文研ブログ

おススメの1本 2019年01月11日 (金)

#162 今年は教育テレビ(Eテレ)60年

メディア研究部(番組研究) 宇治橋祐之


昨日、1月10日、NHK教育テレビ(Eテレ)放送開始60年、人間でいえば還暦にあたる、一つの節目を迎えました。

現在はEテレという愛称が定着し、子ども番組から、学校放送番組、語学番組や趣味実用番組、福祉番組や教養番組と多種多様な番組を放送していますが、開局当初は文字どおり「教育」のためのチャンネルとして開局しました。

1953年にテレビ放送が始まると、高度経済成長にあわせて、多くの人がテレビを購入するようになり、日本テレビ(1953年)、TBS(1955年)と開局が続きます。その一方で、評論家の大宅壮一による「一億総白痴化」という言葉に代表されるように、テレビに対する批判も生まれてきました。

そこで教育専門チャンネルを作ろうという機運が高まり、1959年にNHK教育テレビ、民放では同じ1959年に日本教育テレビ(現 テレビ朝日)、1964年に日本科学技術振興財団テレビ(現 テレビ東京)と、教育専門局が3つ誕生します。

しかし、民放の教育専門チャンネルは財政の事情などから総合番組局に移行、現在はNHK教育テレビだけになりました。

教育テレビ60年の特に最初の20年は、学校放送番組が中心でした。写真は1950年代の小学校の様子ですが、朝9時から午後3時過ぎまで、理科や社会などの番組が放送されます。

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この頃、「おかあさんといっしょ」をはじめとする子ども向けの番組は、すべて総合テレビで放送されていました。まさに「教育」のためのチャンネルだったのです。

その後の教育テレビは、時代の要請にも応えながら、他のテレビ局とは一味違う、番組編成を続けます。子どもから高齢者まで、それぞれの世代にターゲットを合わせた番組が増え、インターネット展開も積極的に進めています。現在は「みつかるEテレ」として、“こどもからおとなまで。いくつになっても、みつかる。「使える!」から「おもしろい!」まで。どんな「!」も、みつかる。”をキャッチフレーズにしています。

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教育テレビからEテレにいたる60年にどんな歴史があったのか? NHKが毎年策定・公表している「国内放送番組編集の基本計画」という少し硬い文章と、今年もEテレ60として放送される周年記念番組の出演者や内容から、読み解きました。

「教育テレビ60年 生涯学習波への広がりとインターネット展開」『放送研究と調査』2019年1月号


おススメの1本 2018年12月28日 (金)

#161 新しい時代の"学び"とは・・・

メディア研究部(メディア動向) 谷 卓生

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ことしの秋から初冬にかけて、私は、
「教育×テクノロジー」系のイベントやシンポジウムなど1)をいくつか取材した(上の写真はそれらの様子)。そこには、学校関係者や行政、産業界の人などさまざまなひとたちが参加していたが、話されていたことを煎じ詰めれば、次の一言につきると感じる。

 「教育」(Education)から「学び」(Learning)へ

振り返れば、こうした指摘は、ずいぶん前からされてはいた。しかし、「21世紀型スキル」(コミュニケーション能力や課題発見力、創造力など)や「生涯にわたって学び続ける力」を身につける必要があると言われている中で、既存の学校制度や教育制度が、そこに十分に対応できていないことが誰の目にも明らかになり、一方、インターネットやAIなどのテクノロジーの進歩が、そうした能力を身につける“新たな学び”を可能にする上で大いに役立っているということで、具体的な事例をもって、「教育から学びへ」ということが語られるようになっているのだと思う。すでに、学校に行かなくても、教師がいなくても、自由に、主体的に学べる環境はできつつある。ある通信高校の関係者に話を聞いたところ、勉強は嫌いじゃないけど、「学校」という束縛が嫌で、ネットで授業を受けたり、部活や趣味、仕事をできたりするということで通信制を選ぶ生徒も普通にいるという。「選択肢」は増えたほうが、きっといいに違いない。

