文研ブログ

ことばのはなし 2016年09月23日 (金)

#45 ことばの研きゅう(夏やすみのしゅくだい)

3年 しおだ たけひろ

ぼくは、こないだ、京都に行きました。京都はすごくあつかったけど、ラーメンがとても好きなので、京都でもラーメンを食べました。ぼくの好きなのは、とんこつラーメンのこってりしたやつです。
お店で、「ネギ、入れさせていただいても、よろしいですか?」と聞かれました。えっ、と思って、なんだかへんな言い方だなあと思いました。ぼくが住んでる東京だと、「ネギ、入れてもだいじょぶですか?」とか、「ネギは、お入れしましょうか?」とかが、ふつうだからです。

ぼくは、ラーメンも好きですが、ことばのことも、けっこう好きです。かえりの新かん線のなかで、ずっとかんがえてました。お母さんは「そんなの、どうだっていいじゃない」とあきれてましたが、気になってしかたなかったです。

それで、夏やすみのしゅくだいは、「させていただきます」について、いろんな人にきいて見ることにしました。「ネギ、入れさせていただいても、よろしいですか?」だと、ラーメンのことに気をとられておなかがすいちゃうんじゃないかと思ったから、「あすは、休業させていただきます」と「あすは、休業いたします」で、どっちがいいかとききました。ほかにもいろいろ問だいを作りました。
日本全国の二千人の人におねがいして、千百九十二人の人から、こたえをもらえました。ひとつひとつのこたえを見てたら、すごくたくさんあって、あたまがくらくらしてきました。どのくらいたくさんあるか、マルを千百九十二こ書いて見たら、どのくらいたいへんか分かると思います。
なので、お父さんに高せいのうのパソコンをかりました。パソコンを使ったら、シャシャッ!とけい算できました。パソコンをかんがえた人は、ノーベルしょうをもらうくらい、えらいと思います。

「あすは、
休業させていただきます」は感じがいいけども、「あすは、休業いたします」は感じが悪いと思う人は、全国で30%でした。
それで、こたえた人が住んでるところをもとに地図にしてみたら、この割合は、「かん西」では30%よりも大きいけども、「かん東」では30%よりも小さいと分かりました。京都とかの「かん西」では、「あすは、休業させていただきます」がよくて「あすは、休業いたします」は悪いと思ってる人が、「かん東」よりも多いみたいです。だいたい、西日本は、「かん西」みたいに「させていただきます」が人気があります。

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ぼくは、「ネギ、
入れさせていただいても、よろしいですか?」がへんな言い方だ、と思ったことを、すこし反せいしました。じぶんが住んでるところとちがうところでは、ことばのつかいかたが同じじゃないのは、あたりまえだからです。

ぼくは、このことが分かって、ほんとうによかったです。たいへんだったけど、いい夏やすみでした。くわしくは、「“させていただきます”について書かせていただきます」(『放送研究と調査』2016年9月号)を、見てください。おねがいします。〔10月1日からは論文pdfが公開されます〕


しおだくんは、こってりラーメンが好きなのですね。
とてもよい研きゅうができましたね。よくがんばりました。

先生は、あっさりしおラーメンが好きです。



遠い夏の日を思い出しながら、書きました。

(メディア研究部・塩田雄大・47歳)

調査あれこれ 2016年09月16日 (金)

#44 全国放送キャスターと地域放送キャスターでは求められるものが違う?

メディア研究部(番組研究) 菅中雄一郎

NHK放送文化研究所では、2006年から地域放送局が制作しているさまざまな番組について視聴者意向調査を行い、結果を地域放送向上のために活用しています。このうち昨年度実施した四国地方の調査で、ニュースキャスターに関する興味深いデータが得られたので、ご紹介します。

調査は、四国の愛媛・高知の2県で夕方に放送されているローカルニュース番組への視聴者の番組印象や評価をウエブ・アンケート調査で探りました。番組キャスターへの評価を尋ねる質問の中で、「全国放送ニュースキャスターの魅力と、地域放送ニュースキャスターの魅力」について聞きました。その結果が下のグラフです。

■全国放送/地域放送ニュースキャスターの魅力
 (愛媛県・高知県の調査回答者/複数回答)
   ※NHKを含む全放送局のキャスター対象:番組は特定せず
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(クリックすると大きなサイズで表示されます)

