文研ブログ

メディアの動き 2019年09月17日 (火)

#208 NHKの常時同時配信実施と2.5%の関係

メディア研究部(メディア動向)村上圭子

今年6月に公布された改正放送法によって、
NHKはインターネットで放送と同じ番組をまるごと配信する
「常時同時配信」の実施が認められることになりました。
NHKは今後、受信契約者と同一生計の家族を対象に、
総合テレビとEテレの2チャンネルについて
同時配信と1週間程度の見逃し配信を行う予定です。

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(出典 総務省「放送を巡る諸問題に関する討論会」NHK報告資料より 6月25日) 

このNHKの常時同時配信について報じるニュースには最近、
必ずといっていいほど「2.5%」という数字が出てきます。
この「2.5%」とはいったいどのような数字なのか、
そして、その数字を取り巻く議論を中心に、
最近のNHKの常時同時配信を巡る論点をまとめてみます。

まず「2.5%」というのは、NHKがネット活用業務を行う際、
受信料収入のうちここまで費用として使いますという「上限」として、
自ら設定している数字です。
NHKにとってネット活用業務は現在、
放送サービスの「補完」という位置付けです。
また、発展中のネットサービスは、IT事業者はもちろん、
民放や新聞をはじめ、多くのメディアがビジネスでしのぎを削る分野です。
そのため、NHKは民間のビジネスを脅かさないよう、
ネット活用業務の種類、内容、実施方法、そして特に費用について、
自ら「インターネット実施基準」を設けて
その下で適正に行っていくことが制度として定められているのです。
受信料収入をここ数年の実績から、毎年およそ7000億円と仮定した場合、
2.5%は約175億円となります。

2.5%というこの上限は2015年に設定されたもので、
それ以降NHKは、この上限の中で様々なネットサービスを行ってきました。
今回、放送法が改正され、NHKが常時同時配信の実施を予定していることから、
この実施基準が見直されることになりました。
民放各社や新聞各社及び業界団体は、
NHKが常時同時配信を実施することになったとしても、
NHKのネット活用業務が民業を圧迫する可能性がある以上、
2.5%の上限は変えるべきではない、と強く訴え続けてきました。
現在NHKは、上限ぎりぎりまで(2019年度予算では2.4%)サービスを行っています。
常時同時配信を実施するには、権利処理料や人件費を除いても、
年間約50億円の費用がかかるとNHKは説明してきました。
同じ枠の中で常時同時配信を行う場合には、
これまで実施してきた様々なネットサービスを縮小しなければなりません。
そのため、NHKが2.5%という上限をどうするのか、
実施基準の見直し案が注目されていたのです。

※これまでの常時同時配信を巡るNHKと民放等の議論の詳細は、 
「「これからのテレビ」を巡る動向を整理するVol.10」 

「これからの“放送”はどこに向かうのか?Vol.3」 をご覧ください。 

NHKは9月10日、実施基準の素案をウェブサイトに公開しました。
実施基準はNHKの自主的な基準ですが、
素案を公表して意見募集(パブリックコメント)を行い、
総務大臣の認可を受けなければ、
常時同時配信を含むネット展開を実施することができない仕組みとなっています。
10月4日まで意見募集が行われています。

※NHKの「インターネット実施基準(素案)」のご意見募集ページ
     http://www.nhk.or.jp/mediaplan/goikenboshu/index.html 

またNHKは、翌日11日に開催された
総務省の「放送を巡る諸課題に関する検討会」でも報告を行いました。
その際の報告資料がわかりやすいので再掲します。

 

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 (出典 総務省「放送を巡る諸課題に関する検討会」NHK報告資料より 9月11日)

NHKは今回はじめて、ネット活用業務を2つの項目に分けて示しました。
1つが常時同時配信を含めた「基本的業務」、
もう1つが「公益性の観点から積極的な実施が求められる業務」(公益性業務)です。
「基本的業務」はこれまで通り、2.5%の上限を守ることとしました。

