文研ブログ

文研フォーラム 2020年02月06日 (木)

#233 地方局が集めた4,900枚の「戦争体験画」

メディア研究部(放送用語・表現)井上裕之

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この絵は、沖縄戦の体験を描いた「戦争体験画」の1枚です。砲弾を浴びて倒れた一家の姿が描かれています。
絵を描いた豊永スミ子さんは当時6歳。家族で砲火をくぐり抜けて避難していましたが、1発の砲弾が近くでさく裂。父親と幼い弟を失いました。絵の右側には、弟を抱き上げて泣きながら取り乱す母親。絵の左側には、砲弾を腹に受けて苦しむ父親と、父親にしがみつく豊永さん自身が描かれています。描いているうちに、豊永さんは、着の身着のままで亡くなった家族の姿をきれいに彩ってあげたいと思い、クレヨンで色を塗ることにしました。

沖縄戦の、住民側から見た視覚的な記録を――
そんなねらいで、沖縄放送局でニュースデスクをしていた2005年、局を挙げて「戦争体験画」を集めました。ローカル放送で戦争体験者に呼びかけたところ、500枚以上の絵が寄せられました。沖縄戦は、米軍側が撮影した映像の記録が残っている戦闘です。しかし、寄せられた絵には、そこに記録されなかった、住民側から見た多様で凄惨な地上戦の姿がありました。豊永さんの絵もその1枚です。沖縄のローカル放送で1年以上にわたり、毎日ニュースで紹介し続けました。

それから時を経た2018年、こんどは札幌放送局が、北の地上戦の絵を集めました。樺太(今のサハリン)や千島列島での戦争体験の絵を描いてほしいと呼びかけたところ、短期間ですが、100枚以上の絵が集まりました。札幌局で中心となったのは、十数年前に沖縄戦の絵をいっしょに集めた同僚でした。一見、場所も離れ、別々に行われたように見えるプロジェクトですが、つなげてみると、息の長いプロジェクトのようにも見えます。

NHKで最初に「戦争体験画」の募集を呼びかけたプロジェクトは、1974年にさかのぼります。原爆のショックで記憶を失った戦災孤児の少女を描いた朝ドラ『鳩子の海』をテレビで見た、という男性が、自分で描いた1枚の絵を当時の広島放送局に持ち込みました。その絵を放送で紹介したところ、たいへんな反響があり、こうした絵を集めることになったと言います。その影響を受けた長崎放送局でも絵の募集を実施。全国放送の番組でも紹介されました。

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   1974年に広島放送局に届けられた絵。小林岩吉さんが原爆投下直後に見た光景を描いた。
   けがややけどをして水を求める大勢の人や,舟から肉親をさがす人などが描かれている。

それから、NHKが行ってきた「戦争体験画」募集のプロジェクトは合計6回。実施したのは、いずれも地方局です。集まった絵は、合わせて4,900枚余りに上りました。こうした絵は、カメラが普及していない時代のできごとを伝える貴重な記録です。そこには、描いた人の気持ちも込められています。それは、プロの画家が描いた戦争画などとも異なります。戦争体験画とはいったい何なのか?私たち自身も、それを知りたいと思っています。

終戦からことしで75年。これまでの戦争体験画のプロジェクトを整理し、戦争体験画の意味と可能性をさぐるワークショップを、文研フォーラム2020で開くことになりました。専門家をパネリストにお招きし、歴史、文化、美術などの視点で議論します。また、これまでの戦争体験画のプロジェクトの担当者たちも集まります。みなさんもぜひご参加ください。

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文研フォーラム 2020年02月04日 (火)

#232 放送アーカイブが生み出す新たな価値を求めて

メディア研究部(メディア動向)大髙 崇

イギリス人アーティストのイアン・ベリー(Ian Berry)の作品をご存知でしょうか?
地下鉄、バーなどの都会的な情景画や、アイルトン・セナの肖像画。ブルーの世界に彩られた油絵のような質感ですが、近づいてよーく見ると・・・
実はデニム(ジーンズ)の生地を貼り合わせた「切り絵」なのです。デニムの様々な青・黒・白の濃淡だけでリアリティたっぷりに表現されている傑作ぞろい。