全国放送のニュースキャスターでは、「アナウンスの正確さ」「コメントの上手さ」「安心感」「はっきりものをいう」「番組進行の上手さ」などが30%を超えており、視聴者がキャスターの“技術的な要素”を魅力と感じている傾向がうかがえます。一方、地域放送のニュースキャスターでは、「慣れ親しんだ感」「気さくさ」「親近感」「庶民的なところ」「一生懸命さ」などが25%を超えており、総じてキャスターの“情緒的な要素”を魅力と感じている傾向がうかがえます。
この違いは、どのような要因から生じるものなのでしょうか。「好きな地域放送キャスターの理由」を聞いた自由回答からヒントを探ってみましょう。
「新人の頃から毎日見聞きして、ほとんど親のような気持ち」(男性60代)
「実際に近所でお会いして、庶民的な対応と人柄に触れて好きになった」(女性30代)
「かわいいけどはっきりものを言うところが同郷人らしく好感をもてる」(男性50代)
「時々、方言でしゃべってくれるので、見ていて親しみやすいイメージ」(女性40代)
テレビで眺めているだけの全国ニュースキャスターと比べて、「街を歩いていたら会ってしまうかもしれない物理的な距離の近さ」や、「長年慣れ親しんできた心理的な距離の近さ」が、“地域ニュースキャスターならではの魅力”を醸成していることがうかがえます。

では地域ニュースキャスターには情緒的な面だけで、技術的な面は期待されていないのでしょうか。実はそうではありません。地域放送キャスターに対する自由回答の中で最も多いのが、「発声、原稿読みの正確さ、コメント」などに対する厳しい意見なのです。キャスターとしてのしっかりした技術のベースがあった上での「親しみやすさ」が求められていることが分かります。さらに地域ニュースキャスターに求められるのが「伝える工夫」です。地域では毎日大きな話題がある訳ではありません。地味だけど大切なニュースを、いかに分かりやすくかみ砕いて、視聴者に関心を持って見てもらえるかが、地域放送ニュースキャスターの腕の見せどころでもあります。同じニュースでも、「○○キャスターが伝えるから」という理由で特定の番組を見ている視聴者が多いことも調査結果から見えてきました。

ふだん、何の気なしに見ているニュース番組。時間があるときにでも、是非、全国放送のキャスターと、地域放送のキャスターを見比べてみてはいかがでしょうか。きっと、ここでご紹介したこと以外にもいろいろなことが見えてくるはずです。

ことばのはなし 2016年09月09日 (金)

#43 反響、続々!『NHK日本語発音アクセント新辞典』

メディア研究部(放送用語・表現) 滝島雅子

18年ぶりに大改訂されたアクセント辞典『NHK日本語発音アクセント新辞典』(以降、『SJT』)が刊行されてから4か月がたとうとしています。
お使いいただいていますでしょうか?

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いろんなことが新しくなったこのピンクの辞書が世の中でどんなふうに受け入れられるのか、子どもを一人立ちさせたあとの親のような気持ちで、ドキドキしながら見守ってきましたが、おかげさまでユーザーの皆さんからたくさんの反響がありました。
ありがとうございます!
ツイッターのメッセージからいくつか拾ってみますと・・・
 「アクセント記号が変わったんですね!」
 「前の棒カギ式のほうが良かった~」
混乱させてしまってごめんなさい!アクセント記号が変わり驚かれた方も多いようですね。そうなんです。今回の大改訂の最大のポイントは、何といっても「アクセント記号の刷新」なんです。これまでの棒カギ式から、赤色で音の下がり目を示す方式に変わりました。
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慣れ親しんだ表記から新しい表記に変わることに、抵抗感がある方も多いと思います。しかし、自然な音調で発音しようとするときは、「どこが低い部分でどこが高い部分か」ということよりも、「どこで大きく下がるか(あるいは大きく下がるところがないのか)」ということに注意を払うのがいちばん大切だという考えから、この方式を採用しました。詳しくは、『SJT』の巻末付録に掲載されている「解説・資料編」(付録p.7)をご覧ください。また、『放送研究と調査』(2016年7月号)の論文「18年ぶりの改訂で誕生『NHK日本語発音アクセント新辞典』~アクセント記号や見出しの立て方も一新~」もぜひお読みください。

