文研ブログ

2022年8月

調査あれこれ 2022年08月25日 (木)

#418 総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」 取りまとめ公表を受けて⑵

メディア研究部(メディア動向) 村上圭子

 本ブログは、8月5日に総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会(在り方検)」が公表した「取りまとめ 1)」について整理する2回目です。取りまとめの5つの項目(図1)のうち、1回目は、⑴と⑵について考えました 2)。今回は、残りの⑶守りの戦略(放送ネットワークインフラの将来像)、⑷攻めの戦略(ネット配信の在り方)、⑸放送制度(経営の選択肢拡大等)のうち、⑶について取り上げます3)

murakami1.png 個別の整理に入る前に、地上放送の仕組みについて確認しておきたいと思います。図2-1は主な業務を私なりにまとめたものです。2010年の放送法改正で、放送サービスはハード・ソフト分離型 4) が原則となりましたが、地上放送 5) については事業者の強い要望もあり、これまで通り一致型を選択できる制度整備が行われました。現在、全ての地上放送事業者が、制作・編成・送出・伝送の業務を一体で行う一致型を選択しています。

murakami2.png 在り方検では、これらの業務のうち、送出・伝送部分に関する施策が中心に議論されました。そして、取りまとめでは、IP化の促進等によって、コスト負担を軽減して“守り”を固め、配信サービスを拡充して“攻め”を進めるという方向性(図2-2)が打ち出されました。今回のブログは守りの戦略について見ていきます。

murakami.png ◆ 守りの戦略―放送ネットワークインフラの将来像 ~踏み込んだ問題提起と残された論点~

1.
検討の背景

 放送局は、優れた番組を制作したり、正しい情報を伝達したりすることと同様に、放送波を確実に届けるための送信・伝送業務に取り組むプロフェッショナル達がいます  6)。放送波を確実に届けるには、「放送局の心臓部」と呼ばれる各局舎内に設置しているマスター設備(番組やCMをタイムテーブルに従って送出するシステム)と、放送波を届けるために設置している多くの中継局を事故なく運用することが不可欠です。これは、放送をユニバーサルサービスとして提供する地上放送事業者の最も大きな責務の一つです。 
 しかし、事業者の経営の先行きが不透明感を増す中、これらの設備の保有や維持に関する経費が個々の事業者の経営を圧迫しつつあるという課題を抱えていました。たとえば、マスター設備は10~15年毎に更新する必要がありますが、その都度、県域局と広域局で機能に差があるものの、数億~20億円程度 7)の投資をしなければなりません。ここ数年、各局で更新作業が続いており、早めに更新を済ませた在京キー局では、次期更新が2028年~30年頃に予定されています。また、中継局の維持経費は、民放連によれば民放127局あわせて年間約290億円、NHKによれば年間約230億円かかっているといいます 8) 。全ての経費のうちの約半分は、山間地等に設置されている、カバーエリアが狭く対象世帯数が少ない小規模中継局等の施設です。このうちミニサテについては2026年~28年頃に更新時期が迫っており、民放からは、更新時に受信料収入で民放分も負担できないかといった要望が出されていました。
 そのため在り方検では今回、守りの戦略(コスト負担の軽減策)として、1)マスター設備の将来像、2)中継局の保守・運用・維持管理のあり方、3)維持・更新費用が割高な小規模中継局等のエリアに対する伝送方法の大きく3点が検討されました。
 検討のもう1つの背景としては、IP化やデジタルテクノロジーの急速な進展がありました。マスター設備については集約化やクラウド化が進んでおり、大きな装置を局舎内に設置する“オンプレミス型”が唯一の選択肢ではなくなりつつあります。仮に外部に委ねることができれば、施設を置くスペースも必要なくなりますし、徹夜で監視作業にあたる等の業務の省力化も見込めます。また、放送局は全国津々浦々に放送波を伝送するために中継局を設置してきましたが、光ファイバの普及によって、通信インフラで代替する物理的環境も整いつつあります。2022年4月、国は「デジタル田園都市国家インフラ整備計画  9)」を公表し、2021年度末に99.3%だった光ファイバ世帯カバー率を2027年度末までに99.9%を目指すと掲げています。7月には電気通信事業法が改正され、有線ブロードバンドが「国民生活に不可欠であるため、あまねく日本全国における提供が確保されるべき電気通信サービス」と位置付けられ、整備のための交付金制度もできました  10)

2. 取りまとめの方向性と今後 1)マスター設備 2)中継局の維持・管理等

これまでも一部の事業者においては、制度上可能な範囲内で、マスター設備の集約化を試みたり、系列を超えて地域の局が共同で中継局の維持・管理にあたったりしてきました 11)。在り方検では、これらの取り組みの情報も共有されましたが、より踏み込んだ議論も行われました。たとえば、制度的にハード・ソフト分離型の欧州では、マスター機能を放送局に提供するマネージド会社、無線設備を保有・運用するハード会社、土地・鉄塔・電源等を所有するタワー会社が送信・伝送部分を担っている事例が紹介され、これらを日本はどう参考にしていくのか等が議論されました。
 これらの議論の結果、取りまとめでは、1)マスター設備については集約化・IP化・クラウド化、2)中継局の維持・管理等については共同利用型モデル、という方向性が示されました。(図3)

murakami30.png 1)については、コスト負担の軽減と、安全・信頼性の確保をどう両立させるかが今後の課題とされました。仮にクラウドを利用する場合には、マスター設備の利用者である事業者自身がリスクを把握、制御できるのかが問われるとの指摘がなされました。今後はこれらの技術要件の議論を進めると共に、民放では系列ネットワークを主とした検討が進んでいくものと思われます。
 2) については、共同利用型モデルの導入で、業務効率化・信頼性向上・コスト低減が期待され、各事業者はコンテンツ制作への注力が可能になるといったメリットが強調されました。一方、留意点としては、ハード事業者の収益性の確保があげられました。収益性の確保と密接に関わるのが対象設備の範囲です。小規模局だけでなく、効率のいい大規模局も束ねて業務を行っていかなければ、ハード事業者を作ったとしても経済合理性は見込めません。ただ、今回の取りまとめでは対象施設の範囲までは明記されませんでした。
 取りまとめに合わせて公表された意見募集の内容には、国からの施策の強制や義務化への反対の声も少なくありませんでした。個社の事情も勘案しつつも、広い視野で業界内連携のあり方を考え、イニシアチブをとって進めていく役割は誰が担うのか……。その際、既に民放と共同で多くの中継局の建設を行っているNHKの立ち位置や受信料の負担のあり方はどうあるべきか……。放送局の役割を、ハードからソフトへ、インフラからコンテンツへ、よりシフトチェンジしていくためには、業界内で系列やNHK・民放の垣根を超えて、主体的に議論を進めていく力が求められています。引き続き議論を注視していきたいと思います。

3. 取りまとめの方向性と今後 3)放送波のブロードバンド等代替

 守りの戦略としてもう1つ示された方向性が、3)の放送波のブロードバンド等代替でした。これについては、放送政策にとって大きな転換点となる内容だと感じたため、少し厚めに触れておきたいと思います。
 先ほど、放送波を伝送する中継局の維持経費のうち、約半分は小規模中継局等の施設であるということに触れました。これらの施設はどの位の世帯をカバーしているのかというと、NHKにおいては約2割、民放においては約1.5割となっています。一世帯あたりで換算すると、大規模局に比べて維持経費はかなり割高であることがわかります。そのため、小規模中継局等の施設では、番組の伝送を、放送波からブロードバンド等に代替した方が放送局のコスト負担の軽減になるのではないか、ということが検討されたのです。
 検討の最大のポイントは、代替の対象として、これまで制度上は放送として扱われてきたケーブルテレビネットワークやIPマルチキャスト方式だけでなく、制度上は通信として扱われ、「NHKプラス」「TVer」等のオープンインターネット上の配信サービスと同じIPユニキャスト方式が俎上にあげられ、検討の主眼となったということでした。ちなみに総務省は2018年にIP放送に関する技術基準を施行しているのですが、その際の前提は、事業者が放送と同一の品質を保証することができるIPマルチキャスト方式でした。一方、放送と比べて30秒近く遅れたり、アクセスが集中した場合には映像の画質が悪くなったり、場合によっては画面が固まってしまったりする、“ベストエフォート型”のサービスであるIPユニキャスト方式は、IP放送とは位置づけられませんでした。
 このIPユニキャスト方式を放送波の代替の検討の主眼に置くという方向性は、在り方検が始まった当初から明確に示されていました。光ファイバがユニバーサルサービスとなる時代において、伝送部分は放送と通信の垣根をなくし経済合理性で判断していこうという総務省の意思は理解できましたが、品質が保証されないIPユニキャスト方式を検討の主眼にするということについては、多くの関係者も当初、違和感を抱いており、私も腑に落ちていませんでした。
 そんな中、今年6月、私は幕張メッセで開催された「Interop Tokyo2022」の基調講演で、在り方検の「小規模中継局等のブロードバンド代替に関する作業チーム(作業チーム)」メンバーのクロサカタツヤ氏と一緒に登壇する機会を得ました。そこでクロサカ氏はIPユニキャスト方式を積極的に検討する理由について次のように語りました。「マルチキャストは一定の設備が必要であり、提供できる事業者も絞られる。(中略)これを放送インフラとして使って良いのかという議論はある。だが、ユニキャストならばどの事業者でも対応可能だ」「ユーザー目線に立てば、IPも放送も『いま使っているスマホの中』という印象だろう。ユーザーにとってシームレスに移行できる道を考えるべきでは無いか」12)。これを聞いて私は、IP化とは基本的にオープンなもので、多くの事業者が参加することで技術もサービスも向上していくこと、そしてサービスのあり方は特定の事業者ではなくユーザーが決めていくものであること、通信融合の垣根をなくしていくという本質はこういうことなのだ、ということに気づかされました。

