ものがたり

浜通り

今泉春雄さん

  • 嗚呼!絶景

春男、春を撮る

福島中を飛び回り、桜を追い続ける男がいる。

今泉春雄さん。その名の通り、春を愛するアマチュアカメラマンだ。

「私が生まれたとき、親父が満開の夜ノ森公園の桜を見て『こりゃめでたいなぁ!』って、

一人で花見酒を一杯やったそうなんですよ。だから私は春雄って名前になったそうです。」

生まれたときから桜と縁が深い、正に“春男”だ。

 

 

春雄さんは30年以上、毎年、県内各地の桜を撮影し続けてきた。

「どうかな、これ。芸術写真。フフフ。」

撮った写真にご満悦。

 

 

 

春雄さんが大切にしているのは、

桜と一緒にある人々の暮らしをそのまま写しとることだ。

 

「よく写真撮るときに人がじゃまだっていうじゃない。そうは思わないんだね、私はね。

ひとりだけのものじゃないもの。これだけきれいなんだからみんなでみましょうよと。

だから僕の写真には優しさがいっぱい詰まってるんです。」

春雄さんは少し照れ臭そうに話す。

 

 

 

 

そんな春雄さんの思いの背景にあるのは、

春雄さんが生まれ育った、双葉町のことだ。

原発事故が起きて、まわりに人がいなくなった故郷の桜を見て、

何気ない日常の中で咲く桜の尊さや、ありがたさに気が付いたという

「故郷を離れてみると、離れて初めてわかるっていうじゃないですか。

我々と共に桜も生きてきたんだなぁって気づいたんですよね。」

 

そんな春雄さんは毎年必ず双葉町の桜を撮影に行く。

故郷の春を記録し続けたいと考えたからだ。

町の大部分は今も荒れ放題。

原発事故前、地区のみんなで花見を開いた公園も変わり果てた姿になっていた。

桜も手入れされていないため、花が咲いていなかった。

 

 

 

 

「俺たちが植えた桜、見に行きますか。」

撮影に同行した私たちを誘ってくれた場所は、

春雄さんの自宅裏にある神社。

20年前、仲間たちと地域の繁栄を願って、桜を植えた場所だ。

でもやっぱり桜の花は、なかなか見当たらない。

それでも、1本だけわずかに花を咲かせる桜があった!

 

 

「よかったなぁ。生き残っててよかった。ちゃんと咲いたよ、咲いてるよっていうことを教えてくれてるんだな。生きてるよって。元気もらえるね。元気もらった。俺も頑張らなくちゃって思うよね。」

 

春雄さんはこうして撮った双葉町の桜を、故郷の人が集まる親睦会で披露している。

「もし気持ちがあるんだったら、みんなが来るのを待ってると思うよ、桜も。

ずっと大切にしてくれてたんだから、町の人たちは。そういう時が来ればいいね。きっと来るよ。」

 

いつかまた、満開の桜の下で、仲間たちと一緒に。

桜に込められた、春雄さんたちの未来への希望だ。

 

 

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