現在の学校制度の行き詰まりを強く感じたケースは他にもあった。
去年に続いて今年の夏も、NHKでは、新学期を前に憂うつな気持ちや不安を抱える10代の若者たちの声に耳を傾けるキャンペーン「#8月31日の夜に」を行った。2)
私は、2年目を迎えたキャンペーンを検証するため、8月31日の放送を見たり、ネットへの投稿を読んだりしたが、出演者の発言や書き込みの多くに、「嫌なら、学校になんか行かなくていい」「ずっと学校に通うわけではない。いつか卒業する日が来るからがんばって・・・」等々とあった。膨大な数の“学校へのダメ出し”が行われている、というのが率直な感想だった。

じゃあ、どうすればいいのか。学ぶ者の自主性を生かし、能力に応じて、学年や教科の壁などを越えた学びが実現すれば、子どもや生徒の目はもっと輝くのではないか。上記のイベントなどでもそうしたことが指摘されていた。「その一助になりたい」「学びの好奇心に火をつけたい」ということで、当研究所でも「VRやARを使った学びのコンテンツ」3)の開発をめざして、NHK放送技術研究所や外部のクリエイター・研究者といっしょに調査を進めている。VRなどのテクノロジーは、インタラクティブで、自主的に学べるコンテンツ作りに有用で、これまでのように「情報」を伝えるだけでなく、「体験」をも伝えることが可能になると期待されている。「体験を通じた、豊かな学び」の時代が来るのは、そう遠いことではないのだと思う。 

平成最後のお正月”に、新しい時代の学びについて、妄想をたくましくしたい!


1)
Edvation×Summit 2018 (https://www.edvationxsummit.jp/)
  SFC OPEN RESEARCH FORUM 2018(https://orf.sfc.keio.ac.jp/2018/)
  他にも、「超教育展」(http://lot.or.jp/wp/project/545/)や「eラーニングアワード2018フォーラム」(http://www.elearningawards.jp/)などが行われた。

2)キャンペーン「#8月31日の夜に」については、『放送研究と調査』(2018年12月号)「2年目の「#8月31日の夜に。」~“公共メディアによるキャンペーン”の可能性~」をご覧ください。


3)VR=Virtual Reality :仮想現実
  AR=Argumented Reality:拡張現実

放送ヒストリー 2018年12月21日 (金)

#160 「ゼロからの出発」 ~戦後沖縄放送史を生きる~ 

メディア研究部(メディア史研究) 吉田 功                      

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「…珊瑚礁の島、沖縄島 ―1945年3月から6月まで約4ヶ月の間、この島の上皮に吹きまくって鉄の暴風はいかに激しく、いかに荒々しく、50万人住民を飢餓と、恐怖と、死の地獄に叩き込んだことであろう…」

戦後はじまったばかりのラジオ放送で、沖縄戦の様子を克明に記した戦記「鉄の暴風」を朗読した、戦後沖縄初のアナウンサー、川平朝清さん。当時24歳だったこの青年は、その後も一貫して沖縄全土に放送を広げることに奔走しました。現在91歳になられた川平さんの証言を軸に、沖縄の放送の歴史を辿りました。『放送文化と調査』12月号をごらんください。

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戦後史、と一口に言っても、沖縄と日本本土ではまったく違います。日本本土とは異なり、米軍統治下の沖縄には、住民の人権も、法で保障された自由もありませんでした。本土と切り離され、米軍の「軍事要塞」と位置づけられたのです。
放送の形態もまったく異なります。この変遷はかなり複雑です。あまり知られていない事実もあります。
そこで3日間、のべ10時間以上にわたり、広谷鏡子研究員とともに川平朝清さんにお話を伺いました。これと合わせて、できる限り関連資料を集め、戦後沖縄放送史の歩みをときほぐしてみました。

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証言のなかで、私がもっとも印象的だったものの一つは、1952年4月28日、サンフランシスコ講和条約が発効し、日本が占領から脱した日の川平さんの記憶です。
研修のため沖縄を離れ、東京に滞在していた川平さんは「強いショックを受けた」といいます。


