WEB特集
2022年06月02日 (木) "隠さず生きる"統合失調症 親と子の30年

ある日突然、自分の家族が、実際には起きていない“妄想”を訴えてきたとしたら…。そしてその“妄想”によってひどく苦しみ始めたとしたら…。どれだけの人が、そのことを周囲の人に包み隠さず伝え、助けを求めることができるだろうか。
病気による「症状」と、理解されにくさから生まれる「偏見」の“二重の苦しみ”に襲われる統合失調症。この病を隠さずに生きる道を選択した、ある親子がいる。
(津放送局 鈴木壮一郎)
“子どもと死ぬことばかり考えていた”

「この子を車に乗せたまま川に突っ込もうかいな、山に連れて行って2人で死のうかいな…。いっときは死ぬことばかり考えましたよ。本人が『痛い』『つらい』と泣き叫ぶ姿を見て」
津市で暮らす河村淑子さん(81)は、統合失調症に苦しんできた長女と一緒に暮らしてきた過去をそう振り返る。長女の朋子さん(56)に異変が生じたのは今から30年ほど前、25歳の時だった。ある日突然苦痛を訴え、泣き叫び始めたという。
「『生きとんのがつらい。苦しい。ただ苦しい』と言って泣き叫ぶ。それだけです。わぁわぁと、幼稚園の子が泣くように泣き叫ぶ。病院に行っても泣いているから、みんな朋子の方を見るんですけど、その当時は私もいささか閉口しましたね」(淑子さん)
発症で全てが一変…苦しむ親子

「頭の中に手を突っ込まれて、脳みそをかき混ぜられるような感覚とか、アスファルトに小石をコロンと投げつけたような幻聴とか、そういったものがありました」
周囲はなぜ朋子さんが泣き叫ぶのか理解できない一方で、朋子さんは当時の症状について、そう説明する。

朋子さんは、三重県南部の町で生まれ育った。小さいころから手のかからない子で、高校時代には剣道部のキャプテンを務めた。学生時代は「スチュワーデスになりたい」と将来の夢を語っていたという。短大では栄養士の資格を取得し、仕事で忙しい父に栄養バランスを考えた晩ご飯を作ることも。
「多くの友人に恵まれるように」と願って付けられた“朋子”という名前の通り、海外に多くのペンフレンドを持ち、自宅の壁には世界各国の友人からプレゼントされたカレンダーが今も並ぶ。

しかし、朋子さんの生活は統合失調症が発症したことで大きく変わってしまった。当時、県の職員として働いていたが、職場に行くこともできなくなった。最初に通った病院ではうつ病と診断されたが、治療を受けても症状はよくならない。入退院を繰り返し、いくつかの病院を渡り歩いた末、発症から9年後に下された病名が「統合失調症」だったのだ。

「私の胎教が悪かったんやろうかとか、育て方が悪かったんやろうかとか。自分を責めるしかないですもん。未だに思いますよ。満足に生んであげられなくて申し訳なかったな」
淑子さんは、朋子さんが苦しむ様子を見て、自分のことを責め続けた。
“二重の苦しみ”をもたらす病
統合失調症は、脳のさまざまな働きをまとめることが難しくなり、幻覚や妄想などの症状が起こるとされている。
「テレビで自分の悪口が流されている」
「隣人が自分の家を盗聴している」
実際には起きていないことを信じたり、知覚に異常を来してしまったりする症状などが挙げられる。本人は実際には存在しない “悪口”や“盗聴”に苦しむ一方で、周囲にはその苦しみが理解されにくい。

かつては、「精神分裂病」と呼ばれ、差別された歴史もある。病気による症状と理解されにくさという、いわば“二重の苦しみ”によって、当事者やその家族に孤立をもたらす統合失調症だが、決して縁遠い病ではない。厚生労働省のホームページによると、発症する人は人口の0.7%と推計され、100人に1人弱の割合で発症するという。
朋子さんの場合には、激しい痛みを伴う“体感幻覚”も発症した。背中を刃物で突き刺されたような痛みを感じ、夜中に救急車を呼んだことも一度や二度ではない。

「そのころは病気について何もわからなかったので『誰も刃物なんて刺してないよ』って、たださするだけ。『ここが痛いの?』『あそこが痛いの?』って言って、さするだけ。どうしていいかわからなかった」と、淑子さんは語る。
“頭がおかしい”“気持ち悪い”心ない言葉の数々

病気に苦しむ一家をさらに追い詰めたのは、当時住んでいた近所の住民から向けられる偏見のまなざしだった。朋子さんは「頭がおかしくなった」と言われ、水をかけられ、石をぶつけられた。「朋子ちゃんは頭がおかしいから、気持ち悪いから」と言って、去って行った友人もいたという。
淑子さんは、当時の自宅から引っ越す際、近所の人からかけられた言葉が忘れられない。
「『朋子ちゃんは頭がおかしい。今度入る(引っ越してくる)人も、朋子ちゃんみたいな娘さんがおんのやろか』と言われました。横面張ったろうかと思うくらい腹立ちましたに。親に向かってそんなこと言うかと思って、涙が出ましたに。どこへ行って、何をして迷惑かけたわけでもないのに」

娘の病気に苦しみ、偏見の目を向けられて周囲から孤立した淑子さんの頭に浮かぶのは、“2人で死のう”という考えだけだったという。
“隠さない”という選択の先に
差別や偏見にさらされる中、淑子さんは引っ越しを機に、ある決断をした。朋子さんを偏見の目から守るため、あえて近所や周囲の人に対し、病気について説明して回ることにしたのだ。
「あるとき気付いたんですよ。隠してしまうと、せっかく生まれてきた子なのに、この子の人生がないやないかと。隠すということは、本人を否定してしまうことやないですか。100%この子の人権がなくなってくやないですか。親が見てやらなかったら誰が見てくれるんです。私はそう思って腹くくったんです」(淑子さん)

いま、親子は、津市の古くからある住宅地の一角に暮らしている。ここに引っ越してきた11年前、淑子さんは、近所の一軒一軒にあいさつして回る際、朋子さんを連れて歩いたという。そして、それぞれの住民に、朋子さんには統合失調症という精神の疾患があること、どのような症状があるかということ、そして、「何かあったら助けて欲しい」と伝えた。
「さらにつよい偏見にさらされるのではないか」という不安を抱えつつ、あいさつに回った淑子さんたち。しかし、不安は杞憂だったという。近所の人たちに病気の説明をすると「ああそうですか、よろしくお願いします」といったように反応は拍子抜けするほど穏やかなものだったのだ。

実際、今の朋子さんは社交的だ。近所には、都合がつけばお菓子を手にお互いの家を行き来して、お茶をする新たな友人もできた。それ以外にも共通の趣味を持つ友人も多い。松阪市にジャズを聴きに行ったかと思うと、京都まで友人と旅行に出かけた際の写真も見せてくれた。
淑子さんは「うれしいですね。『朋子ちゃん、今度焼肉食べに行こうな』と誘ってもらって、それだけよくしてもらえる。あの人車には乗らないから、運転手は私なんですよ」と言って笑う。

そして、それは、朋子さんも同じだ。「生活が明るくなりました。差別されないから。生活がしやすくて、安心感が持てました。やっぱり偏見なく、1人の人間として見てくれることがうれしかったです」。そして、付け足すように「生きる希望を与えてくれます」と話してくれた。
親が子の病気を隠すことこそ偏見ではないか
統合失調症という周りからすれば理解するのが難しい病気を持つ家族にとって、そのことを公表するのは勇気がいることだろう。淑子さんも、これまでに出会った同じ境遇にある家族が「病気がある子のことを親が隠してしまう」様子を目の当たりにしてきた。

「こういう病気を持つ子は皆(親が)隠すんですよ。家族が外へ出さない。私もそうでしたよ、最初は。何が起きたかわからんから、(朋子が)泣き叫ぶのを見て、恥ずかしかったですよ。『そんなに大きな声で泣かんといてさ』って、私言いよったですもん。それ、すなわち、もう偏見やないですか。『みっともないからやめてちょうだい』って言いよったですもん」
そうした中で淑子さんが気付いた「“隠す”ことは、本人を否定してしまうこと」という考え。朋子さんは、子どもの病気などで同じような思いに苦しむ家族たちに、オープンにして助けを求めることの大切さを説く。

「30年、血を吐くような思い、死のうというような思い。いろんな思いがあって。苦しんでいる子を見てね、私“恥ずかしい”なんて、思えなくなったんですよ。だから、(病気の子を持つ)世間のお父さんとお母さん方も、余分なことをしゃべる必要はないですけども、つらいときは『こういうことがつらいんやわ』って、助けを求めてもいいんじゃないか。まず、親が偏見を持たない、恥ずかしがらないということです」
“統合失調症という病を隠さずに生きる”。偏見や差別に苦しんだ過去を経て、親子が選んだ生き方がそこにある。
鈴木 壮一郎
2008年入局 初任地は津局
投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:17:00 | WEB特集 |
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2022年05月24日 (火)あぁルームランプ消し忘れでバッテリー上がり...どう防ぐ?

