過去の入選作

2019年10月25日 (金)【みえDE川柳】 お題:読む

天 経を読む真水に戻れそうだから/水たまりさん

宮村典子先生 人間社会を生き続けるということは、善に傾き、悪に傾きの繰り返し。無垢(むく)な魂は、世の中の垢(あか)をつけて徐々に汚れてゆく。真水が濁水になるように。しかし、人生も終章に近くなるにつれて、人はその汚れを落とし、心を静めて無に還りたくなるのである。「戻れそうだから」は「戻りたい」という作者の祈り。その祈りが胸に沁(し)みてくる。

 

地 読心術マスターしたら生きられぬ/さだえばあちゃんさん

宮村典子先生 表情や動きから、人の心の内容を直感的に読み取る術(すべ)を会得したとしたら……。考えるだけで恐ろしい。心の内を覗いてみたい人がいるとしても、その本心は知らない方がいい。
もし、相手の態度と心の中の想(おも)いが真逆だったりしたら、人間不信に陥り闇を彷徨(さまよ)うことになる。自滅に繋(つな)がるだろう。
ある意味、人を疑わないことが無事にこの世を生きる術かも知れない。

 

人 あなた今ぼくを斜め読みしたでしょ/橙葉さん

宮村典子先生 <あなた今、ぼくを疑ったね><信用してない顔してるよ>を内心に込めて、「斜め読みしたでしょ」と言い放った作者。相手は異性? 仲間? 誰? などと想像が膨らむ。
穿(うが)ちを含んだ会話川柳の味を楽しみたい。

 

<入選>

サザエさん読んで忘れた胃の痛み/磯の香りさん

下書きを五度読み返しプロポーズ/汐海 岬さん

断捨離へ読み返してるラブレター/久実さん

妻よりも僕の心を読むペット/秋明菊さん

消費税アップの家計読めません/つれづれさん

台風に説教したい「空気読め!」/おーちゃんさん

教科書を読む先生の国訛り/宮のふみさん

読める字の前だけに立つ書道展/西井茜雲さん

読み終えたページにコスモスのしおり/やんちゃんさん

裏の裏読むと人相悪くなる/颯爽さん

 

宮村典子先生 宮村典子先生

  「読む」というお題は案外作りやすいと思いましたが、意外なものを読んだ作品が少なかったですね。「本を読む」「新聞を読む」「心を読む」「顔色を読む」などの常套(じょうとう)句が多く、そこから、それらをどう読むかの苦心が足りなかった気がします。よくある発想(常套句)だとしても、横から、斜めから、後ろから眺め直すと、言い得て妙な句に変身するでしょう。
多作もよろしいですが、一句を大事に生かす努力も大事です!天・地・人には<苦心>がありました。

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2019年09月27日 (金)【みえDE川柳】 お題:空(そら)

天 旅人の手に触れそうな天の川/水たまりさん

吉崎先生 「自分の手」ではなくて、「旅人の手に」と詠んだのが良かった。旅人とあることから、ここは当然旅先で、空気も澄み切っていて、満天の星が降っている場所だということが分かる。旅人はあちこち旅をしてきた。そして美しい星空も何度も眺めてきたけど、こんなに、手に触れそうなほど近い天の川を観()たのは初めてだったのだ。その感動が読みとれる作品。その旅人に自分の想(おも)いを託しているようにも思われる。人は皆、人生の旅人なのだ。これから先も天の川に触れるような良いことがあればいい。「旅人」と「天の川」の取り合わせも良かった。

 

地 噴水の空へ一途な片想い/福村まことさん

吉崎先生 自分の想(おも)いを噴水に託して詠んでいる。一途(いちず)に想い続けているのに相手には届かない。噴水も、空に恋しているのか憧れているのか、訴えたいことがあるのか、一途に空に向かってジャンプしている。その意味では間欠泉でもいいようだが、我々の生活空間にある噴水の方が身近でいい。何度トライしても届かない。その様子はまるで若き日の自分のようだ。噴水の単なる擬人化というより、噴水を作者の化身として詠んでいるようにも思える。届きそうで届かない恋心を詠んだ句だと解釈するほうが楽しい。

 

