過去の入選作

2023年09月29日 (金)【みえDE川柳】 お題:宝

天 端数さえ宝に見えた初任給/福村まこと さん

丹川修先生  なにかと不平不満を感じることが多い世において、この句のようにいつまでも感謝の気持ちを忘れずにいたいものである。確かに、初任給を手にしたときには誰しも感慨深いものがある。しかし、この句は、その気持ちが、「端数さえ」の上5に上手く詰められている。色々な宝の句の中で、初任給の端数までを宝とした作者の目の付け所に感心させられる。従い、迷うことなく〈天の句〉とさせて戴(いただ)いた。

地 ぬか床もリストに入れる形見分け/田舎のマダム さん

丹川修先生 この句には「宝」という言葉は使われていないが、「ぬか床」が、かけがえのない宝物であることは言うまでもない。加えて、下5で「形見分け」と表現したところに、その家庭に脈々と受け継がれた大切な伝統の味であることが、しっかりと伝わってくる。この句も天の句と同様に、目の付け所が何とも素晴らしい。作者の感性に拍手を送りたい。

人 ママチャリの前と後ろに宝もの/スイッチ さん

丹川修先生 お母さん(あるいは お父さん)が自身の前と後ろに幼い我が子を抱えて、自転車で買い物にでも向かっているのでしょうか。そんな姿が、はっきりと目に浮かんでくる。親の子に対する愛情と同時に、力強く生き抜く姿が美しい。ママチャリという質実剛健さが、よりその姿を際立たせている。どうか事故に遭うことなく、二人のお子様がすくすくと育たれることをお祈りする。

 

 

<入選>

宝もの広い世界におまえだけ/谷てる子 さん

大安じゃなくても当たる宝くじ/こまっぴ さん

可も不可もない一日が宝物/あそか さん

宝だと気付かぬままに半世紀/汐海 岬 さん

信じてるうちは宝に違いない/かぐや姫 さん

孫からの肩たたき券宝物/ 1刀両断 さん

見つけられない場所には隠さない宝/河内秀斗さん

二合呑み働く夫は宝物/奥田よし さん

輝きを増して宝が逃げて行く/アーネスト さん

こっぴどく叱ってくれた過去の鬼/夜半亭あぶらー虫  さん

 

丹川修先生 丹川修先生

 選考会には、どのような宝に巡り会えるかと楽しみにして出掛けて参りました。投句者の皆さんは、さすがに手慣れたもので〈宝石、骨董(こっとう)など=宝〉に限定されることなく、それぞれの日常生活(親子,夫婦、友人、恋人など平凡な生活の中にある人々の存在や健康に対する感謝の気持ちなど)を詠った作品(精神的な宝)が数多く見受けられました。その中にあって、いつも言わせてもらっていることですが、意外性の高いものに目を付けた句を評価させていただきました。また、宝くじ、子宝、家宝などの同想の多い句の中でもリズムの良いものやそのテーマの捉え方において特異性の高い句を入選といたしました。たくさんの楽しいご投句を戴(いただ)き誠にありがとうございました。

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2023年08月25日 (金)【みえDE川柳】 お題:浴びる

天 紫外線浴びて日焼けをする案山子/アカエタカ さん

  橋倉久美子先生昔は「夏に日焼けをすると、冬に風邪をひかなくなる」などと言われ、子どもは真っ黒な日焼けを褒められた。現在では日焼けの害も言われるようになり、子どもたちも日焼け止めや肌を覆う水着を使用するようになってきている。とはいえこれはあくまでも人間の話。
この句は、最後に主人公が「案山子(かかし)」であることが明かされたとたん、日を遮るものもない田んぼの真ん中に一日中立ち尽くす姿が一気に目に浮かぶ。紫外線を浴び放題に浴びながら、仕事をしているのである。

