文研ブログ

調査あれこれ 2023年10月20日 (金)

部活にまつわるエトセトラ ~「中学生・高校生の生活と意識調査2022」から~【研究員の視点】#508

世論調査部(社会調査)村田ひろ子

 猛暑の夏が終わり、ようやく秋らしくなってきましたね。近所の商店街で、テニスラケットを持った中高生たちがたい焼きをおいしそうにほおばっているのを見かけて、「秋といえば、スポーツ、それからなんといっても食欲だよね」と一人納得したのでした。もちろん芸術の秋も楽しみたいですよね。

 話は少しそれますが、中高生にとって、スポーツや芸術といえば、部活動ではないでしょうか。イマドキの中高生たちは、どのように部活動に取り組んでいるのか、気になりませんか?NHK放送文化研究所が昨夏、全国の中高生を対象に実施した世論調査※1の結果を確認してみましょう。

 学校で、部活動をしているかどうかを尋ねた結果、中学生では、「体育系(運動部)にだけ入っている」という人が6割以上を占めています。高校生では4割近くで、中学生より少なくなっています。また、部活動に『入っている(体育系+文化系+両方)』人は、中学生が8割、高校生が7割で、多くの中高生たちが部活動に入っていることがわかります。

部活動に入っているか1020_1_nyuubu.png

 それでは、中高生たちは自分が入っている部活動にどのくらい満足しているのでしょうか? 中高ともに『満足している(とても+まあ)』が9割近くにのぼります。部活動の内容別にみると、「体育系(運動部)にだけ入っている」人も、「文化系にだけ入っている」人も、『満足している』が9割近くで、差はありません。

部活動に満足しているか(分母:部活動に入っていると回答した人)1020_2_manzokudo.png

 中高生の多くが、部活動に満足しているのはなぜでしょうか?部活動に入っている理由を複数回答で尋ねた結果をみると、中高ともに「自分がやりたかったから」が他の選択肢を引き離して最も多く、中学生が72%、高校生が76%にのぼります。「自分がやりたかったから」を選んだ人の部活動の満足度は9割を超えていて、それ以外の回答を選んだ人の満足度(約7割)と比べてかなり高くなっています。やりたいことが選べて満足できている人が多いようです。一方で、学校で必ず入ることになっているという回答が1割程度あります。学校の方針なのでしょうが、納得できていればいいのですけど、少し心配もしてしまいます。

部活動に入っている理由(複数回答、分母:部活動に入っていると回答した人)1020_3_riyuu.png

 さて、中高生は、部活動を通じて多くの人と知り合い、交流を深めていると考えられますが、部活動と友だちづきあいの間には関連がみられるでしょうか? 高校生では、「ちょっとした悩みごとを相談できる友だち」や「深刻な悩みごとを相談できる友だち」がいる人は、部活動への参加の有無では差がありません。一方、中学生では、部活動に入っている人のほうが、いずれの場合についても、割合が高くなっています。高校生と比べて行動範囲が限定され、おのずと学校内の友人関係が中心になるなか、部活動に入っている子のほうがクラス以外の交友範囲が広がって、深い関係の友だちのいる割合が高くなっているのかもしれませんね。

友だちがいる人の割合(部活動への参加の有無・中高別)1020_4_yuujinnsuu.png

 中高生について調べた世論調査の結果は、他にもたくさん!SNS利用やジェンダー意識、親子関係、学校生活など、イマドキの中高生の意識、ぜひ、こちらからチェックしてみてください!
今どきの中高生たち~第6回「中学生・高校生の生活と意識調査2022」単純集計結果~

※1 第6回「中学生・高校生の生活と意識調査2022」

○おすすめ記事
コロナ禍の不安やストレス,ネット社会の中高生~「中学生・高校生の生活と意識調査2022 」から①~
ジェンダーをめぐる中高生と親の意識~「中学生・高校生の生活と意識調査2022」から②~

【村田ひろ子】
2010年からNHK放送文化研究所で社会調査の企画や分析に従事。これまで、「中学生・高校生の生活と意識」「生命倫理」「食生活」に関する世論調査やISSP国際比較調査などを担当。