「(東京の)新聞を見たら、『日本はいかに幸いなところであるか。ドイツのように東西に分断されず、朝鮮のように南北に分断されず』と言ってるわけですよ。奄美大島や沖縄のことは、全く触れてない。『ドイツのようにならなかった。』…とんでもない。」

日本だって、奄美、沖縄は切り離されてしまったではないか。日本本土の人は、苦しみ続けている沖縄のことなど忘れてしまったのか…。50年以上たった今でも、川平さんはその日のショックと憤りを鮮明に覚えていました。

川平さんの証言は「昔のこと」なのでしょうか。私たちにはそう思えませんでした。それはまさに今、2018年12月に直結している。
はたして、私はいま何ができるのだろう。川平さんのインタビューを終え、本稿を自分で読み返してみて、自分を問い直しています。


ことばのはなし 2018年12月14日 (金)

#159 「完成しだい・完成ししだい」のお話

メディア研究部(放送用語・表現) 塩田雄大


ドタキャンとか、やめてよね。「駅に到着しだい、連絡する」ってLINEしてきたあいつに「それを言うなら“到着ししだい”でしょ(笑)」って返したら、それっきり返信のなかった、土曜の夜。

きのう食べ残したピザを食べて、狭い部屋の掃除をして、1週間分のたまった洗濯をして、冷蔵庫の缶ビールを補充して、やることのなくなった晴れた日曜。テレビのアナウンサーの声。

次です。
「【完成しだい】と言う」という人が、「【完成ししだい】と言う」という人よりも圧倒的に多いことが、NHK放送文化研究所でおこなった全国調査の結果でわかりました。

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この調査は、現代日本語の状況を知るために定期的におこなわれており、ことし3月に、全国の20歳以上の男女4,000人に依頼して、1,200人から回答を得たものです。
調査では、「【完成しだい】、ご連絡します」「【完成ししだい】、ご連絡します」という2つの文を回答者に見せたうえで、どちらの言い方をするかについて尋ねています。その結果、「【完成しだい】と言う(【完成ししだい】とは言わない)」と答えた人がもっとも多く、全体の71%となりました。
一方、現代の国語辞典のなかには、【完成ししだい】などが本来の形で、「し」を抜いた【完成しだい】などは「俗な言い方だ」と説明しているものもあり、関係者に大きな波紋を呼んでいます。
調査を担当した研究員は、「たいへん驚いている。今後の対応も含め、慎重に判断したい」と話しています。


なんだ、じゃ「到着しだい」って言うあいつのほうが普通なのか。辞書の読みすぎだったんだ、わたし。少しひかえなくちゃ。てへっ。謝んないと。
「きのうはごめん、ひとのことばづかいを笑っちゃいけないって、大切なこと、忘れてた。許してくれる? あとさ、駅前のドラッグストアでトイレットペーパーが特売みたいだから、ダブルのやつ、こっち来るときに買ってきて。それと、本屋さんで『放送研究と調査』っていう雑誌の12月号もね☆」


「"すべき"の問題をどうするべきか ~2018年「日本語のゆれに関する調査」から~」『放送研究と調査』2018年12月号

メディアの動き 2018年12月13日 (木)

#158 生放送の字幕を自動生成しスマホに配信、民放24局で実験 ~字幕放送の"最適"を探る~

メディア研究部(メディア動向) 越智慎司

全国11エリアの民放24局で、生放送の番組の音声から字幕を自動生成しスマートフォンに配信する実証実験が、11月19日~30日の間に行われました。民放でこのような規模で字幕放送の実験が行われるのは初めてだということです。
実験には、在阪民放5社で構成する「マルチスクリーン放送協議会」が開発したシステム「字幕キャッチャー」が使われ、各局はそれぞれ5日間、夕方のニュースなどの音声から自動生成した字幕をスマホに配信しました。このシステムにはNHK放送技術研究所や情報通信研究機構(NICT)の音声認識の技術が導入されています。また、多くの人が利用しやすいよう、ダウンロードが必要なアプリではなく、スマホに標準搭載されているウェブブラウザーを使ったということです。協議会は実験後、字幕を受信した障害者や高齢者から感想や意見を集めています。

