文研ブログ

調査あれこれ 2017年09月22日 (金)

#95 米国世論調査が直面した壁

世論調査部(社会調査) 政木みき

◆米調査業界を襲った「トランプ・ショック」

「2016年大統領選のドナルド・トランプの勝利は調査担当者、政治アナリスト、学者にショックをもたらした」―5月、米国世論調査協会(AAPOR)の調査委員会がこんな言葉で始まる報告を発表しました。

世界が注目した2016年の米大統領選で、世論調査は直前まで高い確率でクリントン氏の勝利を予測していました。過激な発言を繰り返す異例の候補者像もあいまって、クリントン優勢の観測が広がっていたため「想定外の勝利」へのショックは大きく、結果を読み誤った世論調査への批判が高まりました。

◆業界をあげた選挙調査の検証
「なぜ予測は失敗したのか?」。その答えを探るため、5月、ニューオーリンズで全米の研究者、調査会社、メディア関係者らが集まって開かれたAAPOR年次総会を取材しました。4日間で100を超えた研究成果の報告のうち、大統領選の調査検証は単独テーマとして最多の17。業界をあげ信頼回復の糸口を探ろうとする気概を感じました。

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1,200人超が参加したAAPOR年次総会

このうちAAPORが設けた調査委員会の報告は、大統領選の勝敗を決定づけた接戦州での州調査の精度の低さが致命的要因だったと指摘し、州調査を担う地方メディアの予算や人材の充実を提言しました。ただ、予算状況は厳しく州調査の底上げは容易ではありません。

取材では、調査先進国の米国の世論調査をとりまく環境の変化も印象に残りました。経費の問題や技術進歩もあり、米国の選挙調査は、調査員が行う電話調査に加え、自動音声の電話調査、インターネット調査など実に多様化しています。さらに近年は、各種世論調査のデータを集めて独自に予測する人たちが現れ、その影響力も無視できなくなっています。大手研究機関の研究者で調査委員会の委員長を務めたコートニー・ケネディ氏は、今回の検証で得た最大の教訓が「選挙中の調査の数が膨大で、大きな違いがある多様な調査があることを学んだこと」と語り、玉石混交のデータが飛び交う中、どの調査が科学的に行われ、国民全体の意識を推測できるのか、誤差を含む調査データをどう解釈すべきか、といったことを伝えるのも調査の専門家の課題になっていると述べました。

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AAPOR調査委員会コートニー・ケネディ委員長

また、選挙の結果を予測するために世論調査を使うことには議論もありますが、AAPOR総会で出会ったある研究者は「“真実の結果”が分かる選挙調査は、研究者として自らの仮説や方法論を発展させる最もよいテーマだ」と語り、こうした探究心が米国の世論調査を前に進める原動力になっているとも感じました。調査の協力率低下など、すでに日本でも深刻になっている課題や、近い将来に日本で起きるかもしれない米国の状況を見るにつけ、幅広い人々の意見の全体像にどう迫るのかという、世論調査の根幹にかかわる努力を怠ってはならないと感じた取材でした。

「放送研究と調査」9月号「米大統領選挙で世論調査は“外れた”のか」では“隠れトランプ支持”説の検証なども含むAAPORの検証報告を紹介しています。ぜひご覧ください。

調査あれこれ 2017年09月15日 (金)

#94 スマホユーザーはテレビをどう見ているか?

世論調査部(視聴者調査) 平田明裕

ここ数年、急速に普及が進むスマートフォン。高校1年の長男にとっても、朝から夜寝るまで、肌身離さず手放せないツールとなっています。朝起きたら、すぐLINEをチェック。学校から帰ってきたらスマホで海外サッカーの動画を見て、夕食後はリビングルームでテレビを見ながら、スマホで友達とのやりとりをしています。

文研が2017年3月に実施した世論調査「モバイルシフト社会とテレビ調査」の結果から分類したグループの中にも、このようなスマホを手放せないグループが浮かび上がってきました。
今回の調査では、モバイル端末(スマートフォンやタブレット端末)の利用を通して感じる意識の違いにより、モバイル利用者をグループ分けしたところ、5つに分類することができました。

