文研ブログ

2024年1月

メディアの動き 2024年01月19日 (金)

【メディアの動き】NHK社会部元記者の不正請求問題,歴代部長ら9人を懲戒処分

 報道局社会部の元記者が,私的な飲食を取材と称するなど,経費を不正に請求していた問題で,NHKは2023年12月19日,不正請求は410件,総額約789万円となることがわかったと発表した。これに伴って,歴代の社会部長3人について現職を解くとともに,前報道局長らとあわせて9人を停職などの懲戒処分とした。NHKは同年10月から外部有識者からなる第三者委員会を設け,調査を進めていた。

 不正請求を行った30代の元記者は11月に懲戒免職となり,全額を弁済させることとした。

 NHKは「受信料で支えられているNHKの職員として許されない行為であり,視聴者の皆様に深くおわびいたします」などと述べている。

 元記者はいわゆる「取材源の秘匿」として,飲食相手を偽る不正を重ねていた。

 調査報告書では,歴代の社会部長が,経費申請の承認に必要な決定印を庶務担当の管理職(庶務担)に預け,内容を確認していなかったと認定。「取材源の秘匿を背景に部局内で取材の内容だけでなく打合せの相手先情報や必要性についても厳しく追求しなかった組織風土や,報道局長や社会部長,庶務担,担当デスクの連携不足により決定者が打合せにおける取材の実態を把握していなかったことで記者への牽制効果が働かず,悪意を持った記者が取材源の秘匿を悪用する素地が形成された」と指摘した。

 「取材源の秘匿」という報道機関の重要な職業倫理を隠れ(みの)にした不正は,国民・視聴者のNHKへの信頼を大きく失墜させた。不正を生まない組織風土作りや仕組み作りに臨むNHKの姿勢が問われている。

メディアの動き 2024年01月19日 (金)

【メディアの動き】NHK『NW9』のインタビュー, BPOが「放送倫理違反」の意見

 NHKの『ニュースウオッチ9』で,新型コロナワクチンの接種後に亡くなった人の遺族を,新型コロナに感染して亡くなった人の遺族と誤認させる伝え方をしたことについて,BPOの放送倫理検証委員会は2023年12月5日,「放送倫理違反があった」とする意見を公表した。

 2023年5月15日に放送された番組では,エンディングで「新型コロナ5類移行から1週間・戻りつつある日常 それぞれの思い」と題して1分5秒のVTRを放送した。この中には,新型コロナワクチンで亡くなった人の遺族3人のインタビューがあったが,字幕で「夫を亡くした〇〇さん」などと紹介しただけで,ワクチンにはまったく触れず,新型コロナに感染した人の遺族と誤認される内容になっていた。

 審議した委員会では,問題点として▶インタビュー担当者が,映像編集を主業務とする職員で,取材経験が十分ではないのに,組織内のサポートが不十分だったことや,▶チェック機能が働かなかったこと,▶3人の遺族の声をわずか24秒で伝えるなど,「人の死」の伝え方としてあまりにも軽かったこと,を指摘した。そのうえで,「事実を正確に伝えるというニュース・報道番組としての基本を逸脱したものであった」として「放送倫理違反があった」と判断した。

 これを受けてNHKは,「取材・制作のあらゆる段階で真実に迫ろうとする基本的な姿勢を再確認し,ジャーナリズム教育の徹底など現在進めている再発防止策を着実に実行し,視聴者の信頼に応えられる番組を取材・制作してまいります」というコメントを発表した。

メディアの動き 2024年01月19日 (金)

【メディアの動き】テレビ史を彩る数々の名作ドラマ,脚本家の山田太一さん死去

 テレビドラマの脚本を中心に活躍した山田太一さんが,11月29日に89歳で亡くなった。

 松竹で映画作りに携わったあと,1965年に脚本家として独立。76年から放送された連続ドラマ『男たちの旅路』は,鶴田浩二さん演じる元特攻隊の警備員と若者の相克とともに社会問題を浮き彫りにし,大きな反響を呼んだ。また,学歴や容姿に劣等感を抱く若者の群像劇『ふぞろいの林檎(りんご)たち』をはじめ,『岸辺のアルバム』『早春スケッチブック』など,市井の人々の生活から人間や時代を描いた。東日本大震災をテーマにした2014年放送の『時は立ちどまらない』で放送文化基金賞の最優秀賞を受賞した。