字幕放送については、総務省が2018年2月に策定した指針で、民放の県域局(独立U局を除く)では、2027年度までに字幕付与の対象番組のすべて、少なくとも80%以上につけるという目標が示されています。しかし、地域の民放各局は字幕放送の人手や費用が限られ、どう対応するかが課題となっています。

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「字幕キャッチャー」のデモンストレーション、Inter BEE 2018

実証実験の直前に、放送機器展「Inter BEE 2018」(11月14~16日、千葉市)で行われた「字幕キャッチャー」のデモンストレーションを取材しました。生放送の字幕は、間違いがないよう人の手で入力や修正を行うため、実際の音声から大きく遅れることが多いですが、協議会によると「字幕キャッチャー」での遅れは5秒程度だということです。一方、自動で作られた字幕は、文意は読み取れるものの、漢字などが正しく表示されないケースが散見されました。

協議会は、字幕の自動生成の実用化には、間違いがあっても字幕が有用だという視聴者の声、その声を国などが後押しし、社会の理解を得ること、完璧でない字幕を送ることについての放送局の判断、などが重要だと考えています。このため、今回の実験で字幕放送を見た人たちからリアルタイム性や表示の正確さをどの程度必要としているか聞くことにしています。今、どのくらいであれば視聴者に受け入れてもらえるのか、協議会と地域の民放各局は、字幕放送の“最適”を探ろうとしています。

調査あれこれ 2018年12月07日 (金)

#157 ラプソディと「リアル」

世論調査部(視聴者調査) 保髙隆之


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いま話題の映画「ボヘミアン・ラプソディ」、ご覧になりましたか?

私は公開直後にドルビーアトモス版を鑑賞。ラスト20分あまりのライブシーンは圧巻でした。(余談ですが、懐かしさのあまりクイーンが過去に楽曲提供した「フラッシュ・ゴードン」(オープニング「だけ」は最高!)や「ハイランダー/悪魔の戦士」といった作品のBDを久しぶりに奥から引っ張り出しました。)

さて、場内が明るくなった後の客席の空気感から、私が思い出したのが「シン・ゴジラ」と「カメラを止めるな!」。いずれもSNSを通じての情報拡散が大ヒットにつながったとされる映画ですが、個人的には、上映後の観客たちの「一体感」、まさにこの日のこの上映回を共有したという実感があり、作品それ自体はもちろん、劇場での体験こみで楽しんだ作品でした。よくマーケティングでいわれる「リアル」イベントの価値とは、こういうことなのだろうな、と肌感覚で納得したものです。(それぞれの作品で「応援(発声)上映会」が話題になったのも偶然ではないと思います。)

この「リアル」という価値、私がこの1年あまり携わってきた研究で、大学生たちから何度も聞いたキーワードでした。

研究の一環で、10代後半から20代のみなさんに話を伺ったのですが、テレビとSNSの情報を比較したときに、「テレビで放送されている内容はどうせテレビ局に都合のいいように編集されていそうでリアルさを感じない」。一方、「SNSからの情報は当事者の生の声なのでリアルに感じる」「自分が知っている(逆に自分のことを知っている)人と共有した情報はリアル」といった声が共通して聞かれました。例えると、SNSからの情報は産地直送の生の食材で、調理をするのも自分自身なので「リアル」。テレビからの情報はどんな人が間に入って調理したか分からない加工品として届けられるから「非リアル」、といった“イメージ”があるようでした。そして自分にとって「リアル」な情報を共有できるSNSは「自分たちの側のメディア」で、テレビは「あちら側のメディア」である、と、テレビ局の人間としては耳の痛い発言をする若者もいました。こういったテレビに対する微妙な距離感は、利用時間の比較だけでは分からないものです。あらためて、いまの若年層のメディア利用行動と情報に対する意識の関係を世論調査で探りたいと思いました。

そんな「情報とメディア利用」世論調査の結果を、『放送研究と調査』12月号文研のホームページで報告しています。はたして若年層の情報観やニュースの入手先の特徴とは? ぜひ、ご一読ください!