地 日光を浴びせすぎても枯れる花/河内秀斗さん

 橋倉久美子先生水のやりすぎならわかるが、日光の浴びすぎも植物にとってよくないのか?と、一読したときは疑問に思った。しかし晴天の多かったこの夏、我が家ではインゲンの花が落ちて実にならなかったり、朝顔が8月後半になってようやく咲き始めたりした。詳しいメカニズムは知らないが、やはり雨が降らず日を浴びてばかりだったことが影響したのだろう。
ともすれば教訓的になりそうな内容を、花に具象化し、日光で意外性を持たせることで、うまく詠んでいる。

人 剥製になっても悲鳴浴びる蛇/福村 まこと さん

 橋倉久美子先生蛇が嫌い、苦手という人は多い。毒蛇でなくても、あの姿かたち自体が人間には合わないのだろう。かくして蛇は、たとえ自分が人間に遭遇して驚いたり怖がったりしていても、人間から悲鳴を上げられ、石や棒で攻撃される一生を送る。それどころか、死んで剥製にされてからも、悲鳴を浴びるというのである。
剥製になること自体、蛇にとって本意ではない気がするが、まして悲鳴を浴びるというところに、蛇の悲哀を少々感じてしまう。

 

<入選>

蝉の声朝から浴びている酷暑/ひろりん さん

水よりも氷浴びたい40度/田舎のマダムさん

噴水を浴びる幼児に虹が立ち/だんでらいおん さん

黙祷へ読経のような蝉時雨/岡田孝道 さん

浴びるほどつけたんだけど美容液/ぷいこると さん

正論が批判のシャワー浴びている/なるほどマンさん

脚光を浴びて幾つか嘘がばれ/金子鋭一 さん

クレーマーの叱責浴びるのも仕事/火の鳥 さん

浴びたあと拭かずにおいた褒め言葉/汐海 岬 さん

酒あびていいよと医師の太鼓判/石川照夫 さん

 

橋倉久美子先生 橋倉久美子先生
 412句のご投句をいただきました。
水やシャワー、日差し、酒類、言葉、喝采や脚光、視線など、浴びる「もの」自体は一般的なものが多く、びっくりさせられるようなものはありませんでした。ただ、そこからの発想は様々で、おもしろく思いながら選にあたりました。
思いついたそのままを詠んだのでは川柳としてもの足りないことが多いのですが、かといってあまりに凝り過ぎた表現をすると相手に伝わりません。でき上がった作品を誰かに見てもらい、推敲(すいこう)の参考にするのもよいかと思います。

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2023年06月30日 (金)【みえDE川柳】 お題:冷たい

天 すこしだけ冷たいほうがつづく愛/夜半亭あぶらー虫 さん

  橋倉久美子先生なるほど、追えば逃げるのが人間の常、恋愛においても、片方が熱くなりすぎると、もう片方はその分冷めてしまうということか。何事も、冷たい(冷静な)部分を残しておくのが、長続きさせるコツなのかもしれない。「すこしだけ」というところに説得力がある。
難しい言葉は一つもないが、何やら人生の達人めいた句で、おそれいりましたと言いたくなった。

地 最後まで姿勢保てぬ冷奴/アカエタカさん

 橋倉久美子先生豆腐と言えば、その形は四角いのが一般的。特に冷や奴は、隅をきっちりと直角に切るといっそう涼しげに感じられるし、薬味を従えて盛り付けると、安価な割に威風堂々とした風格さえ備えているように見える。
とはいえ、いかんせん柔らかい食べ物の代表ともいえる豆腐である。形を保ったまま食べ終えるなどということはどうやってもできず、薬味と混ぜ合わされ醤油にまみれ、ぐずぐずになって食べられることになるのだ。冷や奴の擬人化が愉快。

人 夕焼けもひんやりとする別れの日/汐海 岬 さん

 橋倉久美子先生夕焼けが「ひんやりとする」という表現に驚かされた。「冷たいもの」を探したとき、いかにも冷たいものや、逆に熱いものを思い浮かべることはできても、赤くて大きくて温かみのある夕焼けはなかなか思いつかないだろう。また、「冷たい」ではなく「ひんやりとする」と言うことで、体全体で冷たさを感じている雰囲気が醸し出されている。
一読したときは失恋の句と受け取ったが、もっと決定的な別れなのかもしれない。夕日の中に、肩を落としてとぼとぼと歩く姿が溶けていく様子を思い浮かべた。