 作業チームは今年2月から議論を開始し、これまで通り中継局から放送波で伝送する場合とブロードバンドで代替した場合の費用の比較を、NHKの小規模中継局以下の63施設の対象エリアを抽出してシミュレーションしました(図4)。内容の詳細は作業チームの取りまとめ 13)が別途公表されているのでそちらを確認いただければと思いますが、今後の人口減少も勘案すると、2040年にはミニサテの約半数のエリアにおいて、ブロードバンドで代替する経済合理性があるという結果が報告されました。

murakami14.jpg

 この試算では、放送アプリケーションの費用や、そもそも光ファイバが敷設されていないエリアでの整備に関わる一切の費用が計上されていないという点には留意する必要があります。また、対象エリアにおいてこれまで放送波経由でテレビを視聴していた視聴者は、ネット接続サービスを利用していなければ、回線を自宅に引き込んだりISPとの契約をしてもらったりする負担が伴ってきます。これをどのようなスキームで整備するのかによっても試算は変わってくる可能性があります。ただ、これまで漠然と、放送波より通信の方が、経済合理性が高いのではないかという指摘がなされてきた中で、こうした具体的なシミュレーションの結果が初めて公表されたことは、在り方検の大きな成果ではないかと思います。
 図5は、作業チームの取りまとめに示された制度面・運用面の課題です。先ほど、総務省は、伝送路においては通信と放送の垣根をなくし、経済合理性で判断していこうという意思があるのでは、と書きましたが、そのための放送制度をどのような姿にしていこうとしているのかについてはまだ見えません。通信として位置付けられており品質の厳密な保証も難しいと想定されるIPユニキャスト方式による代替を、放送法や著作権法でどのように位置づけていくのか。この問題は、そもそも放送の定義とは何か、ユニバーサルサービスとは何かという根源的なテーマにつながります。また、放送規律や受信料制度、既に行われている放送事業者による同時配信等の配信サービスやケーブル再放送サービス等との関係も整理していかなければなりません。言うまでもありませんが、対象となるエリアの受信者・視聴者にどのように理解を得、視聴のためのサポートをしていくのかも極めて重要なテーマです。

murakami10.jpg 今後の検討スケジュールとしては、特定の地域を対象に住民や自治体の協力を得ながら配信実験を行い、年度末に何等かの報告をまとめることが決まっているとのこと。制度面や運用の課題はその後、ということのようですが、総務省の検討を待たず、私なりに考えてみたいと思います。
 次回は、⑷攻めの戦略について整理していきます。

1) https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu07_02000236.html 
2) https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2022/08/10/ 
3) 8月10日のブログでは2回で書くことを予告していたが、取りまとめの要素が多いことから回数を増やした
4) ソフト事業者は放送法の基幹放送事業者の認定を受けた「基幹放送事業者」、ハード事業者は電波法の基幹放送局の免許を受けた「基幹放送提供事業者」。ソフト事業者はハード事業者から設備の提供を受けて事業を行う。ソフト事業とハード事業の分界点だが、送出設備については、事業者が全部または一部をハードもしくはソフトのいずれかに含むかを選択できることになっている(放送法施行規則第3条)
5) 正式には「特定地上基幹放送局」を指す
6) こうした放送技術に関する人材の育成、確保も近年大きな課題となっている
7) 民放ローカル局の場合、広域局で20億程度、県域局で6億程度という(独自ヒアリングによる。系列により異なると思われるのであくまで参考値として提示)。この他に民放は、送出のために営放(営業放送)システムも必要で、こちらも億単位の投資が必要となる。
8) 中継局の年間の維持費用については、民放連、NHKが在り方検で報告した数字を用いた
9) https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban01_02000042.html 
10) https://www.soumu.go.jp/main_content/000821000.pdf P5
11) マスター設備については、JNN系列で、あいテレビ(愛媛県)と中国放送(広島県)ではセントラルキャスティング方式(地域ブロック内で親局を決め、系列局のネット番組やCMの送出を親局が一括管理)が採用されていた時期があった。中継局の維持管理については、在京、在阪、青森県、長崎県等で系列を超えて共同でメンテナンス会社を設立したり業務委託したりするなどの取り組みが行われている。
12) この基調講演の詳細は、Screens「Interop Tokyo 2022基調講演「IP化時代における放送の将来像」レポート」に再掲されている。
前編 https://www.screens-lab.jp/article/28116 
中編 https://www.screens-lab.jp/article/28117 
後編 https://www.screens-lab.jp/article/28118 
13) https://www.soumu.go.jp/main_content/000827791.pdf

調査あれこれ 2022年08月19日 (金)

#417 「東京パラリンピック視聴と障害者スポーツへの理解」③ ~「東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査」~

世論調査部 (視聴者調査) 斉藤孝信

 前回に続いて、文研が2016年から実施した「東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査」の結果をもとに、東京パラリンピック(以下、東京パラ)を人々がどのように視聴し、それが障害者スポーツへの理解促進につながったのかどうかのお話です。

 <前回ブログまでのポイント>
 ①多くの人が、東京パラをNHKや民放の放送や、NHKプラスなどのインターネット向けサービスを通じて視聴した。
 ②東京パラをNHKで視聴した人の大多数が、大会をきっかけに、障害者や障害者スポーツへの理解が進んだと回答し、東京パラをスポーツとして楽しめた人が多い。

 今回も、東京パラをNHKで視聴した人の回答に注目しますので、まずは視聴した人の割合を改めてご紹介しておきます。74%と非常に多くの人が視聴してくださいました。

saiitou3-1a.png 今回のブログでは、NHKで東京パラを視聴した人たちが、障害者スポーツに対してどのようなイメージを持ったのか、みていきます。

 調査では、人々が障害者スポーツに対してどのようなイメージを持っているのかを把握するために、「あなたは、『障害者スポーツ』と聞いて、どのような言葉を思い浮かべますか」という質問をしました。その回答結果を、東京パラをNHKで視聴した人と視聴しなかった人別に集計したのが、次の表です。

saitou3-2a.png ご覧のように、視聴した人でも視聴しなかった人でも、トップは「感動する」というイメージですが、その割合には大きな差があります。また、視聴した人では、「すごい技が見られる」「明るい」などポジティブなイメージを持つ人が、視聴しなかった人よりも軒並み多くなっています。
 前回のブログでは、NHKで視聴した人は、東京パラをスポーツとして楽しめたというお話をしましたが、ここでも、「すごい技が見られる」「迫力のある」「面白い」「エキサイティングな」など、スポーツとしてのポジティブなイメージを持つ人が、視聴しなかった人よりも多いことがわかります。
 一方、「難しい」「痛々しい」「親しみのない」というネガティブなイメージを持つ人の割合は、視聴した人では、視聴しなかった人よりも少なくなっています。そもそも、視聴しなかった人では「感動する」以外はどの項目も20%未満と少ないので、「障害者スポーツ」と聞いても、パッと思い浮かぶイメージがあまりない、ということなのかもしれません。
 パラ競技は、選手の障害の種類や程度などによって、競技のクラス分けやルールが細かく設定されているので、どうしても、ふだん見慣れているオリンピック競技よりも「難しい」という印象を持たれるように思いますが、前述のように、視聴した人では「難しい」というイメージを持った人はわずか8%でした。言い換えれば、ほとんどの人が、“東京パラを視聴しても、難しいとは思わなかった”わけです。
 現実問題として、難しいはずなのに、どうして「難しい」と思わなかったのか。これについては、別の質問で、東京五輪・パラを楽しむためにどのような放送やサービスが役立ったのかを複数回答で尋ねた結果をご紹介します。

saitou3-3a.png 調査相手全体のトップは「競技の見どころをまとめたハイライト番組や映像」(57%)ですが、東京パラをNHKで視聴した人では「競技への関心につながるような選手やルールの紹介や解説」が65%で最も多くなりました。また、「競技中継の内容や注目点を画面上でわかりやすく伝える文字情報」を挙げた人も、全体より多くなっています。
 今回の東京パラで、多くの人が視聴したNHKの競技中継や番組では、画面上のテロップやアナウンサーの実況、解説者のコメントによって、かなり詳しくルールを説明していましたので、そうした工夫が、パラ競技のわかりにくさを減らし、結果的に、スポーツとして楽しめた人を増やしたのかもしれません。

 『放送研究と調査』6月号では、“人々にとって、東京五輪・パラとは何だったのか”と題して、今大会が人々にとってどのような意義を持ち、日本にどんなレガシーを遺したのかなど、さまざまな視点で考察しています。特に、今回のブログでご紹介した障害者への理解促進に関しては、「大会をきっかけにバリアフリー化が進んだかどうか」を尋ねた結果で、日ごろ障害のある人と身近に接している人と、接していない人では、回答に違いが出ていて、深く考えさせられました。ぜひお読みください!