おススメの1本 2018年11月30日 (金)

#156 大阪府北部の地震で飛び交った流言・虚偽情報

メディア研究部(メディア動向) 福長秀彦


2018年は「大阪府北部の地震」(6月)、「西日本豪雨」(7月)、「北海道胆振東部地震」(9月)と大きな災害が続きました。そのたびに、事実の裏づけがない情報が飛び交いました。
このうち大阪府北部の事例を『放送研究と調査』11月号で分析しました。
事実の裏づけがない情報は、「デマ」と総称されていますが、厳密に言うと、思い込みや疑いなどによる根拠のない情報が人びとの動揺や不安などによって拡散するのが「流言」、誹謗ひぼう中傷など悪意のウソによる虚偽情報が「デマ」と定義されています。流言にはデマのよぅな作為性はないとされています。

大阪府北部の地震では、「京阪(電鉄)の電車が脱線」、「京セラドーム大阪の屋上に亀裂」、「シマウマ脱走」などの事実無根の情報が拡散しているのがTwitter上で確認されました。

 京セラドーム大阪
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(注)2018年8月10日に筆者撮影

「京阪脱線」のキーワードでTwitterの投稿を検索してみると(Yahoo!リアルタイム検索等を使用)、地震が発生した直後に投稿されたツイートは「脱線するかと思った」「脱線したかと思った」というものでした。ところが、しばらくすると「脱線したの?」という疑問形のツイート、続いて「脱線しているらしい」という推測のツイートが増えてゆきます。やがて、「脱線した」という確定的な表現の投稿が現れました。この例は、事実の裏づけがない情報が人びとの動揺や不安によって変容しながら拡散してゆく「流言」と言えるのではないでしょうか。
「シマウマ脱走」のツイートは明らかに虚偽情報ですが、悪意によるデマというよりは悪ふざけの「フェイクニュース」に当たると思います。熊本地震の際の「ライオン逃げた」のツイートと同様に、まったく無関係の画像が添付されていました。

「シマウマ脱走」の虚偽情報などに注意を呼び掛けるNHKニュース(6月18日放送)
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(注)画像はツイートに添付されていたもの

流言や虚偽情報(デマ、フェイクニュースなど)はTwitterなどのSNSによって瞬時に、そして広範囲に拡散し、拡散する様子がリアルタイムで可視化されます。災害時の流言や虚偽情報の中には、人びとの安全に係わり、迅速に拡散を抑制しなければならないものが多くあります。大阪府北部の地震以降、自治体や警察は「事実と異なる情報に注意し、確認されていない情報をむやみに拡散しないように」と積極的に呼びかけるようになっています。また、NHKなどメディアが事実無根の情報を打ち消す報道をすることも多くなりました。

マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究グループによると、Twitter上で虚偽情報が伝わるスピードは正しい情報よりもはるかに速いということです。流言についても同じことが言えるのではないでしょうか。SNS時代の流言や虚偽情報をどう抑制すべきか、緊急時コミュニケーションの重要なテーマであると思います。

調査あれこれ 2018年11月23日 (金)

#155 近づく!2020年東京オリンピック 見たい競技は何ですか!?

