【みえDE川柳】 お題:巻く
折れ線がつかないように巻いておく/葉ボタンさん
まずは、半紙、模造紙、証書というような紙類を想像したが、それでは発想が普通すぎる。読み返してみて「折れ線がつかないように」は「大事なものを大事にする」ということではないだろうか、それは「心」かも知れないと思った。<失敗を悔やむことがないように> <後悔しないように>の心の有様(ありよう)だとしたら、とても深い意味を持つ。句の奥を読み過ぎたかもしれないが、大事な「巻き方」だと思う。
自叙伝をつい太巻きにしてしまう/橙葉(とうよう)さん
良くも悪くも懸命に生きたという強い真実が「自叙伝」の執筆に向かわせるのだと思う。その真実の一部をちょっとだけ大袈裟(おおげさ)に書いて膨らませたことを「太巻き」と表現したところに、この句の可笑(おか)しみがある。つい太巻き(大袈裟)にしてしまったという作者の正直さがいい。
太巻きにした部分がどの場面かが気になる。
パスタくるくる突然別れ切り出され/水たまりさん
いい感じでパスタを食べていた幸せそうな恋人どうしに何が起こったのだろう。「別れよう」あるいは「別れましょう」の一言(ひとこと)にパスタを巻いたフォークが止まった。幸せな「くるくる」は一瞬にして不幸な「クルクル」になってしまったのである。
お願いですから、こんなお別れの切り出し方はやめてください……と心の叫びが聞こえる。恋のルール違反だと私も思う。
<入選>
ネジ巻けば陽気に動く古時計/渡辺勇三さん
巻いたまま卒業証書八十年/E子さん
真知子巻き知ってるなんて言えません/西井茜雲さん
マフラーに独りを埋める北の旅/金子鋭一さん
思春期の傷包帯を巻いたまま/汐海 岬さん
昆布巻き干ぴょうとてもいい仕事/あさか舞さん
虎の子を巻き上げに来る電話口/あそかさん
巻かれ過ぎ税のマフラーほどけない/浅田美紗子さん
巻く息の波を揃えるチーム戦/福村まことさん
ライオンが吠えて威厳のネジを巻く/スイッチさん
宮村典子先生
恵方巻、包帯を巻く、煙に巻く、舌を巻く、ネジを巻く等が多くありました。その中で「なるほど……」と思わせる作品を入選としました。
天・地・人は、他に類想がなく、選者として句に強く寄り添えるかどうかを決め手に選んでいます。いろんなものを巻いた作品に出会い、改めて「川柳は暮らしの中にあって、そこで気付く自分の気持ちを自由に書く文芸」だと実感しました。「課題」に対しての気付きや思うことを五七五に纏(まと)める楽しみ、それを投句することの楽しさを、もっともっと味わっていただきますように。