イアンは、自分がもう履かなくなったたくさんのデニムを見て「捨ててしまうのはもったいない」と思ったのが、創作を始めたきっかけだと語ったそうです。
衣服としての役割を終えたデニムがアーティストの感性を刺激して、絵画の素材という意外な形で新たな光があたったわけです。

お見事!!
こんな風にNHKアーカイブスが保存する100万本の過去番組にも新たな光をバンバンあてたい!
その思いで文研フォーラム2020に臨みます!(^O^)♪
3月5日午前10時からのプログラムC 「NHKアーカイブスに公共メディアの価値を探る」では、過去番組をNHK以外の専門家や研究者の視点から活用する事例を紹介します。

●大学などの研究者の方々にアーカイブスの番組を視聴して論文を書いていただく「学術利用トライアル」での研究成果を発表。「ドキュメント72時間」やNスぺ「人体」シリーズ、「歌舞伎の舞台映像」の昔と今を分析した結果、意外な発見が続々と…!

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●認知症ケアの専門家の方々との連携で生まれた「回想法ライブラリー」を徹底解剖。
むかしの思い出を語り合うことで脳が活性化する効果が期待される認知症の心理療法に、NHKアーカイブスが一役買っています。古い映像のリノベーション成功事例です!

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過去の番組は、たくさんの人の感性を刺激することでしょう。
そして、放送とは違った、意外な形で新たな光があたることでしょう。

 「デニムを絵画に活用しよう」のような発想には、たくさんの方々とのコラボが必要です。みなさん、ぜひ語り合いましょう!

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文研フォーラム 2020年02月04日 (火)

#231 デジタル・ディスラプション?デジタル・トランスフォーメーション?

メディア研究部(メディア動向)村上圭子

あまり聞きなれない2つのキーワードをタイトルにしました。この2つ、皆さんはご存じですか?ディスラプションとは「破壊」、トランスフォーメーションとは「変化・変質」という意味です。

 イギリスの通信社ロイターの研究所とオックスフォード大学が毎年出しているリポートJournalism, Media, and Technology Trends and Predictions 2020」が今年も1月に発表されたのですが、その冒頭のサマリーには、「この10年でモバイルとSNSによって既存メディア産業が大きく“破壊”された」と書かれています(図1)。モバイルとSNS、まさにデジタルによるディスラプションですね。

    (図1)
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      出典:「Journalism, Media, and Technology Trends and Predictions 2020」

  では、こうしたデジタル・ディスラプションは日本でも起きているのでしょうか。
図2は民放連研究所が行なった「媒体別広告費の中期予測」です。2025年に向けて、テレビ(地上波)はインターネットに大きく水を開けられると予測しています。昨年11月末に民放連研究所が主催した「ローカルテレビ経営研究会」でも、所長の木村幹夫氏は「ネットがテレビに代わるリーチメディアになるディスラプションは当分起こりそうにないが、そのことへの備えは今から必要だ」と指摘しました。

  (図2)
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           出典:民放連研究所 (民放経営四季報2019夏)

 一方、広告収入ではなく受信料収入で成り立つ公共放送はどうでしょうか。ここ数年、欧州では公共放送のあり方や受信料制度を巡って様々な議論や、実際に制度改革が行われています。欧州も日本と同様、テレビ端末を持つ世帯が受信料を支払い、公共放送を支えるという制度を運用する国が多数です(2013年にテレビ端末の有無に関わらず個人が負担する制度に変えたドイツを除く)。しかしスウェーデンでは2019年に受信料制度が廃止されてドイツと同じ制度に、デンマークは同じく2019年から段階的に公共放送の予算が受信料から政府交付金へと移行することになり、それに伴ってチャンネル数の大幅削減も行なわれました。去年末にはイギリスでも、受信料未払いに対する刑事罰の廃止が検討されていると報じられています。OTTによる多様な動画配信サービスの充実によって、公共放送のサービスや価格、制度が相対化され、これまでのようなあり方でいいのかという問いが投げかけられているのだと思います。
 日本でも、総務省「放送を巡る諸課題に関する検討会」では、NHKに対して、業務・受信料・ガバナンスの三位一体改革の必要性が繰り返されています。また、「NHKから国民を守る党」が活動を続けるなど、NHKには国民からの厳しい目も注がれています。ただ、公共放送を取り巻く変革のうねりは、日本固有の問題ではなく世界的な潮流といえるでしょう。

