過去の入選作

2020年07月31日 (金)【みえDE川柳】 お題:流す

天 私だけ水に流していた話/かぐや姫さん

丹川修先生 本来なら許しがたい話だが、そこは寛大な心で水に流すことにした作者。ところが、その話に立ち会っていた他の人から電話でもあったのか、次に会った時なのか「この間のあの人の話は一体どういうことなの。とても許せないわ」などと未(いま)だにプリプリ怒っている。水に流したのは自分だけだったのかと悩む。或(ある)いはその話の相手から、少し言い過ぎたかなと反省をするどころか、まだ言い足りぬとばかりに、追い打ちをかけられたのか。実生活に良くある一コマを巧(うま)く捉えた、このような「独り言」や「つぶやき」のなかに立派な川柳がある。

 

地 平等に天は流しているチャンス/加藤当白さん

丹川修先生 この句の「流す」は、他の作品とは違う「与える」という意味合いがある。天(神)だからこそ高いところから流し与えているのだろう。しかも平等に。ところが、チャンスをチャンスと捉えられないのが我々、凡人である。知らぬ間に来て、知らぬ間に去っていくのがチャンス。後で気付くのはまだ、ましと言える。大きな視野で捉えたところがこの句を面白くしている。

 

人 不都合は流してしまう自己都合/ポンタロウさん

丹川修先生 最近の、どこかの国のリーダーのことかと思わずニヤリとさせられた。或いは、どこの会社でも、家庭でも、友達同士でもよくあることですね。ただ、句の形として、同じ単語(都合)を繰り返し使っている。時として、ダジャレや言葉遊び川柳に陥ったりすることが多いが、この句の場合は、面白さが勝り、いやみのないリズム感あふれる句と評価させて戴(いただ)いた。

 

<入選>

武勇伝聴きつつ祖父の背を流す/アカエタカさん

校風を流し続けて来た校歌/ワン吉さん

しまい風呂今日の私を流しきる/花キャベツさん

聞き流す大きな耳を持っている/まゆゆさん

流されること無く母は一世紀/淺川八重子さん

妻のグチ受けて流して半世紀/桑名の川子さん

詰まらせることなく流す過去の恋/汐海 岬さん

流したい過去もいつかは澄んだ色/糖質無制限さん

笹舟を流すちっちゃな祈り乗せ/素人さん

流しても流しきれない「うそ」の数/伊藤啓成(ひろなり)さん

 

丹川修先生 丹川修先生

 題として、「流す」はやや難しく、作句に、ご苦労されたかも知れません。
 その表れでしょうか「聞き流す」「涙or汗を流す」などが数多くあり、広がりがありませんでした。また「流れにのる」「…の流れ」など「流れ」を扱った句もかなり多くみられました。その中には非常に良い句もたくさんあり、没にするには、心苦しく思われましたが、やはりここは「題に忠実に」という観点から残念ながら入選にはさせて戴けませんでした。また、「流れ星、流行、流暢(りゅうちょう)など」のいわゆる字結び的なものを扱った句も同様に戴くことはできませんでした。今後の作句の参考に是非なさって下(くだ)さい。毎回、多数のご投句を戴き、感謝しております。

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2020年06月26日 (金)【みえDE川柳】 お題:磨く

天 磨いたらお地蔵様が風邪を引く/ムギさん

橋倉久美子先生 題に対して意外なものを持ってきて、しかも読者を納得させることができると、おもしろい句が生まれる。この句は、「お地蔵様」を持ってきたことが成功した。
 もともとお地蔵様はざらざらした柔らかい風合いのもの。まして歳月を経たものは、風化したり苔(こけ)むしたりして、「磨く」とは対極の肌触りになっている。そんなお地蔵様を、墓石や仏像のようにつるつるすべすべに磨いたらどうなるか? 風邪を引かれてしまうだろうと、ちゃんとオチまでつけて、お地蔵様の素朴さを引き立たせた。

 