 

 

<入選>

定番はママの得意な冷や奴/谷てる子 さん
ちょっとしたミスに冷たいセルフレジ/かりんとうさん
言い負けておけばよかった冷たい目/あそか さん
遅刻して冷たい汗をかくデート/山吹みどり さん
既読さえ付かなくなった僕の恋/いちかわいさお さん
川遊び大人もはしゃぎたい猛暑/こまっぴ さん
同情はしても身銭は切らぬ主義/西井茜雲 さん
少子化の仕業冷たい滑り台/たちあおいさん
知っている手品冷たく拍手する/福村まこと さん
猫だから客に冷たくしても良いく/戴 けいこ さん

 

橋倉久美子先生 橋倉久美子先生

   402句のご投句をいただきました。
冷や奴、アイスクリームやかき氷、ビールなどの句がやはり目立ちましたが、予想以上にいろいろな「冷たい」ものがあったり、恋愛や人間関係を題材にした句が多かったりして、楽しく選をしました。
一方、中8、下6、あるいは575のリズムを大きく逸脱する句が少なからずあったのは残念でした。声に出して読むことで575のリズムをたしかめたり、時には指折り数えたりしましょう。特に中8、下6については、これぐらいならいいだろうと思わずに、推敲(すいこう)をしてみてください。

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2023年05月26日 (金)【みえDE川柳】 お題:地図

天 先輩の手書きの地図が捨てられず/瑠珂 さん

丹川修先生  この地図にはどのようなことが記されていたのだろう。得意先の位置情報だけでなく、周辺の美味しいお店の情報なのだろうか。いえいえ、そんな甘い話ではなく、社内の危険地帯でも記されているのだろうか。下手に近づくと地雷を踏んでしまうぞ、あの辺には落とし穴があるぞ、などとでも書かれていたのだろうか。いろいろ想像させられる楽しい句だ。自分を育ててくれた地図だけに「捨てられず」と言うのだ。

地 白地図に武者震いする新任地/ジャック天野 さん

丹川修先生  右も左も分らない新しい地に赴任を命じられ、緊張で思わず、武者震いしたのだろう。さて、これから白地図にはどんな地図を描き、どんな色を塗っていかれるのだろうか。不安の中にも希望も同時に感じる句だ。白地図と新任地との取り合わせが、効いている。

人 四季の花辿れば出来る日本地図/ムギ さん

丹川修先生 日本列島は南北に長い国である。また、四季がはっきりしている国でもある。桜前線は南から北へと移動する。テレビのニュースなどを観ていると、もう沖縄では桜が咲いたのかと驚かされる。暫(しばら)くすると前線は、東北から北海道へと北上していく。日本地図を頭に浮かべながら情報を得る。なかなか、気付けないところに上手く目を付けたものだと感心する。

 

 

<入選>

もう着いていいはず地図の通りなら/アカエタカ さん

物価高一人楽しむ地図旅行/らっきー麗 さん

泣く笑う記憶あちこち残す地図/金子鋭一 さん

宇宙にまで国境線を引きたがる/ゆきち さん

上り坂ばかりで過ぎた若い地図/八木五十八 さん

晴天のマークで満ちる日本地図/ 汐海 岬 さん

ひとり旅地図のむこうに夢がある/風来坊 さん

地図よりも地元の人があてになる/こまっぴ さん

ふる里の地図の形の雲にあう/花キャベツ さん

子に渡す地図に迷路も足しておく/けい さん

 