人 空と海眺めて終わる初デート/汐海 岬さん

吉崎先生 初々しさが伝わってくる。「空と海」は対義語である。課題詠の場合、課題の言葉との対義語を同じ扱いで詠むと、課題を半分しか消化していないと解される。だから「空ばかり」とすれば問題はないのだが、「空と海」で駄目なわけではない。空が少し弱くなるのは確かだが、ちゃんと空を先にして海を付け足す形にしてある。空があくまで主で海は従なのだ。空を見れば雲も海も当然眺めるだろう。リアリティが増す。建設的なことも話せずに終わった初デートのあっけなさ、ちょっと後悔している気持ちが充分(じゅうぶん)伝わってくる。

 

<入選>

いつの日か宇宙人にも会える空/オジギソウさん

アトラスよそろそろ腕も痺れるか/夜半亭あぶらー虫さん

窓枠を額縁にして夕焼ける/麦乃さん

妻の留守空の広さに気付かされ/安田蝸牛さん

寝て起きて食べて日本の空の下/ジンルージャさん

夕焼けを追いかけてゆく三輪車/ホッと射てさん

日暮れまで空が見守る滑り台/大澤 葵さん

運動会空模様だけ決まらない/みえさん

空ばかり見ている五限目の授業/アラレさん

青春の空8Kで記憶する/橙葉さん

 

吉崎先生 吉崎柳歩先生

 「空」は(から)とも(くう)とも読めますが、お題としては「空(そら)」と読み方も表示してありました。その表示が無ければ「空っぽ」や「空振り」、「空虚」でも良かったのですが、「お題の意味は一つであるべき」が原則です。「空そのもの」で詠まれるべきです。また、「上(うわ)の空」も多くありましたが、句意はどれも「心ここにあらず」の「上の空」でした。題意からは外れます。これらは恐縮ですが選外とさせていただきました。
 「空(そら)」はいつでもどこでも、我々の上空にあるだけに、川柳には既に無数に詠まれています。このようなお題なら、細かいところ、微妙なところを探して、誰も詠んだことのない空を詠まれると入選が近くなるでしょう。

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2019年08月30日 (金)【みえDE川柳】 お題:踊る

天 蟻の子の小さな嘘に踊る象/夜半亭あぶらー虫さん

宮村典子先生 立派な肩書を持ち、高い地位にあるが故に真実を見過ごしてしまう人間を象に喩(たと)え、弱い立場でつい嘘(うそ)をついてしまう人間を蟻(あり)の子に喩えて、人間社会を痛烈な視点で詠んでいる。力持ちになると気付かないうちに驕(おご)りが始まるのも人間の性(さが)かもしれない。しかし、気付かないところから崩れだすこともある。心細く生きると正義を見失ってしまうかもしれない。句は、比喩を効かして、他のどのような場面にもあり得る人間の姿を映す。

 

地 踊りたくなったら一人でも踊る/アラレさん

宮村典子先生 あれこれと忠告してくれたり、誘ってくれたり、うっとうしいほど世話をしてくれる人がいる。そんな人には「気にかけていただいて有難(ありがた)いですが、ほっといてください」と言いたくなる。が、普通はなかなか言えないものである。
 相手は、善意の押し売りをしているとは思っていないのだから。作者は、「本当にやりたいことは一人でもやる」という芯の強さで自分を守りながら、誰とでも楽しく踊って(行動して)いる気がする。共鳴したい。

 

人 終わらないこの世は仮面舞踏会/かぐや姫さん

宮村典子先生 生きることの難しさへの溜息(ためいき)。人の目を気にしないで、素のままの自分で生きたい……、言いたいことを言い、やりたいことをやって生きてみたい……という思いは誰にもあるが、何より「人間らしく生きる」という自制心を尊ぶ私たちは、無意識の意識で「らしく」を演じているのかも。「我慢」という仮面をつけて、この世の限りを懸命に生きていくしかないのだろうか。なんだか切ない。

 

<入選>

遅刻まで5分前髪踊りだす/汐海 岬さん

フラダンスシニアの笑顔べっぴんに/つれづれさん

ラブレターゴシック体も踊ってる/ゆみさん

白亜紀の恐竜踊る孫の絵で/スイッチさん

マドンナが来ると宴会踊りだす/ほのぼのさん

マネキンもガラスの靴で踊る夢/福村まことさん

踊るまでずっと拍手をし続ける/まゆゆさん

盆踊り炭坑節は外せない/葉ざくらさん

北斎の波にサーファー踊り出す/颯爽さん

イヤホンをつけて静かな盆踊り/さだえばあちゃんさん

 