地 AIが第六感を磨いてる/船岡五郎さん

橋倉久美子先生 もともとAI(人工知能)は、記憶や計算といった単純な思考は得意でも、創造や工夫といった分野は苦手だとされてきた。ところが最近では、AI自らが学習することもできるようになってきたという。AIに小説を書かせる試みもあるそうだから、そのうち「AI川柳」なんていうのも出てくるかもしれない(たった17音なので、小説よりも早く実現するかも)。
 さて、そのAIが、第六感という論理では説明しがたいものまで磨いて身につけたとしたら……? ユーモアの中に、少々空恐ろしさを感じさせられた。

 

人 買い替えは磨いた後で考える/アカエタカさん

橋倉久美子先生 電気製品だろうか。それとも車? かなり古びてくたびれてきたし、薄汚れてもいる。新製品も出回っているので買い替え時かなと思うが、故障もしていないし、機能的にも特に不便を感じているわけではない。さてどうするか、とりあえず磨いてきれいにして、それからゆっくり考えよう。
 この生活感や、もったいない精神を満載した雰囲気が、いかにも川柳的。きっと磨いているうちにまた愛着が湧いてきて、買い替えることなどできなかったんだろうなあ。

 

<入選>

もう磨く鍋はなくなる家籠もり/水たまりさん

リモートに慌てて磨く部屋の壁/風 信子さん

黒電話磨くふりして待ったベル/汐海 岬さん

しあわせが磨いたグラス並ぶ棚/久実さん

抜けられるほどにガラスを磨き込み/羊がゼロ匹さん

焦げた鍋磨いて悔いる長電話/颯爽さん

ピカピカのトイレ意外に恥ずかしい/6年6組てんまのよい子さん

斬られ方磨き主役に持たす花/福村まことさん

簡単に靴も磨いて行く葬儀/ワン吉さん

園庭の魔法で磨く泥だんご/せきぼーさん

 

橋倉久美子先生 橋倉久美子先生

 444句いただきました。入選は天地人含めわずか13句ですから、極めて狭き門。入選するには、キラッと光るもの、なるほど!と思わせるものが必要です。例えば何を磨くかを考えたとき、意外なものを持ってくる方法もあれば、ありふれたものを持ってきて味付けをする方法もあります。天の句、地の句は前者、鍋、靴、歯などを磨くのは後者でしょう。いずれにせよ、自分らしさ、自分だけの見つけ、発見が欲しいところです。
 川柳は暮らしに根差(ねざ)した文芸ですが、それだけに適度な品の良さも必要です。標語のような句では川柳と言えませんが、品のない笑いや単なるウケ狙いにならないようにしましょう。

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50 | 過去の入選作 |   | 固定リンク


2020年05月29日 (金)【みえDE川柳】 お題:風

天 飛んだ日の風に恋する竹トンボ/福村まことさん

丹川修先生 裏山から切り出した竹を割り、自分で作った竹トンボ。より高く飛ぶようにと子供なりに必死にナイフで削ったり、角度を変えたりといろいろ工夫したものだ。
そして、うまく飛んだ時のあの感動は今でも忘れない。真っ青な空に向かい、吹き渡る爽やかな風にのり、宙を舞う竹トンボの姿が、今でも目に鮮明に焼き付いている。久しぶりに童心に戻してくれたこの句に感謝。そして竹トンボが「風に恋する」と表現したのがお見事。
風にのって飛ぶ竹トンボが、まるで心があるような生き生きとしたものに感じられた。

 

地 残り火を煽るいたずら好きな風/あそかさん

丹川修先生 何十年ぶりかで、同窓会にでも、参加されたのだろうか。そして思いがけず、はかなく消えた初恋の相手とでも再会したのだろう。一気に時計の針は巻き戻され、消えたはずの淡い想(おも)いが風に煽(あお)られ再び燃え上がる。「いたずら好きな」と風に人格を持たせたところがこの句を成功にと導いている。また、「いたずら好きな風」に対してまんざらでもない作者の顔も同時に垣間(かいま)見ることができる。

 

人 アルバムを開くと風が動き出す/久実さん

丹川修先生 アルバムに込められた数々の想い出を風の動きと捉えた作者に拍手。爽やかな風、明るい風、おしゃれな風、少し悲しい風、おませな風、そして背中を押してくれた風も、アルバムのページと共に色々な風が作者の心の中で動き出す。辛い自粛ムードの中、とてもすばらしいステイホームですね。