「いつでも一緒」 モバイル端末への親密度が高く手放せない    
「つながり優先」 コミュニケーション重視でSNSの利用が多い  
「自分流活用」  マイペースで主に情報収集のために活用     
「批判・敬遠」  一定の距離を置きながらモバイル端末を利用
「低関与」    モバイル端末を含む情報行動が全体的に不活性

グループの特徴として、「いつでも一緒」グループは、テレビを必要と思う人が9割近くに上り、テレビを見るのが大好きな人が8割に達するなど、テレビをおおむね肯定的にとらえています。また、「つながり優先」グループは、家族でテレビを見るのは楽しいと感じる人が8割、家族との会話がはずんだり場がなごんだりすると思う人が8割以上と、家族の団らん面でテレビの効用を多くの人が感じています。


下のグラフは、10歳刻みの年層ごとに5グループの人とモバイル非利用者がそれぞれどのくらい含まれているのかをみたものです。「自分流活用」「批判・経験」「低関与」のグループは、各年層に一定数いる一方、「いつでも一緒」「つながり優先」は若年層ほど多くなっています。
子ども時代から成人するまでにモバイル端末と出会った若年層で多い「いつでも一緒」「つながり優先」は、スマホ時代の特徴的なグループと考えられます。

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スマートフォンやタブレット端末を利用しているみなさんは、どのグループにあてはまるでしょうか。冒頭の我が家の長男はおそらく「いつでも一緒」グループになると思います。


「放送研究と調査9月号」では、さらに詳しく5グループの特徴を分析しています。そして、スマホ時代のテレビの位置づけなど、スマホユーザーのテレビ視聴を様々に読み解いています。ぜひご覧ください。

調査あれこれ 2017年09月08日 (金)

#93 災害発生! 被災地で求められる「生活情報」とは?

メディア研究部(メディア動向) 入江さやか

9月1日の「防災の日」。訓練に参加したり、非常持ち出し袋の中身を点検した人も多いのではないでしょうか。7月には「九州北部豪雨」による災害が発生。今まさにアメリカでもハリケーン「ハービー」で甚大な被害が出ています。日本、いや世界のどこにいても、自然災害のリスクに備えなければならない時代です。

自然災害で、電気・水道・ガスなどのライフラインが断たれたとき、交通手段がなくなったとき、避難生活を余儀なくされたとき――水や食料などの確保はもちろん大事ですが、どこでどのような救援・支援が受けられるのかという「生活情報」が「命綱」になります。

NHK放送文化研究所では、昨年4月の「平成28年熊本地震」で大きな被害を受けた熊本県の熊本市東区、益城町、西原村、南阿蘇村の20歳以上の住民各500人、計2,000人を対象に「熊本地震被災地における住民の情報取得行動に関する世論調査」を実施しました。

地震発生から1か月くらいまでの間に必要だった生活情報」は何かを聞いたところ、4市町村のいずれでも「ライフライン(水道・ガスなど)の復旧見通し」「地震の見通し」が上位を占めました。道路や鉄道が寸断された南阿蘇村では「交通情報」のニーズが高く、役場庁舎が大きな被害を受け、行政機能の回復に時間がかかった益城町では「り災証明の交付」に関する情報が求められていました。しかし、「ライフラインの復旧見通し」については、半数以上の人が「手に入りにくかった」と回答。「食料品が買える店舗」「ガソリンスタンドの営業情報」「洗濯のできる場所(コインランドリーなど)」「介護用品の手に入る場所」などの情報も不足していたという指摘がありました。

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避難所に貼り出された「役場からのお知らせ」
役場庁舎が被災し、り災証明書の発行ができないことなどを告知している。
(2016年4月26日 益城町総合体育館)

情報を入手したツール(情報機器)は自治体によって違いがありました。熊本市東区、西原村では「テレビ(据え置き型)」が最多でしたが、半数を超える住宅が「半壊」以上の被害を受けた(本調査による)益城町では「スマートフォン・携帯電話」、停電が長期化した南阿蘇村では「ラジオ」が多数を占めていました。

2回の震度7の地震の後も活発な地震活動が続いた熊本地震では、自動車の中で寝泊りする「車中泊」の多さも注目を集めました。今回の調査でも各自治体で6~7割の人が車中泊をしていたと回答しています。そのような状況を反映し、カーナビやスマートフォンを使い、ワンセグ放送やインターネット同時配信(ライブストリーミング)でテレビを視聴していた人も少なくありませんでした。