 「色がスタイリッシュすぎる!」
 「ピンクのきらめきがすてき!」

これまでにない「表紙の色」への反応も多数ありました!ありがとうございます。今回の『SJT』の表紙の色は、まさかの「ピンク」で、しかも「ラメ」! 編集スタッフに若い女性が多いからでは? とも一部でささやかれましたが、決してそういうことではなく、一応理由があります。
放送現場で、放送に使うことばの問題を考えるときの必須資料としては、以下の3つがあります(ニュースの部署には必ず置いてあります)。
 ①『NHK漢字表記辞典』…放送上、漢字などの表記をどうするかのルールを示した辞書
 ②『NHKことばのハンドブック第2版』…放送上のことばのルールを解説した参考書
 ③『NHK日本語発音アクセント辞典』…発音・アクセントを調べる辞典
それぞれの表紙の色は?というと、①は「水色」、②は「オレンジ色」、そして③、これまでの1998年版では「緑色」でした。そこに新しく加わる『SJT』は、緊急報道など時間がない放送現場では、誰にでもすぐわかるインパクトのある色である必要がありました。つまり「あの○○色の辞書」と言ったとき共通認識が得られる色…ということで、さまざまな辞書をあたり、どの辞書とも、かぶらない色ということで「ラメピンク」になったというわけなんです。並べてみると、手前みそですが、独自の存在感があってなかなかいいでしょう?

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放送現場以外の皆さんにも、「ピンクの辞典」として親しんでもらえたらうれしいです(よからぬ誤解を与えない言い方としては、なるべく「ピンク辞典」とは言わずに、間に「の」を入れるのがお薦めですが…)。

そして反響の中には、以下のような声も…。
 「巻末の数字のアクセントはすばらしい!」
 「数詞のアクセントは細かく載っていて大変よい」
よくぞ気づいてくださいました! 今回の『SJT』は、ページ数が大幅に増えましたが、その理由としては、収録語数(本編)が1998年版のおよそ6万9,000語から7万5,000語に増えたのに加え、巻末付録の解説・資料も充実させたということがあります。その付録の多くを占めるのが「数詞+助数詞」の発音・アクセントのページです。

「3羽」や「15分」など、数詞に「ものや事柄を数えることば」(助数詞や単位など)が付いた場合にどのように読むかは、特にアナウンサーにとっては切実な問題ですが、今回、現場からの熱い要望に応えて、20までの数詞の発音・アクセントを個別に示したほか、よく使う「助数詞や単位」については、「21~99、100、1000、10000」に関しても掲載しました。ぜひご活用いただければと思います。

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『SJT』版 巻末付録P198

ところで皆さんは「1円」をどのように言いますか。アクセントは①[イチエン ̄](平板型)? ②[イチ\エン](中高型)? 伝統的には①ですが、今このアクセントが②にシフトしつつあります。2013年5月に、アナウンサーを対象に行った調査では、[イチエン ̄]のように平板型を支持する人が9割近くを占める一方で、[イチ\エン]のように中高型を支持する人も6割を超えていました。

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今回の『SJT』では、こうした変化も考慮し、「数詞+円」のアクセントに、第2アクセントとして初めて[イチ\エン]などの中高型アクセントを加えました。『SJT』の「数詞+助数詞」の発音・アクセントについて詳しくは、『放送研究と調査』(2016年9月号)の論文「NHKアクセント辞典 “新辞典”への大改訂③ 「数詞+助数詞」の発音とアクセント~変化の動向と新辞典への反映~」をご覧ください。

今回は、『SJT』のユーザーのみなさんの反響の中から、その一端をご紹介しました。これから『SJT』をさらにお使いいただく中で、またどんな反響があるか、編集部一同、楽しみにしております。今後とも「ピンク辞典」をどうぞよろしくお願いいたします。

調査あれこれ 2016年09月02日 (金)

#42 朝ドラ今世紀最高視聴率を獲得した『あさが来た』は視聴者にどのように受けとめられたのか

メディア研究部(番組研究) 二瓶 亙

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近年、テレビドラマの視聴率が振るわないと言われる中で、NHKの連続テレビ小説(通称・朝ドラ)は視聴率好調です。朝ドラは、2010年上半期放送の『ゲゲゲの女房』(番組全回平均視聴率18.6% *1))以降視聴率が上昇傾向にあり、2015年度下半期に放送した『あさが来た』(2015年9月28日(月)~2016年4月2日(土)放送)では番組全回平均視聴率が23.5%に達し、朝ドラとしては今世紀になって最高の視聴率を獲得しました *2)
視聴者は『あさが来た』を見てどのように感じていたのでしょうか。
文研では、朝ドラ研究プロジェクトを立ち上げ、実際にその作品を見ている視聴者の番組印象や評価を、量的調査(WEB調査)と質的調査(グループインタビュー)を通して探る定期的調査を、2015年度上半期放送の『まれ』から開始しています。朝ドラの好調要因を明らかにすることを通して、高度情報化社会が進展する中でも多くの人に見てもらえるテレビ番組のヒントを得ることを目指しています。
この定期的調査の2作品目に当たる『あさが来た』の調査結果がまとまりましたので、『放送研究と調査』9月号に「朝ドラ研究」連続テレビ小説『あさが来た』はどのように見られたか~視聴者調査から見た特徴と成功の要因】として掲載しました。