忙しい朝。よしっ、出勤しようと車に乗ったけれど…。あれ?エンジンがかからない。もしかして…と思ったら、うわっ!ルームランプONにしっぱなし!!バッテリー上がってしまった!!
そんな経験ありませんか。なぜルームランプをつけっぱなしにしてしまうのか、そして対策はどうしたらいいのか。調べてみました。
(津放送局 杉野希都ディレクター)
“消し忘れでバッテリー上がり”を調べて!
NHK津放送局では、視聴者から寄せられた身近な疑問について津放送局の記者やディレクターたちが調査する「まるみえニュースポスト」を設けていますが、先日、車のルームランプに関する次のような投稿が寄せられました。

「車は何故ドアを閉めても、ルームランプがしばらく点灯したままなのでしょうか?
(これではAUTOとONの区別がつきません。)
ランプをONにしていたことに気づかず、バッテリーが上がってしまいました!」
「ルームランプのつけっぱなしによるバッテリー上がり」、車社会の三重県では決して珍しいことではありません。むしろ、周りに聞いてみると津放送局内のスタッフにも経験者が結構いることが分かりました…。そんな「ついやっちゃった!」人たちの声に押されて始まった今回の調査。まず、ルームランプの基本的な機能をおさらいしたいと思います。
ルームランプって、そもそもどうなってるの?

一般的に、運転席や車の天井などについているルームランプ。車種によって違いますが、多くの車のランプは、ON・AUTO・OFFの3段階に切り替えられるようになっています。
AUTOの場合、ドアを閉めた後30秒ほどで、ランプが自動で消えるようになっています。一方、ONにすると、ランプはずっと点きっぱなし。AUTOと勘違いして、長時間放置すると、バッテリーが上がってしまうというわけです。

最近の車では、ルームランプをONにしていても、車から鍵を持って離れると自動で消えるものも増えているといいますが、まだ、こうした車に乗っているという方も多いと思います。
JAF出動原因もバッテリー上がりが“最多”
こうしたバッテリー上がり、どれくらい起きているのでしょうか。JAF=日本自動車連盟三重支部に聞いてみました。ロードサービスの現場に長年にわたって出動していた小林秀樹さんによると、出動理由で一番多いのが「バッテリー上がり」だといいます。そして、正確な統計データは、記録をとっていないのでわからないものの、「現場に行っていた時の体感的に、そのうち2~3割はルームランプの消し忘れが原因ですね」と話していました。

ルームランプは恐らく最も使用する時間帯は暗くなってから。だいたい一日の最後、車を降りるときなどに荷物をとったり、手元を整理したりするときにつけて、そのまま朝までつけっぱなしに気づかず、バッテリーが上がってしまったというパターンが多そうです。
AUTOでしばらくついてるのは進化の証!?
でも、そもそもですよ?ドアを閉めた時に消えてくれれば、AUTOかOFFかなんてすぐに気づけるじゃん!なんでわざわざ30秒もついてるの!?・・・というのが投稿者の疑問ですが、いったいなぜなのでしょうか。こんなニッチな質問に親切に答えてくださったのが、元自動車メーカーの開発者で、自動車研究家の山本シンヤさんです。
スタッフ:
「そもそもルームランプはなぜドアを閉めても消えないんでしょうか?」
山本:
「…そんな質問をされたのは初めてですね」
スタッフ:
「ですよね…。すみませんっ」
山本:
「いえ、まあ簡単に言うと、そちらの方が便利だからですね」

え?どこが便利なの??
山本さんによると、ルームランプが今のようになったのは20年ほど前。それまではAUTOの場合、ドアが開いたらつき、閉まったら消える単純な仕組みだったそう。ん?だったらそのままでよかったじゃないですか。
2000年代に入り、車の制御技術が発達したことで、ルームランプが進化します。ここで初めて、ドアを閉めても30秒ほど点灯するようになりました。実はこの機能、「夜、出発する時」にドライバーをアシストするための機能だったといいます。

「夜、車に乗って、エンジンをかけるまでに、シートベルトを締めたりとか、シートの位置を調整するとか、出発のためにいろいろやることがありますよね。そういう意味合いで30くらいドアを閉めてもついたままで、スッと消えてくっていう機能がプラスされたんです。いわばルームランプの進化とも言えると思います」(山本さん)
なるほど。「夜、車を降りる時」のことばかり考えていましたが、ドアを閉めてもランプがついているのは、出発する前の準備の時に手元を照らすためなんですね!
解決編~君は鍵(ロック)をかけない~
ただ、この出発する時にはありがた~い、30秒点灯機能が、投稿者や津放送局のスタッフたち、果ては全国、全世界のドライバーに、「つけっぱなしなのに気づけないよ症候群」を引き起こしているのもまた事実。この勘違い、どうすれば防げるのか?ついに核心に迫りました。
スタッフ:
「AUTOとONの違いに気付けない。それが原因でバッテリーが上がってしまうっていうのは、どうやったら防げますかね?」
山本:
「…鍵をしめると、普通はルームランプは消えるんですよ。AUTOだったら。ついてるはずないんですけど…」
スタッフ:
「鍵!?」

一瞬、僕の心臓のBPMが190になりましたが、いや、そんなまさか…。試しに投稿者に車をかりて、AUTOの状態で鍵をかけてみると…。
あ、普通に消えた…。きれいに。スッと。この悩みを跡形もなく吹き飛ばすように…。投稿者に確認したところ、自宅の敷地内に車を停めているため、鍵をかける習慣がなかったとのこと。

いや、鍵かけてくださいよ、とも思いましたが、調べてみると車に施錠をしないケース、決して投稿者だけの話ではありません。三重県で去年発生した、車上狙いの件数は439件。そのうち56.7%と、なんと半数以上が無施錠の状態です。自宅などに停めていると、ついつい鍵をかけないことが習慣になっている方が一定数いるようです。

防犯の面からも、ルームランプの消し忘れを防ぐためにも、一番大事なのは施錠、といえそうです。
ドアを閉めてから、
鍵をかけると消える→AUTO
鍵をかけても消えない→ON(つまりつけっぱなし)
鍵をかけてちゃんと確認することで、勘違いは防げるのです。
番外編~それでもルームランプは消し忘れるから~
調査を終えようとすると、津放送局内のランプ消し忘れ経験者たちからこんな声が。
「私は車の鍵をちゃんとかけてましたよ?急いでいる時とか、荷物で手一杯の時とか、バタバタしていると気付けないこともあるじゃないですか!」
そんなどうしても消し忘れてしまうという人はどうすればいいのでしょう?大手カー用品店に尋ねたところ、すぐにできる対策の一つが、ルームランプを市販されているLEDに付け替える方法です。
消費電力を8分の1から10分の1に抑えられるので、バッテリーの状態にもよりますが、上がりにくくなるとはいえます。早速、私も自分の車でやってみましたが、ドライバーなどを使って、結構簡単に付け替えることができました。しかも、従来の電球より明るくもなりました。
ただ、これでも完全にバッテリー上がりを防げるわけではありません。そんな時の最終手段が、こちらも市販されているジャンプスターターです。普段はスマホなどのモバイルバッテリーとしても使用でき、バッテリーが上がってしまった際は車に電力を供給し、復活させることができます(バッテリーの状態や容量によって必ずしもできるわけではないとのことです)。

鍵をかけることで、消し忘れは防ぎやすくなると思いますが、それでも忘れやすいんです!という方は、万が一のため、こんな準備もしてみてはどうでしょうか。
(津放送局 杉野希都ディレクター)
投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:17:00 | WEB特集 |
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2022年05月09日 (月)集団力学に認知的不協和?横断歩道で車が止まらないワケ

「信号機のない横断歩道での車の一時停止率、三重県で大幅改善」
「停止率3.4%で全国ワーストから、47%にアップ!」
こうしたニュースを聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。確かに、以前と比べると止まってくれるようになったかな…。私もそう感じていました。
そんな中で「いやいや、そんなことはない、全く改善されてないですよ」といった声が津放送局に寄せられました。取材すると、まだまだ車が止まらない実態と、その裏にあるドライバーの“ある”心理が見えてきました。
(津放送局 周防則志)
改善してない!まだまだ止まらん横断歩道

