5月に訪れたのは亀山市の関宿。

江戸時代から続く町並みが今も残っています。

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まず約10年ぶりに会いにいったのは

創業約380年の老舗和菓子屋14代目、

服部亜樹さん。

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そして妻の理佳さん。

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この10年の間に、なんと亜樹さんが忍者の末えいであることがわかる

古文書が発見されました!

歴史学者の方によると、服部家は多くの先祖が

忍びの経歴を持っていたことがうかがえるそうです。

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忍者は保存食の技術にたけていたので、

この伝統の和菓子も忍法で作られたお菓子かも。

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さらに亜樹さんは去年カフェをオープンしました。

そこは洋菓子とコーヒーが楽しめるカフェ!!

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しかも中庭にはPOPアートが描かれています。異空間!

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亜樹さんは「カフェで異空間を感じてもらうと

また関宿が違う目で見られる。

100年後に、より価値のある関宿になっていてほしい」と

話してくれました。

 

続いて会いに行ったのはアメリカ出身のブライアン・マホニーさん。

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関宿祇園夏まつりの祭ばやしに参加しています。

関宿の美しさに魅了され、関宿に住んで20年。

現在は三重大学の講師などを務め家族と暮らしています。

「まつりと町並みのマッチングが最高!」とのこと。

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今回お世話になった関の山車会館の西川さん(左)と川上さん。

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関宿は忍者の末えいも海外の人も魅了するまちでした!

関宿の皆さん、お世話になりました。 

投稿者:太田磨理 | 投稿時間:20:12 | 太田磨理 |   | 固定リンク


おさんぽ!みえ 宮川が流れる大台町を訪ねました!

今回おさんぽしたのは、大台町。

町を流れる一級河川の宮川は、

日本有数の清流として知られています。

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あゆ釣りが解禁になった宮川で

釣りをしていたのは、

宮川上流漁協の組合長、細渕元彦さんです。

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細渕さんが見せてくれたのは、友釣り。

おとりのあゆを糸につないで泳がせる

釣り方です。

縄張り意識の強いあゆが、

おとりを追い出そうと当たってきたところを

針にかけます。

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きれいな水で育ったあゆを求めて、

宮川には全国から釣り人が訪れるそうです。

 

私も人生初めての友釣りに挑戦!

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釣り始めてすぐ、

なんと、あゆがかかりました! が・・・

釣り上げた直後に針から外れ、

逃げられてしまいました(涙)

 

漁協では、

より多くの人にあゆに親しんでもらいたいと

つかみ取りができる場所も設けています。

水位が低く、子どもでも楽しめます。

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動きの速いあゆに翻弄されながらも・・・

なんとか捕まえました!

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取ったあゆはその場で塩焼きにして食べられます!

身はふわふわ、外の皮は香ばしくて

おいしかったです(^^)

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さらに、こちらは6月から始まった食堂。

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天ぷらや酢の物、刺身など

本格的なあゆ料理を味わえます。

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食堂は9月まで開かれています。

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宮川上流漁協の皆さん、

ご協力頂きありがとうございました。

 

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:15:19 | 大橋和綺 |   | 固定リンク


"隠さず生きる"統合失調症 親と子の30年

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ある日突然、自分の家族が、実際には起きていない“妄想”を訴えてきたとしたら…。そしてその“妄想”によってひどく苦しみ始めたとしたら…。どれだけの人が、そのことを周囲の人に包み隠さず伝え、助けを求めることができるだろうか。

 

病気による「症状」と、理解されにくさから生まれる「偏見」の“二重の苦しみ”に襲われる統合失調症。この病を隠さずに生きる道を選択した、ある親子がいる。

 

(津放送局 鈴木壮一郎)

 

“子どもと死ぬことばかり考えていた”

 

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「この子を車に乗せたまま川に突っ込もうかいな、山に連れて行って2人で死のうかいな…。いっときは死ぬことばかり考えましたよ。本人が『痛い』『つらい』と泣き叫ぶ姿を見て」

  

津市で暮らす河村淑子さん(81)は、統合失調症に苦しんできた長女と一緒に暮らしてきた過去をそう振り返る。長女の朋子さん(56)に異変が生じたのは今から30年ほど前、25歳の時だった。ある日突然苦痛を訴え、泣き叫び始めたという。