調査あれこれ 2022年08月18日 (木)

#416 「東京パラリンピック視聴と障害者スポーツへの理解」② ~「東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査」~

世論調査部 (視聴者調査) 斉藤孝信

  前回に続いて、文研が2016年から実施した「東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査」の結果をもとに、東京パラリンピック(以下、東京パラ)を人々がどのように視聴し、それが障害者スポーツへの理解促進につながったのかどうかのお話です。

 <前回ブログのポイント> 
 ①東京パラでは、オリンピックと同様に、日本がメダルを獲得した競技が多くの人の印象に残った。
 ②多くの人が、東京パラをNHKや民放の放送や、NHKプラスなどのインターネット向けサービスを通じて視聴した。
 ③東京パラをNHKで視聴した人の大多数が、大会をきっかけに、障害者や障害者スポーツへの理解が進んだと回答した。

 このあとの分析をお読みいただく前提として、改めて、東京パラをNHKで視聴した人の割合をご紹介しておきます。74%と非常に多くの人が視聴してくださいました。

saitou2-1.jpg 今回のブログでは、NHKで東京パラを視聴した人たちが、障害者スポーツに対してどのような感想や意見を持ったのかを、もう少し具体的に掘り下げます。
 
 調査では、東京パラを視聴してどう思ったか、9つの感想を示して、「そう思う」かどうか尋ねました。NHKで東京パラを視聴した人の回答結果はご覧の通りです。

saitou2-2a.png 「そう思う」という人が最も多かったのは、「選手が競技にチャレンジする姿や出場するまでの努力に感動した」(87%)と「想像していた以上の高度なテクニックや迫力あるプレーに驚いた」(86%)で、9割近くにのぼります。
 私が注目したのは、東京パラを、スポーツとして捉えた人の多さです。上記の「想像していた以上の高度なテクニックや迫力あるプレーに驚いた」に加え、緑色でお示しした「記録や競技結果など純粋なスポーツとして楽しめた」は76%、「これからもっと障害者スポーツを見たいと思った」は60%と、いずれも半数を大きく上回っています。
 一方で、「オリンピックの楽しみ方とパラリンピックの楽しみ方はまったく違うと思った」という人は45%と半数以下にとどまりました。すなわち、パラリンピックも、オリンピック同様に、世界のトップアスリートたちがメダルをかけて競い合う姿を観戦し、応援するという楽しみ方をするものだと考える人のほうが多いわけです。
 これに関連して、今回の世論調査を振り返ると、大会前の第6回では、「パラリンピックには、スポーツとしての側面と、福祉として側面がありますが、放送では、どのように伝えるべきだと考えますか」という質問をしました。

saitou2-3a.png 「オリンピックと同様に、純粋なスポーツとして扱うべき」という人が43%と最も多く、「なるべくスポーツとしての魅力を前面に伝えるべき」(23%)と合わせると、『スポーツとして伝えるべき』だという意見が67%にのぼり、「競技性より、障害者福祉の視点を重視して伝えるべき」(4%)という意見を圧倒的に上回りました。
 つまり、大会前から、東京パラをスポーツとして楽しみたいと思っていた人が多く、実際に大会を視聴した人の感想としても、スポーツとして楽しめた人が多かったのです。
 ふだん、オリンピック競技ほどには見慣れていないはずのパラ競技を、オリンピックと同じようにスポーツとして楽しめた人が多かったという結果は、東京でのパラリンピック開催や、それを伝えたメディアが、障害者スポーツの理解促進に寄与したことのひとつの証ではないでしょうか。
 次回のブログではさらに、東京パラの視聴が、人々の障害者スポーツに対するイメージに、どのような変化をもたらしたのかをご紹介します。

 『放送研究と調査』6月号では、“人々にとって、東京五輪・パラとは何だったのか”と題して、人々はコロナ禍での開催をどのように感じていたのか。そうした状況で大会をどのように楽しんだのか。今大会は人々にとってどのような意義を持ち、日本にどんなレガシーを遺したのかなど、さまざまな視点で考察しています。どうぞご一読ください!

調査あれこれ 2022年08月17日 (水)

#415「東京パラリンピック視聴と障害者スポーツへの理解」① ~「東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査」~

世論調査部(視聴者調査)斉藤孝信

 『放送研究と調査』6月号では、“人々にとって、東京五輪・パラとは何だったのか”と題して、文研が大会招致決定後の2016年から7回にわたって実施した「東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査」の結果をもとに、人々はコロナ禍での開催をどのように感じていたのか。今大会は人々にとってどのような意義を持ち、日本にどんなレガシーを遺したのかなど、さまざまな視点で考察しております。

 今回のブログでは、東京パラリンピック(以下、東京パラ)を人々がどのように視聴し、それが障害者スポーツへの理解促進につながったのかどうか、お話します。
 皆さんは、東京パラのどんな競技が印象に残りましたか?
 世論調査では、第2回から毎回、「見たい競技・式典」を、大会後の第7回では「印象に残った競技・式典」を尋ねました。
 大会前の第6回と大会後の第7回のトップ10はこちらです。
 saitou1-1.jpg 第7回の「印象に残った競技・式典」のトップは、日本が13個のメダルを獲得した「競泳」。次いで、国枝慎吾選手の金メダルをはじめ日本勢が3つのメダルを手にした「車いすテニス」や、男子が銀メダルに輝いた「車いすバスケットボール」も、4割以上の方が「印象に残った」と答えました。
 ランキングの上位を日本のメダル獲得競技が占めたという結果は、先日のブログでご紹介した東京オリンピックにも共通しています。
 赤の数字で示したのは、第6回で「見たい」と答えた人よりも、第7回で「印象に残った」と答えた人のほうが多かった競技です。
 ご覧のように、軒並み、赤!
 日本のパラアスリートの活躍が、いかに人々の心を動かしたのかが、これを見るだけでも伝わってきます。
 また、第6回では、見たい競技が「特にない」人が29%いましたが、第7回では、印象に残った競技が「特にない」人は19%と大きく減りました。
 第7回では、東京パラを視聴する際にどんなメディアを利用したのか、NHKと民放の放送・サービスを、それぞれテレビの「リアルタイム(放送と同時に)」と「録画」、インターネット向けのサービスであるNHKプラスやTVerなどの「インターネット」に分けた上で、放送局以外のサービスである「YouTube」「YouTube以外の動画」「LINE」「Twitter」「Instagram」「その他のSNS」も加えた12のメディアを示して、複数回答で尋ねました。

saitou1-2.jpg 
 テレビの「リアルタイム」が圧倒的に多く、NHKが73%、民放が63%でした。NHKについては、録画やNHKプラスなどのインターネット向けサービスも含めると、74%と非常に多くの人が視聴してくださいました。
 この事実だけでも大変嬉しいのですが、欲を言えば、この視聴が、障害のある人や、障害者スポーツへの理解促進につながっていてほしい・・・と思うわけです。

 そこで、東京パラをきっかけに「自身の障害者への理解が進んだと思うか」「自身の障害者スポーツへの理解が進んだと思うか」を尋ねた結果を、それぞれ、NHKの放送・サービスの利用有無別に集計してみました。
 saitou1-3.jpgsaitou1-4.jpg その結果、NHKで東京パラを視聴した人では、障害者への理解、障害者スポーツへの理解ともに、『進んだ(かなり+ある程度)』という回答が8割前後にのぼり、視聴しなかった人を大きく上回りました。今回は、最も多くの人が東京パラを視聴してくださったNHKを取り上げましたが、民放でも同じように、大会を視聴した人のほうが、障害者や障害者スポーツへの理解が進んだと思う人が多いという結果が出ています。
 では、具体的に、どのように理解が進んだのでしょうか。次回のブログで、詳しく掘り下げたいと思います。

調査あれこれ 2022年08月15日 (月)

#414 コロナ禍のしわ寄せを受けているのは誰なのか ~「新型コロナウイルス感染症に関する世論調査(第2回)」の結果から~

世論調査部(社会調査) 小林利行

新型コロナウイルスの感染者数は今なお多いままです。6月中旬ごろまでは感染者数の減少が続いて、世の中に「ホッ」としたような雰囲気が広がっていましたが、それ以降、再び増加に転じました。「こんなことがいつまで繰り返されるのか」。多くの人の思いではないでしょうか。