  こうした状況にどのように対応していくか。それが、冒頭にもう1つあげたキーワード、デジタル・トランスフォーメーションです。放送波だけでなくネットでも、テレビ端末だけでなくモバイルにも、番組や情報をどう提供していくか、そのためのビジネスモデルの変革や法制度の改革をどのように進めていくのか…等々。他の事業と異なり、地上放送業界は、テレビ端末の上に限られた局だけがチャンネルを持つことを許されてきた、いわば“一艘の船”。NHKと民放の二元体制、在京キー局とローカル局のネットワークモデル、広告代理店主導の強固なビジネスモデル等、この船を支えるこれらの“骨組み”はあまりに複雑に絡み合い、また多様な立場の多数の“乗組員”がいて、羅針盤を描ける人がいない状態が続いています。図3には、現在、私が取材を通じて感じている変革に向けた課題の主なものを挙げてみました。もちろんこれ以外にも挙げればきりがないですが…。

 (図3)
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  しっかりした取材基盤を持ち、確かな情報を伝え、社会でいま何を考え、解決していくべきか、絶えず問題提起し続けるメディアの機能は、フェイクニュースが氾濫しフィルターバブルの問題が指摘されるインターネットが中心となる言論社会にとって、また、人口減少や少子高齢化で課題が増大する地域社会にとって、これまで以上に重要になってくると思います。その機能の重要な担い手として、これまで一世紀近く続いてきた地上放送は、時代の変化に応じた変革を行うことが果たして可能なのでしょうか。

 こうしたことを考えるために、3月6日、「NHK文研フォーラム2020」では「これからの“放送”はどこに向かうのか? 本質的な論点に向き合うために」と題したシンポジウムを行います。アカデミックな視点から、今後の放送やメディアを考えるための糸口をさぐれればと思っています。

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文研フォーラム 2020年01月31日 (金)

#230 誤情報・虚偽情報との闘い・真価を問われるメディア報道

メディア研究部(メディア動向)福長秀彦

3月の「文研フォーラム2020」では「SNS時代の誤情報・虚偽情報とメディア~“フェイク”にどう向き合うのか~」というシンポジウムを行います。誤情報・虚偽情報の拡散について研究している私もパネリストの一人として参加することになりました。

うわさや流言、デマ、都市伝説。世の中に事実の裏づけがない情報が溢れているのは、今も昔も変わりません。私はNHK報道のOBで1975~91年にかけて記者をしていましたが、当時も取材で聞き込んだ情報には、怪しげな“ガセネタ”の類がかなり交じっていました。その中から事実の裏づけがとれたものだけを拾い出しては記事を書いていました。“ガセネタ”の類はゴミ情報として捨てていました。巷でうわさになっている誤情報や虚偽情報を打ち消す記事を書いた記憶はありません。

でも、今やそんなことで済むような時代ではなくなったようです。インターネットやSNSの普及によって、誤情報・虚偽情報はかってないほど広範囲に、そして瞬く間に伝播するようになりました。私の現役時代は、誤情報・虚偽情報がどれほど世の中に広まり、社会にどんな影響を及ぼしているのか、簡単にうかがい知ることはできませんでした。しかし、今ではTwitterのリツイートなどによって、それらが社会に拡散し、人びとが反応する様子がリアルタイムで可視化されます。

 誤情報・虚偽情報に注意を呼びかけるテレビニュース
                (大阪府北部の地震)
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(注)2018年6月18日NHK総合テレビの放送画面

誤情報・虚偽情報の中には、社会に悪影響を及ぼすおそれがあるものが多くあります。ジャーナリズム=報道機関には一定の取材力、速報力、情報伝達力がありますから、有害な誤情報・虚偽情報を迅速に、リアルタイムで打ち消して、それらに惑わされないよう伝える役割があると考えます。メディア報道の真価が問われるところだと思います。

もちろん、誤情報・虚偽情報との闘いは容易ではないでしょう。客観的な事実よりも信じたい情報を信じる「ポスト・トゥル―ス」の風潮、“マスゴミ”の言葉に象徴されるメディア不信、AIによってますます巧妙化するおそれがある偽動画…。メディアはこれらとどう向き合い、どうしたら一人でも多くの人びとに正確な事実を伝えることができるのか、内外のジャーナリストやメディア研究者の皆さんとシンポジウムで掘り下げます。


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文研フォーラム 2020年01月28日 (火)

#229 「NHK文研フォーラム2020」申し込み受け付けは2月3日(月)からです!