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生活情報を伝えるNHKのデータ放送の画面(2016年4月25日)

熊本地震では、地震発生直後から自治体や放送局、新聞社などがさまざまな媒体を通じて、物資の配布や医療、交通など多様な「生活情報」を発信しました。私も発災後まもなくNHK熊本放送局に入り、生活情報の発信に携わりました。しかし、調査結果からは、多様な情報ニーズに必ずしも応えきれていなかったことがわかりました。情報の「出し手」としてこうした課題に向き合っていきたいと思います。

さて、ここまでブログを読んでくださったあなた。非常持ち出し袋の中に、情報入手のツールは入っていますか?「ラジオと乾電池」だけでなく、スマートフォンや携帯電話の充電器など、複数の手段を確保しておいてください。また、今回の調査で「スマホの充電切れで、端末に登録してある電話番号がわからなくなって困った。手帳に控えておくべきだった」という貴重な教訓を書いてくださった方がいました。いつ起きるかわからない自然災害。被災者の経験を「わがこと」として受け止め、備えておきたいものです。

上記の世論調査の詳細は、「放送研究と調査」2017年9月号に掲載されています。
また、単純集計結果は、こちらからご覧いただけます。

放送博物館 2017年09月01日 (金)

#92 「NHK放送博物館」入館者数500万人到達!

放送博物館 加藤元宣


8月25日(金)、NHK放送博物館の入館者数が
500万人に達しました。500万人目の入館者となられたのは、東京都小金井市からお越しいただいた杉本容子さんです。杉本さんには、上田良一NHK会長から感謝状が、高野俊雄NHK放送博物館長から記念品が、そして鈴木郁子NHK放送文化研究所長から花束が贈られました。


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杉本さんは、「愛宕神社への参拝を兼ねて、以前から一度見たかったNHK放送博物館に来ました。朝ドラやあさイチ、ニュースなど、NHKの番組はいつも楽しく拝見しています。まさか、500万人目にあたるなんて、とてもうれしいです。」と、喜んでおられました。

NHK放送博物館のある東京・港区・愛宕山は、大正時代に本格的なラジオ放送が始まった場所で、“放送のふるさと”として親しまれています。NHK放送博物館は、昭和31年に歴史あるこの地で世界最初の放送専門ミュージアムとして開館しました。以来61年間にわたって、さまざまな展示を通して、放送の歩みと役割をご覧いただいてきました。

また、NHK放送博物館では、昨年1月に、1年をかけた大がかりなリニューアル工事が完成しました。新しい展示のコンセプトは「放送の過去・現在・未来」。「過去」については、懐かしい放送番組や放送を支えた貴重な技術機材の展示。「現在」については、ニュースキャスターやバーチャルリアリティーが体験できる「放送体験スタジオ」。「未来」については、200インチ大型スクリーンと22.2マルチチャンネルによって8Kスーパーハイビジョンの大迫力の映像と音声を体感できる「愛宕山8Kシアター」。NHK放送博物館では、以上の3つの視点から、放送の持つ魅力のすべてをたっぷりとお楽しみいただくことができます。

これからも、スタッフ一同でお客様サービスの一層の向上に努めてまいりますので、親子連れやお友達同士など、みなさまでお気軽にご来館いただきますよう、よろしくお願いいたします。


放送ヒストリー 2017年08月25日 (金)

#91 「仕方がなかった史観」を乗り越えて

メディア研究部(メディア史研究) 大森 淳郎

10年ほど前のことです。私は、あるレコード会社の倉庫に保管されていた金属マスター(レコードの原盤)を借り受け、専門業者に持ち込んで再生してもらいました。中心に穴がないので、ターンテーブルに固定するのに苦労しましたが、なんとかうまくいきました。聞こえてきたのは次のような音声でした。

今こそ、真実のお話ができます。これは、全日本国民に戦争の真相を明かす初めての番組です。これは、皆さんに直接関係のある話であり、皆さんを暗闇の世界から明るい世界に連れ戻すための話です


金属マスターに納められていたのは敗戦の4か月後、1945年12月から放送された10回シリーズのラジオ番組『真相はこうだ』でした。
GHQの手によるこの番組は、日本が敗戦にいたるまでの歴史を対話形式で描くものでした。力作と言っていいのですが、実は当時の評判は散々でした。作家、宮本百合子は、こう述べています。