この素案の内容について、複数の新聞は、
これまで2.5%の枠内で行っていた業務の費用の一部を公益性業務に移行したことなどから、
「実質的に2.5%を超える基準案」「実質的な“上限の引き上げ”」と報じました。
筆者が傍聴した検討会では、
「2.5%そのままではいかないと思っていたので、公益性という形で外出しして
もらってわかりやすくなった」という構成員からの意見がありましたが、
それ以外に2.5%を巡る発言はありませんでした。
一方、公益性業務については算出根拠を明らかにすべき、との意見がありました。
こうした費用に関する意見以上に多かったのが、
NHKのネット活用業務に関する評価や検証の必要性に対する意見でした。
ネットサービスがどれだけ利用されたのか、
他の民間のサービスと比べて公共的価値を生んでいるのか等について、
内部の検証だけでなく、第三者も入れた調査や評価を行うべきとの意見です。
また、受信契約者と同一生計の家族にIDを発行する仕組みについての課題も
示されましたが、
受信契約の単位についての課題は、NHKだけでなく総務省において、
放送法改正の議論としてしっかり検討すべきだ、との意見も出されました。 

受信料を活用して実施するNHKのネットサービスは、
全てが公共サービスであることは言うまでもありません。
NHKは今回、より“公益性”のある業務を抜き出して新たに設定しましたが、
2020年度に特有の④を除くと、①から③まではいずれもその中身について、
NHKが自身のみで決めるのではなく、
国民や社会からNHKに何が“求められている”のか、
NHKがその意見を受け止めた上で具体的に決めていかなければならないものです。

NHKはどこまで細かく地域の番組・情報をネットで配信すべきなのか、
NHKが民放と協力してネット展開を模索していく意義とは何なのか、
NHKは高齢者や障がい者をはじめとした人々に特化した
ネット活用サービスをどのように行っていくべきなのか、
NHKはどこまで海外(在留邦人も含む)に向けた
番組・情報を充実させていくべきなのか。
受信料を活用しなければできない公共的なネットサービス、
民業を圧迫せず民業には出来ないネットサービスとは何なのか・・・・・・。

筆者は業界の動向や総務省の検討会の議論をウオッチすることを業務としていますが、
NHKのあり方については、
より国民や社会に開かれた議論をしなければならないと常日頃から感じています。
今回はNHKのネット活用業務という観点からですが、
このブログを通じて少しでも関心を持ってもらえると嬉しいです。

※10月1日発行の「放送研究と調査」には、
常時同時配信を含む今年上半期の放送業界の動向をまとめた
「これからの“放送”はどこに向かうのか?Vol.4」 が掲載されます。
ご期待ください!

メディアの動き 2019年09月13日 (金)

#207 誤情報・虚偽情報の打ち消し報道でマスメディアが注意すべきこと

メディア研究部(メディア動向)福長秀彦


いつの時代でも、どんな社会であっても、事実の裏づけのない怪しげな情報が出回るものです。でも、今はそれがインターネットのサイトやSNSによって瞬時に、爆発的に拡散してしまいます。怪しげな情報の中には、人びとの安全や健康、民主主義社会の健全な世論形成を損なうおそれのある誤情報(間違い)や虚偽情報(ウソ)が含まれていることがあります。
マスメディアは強力な取材力と情報伝達力をもっていますから、怪しげな情報の真偽を迅速に確認して、公益を害する誤情報・虚偽情報の拡散を抑制する役割があると考えます。マスメディアが誤情報・虚偽情報を否定し、それらに惑わされたり、拡散したりしないよう呼びかける「打消し報道」を行う際に、注意すべき事柄や課題を『放送研究と調査』8月号にまとめてみました。

打ち消し報道の例(2018年6月「大阪府北部の地震」
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   (注)2018年6月18日NHK「ニュース シブ5時」の放送画面