計画管理部(計画)吉田  準

NHK放送文化研究所(文研)が年に一度、総力を結集してお届けする「NHK文研フォーラム2020」を、3月4日(水)・5日(木)・6日(金)の3日間、東京・紀尾井町の千代田放送会館にて開催します。今年は、シンポジウムやワークショップ、研究発表など7プログラムを集中して行います。

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今回のテーマは「メディアの真価とは?」。世界的にメディアへの信頼が揺らいでいる中、一人ひとりの心に届き、心を動かす情報をどのように届ければいいのか。求められるメディアの真価について、国内や海外から各界の専門家を招き、文研の研究員とともに考えます。具体的なプログラムはこちら

激変するメディア界の動向に関心のある方には、欧米のメディア関係者が参加する「SNS時代の誤情報・虚偽情報とメディア」、「情報が氾濫する中での『信頼とつながり』」や、ここ数年の放送政策がテーマの「これからの“放送”はどこに向かうのか?」がおすすめ。世論調査による最新データで日本人の姿に迫るのは「何見てる?令和の子どもたち」「仕事も家庭も楽しめない日本人!?」。このほかワークショップ「NHKアーカイブスに公共メディアの価値を探る」、「市民が描く『戦争体験画』の多様性と可能性」など、盛りだくさんなプログラムでみなさまのご来場をお待ちしています。

参加申し込みの受付は、2月3日(月)正午から文研ホームページで開始します。
お申し込みは先着順で、定員に達したプログラムから受付を終了しますので、ぜひ早めにお申し込みください!
NHK放送文化研究所の研究員一同、みなさまのお越しをお待ちしております。

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会場案内:千代田放送会館(東京都千代田区紀尾井町1-1)

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地下鉄赤坂見附駅(銀座線・丸ノ内線)D出口から徒歩約10分
地下鉄永田町駅(半蔵門線・有楽町線・南北線)各出口から徒歩2~8分
地下鉄麹町駅(有楽町線)1番出口から徒歩6分
来場者向けの駐車場はございません

 

 

メディアの動き 2020年01月21日 (火)

#228 放送+通信の"多チャンネル化" 「見たいもの」をどう選ぶ?

メディア研究部(メディア動向)越智慎司

最近、テレビのリモコンに注目するようになりました。放送と通信の融合が進む中で、今のテレビにはNetflixやYouTube、AbemaTVといった動画配信サービスも視聴できるものがあります。そのリモコンには動画配信への専用ボタンがついて、一発で切り替えができます。一方で放送は、従来の数字のチャンネルを選ぶやり方です。専用ボタンは見た目にも訴求力があり、放送はいつまでもチャンネルのままでいいのだろうか、などと考えます。

ケーブルテレビ大手のJ :COMが2019年12月、「J :COM LINK」という新しいSTB(セットトップボックス)の提供を始めました。この機器は、地上波・BS・CSの100チャンネル超の放送に加え、動画配信も楽しむことができます。動画配信アプリは、あらかじめインストールされたもののほか、ダウンロードしてカスタマイズもできます。ケーブルテレビは多チャンネルが特徴の1つですが、さらに“多チャンネル化”することに、どのように対応したのか気になりました。J :COMに取材したところ、視聴履歴などをもとにした「おすすめ」機能を充実したほか、リモコンに音声で伝えて検索する機能では、放送と動画配信の横断検索ができるようにしたということです。

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                             検索結果のイメージ画面(J :COM提供)