世論調査部(視聴者調査) 斉藤孝信


2018年も残すところ、ひと月余り。開催決定の頃には「まだ先の話」と思っていた2020年東京オリンピック・パラリンピックも、いよいよ近づいてきましたね。
皆さんは、2020年の東京オリンピックで、どんな競技の観戦を楽しみにしていますか?
文研が2018年3月、全国の20歳以上の男女3600人を対象に実施した「2020年東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査」では、リオデジャネイロ五輪で日本選手が上位入賞した競技や、東京五輪から正式種目となる競技、開閉会式など合わせて25の中から、「見たい」と思うものをいくつでも選んでもらいました。
上位10競技はご覧のようになりました。

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「体操」が69%で最も多く、「陸上競技」も約6割。「競泳」「開会式」「卓球」は約半数の人が見たいと回答しました。
こうみますと、リオデジャネイロ大会で日本勢がメダルを獲得した競技が多いですね。「東京でもぜひメダルを!」と熱望する皆さんの声が聞こえてくるようです。
どうですか?あなたが「見たい!」と思う競技はたくさん入っていましたか?
この調査は2020年の東京五輪まで続ける予定ですが、今後、各種目の代表選手が決まったり、ラグビーのワールドカップやサッカーのアジアカップなども行われたりする中で、「見たい競技」の順位や割合がどう変化していくのか。あるいは(少し気が早いですが)大会終了後、皆さんが「見た」と答える競技はどんなものになるのか。今から楽しみです。

というのも…。
今回紹介する2018年3月調査は、韓国・ピョンチャンで行われた冬季五輪の直後だったので、同五輪でどんな競技を「見た」のかを尋ねました。それを開催前の2017年10月に尋ねた「見たい競技」と見比べると、とても興味深いのです!!
本編を楽しくお読みいただけるように、クイズ形式で!

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「見たい」「見た」人が2割以上となった競技を並べてみました。
黄色で塗った「あの競技①」は、事前の「見たい」でも、事後の「見た」でもトップでした。皆さん、おわかりになりますでしょうか。多くの人がメダルを期待し、期待通りに(いや、期待以上だったかもしれません)メダルを獲得してくれた、そう、「あの競技」です!
一方、見比べて面白いのが、緑の「あの競技②」。事前調査では「見たい」が25%だったのに、大会後には70%もの人が「見た」と回答しました。わかりますか?ヒント。女子チームがメダルを獲得し、競技中のやりとりで彼女たちが口にした言葉が流行語にもなった、「あの競技」です。

この「あの競技②」以外にも、スピードスケートも「見たい」37%→「見た」70%、スノーボードも「見たい」29%→「見た」50%と大きく増加していました。日本勢の活躍やメダル獲得に加えて、決勝戦などが連日、テレビなどのメディアで大きく取り上げられたことも寄与しているのではないでしょうか。(かく言う私も、ほとんど知識もなかったスノーボードの迫力とカッコよさに魅せられ、夢中で応援した一人です。)

そう考えると、2020年東京五輪でも、事前の「見たい」が、実際にはどこまで「見た」になるのか。楽しみです!
特に、2020年東京大会から正式種目となる「野球・ソフトボール」「スポーツクライミング」「空手」「スケートボード」「サーフィン」にも注目しています。

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17年10月調査、18年3月調査とも、野球が4割あまり、その他の4競技は2割未満でした。今後、競技や選手への注目が高まる中で、どの競技もどんどん「見たい!」と思う人に増えていってほしいですね!
詳細な分析結果は、『放送研究と調査』11月号で、詳しくご報告いたします(クイズの正解もぜひチェックしてみてください!)。どうぞお楽しみに!

調査あれこれ 2018年11月16日 (金)

#154 パラリンピックに対する障害者の受け止めは⋯

メディア研究(メディア動向) 大野敏明

2020年の東京パラリンピックまであと2年を切りました。
NHKのみならず、民放の番組やCMなどにも「パラアスリート」が登場する機会、増えていますよね。

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この写真に写っている、バトンを次の選手に渡そうとしている左端の女の子。実は大活躍するあの有名なパラアスリート!

…ではなく、知的障害がある私の姉なんです。もう40年以上も前、養護学校(今でいう特別支援学校)時代の運動会での様子です。
姉は学校一と言えるくらい足が遅くて、とても「パラアスリート」になれるような器ではありませんでしたが、一生懸命ゴールに向かう姿には、弟ながらウルッとしたことを覚えています。


ところで、皆さんの周りには障害がある人っていますか?
町で障害者に出会ったら、どんなふうに思いますか?