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①正確な情報は拡散力が弱い
打ち消し報道の内容は誤情報・虚偽情報と比べると「新奇性」に欠けるので、拡散力が弱いと考えられます。そこで、打ち消し報道はできるだけ繰り返し行う必要があると思います。
②タイミングを見計らう必要がある
誤情報・虚偽情報が拡散していないのに打ち消し報道をすると、まだ知らない人にまでそれらを伝え、新奇性の強い誤情報・虚偽情報の中身だけが独り歩きしてしまうおそれもあります。
③打ち消し報道への抵抗・反発もある
人びとが信じ、あるいは信じたいと思っていることを否定し、他の人に伝えたいと思う気持ちにブレーキをかけると、抵抗や反発を招くことがあります。そうした受け手の心理に配慮することが必要でしょう。
④「流言」のすべてが誤情報とは限らない
流言とは揣摩臆測による根拠のない情報が、人びとの不安や怒りなどの感情によって拡散するものです。多くは事実に反する誤情報ですが、中には事実と間違いが混然となったものもあります。その場合「デマ」という言葉で一括りにして表現すると、すべてを事実無根、ウソと決めつけてしまうことになるので、注意が必要です。
⑤偽動画は巧妙化するおそれがある
偽動画はAIの機械学習などの手法を悪用して、ますます巧妙化するおそれがあると言われています。アメリカでは既にメディアや大学などが偽動画を見分ける技術の研究を行っていますが、日本国内でも今後は巧妙な偽動画が出回る可能性があります。
⑥放送の特性に配慮する
テレビやラジオで打ち消し報道を見聞きしても、聞き逃しや聞き間違い、早合点をしてしまうこともあります。放送画面からネット上などの打ち消し情報(活字・図表)に随時アクセスできれば便利だと思います。

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打ち消し報道をしても、人びとの信頼が得られなければ、誤情報・虚偽情報の拡散抑制はおぼつかないでしょう。
災害時に拡散する誤情報・虚偽情報の打ち消し報道は、人びとの命や安全を守るという目的が分かりやすいので、比較的受け入れられやすいのではないかと思います。緊急時で人びとが強い不安や恐怖感を抱いているときには、あまり信頼していないテレビ局であっても、また信じたい情報を否定する報道であっても、マスメディアの取材力と専門性を“とりあえず方便で”信頼してみようかという心理が働くことが考えられます。
一方、政治や外交、歴史といった分野の誤情報・虚偽情報の打ち消し報道をする目的は、客観的な事実に基づく衆議によって最適解を導き出す民主主義のプロセスを守ることですが、これは人びとにとってそれほど分かりやすいものではないでしょう。誤情報・虚偽情報が何らかの主義・主張、党派的選好と結びついていると、打ち消し報道が特定の言論を正当化するために行われていると曲解されるおそれがあります。
打ち消し報道の対象を選ぶときには、どうしても記者の価値判断が入ります。だからこそ、打ち消し報道の「公益性」を如何にクリアに説明するかが追求されなければならないと考えます。


メディアの動き 2019年09月06日 (金)

#205 東京2020パラリンピックまで1年 放送の役割を改めて考える

メディア研究部(メディア動向)越智慎司


ことし3月の「文研フォーラム」で、パラリンピックの調査研究を続ける研究員たちが「共生社会実現と放送の役割~東京2020パラリンピックをきっかけに~」と題したシンポジウムを企画し、その内容を『放送研究と調査』8月号に掲載しました。2020パラリンピックの1年前という節目に、改めてシンポジウムでのパネリストの発言を振り返りたいと思います。

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(「文研フォーラム」シンポジウムの様子)


パラリンピックのメダリストで、IOCとIPCの教育委員として子どもたちへの教育活動を進めるマセソン美季さんは、こう述べました。
「パラリンピックの競技映像を配信するだけで、インクルーシブな社会がつくり出せるとは思っていません。(中略)アスリートだけではなく、さまざまな障害のある人たちが、競技場以外の場所でも社会人として活躍し、社会に貢献できるようにする。そんな場をつくったり、機会をつくったりすることができるような視点というものも意識して、報道につなげていただきたいと思っています」

イギリス・チャンネル4に在籍した当時、ロンドンとリオデジャネイロのパラリンピック放送に携わり、出演者にも制作側にも障害者を起用することに取り組んだアディ・ロウクリフさんは、こう述べました。
「放送事業者としては、障害のある人たちの経験を放送に取り込んでいかなければなりません。まずは、そんなに少数派ではありませんよということを認識すること。(中略)やはり知識を共有することが一番大事だと思います。慈善団体も巻き込んで、業界全体で知識を共有する。これが、うまくいった鍵だったと思います」 