「最近、三重県の横断歩道で車の停止率が上がり、マナーが向上したと報道されているが、全く改善されていない。(家の近くにある)横断歩道では歩行者は車が切れるのをひたすら待っている状態。いつ事故が起きても不思議ではないです」
NHK津放送局に寄せられたメッセージです。
改善したと言っても去年の停止率は47%、いまだ半分以上は止まっていません。また、停止率の調査はJAFが各都道府県で2か所ずつ横断歩道を選んで行っているもの。横断歩道の場所は公表されていませんが、あくまでその2か所のデータであって、県全体の傾向を表しているかはわかりません。
となれば、まだまだ止まらない、という横断歩道もあるはず。いったい、どんな場所なのか。さっそく、送ってくれた津市の伊原修二さんに、現場を案内してもらうことにしました。

伊原さんが危険だと指摘するのは、津市神戸、県道657号にある横断歩道です。伊原さんは買い物で出かけるときなどに、ほぼ毎日使っていると言います。
「ドライバーが意地でも止まらないんじゃないかなっていう、そんな明白な意志を感じるくらい止まらないです。ここに関しては全く改善されていません。人の命がかかっていますから、ドライバーには、守るべきは守るということを遵守してもらいたい」

憤りを隠せない様子の伊原さん。小学校があるので利用する児童もいるほか、近くの団地に暮らしている高齢者も多く、とても危険な状態だと言います。近くに住む人たちにも話を聞いてみました。
「車が止まるのが当たり前なはずですが、全然止まらないです。なんか急いでいるみたいな感じで、パーッと行かれるので、怖い」
「もう仕方ないっていうふうにあきらめてますから」

といった反応で、この横断歩道では車が止まらない、というのは地元の多くの人が感じている思いのようです。
実際に私も、横断歩道を渡ってみようと、待ってみることにしました。1台、2台、3台…。車はどんどん通り過ぎていくばかりで、全く止まりません。結局、15台ほど通過したところでようやく車が途切れ、渡れました。5回ほど試してみましたが、止まってくれる車は1台もないという状態でした。
“カーブが原因”?止まらない理由

なぜ、横断歩道で車が止まらないのか。なにかこの場所特有の理由があるかも知れない。そう思って、伊原さんや地元の人たちに聞くと、「カーブが影響している可能性があるのでは」とのこと。
この道路、東西に走っていますが、東から走ってくる車が、特に止まらない傾向があるといいます。実際に東から西に向かってこの道路を車で走ってみました。すると、カーブをこえたすぐ先に横断歩道が。見通しがききにくいため、横断歩道に気づくタイミングが遅くなり、結果として止まらないのではないかというのです。
さらにこの道は、10年ほど前に鈴鹿と松阪を結ぶ「中勢バイパス」と接続。横断歩道から少し西に向かうと、「中勢バイパス」に乗れるようになりました。その頃から徐々に交通量も増えたと言います。

「交通量で言うと軽く10倍にはなっていると思います。それまではほとんど地元の人、知ってる人だけが通るって感じの道路だったんですが、中勢バイパスがつながってからは、抜け道として使われるようになってます」(伊原修二さん)

バイパスに向かってスピードを出す車も増え、横断歩道で止まらない車もさらに増えたと言います。
“流れを止めたくない”?止まらない理由
止まらない理由は、ドライバーの心理にもあると専門家は話します。元プロのオートバイレーサーで、交通心理学に詳しい大阪国際大学の山口直範教授に、話を聞きました。
「ドライバーは自分が止まると、車の流れを止めてしまうのではないかと、後ろのドライバーへの配慮をしてしまいがちです。本来は必ず止まらなければならないというルールがあることはわかっているんです。それでも環境との影響、環境との相互作用で、止まらずに行ってしまうというのはあります。ですので、交通量は非常に大きな要因となり得ますね」

交通量が多く、後続車がいる場合、後ろに来ている車を気にして、止まらずに進んでしまうと言うのです。
「集団力学」「認知的不協和」…止まらない理由
山口教授はほかにも、心理学的に見て複数の要因が関係していると分析しています。山口教授による分析を順番に紹介します。

①「集団力学」
みんなが止まらないから自分も止まらない、あの人が止まっていないから私も止まらないという心理が働いている。日本では現状、そもそも止まらない人が全体のうち圧倒的に多いことが、止まらない要因になっている。
②「優位性の効果」
車に乗っている人は歩行者と比べたら物理的に優位だということが、人の心理に影響している。ぶつかってもケガをするのは人だから、車に乗っている自分のほうが優先だとドライバーが思い込む。そして歩行者側も遠慮がちになってしまう。
③「認知的不協和」
「歩行者にとっても、さっさと通過してあげたほうがためになるだろう」などと、都合のいい理由付けをしている。日本のドライバーの誰もが「歩行者優先」ということばは知っているのに、実際の行動が伴わない状態ができあがっている。

④「匿名性」
車は閉鎖された空間で、誰が運転しているのかわかりにくい状態。匿名性があるときは攻撃性が高まるというのが様々な心理学の実験結果で報告されていて、車の運転の場合も、どこの誰かわからない状態ならば行っても分からないだろうという気持ちが働いて、止まらずに行ってしまう。
⑤「スピードを落としたくない」
スピードを落とさないと、スムーズにストレスなく走れる上に、燃費の面でも効率が良く、今のままの速度を維持して、止まりたくないという心理が働いてしまう。
こうして並べてみると、「自分も当てはまる…」というものもありませんか。知らず知らずのうちに、止まらないでいい理由を自分でつくっていないか、私も気をつけたいと思いました。
解決の鍵は「同調効果」
では、こうした要因があるとしたうえで、どのような対策をとったらいいのでしょうか。山口教授は次のように話しています。
「ドライバーに教育を徹底する、取り締まりを徹底するという方法がまずありますよね。一方で、歩行者側にもやれることがあります。手を挙げる『ハンドサイン』で、歩行者が渡りたいんだと意思表示をすると停止率が著しく上昇するという報告があります」

ドライバーが守らないといけないルールなのに、なぜ歩行者側が何かしないといけないのだ、という考えがあるのもわかります。ただ、こうすることで、止まる車が増えるのもまた事実。少しずつ、ドライバーの考え方を変えていくためにも、歩行者側が“渡るんだ”“今から向こうに行きますよ”と意思を示すことも大切だと言えそうです。
さらに、山口教授はもう1つ、ドライバー側の対応について興味深い話をしていました。みんなが止まらないから私も止まらないという先ほどの「集団力学」。これを裏返してみれば、自分が止まることで、ほかの人も止まるようになる「同調効果」にもなるというのです。
目標は停止率100%。ドライバーの皆さんひとりひとりが止まることで、それがほかのドライバーにも影響を与えて、世の中全体の考え方が変わっていく。そんな流れにつながっていってほしいと思います。

周防則志 2020年入局
“地域の課題を解決する”報道を目指している
投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:15:00 | WEB特集 |
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2022年01月12日 (水)"フェルトが私に友達を連れてきてくれた"

「小さな頃からなぜかわからないけど、お友達と仲良くなれなくって…。自分らしくふるまうと嫌われるんだって思って自分を隠してきました」
周囲とうまくなじめず居場所がない…。周りから馬鹿にされているようでつらい…。
ずっと生きづらさを抱えながら暮らしてきた1人の女性。
そんな彼女が、大きく変わったのがフェルトとの出会いでした。
発達障害を公表した羊毛フェルト作家の話です。
(津放送局 鈴村亜希子)
羊毛フェルトの世界
愛らしい瞳でこちらを見つめるハリネズミ。本物そっくりのフクロウたち。いずれも“羊毛フェルト”で作られた作品です。羊毛フェルトは、色のついた羊毛を専用の針で刺して形づくる手芸。針に返しがついていて、刺すと繊維が絡み合い、好きな形に仕上げられます。

「どうやったらよりリアルな姿に近づけていけるかとか、それとももっと違う形にしてやろうかとか。そんなことをいろいろ考えながら想像できるのが楽しいんです」
作品を手がけた三重県鳥羽市の羊毛フェルト作家monmoさんは、羊毛フェルトの魅力をそう語ります。
生きづらい…“自分をマジックで塗りつぶす感覚”
そのmonmoさんは、小さいころからずっと生きづらさを感じながら暮らしてきたと言います。
「これかわいいよね」「うん、かわいいよね」
小学生のころの、同級生とのそんな何気ない会話にもうまくついていけない。実はかわいいと思っていないけれど、そう伝えると仲間はずれにされてしまうかもしれない。