 

<入選>

昭和から甘くレトロな風が吹く/薫子さん

気まぐれな風に吹かれて決めた道/御堂美知子さん

飛び越える勇気がほしい風を待つ/ルーのバアさん

いつからか風上にいるお嫁さん/にった みささん

正直に生きて老後の寒い風/花キャベツさん

一枚の絵葉書で来た海の風/スイッチさん

県境をまたぐと風の色変わる/石楠花さん

決断の若きリーダー起こす風/南武線の旅人さん

風の音も半音上がる春うらら/汐海 岬さん

後悔を風の便りに乗せてみる/ぷいこるとさん

 

丹川修先生 丹川修先生

 投句期間が緊急事態宣言の真っ最中でもあり、歴史的な地球規模での事態だけに当然のごとく、コロナ禍を捉えた句が、かなりの割合でありました。しかし、そのほとんどが、同想の域を出ないものでした。また、時事句の弱点でもありますが、その時が過ぎれば、句の意味合いが判(わか)らないものになってしまいます。したがって入選にはさせて頂けませんでした。
 しかしながら、コロナ禍から着想をされても、句としてきっちりと独立性が保たれているものもあり一部、入選とさせていただきました。また、お若い方(?)からのご投句でしょうか、リズムのやや悪い句もありました。リズムの大切さは、川柳にとって欠かせない要素です。私はリズムを整えるために、実際に何度もその句を口に出してみることにしています。そうすると、自分でも、「ここはどうもなあ」と気の付くものです。多数の投句を戴きありがとうございました。

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50 | 過去の入選作 |   | 固定リンク


2020年04月24日 (金)【みえDE川柳】 お題:卵

天 マンネリが嬉しい母の卵焼き/あそかさん

橋倉久美子先生 卵焼きという食べ物には、それぞれの家庭の味があるようだ。しかもその味は、簡単には変わらないらしい。たまに違う味付けをして、それはそれでおいしいと思っても、いつの間にか元に戻っている。
 作者は、久しぶりに帰省してお母さんの卵焼きを食べたのだろうか。「マンネリ」というマイナスイメージの言葉を、「嬉しい」というプラスにひっくり返すことで、変わらぬ我が家の味を喜んでいる気持ちがよく伝わってくる。

 

地 弱虫の息子が好きな茶碗蒸し/うさぎ物語さん

橋倉久美子先生 この「息子」は小学校低学年ぐらいだろうか。「弱虫」であることと「茶碗蒸しが好き」であることに因果関係はないのだが、こうして句として提示されると、茶碗蒸しの味や舌触りの優しさ、繊細さが、弱虫にも見える子どもの性格と重なって、納得させられる。

 何やら真剣な顔で、熱い茶碗蒸しを一生懸命食べている男の子が目に浮かんできた。

 

人 卵割る音が私の始業ベル/えみさん

橋倉久美子先生 眠い目をこすりながらの朝食作り。トントン、パカッと卵を割る。シャカシャカとかき混ぜて卵かけご飯の日もあれば、いきなりフライパンにジュッと目玉焼きを作る日もあるだろう。シャカシャカとジュッを続けて卵焼きの日も。いずれにせよ、健康的な音とともにおいしそうな匂いも漂い、やがて目も覚めてくる。
 卵を割る音を始業ベルにたとえたことで、健康的で明るい句になった。前向きな気持ちがうかがわれ、好感が持てる。

 

<入選>

献立はサニーサイドと煙に巻く/フーマーさん

亡き夫の夢みた朝はタマゴ二個/小宮やすさん

妻の顔描いて殻割る茹で卵/いちかわいさおさん

濡れ落ち葉金の卵であった日も/薫風さん

10分を歩く卵の10円差/福村まことさん

卵綴じ何か隠していませんか/橙葉(とうよう)さん

親子丼親を卵が抱きかかえ/牛美さん

卵だと思えば腹も立たず済む/安田蝌蚪さん

卵白をあわ立て恋の準備する/比呂ちゃんさん

特売日明日だが今日に要る卵/葉さくらさん

 