メディアの動き 2023年10月17日 (火)

【メディアの動き】『1. 5℃の約束』,NHK 民放6局連動で放送,メディア自身の温暖化対策も紹介

 地球温暖化対策を考える番組『1.5℃の約束–いますぐ動こう,気温上昇を止めるために。(以下,1.5℃の約束)』が9月24日,NHK総合で放送された。NHKと民放のあわせて6局のアナウンサーが参加し,「地球沸騰化」といわれるほどの熱波や,山火事・洪水など地球温暖化の影響による被害が世界で相次いでいる現状,それに日本各地で行われている温室効果ガスの排出削減といった取り組みが紹介された。

 この番組は,2021年の「COP26」で「世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて1.5℃に抑える」という新たな決意を世界各国が表明したことをきっかけに,2022年から国連と日本のメディアが共同で始めた同名のキャンペーンの一環で,昨年に続き2回目の放送である。今年のキャンペーンには150を超える国内のメディアが参加しており,番組やウェブサイトなどで気温上昇を抑えるための対策などを視聴者や読者に伝えた。また,キャンペーンではメディア自身が地球温暖化対策を実践することを視野に入れている。こうした事業者が対策に取り組む「環境経営」は,他業種では積極的に導入されている。このため番組では,TBSのニュース番組『Nスタ』で2022年5月から原稿や進行表をタブレットに変えペーパーレス化を進めたことや,『1.5℃の約束』のセットの一部は廃棄物をリサイクルして作ったことなどが紹介された。

 地球温暖化の影響が深刻さを増す中,メディアには,これまでの「対策を伝える」役割だけでなく,「自ら積極的に排出削減に取り組む」という環境経営の推進がいっそう求められる。

メディアの動き 2023年10月17日 (火)

【メディアの動き】ニュース記事の使用料,著しく低い場合は独禁法違反のおそれと公取が指摘

 インターネット上でニュースをまとめて表示するポータルサイトやアプリの運営事業者に対して,記事を提供している新聞社などのメディアから,使用料をめぐる不満の声があがっている。このため公正取引委員会は,メディア220社と消費者2,000人のアンケート,事業者や有識者への聞き取りなどをもとに取引実態を調査し,9月21日,報告書を公表した。

 それによると,2021年度に支払われた使用料の単価は運営事業者によって5倍程度の開きがあり,一方的に著しく低い単価を設定した場合は,独占禁止法違反のおそれがあると指摘した。特におよそ6割のメディアが,使用料の支払額が最も多い事業者として挙げたヤフーについては,「ニュースメディア事業者との関係で優越的地位にある可能性がある」と言及した。

 これを受けてヤフーは25日,メディア事業者に対して契約内容について丁寧に説明するとともに,配信の実績に応じた契約の見直しなどを検討していくなどと発表した。

 記事使用料をめぐる論争は海外でも広がっており,カナダでは2023年6月,ポータルサイトなどを運営しているプラットフォーム事業者に対して,ニュース記事の掲載で得た利益の一部を報道機関に分配することを事実上義務づける法律が成立した。カナダ政府は,民主主義に不可欠なニュースメディアの存続のために必要だとしているが,Meta社はカナダでの自社サービスではニュースを閲覧させないようにすると発表するなどの動きが出ている。

 メディアとプラットフォームが共存する新たな仕組みが確立されるかが注目される。

メディアの動き 2023年10月17日 (火)

【メディアの動き】"メディア王"マードック会長引退発表

 アメリカのFOX Newsなどの親会社Fox CorporationとWall Street Journalなどを傘下に持つNews Corporationは9月21日,ルパート・マードック氏(92歳)が11月に会長職を退いて名誉会長となり,長男ラックラン氏が会長に就任すると発表した。英米豪3か国にまたがる同氏の事業の行方に関心が集まっている。

 オーストラリア出身のマードック氏は,父親の急死により1952年に南部アデレードの地方紙を引き継いだあと,経営手腕を発揮して新聞事業を拡大し,同国初の全国紙を創設する一方,テレビ事業にも乗り出した。1969年にはイギリスに進出して大衆紙News of the World(NoW)やSUN,さらには高級紙Timesを買収し,衛星放送にも出資して“メディア王”とも呼ばれるようになった。1980年代には映画事業も取得してアメリカに進出し,90年代にかけて地上テレビネットワークのFOX,スポーツのFOX Sports,ケーブルチャンネルのFOX Newsなどを立ち上げた。