丹川修先生 丹川修先生

    地図という言葉の持つ意味合いには、地理的なもの以外に、人生の指針(設計計画)、未知なる世界への道標(みちしるべ)などといろいろなものが含まれます。さらに地図と言えばカーナビ、白地図或(ある)いは地球儀など幅広いテーマでのご投句をいただきました。意外だったのは、地理的な地図を扱ったものより抽象的(精神的)な地図をテーマにした句が多く、難解句も多く、やや苦労しましたが、それだけに楽しく選をさせて戴(いただ)きました。たくさんのご投句ありがとうございました。

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2023年04月28日 (金)【みえDE川柳】お題:鏡

天 着飾ってちょいと斜めに見る鏡/みく さん

橋倉久美子先生  毎日の化粧やネックレスをつけるぐらいなら、顔とせいぜい胸の辺りまで見ればいいだけなので、洗面所の鏡や鏡台ですむ。ところが「着飾って」となると、全身が映る鏡でバランスなども見たいし、後ろ姿も気になる。まして着物なら、帯の結び方や襟足の具合も確かめておきたいところ。かくして姿見の前で、あっちを向いたりこっちを向いたり、さらには体をひねったりということになる。
「ちょいと斜めに」という言い方から、手早く着付けを終えたお姐(ねえ)さんが仕上がりを軽く確かめている、粋な姿を思い浮かべた。
地 きれいかと訊かれて絶句する鏡/桐一葉 さん

橋倉久美子先生  「感想を聞かれた鏡が困っている」とか、逆に「鏡が忖度(そんたく)する」といった意味の句がたくさんあった。同想句は没になる可能性が高いが、表現に抜きんでたものがあると、入選につながることもある。
この句の場合、単に「困っている」で終わらせず、「絶句する」と大げさな表現をすることで成功した。嘘をつくこともお世辞を言うこともできず、さりとて本当のことを言うわけにもいかず、四苦八苦している鏡の表情が見えるようだ。

人 まだすてたものじゃないわと見る鏡/やすさん さん

橋倉久美子先生  川柳の魅力の一つは、自分の弱点や欠点をさらりと吐き出せるところにある。今回の「鏡」でも、鏡に映る自分の姿が今ひとつだという立場の句が多かった。そんな中、この句は「まだすてたものじゃない」と、ポジティブに言ってのけた。このずうずうしさ、楽天的なところも、また川柳ならではである。
もっとも、「まだ」と言うからには、「もうだめかと思っていたけど」という気持ちも根底にあるのだろう。気持ちの微妙な揺れ動きが、話し言葉を使ってうまく表現されている

 

 

<入選>

お風呂場の鏡曇ったままで良い/松山敬子 さん
剃り残し見つけドヤ顔する鏡/福村まこと さん
うつすけど録画機能はない鏡/せいじ さん
絶景を二倍楽しむ水鏡/なるほどマン さん
手鏡で友達になる春の月/よっちゃん さん
病み上がり今日は鏡をスルーする/ムギ さん
鏡拭くそれでも消えぬ顔のシミ/はぐれ雲 さん
はねている髪を鏡のせいにする/汐海 岬 さん
歯磨きをジッと見つめている鏡/だんでらいおん さん
以上にも以下にも映さない鏡/戴 けいこ さん

 

橋倉久美子先生 橋倉久美子 先生

 445句のご投句をいただきました。
「眼鏡」を初めとする字結び(意味に関わりなく題の文字を用いること。「鏡(かがみ)」の題に対して、「眼鏡」は「鏡」の字は使っているが「かがみ」ではないので、字結びとなる)やそれに近い句は少なく、よかったと思います。一方、身近な題材だったのでかえって発想が似通ってしまったのか、「鏡の中に母(父)がいる」など、同想句がたくさんありました。
ちょっとした気付き、発見を、口語で、575のリズムで詠むのが川柳の基本です。「誰もが見て(聞いて、感じて)いるけど、まだ誰も言っていないこと」を、身近なところから探しましょう。

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2023年03月31日 (金)【みえDE川柳】 お題:おしゃれ