宮村典子先生 宮村典子先生

  「踊る」というお題に対して、動作的(行動)な踊りや、心理的な踊りを寄せていただきましたが、もう一工夫欲しいなという作品が多かったですね。 そのままを書いてしまうと味が足りません。川柳にも調味料が必要なのです。料理と同じですね。調味料の匙(さじ)加減で、不味(まず)かったり美味(おい)しかったり。自分だけの味(オリジナル)を出すために、自分だけの川柳調味料(好奇心)を探ってみてください。天・地・人はとてもいい味が出ています。

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2019年06月28日 (金)【みえDE川柳】 お題:結ぶ

天 両端を結んで出来たアイシテル/まゆゆさん

宮村典子先生 何ごとかを結実させようとする時は、そのものごとの両端をしっかり押さえることが大事である。この作品は「アイシテル」に至った訳で、結んだのは『心』の両端だと思われる。結果、人間関係がスムーズになり喜んでいるのである。
 「アイシテル」と片仮名表記にして軽い「アイ」を演出している。

 

地 靴紐をきつく結んで乗る始発/汐海 岬さん

宮村典子先生 新しいことへの挑戦の旅か、あるいはやり直しの旅か。いずれにしても、目的に向かって、「しっかり歩まねば」の心意気、人生という旅路に向けての前向きな気持ちが窺(うかが)われる。人は誰も自分を見詰(みつ)め励ましながら生きてゆくのだ…、ということだろう。靴紐(くつひも)に決心を託して説得力のある句になった。

 

人 無造作に結んだ糸が解けない/あそかさん

宮村典子先生 「無造作」の意味は〈大変な事とは考えずに気軽にする様子〉である。なにげなくしたことが、こんがらがって厄介(やっかい)なことになったという経験をした人も多いだろう。なにごとも慎重に行うにこしたことはないのだが、気を張ってばかりでは神経が持たない。人生、まあ、ほどほどに……の緩さも必要かも知れない。

 

<入選>

むすんでひらいて聞かせてくれる電話口/ゆうこさん

ちょう結びできたよボクの大事件/かぐや姫さん

満天の星を結んで降る神話/福村まことさん

大凶の神籤結ばれ枯れる梅/夜半亭あぶらー虫さん

 電話切る母の結びはありがとう/スイッチさん

結び目が少し緩んでいい夫婦/安田蝸牛さん

ネクタイを結ばれ呪文かけられる/久実さん

横綱は一人で綱を結べない/デコやんさん

神様も困惑絵馬の外国語/よしじろうさん

手は二つ自立する手と結ぶ手と/渡辺勇三さん

 

宮村典子先生 宮村典子先生

  「靴紐」「夫婦仲」「ネクタイ」「縁」「おみくじ」を結んだ句がほとんどだったので、その中から、仕立て方、言葉の選び方、伝達性の有無などを考えながら選句しました。皆さんが同じことを考えていることに安心したり、なんとなく物足りなさを感じたり。意外なものを結ぶということに苦慮すると選者の目に留まる句になりますし、当たり前のことでも、「言い得て妙(なるほど上手(うま)く言っている)」な味を出せると佳句になると思います。川柳って作り甲斐(がい)がありますね! 

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2019年05月31日 (金)【みえDE川柳】 お題:期待

天 今度こそできる気がする逆上がり/月日備人さん

吉崎先生 期待とは、普通は自分以外の他人に対して抱くものだが、この句は、自分自身に期待しているのだ。将来の自分とか一年後の自分に期待するのなら解(わか)るが、この句はそうではない。失敗した直後の自分自身の技に期待しているのだ。直前の逆上がりでヒントを掴(つか)んだのだろう。そしてその予感はたいてい当たる。いわゆる、コツを掴んだのだ。
 奇(く)しくも天地人の3句とも題の言葉である「期待」を句の中に読み込んでいなかった。どれも眼(め)の付け所(どころ)が良かった。

 

地 文庫本読むふりをして待つ知らせ/汐海 岬さん

吉崎先生 文庫本を読むふりをしているのは、たぶん父親なのだろう。母親は、気になりながらも皿洗いなどをしていて、皿の一枚も床に落として割ってしまったかも知れない。息子さんかお嬢さんからのメールを今か今かと待っている図。高校受験か大学受験、就職試験かも知れない。結果が気になるが、お父さんは泰然自若、取り乱したら父親の沽券(こけん)に関わる。文庫本を読むふりをして聞き耳を立てている。
 たった17音字で、これだけの事情が推察できる。「期待」が浮かびあがってくる。