 同氏は衆目を集めるビジネス戦略に長け,NoWやSUNでは芸能人の醜聞,性や暴力に関わる話を煽情的な見出しで伝え,スポーツや戦争報道では愛国心をあおる立場を強調して販売数を伸ばし,1つの文化を成したとも評される。取材では手段を選ばず倫理を顧みない姿勢が目立ち,NoWは王族など著名人や犯罪被害者の携帯電話の留守録を盗聴していた違法行為が発覚して,2011年に廃刊に追い込まれた。

 マードック氏は各紙の論調などにも関与し,その世論誘導の力を政治家に恐れられ,オーストラリアの歴代首相,サッチャー,ブレアなどイギリスの歴代首相とも密接な関係を築き,両国政界への影響力を誇った。EU離脱を問う2016年の英国民投票では,最大部数のSUNを中心にEUを批判するキャンペーンを展開し,離脱の世論形成を後押しした。

 アメリカではFOX Newsのトーク番組に,社会の価値観や宗教観の変化,格差の拡大に不安を抱く人たちの恐れや怒りをあおる右派ラジオのビジネスモデルを採用。視聴者数でCNNやMSNBCを超えるチャンネルに成長させた。

 これらのトーク番組は新型コロナウイルスのワクチンや気候変動,銃規制,人種差別,移民の問題などで根拠を欠く主張を展開する保守派に寄り添い,2020年のアメリカ大統領選挙では投票・集計機を使った不正などで結果が変えられたとするトランプ前大統領の陣営の主張を繰り返し放送。投票機器メーカーに名誉毀損で訴えられ,FOX側が7億8,750万ドル(約1,200億円)の和解金を支払った。この裁判ではマードック氏が「選挙不正」の主張は偽りだと知りながら,前大統領寄りの視聴者離れを恐れて虚偽の主張を放送し続けることを認めていたことなどが明らかになり,利益を何よりも優先する同氏の経営姿勢が浮き彫りになった。

 ジャーナリストのカーラ・スウィッシャー氏は,マードック氏のメディアが偽情報を意図的に拡散して事実への信頼を損なうなど「英米豪3か国のメディアで最も破壊的な力だった」と評価。FOX Newsの放送はアメリカ社会の分断と民主主義の危機を際立たせた2021年の連邦議会議事堂襲撃事件に影響したとの指摘もあり,70年にわたる同氏の業績には批判的な意見が多い。株主の懸念も伝えられているが,引退発表は長男の後継者としての地位確立がねらいともされ,当面,経営方針は変わらないとの見方が強い。

メディアの動き 2023年10月16日 (月)

【メディアの動き】関東大震災100年,各メディアが特集「災害教訓の誤った語り継ぎ」の事例も

 9月1日で,1923(大正12)年の関東大震災の発生から100年になった。各メディアは1日の前後に特集番組や特集記事を相次いで放送・掲載。関東大震災の被害を振り返り,今後の大地震への備えなどを訴えた。

 このうち4日にNHK総合で放送された『映像の世紀バタフライエフェクト』は,関東大震災で奇跡的に焼け残った東京の神田佐久間町・和泉町を取り上げた。周辺がことごとく焼失する中,この地区の住民はバケツリレーなどで消火にあたり延焼を食い止めた。この2つの地区が焼失を免れたのは,すぐそばに神田川が流れていたことや,火が迫ったタイミングが,はじめは地区の南側,次に西側,東側,最後に北側と時間差があり,消火活動を1方向に集中できたことなどが大きな要因だった。しかし,「住民の団結によるバケツリレー」ばかりが強調され,美談として語り継がれた。番組では,このエピソードが戦争遂行のために次第に都合よくすり替えられ,「住民は空襲から逃げず立ち向かう」「焼夷弾が落ちたら1秒でも早く駆けつけ消火にあたる」などの無謀かつ危険な行動の手本として利用されたことを紹介。そして1945(昭和20)年3月10日の東京大空襲では,神田佐久間町・和泉町も焼け野原となり多くの人が逃げ遅れて亡くなったことを伝えた。