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(マセソン美季さん アディ・ロウクリフさん)


パラリンピックには、障害のある人もない人も尊重し合える「共生社会」に結びつけるという大きな目的があります。放送もその目的に向け、2020を越えて役割を果たさなければなりません。社会を変え、人々の意識を変えるためには、放送に携わる者から意識を変えなければならない。そのことを2人は指摘しています。

『放送研究と調査』では、最新の9月号から、パラリンピック放送への提言などをパラリンピアンや外国の放送関係者などに聴いたインタビューを4回シリーズで掲載しています。10月号でロウクリフさん、12月号でマセソンさんと、2人のパネリストにもさらに詳しく話をうかがいました。8月号とあわせ、こちらもぜひご覧ください。



メディアの動き 2019年08月30日 (金)

#204 連携ジャーナリズムが挑む「ニュースの砂漠」と「ニュースのジャングル」

メディア研究部(海外メディア研究)青木紀美子


ニュースの砂漠?ニュースのジャングル?何やら言葉遊びのようですが・・アメリカのジャーナリズムが直面する危機をあらわした表現です。
デジタル化の波で地方の新聞が減り、記者の数も減り、地域に密着した取材発信がなくなった情報の空白地帯が増えているというのが「ニュースの砂漠」です。
一方で、市民の側からみると、さまざまな媒体が溶け込んだデジタル空間には不確かな情報や偽情報を含めて情報が氾濫し、必要な情報がどこにあるのか、何が信頼できる情報なのかが分かりにくい、情報の乱立状態になっているというのが「ニュースのジャングル」です。


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こうした情報の空白地帯「ニュースの砂漠」と情報の乱立状態「ニュースのジャングル」に立ち向かおうとする試みの一つがコラボレティブ・ジャーナリズム(Collaborative Journalism)です。
日本ではあまり耳にしない表現ですが、複数のメディアの協力(Collaboration)によって取材発信することで、アメリカでは調査報道(Investigative Journalism)や課題解決型のジャーナリズム(Solutions Journalism)などと並んで、取材報道の一つのあり方と位置づけられるようになっています。
私はこれを「連携ジャーナリズム」と訳してみました。広辞苑によると「連携」は「同じ目的を持つ者が互いに連絡をとり、協力し合って物事を行うこと」とあり、まさしくCollaborative JournalismのCollaborationが意味するところに近いと考えたためです。
アメリカの地域メディアの「連携ジャーナリズム」では、社会の課題解決など、目的を共有する複数のメディアが取材力と発信力を持ちより、相互に補完することによって空白を埋め、市民にとって信頼できる情報の一つの指標になることをめざしています。


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同じ業種だけではなく、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、オンラインと、多様なメディアが垣根を越えて集まり、規模の大小にかかわらず対等なパートナーとなるチームが増えています。また、取材するテーマを決めるところからメディアどうしで話し合い、あるいは、ともに市民の意見や要望を聞きとり、単発の記事で終わるのではなく継続的に連携する例が目立ちます。
地域ジャーナリズムの支援に力を入れる非営利財団Knight Foundationは、2019年は「ローカル連携の年(A Year of Local Collaboration)」 になると予想しました。では、実際にはどのようなメディアが参加した連携ジャーナリズムが行われ、どのような成果をあげているのでしょうか。「放送研究と調査7月号」の「アメリカで広がる 地域ジャーナリズムの連携とその可能性」でさまざまな具体例を紹介していますので、ご一読ください。


調査あれこれ 2019年08月23日 (金)

#203 「放送のインターネット同時配信」で、テレビコンテンツの視聴機会が増える!?