「日本人は今まで発表なら発表というものを信じさせられてきました。それなのに今度は同じ信じさせたマイクそのものがけろっとして、その声で逆なことを言うということに対する不真実な感じ、事態の真実を知るということよりも同じ放送局がよくもこういうことをまあ平気で放送するというその感じですね。(中略)同じ放送局があんなちゃんぽんなことを言えるという感じがパッとくると非常に浅いところで反発するのです。そして、その反発する感じは真実の感情なのです」(「鼎談 近頃の放送に対する批判と提言」『放送文化』1946年6月号)

戦時中、日本放送協会は国民の戦意昂揚を目的とした放送を出し続けました。その「戦時ラジオ放送」を棚に上げて軍・政府を批判しても、説得力のあろうはずはなかったのです。
日本放送協会は、「戦時ラジオ放送」について自らけじめをつけようとはしませんでした。そして1950年に放送法に基づいて再出発してからも、NHKが戦時下の放送の検証に積極的にとり組んできたとは言えません。なぜなのでしょう。
おそらくその理由は、1925(大正14)年に日本のラジオ放送が、政府管理の下に出発した時まで遡ります。政府の管理下に置かれていたのだから、国が戦争に向かえば、ラジオもその国策に沿って放送するのは仕方がないことだった、というわけです。でも、本当にそうなのでしようか。


『放送研究と調査』8月号から、シリーズ「戦争とラジオ」を始めます。「仕方がなかった史観」を乗り越えて、「戦時ラジオ放送」を検証してゆきたいと思っています。
第1回は、8月(前編)・9月(後編)の2号に渡って戦時下のニュ-ス放送に焦点を当てます。戦時下のニュースは同盟通信の記事を「話し言葉」に書き換えていただけだと思われてきましたが、決してそうとは言い切れない実体が浮かび上がってきました。どうすればより国策に沿ったニュースになるか、報道部員たちは懸命に考え、同盟通信の原稿を書き換えていたのです。

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おススメの1本 2017年08月04日 (金)

#90 メディア利用は特別支援教育の現場でも活発

メディア研究部(番組研究) 小平さち子

6月9日付けのブログ「#82 小学校の教室でよく見られている番組は?」にはお目通しいただけましたでしょうか。日本では学校放送の歴史が長く、現在は放送だけでなくウェブサイト上でも番組が視聴できることや、2016年度には、全国の小学校6年生の担任の先生の6割が『歴史にドキリ』という社会科番組を授業で利用したことなどをお伝えしました。

この調査を行った同じタイミングの2016年10月から12月にかけて、放送文化研究所では、もうひとつ調査を実施していました。それは、特別支援学校(小学部)および小学校の特別支援学級で授業を担当しておられる全国の先生がたを対象としたメディア利用と意識に関する調査です。この調査からも、様々なことが明らかになってきました。

「特別支援学校」や「特別支援学級」では、「通常の学級」の場合と同様、テレビやパソコンをはじめとするメディア機器やインターネット環境が一定程度整っていますが、とくに注目されたのは、特別支援学校の授業でのタブレット端末利用が、通常の学級の場合よりもはるかに浸透していることです。先生だけでなく児童にも利用が広まっています。機器の操作がパソコンより容易で持ち運びも簡単なため、多様な支援を必要とする子どもたち一人一人の学習を豊かにするための有効なツールであるとが認識されているためと思われます。 

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NHK学校放送(「NHK学校放送番組」やインターネットのサービス「NHKデジタル教材」)の利用に目を向けてみると、『ストレッチマンV(ファイブ)』『スマイル!』などの特別支援教育向けの番組をはじめ、理科・社会等の教科番組、『おかあさんといっしょ』『ピタゴラスイッチ』といった幼児向け番組など、多様な分野の番組が利用されていることがわかりました。

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『ストレッチマンV』
のウェブサイト:番組のストリーミング視聴の他に、「きょうざい」「先生向け」のコンテンツも利用できます。