 「山田太一 生きる哀しみを見つめて」と題した12月18日放送の『クローズアップ現代』(NHK総合)では,氏の最晩年の音声記録が紹介された。強い思い入れのある作品として挙げたのは,『男たちの旅路』の1作「車輪の一歩」。周囲に遠慮しながら暮らす車いすの若者に対して,主人公が「迷惑をかけてもいいんじゃないのか,(中略)いや,かけなければいけないんじゃないか」と諭すシーンが,時代を超えて今も共感を広げていることを伝えた。ゲスト出演の映画監督の是枝裕和さんは,山田さんを最も影響を受けた脚本家の1人とし,「時代の価値観に対する違和感とか,もっと言えば怒りみたいなものが強くあっただろう」と語った。

 立場の弱い人,マイノリティーの声がかき消されてしまい,生きづらさを抱える人が後を絶たない現代。世相を鋭く見つめてきた山田さんの作品は,人が最も大切にすべきことは何かと私たちに問いかけ続けている。

メディアの動き 2024年01月19日 (金)

【メディアの動き】インタビューの内容メモなどがネット上に流出,NHKが関係者らに謝罪

 NHKは12月1日,記者が取材したインタビュー内容のメモなど取材に関する情報が,インターネット上に流出したと発表。取材協力者におわびしたうえで,公式サイトやニュースで謝罪した。

 流出したのは,11月,首都圏局に所属する記者が,若年女性を支援する一般社団法人の「Colabo(コラボ)」に対し,過去にひぼう中傷を繰り返した経験のある取材協力者へのインタビューの内容メモや企画の提案書。この協力者がひぼう中傷をするきっかけとなった人物のSNSアカウントを通じて,誰でも閲覧できるような状態になっていた。

 NHKの調査の結果,子会社が契約する30代の派遣スタッフが,取材・制作用の端末にアクセスし情報を持ち出して流出させたことを認めたという。派遣スタッフは,ニュースのテロップ制作などに関わっていて,「興味本位でやった」などと話しているという。

 その後,12月14日には首都圏局の担当者2人が,取材に協力していたColaboの事務所を訪れ,「報道機関としてあってはならない流出があった」などと謝罪し,本来,匿名であるはずの情報が流出したことで,放送できなくなったと説明した。これに対しColabo側は,「単なる流出ではなく,Colaboや女性支援に対する攻撃の一環として起きたことを認識いただきたい」などと話したという。

 取材に関する情報が外部に流出したことは,報道機関としての信頼を大きく損なうもので,倫理意識と情報管理の徹底が求められる。

メディアの動き 2024年01月18日 (木)

【メディアの動き】Al Jazeera・RSF,国際刑事裁判所にイスラエル軍の戦争犯罪捜査を求める

 中東の衛星テレビAl Jazeera(以下,AJ)は12月16日,前日にパレスチナのガザ地区南部ハンユニスの学校で取材していた記者ら2人がイスラエル軍(IDF)の攻撃で負傷し,このうちカメラマンのサメル・アブダッカ氏が救急搬送を阻まれ死亡したとして,ICC(国際刑事裁判所)に戦争犯罪の疑いで捜査を求めると表明した。RSF(国境なき記者団)もアブダッカ氏を含むパレスチナ人7人が死亡した件について,ジャーナリストに対する意図的な攻撃だった疑いがあるとしてICCに捜査を求めている。

 CPJ(ジャーナリスト保護委員会)はIDFから取材活動停止を求められていたAJのアナス・アルシャリフ記者が同月11日,自宅への空爆で90歳の父親を失い,同月6日,同じくAJのモメン・アルシャラフィ記者の避難先が空爆を受けて両親や兄弟を含む家族22人が死亡した例などをあげ,パレスチナ人のジャーナリストやその家族が標的にされているとの懸念を表明。同月21日,ガザでの報道従事者の保護やIDFの責任の検証を国際社会に呼びかけた。

 通信大手Reutersは同月7日,同社カメラマンのイッサム・アブダラ氏が10月13日にレバノン南部への砲撃で死亡した状況について,現場にいたほかの取材班の映像や証言,砲弾の破片,衛星画像などを集め,専門家と分析した結果を報じた。報道陣と明確にわかる状況があったにもかかわらずIDFの戦車が砲撃したとしている。CPJによると,パレスチナのメディア従事者の死者は12月末までに少なくとも70人に達した。IDFは「ジャーナリストを標的にしたことはない」などとしている。