 災害時の教訓は,ときに一部だけが強調されて美談となり,誤った内容で語り継がれる危険性があることを,この事例は示している。情報の途絶によって拡散し,朝鮮人の虐殺などを引き起こした「流言飛語」とともに,100年前の震災が今に伝える教訓である。

メディアの動き 2023年10月16日 (月)

【メディアの動き】ニュージーランド,TVNZが広告収入減で事業の大幅な見直しを迫られる

 ニュージーランド最大の放送局TVNZが,広告収入の大幅減に直面し,大規模なコスト削減を迫られている。9月18日に経営側からスタッフに送られた文書で明らかになった。

 文書で経営側は,「現在,テレビ広告市場は厳しい状況にあり,最大のプレーヤーとして影響を受けている」と危機感を訴えた。幹部らは,「すべての可能なコスト削減の機会」を特定したとして,あらゆるプロジェクトの見直し,幹部や高収入スタッフの昇給の停止,出張回数の大幅減,マーケティング調査やインフラ整備の大規模な縮小など,多方面にわたるコスト削減の具体策を示した。

 TVNZは,これまでたびたび運営形態を変えてきた。1943年に設立された国営放送局が前身で,長年にわたり受信料と広告収入に支えられていたが,2000年に受信料制度が廃止された。2003年には政府全額出資の株式会社になり,広告収入や商業収入を財源としている。

 株式会社になってからも,他局があまり取り上げないテーマや少数派の意見に配慮した番組を放送することなどを使命とする「TVNZ憲章」を掲げていたが,2011年に廃止された。憲章が柔軟な企業活動を妨げるなどとして議会が廃止を決めたが,公共放送サービスの存在意義を軽んじるものだとの批判もあった。

 広告・商業収入のみで運営してきたTVNZは,2020年以降,新型コロナウイルスの影響による景況の悪化などから広告収入を大幅に減らしており,2023〜24年の会計年度には1,560万ニュージーランドドル(約14億円)の赤字が見込まれている。

メディアの動き 2023年10月16日 (月)

【メディアの動き】韓国KBS 理事会,社長を解任し後継選びを開始

 韓国の公共放送KBSは9月12日午前,臨時の理事会を開き,キム・ウィチョル(金儀喆)社長の解任案について審議し,理事11人のうち与党系の理事6人が賛成して可決した。ユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領が同日午後にこれを承認し,キム氏は社長職を解任された。

 キム前社長はムン・ジェイン(文在寅)政権時代に任命された。解任案は8月末の定例理事会で与党系の理事によって提出され,経営の悪化や偏向報道などが解任理由に挙げられた。今回の臨時理事会では,キム前社長に弁明の機会を与え,解任案の決議を行う予定だったが出席せず,書面で意見を提出していた。野党系の理事5人は「解任は不当だ」として採決前に退席する中で可決された。

 キム前社長は「解任されるほど大きな過ちを犯したとは思わない」として,9月13日に解任取り消しを求め提訴した。KBSの社長をめぐっては,ムン・ジェイン政権下の2018年にコ・デヨン(高大栄)社長が解任されたほか,イ・ミョンバク(李明博)政権下の2008年にもチョン・ヨンジュ(鄭淵珠)社長が,政権交代後に任期途中で解任されている。解任された2人は行政訴訟を起こし,その後,勝訴している。

 KBSの理事会は後任の社長選びを開始し,9月25日に募集を締め切った。12人が応募し,同月27日の書類選考の結果,ユン大統領と親交のある夕刊紙,文化日報の論説委員を務めていたパク・ミン氏を含む3人に絞られた。10月に理事会が面接を行って最終候補者を決める予定で,国会での聴聞会を経て,大統領が新社長を任命する。

調査あれこれ 2023年10月12日 (木)