小さい頃、姉と一緒に歩いていると冷ややかな目で見られたり、心無い言葉を投げかけられて母親が猛然と抗議したりすることがしばしばありました。
姉に対して、幼い私はシンプルに「何も悪くないのに、かわいそうだなぁ」と思う反面、友達に姉のことをからかわれたりすると「恥ずかしい」と思ったり、「人に知られたくない」「障害がない姉ならよかったのに」と思ってしまったことが何度もあります。正直言えば、今だってほんの少しはあります。
そんな自分は心底最低だなと反省しながらも、ダメな自分に少しでも気づかせてくれる姉は、今思うと人生の中で最も影響を受けた人かもしれません。実際、仕事でこんな原稿を書いているわけで。

と、個人的な話はさておき、子供の頃に比べると、近頃は随分と周囲の目が温かくなったように感じます。障害者に対する人々の意識の変化…要因はいろいろとあるかと思いますが、パラリンピックもそのひとつではないでしょうか?

文研が実施した世論調査の中で、パラリンピックなどの障害者スポーツについて感じることを聞いたところ、「選手の頑張りに感動する」(70%)、「障害者への理解が深まる」(43%)など、障害者への共感や理解が深まるという意見が多く見られました。そういった意味でも、2020年の東京パラリンピックを機に、障害者の存在をメディアが大きく取り上げることには、大きな意義があると思います。

しかし一方で、障害がある人たちは、このパラリンピックをどう受け止めているのでしょうか?
文研では3月に開催されたピョンチャンパラリンピックの直後、前述の世論調査と並行して、障害者を対象にしたWEB調査を実施しました。パラリンピックに対する声の一部を紹介すると…

「困難を乗り越え競技に取り組む選手たちに感動。自分も出来ることから始めようと思った」(視覚障害)
「前向きな気持ち、チャレンジ精神を思い出せてくれた」(肢体不自由)

こんな風にポジティブな声がある反面、実はネガティブな声も。

「障害者はスポーツをするものだという偏見を植えつけて、とてもウザイ」(肢体不自由)
「聴覚障害者の五輪、デフリンピックも放送してほしい」(聴覚障害)
「メディアのお祭り騒ぎでしかない」(視覚障害)

ひと言で「障害者」と言っても、障害の種類や重さ、発症時期、現在置かれている状況などなど、背負っているものはもちろん人それぞれ違います。パラリンピックやメディアに対する思いもさまざまで、前向きに捉えている人もいれば、そうでない人もいます。
寄せられた声のひとつひとつに、当たり前だけれども大切な「多様性」について改めて気づかされ、同時に、まずはこういうことを包み隠さずに、自由に話せるような社会になることこそ大事なのではないかと考えさせられました。

こうした障害者の皆さんの声を、『放送研究と調査 』11月号にまとめて掲載しました。世論調査の結果も掲載されていますので、お時間がある時に是非ご覧ください。

ちなみにうちの姉、スポーツには全く興味がないようで、もっぱら歌番組ばかり見ています。そういう私もまぁ似たようなもので、宮本浩次×椎名林檎や松任谷由実、あいみょんの出場が決まったばかりの紅白歌合戦、今から楽しみでしかたありません。姉の影響ですかね。

おススメの1本 2018年11月09日 (金)

#153 いのちを守る「黄色いタオル」 ~2017年九州北部豪雨・2018年西日本豪雨の避難行動を考える~

メディア研究部(メディア動向) 入江さやか

■  西日本豪雨 高齢者中心に避難の遅れ 

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写真1 岡山県倉敷市真備町上空からの映像(NHK・2018年7月7日)