突然ですが、ここでクイズです。


朝ドラ研究プロジェクトでは、『まれ』『あさが来た』『とと姉ちゃん』について、各作品を比較的良く見ている人に100点満点で点数をつけてもらっています。次の点数はそれぞれどの作品の点数でしょうか。

①    86点    ② 81点    ③ 69点




答えは…
①    86点=『あさが来た』
②    81点=『とと姉ちゃん』…放送期間の中盤である7月下旬時点での調査の結果
③    69点=『まれ』 *3)
です。みなさんの評価と一致していたでしょうか。

『あさが来た』は、90点以上をつけた人が回答者の過半数を占め、大変高い評価をする人が多い作品でした。調査では、評価の理由や良かった点・良くなかった点、番組のイメージ、印象に残った登場人物などについても聞いています。その中には意外な指摘も…。詳しくは本文にて。

現在放送中の『とと姉ちゃん』も『あさが来た』と同様に、実在の人物をモデルにしたドラマです。はたして、最終的に『あさが来た』と同じように高い評価を得ることができるでしょうか。『あさが来た』の調査結果を読んでいただくと、似ているようで大きく違う『とと姉ちゃん』の特徴もよりはっきりと感じていただけるのではないかと思います。
『放送研究と調査』9月号【「朝ドラ研究」連続テレビ小説『あさが来た』はどのように見られたか~視聴者調査から見た特徴と成功の要因】をぜひご一読ください。


(注)
*1)    視聴率データは、以降すべてビデオリサーチ社関東地区の世帯視聴率です。
*2)    それまでの今世紀最高視聴率は2002年度上半期放送の『さくら』23.3%でした。
*3)    『まれ』の調査結果については、『放送研究と調査』2016年3月号4月号【「朝ドラ研究」最近好調な「朝ドラ」を、視聴者はどのように見ているか】をご覧ください。

 

調査あれこれ 2016年08月26日 (金)

#41 「シン・ゴジラ」を見て考えた「テレビ」の今

世論調査部(視聴者調査) 保髙隆之

いきなり私事で恐縮ですが、いま話題の映画「シン・ゴジラ」を仕事帰りに見ました。
公開初日でしたが、客の入りは半分ほど。ただ、上映終了後に出口へ向かう観客たちが熱く感想を語り合っていて、他の映画とは何かが違うぞ、と感じました。その後、週末の観客動員が公開後2週連続でトップ、累計興行収入が45億円を超える大ヒットとなっています(8月21日現在)。客層も私のようにゴジラ映画に親しんでいた中年男性だけではなく、子どもの頃に見た記憶はあっても離れてしまった若年層や女性にも広がりを見せているそうです。公開前には「ゴジラは若い観客にとって既に過去のものでは」という冷めた声もあったようですが、それを覆したのが、封切直後にSNSで爆発的に拡散した観客の評価だったとネットニュース上で話題になっています(もちろん、作品の力があればこそですが)。

知名度抜群の「怪物」ゴジラでさえ、SNSという現代の口コミネットワークなしでは、映画を見るという行動の導火線に簡単に火をつけられない。しかし、いったん点火すれば、関係者の予想を超えるような勢いで爆発の連鎖が起こる。そんな往年の大怪獣が新しい形で暴れまわる姿に私が重ね合わせたのは現在の「テレビ」でした。

文研では今年、20代を対象にグループインタビューを行いました。目的は、若年層のテレビの「リアルタイム視聴」と「録画再生」、「(ネット)動画利用」の使い分けの実態を知り、巷で言われている「テレビ離れ」の背景に迫ることでした。調査を通じて強く私の印象に残ったのはテレビとの接点の変化です。調査に協力して下さった20代の皆さんにとって、テレビを見るきっかけは、コンテンツとしての魅力よりも、それが世間でどう受け止められたか、というツイッターやYahoo! ニュースなどでの反響でした。そのため、話題になった番組のポイントだけを後から確認できれば十分で、YouTubeなどで番組の一部が切り出された動画を「つまみぐい」している様子が浮かび上がりました。また、一人暮らしをするタイミングでテレビを買わなかった、という人も少なくありません。若年層で想像以上にテレビとの接点がなくなっている現状は、「テレビっ子」だった40代の私にとって衝撃でした。