経済対策は国民の心に届くのか?~内閣改造も政権浮揚につながらず~【研究員の視点】#507

NHK放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 9月13日に行われた内閣改造は、上川陽子外務大臣をはじめ5人の女性閣僚の起用で注目されました。ところが2日後に決まった副大臣と政務官は全員が男性。思わず「艶消し」という言葉を思い浮かべた人もいれば、与党の女性議員の層が薄いと感じた人もいたことでしょう。

 この改造人事の後、最初のNHK電話世論調査が、10月7日(土)から9日(月・祝)にかけて行われました。

hinadan1012_1_W_edited.jpg

☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。

  支持する   36%(対前月±0ポイント)
  支持しない   44%(対前月+1ポイント)

改造前と比べてほぼ横ばいでした。岸田総理の周辺は、人事によって自民党内での求心力を高め、政策遂行の力を強化するのだと力説していました。しかし、国民の側の評価は冷ややかで、いわゆるご祝儀は舞い込んでこなかったということです。

 岸田内閣の発足は2021年10月4日。新型コロナウイルスの感染拡大が社会を覆っていた時期でしたが、その後は徐々に収束の方向に向かいはじめ、永田町界わいでは「岸田総理はついている」とも言われました。

 ただ、2022年2月にはロシアがウクライナに軍事侵攻を開始し、食糧や資源の流通が滞ったりして世界規模で経済活動に影響が及び、国際社会の秩序も動揺が続いています。

☆岸田内閣の発足から2年がたちました。あなたは、この2年間の岸田内閣の取り組みを評価しますか。

  評価する   40%
  評価しない   54%

これを与党支持者、野党支持者、無党派の別に見てみると、「評価する」は与党支持者65%、野党支持者27%、無党派25%となっています。与党支持者で何とか3分の2を占めていますが、野党支持者と無党派では4分の1にすぎません。野党支持者と無党派では、「評価しない」が7割に上っています。

 この2年間、岸田総理は「新しい資本主義」「異次元の少子化対策」「安全保障の対処力強化」とスローガンを並べ立ててきました。しかしながら国民の目には具体的な優先政策が何で、自分たちに求められる新たな負担は何なのかといった点が腹に落ちていないように感じます。

 とりわけ物価高への対応を柱とする経済対策には厳しい目が向けられています。

keizaitaisaku1012_2__W_edited.jpg9月25日

 内閣改造後の9月25日に岸田総理は官邸で、「近年の税収増加を経済対策で国民に還元する」と強調しました。確かに2021年以降、所得税、法人税、消費税の基幹3税を中心に、財務省の当初の見積もりよりも結果として税収が多くなる「上振れ」が続いているのは事実です。

 ただ、これについては物価高騰で原材料費や人件費が上がった分、製品やサービスの価格に転嫁されたために税収増となっているだけで、経済の実勢が上向いているわけではないというエコノミストの分析も出ています。

☆政府は、物価高対策などを盛り込んだ新たな経済対策を、10月末をめどにまとめる方針です。あなたは、対策の効果に期待していますか。期待していませんか。

  期待している   38%
  期待していない   57%

期待していないが全体の6割近くを占めています。この設問でも、野党支持者と無党派で「期待していない」という否定的な回答が7割に達しています。

 税収が増えた分を国民に還元するということは、国民の不満や不安を解消するために、まず目先の支出、金配りを優先するということでしょう。そうなると、国が抱える多額の借金の返済に充てる財政健全化の取り組みは後回しになる懸念も生じます。

mod_kosodate_3_W_edited.jpg

☆政府は、新たな経済対策を早期に実施する方針です。一方で、防衛費の増額や、少子化対策強化のための財源の確保も課題となっています。あなたは国の財政状況に不安を感じていますか。感じていませんか。

  感じている   75%
  感じていない   19%

この設問に対しては、与党支持者で「感じている」が8割、野党支持者と無党派で7割超という結果になっています。岸田政権の足元を支える与党支持者の方が中長期的な財政状況の悪化を懸念しているのは少し驚きです。

 これまで国会の予算委員会で岸田総理と議論を戦わせた野党幹部に感想を聞くと、こんな答えが返ってきました。「彼は延命と自己保身にはたけているが、目指している国のあり方や国家像を感じたことはない」つまり、岸田総理は足元の出来事への対応に終始しているだけだという痛烈な批判です。