メディアの動き 2024年01月18日 (木)

【メディアの動き】韓国大統領,放送法など改正に拒否権,放送通信委員長に検察官出身者を任命

 韓国のユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領は12月1日,最大野党「共に民主党」などが賛成多数で可決していた放送法など3つの法律の改正案について拒否権を行使した。またユン大統領は同月29日,直属の放送規制監督機関である放送通信委員会(KCC)の委員長に検察官出身のキム・ホンイル(金洪一)氏を新たに任命した。

 韓国の国会では11月9日,改正案について,公共放送の政治的な独立性を強化するためとして,委員会を経ずに本会議へと回され,過半数を握る「共に民主党」の主導によって可決されていた。採決の前に退席していた与党「国民の力」は,放送法の改正は,野党がメディアを掌握するための法案だとして強く反対していた。拒否権が行使された法案が再可決されるためには,在籍議員の過半数の出席と,出席議員の3分の2以上の賛成が必要。12月8日に再び国会で採決が行われたが,放送法については在籍議員291人のうち,賛成が177人,反対113人,棄権1人で否決され,放送法など3つの法案は廃棄されることになった。

 一方,KCC委員長のイ・ドングァン(李東官)氏は,野党から弾劾訴追案が発議されたことを受けて12月1日に委員長を辞任した。ユン大統領は同月6日,後任の候補者に同じく検察官出身のキム氏を指名。同月27日に開かれた国会の人事聴聞会で同意を得られなかったものの,大統領は同月29日にキム氏を委員長に任命した。就任式でキム氏は「国民の信頼と時代の潮流に即したメディアを実現させていく」などと抱負を述べた。

メディアの動き 2024年01月18日 (木)

【メディアの動き】英BBC,「将来の財源モデル」検討へ 新理事長指名のシャー氏,厳しい船出

 イギリス政府は12月7日,2024年4月からの公共放送BBCの受信許可料を,10.5ポンド引き上げて年額169.5ポンド(約3万1,100円)にすると発表した。政府は2022年に,向こう2年間は受信許可料を据え置き,2024年度から27年度までは消費者物価指数に連動する形で値上げをするとの方針を示していた。しかし,今回の値上げ幅を決めるにあたり,物価高による国民生活への影響に配慮し,当初予定していた消費者物価指数の12か月の平均値の9%ではなく,9月時点の指数6.7%を採用した。

 これによりBBCは年に約9,000万ポンド(約165億円)の財源不足が生じる見通しとなった。2027年までに4億ポンド(約736億円)の削減策を進めているBBCは同日,声明を出し,受信許可料の値上げ幅が想定より低く抑えられたことに失望の意を示した。今後,さらなる削減の検討が必要になるとの考えを示した。

 また政府は同日,メディアの環境が大きく変わる中で,現行の受信許可料には課題があるとして,BBCの将来の財源モデルについて検討作業を始める方針を示した。近く放送業界や経済界の専門家からなる独立委員会を設置し,▶現行の受信許可料の持続可能性,▶商業サービス増加の是非,▶商業収入を増加させる方策,▶受信許可料に代わる新しいモデル,などについて検討する。政府は2024年の秋までに報告をとりまとめることを求める考えで,2027年12月に期限が切れる現行の特許状の更新に向けての議論に生かしていきたいとしている。

 BBCの財源制度については,現在,議会で審議が行われているメディア法の立案に向けて政府が示した『白書』の中でも,議論の必要性に触れている。また議会の上下両院の委員会でも議論が行われ,例えば上院の通信・デジタル委員会は,▶受信許可料を,所得税などに連動して累進化する,▶広告収入で運営する,▶世帯で一律徴収する,▶税金や政府の補助金にする,▶公的資金とサブスクリプションや商業収入を組み合わせたハイブリッド型にする,など具体的なモデルを提示し,それぞれの長所と短所を検討している。

 BBCも財源制度の議論は避けられないとの姿勢を示している。同局は声明で,「BBCが将来にわたり,イギリスの価値を世界に発信し,不偏不党のニュースや国民の暮らしを伝える番組を作り続けるためにも,財源の議論は重要だ」としたうえで,「変更がある場合には,その影響を国民が十分に理解することが重要だ」との認識を示し,幅広い議論を求めた。