この画面では、大まかなカテゴリーに分かれているものの、おすすめや検索結果が一覧として表示されています。ユーザーにとっては、放送の番組か動画配信のコンテンツかを、あまり意識せず選べる形になっています。「J :COM LINK」のシステムは、Googleのテレビプラットフォーム「Android TV」と、J :COMが独自に開発した横断検索や一覧表示のシステムを組み合わせているそうです。

こうした機器が普及していくと、番組やコンテンツ選びに「チャンネル」という概念がなくなっていく可能性も考えられます。J :COMの担当者にこの点について尋ねたところ、担当者は「J :COMの利用者は年配の方が多いですが、その人たちは今まで通りチャンネルの切り替えで選ぶかもしれません。一方、若い人たちは検索に慣れています。どちらにも快適に使えるプラットフォームを提供したいと思っています」と話しました。STBの機能は、今後も幅広い年代から意見をもらい、アップデートしたいということです。
放送と通信の融合がさらに進んでいく過程が、機器に具体的にどのような形で反映され、ユーザーは「見たいもの」をどのようにして選ぶのか。それも、今後のメディアの動向で注目する重要な点だと思います。
国内のメディアの動きは、こちらから

調査あれこれ 2020年01月14日 (火)

#227 保育園児と幼稚園児で異なる、幼児のリアルタイム視聴

世論調査部(視聴者調査)山本佳則

朝7時を過ぎると「早くご飯食べないと間に合わないよー」と妻の声が。
我が家の保育園児は、眠い目をこすりながら、パンを口に頬張り、保育園に出かける支度に追われ、妻と私も出勤の準備で家族全員がバタバタ。

厚生労働省が公表している「保育所等関連状況取りまとめ」によると、保育所等を利用する児童の数、いわゆる保育園児は261万人(平成30年)で、5年前(222万人)と比べておよそ40万人も増加しました。(一方で、文部科学省が公表した「文部科学統計要覧」によると、幼稚園児は121万人(平成30年)で5年前(156万人)と比べておよそ35万人減少しています。)

増え続ける保育園児・・かく言う我が家でも、朝ゆっくり子どもがテレビを見る時間もないなぁと思ったことから「うちの子どもだけなのだろうか、ほかのお子さんはどうなんだろう?」という問題意識が芽生えました。
昨年6月に行った「幼児視聴率調査」によると、保育園児が平日、家を出る時間のピークは午前7時ごろ~8時ごろ、幼稚園児は8時半ごろ~9時半ごろでした。また、帰宅時間は幼稚園児のおよそ8割が午後3時台に帰宅しているのに対し、保育園児は午後5時ごろから7時半ごろまで段階的に帰宅していることがわかりました。つまり、保育園児は幼稚園児に比べて外出時間が早く、帰宅時間が遅いのです。
次にリアルタイムのテレビ視聴について、保育園児と幼稚園児の視聴傾向を、平日30分ごとの視聴率で比較してみました。

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図1:保育園児と幼稚園児 テレビ総計の30分ごとの視聴率(平日)

朝の視聴の山について、保育園児が午前7時台、幼稚園児が8時~8時30分と違いがみられます。夕方は保育園児が午後6時~7時台、幼稚園児が4時~7時台と、幼稚園児は保育園児に比べて夕方の早い時間から始まり、夜間まで継続して視聴されていました。
次に保育園児と幼稚園児それぞれによく視聴されている番組で違いがあるかみてみました。

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表1:保育園児と幼稚園児  NHK・民放全体でよく見られている番組(放送時間10分以上)

上の表は、保育園児と幼稚園児で、視聴率が高い20番組をまとめたものです。
青く色塗りした番組が「土日朝」、赤く色塗りした番組が「平日夕方」に放送しているものですが、これをみると保育園児は「土日朝」の番組を、幼稚園児は「平日夕方」の番組を多く視聴していることがわかりました。また、視聴率の値を比べると、幼稚園児が保育園児よりも各番組の視聴率が高くなっています。

うちの子も保育園児、平日の夕方は帰宅が遅く、土日の朝に「アニメ おさるのジョージ」を見てるよなぁ。なるほど、今回の分析結果に納得してしまいました。

このほか、詳しくは『放送研究と調査』12月号でも報告していますので、そちらもどうぞご覧ください。


ことばのはなし 2019年12月24日 (火)

#226 植木に水を「やる」?それとも「あげる」?