橋倉久美子先生 橋倉久美子先生

 489句いただきました。卵を正面からとらえた句が多かったので、「題に合っているか?」と悩むことなく選ができました。多かったのは「卵焼き」「ゆで卵」「卵かけご飯」「黄身が二つ」の句。「コロンブスの卵」もたくさんありました。同じものを題材にしても、その人独自の見解、見つけがあったり、おや?と思わせる表現があったりすると、入選に近づくと思います。
 川柳は5・7・5のリズムが基本で、特に中7、下5は守ってほしいところです。中8、下6になっていないか、投句前にもう一度見直してくださいね。

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:19:00 | 過去の入選作 |   | 固定リンク


2020年03月27日 (金)【みえDE川柳】 お題:水(みず)

天 キミといて噴水の音だけになる/加藤当白さん

吉崎先生 青春の一ページを切り取ったようなロマンチックな句。この句は、君と一緒にいて嬉(うれ)しいとか楽しいとかは一言(ひとこと)も述べていない。ただ「噴水の音だけが聞こえている」と言っているだけで、情景をありのままに叙述しているに過ぎない。どう感じ取()るかは読者に任せるというスタンスである。噴水がある場所だから公園のようなところだろうか? ただ噴水の前で佇(たたず)んでいるだけの二人。さっきまで周囲の喧噪(けんそう)は聞こえていたけど、いまは何も聞こえない。静寂の中で噴水の音だけが聞こえている。二人にはもう会話も必要ない。二人の世界があるだけなのである。

 

地 ホース出るまでは役目を知らぬ水/福村まことさん

吉崎先生  これも擬人化の川柳だが、課題である「水」そのものを擬人化している。ホースを扱っているのは人間で、人間は最初から目的があって放水しているが、ホースの中を通過して世に出る「水」は、直前まで自分の役目が分からない。ホースを抜けて対象物にぶつかって初めて己の役目を知る。車に当たって初めて役目は「洗車」だったと知る。草木に当たって「水遣(や)り」、夏の暑い地面に当たって「打ち水業務」、炎に当たって初めて消火作業だったなどと自覚するのだ。発見の中にもユーモアがあって、楽しい川柳になった。

 

人 スポンジになった気分で水を飲む/えみさん

吉崎先生 「スポンジになった気分」が意表を突(つ)いた。動物や植物などの生き物であればともかく、「スポンジ」の擬人化。スポンジに気分なんてあるのかと、思わずクレームを付けたくなる。突っ込みを入れたくなる川柳は佳句が多いとも言える。もちろん、「ナンセンス!」の一言で片づけられる句も多いが、この句は間違いなく佳句である。
 では具体的に「スポンジになった気分」とはどんな気分を言うのか? だが、正直そんなことはどうでもいいのだ。「スポンジになった気分」、これだけで充分(じゅうぶん)佳句に値する。

 

<入選>

このように世渡りせよと水すまし/ほのぼのさん

気持ちよくダム溜め込んだ水を吐く/ホッと射てさん

かみさまがうっかり降らす天気雨/大澤 葵さん

二杯目はお断りする美味い水/マリリン凡老さん

ハネムーン以来陽の目を見ぬ水着/西井茜雲さん

満月を丸ごと飲んだ水たまり/デコやんさん

名水の井戸が長寿の母にさせ/金子鋭一さん

沸点を知らずにずっと水のまま/橙葉(とうよう)さん

蛇口からぽとりと落ちる宇宙観/彦翁さん

詩心を枯らさぬように水を遣る/水たまりさん

 

吉崎先生 吉崎柳歩先生

 人類だけでなく、生きとし生けるものは「水」なくしては存在できません。その「水」がテーマですから、取り組みやすいのか、これまで最多の528句が集まりました。それでも入選句数は変わらず13句だけなので、極めて厳選になりました。
 「水に流す」「水を差す」などの慣用句、「水たまり」「汚染水」などの熟語を読み込んだ句が多くありました。それらを使ったら駄目というわけではありませんが、入選するためには、やはり独自の視点が必要です。惜しいところで競り負けた句に心が痛みます。