天 百歳のお洒落上手がよくもてる/あそかさん

丹川修先生  百歳になられてもお洒落(しゃれ)を怠ることなく、紅をさし、首元にはネッカチーフを巻いたりして若々しく、そしてかわいらしく、ちょっぴり色気さえも感じるおばあちゃん。
お孫さんやらひ孫さん達に囲まれいつもにこにこされている。そして、町内の方からもアイドル的な存在で、皆が寄ってくるのだろう。いくつになってもお洒落(しゃれ)っ気を忘れずいることが、若さや元気を保つ一つの秘訣である。
下5の「よくもてる」の素直な表現が良い。

地 襟元のおしゃれボタンの開け具合/火の鳥さん

丹川修先生  こんな細かい着こなしにこそ、お洒落(しゃれ)の真髄(しんずい)があるのだろう。「そんなことどうだっていいのじゃないの」などと言ってしまえば、身も蓋もない。
お洒落(しゃれ)とは決して良いものを身に着けるだけでなく、着こなしのセンスが、問われるのであろう。
襟元を開けすぎてもだらしないし、きっちり止めてしまえば、面白みがない。まさしく開け具合である。
微妙なところへの目付けが素晴らしい。

人 名を問わず花のおしゃれを愛でる蝶/福村まことさん

丹川修先生  赤い花も黄色の花も、そして小さな花も最大限おしゃれをし、自分を輝かせ、虫たちを引き寄せる。
「おっ、きれいな花だ。よし、行ってみよう」などと魅了された蝶(ちょう)のささやきが聞こえてくるようである。
上5の「名を問わず」にそれぞれにできるオシャレこそ最高のお洒落(しゃれ)であると暗示されているように思う。

 

 

<入選>

紅をさし春一番を迎え撃つ/汐海 岬さん
サングラスかけてお洒落を締めくくる/ゆきさん
リメイクの昭和の服に付くいいね/近江菫花さん
ゼロ円ですてきなおしゃれその笑顔/ふうちゃんさん
おしゃれした案山子に雀近寄らぬ/ムギさん
羽繕いだけでおしゃれをする小鳥/流星さん
顔うつるほどに磨いた父の靴/夜半亭あぶら―虫さん
前髪を一ミリ切るか切らないか/水曜さん
麻痺の手の母もほころぶネイルケア/田舎のマダムさん
参観日ママが競っておしゃれの日/横手敏夫さん

 

丹川修先生 丹川修先生

 行動制限もほぼなくなった春の訪れにふさわしい「おしゃれ」のお題に楽しい句を多数お寄せいただきました。その中で、髪形やお化粧を句材にしたもの、洋服や着こなしを詠まれたものが、その大半を占めていました。
また、お洒落(しゃれ)を競い合う様を取り上げたものなどには、類似した句が多くありました。
選をさせて戴(いただ)くまでは、表面的(外見的)なお洒落(しゃれ)だけではなく、人生そのものに潜む「お洒落(しゃれ)」な生き様などにスポットを当てた句も期待しておりましたが、残念ながら多くを目にすることはありませんでした。
しかしながら、ほのぼのとした楽しい句ぞろいで、明るい気持ちで選をさせて戴(いただ)くことができ、投句いただいた皆様に感謝いたします。
誠にありがとうございました。

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2023年02月24日 (金)【みえDE川柳】 お題:忍者

天   人参がどうも苦手という忍者/ゆきち さん

橋倉久美子先生 思わず笑った。忍者とて人の子、苦手なものもあるだろうが、よりにもよって人参(にんじん)が苦手だとは。クールでスマートなイメージの忍者が、これではまるで子どもではないか。
  「どうも苦手」という言葉選びも秀逸で、黒頭巾の忍者が人参(にんじん)の入った料理を前に、「これだけはどうも……」と頭を掻いている様子が目に浮かぶ。「ニンジン」という響きも、忍者が口にする(?)「ニンニン」というセリフを思い起こさせて楽しい。ナンセンスユーモアを感じさせる句。

 