 

人 個人差があるというけど飲んでみる/ほのぼのさん

吉崎先生 この句は題の言葉「期待」が入っていないが、「飲んでみる」で、その成果を期待していることが容易に解(わか)る。ダイエットに効果のある飲み物、あるいは中性脂肪やコレステロールを減らすという謳(うた)い文句のある飲み物なのだろう。
 個人差があると言うけど、の「けど」は「それでも」という意味。駄目で元々(もともと)、効いてくれたら儲(もう)けもの、という庶民のいじらしい気持ちが滲(にじ)み出ている。人情の機微をうまく詠んだ川柳は良い川柳である。

 

<入選>

過疎地でも夢は膨らむランドセル/夢香さん

子にはして孫にはしない高望み/フーマーさん

期待などしていないよと言う期待/にった みささん

留年という妙薬に期待する/淺川八重子さん

期待した子がそれなりに出世する/本城恵美さん

ポストインもう当選を待っている/かぐや姫さん

手のひらの間から見るクラス替え/ぢゅんころりんさん

母の日の期待以上のネックレス/松ぽっくりさん

期待したほどではないがボーナス日/葉ざくらさん

期待値が高まるジャムのいい匂い/比呂ちゃんさん

 

吉崎先生 吉崎柳歩先生

 「期待」は抽象名詞ですが、「する」を付ければ「期待する」という動詞になります。何らかの動作や心の動きを表す抽象名詞に「する」を付けた動詞を「する動詞」と言います。机やエアコンなどの具象名詞が課題だと、それを句の中に読み込まずに表現することは難しいですが、「する動詞」の場合は可能です。読み込まないぶん表現域が拡(ひろ)がります。
 ただし、句を読んでみて、その課題の言葉が浮かびあがってくることが必要です。

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2019年04月26日 (金)【みえDE川柳】 お題:咲く

天 早く咲いたので老後が長すぎる/アラレさん

宮村典子先生 五七五音ではありませんが、「早く咲いたので・老後が長すぎる」と、八音・九音で言葉が繋(つな)がり総音数十七音になっています。句は、若くして何事かに成功し大成した作者の、少々の自慢と嘆きのように思えるが、その奥に、人生百年と言われる昨今、誰にとっても老後が長くなる訳で、長寿国日本で老人として生きる(生きねばならない)時、いろんな厳しい問題に直面するのではないか? と、長い老後への憂いが含まれている。社会問題を重ねて深い。

 

地 どう死のうどう生きようか桜咲く/橙葉さん

宮村典子先生 「生き死に」の句は、哲学的でもあるが、避けて通れない気がしている。自己の内面を探求するとき静かに湧いてくる想(おも)いを「桜」に託した死生観。想いが誰かに届くことを祈ろう。

 

人 お祝いが咲いて諭吉が散ってゆく/汐海 岬さん

宮村典子先生 お祝いが咲く、という発想がいい。意外なものを咲かせてこそ川柳。思いっきり諭吉が散る四月は、不幸なのか幸せなのか? それは人それぞれだとしても、この句からは、散ってゆく諭吉の顔が笑っている様が連想されて楽しい。
 的を射たユーモア味がある。

 

<入選>

令和咲くみんな時代の新入生/ジンルージャさん

真白な手帳に咲かすスケジュール/久実さん

わたくしも開花宣言いたします/いちかわいさおさん

君のペースでゆっくり咲けばいいんだよ/チェリーさん

子供って詩人だ星が咲くなんて/加藤当白さん

レンタルの着物に咲いた外国語/福村まことさん

週刊誌華咲かせたり散らしたり/ムギさん

遅咲きも枯れ木も混じるクラス会/デコやんさん

何色に咲くか迷っている蕾/渡辺勇三さん

咲いている花壇の脇の雑草も/かぐや姫さん

 

宮村典子先生 宮村典子先生

  何が咲いたか? どんなふうに咲かせたのか? 楽しい選句でした。時節柄、桜が咲いたという句が多くあり、お花見気分になりました。そんな中、視点の違う「桜」を「地」に、お題を咀嚼(そしゃく)し、どんなふうに表現するかに工夫があった句を「人」に、ウ~ンと唸(うな)る説得力のある句を天にいただきました。今月から「目指せ天地人」のコーナーが始まりましたので、是非参考にしていただき、どんなお題に対しても視野を広げ、想いを重ね、表現を工夫して挑戦を続けてください。川柳に触れていただき、作り続けていただくことが一番です。今年度もご一緒に川柳を楽しみましょう!