 こうした中,政府は,空席となっているBBCの理事長に,同局の元ジャーナリストで非執行理事を務めたサミール・シャー(Samir Shah)氏を推薦すると発表した。財源モデルの議論や次期特許状の交渉は,新理事長の主要な任務となる。しかし,12月13日に議会下院の文化・メディア・スポーツ委員会が開いた聴聞会では,現職の非執行理事が番組の編集方針に介入したと報じられたことや,首相官邸との距離の近さなど,BBCの独立性について激しい応酬があった。聴聞会のあと,委員会は「シャー氏の理事長への就任を認めるが,BBCに関する極めて重要な課題についてみずからの考えを十分に説明せず,組織が必要としている強い指導力をうかがうことはできなかった」と批判的な見解を付記し,就任3か月後に再び委員会の聴聞に応じるよう求めた。

調査あれこれ 2024年01月17日 (水)

パーティー券裏金問題の先は?~岸田自民党の鈍感力と国民の視線~【研究員の視点】#524

NHK放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 昨年末に強制捜査に着手した東京地方検察庁特捜部は、関東で正月の松があける7日に池田佳隆衆議院議員(安倍派)を政治資金規正法違反容疑で逮捕しました。特捜部は池田容疑者が収支報告書の不記載や虚偽記載によって得た裏金の額が多いことや、証拠隠滅の疑いを把握したことから逮捕に踏み切ったと伝えられています。

0117ikeda_1_W_edited.jpg逮捕された池田佳隆衆院議員

 この問題では、最大派閥・安倍派の歴代事務総長経験者などが、次々に東京地検から任意の事情聴取を受ける事態となりました。自民党の政治とカネを巡る問題、とりわけ規正法のもとで企業献金に代わる方法として温存されてきた「パー券売り」にメスが入ったことは画期的です。

 ルールを守っていればまだしも、永田町の相場で1枚2万円のパーティー券をどこに大量に買ってもらい、どのように使ったかが闇の中に隠されたままであることが許されるのかという問題です。

 政治資金として集めた金は課税対象にならないという特典は、「議会制民主主義を育てる財源」だからというのが政治資金規正法の建前です。つまり国会議員という「選良」が行うことだからという、性善説に基づく仕組みなのです。それが無残に裏切られ裏金化されていた点に、国民の強い怒りが噴出したのは当然です。

 この国民の怒りの声を背に受けて、検察当局も「公開ルールの順守を怠った形式犯」では済まされないという判断に至ったと見ることができます。億単位の賄賂が介在するような贈収賄事件とは異なるにしても、政治の信頼を失墜させる罪の重さに異例の捜査が行われたのは当然でしょう。

0117kensatsu_2_W_edited.jpg

 そして捜査が続く1月12日(金)から14日(日)にかけてNHKの月例電話世論調査が行われました。昨年12月の調査では、自民党が2012年に政権に復帰して以降の11年間で最も低い「支持率23%」を記録していました。

☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。

 支持する 26%(対前月+3ポイント)
 支持しない 56%(対前月-2ポイント)

昨年後半から下降傾向が続いていた内閣支持率は、いったん下げ止まった形です。しかしながら統計上は支持も不支持も前月からの変化に有意差はありません。つまり誤差の範囲内の変化だということです。

 今回は能登半島地震という大きな自然災害があり、被災地の救援や復旧にあたる政府の対応に期待が寄せられていたという事情もあります。

☆あなたは能登半島地震への政府のこれまでの対応を評価しますか。評価しませんか。

 評価する 55%
 評価しない 40%

評価する声が過半数に上り、岸田内閣に対するアゲインストの風を和らげている面もうかがえます。

 とはいえ、自民党が政治とカネの問題で失った信頼を回復するのは容易なことではないでしょう。次の数字を見れば一目瞭然です。

☆派閥の政治資金パーティーをめぐる問題を受けて、自民党は「政治刷新本部」を立ち上げ、再発防止策などの検討を始めました。これが、国民の信頼回復につながると思いますか。つながらないと思いますか。

 つながる 13%
 つながらない 78%

つながらないと回答したのは与党支持者で66%、野党支持者で88%、無党派で85%となっています。与党を支持する人たちでも、厳しい受け止めが3分の2に上っています。

0117sassinn_3_W_edited.jpg自民党「政治刷新本部」(1月11日)

 「政治刷新本部」に対しては、派閥が生んだ問題を派閥均衡のようなメンバーで議論するのは陳腐だという指摘や、パーティー券の裏金を受け取った安倍派議員も含まれているのはいかがなものかといった批判が出ています。