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50 | 過去の入選作 |   | 固定リンク


2020年02月28日 (金)【みえDE川柳】 お題:巻く

天 折れ線がつかないように巻いておく/葉ボタンさん

宮村典子先生 まずは、半紙、模造紙、証書というような紙類を想像したが、それでは発想が普通すぎる。読み返してみて「折れ線がつかないように」は「大事なものを大事にする」ということではないだろうか、それは「心」かも知れないと思った。<失敗を悔やむことがないように> <後悔しないように>の心の有様(ありよう)だとしたら、とても深い意味を持つ。句の奥を読み過ぎたかもしれないが、大事な「巻き方」だと思う。

 

地 自叙伝をつい太巻きにしてしまう/橙葉(とうよう)さん

宮村典子先生 良くも悪くも懸命に生きたという強い真実が「自叙伝」の執筆に向かわせるのだと思う。その真実の一部をちょっとだけ大袈裟(おおげさ)に書いて膨らませたことを「太巻き」と表現したところに、この句の可笑(おか)しみがある。つい太巻き(大袈裟)にしてしまったという作者の正直さがいい。
太巻きにした部分がどの場面かが気になる。

 

人 パスタくるくる突然別れ切り出され/水たまりさん

宮村典子先生 いい感じでパスタを食べていた幸せそうな恋人どうしに何が起こったのだろう。「別れよう」あるいは「別れましょう」の一言(ひとこと)にパスタを巻いたフォークが止まった。幸せな「くるくる」は一瞬にして不幸な「クルクル」になってしまったのである。
お願いですから、こんなお別れの切り出し方はやめてください……と心の叫びが聞こえる。恋のルール違反だと私も思う。

 

<入選>

ネジ巻けば陽気に動く古時計/渡辺勇三さん

巻いたまま卒業証書八十年/E子さん

真知子巻き知ってるなんて言えません/西井茜雲さん

マフラーに独りを埋める北の旅/金子鋭一さん

思春期の傷包帯を巻いたまま/汐海 岬さん

昆布巻き干ぴょうとてもいい仕事/あさか舞さん

虎の子を巻き上げに来る電話口/あそかさん

巻かれ過ぎ税のマフラーほどけない/浅田美紗子さん

巻く息の波を揃えるチーム戦/福村まことさん

ライオンが吠えて威厳のネジを巻く/スイッチさん

 

宮村典子先生 宮村典子先生

  恵方巻、包帯を巻く、煙に巻く、舌を巻く、ネジを巻く等が多くありました。その中で「なるほど……」と思わせる作品を入選としました。
天・地・人は、他に類想がなく、選者として句に強く寄り添えるかどうかを決め手に選んでいます。いろんなものを巻いた作品に出会い、改めて「川柳は暮らしの中にあって、そこで気付く自分の気持ちを自由に書く文芸」だと実感しました。「課題」に対しての気付きや思うことを五七五に纏(まと)める楽しみ、それを投句することの楽しさを、もっともっと味わっていただきますように。

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2020年01月31日 (金)【みえDE川柳】 お題:飾る

天 ゆでたまご飾る術など知りません/寺井一也さん

吉崎先生 「飾る」というお題で、「ゆでたまごを飾る術(すべ)」と読者の意表を突いた。「ゆで卵」の句では、「茹(ゆ)で卵きれいにむいてから落とし」(延原句沙弥)など有名な句もあるが、装飾を施されたゆで卵は見たことがない。帽子を被(かぶ)せるとか、回しを締めさせても確かにインスタ映えしそうにない。上手にカットすれば弁当などの飾りにはなりそうだが、ゆで卵はやはり、のっぺらぼうが一番良さそう。「飾り方」でなく「飾る術」としたのも良かったし、結語(下5)の「知りません」も、ぶっきらぼうで良かった。

 

地 電飾ほど目立ちたくない注連飾り/草かんむりさん

吉崎先生  言われてみればその通りという川柳。注連(しめ)飾りは「飾り」と称するとは言え電飾とは目的が違う。注連縄はお正月に年神様をお迎えする神聖な飾りもので、派手に過ぎても神様は入りにくいだろう。夫婦(めおと)岩の注連縄ならもちろん、一般家庭でも注連縄が仮に電飾であったら、それこそ罰当たりというもの。一方、電飾は物心の付いた子どもさんを喜ばせようと点滅させるものだろう。通りすがりに眺めるのも楽しい。「目立ちたくない」と、注連飾りを擬人化したのも良かった。電飾の注連飾りはこの先もあり得ないか?