自分らしくふるまうと嫌われたらどうしようという心配から、いつしか本当の自分の気持ちを隠して人と接するようになったというmonmoさん。「自分をマジックで塗りつぶすような感覚だった」と当時の気持ちを語ります。
就職してからも、人間関係でつまずいたり、ケアレスミスをして「要領が悪い」と叱られたりの日々。

「飲み会に行くのもすごく辛かったです。いじられたりするんですけど、加減がよく分からなくって、本当に悪口を言われているのか、馬鹿にされているのかもわからない。自分はだめなやつなんだって、つらかったですね、すごく」
会社を辞めて、ひきこもっていた時期もあったといいます。
発達障害と診断 そしてフェルトとの出会い
7年前、周囲のすすめもあって病院を受診。発達障害の「自閉症スペクトラム障害」と診断されました。
「発達障害だとわかってほっとしました。あ、自分が悪かったんじゃないんだって思えて。ただ一方で、治らないんだってなっていうショックもありましたね」

診断では、短期的な記憶を留めておくのが難しいことがわかった一方で、処理能力がはやく、それが手の器用さにつながっていることも判明しました。
そのころに始めたのが羊毛フェルトです。「そばにいてくれる友達がほしい」と思ったことが始めたきっかけだといいます。

診断で分かった手先の器用さを生かし、制作を始めると腕前はめきめきと上達。ボランティアで通っていた鳥羽市の交流施設で、作品の展示会を開いたところ、大好評となりました。そのまま翌年には、羊毛フェルトを教える教室を始めるまでに至ったのです。
発達障害を公表して開けた世界

作品が認められることで、信頼できる人たちに囲まれ、順調そうに思えた日々。しかし、monmoさんの心にひっかかることがありました。それは、「発達障害を隠している」ということでした。
みんなに嘘をついているようでおどおどしてしまう。でも、発達障害があると伝えたら、みんなが自分のもとから離れてしまうのではないか…。でも、本当の友だちが欲しいのであれば、本当のことを言わないと。本当の自分を知ってもらわないと。
悩んだ末、monmoさんは発達障害だと明らかにしました。心配をよそに、周囲の人たちはありのままを受け入れてくれたといいます。誰ひとり、それまでと変わることなく接してくれたのです。

「自分の心も晴れ晴れしましたし、自分が発達障害だからって自分の元を去った人ってひとりもいなくて。以前よりももっとみんなと仲良くなれた気がするんです。大切な人も友達もたくさんできて、本当によかった」
実際に、monmoさんが通う交流施設のスタッフも、公表してからmonmoさんがとても明るくなったと歓迎しています。
“多様性を認めて”の思いを込めて
発達障害を打ち明けて1年。monmoさんが、教室の生徒たちと開いた3回目の展示会には、ちょっと変わった姿の動物たちが登場しました。

犬のボストンテリアをかたどったかばんは、しっぽがファスナーになっていて、肩にかけることができます。さらに、おもちゃのパズルと合体したカメレオンも。一見すると変わった姿の作品もありますが、「それぞれに個性があって、多様なありようを認めてほしい」という思いが込められてるといいます。

「気持ち悪いとか、かっこいいとかいろんな感想を持つ人がいると思うんです。そういうのを全部、認めていこう、そんな思いです」
感謝と思いやりを

「たまたま私は手先が器用で、周りの人に恵まれただけだったんです。うまくいっていない人への理解、それと周りへの感謝を忘れてはいけないと思います。そういうのがきっと世の中をよくしていく鍵になっていくと自分は思っています」
話を聞いている間も、周りへの感謝や思いやりを忘れたくないと、何度も話していたmonmoさん。あらためて、自身にとって羊毛フェルトとはどんなものかと聞くと…。
「羊毛フェルトが友達を連れてきてくれたっていう感じですね。だから、すごく大好きな自分の一部のような存在です」

かつては生きづらさを感じながら暮らしてきたというmonmoさん。ありのままを周りに伝えたことで、とても楽しそうに、そしてうれしそうにひと言ひと言を紡ぎ出しくれた笑顔がとても印象的でした。
投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:19:00 | WEB特集 |
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2021年12月22日 (水)"戦病死" 父親の形見は未完の戦記

「やっぱり宝かな、世界でひとつしかない、私たちに残してくれた父の生きた証かなと思って」
三重県御浜町に住む、79歳の女性の言葉です。
女性は、終戦1か月後に戦病死した父親が書き残そうとした戦記を大切に保管してきました。真珠湾攻撃にどのような思いで臨んだかなど、詳しく書き残された戦争の記録。保管してきた遺族の思いを、開戦80年の節目に聞きました。
(津放送局 伊藤憲哉)
古びた日記帳に太平洋戦争の記録

ことし11月。太平洋戦争開戦80年を前に、1冊の日記帳と出会いました。
小豆色の表紙には、紀元二千六百三年の文字が印刷されています。
いわゆる皇紀で、西暦に直すと、1943年の日記帳とわかります。つまり開戦2年後の日記帳です。
ところが中に書かれていたのは日記ではなく、太平洋戦争の記録でした。序文には次のように書かれています。

「本書に寄せ読者各位をして当時の陸海空戦を瞼の中に追憶想記せしめられん事を望んで止まず」
「拙筆を顧みず公開す」

日記帳を保管してきたのは、三重県御浜町に住む阪本浩子さん(取材当時79歳)。終戦後に亡くした父親の形見として、この日記帳を母親から受け継ぎ、大切に保管してきました。父親が亡くなった時、阪本さんは3歳。父親の記憶はありません。阪本さんにとって、日記帳がどういう存在なのか尋ねると「唯一、父親のぬくもりを感じるものだ」としたうえで、次のように話してくれました。
「やっぱり宝かな、何もないです、これだけしか残っていないですけど。たった1冊の、世界でひとつしかない、私たちに残してくれた父の生きた証かなと思って」
(阪本さん)
真珠湾攻撃に参加していた父親

阪本さんの父親、堀 壽さんは太平洋戦争で、海軍の飛行機を整備する兵士として、航空母艦に乗り組んでいました。80年前、1941年12月8日の真珠湾攻撃の時に乗艦していたのは機動部隊の旗艦、赤城。攻撃前の11月22日、艦長から真珠湾攻撃について聞かされた時の反応を、次のように書き残していました。

「一同が愕然とした。愕然としたことよりもより一層気高い興奮が身一杯に脈打った。“之は素晴らしい。やるぞ!”静まりかえってじっと艦長の口許目許に見入ってゐる乗員の中からはしはぶき一つだに聞き取れなかった」
(堀さんの戦記の記述)

司令が乗る旗艦・赤城に乗り組んでいたことも関係があるのか、目に付いたのは真珠湾攻撃の記録の詳しさです。日本軍の艦船の陣形や、攻撃をしたハワイ・オアフ島の地図。攻撃を行った飛行機が、真珠湾にどの方角から侵入したかまで、細かく書かれていました。

また、日本がアメリカ側に与えた損害は、大本営がラジオを通じ発表したものと、アメリカのラジオ放送を聞いて書いたとみられる内容が、記されていました。

ていねいに書かれた文字からは、戦いの合間を縫って残していた記録を、のちにこの日記帳に清書したこともうかがえます。この戦記は、真珠湾攻撃にとどまらず、その後のインド洋での戦いなどについても書かれていました。
書いてはいけなかったことまで

三重県熊野市の作家、中田重顕さんは、地元東紀州地域出身の人々が残してきた戦争の記録を40年近く取材してきました。著書の中で、堀さんの戦記について執筆したこともあります。
中田さんは、堀さんの戦記の中に、インド洋での戦いで、航空母艦から飛行機で出撃した自分の直属の上官が帰還しなかったことまで書かれていることに着目しました。一兵卒が、戦争を記録し公表することなどあり得なかったであろう時代に、戦争のありさまをそのまま書き残そうとしている点が、貴重だと話します。

「軍紀にふれることがいっぱいあるんで、戦争中であれば間違いなく彼は逮捕されますよ。当時の軍人たちはそういうこと書いたらあかんのさ。不利になることも書いてあるということが非常に貴重だし面白い」
(中田さん)
未完のままの戦記
ところが堀さんの戦記は、トラック島が空襲を受ける直前、1942年9月8日の出来事を書いたところで終わっています。堀さんは終戦から1か月近く過ぎた1945年の9月11日、高熱を出し31歳で亡くなりました。最後の階級は海軍少尉。のちに、戦病死と認定されました。戦記は未完のまま残されました。当時、堀さんは航空母艦には乗っておらず、神奈川県の厚木航空隊で機密資料の焼却処分を行っていたといいます。