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   テレビの代わりにタブレットで動画を見る若者

一方で、話を掘り下げていくと、彼(彼女)らはテレビ番組を潜在的に好きなことも伝わってきました。送り手であるテレビ局と、受け手である若い視聴者の求めるものが今はズレていても、「シン・ゴジラ」のように新たな経路を通じて合致させることができれば、再び爆発的な広がりを実現できるかも知れない。そんな希望も(放送に携わる者として)感じました。今回のグループインタビューの詳しい報告は、
「放送研究と調査」8月号に掲載されています。是非、ご一読ください!

おススメの1本 2016年08月19日 (金)

#40 鬼怒川決壊から1年。大水害から何を学ぶか? ~茨城県常総市における住民調査から~

メディア研究部(メディア動向) 入江さやか

逆巻く濁流の中、電信柱に身を寄せていた男性がヘリコプターで救出される様子を中継したこの場面。記憶されている方も多いのではないでしょうか。

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昨年9月10日、茨城県常総市で鬼怒川が決壊。常総市では市の面積の3分の1が浸水し、4,000人以上が浸水した地域に取り残され、いわゆる「孤立」が問題になりました。NHK放送文化研究所では、避難指示・勧告の対象となっていた地域の住民1,000人を対象に、当時の情報入手や避難行動について面接による世論調査を実施しました。


「指定避難場所」で孤立。せっかく「避難」したのになぜ?
今回の調査に回答した686人のうち、30%に当たる203人が「孤立」状態になりました。孤立した場所は「自宅」が73%で最多。ところが、次に多かったのが、「指定避難場所」で、13%を占めました。調査のデータを読みこんでいくと、「指定避難場所」で孤立したのは、かなり早い段階で避難行動を起こした人たちでした。

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せっかく早い段階で避難したのに、「孤立」してしまったのはなぜか?実は、常総市の「指定避難場所」が浸水想定区域内にあったのです。
常総市は平成21年に「洪水ハザードマップ」を全戸に配布していました。鬼怒川が決壊した場合に浸水が想定される地域が一目でわかります。「マップ」を見れば、避難場所が浸水区域内にあるのは明らか。これを知っていれば、早めに浸水区域の外に避難し、孤立を避けられたかもしれません。
自治体が避難場所を浸水区域内に設置していたことも問題ですが、回答した住民の53%がこの「ハザードマップ」を「見たことがない」と答え、すぐに見られる場所に保管している人はわずか8%でした。災害が起きる前にハザードマップを確認しておくことの有効性・重要性を改めて痛感するデータです。

さてここで、ブログを読んでくださっているあなた。お住まいの地域のハザードマップはお手元にありますか?「どこかにしまってあるはずだけど…」「新聞と一緒に捨てた…」大丈夫です。このサイトに住所を入力すれば、全国のハザードマップが見られます。
「国土交通省ハザードマップポータルサイト」


「孤立」を避ける。「孤立」に備える。
孤立したとき、すぐにヘリコプターやボートで助けてもらえるとは限りません。今回の水害は朝から日中にかけての時間帯に発生し、救出時には風雨も峠を越えていました。これが夜間や暴風雨などの悪条件下であったら、迅速な救出は困難でした。
今回の調査では、孤立した期間は最も長い人で5日間でした。まだ残暑の厳しい9月、もし孤立が長期化していれば、健康面での問題も深刻化したことでしょう。国の中央防災会議が利根川や荒川などの決壊を想定した「首都圏大規模水害」の報告書では、最大で110万人が孤立、浸水は2週間以上も続くといいます。
水害のおそれがあるときには、早い段階で浸水しない地域に「避難」をするのがベストです。その一方で、浸水のおそれのある家庭や職場では、孤立する事態も想定して連絡手段の確保や物資の備蓄をしておくことも重要です。鬼怒川の水害から学ぶべき教訓は数多くあります。

今回ご紹介した常総市住民調査の結果の詳細は、「放送研究と調査」2016年8月号に掲載されています。
また、9月3日に東京大学で開催される日本災害情報学会シンポジウム「鬼怒川水害から1年~情報と避難を考える~」では、水害の当事者のみなさんの証言と併せて、このデータも報告する予定です。詳細は「日本災害情報学会」ホームページをご覧ください。

放送博物館 2016年08月05日 (金)

#39 リオ五輪の熱闘観戦は、NHK放送博物館「愛宕山8Kシアター」でどうぞ!