地 イケメンの忍者がそろう武家屋敷/よっちゃん さん

橋倉久美子先生 この忍者は、観光地の忍者屋敷で忍術を披露したり、マスコミ相手に広報活動を行ったりするのが仕事。当然ながら身体能力が高く、身だしなみにも気を配っている。派手な衣装とアクロバティックな演技で客を魅了し、拍手と歓声を浴びる存在である。
 忍者というと、表に出ない陰の仕事と思われがちだが、そもそも高い身体能力や特殊な技能・知識を必要とする仕事でもある。現代の忍者は、そのプラス面を押し出すことで、人気を得ているのだ。

 

人 百態を演じひっそり逝く忍者/あそか さん

橋倉久美子先生 忍者にもいろいろな仕事や勤め方があると思うが、この句の忍者は、ある時は職人に、ある時は店主になどと様々な顔を使い分けながら務めを果たしていたのだろうか。おそらく知人や縁者は少なくないのだろう。ところがその素顔を知る人はほとんどおらず、ひっそりと死んでいったというのである。
 「百態を演じ」と「ひっそり逝く」の落差のつけ方がうまく、一人の忍者の生涯を思わせるドラマチックな句になった。

 

<入選>

電車まで忍者にさせる伊賀の国/ぬいぐるみ班代表まきば さん

世界中マスクだらけにした忍者/ごん太 さん

忍者すら忍び込まないゴミ屋敷/みく さん

経年で忍者屋敷も手すり付き/春爺 さん

忍者とて文化遺産で残る道/夜半亭あぶらー虫 さん

うかつには言えぬ間者の孫がいる/アカエタカ さん

かくれんぼ忍びの術が役に立つ/こまっぴ さん

病室の寝息忍者が見て回る/トラス さん

週刊誌忍者たくさん飼っている/横山閲治郎 さん

ジェンダーレスくノ一なんて呼ばせない/田舎のマダム さん

 

橋倉久美子先生 橋倉久美子 先生

「忍者」という題は難しいかと思っていたのですが、442句ものご投句をいただきました。
入選句はもちろん、投句されたほとんどが、「現代の忍者」を詠んだ句でした。「忍者」はどちらかというと過去のもので、身近とはいえない存在なのに、きちんと自分の近くに引き寄せ「今」を詠んだ句となっていることは、たいへんよかったと思います。
一方、リズムの悪い句、駄洒落(だじゃれ)を使った句の他、「忍者」という題がないと何が言いたいかわかりにくい句も少なからずありました。特に具体的なものを表す名詞が題の場合、題の言葉を使って句を作る方が、伝わりやすい句になります。

 

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2023年01月27日 (金)【みえDE川柳】 お題:跳ねる

天 筆先の跳ねが決意の年賀状/ごん太さん

丹川修先生  「今年こそ」と決意を語った年賀状の筆の跳ねがそのことをはっきりと物語っている。
パソコンで作成する賀状が多いなか、このような肉筆のものには温もりがこもっていると同時に、差出人の新しい年に対する意気込みまで感じとることができる。
このような日常の何でもないことに目を付けたところが素晴らしい。
今年最初の投句にあたり、実にタイムリーな作品である。

地 運命を変えた一球イレギュラー/録画は家康天さん

丹川修先生  この作品は、今回の応募作のなかで、お題の「跳ねる」を読み込まない手法による数少ない句である。
一読して、ボールがグラウンドの起伏のせいで思わぬ方向に跳ねてしまって慌てた様子が、はっきりと目に浮かんでくる。
必ずしも野球だけではなく実社会にあてはめて鑑賞することもできる。
「運命を変えた」のややオーバーと思えるような表現が、逆に効果的である。

人 結果出し野暮な批判を跳ね返す/ゆうさん

丹川修先生  厳しい批判を浴びせられても、くじけることなく素晴らしい結果を出し、その批判を見事に跳ね返したのであろう。
鑑賞者のこちらまで胸がスカッとする。
「あっぱれ、あっぱれ」と言いたい。
スポーツであれ、職場であれ、勉学でもこうあって欲しい。年始にふさわしく勇気をいただいた句である。

 