戦争を詳しく記録し、そのありさまを後世に伝えようとしていた人が、どういう思いで戦争の資料を焼く仕事に関わっていたのか、思わず考えさせられました。そして終戦まで生き延びたにもかかわらず、幼い娘を残したまま、命を落とすことになった父親の無念さが、私の胸を突きました。
戦争の記録が形見にならない、平和な世の中を
きちょうめんな文字で書かれた未完の戦記。父親の記憶のない阪本さんは、この戦記から父親の人柄や体温をかすかに、感じ取ることしかできません。
「私は本当の父親を知らない。ただいまおかえりとごくごく普通の平凡な父親の生活を見たかったし、本当にあったかみのある、ぬくみのある生活を少しでも覚えておきたかった。そういうことを覚える年まで父親にはいてほしかったというのは年を重ねるほど思います」「今の平和はありがたいし戦争は絶対だめやと思う。子どもや孫やひ孫には、全世界で戦争のない、2度と父親を失って泣くような人のいない世の中になってほしいです」
(阪本さん)
今回の取材で、戦争で肉親を亡くした人が大切にしている形見が、戦争の記録であることをとても悲しく、残念なことだと思いました。身近な人を、平穏な日常を奪う戦争の罪深さを改めて思い知らされたと、感じています。戦争を知らない私たちの世代が、こうした記憶をしっかり、語り継いで行く必要があると考えています。

伊藤憲哉 2019年入局
中学時代 サッカー ジュニアユースで全国大会出場
投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:15:00 | WEB特集 |
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2021年12月13日 (月)きっかけは1件のツイート 非常電話"8割故障"の衝撃

「名阪国道、非常電話で連絡しようとおもったけど、全部故障してる。一体どうなってんのよ」
先日、こんな内容のツイートがあるという連絡が、私のスマートフォンのメールに届きました。非常電話は、高速道路や自動車専用道路などで、いざという時に大切な存在。それがなぜ“全部”故障しているのか…。連絡をもとに取材を始めると、インフラをめぐる“変化の兆し”が見えてきました。
(津放送局 周防則志)
“SoLT”から届いたメール

東京・渋谷にあるNHK放送センター。記者やデスクが集まる、いわば取材の中枢部分に「SoLT」=「Social Listening Team」はあります。「SoLT」では、ツイッターなどソーシャルメディア上に投稿された事件や事故の一報のほか、ネットで話題になったり、“炎上”したりしている事案を1年365日チェック。必要な情報を全国各地のNHKの放送局にいる記者などに知らせています。
私の元にも、火事や交通事故などの情報が週に何度か届き、取材に当たっていますが、この日のメールで寄せられたツイートは特に目を引くものでした。

「名阪国道の、針から亀山方面に走ってたら、途中に金属の台みたいなの落ちてた。あぶないから、非常電話で連絡しようとおもったけど、全部故障してる。一体どうなってんのよ」
いいねは1件、リツイートは0件とほとんど拡散していない情報です。ただ、文面から見ても、ちょっとした故障ではなく、大変なことが起きているかもしれない。これはすぐに取材を始めないといけないと感じました。
すぐに、名阪国道を管理する国土交通省の北勢国道事務所に電話をかけたところ、落下物についてはすでに撤去済みだということ。さらに「非常電話が複数故障しているという話もあるが…」と聞くと、「確認して折り返す」と回答されました。
ここも、次も、その次も…みんな故障
ツイートをした、大阪市在住の『ぢぞう』さんにも話を聞きました。
この日、大阪から滋賀県の信楽に向かう途中で、バイクで名阪国道を走っていたという、ぢぞうさん。道路上に落下物を見つけたため、一番近くにある非常電話で通報しようとしたと言います。

しかし、たどりつくと「故障中」の貼り紙。それならしかたないと、次の非常電話に向かうと…なんとそちらも「故障中」。不審に思って、そこから先は非常電話に注意してバイクで走っていくと、確認できたすべての非常電話が使えなくなっていたと言うのです。
「最初に見たときは、機械の切り替えでもするのだろうかと思ったのですが、気になってツイートしました。ただ、その後調べてみても更新工事のお知らせなどが出ておらず不思議に思っていました。
『今時、携帯電話があるよ』という考えもあるかもしれません。でも、非常電話を1度使ったことがあるのですが、つながると場所が相手に自動でわかる仕組みなので、知らない土地でも安心できます。公衆電話がなくなっていくような、時代の移り変わりとも言えますが、やはりないのは不安ですね…」(ぢぞうさん)
8割以上の非常電話が故障

後日、問い合わせをした国道事務所から連絡が来ました。
「現在、名阪国道に設置されている非常電話136台のうち、116台が経年劣化などで故障しています」
計算してみると、8割以上が故障していることになります。これはただごとではない。さらに取材を進めることにしました。
大動脈「名阪国道」の歴史

「名阪国道」は、三重県の亀山インターチェンジと奈良県の天理インターチェンジの間を結ぶ無料の自動車専用道路です。
亀山インターチェンジでは、名古屋につながる高速道路の東名阪自動車道と、天理インターチェンジでは、大阪につながる高速道路の西名阪自動車道とそれぞれ接続しています。中部圏と関西圏を結ぶまさに“大動脈”です。
この名阪国道のうち、北勢国道事務所が管理する、亀山インターチェンジから奈良県の針インターチェンジまでのおよそ60キロの区間の上下線で、8割以上の非常電話が故障しているというのです。

故障していない残りの2割弱、20台は、いずれも設置が義務となっているトンネル内。ぢぞうさんが見たように、実質、トンネル以外のすべてで使えない状態だったことになります。
名阪国道の成り立ちが影響か

国土交通省によると、有料の自動車専用道路の場合、非常電話の設置は義務ですが、無料の場合は一般国道に分類され、トンネルを除き設置は義務ではなく、必要に応じて設置するものだといいます。では無料で、そもそも義務ではない名阪国道になぜ非常電話があるのでしょうか。
交通政策に詳しい関西大学の安部誠治教授は、名阪国道の成り立ちが影響しているのではないかと話します。

「当初、国では名古屋と大阪の間すべてを有料の自動車専用道路で結ぶことを計画していたんです。しかし、奈良県と三重県からの要望を受けて、現在の名阪国道に当たる部分を無料の自動車専用道路として整備することになったんですね。
名阪国道は無料ではありますが、いずれも有料となっている現在の東名阪自動車道や西名阪自動車道と一緒に整備される中で、非常電話が設置されたのではないでしょうか」(安部教授)
つまり、名古屋から大阪を結ぶ道路のうち、東部分にあたる東名阪自動車道と、西部分に当たる西名阪自動車道は有料なので、非常電話が必要で設置。その2つの間の部分にあたる名阪国道も、その流れで非常電話が設置されたのではないかというのです。
非常電話 そして撤去へ…
とはいえ、設置したのに故障したままの状態になっていると危険です。
この点について安部教授は「携帯電話が普及するのに伴って、非常電話が使われなくなっていく。その中で、故障したとしても修理されずに、そのまま放置されたのではないでしょうか。利用者が使おうと思ったときに使えないのも、誤解を招く可能性もあります。早急に撤去すべきですね」と話します。
では、今後どうするのか。北勢国道事務所に聞くと…。

「古くて部品が製造されていない電話もあり、更新は難しいです。時期は決まっていませんが、トンネル以外の非常電話のすべてを撤去することを検討しています」(北勢国道事務所 草川保重 副所長)
という回答が。すでに非常電話からは電話線が抜かれているほか、「故障中」としている非常電話の中には、意図的に使えなくしているものもあり、撤去の準備が進んでいるといいます。

一方、安全面については、名阪国道には130台以上のカメラが設置され、道路の状況を24時間監視する態勢をとっているため、事故や落下物などがあってもすぐに対応できるとしています。
ほかの高速などはどうなの?
こうした事態、ほかの高速道路などでも起きているのでしょうか。
東名高速道路や伊勢湾岸自動車道などを管理するNEXCO中日本では、非常電話が故障した場合、道路管制センターに自動で連絡が行き、保守員が対応。また、名古屋支社管内だけでも、去年1年間でおよそ1万3000件の非常電話の利用があったといいます。そのため、今後も撤去予定はないとしています。
全国の状況を調べたわけではありませんが、誰もが携帯電話を持つようになったからと言って、すぐに非常電話がなくなるというわけではなさそうです。
安全かコストか…“変化の兆し”

使われなくなりつつあるものの、すべてを維持していくとなるとコストがかかる…。でも、完全になくしてしまうのは安全上どうなのだろうか…。
安全に勝るものはありませんが、どちらが正しいか、すぐに結論を出すのは難しい問題です。技術が発展し、社会のあり方が大きく変わる中で、これまでとは異なる形で安全を担保する、そういう変化が、今後各地で起きていくのかも知れません。そして、今回の名阪国道はその始まりだったのかもしれないとも思っています。
奇しくも、今回取材のきっかけとなったのは、1件のツイートと、それを伝えてくれた「SoLT」という新しい技術の存在でした。取材の端緒といえば、「人から直接聞いてくる」ことが当たり前だったころから考えると、大きな変化です。
インフラも、報道機関も常に変わり続けていることを実感した取材になりました。

周防則志 2020年入局
“地域の課題を解決する”報道を目指している
投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:14:00 | WEB特集 |
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2021年11月01日 (月)散歩中の犬のおしっこNG?しかたない?