☆あなたは政治資金規正法を改正し、ルールを厳しくする必要があると思いますか。必要はないと思いますか。

 必要がある 83%
 必要はない 9%

こちらについては与党支持者、野党支持者、無党派のいずれを見ても、ルールを厳しくすべきだという答えが8割から9割に上っています。

 問題はパーティー券を購入した相手と金額を明らかにする徹底した情報公開と、事務所の会計責任者が違法行為をした場合に議員本人の責任も問う連座制の適用にまで踏み込むことができるかです。これが最低限のラインだと思います。

 では今回の問題の土台にある自民党の派閥について、国民はどういう見方をしているのでしょう。

☆あなたは自民党の派閥のあり方についてどう思いますか。

 今のままでよい 5%
 存続させても改革すべき 40%
 解消すべき 49%

自民党支持者が大多数を占める与党支持者では「存続させても改革すべき」が5割に達して多数ですが、野党支持者と無党派では「解消すべき」が5割超から6割に上っています。

0117kokkai_4_W_edited.jpg

 派閥連合体として国会で多数派を形成し、長く政権を担当してきた自民党にとって、党内で競い合うことが活力の源だという従来の考え方を変えるのは簡単ではなさそうです。ただ、それでは自民党が自ら失うことになった信頼の回復をどこまで図ることができるかも不透明です。

 一方で、派閥は残しても政治資金規正法のルール強化が進むことになれば、これまでのように表に出さない政治資金の確保は困難になります。野党議員と比べ、地元に大勢の私設秘書を抱えて議席を守ってきた活動スタイルにも影響が出るでしょう。

 あれやこれや考えると、直ちに政権交代が起きるような展開はないにしても、自民党の信頼や資金集めがやせ細っていくことを懸念する声は消えそうもありません。ある自民党の閣僚経験者は「次の参議院選挙は来年2025年夏。衆議院の任期満了は2025年10月。それまでには潮目の変化があるだろう」と期待交じりで語ります。

 野党がバラバラだから怖くない、というのが自民党関係者に深刻な危機感を生じさせていない最大の要因でしょう。それが岸田自民党全体の「鈍感力」の核になっているように見えます。しかし、信頼回復のないまま党としての勢いがやせ細る展開になるならば、少数与党に甘んじ、結果として野党側の結集を促す事態も否定できません。 

0117kishida_5_W_edited.jpg

 今年9月の自民党総裁選への対応も含めて、岸田総理がどういう展開を目指そうとしているのか現状でははっきりしません。

 まず当面は、今月26日からの通常国会前に「政治刷新本部」が打ち出す最初のメッセージを国民がどう受け止めるかです。これが最初の関門として立ちはだかっています。

 w_simadasan.jpg

島田敏男
1981年NHKに入局。政治部記者として中曽根総理番を手始めに政治取材に入り、法務省、外務省、防衛省、与野党などを担当する。
小渕内閣当時に首相官邸キャップを務め、政治部デスクを経て解説委員。
2006年より12年間にわたって「日曜討論」キャスターを担当。
2020年7月から放送文化研究所・研究主幹に。長年の政治取材をベースにした記事を執筆。

調査あれこれ 2024年01月15日 (月)

世帯年収の違いによるコロナ禍の影響の濃淡② ~「新型コロナウイルス感染症に関する世論調査(第3回)」の結果から③~【研究員の視点】#523

世論調査部(社会調査)小林利行

国内で新型コロナウイルスの初感染が確認された2020年1月15日から4年がたちました。

NHK放送文化研究所では、2020年から2022年までの3回にわたって毎年秋にコロナ禍に関する世論調査1を実施し、3回目の調査結果を中心とした分析を、『放送研究と調査』の2023年5月号と7月号に掲載しました。
そして今回は、「世帯年収の差」に注目して分析を深め、一部の分析結果を去年12月に公開したブログ「世帯年収の違いによるコロナ禍の影響の濃淡①に載せました。
このブログでは、3回の調査結果の時系列比較を通して、世帯年収差によるコロナ禍の影響の違いについて掘り下げたいと思います。