 

人 お雛様にごろ寝の場所を奪われる/アラレさん

吉崎先生 この句のお雛様は「雛飾り」の意味だから、「飾る」というお題をちゃんと消化していると言えよう。最近は、マンションでも一戸建てでも基本的には洋間が主体で、和室は一間だけというお宅が多い。従って、お父さんがいつもごろ寝しているその部屋に雛飾りを設置することになる。思いの外スペースを取られ、空いている場所にごろ寝していたら、「パパ、そんなところにごろ寝しないで!」と叱られている様子が目に見えるような川柳で楽しい。「雛飾りに」ではなく、「お雛様に奪われる」としたのも良かった。

 

<入選>

六畳の窓辺を飾る初日の出/汐海 岬さん

半世紀前の魚拓が鎮座する/西井茜雲さん

絵にすると飾ってみたくなる景色/たごまる子さん

本末が見えないほどの飾り方/春爺さん

電飾に罪悪感がなんとなく/葉ぼたんさん

思い出のページを飾るクローバー/まゆゆさん

若い日の父を飾ったパナマ帽/あそかさん

フルメイク私結構いけるかも/かぐや姫さん

すっぴんがいちばん好きといわれても/夜半亭あぶらー虫さん

着飾ってみたが寂しい片想い/風間なごみさん

 

吉崎先生 吉崎柳歩先生

 今回の「飾る」は、化粧や衣装、装飾品などで自分を飾る、部屋や車の空間や物体の飾り付(つ)け、料理やデザートの食べ物の飾り、言葉や外面、内面を飾る、経歴を飾る、友だちや先輩など人物を飾る、業績や数字を飾るなど、日常生活の中での着想や発想が大いに拡(ひろ)がりそうな動詞で、川柳には打って付けのお題でした。それだけに良いところに目を付けた佳句が多く集まりました。入選句数に限りがありますので、残念ながら二次選で競り負けた句が多くありました。次回にリベンジしてください。

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2019年12月20日 (金)【みえDE川柳】 お題:包む

天 羽衣で包む地球はデリケート/泡立草さん

吉崎先生 この句が言う「羽衣」とは何だろう? 羽衣と言えば「三保の松原の羽衣伝説」、天女の着る薄くて軽い頼りない衣を思い浮かべる。その羽衣で地球は包まれているのだから、ここで言う羽衣とは、大気圏の中の我々生き物が生息できる範囲、空気や酸素、水などが存在する範囲のことだと理解できる。
 先日、気候変動枠組み条約のCOP25が、スペインで開かれたが、これ以上地球の温暖化を放置すると、地球上の生き物は生きていけなくなるだろう。我々の生息できる範囲と環境は思ったよりデリケートなのだ。まるで、薄っぺらで頼りない羽衣に包まれているようなものだと、人類に警鐘を鳴らしているような壮大な一句。

 

地 包まれて恥ずかしがっている粗品/マリリン凡老さん

吉崎先生  「粗品が恥ずかしがっている」と、粗品を擬人化したところがお手柄。 立派なユーモア川柳になった。百均のレジのように、包まれることは先(ま)ずない粗品。 それなのに自分自身より高そうな包装紙に包まれて面食(めんく)らっている川柳。 また、「粗品」を他ならぬ作者と捉えても楽しい。作者は拍手に包まれているのかも知れない。
 リズムの良さも句意を生かしている。先ず「包まれて」と来て、 いきなり「恥ずかしがっている」とあるから、一瞬、拍手に包まれているヒーローとかヒロイン、 あるいは自己紹介の終わった新入社員かと思いきや、「粗品」と意外な所に落ち着かせている。 同じ内容でも、リズムに乗せると説得力と印象が強くなる。

 