<入選>

あの頃の日記に君の名が跳ねる/汐海 岬さん
跳ねるにはちょっとマスクが邪魔になる/彦翁さん
不器用で好奇心だけ跳ねている/水谷裕子さん
物価だけ大いに跳ねるうさぎ年/羽馬愚朗さん
御神籤の凶から跳ねて出る覚悟/八木五十八さん
お隣の芝生で跳ねてみたい犬/ラビットさん
気持ちだけ跳ねて上がっていない足/戴 けいこさん
無記名のコラムに筆がよく跳ねる/あそかさん
存分に跳ね回ったという寝顔/ジャック天野さん
一言が言えず終わった跳ねた髪/宮のふみさん

 

丹川修先生 丹川修先生

 卯年を迎えるにあたり、うさぎのように跳ねることができる年になればという思いで「跳ねる」のお題をお出ししましたところ、多数の楽しい句が寄せられました。
 微笑ましい気持ちで選をさせていただきました。「飛ぶ、跳ぶ、弾む」などを用いた句も寄せられるのではと思っていましたが、皆さまは、お題に忠実に作句をしていただきました。
 また、お題を読み込まずに、それらの意味を変えずに暗示(反映)させるような手法で作句されたもの(「地」の句のような)は、ほとんどありませんでした。この場合、いかに出された題に正確に呼応させるかが川柳作りの大切な要素になります。是非、挑戦していただければと思います。
 たくさんの投句をいただきありがとうございました。

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2022年12月23日 (金)【みえDE川柳】 お題:走る

天   ピストルでズドンと脅し走らせる/伊東真 さん

橋倉久美子先生 「走らせる」というからには運動会のスタートのピストルだろう。
 「パン!」だの「(用意)ドン!」だのという音で表現することが多いが、この句は「ズドン」という重々しい音になっていて、「脅し」という言葉とよく合っている。
 運動が苦手で走りたくない子どもも、こうなったら走るしかないだろう。もっとも最近は、音に敏感な子どもも少なくないことが明らかになってきて、保育園や幼稚園はもちろん小学校でも、ピストルではなく笛などでスタートの合図をするらしい。
 「ズドンと脅す」など、もってのほかなのだ。

 

地 ビリの孫アップで写す徒競走/破れ蓮 さん

橋倉久美子先生 この句で重要なのは、「アップで写す」というところ。懸命に走る表情をアップで写してしまえば、1位だろうとビリだろうと同じ写真ができあがる。
 もちろん大切な孫のこと、何位であろうとかわいさに差はないのだが、明らかにビリの写真では孫自慢も少々しにくいし、写真を見せられた方も褒め方に悩むだろう。
 川柳の世界では、「孫の句は抜けない(入選しない)」と言われるが、それは「孫」である必然性がないのに孫の句にしてしまうから。この句は「孫」がうまく生かされている。

 

人 ひたすらに走り続けてタダの人/なるほどマン さん

橋倉久美子先生 いわゆる現役世代のうちは、自分のため、家族のために、ひたすら走り続ける他ないのが多くの人の経験するところ。
 その結果、高い評価や大きな報酬を手にする人もいるが、それはむしろ少数。大多数はほどほどの評価やそこそこの報酬、すなわち「タダの人」で終わることになるわけだが、走り続けたことに何らかの価値があるのかもしれない。
 「タダの人」というオチが、共感を呼ぶ句。

 

<入選>

食料がないのか街を走る猪/羽馬愚朗 さん

愛犬に走らされてるドッグラン/こまっぴ さん

走ったら疲れないかとカタツムリ/アカエタカ さん

僕以外鉛筆走る試験場/市川勲 さん

応援の拍手が僕を走らせる/クライミング さん

走っても走ってもまだジムの中/ジャック天野 さん

やみくもに走ることない救急車/ベルベル さん

助走なら日本一だとほめられる/かぐや姫 さん

走っても大差が無いと悟る年/中央線の旅人 さん

自己記録目指して走る最後尾/福村まこと さん

 