調査では、毎回、生活満足度について尋ねています(図①)。
時系列でみると、どの年収層でも『満足している(どちらかといえばを含む)』という人がおおむね増える傾向がみられます。
実は、感染拡大の不安感について同じく時系列でみると、『不安だ(非常に+ある程度)』という人がすべての年収層で年々減少する傾向にあるのです。全年収層での生活満足度の上昇は、重症化率が低下しながらコロナ禍が常態化して不安感が徐々に少なくなっていったことが要因のひとつと考えられます。
ただし、『満足している』と答えた人の増え方を詳しくみると、年収別で大きな違いがあるのがわかります。例えば「300万円未満」は2020年の48%から2022年の53%と5ポイントの増加だったのに対して、「900万円以上」は2020年の54%から2022年の77%と23ポイントの増加となっています。

図① 生活満足度(世帯年収別)※2
0115_1_2.PNG

それでは、収入が多い人ほど生活満足度の上昇幅が大きいという現象にはどんな要因が考えられるでしょうか。
時系列を考える上でまず考慮しなければならないのが、それぞれの調査年の状況です。2020年秋と2021年秋は、「不要不急の外出は控えよう」という政府の要請もあり、誰もが自由に外出できるという雰囲気ではありませんでした。一方2022年の秋は、新規感染者数は以前より多かったものの、重症化率が下がっていたこともあって、行動制限は大幅に緩和されていました。

このことを頭に入れたうえで図②をみると、2020年から2021年にかけては、高収入層の満足度が目立って上昇した要因のひとつとして「テレワーク」の広がりが考えられます。

実践している感染対策としてテレワークをあげた人は、2020年から2021年には、全体で10%から11%へ1ポイントながら有意に増えています。年収別にみると、有意差はつかないものの年収が高くなるほど増加の幅が大きくなる傾向がみられます。

図② 実践している感染対策「テレワーク」(世帯年収別)
0115_2_2.PNG

ブログ世帯年収の違いによるコロナ禍の影響の濃淡①でも示したように、コロナ禍の生活変化を『プラス』とした高収入層の理由で目立ったのが「在宅勤務の実施」でした。このことも考え合わせると、高収入層においては、少なくとも2020年秋から2021年秋までのコロナ禍の前半期においては、テレワークの継続と広がりが満足度上昇の要因のひとつだったと考えられます。

一方、その翌年の2022年までの1年間では、図②の「全体」をみてもわかるように、テレワークは減少しています。これは、行動制限が緩和されて会社などへの出勤も以前より増えたためと考えられます。

行動制限が緩和されると、「旅行」「飲み会」「イベント参加」などもできるようになります。
図③は、ストレスが『増えた』という人の中で、その要因として「気軽に遊びに行けないこと」を選んだ人の結果です。これをみると、2021年から2022年にかけて、高収入層の満足度が増えた要因のひとつが「行動制限の緩和」であることが浮かび上がります。

図③ ストレス要因「気軽に遊びに行けない」(世帯年収別)
【ストレスが『増えた』と回答した人】
0115_3_2.PNG

「600~900万円」と「900万円以上」では、2021年にストレス要因として「気軽に遊びに行けないこと」を選ぶ人が8割以上いましたが、2022年にかけて減少しています。特に「900万円以上」では81%から67%と大きく減っています。

12月のブログ世帯年収の違いによるコロナ禍の影響の濃淡①でも示しましたが、コロナ禍の生活変化をプラスかマイナスのどちらと捉えているかとの問いに、『マイナスだ』と答えた人のうち、世帯年収「600~900万円」と「900万円以上」が選んだマイナスの理由で多かったのが、「旅行やイベントや会食に行けなかったから」でした。高収入層にとっては、気軽に出かけられないことが低収入層に比べてストレスになりやすい一方、以前のように出かけられるようになるとその開放感も大きく、生活満足度の向上にもつながったのではないでしょうか。

そしてもうひとつ、高収入層の満足度が2021年から2022年にかけて増えた要因としては、収入の変化の違いも影響しているとみられます。
図④は、コロナ感染症の拡大前と比べて収入が『減った』という人の世帯年収別の結果ですが、2021年から2022年のポイントの変化に注目すると、有意差はつかないものの「300万円未満」でプラス3、「300~600万円」でマイナス1、「600~900万円」でマイナス5、「900万円以上」でマイナス7となっていて、年収が多いほど回復が早い傾向があることがわかります。

図④ 収入の変化(世帯年収別)
0115_4_2.PNG

あらためて、低収入層より高収入層のほうが生活満足度の増え方が大きいことの要因だと考えられることをまとめます。
①2020年から2021年にかけては主にテレワークの継続と広がり、②2021年から2022年にかけては、行動制限の緩和によって気軽に遊びに出かけられるようになり、心理的な開放感をより強く持てたことと、収入が『減った』という人が低年収層に比べて減少したこと。