  

「『生きとんのがつらい。苦しい。ただ苦しい』と言って泣き叫ぶ。それだけです。わぁわぁと、幼稚園の子が泣くように泣き叫ぶ。病院に行っても泣いているから、みんな朋子の方を見るんですけど、その当時は私もいささか閉口しましたね」(淑子さん)

  

発症で全てが一変…苦しむ親子

 

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「頭の中に手を突っ込まれて、脳みそをかき混ぜられるような感覚とか、アスファルトに小石をコロンと投げつけたような幻聴とか、そういったものがありました」

 

周囲はなぜ朋子さんが泣き叫ぶのか理解できない一方で、朋子さんは当時の症状について、そう説明する。

 

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朋子さんは、三重県南部の町で生まれ育った。小さいころから手のかからない子で、高校時代には剣道部のキャプテンを務めた。学生時代は「スチュワーデスになりたい」と将来の夢を語っていたという。短大では栄養士の資格を取得し、仕事で忙しい父に栄養バランスを考えた晩ご飯を作ることも。

 

「多くの友人に恵まれるように」と願って付けられた“朋子”という名前の通り、海外に多くのペンフレンドを持ち、自宅の壁には世界各国の友人からプレゼントされたカレンダーが今も並ぶ。

 

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しかし、朋子さんの生活は統合失調症が発症したことで大きく変わってしまった。当時、県の職員として働いていたが、職場に行くこともできなくなった。最初に通った病院ではうつ病と診断されたが、治療を受けても症状はよくならない。入退院を繰り返し、いくつかの病院を渡り歩いた末、発症から9年後に下された病名が「統合失調症」だったのだ。

 

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「私の胎教が悪かったんやろうかとか、育て方が悪かったんやろうかとか。自分を責めるしかないですもん。未だに思いますよ。満足に生んであげられなくて申し訳なかったな」

 

淑子さんは、朋子さんが苦しむ様子を見て、自分のことを責め続けた。

  

“二重の苦しみ”をもたらす病

 

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統合失調症は、脳のさまざまな働きをまとめることが難しくなり、幻覚や妄想などの症状が起こるとされている。

 

「テレビで自分の悪口が流されている」

「隣人が自分の家を盗聴している」

  

実際には起きていないことを信じたり、知覚に異常を来してしまったりする症状などが挙げられる。本人は実際には存在しない “悪口”や“盗聴”に苦しむ一方で、周囲にはその苦しみが理解されにくい。

 

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かつては、「精神分裂病」と呼ばれ、差別された歴史もある。病気による症状と理解されにくさという、いわば“二重の苦しみ”によって、当事者やその家族に孤立をもたらす統合失調症だが、決して縁遠い病ではない。厚生労働省のホームページによると、発症する人は人口の0.7%と推計され、100人に1人弱の割合で発症するという。

 

朋子さんの場合には、激しい痛みを伴う“体感幻覚”も発症した。背中を刃物で突き刺されたような痛みを感じ、夜中に救急車を呼んだことも一度や二度ではない。

 

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「そのころは病気について何もわからなかったので『誰も刃物なんて刺してないよ』って、たださするだけ。『ここが痛いの?』『あそこが痛いの?』って言って、さするだけ。どうしていいかわからなかった」と、淑子さんは語る。

 

“頭がおかしい”“気持ち悪い”心ない言葉の数々

 

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病気に苦しむ一家をさらに追い詰めたのは、当時住んでいた近所の住民から向けられる偏見のまなざしだった。朋子さんは「頭がおかしくなった」と言われ、水をかけられ、石をぶつけられた。「朋子ちゃんは頭がおかしいから、気持ち悪いから」と言って、去って行った友人もいたという。

 

淑子さんは、当時の自宅から引っ越す際、近所の人からかけられた言葉が忘れられない。

 

「『朋子ちゃんは頭がおかしい。今度入る(引っ越してくる)人も、朋子ちゃんみたいな娘さんがおんのやろか』と言われました。横面張ったろうかと思うくらい腹立ちましたに。親に向かってそんなこと言うかと思って、涙が出ましたに。どこへ行って、何をして迷惑かけたわけでもないのに」