文研では2021年11月に新型コロナウイルスに関する世論調査を実施しました。2020年11月に続く2回目の調査で、今回は、コロナ禍が長期化する中、誰にしわ寄せが及んでいるのかに注目して結果を分析しました。

図①は、感染拡大で影響があったことを、11の選択肢を示して、いくつでも選んでもらった結果です。1番多いのは「親や友人など会いたい人に会えない」で61%、2番目は「一日中、家で過ごすことが多い」で40%でした。

kobayashi2.jpgこれだけ見ると、コロナ禍の影響として「そうだよなー」と想像できる範囲かもしれませんが、これを男女別や職業別にみると、また違った面が見えてきます。

表①は、図①のそれぞれの選択肢を、男女別・職業別・雇用形態別・世帯年収別で示したものです。数字がいっぱいでちょっと見づらいのですが、全体より有意に高くなっているところをオレンジ、低くなっているところをにしていますので、「オレンジのところは多めで、のところは少なめなんだな」ぐらいの気持ちで見てください。

kobayashi.jpgまず、表を縦に見て、緑の線で囲んだ男女別に注目すると、男性でオレンジが付いている項目は2つだけなのに対して、女性は7つもあることがわかります。もちろん男性も影響を受けているのですが、男女で比べると、女性のほうがコロナ禍の影響を受けている人が多いようです。

次は、表を横に見て、赤の線で囲んだ「収入が減って生活が苦しい」の項目を見てください。全体では15%ですが、職業別の自営業者では39%もの人が回答しています。また、雇用形態別では、正規よりも非正規で多くなっています。さらに世帯年収別では、900万円以上の人が6%なのに対して300万円未満の人が22%などと、年収が低くなるほど多くなっています。

コロナ禍では、多くの人が何らかの影響を受けています。そんな中でも、特定のカテゴリーの人により大きな影響が及んでいることが調査結果から読み取れます。コロナ禍の収束が見通せない中、こうした人たちへの影響は今後も続くのでしょうか。文研では今年11月にも3回目の調査を予定しています。

ちょっと重い話になりましたが、実は今回の結果からは、「コロナ禍がもたらしたものは負の面だけではない」という人々の思いも浮かび上がっています。調査結果の詳細については、「放送研究と調査2022年7月号」で紹介していますので、是非ご一読ください。

2022年08月10日 (水)

#413 総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」 取りまとめ公表を受けて(1)

メディア研究部(メディア動向) 村上圭子

 8月5日、総務省の「デジタル時代における放送政策の在り方に関する検討会(在り方検)」が、去年11月から約8か月間の議論を踏まえた「取りまとめ」を公表しました1)。私はこれまで、このブログで過去5回2)、そして8月1日にWEBに全文を公開した『放送研究と調査』7月号の「これからの“放送”はどこに向かうのか? Vol.7 ~諸課題検から在り方検へ~3)で議論を整理し、認識を提示してきました。公開された取りまとめについて、2回に分けて私なりに図表を示しながら整理しておきたいと思います。

議論の全体像

 図1が在り方検が公表した取りまとめの概要です。内容は大きく5つに分かれていましたので、それに従って、⑴環境変化、⑵意義・役割、⑶守りの戦略、⑷攻めの戦略、⑸放送制度の順に見ていきます。1回目の今回は、⑴⑵についてです。

arikataken5.png

 (1)    「放送を取り巻く環境の変化」~6つのモデルとその課題から確認する~

 取りまとめでは、放送を取り巻く環境の変化を、視聴動向・サービス・ビジネスの分野におけるデジタルシフトの進展と、人口減少等、深刻化する日本社会の課題という2点を軸に述べていました。私は、これらの環境変化が地上放送の土台となってきたモデルをどのように揺るがし、どんな課題をつきつけているのかという観点で整理してみました。
 図2は、地上放送の土台となってきたモデルを私なりに6つに分けて示したものです。①テレビ端末に対して、②放送波を通じて、③民放は広告モデル、NHKは受信料制度のもと、④県域単位を原則としながら、⑤民放は系列ネットワークという仕組みを通じて、⑥NHKと民放の二元体制で実践してきた、としました。放送法という制度の下、長い歴史の中で、これらの6つのモデルが密接に絡み合いながら地上放送を形作ってきたといえましょう。なお、番組や情報等の放送内容については、次項目の「放送の意義・役割」のところで論じたいと思いますので、この図にはあえて入れていません。


chijouhousou6.png
 この6つのモデルが、昨今の環境変化によってどのような課題に直面しているのかを示したのが図3です。以下、それぞれ見ていきます。

kankyohenka7.png

 ①の課題については、もはや説明するまでもないと思いますが、個人的には、直近の内閣府「消費動向調査」で示された、29歳以下の世帯のテレビ所持率が80.9%という数字4)にはいささかショックを受けました。
 ②の課題は、在り方検で最も大きな論点の1つとなりました。テレビは一度に1000万人を超える同時視聴を可能とする絶大なリーチ力を誇るメディアであり、その力は今も他のメディアの追随を許しません。そのリーチ力を支えてきたのは、全国津々浦々に設置している、放送波を届ける中継局等のインフラです。しかし、このインフラ維持のコストが事業者に重くのしかかり、経営を圧迫しているのです。加えて放送波は、“放って送る”という言葉通り、一方向が大きな特徴です。そのため、双方向が前提のネットサービスと比べて、ユーザーデータを入手することが技術的に難しいといったこと等もあり、活用が進んでいない現状があります。このことは、特に民放の広告ビジネスにとって極めて大きな課題となっています。
 それを示しているのが③です。電通「2021年 日本の広告費5)」によれば、2021年の地上波テレビ広告費は、コロナ禍で大きな影響を受けた2020年に比べて大幅に回復しました。ただ、ネット広告費の継続的な伸長によって、地上波テレビ広告費は長期的には低下傾向が続くことが考えられます。また、地上放送事業者はネット広告、特に配信サービスにおける動画広告の取り組みを積極的に進めており、毎年150%近い成長が続いています。しかし、金額ベースでみれば、地上放送の広告費全体の1.5%程度という厳しい現実があります。
 NHKの受信料制度については、先に触れた通り、テレビ端末を所持しない層が確実に増えてきています。加えて最近では、チューナーが内蔵されていないモニターが人気を博しており、これは今後のトレンドとして避けられない状況になっていくと思われます。また受信料の額についても、OTTサービスの浸透等もあいまって、視聴者からこれまで以上に厳しい目が向けられています。
 ②と共に、在り方検で大きな議論となったのが④の課題でした。少子高齢化や人口減少、それに伴う地方経済の縮小によって、銀行、大学、鉄道等、あらゆる産業や公共サービスは事業継続のために合併や統廃合等を行っています。では、県域を基本的な放送対象地域としてビジネスを展開しているローカル局は今後どのような姿になっていくのか、いくべきなのか……。このテーマも長らく課題として指摘されながら、放送制度の議論としては、これまでほとんど触れられてきませんでした。
 ⑤もローカル局に関わる課題です。系列ネットワークに属するローカル局は、キー局等の番組をそれぞれの放送対象地域の世帯に届けることで、キー局からネット配分金を得ています。加えて、キー局等が制作した過去番組を安価に購入し、それらと自社制作の地域番組を組み合わせる形でチャンネル編成をおこなってきました。しかし、キー局等が制作した番組をネット経由で全国どこでも視聴できる環境は広がっており、今年4月からはTVerを通じて、キー局系5局のゴールデン・プライムタイムのリアルタイム配信も始まりました。また、キー局から支払われるネット配分金も年々減少してきています。こうした中、ローカル局はどれだけ自社で番組を制作しているのか、地域の企業等からどれだけ収入を得ているのか、また、番組制作以外にどれだけ地域に根を張ったサービスを行っているのかということが、地域メディアとして生き残っていく上で、これまで以上に重要になってきているのです。
 ⑥は、在り方検の前に開催されていた「放送を巡る諸課題に関する検討会」の時からの懸案のテーマです。特に、ネット上でNHKと民放の共通プラットフォームを作るということは、“べき論”として5年以上前から提起されてきました。現在、民放では、5年前に開始した民放公式配信サービスのTVerが存在感を増しており、NHKでは、2年前から受信料契約世帯向けの同時・見逃し配信サービス、「NHK+」が提供される等、それぞれはネット上での展開を進めて来ています。しかし、両者の連携は極めて限定的なものに留まっています。これまで長らく二元体制で実践してきた“放送の公共性”を、拡大するデジタル情報空間の中でどのような姿で示していくのか、その答えは見えていません。

(2)    デジタル時代における放送の意義・役割 ~繰り返されたキーワードとセンテンス~

 約8か月間の在り方検の議論で最も頻繁に登場したキーワードの1つは、「インフォメーション・ヘルス(情報的健康)」だったと思います。これは、フェイクニュースやアテンションエコノミー6)等、デジタル情報空間で起きている様々な問題に対して、人々は多様な情報にバランスよく触れることで一定の免疫力(批判的能力)を獲得する必要がある、このことを広く伝えるために生み出された造語です7)。在り方検では、インフォメーション・ヘルスの確保という点において、放送に対する期待はむしろ以前よりも増しているのではないか、という文脈で用いられていました。