『ストレッチマンⅤ』は、特別支援教育向け学校放送番組として放送されてきた『ストレッチマン』シリーズの第4作で、2013年から放送中。ストレッチマンと一緒に行うストレッチ体操や遊びを通して、体を動かす喜びを実感し、学習や生活の基礎を楽しく身につけていくことをねらいとした番組です。人を笑わせることや、歌、ダンスなど得意なことが多種多様な5人のストレッチマンが交代で全国の特別支援学校を訪問して、子どもたちと触れ合いながら体操をし、それぞれの得意なことを生かしてストレッチパワーで大活躍しています。
なお、特別支援教育向けテレビ学校放送番組の第一号は、1964年開始の『たのしいきょうしつ』でした。

現在の特別支援教育(2006年までは「特殊教育」と呼ばれていました)の概況、「特別支援学校」や「特別支援学級」の授業におけるメディア利用の詳細、そして「通常の学級」でのメディア利用とはどのような共通点や相違点があるのか等については、『放送研究と調査』8月号に「一人一人の子どもの支援のためのメディア利用~2016年度「特別支援学校(小学部)教師と特別支援学級(小学校)教師のメディア利用と意識に関する調査」から~」と題して報告しています。(ウェブでは、9月に文研ホームページで全文を公開します。)

 

メディアの動き 2017年07月28日 (金)

#89 テレビのネット同時配信 議論はどこに向かっていくのか?② 

メディア研究部(メディア動向) 村上圭子

25日、NHKが設置した外部有識者による受信料制度等検討委員会が、諮問第1号の「常時同時配信の負担のあり方について」の答申を上田会長に提出しました。
“常時”同時配信とは、テレビ放送の内容を全てそのままインターネットで配信するサービスのことです。NHKは今の放送法では実施を認められていないため、総務省の検討会で実現に向けた制度改正を要望しています。すでに多くのメディアでも取り上げられていますので、ご存じの方も少なくないと思います。
(2月に本ブログの#64でも触れています。これまでの経緯等については、『放送研究と調査』2016年12月号の「『これからのテレビ』を巡る動向を整理する Vol.9」をご覧ください。 )

委員会の答申では、「条件が整えば、放送の常時同時配信はNHKが放送の世界で果たしている公共性を、インターネットを通じても発揮するためのサービスと考えられる」とし、テレビを持たずにネットだけでモバイル端末でこのサービスを利用する人達にも受信料を負担してもらう「受信料型を目指すことに一定の合理性がある」としています。
一方で、「受信料型は多岐に渡る論点の検討や視聴者・国民の理解を得ること等に時間がかかることも予想されるため、現時点では、有料対価型や、一定の期間は利用者に負担を求めないといった当面の暫定措置についての検討も必要」としています。

「受信料型」は、現在の放送法で、NHKの「補完業務」とされているネット活用サービスを「本来業務」と位置付ける議論につながっていくということもあり、答申をまとめるにあたって寄せられたパブリックコメントは1367件にも及びました。民放各社の社長会見などでも、NHKに対して厳しい意見が相次ぎました。

 NHKは自身のメディアとしての将来像をどのように描こうとしているのか。
 数多くのネットサービスの中でなぜ常時同時配信の実施にこだわるのか。
 インターネット空間の中における公共性をどのように実現していこうとしているのか。
このような問いに対して、視聴者の、国民の、社会の、共に歩んできた民放各社等の心に届くような、具体的で説得力のあるメッセージが示せるか、これからのNHKの姿勢が問われていると思います。

ただ、視聴者にとっては、同時配信の議論はNHKだけの話ではありません。すでに有料多チャンネル放送については様々な形態で同時配信サービスが実施されていますが、地上波民放については一部でしか行われていません。総務省の検討会では、NHKだけでなく、民放(ローカル局も含め)の地上波放送の全てをネットで常時同時配信できないか、という意見も少なくありませんでした。

しかし民放は現時点では、同時配信(特に常時)についてはおしなべて消極的です。同時配信のニーズがそう多く見込めないこと、コストや様々な負担がかかること、ビジネスモデルの構築が難しいことなどが理由ですが、同時配信以外のネット配信サービスにおいて、キー局同士、また非放送事業者相手に熾烈なプラットフォーム競争を繰り広げているという事情が大きいようです。

