2016年6月

【みえDE川柳】 お題:笑う

天 ライバルの笑う声だけよく響く/汐海岬さん

宮村典子先生 この笑うは気に障る、面白くない笑い声である。場面は、ライバルと同席した会議? 同窓会? 又(また)は趣味の会かも知れないし、これ以外の集まりかも知れないが、とにかくどんな場にもライバルと思える人って居るものだ。作者は、誰もが同じように笑っている中でライバルの笑い声だけが自分の耳には不愉快(挑戦的)なトーンで響くと言っている。正直な吐露である。しかしライバルがいてこそ奮起できるということもある。ライバルの存在は自分をさらに成長させるカギであると思えばいい。ライバルもきっとそう思っているはずだから。

 

地 至福だね柩(ひつぎ)笑って閉じられる/なごみさん

宮村典子先生 百歳を生きて天寿を全うされたのだろうか? それなら最高だし、もしそうでなかったら、寿命の長短に関係なくその一生が悔いの無いものであったことを周りの誰もが知っていたわけで、なお最高である。366句の中に類のないインパクトのある作品でハッとさせられた。着眼に感動し胸が熱くなった。人間が書いた川柳である。送られた人の至福が羨ましい。悲しみのなかの最高の笑い、私もこんな終わり方がしたいと思う。

 

人 お多福の面に涙は溜(た)まらない/水無月さん

宮村典子先生 お多福というのは、美人ではないけれど、福を呼ぶ愛嬌(あいきょう)のある女性の顔立ちを示す時に使う言葉であるとされている。
作者は、その言葉の意味を借りて自嘲気味に心情を詠んでいる。辛(つら)くて悲しくて泣く日もあるけれど、そんなこともすぐに忘れて笑って暮らしている、生来の明るい性格である自分が愛(いと)しいのである。ちょっと切ない気も受けるが、「溜(た)まらない」と言い切っているところに芯の強さが窺(うかが)えて安堵(あんど)する。

 

<入選>

ほっとして笑うサミット終えた海/九死に十生さん

にらめっこ笑わなければ終わらない/福村まことさん

電線で烏が笑う落し物/蕎麦用人さん

何を見た竹輪を覗(のぞ)き笑みの孫/カツジィーさん

失敗を笑い話にして諭す/加藤当白さん

無理やりに笑うと泣いた顔になる/アンドブルーさん

笑わせてやがて淋(さみ)しいピエロの背/正司さん

どう生きる笑うしかない暮らしぶり/金子鋭一さん

しかめっ面へ笑い薬を振りかける/E子さん

笑う度仮面すこうしずつずれる/さなだのよっちゃんさん

 

宮村典子先生 宮村典子先生

「笑う」という課題は作句するのも楽しかったと思います。その分、安易な発想の作品が多かったですね。赤ちゃんの笑顔、母の笑顔、笑い皺(じわ)、膝が笑う等々(などなど)が続きました。もちろん、この発想で表現に工夫があればハッとさせられるのですが、推敲(すいこう)不足でしょうか?入選句には、正面からの笑い、斜めからの笑い、後ろ向きな笑い……などをいただきました。笑いは悲しみに通じるものがあるというところで、「至福だね柩笑って閉じられる」は、インパクトのある悲しい笑いでハッとさせられました。
地、天とも類想句がなく独自の発想です。オリジナルな川柳に惹(ひ)かれます。

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50 | 過去の入選作 |   | 固定リンク


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