計画管理部(計画) 渡辺誓司

いよいよ、あす6日(日本時間)に開幕するリオデジャネイロオリンピック。4年に1度のスポーツの祭典が、南米・ブラジルで17日間にわたって開催されます。NHKでは、連日の熱戦をテレビ・ラジオのすべての放送波やインターネット中継でお伝えしますが、国内の6つの会場では、次世代・高画質テレビ「8Kスーパーハイビジョン」による、パブリックビューイングを実施します。その会場のひとつ、NHK放送博物館「愛宕山8Kシアター」の大画面映像で、あなたも、世界最高峰のアスリートたちが繰り広げる感動の瞬間に立ち会ってみませんか。

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「8Kスーパーハイビジョン」の特徴は、何よりも、きめ細かな美しい映像です。現行のハイビジョンの16倍も多い画素によって、超高精細な映像を映し出すことができます。スーパーハイビジョンは、今月1日からBSで試験放送を開始していますが、「愛宕山8Kシアター」では、200インチの大型スクリーンの迫力ある画像に、22.2マルチチャンネルの立体的な音響が加わり、まるでオリンピックスタジアムで観戦しているかのような、圧倒的な臨場感を味わうことができます。

今回、開会式、閉会式をはじめ、日本時間で午前中に行われる競泳、陸上競技の一部を生中継でご覧いただけます。また、柔道、バスケットボール、サッカーは、録画映像でお楽しみいただけます。開会式と閉会式の観覧は、事前にインターネットでお申し込みいただく必要がありますが(開会式の申し込みは終了、閉会式の申し込みは8月7日まで 終了しました)、
そのほかの競技は、下の番組表のように、休館日の8日と15日を除いて、入場無料で自由にご覧いただけます。

「愛宕山8Kシアター」パブリックビューイング 番組表
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※放送スケジュールは変更する場合があります。詳しくはこちら

また、「愛宕山8Kシアター」のリオデジャネイロオリンピックの感動の後にお寄りいただきたいのが、放送博物館3階で開催中の企画展「NHKアナウンサーヒストリー~ことばへの飽くなき挑戦~」(12月18日まで)です。日本で放送が始まって91年、言葉を通じて情報を届けるスペシャリストであるアナウンサーの歩みを、報道、スポーツ、芸能などの番組とともに振り返ります。
1964年の東京五輪の聖火入場の実況などオリンピックイヤーにちなんだ貴重な音源をはじめ、高橋圭三、宮田輝ほか往年のアナウンサーの名調子にも触れることができます。夏休みの自由研究の宿題にお役立ていただけること、請け合いです!

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放送博物館のある愛宕山は、都心にありますが、8月に入って蝉時雨が真っ盛りです。スーパーハイビジョンは、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年には、本格的な普及が期待されています。その未来に先んじて、真夏の暑さにも増して熱いリオデジャネイロオリンピックの感動を、ぜひ「愛宕山8Kシアター」で体感なさってみてください。

                                                                     

NHK放送博物館
「愛宕山8Kシアター」で、リオデジャネイロオリンピックのパブリックビューイングが開催される期間(8月6日~22日)のご案内です。
休館日:8月8日(月)・15日(月)
    ※8月22日(月)は開館しますが、4階は休場となります。
開館 :午前9時30分~午後5時(「愛宕山8Kシアター」は午前10時から)
    ※ただし、開会式が行われる8月6日(土)と閉会式の8月22日(月)は、開館は午前7時30分、「愛宕山8Kシアター」は午前8時~午後5時(開会式と閉会式の観覧は要申し込み。なお、開会式の申し込みは終了、閉会式の申し込みは8月7日まで 終了しました。)
所在地:東京都港区愛宕2-1-1  

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(ホームページはこちら)  
                                               

文研フォーラム 2016年07月29日 (金)