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それぞれのプラットフォームが提供するサービスの内容は、VOD、見逃し配信、ライブ、オリジナルコンテンツと多様になっており、将来的には、こうしたプラットフォームが提供するサービスの1つとして、同時配信が組み込まれていくということも考えられます。そのため、総務省の議論で出ているような、NHKと民放の“共通プラットフォーム”での実施が望ましい、という意見については民放各社の将来のビジネス戦略に大きく関わってくるためそこはなかなか難しい、となってしまうのだと思います。
ましてそこに、最初に書いたような、制度改正や受信料のあり方が関わってくるNHKを巻き込んだ議論は更にハードルが高い・・・。総務省の検討会で同時配信の議論が開始されて1年半になりますが、議論を深めれば深めるほど、関係各者が困難さを実感する状況となっています。

『放送研究と調査』2017年7月号の「『これからのテレビ』を巡る動向を整理する Vlo.10では、こうした同時配信の議論を巡るこれまでの経緯を整理してみました。今後、困難を乗り越えてどこに向かって議論をしていけばいいのか、議論から抜け落ちている視点は何か等、筆者なりに考えてみましたが、状況は変化し続けており、課題は多岐にわたるため、認識が深まっているとはいえない論考に留まっています。今後も取材を続け、本ブログでもまた取り上げていきたいと思っています。

文研フォーラム 2017年07月21日 (金)

#88 ドキュメンタリストから学んだこと@「文研フォーラム2017」

メディア研究部(番組研究) 松本裕美

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田原総一朗さん
今野勉さん相田洋さん。この、ドキュメンタリーの“巨匠”が「NHK文研フォーラム2017」に集いました。いったいどんな議論が飛び交ったのか…気になりませんか?
テーマは、「テレビ・ドキュメンタリーにおける“作家性”とは?」です。

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文研は年に一度、調査研究成果を発表するフォーラムを開催しています。今年は、3月1日(水)〜3日(金)に東京の千代田放送会館“いま考えるメディアのちから、メディアの役割”と題して行われました。
その2日目のシンポジウムが、「テレビ・ドキュメンタリーにおける“作家性”とは?」です。パネリストとしてお招きしたのが、ジャーナリストの田原総一朗さん、テレビ演出家・脚本家で、テレビマンユニオン最高顧問の今野勉さん、NHKのOBでディレクターの相田洋さん。そしてコメンテーターとして早稲田大学の伊藤守教授を迎え、ドキュメンタリー制作者の作家性などについて、約2時間半、自由奔放、闊達自在(かったつじざい)、制御不能?なトークが繰り広げられました!

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80歳を越えた今も現役で活躍中の3人ですが、テレビ・ドキュメンタリーの創り手、送り手として、その歴史とほぼ同じ時間を歩んできたからこそ語れる言葉を、シンポジウムでは聞くことができました。

89-0728-6.PNG今回のシンポジウムは、この本『テレビ・ドキュメンタリーを創った人々』の出版を機に行われました。これは、『放送調査と研究』2009年8月号に掲載したパイロット研究と、同誌に2012年2月号から3年半にわたって連載してきた「制作者研究」の論文をまとめたものです。

そして、このシンポジウムの一部も、『放送研究と調査』の7月号に採録しましたので、こちらもぜひご一読ください。
また、このシンポジムのダイジェストを文研ホームページで動画配信しています。ご覧になりたい方はここをクリック!ぜひご覧ください!

 

 

 

 

調査あれこれ 2017年07月14日 (金)

#87 将棋の藤井四段の大活躍から考えるメディアの今

世論調査部(視聴者調査) 北村紀一郎

公式戦の連勝記録を歴代最多の29に伸ばした将棋の最年少プロ棋士、藤井聡太四段の大活躍が、将棋界だけでなく、日本中を沸かせました。将棋のことはよくわからないけれどファンになったという方も多いのではないでしょうか?藤井四段は、先日、佐々木勇気五段に敗れ、惜しくも連勝記録が止まりましたが、勢いのある新鋭とその前に立ちはだかる先輩棋士との対局には、勝負の妙を感じました。その藤井四段の大活躍を見て私がふと思ったのは、メディアの今でした。といっても、メディアの報道姿勢についての話ではありません。「通信サービスをはじめとする新たなメディアの台頭とそれを迎えるテレビ」という構図に、何だか似ていると感じたのです。