こうしてみていくと、3年余りにわたるコロナ禍では、最初は厳しい行動制限や経済の落ち込み、それに感染拡大に対する大きな不安感などから、全般に不満が高かったのですが、長期化を経てコロナ生活の日常化もあり、さらに終盤に行動制限が緩和されたり経済回復の芽がみえたりしたことで、全般に不満が減っていったようです。
こうした中でも、状況に対応できるリソースが多い高収入層は、行動制限が厳しくなっても緩くなっても、低収入層に比べると、何らかの形で満足感を得やすくて、年々その差が広がるという構図になっていたとみられます。

社会の変化を人々がどう受け止めているのか。
こうした数字を提示するのも世論調査の重要な役割のひとつです。
今回の調査結果は、新たなパンデミック(世界的大流行)の際には、低収入層への初期段階での迅速な経済的支援などが必要なことを示していて、今後のパンデミック対策の参考になると思います。そして、次はどうしたらいいのか?みなさまも一緒に考えていきましょう。

このほか、「放送研究と調査 2024年1月号」では、世帯年収の差によって心理的・精神的な影響が違うこと、社会全体のデジタル化の捉え方に大きな差異があることなどを紹介しています。

ぜひご覧ください。


※1 新型コロナウイルス感染症に関する世論調査(第3回)
※2 
不等号が開いているほうが有意〔信頼度95%〕に多いことを示しています。2022年の下にある不等号は2020年と2022年を比べたもので、例えば「全体」の62%の下にある∧は、2020年の49%より62%が有意に多いことを表しています。

おすすめ記事】
①「放送研究と調査」 2023年7月号
新型コロナ感染拡大から3年 コロナ禍は人々や社会に何をもたらしたのか-NHK
②「放送研究と調査」 2023年5月号
コロナ国内初感染確認から3年 人々の暮らしや意識はどう変わったのか-NHK

【小林利行】
NHK放送文化研究所の世論調査部員として、これまで選挙調査から生活時間調査まで幅広い業務に携わり、
最近では「災害」「憲法」「コロナ禍」などの調査に取り組んでいる。

調査あれこれ 2024年01月11日 (木)

幼児のテレビ・ネット動画利用は平日と土日でどう違う?【研究員の視点】#522

世論調査部 (視聴者調査) 築比地真理

「ママ、なんできょうは朝のテレビやってないの?」
日曜の朝、Eテレを見ている4歳の娘から問われました。
「日曜日は、お休みの日だから子どものテレビもお休みなのかな」と私は答えました。
日曜もふだんと変わらない時間に起きて、子どもはテレビの前に座り、いつもの番組が始まるのを待っているのに、日曜日はなぜ平日や土曜日に比べて子ども向け番組の放送が少ないのだろうと、放送局で働くひとりとして疑問に思った瞬間でした。

さて、NHK放送文化研究所では、小学校に入る前の2歳~6歳の幼児を対象とした「幼児視聴率調査」を1990年から実施しています。
「大人」のメディア利用実態の調査は世に多くありますが、幼児のみに特化して調査したものは珍しく、保護者による代理記入・回答ではありますが、日記式とアンケートの結果を組み合わせ、幼児のメディア利用の現在地を知ることができる調査になっています。

今回は、2022年に実施した最新の調査結果から、こうした幼児のメディア利用が平日と土日でどのような違いがあるのかに注目して、結果をご紹介します。
(『放送研究と調査』1月号の内容を再構成しています。全文はこちら

以下の図は、下記4項目の30分ごとの平均利用率を時刻別に積み上げて、山のような形にして示したものです。それぞれ、平日・土曜・日曜のものとなっています。

① NHK総計(地上波+衛星波)
② 民放総計(地上波+衛星波)
③ インターネット動画
④ 録画番組・DVD  

NHK総計/民放総計/ネット動画/録画DVDの30分ごと平均利用率の積み上げ

           〈平日〉
heijitu.png

           〈土曜〉
doyou.png           〈日曜〉
nichi.png


朝の時間帯の視聴状況

まず、冒頭のエピソードで紹介した朝の時間帯に注目すると、この4項目の合計(以下、「4項目計」)の山の高さは、平日・土曜・日曜とも大きく変わらないことが分かります。
平日・土日に関係なく、子どもが毎日規則正しく生活しており、朝は何らかのコンテンツを視聴する習慣がついている可能性が感じとれます。
ただ、朝の「4項目計」を項目ごとで分けてみると、平日と土曜ではNHK(赤色)がよく見られているのですが、日曜はNHKと民放(ピンク色)の割合が逆転していることが分かります。ちなみに、幼児の場合、NHKでの視聴はEテレが大半となっています。