#38 東日本大震災から5年 NHK文研フォーラム

メディア研究部(メディア動向) 山口 勝

「震災アーカイブ」をご存じですか?
地震、津波、原発事故という未曽有の東日本大震災をきっかけに、災害を記録し教訓を広く未来に伝えようと、震災の写真や資料などをデジタルで収集・保存・公開する取り組みが広がりました。誰もがネットからアクセスすることができます。
あの日から5年を迎えた3月、私は、NHK文研フォーラム「東日本大震災から5年 “伝えて活かす“震災アーカイブのこれから」と題したシンポジウムを企画しました。『放送研究と調査』7月号に報告とその後の熊本地震をめぐる防災とメディアの動きをまとめました。

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NHK文研フォーラムの様子。
2枚目は、NHK NMAPS。アーカイブされた災害データを可視化するデジタル地球儀。防災・減災報道に欠かせない。

東北地方沿岸の被災地では、所によって10mを超えるかさ上げ工事が進み、風景が一変しています。過去と現在を結び、未来を考える復興に、震災アーカイブの資料は欠かせません。また震災の様子をネットで見るだけでなく、震災学習用のアプリやリアルタイム情報と統合した防災情報伝達に、アーカイブのデータを利活用する動きも始まっています。

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NPOみらいサポート石巻が制作した「石巻津波伝承ARアプリ
今話題の“あのゲーム”同様、その場に行くと、震災当時の映像や画像などが再生される。

一方で、集中復興期間の5年を前に、資金難などから補助金で作られたアーカイブや企業アーカイブの閉鎖が相次いだのも事実です。シンポジウムでは「利活用」と「持続性」をキーワードに、震災アーカイブの「」を見つめ「これから」を展望しました。アーカイブの担い手は、大学、自治体、国、メディア、NPOなどです。では、使い手、ユーザーは誰なのでしょうか。「誰が、何のために、どう使うのか」。「見る」だけでなく「使う」ことで持続されるデジタルアーカイブの世界。利活用を進めるためにオープン化することはできるのか。公共放送から公共メディアへの進化を見据えるNHKにとっても、インターネット時代の公共性やメディアの役割を考える上で重要な議論が展開されました。
パネリストは、今村文彦 東北大学災害科学国際研究所所長、小野史典 多賀城市地域コミュニティ課長、諏訪康子 国立国会図書館主任司書、渡邉英徳 首都大学東京准教授、倉又俊夫 NHKアーカイブス部チーフプロデューサー、コメンテーターは、吉見俊哉 東京大学大学院教授、司会・報告は山口勝が務めました。
また、4月の熊本地震をうけたメディアの動きについても加筆しました。

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熊本地震(前震)直後の、Yahoo!防災速報アプリの画面。
NHKニュース映像(ライブ)のタブがあった。

ネットの世界の変化は早く、6月20日には、NHKニュース防災アプリの提供が始まっています。
「放送研究と調査」8月号のメディア・フォーカスもご覧ください。

放送ヒストリー 2016年07月26日 (火)

#37 ポジティブでしなやか:女性テレビ美術デザイナー

メディア研究部(メディア史研究) 廣谷鏡子
 
   放送のオーラル・ヒストリー「放送ウーマン」史(2)
   國嶋芳子さん(テレビ美術デザイナー) ~しなやかに「男社会」を駆け抜ける~ 『放送研究と調査』7月号 


この椅子に、見覚えありませんか?
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『あさイチ』のプレミアムトークにも登場した、40年以上にわたって桂文枝とコケ続けてきた名物椅子です。ギネスにも認定された長寿番組『新婚さんいらっしゃい!』1971~、朝日放送)のセットデザインを、スタート時からずっと担当してきた人が、今回紹介する「放送ウーマン」國嶋芳子さん。この椅子も、プロデューサーの命を受けて彼女が探してきたもので、いまも修理を重ねながら使われています。
美人女性キャスターが闊歩(かっぽ)する華やかな業界のようだけれど、昔も今も圧倒的な男社会である放送業界。テレビ大好き、美術大好きで美大に進み、「テレビ美術デザイナー」という職業があることを知って、この仕事に挑んだ國嶋さんですが、当時、放送局で女子正社員の採用はなく、「よそで仕事をしていい、給料は社員並み、人事異動なし」という契約で嘱託のデザイナーに。結果的にはそのことが、彼女に自由な翼を広げさせ、デザイナー人生を幅広いものにしました。放送局も、70年代に全盛期を迎えるカラー放送に向けて実はてんてこ舞い。美大出のデザイナーもいないなか、國嶋さんはこの業界にピタッとはまったのです!