 取りまとめでは、期待される放送の価値について、「取材や編集に裏打ちされた信頼性の高い情報発信、「知る自由」の保障、「社会の基本情報」の共有や多様な価値観に対する相互理解の促進」という形で表現しています。私は取りまとめを最初に読んだ際、このセンテンスが繰り返されていることが気になり、数を数えてみたところ、実に9回も登場していました。このことからも、今回の取りまとめではいかにこの価値を強調しておきたかったのかが伺えます。
 放送業界に身を置く者として、このような形で価値を評価してもらえることは素直にありがたいと思います。また、放送の持続的な維持・発展のために制度の在り方を検討するという、在り方検としての命題にもかなった議論が進められたとも受け止めています。一方で、今回の議論では、ネット上に流通する情報やサービスに関する課題はクローズアップされましたが、放送事業者が提供する番組や情報の内容に関する課題についてはほとんど指摘されることはありませんでした。これだけ多様なメディアがひしめきあい、あらゆる情報がネット経由で入手できる時代に、放送事業者はどこまで信頼性の高い情報を社会に提供できているのか、期待に応えられる役割が実現できているのか、自ら省みる姿勢を忘れてはならないと思います。取りまとめに甘んじることのないよう、自戒を込めてあえて述べておきます。
 また、今回の取りまとめは、インフォメーション・ヘルスの確保がかなり強調される内容となっていましたが、在り方検の議論では、放送の意義・役割について 裾野の広い有意義な議論が行われていました。私も改めて認識を深める契機になりましたので、図4では取りまとめで触れられていなかった内容も含めて、私なりに整理しておきました。

konnititekiyakuwari8.png
 次回は下記の項目をとり上げ、より深く、取りまとめの内容を整理していきたいと思います。

(3)守りの戦略―放送ネットワークインフラの将来像 ~踏み込んだ問題提起と残された論点~

(4)攻めの戦略―放送コンテンツのインターネット配信の在り方 ~本格的な議論は秋以降に~

(5)放送制度の在り方 ~地域メディア機能の再定義~

 

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1)  https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu07_02000236.html 

2) 「文研ブログ#352 総務省で新たな検討会開始。どこまで踏み込んだ議論が行われるのか?」(2021年12月1日)https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2021/12/01/ 

 「文研ブログ#359 総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」これまでの議論を振り返る」(2022年1月20日)https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2022/01/20/ 

   「文研ブログ♯366 民放ローカル局の将来と地域情報の確保を巡る課題~「在り方検」第4回から~」(2022年2月10日)https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2022/02/10/ 

 「文研ブログ♯374 マス排&放送対象地域の見直しは何のため?~「在り方検」第5回から~」(2022年3月7日)https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2022/03/07/  

   「文研ブログ♯375 政策目的の実現のためにどう政策手段を見直すか?~「在り方検」第6回から~」(2022年3月11日)https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2022/03/11/ 

3)  https://www.nhk.or.jp/bunken/research/domestic/20220701_7.html
4)  https://www.soumu.go.jp/main_content/000828943.pdf P10
5)  https://www.dentsu.co.jp/news/release/2022/0224-010496.html 
6)  情報の優劣より人々の関心や注目を獲得することそのものが経済的価値になっていくこと
7) 詳細は……鳥海不二夫・山本龍彦「共同提言「健全な言論プラットフォームに向けて ―デジタル・ダイエット宣言 ver.1.0」」(2022年1月)  https://www.kgri.keio.ac.jp/docs/S2101202201.pdf

調査あれこれ 2022年08月09日 (火)

#412 岸田内閣を襲う真夏の逆風 ~旧統一教会・安倍氏国葬批判~

放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 安倍総理が凶弾に倒れてから8月8日で1か月。その直前の週末、5日から7日にかけて行われたNHK電話世論調査で、岸田内閣の支持率は前月調査から一気に下落しました。

☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。 

 支持する          46%(対前月-13ポイント) 
 支持しない        28%(対前月+  7ポイント)
 わからない、無回答  26%(対前月+  6ポイント)

 岸田内閣の支持率は、発足直後の去年10月に49%でスタートしました。そして新型コロナの感染拡大の間隙を縫うかのように日程を設定した衆議院選挙、参議院選挙に勝利し、先月は59%という高い水準にありました。

shima.png それが1か月で急落した背景には、コロナの感染拡大が第7波に突入し、全国で感染者数が20万人を超えて過去最多を記録するという状況が、まず前提にあるでしょう。

 ただ、それにとどまらず、安倍総理を銃撃して命を奪った山上徹也容疑者の供述をきっかけに、旧統一教会と政治家との関係が改めて問題視されるようになったことが大きいでしょう。

 1980年代頃から霊感商法と呼ばれた高額の壺などの物品販売、教会への多額の寄付の強要などが社会問題化しました。名称変更した「世界平和統一家庭連合」の現在の幹部は、「2009年以降はコンプライアンス重視に切り替えた」と強調しますが、被害者支援の弁護士グループは「今も被害は深刻だ」と反論します。

shimada2.jpg こうした中で、自民党、とりわけ安倍派の国会議員を中心に、選挙の際に応援してもらうために集会で挨拶するなどの関係を持った事例が次々に浮上してきました。関係団体の行事に祝電を送る、あるいは献金を受け取るといった接点を持つ与野党議員や自治体首長について連日の報道が続いています。

☆霊感商法による被害や、信者による巨額の寄付などが問題になってきた「世界平和統一家庭連合」旧統一教会と政治との関係について、政党や国会議員は十分に説明していると思いますか。それとも説明が足りないと思いますか。

 十分説明している4%<説明が足りない82%

結果は一目瞭然です。これを与党支持者、野党支持者、無党派の別に見ても、いずれでも8割から9割が「説明が足りない」と不信をあらわにしています。

 こうした逆風を受けて、岸田総理大臣は8月10日に自民党役員人事と内閣改造を行うことにしました。もともとは早くて8月下旬かと見られていましたが、旧統一教会との接点が現職閣僚についても指摘されるようになり、真夏の態勢立て直しに迫られた格好です。

 とはいうものの、どういう人事を行ったとしても今の厳しい状況から抜け出すのは容易ではないでしょう。岸田総理が自ら決断した安倍氏の国葬に対し、旧統一教会問題が影を落として国民の受け止めが変化しているからです。

shimada9.jpg☆政府は9月27日に安倍総理大臣の「国葬」を行うことを決定しました、あなたは、この決定を評価しますか。評価しませんか。

 評価する    36%
 評価しない   50%

国葬の閣議決定前だった7月の調査では
政府は安倍総理大臣の葬儀を、国の儀式の『国葬』として今年秋に行う方針です。あなたは、この方針を評価しますか。しませんか」という質問でした。

    評価する    49%
   評価しない   38%

質問文が異なるので調査分析上の単純比較はできません。しかし、国民の受け止め方が大きく変化していることは否定しようもありません。

 旧統一教会との持ちつ持たれつの関係が指摘されている議員が自民党安倍派に多いこと。選挙前に安倍会長に「世界平和統一家庭連合」関係者への支援要請について相談したという証言があったこと。今後も新たな事実が出てくる可能性があります。

 岸田総理にとっては誤算だったでしょう。安倍総理の突然の訃報に接した際に胸中に浮かんだのは、最大級の追悼の場を設けることによって安倍氏ゆかりの勢力との関係に節目を作りたい。徐々に岸田カラーを打ち出していくために国葬をマイルストーンにしたい。こんな思いだったのは想像に難くありません。

shimada0000.png 今回、岸田総理は早めの態勢立て直しで逆風を乗り切ろうと決断したわけで、人事の刷新にあたり「旧統一教会との関係を点検するように」と与党議員に指示しました。

 新閣僚や自民党の新役員は、記者会見で旧統一教会との関係について繰り返し質問を浴びるでしょう。質問された側は「関係はありません」と胸を張るのかもしれません。しかし、後になって「やはり関係がありました」と釈明するケースも無いとは言えません。

 かつて昭和の終わりに政財界への未公開株配りという利益供与で問題になった「リクルート事件」が竹下内閣を襲いました。この時、内閣改造直後の記者会見で胸を張った2人の閣僚が、リクルート側から献金を受けていたことが間もなく発覚して辞任しました。

 今回もこれまで表に出ていない便宜供与などが後になって出てくると、情況の悪化に拍車をかけることになります。

 長引くロシアのウクライナ侵攻、ペロシ米下院議長の台湾訪問に反発する中国側の過剰な行動がもたらした台湾海峡の緊張。不安定化する国際情勢の下で誤りのない対応をとるためにも、岸田総理の政権運営には細心
の注意が必要です。



調査あれこれ 2022年08月05日 (金)