冒頭でも述べたように、平日と土曜の朝はNHKのEテレで子ども向け番組が多く放送されているのですが、日曜の朝は他の曜日ほど子ども向け番組が放送されていません。一方、日曜の朝にはテレビ朝日が長年放送している、戦隊ヒーローや仮面ライダー、ヒロインが変身して戦うシリーズなどの幼児~小学生向けの番組があります。本調査では「よく見られた番組」についても聞いていますが、その結果からも日曜は幼児がこれらの番組を見ていることが分かります。

日中から夕方の視聴状況

朝以外の時間はどうでしょうか。平日の夕方では、「4項目計」が朝に匹敵するボリュームであり、午後6時30分~7時30分では3割に迫っています。一方で、日中のメディア利用はほとんどない状態です。平日は、幼稚園や保育園に登園している幼児が多いことからもこの結果は納得ですね。

これを、テレビやインターネット動画などに分けて見ていきます。まずテレビについてみると、NHKは土日の夕方から夜にかけては平日ほどの勢いがありません。一方、民放は土日でも大きな減少はみられず、土曜は午後7時~7時30分、日曜は午後6時30分~7時によく見られています。週末の夕方はどちらかというと民放のテレビの方が視聴されているようですね。
実際に週末の夕方に民放でよく見られた番組としてあげられていたのは、土曜ではテレビ朝日の「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」、日曜ではフジテレビの「サザエさん」「ちびまる子ちゃん」などのアニメでした。
また、動画の利用については、平日では日中の利用は少ないものの、午後から夜にかけてよく見られています。一方で土日は、日中においても一定の視聴があるなど、幅広い時間帯でコンスタントに利用されており、土日とも午後1時から5時の時間帯で3~7%台を維持していました。
土日の午後によく見られたコンテンツを確認してみると、YouTubeのゲームやYouTuberの動画、「アンパンマン」や「ポケットモンスター」関連の動画など、さまざまな内容が挙げられており、幼児の関心に応じた幅広いコンテンツが選択されているとも言えそうです。

ここまで見てきたように、平日と土日で幼児のメディア利用を比較すると、曜日によって見ている放送局や番組が異なるほか、土日では日中からネット動画を見ているなど、テレビのリアルタイム視聴以外のコンテンツへの活発な接触も見られることが分かりました。

バラエティー豊かなコンテンツを楽しむ幼児

テレビの視聴は、どうしてもその時間帯の番組編成に左右されがちな面もあるかと思いますが、見たいコンテンツが放送されていない時間帯でも、ネット動画やタイムシフトなどをうまく活用して、それぞれの時間帯ごとに、自分が見たいと思うものに応じてコンテンツを視聴している様子が感じられます。
最近では、子どものYouTuberによるYouTubeチャンネルなども人気を博していたり、動画配信サービスでも幼児向けコンテンツが豊富になってきたりしており、さまざまな選択肢が選べる環境が整ってきたと思います。そうした環境の中で子育てをするひとりの親の視点から言うと、さまざまなコンテンツを選びやすくなったからこそ、NHK・民放・ネット動画などのそれぞれの強みやメリットを生かして、子どもには多彩なコンテンツに触れて、感性を高められるようになってほしいと、調査結果から考えさせられました。

この調査ではほかにも、幼児がインターネット動画をどのように利用しているのか、さまざまな角度から分析しています。下記よりぜひご覧ください。

『放送研究と調査』2024年1月号 
幼児はテレビやネット動画などをどのように使い分けているのか
~「幼児視聴率調査」から~

『放送研究と調査』2022年12月号
幼児はテレビ放送やインターネット動画などをどのように見ているのか
~2022年6月「幼児視聴率調査」から~ 

tsuihiji.jpg

【築比地 真理】
2014年NHK入局。高知放送局・札幌放送局で番組編成などを担当し、2020年より放送文化研究所にて幼児視聴率調査や国民生活時間調査・メディア利用の生活時間調査などに関わる。名前の読み方は「ついひじ」