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國嶋芳子さん

『プロポーズ大作戦』1973~85)の人気コーナー「フィーリングカップル5対5」のテーブルを考案したのも彼女と聞いて、この番組をかじりついて見ていた筆者は、思わずテーマ曲を口ずさんでいました。朝日放送お得意の「視聴者参加公開番組」のセットも、美大で舞台装置を学んできた大胆な発想で立ち上げ、周囲の度肝(どぎも)を抜きます。

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國嶋さんはまず模型を作ります。空間イメージが番組スタッフに一目で伝わります。
そしてこれが、実際のセットになると…こちら。

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2012年から現在までの『新婚さんいらっしゃい!』のセットです。
テーマは「蜂の巣、愛の巣、蜜の味」。

かつては「最近の女子アナはたばこ一つ買いに行かなくなった」などというトンデモ発言が飛び交うセクハラ職場でしたが、國嶋さんはその発想力とスキルで、実績をあげていきます。現在のほんわかした雰囲気の彼女からは、ガチガチの「キャリアウーマン」といったイメージはうかがえません。むしろ、クリエイターとしてのこんな言葉に、著者は共感するのです。
「迷ったときとか何も出てこないときは、そこはテレビのいいところで、流す。ディレクター、プロデューサーにこびる。こびるというか、よかったよかったと言ってもらう」
そうそう! 困難にぶつかったら、無理はせずにさっぱりあきらめる。でも褒めてもらいたいから、次は頑張る。そうやってテレビというメディアの現場は、ある時は健やかな、時にはしたたかな精神を育んできたんじゃないでしょうか。永さんや巨泉さんが生きていたら、きっと共感してくれたに違いない、と思うのですが…。
2011年に朝日放送を退職後、國嶋さんはいまも舞台装置家として活躍中。2013年、ようやく朝日放送2代目女性デザイナーが入社しました。彼女もまた、大先輩が「しなやかに」切り開いてきた道を、彼女ならではの軽やかさで、歩いていくことでしょう。
國嶋さんの切り開いてきた道がどんなだったかは、ぜひ、本文で!(概要はこちら

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語らう新旧女性デザイナー@朝日放送


メディアの動き 2016年07月22日 (金)

#36 ニュースのライブ配信サービスに注目してみました!

メディア研究部(メディア動向)黛 岳郎

私が所属しているメディア動向グループというのは、ざくっと言うと国内メディアの最新の動きを調査・研究することが主なミッションです。テーマは、放送行政や災害報道、放送法等々、幅広くありますが、私が関心を寄せているのは、「国内放送事業者がインターネットで展開する動画配信サービス」です。当然こうした領域に関心を寄せるとなると、NHKだけでなく民放各局の取り組みにも目を向けなければなりません。

そもそも、かつての私は、報道番組のディレクターをしていました。報道というジャンルは、世の中の最前線で起きている事象を取材し、それをニュース企画やドキュメンタリー番組などにします。ですから、私もさまざまな企業の最新動向を取材するなどしてきました。
ところが、当研究所に来て初めて認識したことなのですが、自分が身を置くメディア業界のことについては全く取材したことがなく、NHKはともかくとして、同業他社の最新動向などにはあまり関心を払っていなかったのです。
そしていざ各社の動きを調べてみると、民放各局はネットの世界でかなり先駆的な取り組みに挑んでいる実態を知るに至りました。まさに“灯台下暗し”です。

そうした中、『放送研究と調査』7月号に掲載されている「放送事業者によるニュースライブ配信サービスの行方」という論考を執筆しました。

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何を調査・研究対象にしたかというと、一つが、今ちまたをにぎわせているテレビ朝日とサイバーエージェントによるAbemaTVという動画配信サービスの中の、“入口”のチャンネル「
AbemaNews」です。
スマートフォンをテレビのように見立てて、テレビ番組とは異なる、ネットオリジナルのニュース番組をライブ配信しているサービスです。
そして、もう一つ取り上げたのが、こうしたサービスのいわば先駆けであるフジテレビによる「ホウドウキョク」です。
ネット上でテレビ局がどのようなニュース番組を展開しているのか、そして今後こうしたサービスはどのような展開をみせていくのか、両チャンネルの担当者に取材した上で、私なりに考えてみました。
両チャンネルともスマホなどで無料視聴できるので、是非この機会にご覧ください。そして、私の論考についても一読していただけると幸いです。

▼『放送研究と調査』7月号 「放送事業者によるニュースライブ配信サービスの行方」
 (ウェブ上では、8月に文研ホームページで全文を公開します。)