 

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娘の病気に苦しみ、偏見の目を向けられて周囲から孤立した淑子さんの頭に浮かぶのは、“2人で死のう”という考えだけだったという。

  

“隠さない”という選択の先に

 

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差別や偏見にさらされる中、淑子さんは引っ越しを機に、ある決断をした。朋子さんを偏見の目から守るため、あえて近所や周囲の人に対し、病気について説明して回ることにしたのだ。

 

「あるとき気付いたんですよ。隠してしまうと、せっかく生まれてきた子なのに、この子の人生がないやないかと。隠すということは、本人を否定してしまうことやないですか。100%この子の人権がなくなってくやないですか。親が見てやらなかったら誰が見てくれるんです。私はそう思って腹くくったんです」(淑子さん)

 

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いま、親子は、津市の古くからある住宅地の一角に暮らしている。ここに引っ越してきた11年前、淑子さんは、近所の一軒一軒にあいさつして回る際、朋子さんを連れて歩いたという。そして、それぞれの住民に、朋子さんには統合失調症という精神の疾患があること、どのような症状があるかということ、そして、「何かあったら助けて欲しい」と伝えた。

 

「さらにつよい偏見にさらされるのではないか」という不安を抱えつつ、あいさつに回った淑子さんたち。しかし、不安は杞憂だったという。近所の人たちに病気の説明をすると「ああそうですか、よろしくお願いします」といったように反応は拍子抜けするほど穏やかなものだったのだ。

 

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実際、今の朋子さんは社交的だ。近所には、都合がつけばお菓子を手にお互いの家を行き来して、お茶をする新たな友人もできた。それ以外にも共通の趣味を持つ友人も多い。松阪市にジャズを聴きに行ったかと思うと、京都まで友人と旅行に出かけた際の写真も見せてくれた。

  

淑子さんは「うれしいですね。『朋子ちゃん、今度焼肉食べに行こうな』と誘ってもらって、それだけよくしてもらえる。あの人車には乗らないから、運転手は私なんですよ」と言って笑う。

 

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そして、それは、朋子さんも同じだ。「生活が明るくなりました。差別されないから。生活がしやすくて、安心感が持てました。やっぱり偏見なく、1人の人間として見てくれることがうれしかったです」。そして、付け足すように「生きる希望を与えてくれます」と話してくれた。

 

親が子の病気を隠すことこそ偏見ではないか

 

統合失調症という周りからすれば理解するのが難しい病気を持つ家族にとって、そのことを公表するのは勇気がいることだろう。淑子さんも、これまでに出会った同じ境遇にある家族が「病気がある子のことを親が隠してしまう」様子を目の当たりにしてきた。

 

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「こういう病気を持つ子は皆(親が)隠すんですよ。家族が外へ出さない。私もそうでしたよ、最初は。何が起きたかわからんから、(朋子が)泣き叫ぶのを見て、恥ずかしかったですよ。『そんなに大きな声で泣かんといてさ』って、私言いよったですもん。それ、すなわち、もう偏見やないですか。『みっともないからやめてちょうだい』って言いよったですもん」

 

そうした中で淑子さんが気付いた「“隠す”ことは、本人を否定してしまうこと」という考え。朋子さんは、子どもの病気などで同じような思いに苦しむ家族たちに、オープンにして助けを求めることの大切さを説く。

 

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「30年、血を吐くような思い、死のうというような思い。いろんな思いがあって。苦しんでいる子を見てね、私“恥ずかしい”なんて、思えなくなったんですよ。だから、(病気の子を持つ)世間のお父さんとお母さん方も、余分なことをしゃべる必要はないですけども、つらいときは『こういうことがつらいんやわ』って、助けを求めてもいいんじゃないか。まず、親が偏見を持たない、恥ずかしがらないということです」

 

“統合失調症という病を隠さずに生きる”。偏見や差別に苦しんだ過去を経て、親子が選んだ生き方がそこにある。

 

 

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鈴木 壮一郎

2008年入局 初任地は津局 

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:17:00 | WEB特集 |   | 固定リンク


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