私たち文研は、去年(2016年)11月から12月にかけて、全国16歳以上の男女を対象に、「メディア利用動向調査」を行いました。4K・8Kや放送のインターネット同時配信をはじめ、動画配信やSNSなどメディアの最新動向に対する人々の意識や利用実態をつかむためです。今回は、世論調査部とメディア研究部が共同で調査を行いました。世論調査を専門とする世論調査部とメディア動向に詳しいメディア研究部がタッグを組むことで、それぞれの問題意識に基づく新たな視点や気づきがあり、有意義な調査になったのではないかと思います。

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ところで、これは何のイラストだと思いますか?
答えは、調査で浮かび上がってきた、放送のインターネット同時配信を利用したい人の1つのイメージです。インターネットをよく利用する人が同時配信の利用意向が高いのはわかりますが、ふだんテレビを30分というわずかな時間だけ見る人が同時配信の利用意向が高いというのは、私たち担当者にとって少し意外でした。
また、個人的には、去年の夏にアナウンスの現場から文研に異動して初めて担当した世論調査でした。しかも、いまだにガラケー(携帯電話)を使っているアナログ派の私にとっては、何もかもが新しいことばかりで、大変刺激を受けました。
調査を通して感じたのは、テレビと新しいメディアとの関係についてです。期待を込めていうと、両者が単に対立するだけでなく、いい意味で競争し合うことで、メディア全体が活性化する可能性があるのではないか。そんなことを現在の将棋界になぞらえて、考えてみました。

今回の調査の詳しい報告は、「放送研究と調査」7月号に掲載されています。ぜひ、ご一読ください!
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ことばのはなし 2017年07月07日 (金)

#86 「エロチック」か「エロティック」か

メディア研究部(放送用語・表現)  滝島雅子/山下洋子

同じ事柄を伝えるのに、複数の言い方が使われることを
「ことばのゆれ」と呼びます。当部 放送用語班では、こうした「ことばのゆれ」に関する調査を、年に1~2回行っています。昨年7月の調査では、敬語を使った「依頼表現」や「許可を求める表現」、また対人関係を良好に保つための「配慮表現」のほか、「カタカナの表記」についての、世の中の一般的な使用の傾向を調査しました。その結果を『放送研究と調査』7月号で報告しています(「配慮表現」については8月号で報告の予定)。

みなさんは、人に何かをしてもらうよう頼むとき、どんな言い方をしますか。例えば、ボールペンを人に借りたいときは、一般的には「ボールペンを貸して(ください)。」ですよね。
ところが最近、「ボールペン貸してもらっていい?」、(または敬語を使って)「ボールペンを貸していただいてもよろしいでしょうか。」といった言い方をよく耳にするようになりました。これは、相手の「(ボールペンを)貸す」という行為を、いったん「貸してもらう(貸していただく)」という自分の行為に置き換えて、その許可を求めるように表現している言い方と捉えることができます。なぜわざわざ、このような、回りくどい言い方をするのでしょう。7月号では、こうした表現の使用傾向や支持される理由を考察しています。

また、後半では、外来語の表記の調査結果も報告しています。
「肉感的」などの意味の「erotic」をカタカナで書く場合、みなさんは、エロチックと書きますか?エロティックと書きますか?あんまり使わないことばだなぁと思う方も多いかもしれませんが、どちらかと言えばどうでしょう?
NHKの放送では、「エロチック」で発音・表記することにしています。
筆者自身、自分ではどう使っているかを考えてみました。どちらもおかしくないけれど、「エロティック」のほうが使いやすい気がします。2つの表記はイメージが違っていて、「エロチック」のほうがいやらしく感じます。なんだか「エロチック」は使いにくい。
今回報告している調査の結果、30歳代の女性で、「エロティック」を選ぶ人が少し増えていました。「エロティック」のほうが使いやすいと感じるのは、筆者が女だからなのかもしれません。
erotic以外に、dramatic(ドラマチック?ドラマティック?)、plastic(プラスチック?プラスティック?)「チック」「ティック」どちらの書き方を使うのかを聞きました。
そもそも、なんで「チック」と「ティック」と、2つの言い方、書き方があるんでしょう? 調査結果のほか、そんなことも考察しています。
『放送研究と調査』7月号で「ことばのゆれ」の世界をのぞいてみてください。

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