#411 「沖縄局以外のNHK地域放送局が伝えた 沖縄本土復帰50年」

メディア研究部(番組研究)東山浩太

はじめに
 2022年5月15日、沖縄県が本土に復帰して半世紀を迎えた。NHK沖縄放送局ではドキュメンタリーや紀行、ドラマなどさまざまなジャンルの番組で、沖縄の歴史や文化、風土、抱える課題や未来像を描く発信を集中して行ってきた。東京からも精力的に本土復帰を伝えてきた。
 一方で本稿では、沖縄局と東京を除く日本各地のNHKの地域放送局が、沖縄の本土復帰を巡り伝えたことに注目する。わけても日本本土の沖縄に対する理解を、より促すと考えられるニュース報道について意義を考察する。

1. 基地問題を巡る沖縄と本土の意識の差
 沖縄の本土復帰に関しては、上で述べたようにさまざまな側面から語りうる。本稿は、戦後日本の重要な社会問題の一つとして位置づけられてきた基地問題と絡めて取り上げるものである。
 基地問題について、ごく簡潔に整理する。
 戦中、沖縄は地上戦(沖縄戦)を経てアメリカ軍に占領され、戦後、日本本土から分断された。東西冷戦の時代、アメリカの統治下で、住民の土地は強制的に接収され、広大なアメリカ軍基地が建設された。1972年に本土復帰を果たすが、基地は存続することになる。現在、基地は県の総面積の約8%を占める。
 こうした基地負担などを巡り、身近に基地がある沖縄の人たちと、本土の人たちとの間には、意識の差が生じている。これもまた日本の課題として認知されている。
 NHK放送文化研究所が2022年に実施した「復帰50年の沖縄に関する意識調査」によれば、沖縄が本土に復帰した日が5月15日であることを知っていたかを尋ねたところ、「知っていた」と答えた人は、沖縄では73%、全国では20%だった1)
 また、在日アメリカ軍の専用施設のうち、およそ70%が沖縄にあることについて、どう思うかを尋ねたところ2)、沖縄では、①「おかしいと思う」と②「どちらかといえば、おかしいと思う」と答えた人を合わせた『おかしいと思う』3)が85%だった。これに対して、全国では、①と②を合わせた『おかしいと思う』は79%だった。①と②を合わせた回答では、沖縄と全国の間で、あまり差はないように思えるが、内訳をみると、①の「おかしいと思う」が沖縄では56%、全国では24%と、沖縄の人たちのほうが全国の人たちより、「おかしさ」をはっきりと認識しているのである。
 日本社会は現状を放置してよいのか。これまで、本土と沖縄の意識の差を埋めることの必要性が、さまざまな立場から語られている。その場合、差を埋める、つまり本土が沖縄を他者とせず、“われわれ”として受容するための一つの社会的手段が、マスメディアのニュース報道である。ニュース報道は人々の物事の見方を反映し表象するが、多くの場合、多数派のそれを反映してしまいがちである。しかし、報道の送り手がそのことを自覚し、争点の設定など工夫すれば、少数派の意見(=沖縄を他者としない)が焦点化され、人々の物事の見方に影響を及ぼすことも不可能ではない。こうした、「沖縄理解」のために期待される報道の役割を確認したうえで、以下、NHKの地域放送局が伝えた報道の内容をみていく。

2. 地域で提起した「沖縄の痛み」
 本稿では、本土の沖縄理解を促すためには、沖縄、または東京からの報道は重要であるが、身近な放送局のアプローチも重要である、との立場をとる。報道の受け手に、沖縄の本土復帰を主体的に意識してもらう一つの方法は、自らが住む地域の中で、沖縄の話題を伝えることだと考えるからである。
 こうした立場から本土復帰を扱ったと考えられる報道はどのくらいあるのだろう。次の条件で探した。▼沖縄局と東京以外のNHKの地域放送局が制作し、自局のニュース番組内で放送した特集で4)、▼なんらかの形で本土復帰に関連させたもの、である。▼期間は2022年の1月1日から、「復帰の日」である5月15日に1週間の幅を持たせた、5月22日までとした。特集を条件としたのは、普段のニュース番組の中で、受け手にストレートニュースより深掘り感覚を覚えてもらえると考えたためである。
 筆者が、NHK各局のウェブサイトほか公開情報で確認したところ、対象期間内で条件に該当する特集は、少なくとも全国の13局で、合わせて21本あった。この本数に関して、過去の本土復帰30年や40年のときと比べての増減はわからない。
 13局は、鹿児島、宮崎、長崎、熊本、佐賀、福岡、松山、徳島、神戸、大阪、横浜、仙台、室蘭。それぞれ、放送やウェブ記事から内容を確認すると、▼沖縄の旧コザ市に、日本各地から若手起業家が集まる拠点が増えつつある近況を報告したり(福岡)、▼沖縄の学生たちを積極的に引き受け、学び育てる環境づくりに尽力する地元の大学を取材したり(徳島)と、さまざまな話題が扱われている。
 その中でも、本稿では冒頭で示したように、本土の沖縄への理解をより促すと考えられるものに注目し、紹介する。それらの特徴は、沖縄戦の記憶とそれに連なる基地問題を前面に押し出し、いわば沖縄の痛みを伝えることに力点を置いている、と規定した。沖縄の基底にある過去及び現在進行形の痛みを分かち合わずして、本土の沖縄理解は深まらないであろうと考えた。
 さらに、今回紹介する特集は、放送を踏まえたウェブ記事が公開され、閲覧できるものに限った(8月1日現在)。受け手の皆さんにも、ともに考えていただきたいからである。中から鹿児島局と室蘭局の特集の2つを選んだ。

2 –(1)近いのに語られぬ歴史:鹿児島局
 この特集は鹿児島県域で3月30日に放送され、現在はNHKのウェブサイトで「沖縄復帰50年 アメリカ軍基地と奄美出身者 語られぬ歴史」というタイトルのウェブ記事を読むことができる5) 。取材は、鹿児島局記者の庭本小季。沖縄の基地建設に鹿児島県奄美群島の出身者が関わっていたという、あまり語られない歴史を巡り、その歴史を知る78歳の男性の複雑な胸中を描いている。

sasikae3.png   奄美群島は与論島を含む8つの島で構成され、鹿児島市の南西、沖縄本島寄りに位置している。戦後、沖縄とともにアメリカ統治下にあった奄美は、1953年に日本に復帰した。男性は父親が与論島、母親が沖縄県の出身であり、いわば「2つのルーツ」を持つ。4歳のときに父の行方がわからなくなった男性は、戦後の混乱下、生活が困窮したため与論島から母と沖縄へ移住した。1950年代、アメリカ軍は住民の土地を強制的に接収して基地建設を進めており、住民は激しく抵抗していた。一方、軍は基地建設のための労働力を求めており、そこで困窮から出稼ぎに来た奄美の人たちが大勢働くことになった。その中には男性の親戚も多くいたという。
 この取材では、当時、建設作業にあたった1万2,000人余りの労働者のうち、4割にあたる約5,000人を奄美出身者が占めていた可能性があることがわかった、としている。琉球大学の研究所の研究者が、アメリカの行政機関の資料を調査して判明したもので、研究者は「想像以上に多い」と指摘する。先の男性は、生活のためとはいえ、基地建設に奄美出身者が携わっていたことなど、語ることが「タブーのような扱い」であるため、子孫に伝えていくのは難しいと語る。  
  本土復帰から50年経つが、その間、海兵隊の兵士らによる少女暴行事件(1995年)や、大学へのアメリカ軍ヘリコプター墜落事故(2004年)などがあり、現在も沖縄が重い基地負担を強いられている現実を前にして、男性は「基地があることで生活できたという自らの過去と、沖縄にこれ以上基地は必要ないという思いを重ね合わせながら」、今の沖縄を見つめているという。結びの言葉はこうだ。
 「辺野古で働いている人たちは悩みながらやっているのではないでしょうか。やりたくないけど、そうしないと飯は食えませんからね。基地のない沖縄、核も基地もない平和な沖縄というのを目指して沖縄県民が島ぐるみの戦いをやってきて、結局沖縄を置いたまま復帰したんですよね。この50年間はなんだったのかと思いますね」

  この特集のウェブ記事は、2,200字余り。かつて、沖縄と奄美は琉球王国として一つだった。そのはざまに立つ男性が、住民に多大な負担をかけ続ける基地の建設に、奄美の人々が携わったという過去を巡って、深く悩むさまを浮き彫りにしている。男性はやましさに近い感覚を覚え、悔やんでいるように見てとれる。基地建設に関わった奄美の人たちの具体的な数も示し、事の深刻さを強調している点が見逃せない。基地建設の陰には単純には割り切れない事情がある。沖縄戦に起因して分断された沖縄と、本土の奄美は、地理的に近いにもかかわらず、その事情について広く継承し理解を求めることの難しさを提起している。


2 –(2)変貌する与那国島:室蘭局
 この特集は北海道内で5月12日に放送され、現在はNHKのウェブサイトで「北海道から与那国島へ 『援農隊』で生まれた絆」というタイトルで、記事と映像ともに閲覧できる6)