「犬が散歩中におしっこをするのは本能だからしかたないんです」
「散歩中の犬の尿が原因で鉄製の信号機の柱が倒れた」というニュースを伝える中で、「自宅で排せつするようしつけたほうがよい」という専門家の意見を紹介したところ、ネット上などでそんな反応が多く見られました。
これを受けてNHKでは、視聴者のみなさんにアンケートを行って、ご意見や解決のためのアイディアを募集。寄せられた声を元に改めて考えてみることにしました。結局、散歩中の犬の排せつってどうしたらいいの?
(津放送局 記者 周防則志)
散歩中の排せつアンケートから見えたのは…

「犬の散歩は運動のため。住宅地などを避けるのはマナーです」
「外で問題ない。人間だって外でトイレに行きたくなることありますよね」
「ペットを家族と思うなら排せつは家の敷地内でするべきでは?」
「犬はかわいいですが、外で自由に排せつさせるのは間違いです」
NHK津放送局などが行ったウェブ上のアンケート「どうしていますか?どう思いますか?散歩の時の犬の尿」に寄せられた声です。およそ1か月の間に101件。犬を飼っている人からも、飼っていない人からもさまざまな意見が集まり、あらためてこの問題への関心の高さをうかがわせました。

質問項目への回答からも興味深い傾向が見えてきました。
「犬の排せつは屋外でなく自宅で」という考え方についてどう思うか聞いたところ、
▼自宅で排せつさせるべきだ 38件
▼屋外で排せつさせるべきだ 20件
▼わからない 43件
という結果に。「自宅で排せつさせるべきだ」と考えている人が、意外に多いのだなと言う印象です。ただ、どういう人が回答しているかわからないので、これだけだとなんとも言えません。そこで、犬を飼っている人といない人での内訳を詳しく見てみます。
▼「自宅で飼っている」(52件)の中で…
「自宅で排せつさせるべきだ」 11件(約21%)
「屋外で排せつさせるべきだ」 11件(約21%)
「わからない」 30件(約58%)
▼「飼っていない」(44件)の中で…
「自宅で排せつさせるべきだ」 25件(約57%)
「屋外で排せつさせるべきだ」 7件(約16%)
「わからない」 12件(約27%)

犬を飼っている人は、自宅派・屋外派が同じくらいいて、それ以上にどっちがいいかわからず、正直迷っている人が多いという感じでしょうか。一方で、犬を飼っていない人は「自宅で排せつするべき」、つまり「屋外でしてほしくない」と考える人が多くなっています。飼っている人と、飼っていない人でちょっと溝を感じさせるような結果になりました。
家で排せつは犬にとってプラス
最初のニュースの反応の時と同様に、今回のアンケートでも「散歩中のおしっこは本能だから仕方がない」という意見が寄せられました。本当は外でしたいだろうにかわいそう、という気持ちは理解できますが、実際犬にとってはどうなのでしょうか?「家庭犬しつけインストラクター」の南條夏世さんに話を聞きました。

「自然の行動を制限されるようでかわいそうと思う人がいるかもしれないですが、自宅だったら、犬がトイレに行きたいときにいけますよね。犬たちにとっては、外であろうと、室内であろうと、犬用のトイレであろうと排せつをすればスッキリするので、正直どこでもいいんです。散歩の時に限定されてしまうと、天候に左右されたり、飼い主の生活スタイルに左右されたりすることもあります。だから、自宅でするようにしつけるのは、犬たちにとっても楽な事かなと思います」
また、投稿には「犬が年をとって足腰が弱ると外でするのは大変」という意見もありました。この点については…
「散歩中にするのが基本になっていると、散歩に行くまでおしっこを我慢し続けてしまいます。それは犬にとっても飼い主にとっても負担が大きいこと。そういう意味でも、家の中でできるようにしておいた方がいいですね」(南條さん)
犬も人間社会の中で暮らす以上は、完全に自由というわけにはいきません。犬にとってもストレスが少ないというのであれば、やはり家でしたほうがよさそうです。
家での排せつで飼い主が気付いたこと
では、自宅で排せつさせるようにしているという飼い主はどう考えているのでしょうか。投稿を寄せてくれた人たちに話を聞いてみました。

「合図とかもしなくても、私の顔を見たら何かご褒美がもらえると思ってシートに行くんです。今でも変なところでしちゃうことはありますが…」
愛犬を抱きかかえ、笑いながらそう話してくれた男性。広島県に住み、トイ・プードルを3頭飼っています。自宅で排せつするようにしつけたのは、家にやってきて間もない時期でした。小さいころからしつけたおかげで、自宅のペットシートの上で排せつができるといいます。なぜ、自宅での排せつをしつけたのか聞くと。

「家の中で飼っていて、昼は仕事に行っているので、十分面倒も見てやれないので、家でできるようしつけました。犬が嫌いな人もいるので、おしっことかさせているのを見ると余計嫌がる気がするんです。マナーを守っていけば、犬が好きな人も嫌いな人も、お互いよい形で暮らしていけると思うんですよね」
家での排せつがうまくいかない犬には…

一方で、自宅での排せつがうまくいかず、悩んできたという飼い主も。
「家の中で飼っているので、家にいるときはちゃんと決まったところでしてほしいなって思ってしつけをしようとしたんですが…。うまくいかなくて早い段階で諦めてしまいましたね」

投稿を寄せてくれた愛知県に住む夫婦は愛犬の「ふうすけ」君についてそう語ります。決まった場所で排せつしてくれず、床が傷んでしまったところもあるといいます。そこで使うようになったのが、犬用のおむつです。最初は家の中だけで使っていましたが、犬の尿で信号機が倒壊したというニュースを見て、散歩の時にも使うようになったといいます。

飼い主の女性は次のように話します。
「子どもの時に犬を飼っていた時は、外で排せつすることは当たり前だと思っていましたが、今回のニュースを見て、やはり飼う側として何か考えなければいけないのかなと感じて始めました。ただ、費用もかかりますし、かなりゴミも出るので、これが果たして正解なのかとも思います。犬を飼っている人たち、動物の専門家、環境美化を考えている方などみんなで何が一番いいのか考えていかないといけないなと思うようになりました」

ちなみに、犬用のおむつを使うときには注意点もあります。犬は、排せつをしたことを自分から伝えることが難しいため、1日のうちにおむつを何度か交換したり、おむつを外す時間をつくったりするなどしてほしいということです。
じゃあ、どうやってしつけたらいいの?
では、どうやったら犬の排せつをしつけることができるのでしょうか?再びインストラクターの南條先生にコツを聞いてみました。

「おそらく方法は1つで、犬たちが排せつをしたくなるようなタイミングに、飼い主がしてほしい場所に連れて行って、そこで排せつができたときにたくさん褒めて、ご褒美をあげることです。ペットシーツやトイレの場所で排せつしたほうが得だなと思ってもらう。犬たちが今何を欲しがっているかを飼い主が見極めることが大切です」(家庭犬しつけインストラクター 南條夏世さん)
すぐにできるようになるというわけではないかもしれませんが、なかなかうまくいかないという方はチャレンジしてみて下さい。
誰もが暮らしやすい社会に

今回、「臭いなどの問題で外で尿をさせるのは不快」「家の前に尿をされて困っている」という投稿もたくさんいただきました。先ほどのアンケート結果のように、飼っている人と飼っていない人の間にはまだまだ溝がありそうです。
紹介したような方法や考え方が徐々に広がっていくことで、愛犬にとっても、飼い主にとっても、そして犬を飼っていない人たちにとっても、みんなが気持ちよく暮らせる社会に少しずつでも近づいていってほしいと思います。

周防則志 2020年入局
“地域の課題を解決する”報道を目指している
投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:12:00 | WEB特集 |
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2021年10月27日 (水)すべすべ!投票用紙の"秘密"を探る

選挙で使う投票用紙って、触るとなんだかすべすべして気持ちいいですよね。それになんだか字を書きやすい気も。いったいどんな素材なの?調べてみると、投票用紙に隠れたさまざまな秘密がわかってきました。
(津放送局 中野七海 記者)
“投票用紙の疑問”調べます

「投票用紙は手触りがさらさらでとても書きやすいです。何が素材に使われているんでしょうか。やはりお高いのでしょうか」(津市在住 山田さん)
そんなメッセージがNHK津放送局の投稿フォーム「まるみえニュースポスト」に届きました。なんとなく気にはなっていたけれど、そういわれるとなぜあの手触りなの?なんだかいろいろな秘密が投票用紙にはありそうです。三重県選挙管理委員会で聞いてみることにしました。
色の組み合わせが毎回違う!