橋倉久美子先生 橋倉久美子 先生

 439句ものご投句をいただきました。人間はもちろん、動物他いろいろなものを走らせた句がありました。
 入選しない理由の一つに、リズムの問題があります。川柳は575のリズムが基本ですが、中8、下6は句をいたずらに重くしてしまい、
川柳の特長である軽やかさがなくなってしまいます。指を折ってでも今一度リズムを確かめ、推敲(こう)をしてください。
 また、「鬼ごっこ」「パトカー・救急車」「逃げ足」「カタツムリ」などを詠んだ句で、うまくまとまっているけれど、すでに同じような内容が詠まれているため入選にできない句がありました。
 逆の見方をすれば、それだけ実力のある方の句だと思います。懲りずにご投句をお願いします。

 

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2022年11月25日 (金)【みえDE川柳】 お題:写真

天 遺影でも存在感をしめす父/春爺さん

丹川修先生  作者の父親は常に自信を持ち、知識や教養も高く堂々として存在感にあふれたお方であられたのであろう。
そして、亡くなられた後もその遺影にまで存在感が漂っているというのである。
多くの人達に尊敬され、惜しまれつつ亡くなられたことだろう。
そして、多くの人が生前にうけた御恩に感謝をしながら、遺影に手を合わされたに違いない。
遺影をテーマにした句が、たくさん寄せられた中にあって、ずっしりとした重みのある素晴らしい一句である。

地 注文は斜め15度妻を撮る/田舎のマダムさん

丹川修先生  より美しく写真を撮るための技術のようである。
しかし、なぜ15度なのだろうか。きっと、試行錯誤の末、導き出した結論なのだろう。
確かに誰しも美しく若々しく撮ってもらいたいと願っている。
こうした注文を素直に受け入れているご主人様の優しさも同時に伺うことができる。
仲の良いご夫婦である。「写真」の記述はないが、構えたカメラにポーズをとる姿がくっきりと目に浮かぶ。

人 捨てようとすると目が合うブロマイド/ゆうさん

丹川修先生  私たちが子どもの頃、大切なものはブリキの缶に入れて保管したものだ。
男の子はメンコ、女の子はおはじきなどを宝物のように扱っていた。
このブロマイドも長い間、大切にしていたのであろう。
最近になり、整理をしようと取り出しては見たものの、そのブロマイドと目が合ってしまって捨てることを躊躇(ちゅうちょ)してしまった。
憧れたスターの姿が甦(よみがえ)り、瞬時にして自身の若き時代へと時が巻き戻されたことだろう。
「ブロマイド」という懐かしい単語が上手く生かされている。

 

<入選>

この笑顔昭和が残るセピア色/1刀両断さん

写真では親友らしく見えていた/汐海 岬さん

幸せのシャッターチャンス逃さない/こまっぴさん

集合写真いつも左の端にいる/かぐや姫さん

戦争の写真言葉が下を向く/ムギさん

ハイチーズ笑顔は誰も美しい/谷てる子さん

従順に見せる写真のしたたかさ/福村まことさん

好きな子を指で白状させられる/瑠珂さん

写真よりまず網膜に焼き付ける/火の鳥さん

証明の写真キリリと結ぶ口/だんでらいおんさん

 

丹川修先生 丹川修先生
 今回のお題「写真」に対し、免許証、遺影、セピア色、アルバムなどを取り入れた句が多く寄せられました。
今日までの長きにわたる記録である「写真」に対するそれぞれの思いを垣間見ることができ、楽しく選をさせていただきました。
そうした中から、やはり意外性や独自性に富んだ句を入選とさせていただきました。
 また、若い方の作品と思われる中に、「盛る」や「映え」などを用いた句も相当数ありました。
言葉は生き物であり進化をするものですが、果たして、それらが今の段階で「写真」の題に対して適切かどうか疑問を感じました。
できる限り正当な用法に沿った句をつくるべきだと思います。たくさんのご投句ありがとうございました。

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50 | 過去の入選作 |   | 固定リンク


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