 本土復帰後に始まった、若者が農作業を手助けする「援農隊」事業をきっかけに、北海道と沖縄・与那国島の住民は40年以上交流を続けてきた。ところが現在の島は昔と違い、中国を念頭に自衛隊が駐屯するなど、安全保障の最前線として変貌を遂げていた――といった内容で、室蘭局記者・篁慶一が取材した。
 日本最西端の与那国島は、北海道から2,400キロ以上離れている。沖縄の本土復帰以前、島では、サトウキビの収穫や製糖作業を手伝ってもらうため、台湾から季節労働者を受け入れていた。
 しかし、1972年、本土復帰に伴い、島の施政権が日本に戻ったあとは、日本と中国が国交を正常化させた影響で、外交関係が途絶した台湾から労働者が来ることができなくなった。そこで島は、人手不足を解消しようと1976年から全国に「援農隊」を呼びかけたが、しばらくすると募集の重点は北海道に置かれるようになった。道民のまじめで熱心な働きぶりが評価されたという。当時、北海道から与那国島へ赴いた人たちは歓待された。現在、北海道赤井川村で農業を営む75歳の男性も、1980年に援農隊に参加して以来、その温かさが忘れられず、何回も参加して島の人たちと家族のような関係を築いていった。新型コロナウイルスの感染が拡大する前までは数年に一度は島を訪れ、旧交を温めてきた。このほか、援農隊の参加者がそのまま与那国島に移住したケースもある。
 援農隊の集団募集は2015年に終了したが、特集では、農作業の支援に端を発した北海道と与那国島の交流について双方の人たちの声を伝えており、距離も生活文化の違いも越え、親愛の情が生まれたことが理解できる。
 ここで、島に駐屯する陸上自衛隊とその関連施設の存在に関するエピソードが挿入される。与那国島を含む南西諸島では近年、海洋進出などの活動を強める中国を念頭に、防衛体制の強化が進んでいる。配備計画を巡っては、島は二分され、是非を問う住民投票で、配備に賛成する票が反対票を上回った経緯があった。
 かつて援農隊を受け入れた島のサトウキビ農家の男性は、「ロシアはウクライナの軍事施設を攻撃している。もし中国と有事が起きた時には、真っ先にこの島が狙われるのではないか」と語る。また、先述の、かつて援農隊に参加していた北海道の農家の男性は、急速に変化する与那国島の姿に複雑な思いを抱えているという。こう結ばれる。
 「私が生まれたのは北海道ですが、交流を長年続けてきた与那国島はふるさとのように感じています。自衛隊の駐屯地やレーダー施設ができたことは、国際的な流れから見れば仕方ないのかもしれません。この基地を活用せずに済み、みんなが平和に暮らせる日がこれからも続いてほしい」

 国際情勢が緊迫する中、与那国島への防衛体制の強化という新たな不安について提起している。その不安を島の人のみならず、沖縄に心を寄せる北海道の人が口にしている点が肝である。
 先の「復帰50年の沖縄に関する意識調査」では、政府が中国の海洋進出に備えて、新たに宮古島や石垣島などの南西諸島に、自衛隊の配備を進めていることについてどう思うか、尋ねている。その結果、沖縄では、「日本の安全にとって、必要だ」「日本の安全にとって、やむを得ない」と答えた人が合わせて75%、全国では90%だった7)。ここでも沖縄と全国の間で、意識に差が見られる。
 そもそも、沖縄では自衛隊に対して、独特のまなざしで見る人もいる。沖縄タイムスの与那嶺一枝は、復帰前後、県民の間では自衛隊に対して、旧日本軍を想起させることから忌避感が少なくなかったという。現在、自衛隊は住民にかなり浸透してきているが、「一方で、住民を巻き込んだ唯一の地上戦があった沖縄戦の経験者が今も『軍隊は住民を守らない』という教訓を語り続けている」と指摘している8)。沖縄戦の記憶が拭い去れないのである。

 この特集は北海道と与那国島でロケ取材が行われ、ウェブ記事は4,000字余り。執筆した記者の篁慶一は2013年から2017年まで沖縄局に勤務していた。なぜ室蘭から沖縄の本土復帰を取り上げたのか、筆者が篁に聞き取りをしたところ、彼は、あくまで個人の思いだと強調したうえで次のように述べた。

higashiyama5.jpg

 そもそも国土面積の0.6%しかない沖縄に全国のアメリカ軍専用施設の約7割が存在していますし、離島への自衛隊の配備も進んでいます。ということは、日本の安全保障に伴う負担が一地域に集中しているという見方ができます。本土側がその不均衡に関心を寄せなければ、沖縄への過度な負担は今後も続いていきます。基地問題は沖縄だけではなく、全国で考えるべき問題のはずなのに、そうなっていない現状に違和感を覚えます。
   今の私ができることは、沖縄とは関係が薄いと思われがちな地域で、その地域との具体的な関わりの中で、沖縄の置かれた状況を伝えることだと思いました。沖縄や東京発の報道に加え、各地域からも発信することで、わずかかもしれませんが、本土全体として沖縄への関心を持続させることに役立ちたいです。

3. “私たちの地域の沖縄”を伝えていく
 2つの放送局でウェブ記事化された特集をみてきた。ちなみに、同様に沖縄の痛みを地域で掘り起こし、本土理解へつなげようとした特集は神戸局や仙台局などでもみられた。

 本稿冒頭でも言及したが、本土から見た沖縄を他者とせず、“われわれ”の一員だと意識することが、相互理解のための鍵となる。そして“われわれ”意識を育むためにはいわゆる「集合的記憶」が形成されることが重要となる。集合的記憶という概念は「複数の個人に集合的に持たれている記憶」と定義される9)。ある事柄に関する記憶や思い返しといった現象が個人のみにとどまらず、集団の内部で生じるものとなる現象で、すなわち、沖縄社会の個人の記憶や思い返しが、同様に自然に本土社会の個人にも記憶され、思い返されるということである。
 この集合的記憶を形成するうえで、大きく作用するのもまたマスメディアのニュース報道である。マスメディアが発展・普及した社会で、ニュース報道で伝えられ、記録された出来事は、社会の構成員どうし、イメージとして共有される可能性が大いにある。集合的記憶を共有し、沖縄の痛みを自らの記憶として思い返すような状況となってこそ、本土の沖縄理解は進んだと言えるだろう。
 今回、紹介したNHKの地域放送局の特集は、沖縄の痛みを巡る個人の記憶を、沖縄ではない場所で、集合的記憶として再生産させることに挑んでいると言える。沖縄発、または東京発の報道だけに頼らず、“私たちの地域の沖縄”を伝え続けることが、沖縄の過去から続く課題への理解を確かなものとするためにマスメディアに求められるのである。

 結びに。地域の放送局の沖縄本土復帰50年に関する報道の全体像をつかむには、当然ながら、調査の対象に民放も含めることが欠かせない。本稿はNHKしか取り扱っておらず、あくまで一側面の素描として執筆した次第である。

〈注・引用〉

1)「復帰50年の沖縄に関する意識調査(沖縄・全国調査)単純集計結果」 
       https://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/pdf/20220516_1.pdf 第2問より
2)同上 第19問より
3)選択肢を囲む『 』は複数の選択肢を合算している場合、「 」は単独の場合を示している。なお、『 』の%は単独の選択肢の%を単純に足し合わせたものではなく、各選択肢の実数を足し合わせて再計算したものである。
4)北海道各局であれば、自局の放送枠が短い局もあるため、札幌局が道内向けに送出しているニュース番組内で放送されたものもある。また、九州・沖縄各局であれば、金曜日夜の九州・沖縄地方向けのドキュメンタリー番組の中から、ある部分を取り上げて自局のニュース番組で特集として放送されたものなども含まれる。
5) https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220412/k10013577611000.html
6) https://www3.nhk.or.jp/sapporo-news/20220512/7000046409.html
7)前掲 注1)第12問より
8)与那嶺一枝(2022)「地元紙に映る在京メディアの風景 互いに補完し合う関係を望む」『Journalism』2022年5月号(朝日新聞出版)

9)石田雄(2000)『記憶と忘却の政治学』(明石書店)p200

〈参考〉
山腰修三(2012)「沖縄の『苦難の歴史』をめぐるテレビニュースの言説分析」『メディア・コミュニケーション№62』
山腰修三編著(2017)「沖縄問題とジャーナリズム」『入門メディア・コミュニケーション』(慶應義塾大学出版会)

 



調査あれこれ 2022年08月04日 (木)

#410 放送アーカイブをもっと授業で見てほしい!