 岸田内閣の支持率が一進一退を続ける背景には、総理大臣から発せられるメッセージに耳を傾けても、近い将来のことさえなかなか見通すことができないという、一種の「もやもや感」が国民の間にあるように感じます。

 10月20日には政府の経済対策などを巡って議論する臨時国会が召集される予定で、その直後の22日には衆議院長崎4区と参議院徳島・高知合区の補欠選挙が行われます。

gijidou_4_W_edited.jpg

 岸田総理は新たな経済対策をてこにして2つの補欠選挙で与党の2勝を目指していますが、どちらの選挙も野党候補が1本化されています。限られた地域の選挙ではありますが、岸田政権2年への評価が示される側面も否定できませんので与野党対決の結果に注目です。

 そして、この選挙結果のいかんに関わらず、物価高に苦しみ、先行きに対する不安をぬぐえない国民に、しっかりした政治のメッセージが届くことに期待せずにはいられません。

 通常国会の閉会から4か月もたっています。臨時国会での久しぶりの本格論戦が、目先のことだけでなく、多くの国民が自分たちの将来について思いをいたすことができるものになるよう、政府・与党にも野党にも期待したいと思います。

 w_simadasan.jpg

島田敏男
1981年NHKに入局。政治部記者として中曽根総理番を手始めに政治取材に入り、法務省、外務省、防衛省、与野党などを担当する。
小渕内閣当時に首相官邸キャップを務め、政治部デスクを経て解説委員。
2006年より12年間にわたって「日曜討論」キャスターを担当。
2020年7月から放送文化研究所・研究主幹に。長年の政治取材をベースにした記事を執筆。

調査あれこれ 2023年10月03日 (火)

メディアは社会の多様性を反映しているか~2022年度調査から② ~テレビニュースでは「名前がない」女性たち~【研究員の視点】#506

メディア研究部(多様性調査チーム) 青木紀美子 小笠原晶子 熊谷百合子 渡辺誓司

テレビの多様性調査の結果を紹介する前のブログ(#505)では、テレビの世界は番組全般をみてもニュース番組をみても「若い女性と中高年の男性」が中心で、人口推計では高齢になるほど女性が多い日本の現実とかなり違いがあることをお伝えしました。それでは年齢以外の側面からみると、女性と男性の取り上げられ方には、どのような特徴があるのでしょうか。

今回は、2022年度に私たちが行った調査のうち、夜のニュース報道番組の登場人物についての分析結果から、女性と男性の取り上げられ方をみてみます。調査の対象としたのは2022年6月と11月のある1週間、平日(月~金)の夜9~11時台のニュース報道番組で話をした、あるいは話が引用された人たちです。なお性別で集計した際に、女性・男性にあてはまらない性自認や性表象の人たちは数がとても少なかったため、今回も女性と男性に絞って比べてみます。

ニュースでは、番組が登場人物を一定の重みをもって取り上げているかどうかをみる材料として、字幕表記などによって名前がわかる立場で登場しているかどうかが1つの指標になると考えました。「名前あり」「名前なし」に分類し、人数を女性と男性に分けて比べてみた結果が下の図です。

name1.png

「名前あり」は圧倒的に男性が多く、女性の5倍近くになります。また、男性に絞ってみると、「名前あり」が「名前なし」の2倍以上でした。一方、「名前なし」では女性と男性の差がかなり小さくなりました。そして、女性に絞ってみると、「名前あり」よりも「名前なし」が多いという結果が出ています。

それでは女性と男性はどのような立場で登場しているのか。これをみるために登場人物を職業・肩書別に分類したのが下の図です。女性と男性の人数の偏りが少ない指標を左から順に並べました。

katagaki2.png

偏りが小さく、女性の人数が比較的に多いのは「親、家族」「雇員、従業員」「市民、住民、通行人」などです。一方、偏りが大きく、女性の人数が少ないのは「メディア・マスコミ関係者」「学識者、研究者、専門家」「スポーツ関係者」「政治家」「中小企業主、個人事業主」「財界人、企業経営者、役員」などでした。