人 包まれる度に私が消えていく/久実さん

吉崎先生 一読明快とは言えない句だが、「私が消える」のだから包まれるのも私だと解(わか)る。それを手掛(てが)かりに「私を包むもの」とは何かを想像すれば句の意味が解る仕立てである。
 私を包むものは、普通に考えれば「愛」だろう。作者は愛に包まれているのだ。しかし、「包まれる度」とあるから、それは愛を感じるさまざまな行為を指しているのだろう。私を応援してくれる、褒めてくれる、失敗をカバーしてくれる、落ちこんでいるときに抱き締めてくれる。それらは全て「愛に包まれていることによる行為」なのだ。それを「包まれる度に」と表現された。ありがたいのだが、その結果わたしの主体性が無くなっていくことを憂えているのだ。その心情を「私が消えていく」と詠んだのだと理解できる。

 

<入選>

新聞でくるっと朝市のさかな/松ぽっくりさん

凹むたび母のアルトに包まれる/麦乃さん

包みやすい形になっている両手/まゆゆさん

女子力を見せるチャンスのラッピング/しゃまさん

あなたの愛にすっかり包囲されている/水たまりさん

包んでも太っ腹とは言われない/アカエタカさん

ラッピングバスも素顔に戻りたい/颯爽さん

食べるのが面倒になる個包装/草かんむりさん

夕焼けに包まれ溶けていく疲れ/やんちゃんさん

ひとりぼっちの案山子を包むボタン雪/雪ん子さん

 

吉崎先生 吉崎柳歩先生

 「包む」という動詞を辞書で引くと、紙や布などで品物を包むという意味の他、愛情や雰囲気に包まれる、金品を贈るなど広い意味がありますね。それだけに川柳には持ってこいのお題なので、句会なのでも頻繁に出ています。それゆえ「チョコレートを包む」「母の愛に包まれる」などの、ありふれた発想ではなく、独自の着想を得られたかどうかが当落を分けることになります。「技巧は二の次」と言えば言い過ぎですが、いい着想であれば選者は立ち止まるものです。400句を超える応募を頂きましたが、あと一歩の句が多かったようです。

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2019年11月29日 (金)【みえDE川柳】 お題:鍋

天 昼寝でもしようか今日は鍋だから/たごまる子さん

吉崎先生 主婦の気持ちを詠んだ楽しい川柳。鍋なら何でもいい。鍋なら賛否をとらなくても家庭内に反対派はいない。鍋の具材も欲を言えばキリがないが、おでん鍋ならスーパーに具材のセットも売ってる。セットでなくても、主婦のベテランなら鍋料理は簡単なのだ。
 川柳は普通は575と言って、文節で言えば三つの節、3句体だが、この句は9・8の2句体。17音ということでは変わりない。上句で、「昼寝でもしようか」とつぶやいてみせて、下句で「今日は簡単な鍋だから」と理由を明かしているのが、憎いし上手(うま)い。

 

地 湯豆腐の味が分かってきて大人/かぐや姫さん

吉崎先生 確かに子供のころは、豆腐とか大根というものはあまり美味(おい)しいものではなかった。それが、どういうわけか歳(とし)を取るにつれて美味しいと思えるようになる。味覚も成長(?)するのだ。鍋と言っても、湯豆腐は他の鍋とはちょっと趣が違う。具材が基本的には豆腐だけ、シンプルでちょっと高級感がある。一人より二人、大勢より二人だけでしみじみと大人の会話をしながら鍋を突っつく、といった雰囲気がいい。湯豆腐の味は大人の味なのだ。湯豆腐の場合、ビールより熱燗(あつかん)のほうが合うだろうか?

 

人 困ったら何でも鍋に入れてみる/清詞薫さん

吉崎先生 冒頭の「困ったら」は鍋料理に関するものを指しているように思えるが、それだけではないだろう。鍋を入れ物の代表として詠んでいるようにも取れる。鍋料理というものは基本的には「ごった煮」。大勢で鍋を突っつく。具材が足らなくなったら、なんでもいいから放り込んで間に合わせる、という意味だろうが、「鍋」をアイデアや案などの入れ物の象徴と捉えれば、具材は参考になるヒントや意見ということになる。新しい戦略や商品開発を促すための手法と見ても成り立つ。そう言えばブレーンストーミングやKJ法というビジネスの手法もあった。いろいろ解釈できるのも楽しい。

 