投稿者:みえ~るくん | 投稿時間:18:50 | 過去の入選作 |   | 固定リンク


2019年03月29日 (金)【みえDE川柳】 お題:開く

天 母さんの開店時間長すぎる/かぐや姫さん

吉崎先生 問題は「開店時間」だ。そのまま受け取ると母さんが家で何かのお店を開いているようにも取れる。例えば鯛(たい)焼き屋とか美容院とか…。だが、そう解釈するとこの句が生きてこない。この句の言う「開店時間」とは、母親業あるいは主婦業ということなのだ。母さんは、就寝時間以外は、ある意味営業時間なのだ。「営業時間」とすると、よけいに「商売」と間違われやすい。「開店時間」で良かった。作者は句の中で、「だからどうだ」とは一(ひと)言も言っていない。それでいいのだ。コトを詠めば思いは伝わる。母さんに対する感謝の思いが確実に伝わってくる。

 

地 グーチョキパーの順に開いていく新芽/さくらんぼさん

吉崎先生 この句には意表を突かれた。この句を読んですぐに連想したのは「辛夷(こぶし)」の新芽だった。蕾(つぼみ)がグー、半開きがチョキ、満開がパー。当たり前と言えば当たり前だが、おそらくまだ誰も川柳にはしていないだろう。早い者勝ちという川柳。どんな花でも、グーチョキパーの順番は成り立つとは思うが、形がどうかとか、そんな細かいことはどうでもいいのだ。作者もたぶん、辛夷の花が開いていく経過を見て、この句が閃(ひらめ)いたのではないか? そうであれば、選者としてはなお嬉(うれ)しい。

 

人 開いたらすぐに飛びたくなる花粉/ムギさん

吉崎先生 この場合の花粉は、やはり花粉症をもたらす杉花粉のことだろう。杉の雄花はあまり「開く」という感じはしないが、「花粉がすぐに飛ぶ」のは確か。いま正(まさ)に花粉症の最盛期で、タイムリーな句だった。日本人の四分の一が花粉症というから凄(すさ)まじい。
 この句の良さは、やはり花粉の擬人化にある。犬や猫などの動物、植物なら花や根などを擬人化した川柳は多いが、花粉はめずらしい。人間の生活に大いに関係する物質だったから成功したのだろう。「すぐに飛びたくなる」が良かった。

 

<入選>

半分もたまらず開ける貯金箱/毎日が日曜日さん

もう一度押せば開いた扉かも/渡辺勇三さん

新しいノート開けば鳩が出る/ブルードアさん

寝て起きて合格通知また開く/福村まことさん

自己紹介大きく開く鼻の穴/スイッチさん

何気なく開いた本に無我夢中/やんちゃんさん

内緒話だけに大きく開く耳/俊子さん

健診結果開封までの五秒間/いちかわいさおさん

3人になるまで開くクラス会/あけみちゃんさん

趣味の会いつも開いている門戸/デコやんさん

 

吉崎先生 吉崎柳歩先生

 「開く」というお題で、その反対語の「閉じる」「閉ざす」などの言葉を同格で読み込んだ句を、かなりの数見かけました。つまり、どちらの課題であっても句意は同じ、というわけですね。そのぶん訴える力が半減しました。また、「心を開く」「花開く」などの決まり文句の句も多かった。パスワードを忘れて開かないという句も、誰もが考えそうな着想です。お一人で何句応募しても構いませんが、なるべく違う着想の句を出しましょう。 
 中味(なかみ)があまり変わらないのでは、足の引っ張り合いになって損です。お題に縛られてはいても、独自の着想の句(あなたしか詠めない句)を詠むことを心掛けてください。

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2019年02月22日 (金)【みえDE川柳】 お題:勝つ