メディア研究部  (メディア動向)  大髙

  高校時代、美術の授業で絵を描いたりした記憶はほとんどありません。
無精ひげがトレードマークの美術教師は、絵筆を持たせる代わりに、お気に入りのテレビ番組の鑑賞会をよく開催していました。怠け者だったかもしれませんが(笑)
しかし、私たち生徒には刺激的な時間で、好評でした。

 そこで、私はおそらく人生で初めて、NHKのドキュメンタリー番組を真剣に視聴しました。
忘れ難いのは、1987年放送のNHK特集 「命もえつきる時~作家 檀一雄の最期~」 です。
末期がんで病床に伏す作家・檀一雄(1912~1976)は、遺作にして自伝的な色合いも強い小説「火宅の人」を完成させるため、口述筆記を行いました。番組は、その録音テープと、彼が亡くなった病室などの映像で構成されています。

ootaka2.jpg 小説の最終章。壮絶な不倫の末に、孤独となった主人公。檀一雄が、がんの痛みに耐えながら言葉を絞り出す肉声は、いまも耳に残っています。

「ざまを見ろ。これからが私の人生だ。」

 それから約半年後、檀は、63年の生涯を閉じました。視聴後、私はしばらく震えていたと思います。そして、人生と孤独、死について、初めて真面目に考え込みました。
この体験は、私の中に「テレビ・ドキュメンタリーは面白い」という感情を芽生えさせたのです。NHKに就職したのも、あの美術教師のおかげかもしれません。

 個人的な思い出話が長くなり、失礼しました。何が言いたいかと申しますと・・・
「若者のテレビ離れ」が進む昨今ですが、学校の授業で良質な放送番組の視聴がもたらす教育的効果はきっと少なくないはずだと、私は経験上、感じているというわけです。
教科書に沿った学校教育番組に限らず、「大人向け」のドキュメンタリーなどは、10代の若い感性に様々な刺激を与え得る、その時は「よくわからない」と感じたとしても、その後の人生の糧になる可能性に期待しているのです。

 教育のICT活用が進み、Z世代は映像によって知識を得る傾向が強まる中、授業での放送番組利用のニーズも増えていくと予想されています。
NHKや民放などでも授業向けに放送アーカイブを提供するサービスを行ってはいますが、提供する番組数はまだまだ少ない、というのが現状です。その大きな理由として、著作権処理が困難であることが挙げられます。

 せめて教育利用だけでも、できるだけ多くの放送アーカイブを権利処理の心配なく提供する仕組みができないか、とあれこれ考え、著作権法改正の私案を述べた論文を、「放送研究と調査」6月号に掲載しました。

 現状のままでは、過去に放送された番組の大半は、いつまでも保存されているだけの、「死蔵」とやゆされても仕方ありません。
死蔵状態の放送アーカイブが再び視聴され、未来を担う世代の学びのために役立つ機会が増えることを、放送開始から100年の節目が刻々と近づく今、改めて強く願っています。

調査あれこれ 2022年08月02日 (火)

#409 GIGAスクール構想の進展による学校と家庭の学習におけるメディア利用の変化

メディア研究部(番組研究)宇治橋祐之

 「今年の夏休み、小学生や中学生の子どもがいる家庭では、子どもたちが学校からパソコンやタブレット端末を持ち帰ってきているかもしれません。」
 昨年8月に担当した文研ブログ 1)は、こんな書き出しで、子どもたちのメディア利用についてお伝えしました。1年が経った今年はどうでしょうか。

 2021年度に「校内通信ネットワークの整備」と「児童生徒1人1台端末の整備」を柱とするGIGAスクール構想が実施されて1年経ちました。小学生が家庭に1人1台のパソコンやタブレット端末を持ち帰る機会も増えているでしょう。夏休みについては、文部科学省からも全国の教育委員会に向けて、「保護者の理解も得つつ、夏季休業期間中に1人1台端末等を活用して、基礎的・基本的な内容の定着を図るための学習を効果的・効率的に実施したり、より創造的な課題に取り組ませたりすること」などが求められており 2)、家で端末を使って自由研究をしたり、オンライン学習をしたりしている子どもたちの姿をみることがあるかもしれません。


 文研では2013年度から、各クラス(教師)単位でのメディア環境や利用の実態、そして教師のメディア観や教育観を調べるために「教師のメディア利用と意識に関する調査」を継続して行っています。小学校、中学校、高等学校、特別支援学校それぞれの調査結果は、文研のウェブサイトに公開しています。

 2021年度は、小学校の教師個人を対象としました。GIGAスクール構想前の2018年度の結果と比べると、タブレット端末を利用できる環境にある教師が大幅に増加し(63%→96%)、インターネットを利用できる環境にある教師も増えていました(87%→98%)。

 また、1人1台ずつ児童に配付されたパソコンやタブレット端末(GIGAスクール端末)を授業で児童に利用させている教師は、全体で9割を超えました。さらにGIGAスクール端末を児童に利用させている教師でみると、7割以上が週3~4回以上の高い頻度で利用させているとともに、ほぼ半数が家庭に持ち帰らせて学習利用をさせていました。
 そして、NHKの学校放送番組あるいはNHKデジタル教材のいずれかを利用していた「NHK for School教師利用率」が2018年度の67%から88%に大きく増加しました。これまでも利用の多かった理科や社会の番組だけでなく、体育や生活科の番組の利用が増えていました。
 ujihashi3.jpg  このイラストは『放送研究と調査』2014年6月号  3)に掲載したものです。「1人1台の端末で学ぶ」時代になると、教師が映像を利用するだけでなく個人での利用、家庭での利用が増えると考えました。このイラストのようなメディア環境が実現してきたといえます。

 GIGAスクール構想の実現で、教室のメディア環境は大きく変わりました。今後、家庭のメディア環境の差などの課題が解決されると「オンライン学習」も進み、家庭学習も変化していくと考えられます。「学習者用のデジタル教科書」や「学習支援ツール」など新しいメディアの利用も広がっています。学校と家庭の両方を見渡した学習支援のトータルデザインを考える必要がある時代になったと言えます。

 「放送研究と調査」2022年6月号 「GIGAスクール構想の進展による学校と家庭の学習におけるメディア利用の変化~ 2021年度「NHK 小学校教師のメディア利用と意識に関する調査」から~」では、小学校のメディア利用の状況や、オンライン学習の実施状況やその課題についてまとめています。学校でのメディアを利用した学習だけでなく、家庭でのメディアを利用した学習にこれから何が必要なのでしょうか。夏休みを過ごす子どもたちの様子を見ながら読んでいただけるとありがたいです。

1) 文研ブログ#336 (2021.8.4)
  「GIGAスクール構想と「オンライン学習」に向けたメディア利用」
    https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/500/452771.html

2)「GIGAスクール構想の下で整備された1人1台端末の積極的な利活用に向けた夏季休業期間中の取組について」(文部科学省)
   https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_01932.html
   
3) 「メディア変革期にみる教師のメディア利用
    ~2013年度「NHK小学校教師のメディア利用に関する調査」から~」   
    https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/research/bangumi/080.html

調査あれこれ 2022年08月01日 (月)

#408 女性20代・30代は東京五輪・パラをどう楽しんだのか?③ ~「東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査」~

世論調査部 (視聴者調査) 斉藤孝信

 前回に続いて、文研が2016年から実施した「東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査」の結果をもとに、女性の20代と30代が東京オリンピック・パラリンピック(以下、五輪・パラ)をどのように楽しんだのかご紹介します。

 <前回ブログまでのポイント>
 ①女性20代・30代は、ふだんスポーツを視聴する人は4割ほどしかいないのに、五輪・パラを楽しめた人は7割もいる。ふだんスポーツを視聴しない女性20代・30代でも、6割以上が五輪・パラは楽しめた。
 ②女性20代・30代では「家族や友人などと話題にすること」で五輪を楽しんだ人が36%で、全体(29%)よりも高く、“大会をきっかけにした周囲とのコミュニケーション”も楽しんだ人が多かった。

 今回のブログでは、そもそも五輪のどんな点に関心を持っていたのかという点でも、女性20・30代ならではの特徴が浮かび上がってくるというお話をします。
 まずは改めて、東京五輪に『関心があった』という人の割合を、全体と女性の20代・30代で比べてみます。
 2-6-1a.png 全体では『関心があった(大変+まあ)』という人が64%でしたが、女性20・30代ではそれよりも少ない56%でした。
 この質問で『関心があった』と答えた人に、大会のどんな点に関心を持っていたのかを尋ねた結果がこちらです。
 2-6-2.png 全体よりも女性20・30代で割合が高かったのは、「周囲の人が話題にしていたから」(全体5%<女性20代・30代11%)と、「自分の生活に影響が出そうだったから」(全体3%<女性20代・30代6%)です。「周囲の人が話題にしていたから」というのは、前回のブログで、女性20代・30代の楽しみ方の特徴として挙げた“大会をきっかけにした周囲とのコミュニケーション”と通底するものがあるように思いませんか?

 東京五輪・パラが開催されてからまもなく1年。『放送研究と調査』6月号では、“人々にとって、東京五輪・パラとは何だったのか”と題して、人々はコロナ禍での開催をどのように感じていたのか。そうした状況で大会をどのように楽しんだのか。今大会は人々にとってどのような意義を持ち、日本にどんなレガシーを遺したのかなど、さまざまな視点で考察しています。特に、コロナ禍での開催に対する意識などの分析では、ご紹介した20代や30代の女性の回答が大きな鍵を握っています。たいへん興味深い結果が出ていますので、どうぞご一読ください!