<入選>

猫舌を隠して仕切る鍋奉行/茶唄鼓さん

煮え切らぬ彼とふたりで鍋つつく/よしじろうさん

女子会の鍋は決まってコラーゲン/だじゃれまんさん

豪快に海をまるごと煮込む鍋/あそかさん

煮崩れてからも勝負をやめぬ鍋/橙葉さん

ひび割れてから本物になる土鍋/比呂ちゃんさん

ラーメンを鍋から食べているひとり/アラレさん

単身を一緒に生きた片手鍋/冬子さん

一人鍋こっそり見てる窓の月/みえさん

極楽だ温泉という地球鍋/ホッと射てさん

 

吉崎先生 吉崎柳歩先生

 「鍋」という時節柄ぴったりのお題でした。欲を言えば12月締め切りであれば、もっと多くの実感句が集まったかも知れませんね。「鍋」は具象名詞の典型的なものなので、発想が拡(ひろ)がりにくかったかも知れません。鍋を基にした人間関係に目を向けることが肝要でした。鍋奉行、一人鍋を詠んだ句が多かったですね。独自性が当落を分けました。
 「鍋の底を磨く」句も多かったですが、同想句の域を出た句はなかったようです。
 レベルの高い作品が多く、最終審査に24句が残りました。その中から篩(ふるい)にかけて11句を没にするのは、選者として苦しい作業でした。作品の出来不出来より、選者との意見が、たまたま異なっただけの作品もあったでしょう。懲りずに応募してくださいね。

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2019年10月25日 (金)【みえDE川柳】 お題:読む

天 経を読む真水に戻れそうだから/水たまりさん

宮村典子先生 人間社会を生き続けるということは、善に傾き、悪に傾きの繰り返し。無垢(むく)な魂は、世の中の垢(あか)をつけて徐々に汚れてゆく。真水が濁水になるように。しかし、人生も終章に近くなるにつれて、人はその汚れを落とし、心を静めて無に還りたくなるのである。「戻れそうだから」は「戻りたい」という作者の祈り。その祈りが胸に沁(し)みてくる。

 

地 読心術マスターしたら生きられぬ/さだえばあちゃんさん

宮村典子先生 表情や動きから、人の心の内容を直感的に読み取る術(すべ)を会得したとしたら……。考えるだけで恐ろしい。心の内を覗いてみたい人がいるとしても、その本心は知らない方がいい。
もし、相手の態度と心の中の想(おも)いが真逆だったりしたら、人間不信に陥り闇を彷徨(さまよ)うことになる。自滅に繋(つな)がるだろう。
ある意味、人を疑わないことが無事にこの世を生きる術かも知れない。

 

人 あなた今ぼくを斜め読みしたでしょ/橙葉さん

宮村典子先生 <あなた今、ぼくを疑ったね><信用してない顔してるよ>を内心に込めて、「斜め読みしたでしょ」と言い放った作者。相手は異性? 仲間? 誰? などと想像が膨らむ。
穿(うが)ちを含んだ会話川柳の味を楽しみたい。

 

<入選>

サザエさん読んで忘れた胃の痛み/磯の香りさん

下書きを五度読み返しプロポーズ/汐海 岬さん

断捨離へ読み返してるラブレター/久実さん

妻よりも僕の心を読むペット/秋明菊さん

消費税アップの家計読めません/つれづれさん

台風に説教したい「空気読め!」/おーちゃんさん

教科書を読む先生の国訛り/宮のふみさん

読める字の前だけに立つ書道展/西井茜雲さん

読み終えたページにコスモスのしおり/やんちゃんさん

裏の裏読むと人相悪くなる/颯爽さん

 

宮村典子先生 宮村典子先生

  「読む」というお題は案外作りやすいと思いましたが、意外なものを読んだ作品が少なかったですね。「本を読む」「新聞を読む」「心を読む」「顔色を読む」などの常套(じょうとう)句が多く、そこから、それらをどう読むかの苦心が足りなかった気がします。よくある発想(常套句)だとしても、横から、斜めから、後ろから眺め直すと、言い得て妙な句に変身するでしょう。
多作もよろしいですが、一句を大事に生かす努力も大事です!天・地・人には<苦心>がありました。

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50 | 過去の入選作 |   | 固定リンク


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