天 AIも母性愛にはかなわない/ほのぼのさん

宮村典子先生 AIとは、人工的に作成された知能を実装したコンピュータシステムやソフトウェアのことを指す。「人間を超える知能」「人工知能」で、産業、医療等いろんな場面で、その知的活動が実用化されつつある、と説明されている。
 凡人が理解するには難しい世界であるが、人工的な神様ということだろうか?
 一方「母性愛」は、人工知能の世界では決して生まれない、血の通った感情の世界に存在する唯一無二の「愛」の存在であると信じる。AIと母性愛を対比させた「勝つ」への着眼が光る。

 

地 もう一度勝ったら足を洗います/アラレさん

宮村典子先生 何に勝ったらとは言っていないが誰もが身に覚えがあって頷(うなず)かされる。「足を洗う」と言っているのでギャンブルかな? とも思えるが決してそればかりではないだろう。スポーツの場かも知れないし、政治家の言葉かも知れないし……。
 「もう一度」に拘(こだわ)るのは、勝利と敗北を繰り返した者の捨て台詞(ぜりふ)? 健気(けなげ)な決心? 諦め? 人間のやるせない性(さが)を詠んでとても意味の深い句。

 

人 ふくろうの首には誰も勝てません/ムギさん

宮村典子先生 ふくろうの首は180度回転して、真後ろを見ることが出来るらしい。全く誰も勝てないではないか。「勝つ」という題で「ふくろうの首」に気付いたのが凄(すご)い。静かに首を回しながら状況を把握し獲物を見つける確かな能力。ふくろうは「森の物知り博士」と言われているらしいが納得である。ふくろうの首の真似(まね)は出来ないので川柳アンテナを修理しよう。

 

<入選>

茶柱を一気飲みして勝ちにゆく/クジラさん

連名の賀状に恋の勝ち名乗り/牛美さん

最近は男も顔で勝負する/ゆずきちゃんさん

勝ちゲーム知ってゆっくり録画みる/渡辺勇三さん

力より神を信じる一点差/冬子さん

瓶の蓋開けるときだけ妻に勝ち/金子鋭一さん

生まれつき楽して食えるパンダ様/夜半亭あぶらー虫さん

勝利して一番先に泣く補欠/乙女ちゃんさん

懸命なリハビリいっぽまたいっぽ/葵さん

勝っている時は蕾に気付かない/紅梅さん

 

宮村典子先生 宮村典子先生

  477句のご投句に感謝です。一句一句、大切に読ませていただきました。「負けて勝つ」「妻に勝つ」「将棋に勝つ」の句が多く、第一発想のまま書かれたのを残念に思いました。最初に考えた句から五句ぐらいまでは思い切って捨ててください。すると、意外な発想が生まれるかも知れません。天・地・人の句にはそれがあります。でも、「川柳を作る楽しさ」「投句する楽しさ」をこの番組で味わっていただくのが一番です。そして更に入選を目指すという意欲を持っていただけたら嬉(うれ)しいですね。

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2019年01月25日 (金)【みえDE川柳】 お題:初(はつ)

天 返事だけ褒めてもらえた初出社/汐海 岬さん

吉崎先生 この句の初出社は、新年初めての出社ということではなく、新入社員の初出社のことだろう。まず新入社員の自己紹介から始まる。進行係の先輩社員が一人一人の名前を読み上げる。そして簡単な自己紹介…。
 新入社員の能力は未知数だ。彼らの将来は、やる気と努力に掛かっている。自己紹介の上手下手には関係がないのだ。社長(たぶん)は、新入社員一人一人の、名前を呼ばれたときの、元気のある返事に頼もしさを感じたのだ。いや、感じたふりをしたのかも知れない。どっちにしても、初出社を迎えるあたたかい雰囲気が伝わってくる。

 

地 象の鼻キリンの首にある初心/比呂ちゃんさん

吉崎先生 一読すると「はて、なんのことだろう?」という作品。作者には作句の意図があるのだから、しばし立ち止まって、それを読み取る努力をしてみるのも大切なこと。
 作者は、唐突に「象の鼻」と「キリンの首」を並べてきたが、「象の鼻」は象の強力な武器であり、生活の道具です。「キリンの首」にしても然(しか)り。高い木に成っている果物をなんなく食べることができるし、遠くの状況もいち早く察知できる。
 「象の鼻」「キリンの首」は、人間が誰でも持っている得意分野、長所の比喩なんですね。初心にあったのは、その自分の長所を伸ばそう、という抱負だったはずだ。

 