メディア研究部(放送用語)滝島雅子

子どもに小遣いを「やる」「あげる」
ペットにえさを「やる」「あげる」  
植木に水を「やる」「あげる」      191224-1.pngのサムネイル画像

   ・・・みなさんは、どちらを使いますか?
おそらく、「「やる」はちょっと乱暴な言い方だから「あげる」のほうが丁寧でいい」と思った人も多いのではないでしょうか。
従来、このような「あげる」の使い方は、「敬語の誤用」とされてきました。「あげる」は敬語の分類で言うと「謙譲語」であり、本来、敬意が必要な相手に使うことばなので、目下の人やペット、植木に敬語を使うのはおかしいというわけです。ところが、今回、文研が行った調査では、7割を超える人が「おかしくない・自分でも使う」と答えました。どうやら、こうした「あげる」は、もはや「誤用」とは言えない状況になっているようなのです(図1)。

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図1:「あげる」は「おかしくない・使う」(全体)


また、「あげる」について「おかしくない・使う」と答えた人を年代別に見ると、「子どもに小遣い」「ペットにエサ」「植木に水」では、20~50代は8割前後から9割の高い割合を示していますが、60代以上は、いずれも割合が下がっており、高年層では「人」以外に対して「あげる」を使うことへの抵抗感がうかがえます。

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 図2:「あげる」は「おかしくない・使う」(世代別) 

国語辞書編(さん)者の飯間浩明氏は、最近の著書の中で、植木に水を与えることを「水やり」ではなく「水あげ」、動物にえさを与えることを「餌やり」ではなく「餌あげ」とする、名詞としての使い方も増えてきたと指摘しています。改めて、「あげる」の勢力拡大ぶりに驚かされます。ここまで来ると、「あげる」を「誤用」として回避するのは、もはや、難しくなってきているとも言えそうですが、みなさんは、どう考えますか?

詳しくは、『放送研究と調査』11月号「相手選手に点を“あげて”しまってもよいのか~2019年「日本語のゆれに関する調査」から~」をご覧ください。今回の調査報告では、ほかに、「気象情報での気温の伝え方についての調査」や、最近問題になっている英語入試のあり方にも関連する「外国語・日本語をめぐる意識調査」の結果も報告されています。報告を読んで、「へえ~」「なるほど~」「おもしろかった~」などと感じていただけたら、ぜひ、知り合いの人にも教えてあげて・・・くださいね。

(参考文献)飯間浩明(2019)『知っておくと役立つ街の変な日本語』朝日新書


放送博物館 2019年12月20日 (金)

#225 NHK放送博物館で「放送が伝えた宇宙」の展示を開催中です

放送博物館 山本さぎり

NHK放送博物館では、12月7日から企画展放送が伝えた宇宙 ~ そして、宇宙から あなたへ ~を開催しています。

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この企画展は宇宙がテレビを通じて身近なものになってきたことや、宇宙を利用した技術が衛星放送など日々の生活に密着していることを、NHKが保管する映像や資料をもとに紹介しています。同じ階の<ヒストリーゾーン>もご覧いただくことで放送技術への理解がより深まる内容になっています。ここでは展示のテーマと概要を紹介します。

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1. テレビ放送開始までの天文現象の放送
1925年にラジオ放送が始まると、京都の天文台からの観測中継や、皆既日食の国内27局からのリレー中継など、さまざまな天文現象が伝えられるようになりました。
戦時中や戦後に映画館で毎週上映された「日本ニュース」では日食の観測を紹介しています。

2. 宇宙への進出とテレビ放送
アメリカとソ連を中心として各国が宇宙に進出し、その映像がテレビで放送されると視聴者の宇宙への関心も高まりました。
ソ連のガガーリン宇宙飛行士が人類初の宇宙飛行を成功させ1962年に来日すると、NHKは「ガガーリン少佐にきく」を放送しました。1966年には世界中の宇宙開発を取材した「海外取材番組<宇宙時代>」を放送しました。
アメリカがアポロ計画を進め、アポロ11号が1969年7月に月面着陸に挑むことになると、NHKは10日間にわたる特集番組を放送しました。特にアームストロング船長が人類初の月面着陸をした時間帯はおよそ6割の世帯がテレビをつけていました(関東地区)。