ここまでの情報をあわせてみると、夜のニュース報道番組に出てくる女性は、いわば「名もなき」市民や雇員として取り上げられる人が多く、これに対して男性は、名前はもちろん社会的権威や決定権がある立場で登場することが多いことがわかります。こうした格差があるのは、なぜなのでしょうか。

これについては、日本では女性の社会進出が遅れているという現実があり、それがメディアに反映されているという側面もあるかもしれません。そこで社会の実態に比べてみるとどうか、格差が大きい職業・肩書の指標と比較可能なデータを探して比べてみたのが以下です。

hikaku3.png

3つのグラフそれぞれ一番左側の数字が夜のニュース報道番組に登場した女性の割合、そのほかのデータは総務省などのデータをもとにしています。こうして比べてみると、テレビの世界に登場する「政治家」「学識者、研究者、専門家」「医師」における女性の割合は、社会の実態よりもさらに少ないようです。これは限られた日数のサンプル調査ではありますが、名前の有無、職業・肩書という側面からみても、テレビの世界が社会の多様性を反映しているとは、なかなか言いがたいことを示唆しています。

2回のブログでみたテレビのジェンダーバランスの偏りは何を意味しているのか、また背景には何があるのか。文研フォーラム2023秋 10月4日(水)13時~ 「メディアの中の多様性を問う~ ジェンダー課題を中心に」では、メディアにおける多様性の課題をパネリストとともに考えます。

文研フォーラムの事前申し込みは既に締め切りましたが、その後も多くの方から視聴のご要望を頂いているため、10月4日のフォーラム開催当日にも申し込みも受け付けることにしました。ご関心ある方は、当日、下記リンクからお申し込みください。受け付け後に視聴用URLを送付します。
https://www.nhk.or.jp/bunken/forum/2023_aki/index.html
上記リンクでは、10月10日(火)~12月24日(日)に見逃し配信も予定しています。

2022年度調査結果全体については、「放送研究と調査」10月号で詳しく報告しています。
https://www.nhk.or.jp/bunken/book/monthly/index.html?p=202310

また、これまでの多様性調査チームの調査報告も以下からご覧いただけます。

連載 メディアは社会の多様性を反映しているか① 調査報告 テレビのジェンダーバランス
『放送研究と調査』2022年5月号 掲載

連載 メディアは社会の多様性を反映しているか② 研究発表「テレビのジェンダーバランス」ディスカッションから
『放送研究と調査』2022年8月号

連載 メディアは社会の多様性を反映しているか③ 将来に向けた危機感を問うアメリカの事例と専門家の提言
『放送研究と調査』2023年1月号

放送研究リポート
テレビ出演者のジェンダーバランス~トライアル調査から
『放送研究と調査』2021年10月号

調査研究ノート 海外公共放送とダイバーシティー戦略 "多様性"の指標とは
『放送研究と調査』2021年2月号

調査あれこれ 2023年10月02日 (月)

メディアは社会の多様性を反映しているか~2022年度調査から ①~テレビの世界は「中高年の男性と若い女性」~【研究員の視点】#505

メディア研究部 (多様性調査チーム) 青木紀美子 小笠原晶子 熊谷百合子 渡辺誓司

 誰もが生きやすい、多様な人々が力を発揮できる社会をつくっていくためには多様性の尊重と、公平性、包摂性の実現が欠かせないという認識が広がってきました。では、社会を映す鏡であると同時に、社会のあるべき姿を示す役割も持つメディアは多様性をどう反映しているのでしょうか?それを把握する一つの方法として、私たちは、テレビ番組に登場するジェンダーバランス、まずは女性と男性を中心に調べてみました。