対応してくれたのは、橋本哲也書記長補佐です。
まず橋本さんが話したのは、国政選挙の投票用紙の色。実は、他の選挙のものを誤って使わないようにするため、毎回色の組みあわせが変わっていると言います。
「小選挙区や比例代表で色が違うなぁ」くらいの認識はありましたが、毎回色の組み合わせが変わっているとは。全く気付きませんでした。

10月31日に投開票の衆議院選挙では、水色(あさぎ色)が小選挙区、ピンク色が比例代表、緑色(うぐいす色)が国民審査と区別されています。実際に投票に行くときは、ちょっと気にしてみて下さい。
スムーズに書ける秘密は表面に

そして、普通の紙とはちょっと異なる質感という投票用紙の表面。その場で同じ材質の紙に書かせてもらいました。鉛筆でスムーズに書けて気持ちいい感じ。
開発・製造しているユポ・コーポレーションによると、投票用紙の表面は人の手には感じられないほどの細かい凸凹があるといいます。そのため、強く力を入れなくても鉛筆の粒子が引っかかりやすく、スムーズに書けるというのです。お年寄りなどでも、安心して書くことができる、というわけです。
自然と開く投票用紙

名前などを書いた後、投票箱に入れるときは、半分に折るという人も多いと思います。箱に入ったあとの投票用紙は、中で自然に開いているんです。この点について橋本さんに聞くと。

「投票箱の中で開いていると、開票作業の時に確認が早くできるんです。そのため、開票の結果をすばやく提供できることにつながるんです」
その秘密は原料にあります。一般的な紙に使われるパルプとは違って、ポリプロピレンという樹脂を使って製造されています。そのため、折っても元に戻りやすい特徴があるといいます。
投票用紙に込められた思い

この紙を卸している業者によると、値段は一般的なコピー用紙と比べて20倍以上とちょっと高めとのこと。今回の衆議院選挙で三重県内で用意された投票用紙は合わせて463万7400枚。ちゃんと有権者全員分が用意されています。
「候補者の名前ははっきり書いてください。そしてみなさんの持っている一票を投じてください」(橋本さん)

1枚1枚に「少しでも書きやすく」という思いが込められていると思って、皆さんも投票に行ってみてください。
まるみえニュースポストでは、今回のように取材して欲しい身の回りの問題や、ふだん何気なく気になっていることなど、なんでも募集中です。投稿をお待ちしています。

中野七海 2021年入局
好きな三重弁は「かえるのかんぴんたん」
投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:17:00 | WEB特集 |
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2021年10月21日 (木)鍵は家族の絆!"特別防犯対策監"杉良太郎さんが語る

俳優の杉良太郎さん、杉さんの妻で演歌歌手の伍代夏子さん、それにEXILEの松本利夫さん。実は3人は、全国各地で特殊詐欺の被害防止の啓発活動を行っています。
NHK津放送局では3人が三重県警察本部を訪れた際に単独インタビュー。杉さんによると被害を防ぐ鍵は“家族の絆”にあるといいますが…。インタビューのほぼ全文を公開します。
(聞き手:津放送局 周防則志 記者)
被害を防ぐポイントは3つ!
記者)
特殊詐欺の被害を防ぐポイントはどこにありますか?

松本さん)
特殊詐欺にはいろいろありますが、全てにおいて「お金の話が出たらまずは疑え」というのが1つポイントだと思います。オレオレ詐欺、還付金詐欺、クレジットカードの暗証番号を聞かれたりもそうです。お金の話が出た時点でまず疑うこと、そのあとに人に相談をするのがポイントです。

杉さん)
声に出す(会話をする)ことです。年をとると、なかなかしゃべりなれない。家族としゃべる機会もない。朝から誰ともしゃべっていないと隙をつかれる可能性がある。話し相手になって喜んでしまう可能性もある。みんなと話す、怖がらないで声に出していくことでしょうね。

伍代さん)
「絶対に私は大丈夫です」とみんなおっしゃるんですよ。「誰と話をしたって大丈夫、だまされないから。息子の声ぐらいわかるし」っておっしゃるんですけど、それでも被害が後を絶たない。
だから、犯人と思われる人や知らない人と話さないことが1番です。電話に出ないのは、本当に皆さん勇気がいるみたいなんですね。ずっと電話が鳴っているのに出ないのはもしかして知っている人かも、急用かもと思って、ドキドキするみたいなんですね。でも犯人の巧みな話術に絶対にひっかかってしまうので、知らない人からの電話は切る。もしくは留守電にするとかをおすすめします。
詐欺電話かかってきた経験ありの人も多い?

記者)
活動には多くの芸能人の皆さんが携わっていますね。
杉さん)
芸能界の中の有志が集まって、皆さんの力を借りると発信力も違いますので、説得力を持ってやっていくためには、こういった社会活動に対して相当理解していただいている事務所とかご本人にお願いをして、一致協力しながらやっています。

アイドルの方は、若い人たち、子どもたちのところにメッセージを送って、「お父さんお母さんおじいちゃんおばあちゃんに、家に帰ったらこう言ってね」と言ったり、年配の我々は、老人ホームや高齢者のところへ行ってお願いをしたりしています。
警察だけではなかなか届きにくいことも多いですから、防犯協会とか町内会長さんとか、地域の人の力を得てやっています。成功している地域ではやはり話し合いがある。みんながいろんなことを言い合う。それが犯罪阻止につながっているかなと。
記者)
これまでの活動の中で印象に残っていることはなんでしょうか?
伍代さん)
(啓発イベントに)お集まりいただく皆さんは高齢の方が多いんですけれども、そこで必ず聞くんです。「詐欺の電話がかかってきたことありますか?」って。そうすると結構手が上がるんです。びっくりして「だまされたんですか?」と聞くと、だまされちゃった人もたまにその会場の中で1人いるかいないかの割合いる。

中には「相手と会話をしている。6時くらいにかかってくるんだよ毎日」と言って、楽しみに待っちゃっている男性が1人いたんですよ。「ダメですよそんなの。それを誰かに言いましたか?」と聞くと、「今初めて言いました。警察にも言っていません、家族にも言っていません、誰にも言っていません。だけど、向こうがだまそうと一生懸命になっているところが面白い」って言う人もいたんです。それがものすごく印象的だったんです。
「ご近所にも知らせた方がいいです。そうやって言ってくださいね。気をつけましょうね、地域でみんなが注意しましょうね」って言ってその時は終わったんですけど、やはり電話はかなり無作為にあちこちにかけているんだなと、これだけたくさんの人が電話を受けたことがあるんだなと思って。
新型コロナウイルスの影響も…
記者)
コロナ禍で啓発活動の制限もあったと思います。

松本)
やはりこうやって現場に来て自分たちのメッセージを直接伝える場がなかなかなかったですね。コロナが少しでも収束して、自分たちもメッセージを強く伝えていくことが1番の望みです。この先もまだコロナがどうなるか分からないですが、詐欺自体は多発している中で、少しでも1人でも救われるよう、今後も頑張っていきたいです。
記者)
新型コロナの影響は被害に遭う側にも何かありますでしょうか。
伍代さん)
「おうち時間」が多くて、電話に出てしまうんですよね。それで丸めこまれてしまう。お家にいる時間が長い方への対策は、とにかく留守番電話とか警告が流れる電話に変えていただくか、犯人と話さないでいただきたいなと思います。
“家族の絆”が薄れる中で

周防)
そこで“家族の絆”が大切になるという活動をされていますよね。
杉さん)
私がこの職に就く時の話し合いの中心になったのが「家族の絆」なんです。家族団らん、家族が集まって食事をしたり、話をしたりする機会がなくなってきているんじゃないかと。

「家族の絆」が希薄になってきている、そして高齢者が増えておひとり住まいも増えてきた。そこにつけ込んだのが特殊詐欺です。お年寄りは1人で自分を守れないという、計算されつくした犯罪じゃないかなと思っています。
記者)
家族の間では、日ごろどんなことを気をつけていればいいのでしょうか?
松本さん)
日ごろからコミュニケーションを取ることです。先ほど杉さんもおっしゃっていましたが、声に出して会話する。ほかにも電話するとか、今ではメールやLINEなどあるので、とにかく連絡を取り合うという環境作りがとても大切です。

若い人も両親から相談されやすい雰囲気、環境作りをする。コミュニケーションをとることで、詐欺のグループに犯罪を起こしづらい状況をこちらで作っておくのが大切なんじゃないかなと。日ごろから心構えを持っておくことです。
犯人をあらゆる点で追い詰める!