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アポロ11号の月面着陸特集番組スタジオ風景

3.NHKが関わった宇宙開発技術
 ここでは衛星放送の開発史を紹介しています。日本で人工衛星が作られ始めた頃は、NHKも独自に放送衛星を開発していました。衛星本体を製作しなくなってからも衛星放送の研究と実験を続け、1984年には衛星放送を家庭で直接受信できるようになりました。
 また、NHKのカメラは宇宙でも活躍しています。宇宙飛行士が国際宇宙ステーション(ISS)に高感度カメラを持ち込み、宇宙からの映像を届けています。また月周回衛星「かぐや」にハイビジョンカメラを搭載し、月から見た「地球の出」などの映像を送るなど科学的にも大きな成果をあげています。

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このほか、映像ブースでは宇宙飛行士がスペースシャトルや国際宇宙ステーションで活動する様子を、飛行士たちの目覚めの音楽とともに上映しています。
会期中は学芸員によるギャラリートークやJAXA研究員による講演会を開催いたします。ぜひお越しください。

 
NHK放送博物館 企画展示「放送が伝えた宇宙 ~ そして、宇宙から あなたへ ~」

会期  :2019年12月7日(土)~2020年3月29日(日)
会場  :3階 企画展示室
休館日 :月曜日(月曜日が祝日・振替休日の場合は火曜日休館)、年末年始
入場料 :無料
開館時間:午前9時30分~午後4時30分
所在地 :〒105-0002 東京都港区愛宕2-1-1
TEL  : 03-5400-6900

メディアの動き 2019年12月17日 (火)

#224 筆頭株主交代!茨城放送の今後

メディア研究部(メディア動向)村上圭子

都道府県の中で唯一、県域民放テレビ局が存在しない県があるのを皆さんはご存じでしょうか。茨城県です。県域FM局もなく、あるのはAMラジオ局(現在はFM波で同じ放送を行うFM補完局も運営中)だけなんです。
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 それがIBS茨城放送です。開局は古く1963年。去年55周年を迎えた老舗局です。主要株主は、朝日新聞社(議決権比率32.41%)、茨城県(同比率16.14%)、日刊スポーツ新聞社(同比率2.71%)でしたが、11月15日に茨城放送から主要株主変更のお知らせがありました。

 朝日新聞社及び日刊スポーツ新聞社の株式全てを買い取ったのは、グロービス経営大学院の学長を務め、ベンチャーキャピタルも運営する堀義人氏。また、茨城県所有の株式のうち10%についても、堀氏が取締役オーナーを務める、水戸市を本拠地とするプロバスケットボールチーム「茨城ロボッツ」の運営会社が買い取りました。今回の株式買収はあわせると45.12%にのぼります。県域民放において、新しい株主によるこれだけ大きな株式取得劇は極めて珍しく、放送業界では大きな話題になりました。堀氏は4位以下の株主の株式の購入にも意欲を示しています。12月13日に開かれた臨時株主総会で堀氏は茨城放送の取締役に就任。翌14日に水戸市の本社でリスナーと堀氏との対話集会が行なわれると聞き、どんな雰囲気なのか参加してきました。
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 集まったのは日頃からいずれも熱心にラジオを聞いているリスナーの皆さん30人位で、40代~70代の方が多いように感じました。対話集会ではまず、堀氏から株式を取得した経緯と、茨城放送で目指したい理念についての説明、その後、リスナーからの意見や質問、それらに対して最後にまとめて堀氏が返答する、という流れで1時間半行われました。
 堀氏はまず、自身が小学校から高校まで水戸で過ごしたこと、その後、2015年に久しぶりに同窓会に参加するために水戸を訪れた際、街中に人影が消え、廃墟になったビルや空き地やシャッター街の光景に愕然としたこと、その衝撃の光景が原点となり、水戸の再生に立ち上がったことが話されました。
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堀氏は市長に志願する形で「水戸ど真ん中再生プロジェクト」を創設し座長に就任、わずか4年の間に、自身の経営するグロービス経営大学院の特設キャンパスを開設したり、インバウンドのための海外発信を自身の出身校であるハーバード大学の歴史学者と共に仕掛けたり、プロバスケットボールチームの茨城ロボッツの再生も支援。現在は、水戸市最大の観光名所である偕楽園と常盤神社の隣接地に、千波湖を一望できるガラス張りのカフェを建設中だそうです。そうした動きを進めていく中で、県内のメディアの脆弱性をなんとかしたい、という思いで今回の株式取得に至った、ということが説明されました。

