【みえDE川柳】 お題:湯気
有り難く湯気をいただく二番風呂/田舎のマダムさん
まだ浴室が十分暖まっていない一番風呂と違い、二番風呂はほどよく湯気が立ち込め、いかにもお風呂らしい状態で入ることができる。それを「湯気をいただく」と表現したところに心惹かれた。しかも「有り難く」と重ねることで、感謝の気持ちが強く伝わり、作者の謙虚な性格までが窺える(うかがえる)ようである。
この句は特別なことを言っているわけではないが、何だかほっとするとともに、しみじみと共感させられる。日常生活の中に句の素材はたくさんあるのだと、改めて教えられた。
蓋を取る一瞬湯気の晴れ舞台/福村まことさん
家族で囲んだ大きな土鍋。ぐつぐつと音をたて、いい匂いも漂ってきた。今日のお鍋の中身は何かなとみんなが注目する中、ぱっと蓋を取る瞬間が、映像として浮かぶような句である。
鍋を詠んだ句はたくさんあったし、茶碗蒸しの蓋を開ける句もあったが、「蓋を取る一瞬」を切り取ったこと、また、「晴れ舞台」という比喩を使って、題の「湯気」に焦点を当て主役に仕立てたことで、この句が一歩抜きんでていると感じた。
コーヒーの湯気がなくなり終わる恋/久実さん
文字通り読めば、「コーヒーの湯気がなくなる」ことと「恋が終わる」ことには何の因果関係もない。しかし、「あ、確かにコーヒーの湯気がなくなるぐらいなら、恋が終わっても仕方ないよね」と、何となく納得させられてしまう。
「コーヒー」の持つイメージ(苦み、大人の飲み物、喫茶店など)と、「湯気がなくなる」イメージ(熱かったものが冷める、値打ちがなくなるなど)をうまく使った、テクニックが心憎い。
<入選>
すぐ湯気は消えてしまった流行語/デリバリーさん
いたずらな湯気が目隠しする眼鏡/火の鳥さん
蒸籠の湯気まで売れたまんじゅう屋/谷てる子さん
便箋の湯気で恋文だとわかる/汐海 岬さん
湯気上げる力士に貰う力水/スイッチさん
まだ早い湯気の奥から鍋奉行/ウクレレみっちゃんさん
左脳から湯気が出てきた物理学/せいじさん
この湯気を土産にしたい美人の湯/おくだよしさん
撮り鉄へ汽車の多めに出す蒸気/ほのぼのさん
風邪引かぬように湯気ごとパジャマ着せ/伊東真さん
橋倉久美子先生
396句のご投句をいただきました。ありがとうございます。
「湯気」という題は、案外発想が広がりにくかったかもしれませんが、穏やかで優しい雰囲気や生活感のある句が多く、楽しく選をしました。
内容は、大きく分けて①風呂や温泉に関わる句、②鍋料理など食べ物・飲み物に関わる句、③その他でした。①や②の句は、共感できる句がたくさんありましたが、これまでにも多く詠まれていて、目新しさは出しにくかったかと思います。その中で、表現に工夫があるものや、日常生活の一コマをうまく切り取ったものを入選としました。③の中では、朝稽古やスポーツの句、叱る姿や喧嘩の句、生まれたて、でき立ての句が比較的たくさんありました。意外性があり、しかも納得させられるものを入選としました。