記者)
特殊詐欺の加害者に対して言いたいことはありますか。
杉さん)
警察庁でも、あらゆる点で追い詰めようと、とにかくてっぺんを取りに行くということで、壊滅作戦を今やっているところです。
突っ込んで言えば、詐欺罪というのはちょっと軽いと僕は思っているんです。軽いから安易にやってしまうとか、適当にやればこれだけの利益になるとか、アルバイト料の何十倍、何百倍ともらえるみたいな、そういったことはもう許さない。安易にこういったところに手を染めちゃいけない。
記者)
これほど情熱をもって進めている杉さんの活動の原動力はどこにあるんでしょうか?

杉さん)
わからないです。質問されると昔は「お母さんの影響がありました」とかなんかいろんなことを言ってたんですけど、近頃はわからないですね。ただやってるんですよ。一生懸命やるとかいろいろ考えてないんです。
まぁそういった性格なんじゃないですかね。今の仕事、9割は法務省と厚生労働省と警察庁です。ちょっと前までは外務省があった。今ほとんど、芸能界は離れているかな。
“家族の支え合い”“電話でお金の話は不自然”
記者)
今後はさらにどのような活動をしていこうと考えていますか?
杉さん)
根本的にやらなきゃいけないのは、家族の支えあいがないと、思いやりがないと防げないということ。人の弱いところ、寂しいとかそういった隙間を狙ってくるのは、非常に悪質だと思っているので、電話、それからご本人たちの「家族の絆」です。

また金融機関などで、できたら暗証番号だけではなく、顔認証とか指紋認証を加えて欲しいなと思っているんです。なかなか一足飛びにはできませんが。
今、各県の警察からいろいろな要請があります。地域によって文化や習慣が違いますので、土地に根付いたようなところをまたさらに頑張っていきたいなと思います。
記者)
最後に県民の皆さんにメッセージをお願いします。

松本さん)
やはり家族間のコミュニケーション、連絡が取れる状況を常に心がけることが、本当に詐欺を撃退するのには一番いいのかなと思っています。日ごろから、家族間で合言葉なども決めながらコミュニケーションをとっておく。そして常に1人1人が自覚をもっておけば詐欺にあわないんじゃないかと思いますので、「家族の絆」を心がけていただきたいなと思います。

伍代さん)
とにかく知らない人に現金を渡さない、キャッシュカードも渡さない、そしてATMにもいかない、これを心がけていただきたいと思います。
杉さん)
本当にこれだけ覚えておいて欲しいのは、「電話でお金の話が出るのは絶対不自然」ということです。
「俺だ俺だ!」と言われても、「俺って誰?」って一言聞いてほしいなとは思いますね。「俺だ俺だ!」と言われて、自分の方から「なになにちゃん?」って子どもの名前を言っちゃったりなんかするのは特に良くないですから。それだけ気をつけるだけでも全然変わるんですよね。

「知らない人からの電話は詐欺ですよ、お金の話が出たら詐欺ですよ」というステッカーが貼ってあるのにだまされちゃうこともある。最初は詐欺かな、と思うけれど、「多分詐欺じゃないかな」と思ってだまされていくっていうケースもあるので、お金の話が出たら切ってください、そして電話があったということを警察に連絡してください。

周防則志 2020年入局
“地域の課題を解決する”報道を目指している
投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:12:30 | WEB特集 |
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2021年10月04日 (月)"コロナきっかけ"AKB48と高校生がMVでコラボ!

人気アイドルグループ「AKB48」のニューシングル『根も葉もRumor』。このミュージックビデオで、メンバーと共演しているのが、“ダンス強豪校”三重高校ダンス部の部員たちです。
出演のきっかけは、なんと新型コロナウイルスの感染拡大にあったといいます。“奇跡のコラボ”を果たした理由とは?共演した部員の思いに迫ります。
(津放送局 村木麻衣ディレクター)
本当なん?奇跡のコラボ
「自分たちがAKB48さんとコラボするっていうのが普通ではありえない貴重なこと。いろいろな人から『すごいな!』とか『本当なん?』と驚かれました」
そう語るのは三重県松阪市にある三重高校の3年生でダンス部のキャプテンを務める柳瀬綺心(あやみ)さんです。

三重高校ダンス部『SERIOUS FLAVOR』は全国大会で準優勝したこともある強豪。今回、部内からオーディションで選ばれた80人がAKB48のニューシングル『根も葉もRumor』のミュージックビデオに出演しました。

激しい動きが特徴のロックダンスですが、なかでも圧巻なのがサビの部分で披露される『ウィッチウェイ』。両足を交互に上げる動きが特徴で、人数も相まって見た人に圧倒的な印象を残します。
コロナ禍に「今できることを!」
コラボのきっかけは、ある1本の動画でした。
去年、新型コロナウイルスの影響でなかなか集まることができずにいた部員たち。そうした中でも、顧問の神田橋純さんがオンラインで指導を続けるなど、新しい形での部活動を模索していました。

「今できることをやろう!」
そう考えた部員たちは、それぞれの自宅でダンスを撮影し、それを1つにまとめて編集した動画をユーチューブで公開しました。

キレのあるダンスに加え、トランプをしたりジャグリングをしたり、お気に入りのぬいぐるみが登場することも。部員ひとりひとりの個性が詰まったダンス動画は、ネット上であっという間に話題となりました。
まさかの秋元康さんからのオファー
この動画が音楽プロデューサーの秋元康さんの目に留まり、神田橋さんの元に連絡がありました。
「部員のほとんどが部活動で初めてダンスをやりだしたという点を評価してもらったみたいです。『初心者にダンスを教えるのが得意な先生がいると聞いたけれど、AKB48の子たちにもダンスを教えてくれないか』って連絡があって」

まさかの依頼に最初は驚きを隠せなかったという神田橋さん。「根も葉もRumor」の振り付けを考えて、さらにAKB48へのダンス指導を担当することになりました。
そして、部員たちもミュージックビデオに出演することになりました。
練習期間はわずか1か月…

振り付けが完成したのは6月でしたが、撮影は7月に決まっていたので、練習期間はわずか1か月。コロナ禍での活動制限や、夏の全国大会の練習などで、1日に確保できる時間は30分程度しかありませんでした。
それでも部員たちは部活以外の空いた時間に自主的に練習に励み、あっという間にマスターしていったといいます。
「テンポが速いので、それに振りを合わせていくのが大変でした。そして何より、何十人と大勢で踊るので、振りを合わせるのも難しかったですね」(柳瀬さん)

そして迎えた撮影当日。静岡県伊東市の学校に、AKB48のメンバーと、部員80人が集まりました。
分からないことだらけで緊張するときもあったものの、いざ撮影が始まってみると、自然と体が動いていったという部員たち。AKB48のメンバーのミュージックビデオへの熱意に、「自分たちも頑張ろう!」とやる気が出てきたと話します。
コロナを越えた先に…“プロから学んだこと”

「コロナ禍で色々できないことがあって悔しい思いをしました。でも、辛いときでもそれに負けずに『自分たちができること』を考えながらやってきたことで、前より強くなったと思っています。それを活かして出演したミュージックビデオなので、地域の人にも全国の人にも、自分たちのダンスを見て元気になってもらいたいです」
そう力強く語った柳瀬さん。AKB48という“プロのアイドル”の魅せるダンスを間近で見て、一緒に踊ったことが、彼女たちを大きく成長させたことがうかがえました。

来年3月には自主公演も予定。コロナ禍の“奇跡のコラボ”の経験を糧に、前を向いて活動を続けます。
投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:13:00 | WEB特集 |
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