ものがたり

会津地方

赤羽秀斗さん

  • 未来デザイナー

よりよい世界をつくる

会津若松市の田んぼ道でカメラを片手に歩いている少年がいた。

彼は赤羽 秀斗(あかばね しゅうと)くん17才。時にはサビを探してどこまでも歩いたり、時には家のそばにあったコケをとってきて部屋で大切に育てたり、毎日自分の好きなことをして楽しむ日々を送っている。

 

 

彼には、発達障害のひとつ 自閉スペクトラム症 がある。彼の場合は、相手と感情を共有することが苦手。そのために幼いころから周囲に“変わり者”と見られ苦しんだ過去があった。

 

「髪を結んで学校に行ったら“男だから髪を結んじゃダメ”と言われた。」

 

自分を理解してくれない周囲と関わることを諦めた秀斗くんは中学卒業後、高校に進学するも2か月で中退。人と関わることのない通信制の高校でオンライン授業を受けて学んでいる。

 

しかしあるとき、「家に閉じこもっていても何も変わらない。自分を受け入れてくれる社会をつくるには、まず自分がアクションを起こさなければ」と決意。もともと好きだったアートを発信するフリーペーパーを発刊しようと思い立った。

 

「表現を奪われたという点で生きづらいなと思ったことが多かったので、アートを伝えるフリーペーパーを作ろう。ダメだったら死んでもいいやくらいの気持ちでやろうと思った。」

 

 

思い立ったらすぐに行動するのが秀斗くんの魅力のひとつ。早速取材をはじめた。

訪れたのは伝統の和紙で独自の作品を作っている滝澤 徹也(たきざわ てつや)さんのアトリエ。西会津町で自然と調和しながら和紙を作る滝澤さんをフリーペーパーで紹介しようと考えた。

 

 

 

滝澤さん

「若い人が新しいことを考えてくれること自体が“可能性の塊”だと思う」

 

秀斗くん

「高校生で、なおかつ発達障害があるところにも理解してくれる人がいるんだって知れてすごくよかった」

 

 

 

人の気持ちを推し量ることが苦手な秀斗くん。取材が終わるといつもぐったりしてしまう。

身のまわりの色や光、音にも敏感になってしまうため、スマートフォンの通知は常に切って過ごす秀斗くんにとって、会ったこともない人に取材をすることはとてもエネルギーを消費することなのだ。自分の心身に気を配りながら進めていく。

 

この日訪れたのは、猪苗代町にある「はじまりの美術館」。

ここには、障害がある作家もそうでない作家も、多様な人が生み出した作品が展示されている。

館長の岡部 兼芳(おかべ たかよし)さんは、「おもしろい!と人が思う作品を生み出す力は誰にでもある」と話す。

 

 

 

岡部さん

「ここに来た人の新しい何かが始まる場所になるといいな」

 

秀斗くん

「自分がフリーペーパーで伝えたいことと似ていてシンパシーを感じた」

 

 

 

 

フリーペーパーづくりを思い立って4か月。ようやく完成したのはA5サイズ 14ページの小さな冊子。そこには、これまで取材で出会った新しい世界への感動が詰まっているほか、

 

秀斗くん自作の詩も。

 

 

“私には林檎が青く見える

でも、みんなは赤だって、

赤が正しいって。

でも、今生きてる世界が仮想空間だったら、

ゴーグルはずしたら青く見えるかもよ。”

 

 

完成した2千部の冊子は道の駅や雑貨店など20か所以上に設置されている。その冊子を手に取ったひとり、中学時代の同級生・波多野 聖良(はたの せいら)さんは「自分も同じように周りに否定されていたことがあったから、この冊子を読んで、同じ境遇の人がいるんだって知れて少し気持ちが楽になった」という。

 

たったひとりで始めたフリーペーパーづくりは、次第に周囲の大人たちを巻き込み、そして同世代への力へとなっていた。

 

 

 

フリーペーパーづくりを通して、自分自身を見つめた秀斗くん。

その冒険はこれからも続く。

 

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