7月に発生した「西日本豪雨(平成30年7月豪雨)」では、岡山県・広島県・愛媛県などで死者・行方不明者が232人にのぼりました(2018年10月9日現在)。特に岡山県倉敷市真備町では、町内を流れる小田川などの中小河川が氾濫し、地区の3分の2、住宅約4000棟が浸水(写真1)。51人が亡くなり、その9割が高齢者でした。倉敷市が避難勧告や避難指示を発表したのは7月6日の午後10時以降で、周囲の状況がわからない夜間に大量の水が押し寄せ、避難が遅れたのが原因とみられています。

図1は2017年に倉敷市が作成した真備町の「洪水・土砂災害ハザードマップ」(部分)です。紫色で示された部分が、河川の氾濫で浸水すると想定されていた区域です。これは西日本豪雨で浸水した地域とほぼ一致しています。しかし豪雨のあとの内閣府のヒアリングに対して、住民は「ハザードマップでは自宅周辺まで浸水することを明示していたが、現在は河川改修がなされたこともあって『超えないだろう』と油断していた(原文ママ)」と話しています。

西日本豪雨によって「地域の災害リスクの認知」と「高齢者などの迅速な避難」という課題が改めて浮き彫りになりました。現在、内閣府に有識者のワーキンググループが設置され、対策が検討されています。

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図1 倉敷市真備町の「洪水・土砂災害ハザードマップ(部分)」

■  高齢化率41.9%の村で起きたこと

こうした課題に、すでに地域ぐるみで取り組んでいた村がありました。
NHK放送文化研究所では2017年7月の「九州北部豪雨」で被災した福岡県朝倉市・東峰村、大分県日田市の20歳以上の男女2,000人を対象に世論調査を行いました。このデータを改めてみてみると、興味深いことがわかりました。

調査の対象とした3自治体のうち、東峰村は人口約2,000人の小さな山村です。福岡県内で最も高齢化が進んでおり、高齢化率は41.9%(2018年4月1日現在)となっています。ところが、豪雨災害が起きた2017年7月5日に東峰村にいた人のうち42%もの人が、自宅や職場などから安全な場所へと避難していました。さらに避難したタイミングのデータをグラフにすると、立ち上がりが他の2つの自治体に比べて2時間ほど早いように見えるのです(図2)。九州北部豪雨の死者・行方不明者は42人でしたが、このうち東峰村は3人でした。


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図2 立ち退き避難をした時間帯(7月5日午後0時~11時)


■幸福の「黄色いタオル」

これはいったいなぜなのか? 東峰村に取材したところ、その「秘密」の背景がわかりました。豪雨災害に備えて、2015年から毎年村ぐるみの防災訓練を毎年繰り返し、「いかに高齢者をスムーズに避難させるか」に注力していたのです。昨年の九州北部豪雨のちょうど10日前に行った訓練には、村民の半数にあたる1,050人が参加。高齢者の避難を手助けするサポーターを決めておき、実際に避難経路の確認もしていました。

訓練では、迅速な避難を促す東峰村独自の「自分のいのちを災害から守る7か条」が書かれた黄色いタオルが全員に配布されました(写真2)。自宅を離れて避難する時には、このタオルを玄関先などに結び、「避難済み」であることを示すルールになっていて、訓練でも実践しました。ちなみにタオルに黄色を選んだのは、東峰村が俳優の故・高倉健さんのゆかりの地で、主演映画「幸福の黄色いハンカチ」にちなんでのことだそうです。

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写真2 東峰村の「黄色いタオル」


■  「グッド・プラクティス」の共有を

災害が起きると、メディアは自治体などの「あら探し」をしがちです。もちろん、対応が適切だったかどうかを客観的に検証することはメディアの重要な役割です。その一方で、高齢化率の極めて高い東峰村のような取り組みを、他の地域の模範となる「グッド・プラクティス」として積極的に周知・共有していくことも、有効な減災報道だと考えています。

今回ご紹介した世論調査の内容は、11月1日刊行の『放送研究と調査』11月号に掲載されます。あわせて同10月号掲載の「西日本豪雨(平成30年7月豪雨)をテレビはどう伝えたか」もご覧ください。