 その上で、新たな茨城放送の理念案として、「ラジオを含む動画・テキストメディアを通して、茨城県の内外にスポーツ・音楽・ライフスタイル/学びの情報やニュースを提供し、茨城を元気にし、日本全体に茨城の魅力を伝える!」というミッションと、「ラジオの枠を超えて、ネット・動画・イベントなどを組み合わせた新たな地方発メディアカンパニーの魁モデルを創る!」というビジョンが示されました。
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 私は、そんな堀氏の滔滔(とうとう)としたプレゼンにやや圧倒されてしまいましたが、リスナーからは、そんな堀氏にものおじすることなく、次々と意見や質問がありました。20人以上が発言したのでその全てを紹介することはできませんが、例えば、パーソナリティが定着しない、若いアナウンサーにもっと教養を身に着けてほしい、購入番組が多すぎるのでもっと生ワイドを増やしてほしい、リスナー参加型コーナーを増やしてほしい、若者番組が多くなっているので大人がもっとしみじみ聞ける文芸関係の内容の番組がほしい等々、極めて具体的な放送内容に関する要望が多く挙げられました。また、台風19号など災害時の対応については、情報が全く入らない市町村もあり市民の中には怒っている人もいる、といった厳しい指摘もなされました。YouTubeなどのネット配信やAIスピーカー対応など、堀氏の新たなデジタル展開戦略に期待したい、という声も複数聞かれました。また、メディア改革を急速に進める宣言をした堀氏に対し、今日集まっているような古くからのラジオリスナーとの距離を感じないか、との問いかけもありました。

 これまでラジオ局の運営に携わったことはなく、30年以上水戸を離れていた立場の堀氏からすると、何十年も茨城放送の番組を聞いてきた地元リスナー達は、ある意味、株主以上になかなかに手ごわい存在でもあります。堀氏は、番組内容や編成についてはradikoから得られる視聴データをベースに考えていきたい、と繰り返し、局の運営については茨城ロボッツのスポンサー営業とイベント事業のシナジーを最大化したいと力説しました。手腕が試されるのはまさにこれから。集まったリスナー達はひとまず、1つ1つの意見を必死にメモをとって聞く堀氏の姿に好感を持ったようです。
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 堀氏は、ゆくゆくはテレビ局の開設も視野に入れているそうです。今後について、メディアを調査・研究している私としては期待とともに懸念もあります。ここでは懸念について2点ふれておきます。
 1つは、地域再生にはスピード感が必要であることは、堀氏がこれまで行なってきた取り組みの実績が示していると思いますが、メディアについては特に、改革を急速に進め過ぎることがもたらす課題についても真摯に向き合って乗り越えていってほしいということです。50年にわたってメディアを支えてきてくれたリスナーを取り残さないようにしながら新たなユーザーを獲得していく経営とはどのようなものなのか示してほしいです。2点目は、堀氏は茨城県や水戸市にとっては、突然現れた“救世主”のような存在かもしれませんが、だからこそ、基幹放送としての地域ジャーナリズムの立ち位置、特に、取締役である堀氏や堀氏自身が手掛ける地域再生事業について、一定の距離感を持って報道するという役割を果たし得るのか、そのための番組編集方針をどのように掲げていくのかを熟考し続けてほしいと思います。これらは、新たなユーザーの獲得と地域密着が喫緊の課題となっている民放ローカル局の将来にとっても共通の課題だと思います堀氏はMBAを輩出する大学院を運営する、まさに“経営のプロフェッショナル”ですから、このあたりを注視していきたいと思います。