 その前に、総務省の人口推計によると、日本の人口に占める女性と男性の割合は、女性は男性より多く、2022年時点で総人口の51.4%を占めています。

soujinnkou_danjyo_1.PNG

 一方、テレビに登場している女性と男性の比率は、2022年度の文研の調査では、番組全般で、女性は半分に満たない約4割でした。これは、番組について放送日時や内容、登場人物などを記録したメタデータを使い、6月の1週間、NHKと民放キー局計7チャンネルで放送された全ての番組(映画、アニメ、再放送を除く)を対象に調査したものです。なお番組全般は、エム・データ社の性別分類で分析しています。

tv_danjyo_2.PNG

 さらに、NHKと民放キー5局の夜ニュース報道番組(夜9時~夜11時台に放送)にしぼり、6月と11月のそれぞれ5日間(月~金)で、登場した人物を調べてみると、登場する女性の割合は、番組全般の出演者よりも1割程度少なく、約3割を下回りました。

yorunews_seibetsu_3.PNG

 次に年代別にみてみます。日本の人口統計では、50代まで男性が女性を上回っていますが、60代以降は女性が男性より多くなっています。

soujinnkou_nendai_4.PNG

 しかし、メタデータをもとに分析した番組全般出演者でみると、女性は20代が最も多く、30代以降は減少します。男性は40代がピークで50代以降は減少しますが、60代、70代とも女性より圧倒的に多くなっています。

zenpan_nendai_5.PNG

 夜のニュース報道番組でも同じような傾向がみられました。女性は19-39歳で最も多く、40歳以降は減少します。男性は40-64歳が最大で、65歳以降は減少しますが、40代以降、女性よりはるかに多くの男性が登場しています。

yorunews_nensou_6.PNG

 テレビ番組やニュースに登場する人たちは全体として男性に偏っていることがわかりましたが、ある分野では、女性の方が多い、あるいは女性と男性が半々に近い状況がありました。それが、番組の司会者やリポーターです。番組全般では「アナウンサー・キャスター・リポーター」、夜のニュース報道番組では「レギュラー出演者」という指標に分類して数えています。テレビ番組全般、夜のニュース報道番組とも、登場する数は、男女半々に近く、バランスが取れているようにみえます。

announcer_danjyo_7.PNG

yorunews_seibetsu_8.PNG

 ところが、番組全般の「アナウンサー・キャスター・リポーター」や夜のニュース報道番組の「レギュラー出演者」も、年代別、年層別にみると、女性と男性の現れ方の違いがみえてきます。
 番組全般、夜のニュース報道番組とも、女性は20代、30代に大きく偏っています。調査からは、明らかに「中高年の男性と若い女性」という構図がみえてきました。

announcer_nendai_9.PNG

yorunews_nensou_10.PNG

 私たちは、2021年度からこの調査を行っていますが、2021年度と22年度、ほぼ同じ傾向でした。22年度は、このようなジェンダーバランスのほか、障害の有無や人種的多様性についても、テレビの登場人物をみる分析指標に加えています。調査結果全体については、「放送研究と調査」10月号で詳しく報告しています。ぜひご覧ください。
https://www.nhk.or.jp/bunken/book/monthly/index.html?p=202310

 また、文研フォーラム2023秋 10月4日(水)13時~ 「メディアの中の多様性を問う~ ジェンダー課題を中心に」では、こうした調査データもご紹介しながら、メディアが社会の多様性推進に向けて、果たすべき役割について、パネリストとともに広く考えます。
すでに事前申し込みは締め切りましたが、その後も多くの方から視聴のご要望をいただいておりますので、今回は当日申し込みも受け付けることにいたしました。当日になりましたら、ぜひ下記リンクからお申し込みください。受付後に視聴用URLを送付します。
https://www.nhk.or.jp/bunken/forum/2023_aki/index.html

なお、同時配信を見逃された方は、10月10日(火)~12月24日(日)まで、上記HPで見逃し配信を予定しています。

 

これまでの多様性調査チームの調査報告は以下からご覧いただけます。

連載 メディアは社会の多様性を反映しているか① 調査報告 テレビのジェンダーバランス
『放送研究と調査』2022年5月号

連載 メディアは社会の多様性を反映しているか② 研究発表「テレビのジェンダーバランス」ディスカッションから
『放送研究と調査』2022年8月号

連載 メディアは社会の多様性を反映しているか③ 将来に向けた危機感を問うアメリカの事例と専門家の提言
『放送研究と調査』2023年1月号

放送研究リポート テレビ出演者のジェンダーバランス~トライアル調査から
『放送研究と調査』2021年10月号

調査研究ノート 海外公共放送とダイバーシティー戦略 "多様性"の指標とは
『放送研究と調査』2021年2月号