人 星星星人人人の初詣で/ホッと射てさん

吉崎先生 星と人をそれぞれ三つずつ並べて、初詣での雰囲気を表現して見せた意欲的な作品。伊勢神宮とか熱田神宮、鈴鹿市では椿大神社など、大きな神社だと、除夜の鐘を聴きつつ初詣でに出かけられる人も多い。空を見上げれば満天の星、具体的に、「大勢の人」「満天の星」などと言わず、「星星星人人人」と詠んだのがユニークだった。
 日本人は大昔から初詣でに行くことを楽しみにしてきた。それゆえ、お題が「初」でなくても「初詣で」を詠んだ句は無数にある。内容的に独自性のある句を詠むことが川柳の王道だが、この句のようにレトリックに工夫を凝らすのも一興。

 

<入選>

初体験元号の無いカレンダー/ゆきちさん

初夢は亡夫とデートをしてみたい/よっちゃんさん

初夢もやはりテストにうなされる/アラレさん

拝まれる訳を知らずに出る初日/デコやんさん

初顔が毎年増えるお正月/冬子さん

町工場男二人の初仕事/スイッチさん

初めてと言うとやさしくなる現場/こまっちょさん

合格の発表待って初滑り/よしじろうさん

初舞台顔を見せない馬の足/陽気爺さん

初挑戦あの悔しさは忘れない/ 佐藤邦夫さん

 

吉崎先生 吉崎柳歩先生

 新年に相応(ふさわ)しいお題でした。初夢や初詣で、初日の出など、初にまつわる句材はたくさんあります。みえDE川柳は「一人で何句まで」という制限はありません。句材をなるべく取り替え、また、視点も上下左右、異次元、動物、物体など、あらゆる角度に切り替えて詠んでみることをお奨(すす)めします。自分を解放して固定観念から脱却してみる。そうすると楽しく作句できるし、それでいて、その句の中にはちゃんと作者である貴方(あなた)が存在するでしょう。いつも言っていることですが、独創性が大切です。

投稿者:みえ~るくん | 投稿時間:18:50 | 過去の入選作 |   | 固定リンク


2018年12月21日 (金)【みえDE川柳】 お題:灯る

天 踏ん切りの尾灯が道なりに曲がる/橙葉さん

宮村典子先生 何かに迷っている作者。右か左か、それとも善か悪か? 心理的な悩みのような気がする。踏ん切りの尾灯は、中道(妥当)を選び、やっぱりの「道なり」を行く。「人生ってこういうもんさ」と踏むブレーキには少しの諦めと安堵(あんど)感がある。

 

地 居酒屋の灯は野武士への応援歌/渡辺勇三さん

宮村典子先生 「野武士」とは、主君を持たないいわゆるフリーの武士というところ。この句の「野武士」は、頑張っているサラリーマンや庶民だろう。居酒屋の灯は、ささやかに温かく彼らを包み、育てる。いつの世にあっても庶民にとっては大事な場所の愛(いと)しい灯りである。

 

人 アラジンの魔法のランプ出るスマホ/ゆずきちゃんさん

宮村典子先生 スマホを初めて手にしたときのビックリ感を思い出した。不思議だった。スマホはまるで「アラジンの魔法のランプ」のようだと思った。魔法のランプを出してくれるスマホは今や生活必需品として大活躍。着想がユニーク。

 

<入選>

シクラメン胸に灯して十二月/水たまりさん

一灯の小銭を入れる募金箱/あそかさん

そだねえが人の心に灯をともす/素人さん

ひと言がこころの灯りONにする/清詞薫さん

遠恋を励ますように月灯る/ぢゅんころりんさん

雲切れてスイッチ入れたような月/アラレさん

夕暮れの公園おしゃべりが灯る/汐海 岬さん

父だけが消灯時間守ってる/さだえばあちゃんさん

ひとり居の老人灯す年金日/にった みささん

思い出のページに灯る涙あと/久実さん

 

宮村典子先生 宮村典子先生

  「心の灯」「母の灯」「屋台の灯」が多く、どれも響き方が今一歩というところでした。上手なのですが、どこかで聞いたような見たような句や、上手そうなのですが意味がわからない句もありました。自分の切実な想(おも)いを込めるとしっかり伝わる句になると思います。また、誰も気が付かないような意外な見付(つ)けを得るように川柳アンテナを磨くことも大事です。来年もご一緒に川柳を楽しめますように……。

投稿者:みえ~るくん | 投稿時間:18:50 | 過去の入選作 |   | 固定リンク


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