世論調査部(視聴者調査)山本佳則


リビングでスマホのアプリを起動させ、見逃していたテレビコンテンツを夜な夜な視聴する妻(本当は放送と同時にリアルタイムで見たいのだが・・)、その横の寝室で子どもを寝かしつける私。

日中は仕事・育児・家事に追われ、ゆっくりテレビなんて見られない!
ましてや子どもが寝てからは、テレビはなんとなくスイッチを点けにくい!
テレビコンテンツを、インターネットを経由してスマホで視聴することが、我が家では普通の光景になりつつあります。

放送研究と調査7月号」では“ユーザーからみた新しい放送・通信サービス”と題し、2018年11月に実施した「メディア利用動向調査」の結果を掲載していますが、この中から「放送のインターネット同時配信」についての報告の一部をご紹介します。


まず、実際に利用したいと考える人はどの程度なのか、「あなたは、インターネット同時配信が災害時などに限らず、日常的に実施されるようになったら、利用したいと思いますか」と尋ねました。

結果は「利用したいと思う」と「どちらかといえば利用したいと思う」を足した「利用したいと思う」計が全体で37%でした。男女年層別にみると男女16~29歳、男40~50代でおよそ5割と全体よりも高く、若中年層で一定の需要があることがうかがえます。

<インターネット同時配信の利用意向>(男女年層別)
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は全体と比べ統計的に高い層であることを示す


次にインターネット同時配信の利用意向はテレビ視聴時間の長短と関係があるのかをみてみました。
ここでは、テレビの視聴時間が比較的長い高齢者を除いて59歳以下の方に絞っています。

<インターネット同時配信の利用意向とテレビ視聴時間量(59歳以下)>
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は「利用意向なし」と比べて統計的に高いことを示す
                           〇は「利用意向なし」と比べて統計的に低いことを示す

同時配信を「利用意向あり」の人は「意向なし」の人に比べて、「テレビをほとんど、まったく見ない」は少なく(10%<16%)、逆に「テレビを30分~1時間くらい視聴する」は高くなっています(33%>27%)。

つまり、インターネット同時配信の利用意向のある人は、テレビに接触しているものの視聴時間が短い、いわゆる“ライトユーザー”であると考えられます。

まさしく私も妻も子育て中の身で、いわばテレビ視聴の“ライトユーザー”。
インターネット同時配信が始まったら、みたかったスポーツやドラマも、リアルタイムでスマホで視聴できるようになるかも・・と期待しつつ。

放送研究と調査7月号」もぜひご覧ください。


放送博物館 2019年08月16日 (金)

#202 NHK放送博物館で「音の展覧会」を開催中です!

計画管理部 東山一郎


NHK放送博物館では、「むかしの音でめぐる“にっぽん”」と題した企画展を開催中です。
この企画展は、日本各地の方言や物売りの声、祭りや鉄道の音などを集めて展示したもので、いわば「音の展覧会」といったものです。

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「音の展覧会」といってもなかなかイメージがわかないと思いますので、実際に展示している音声を少し紹介しますね。
ひとつめは、愛知県愛西市で1958年に収録された方言です。愛西市は愛知県の西部に位置し木曽川に沿った地域です。男女の会話の一部を抜粋します。


 エー キョーワ アツィーヤ ネァカ(きょうは 暑いじゃ ないか)

 エー アーッツィーナモ(ええ 暑いですね)

 エー キョーワ ドコェ イクノー(きょうは どこへ 行くんだい)

 クサミシリジャーナモ(草取りですよ)


この地域の方言の中心地は名古屋ですが、名古屋のことばに関して高浜虚子が1942年に次の句を詠んでいます。
 なもなもと 名古屋訛の 声涼し
この句に表れているように、助詞の「ナモ」が名古屋の方言のひとつの特徴だったようです。実際の音声を聴くと、この「ナモ」のおかげなのか、ことば全体が柔らかく優しい感じに聞こえます。「声涼し」のなかに虚子は「優しさ」を感じ取っていたのかもしれません。


下の写真は、1956年に福岡市で撮影された「きびだんご売り」です。

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「文研月報」1957年12月号より

この「きびだんご売り」の展示では、こんなふれ売りの歌を聴くことができます。


♪♪ 日本一のオキビチャン  オキビチャンのあーつあつ

        ぬくーて 甘くて オキビチャン キビチャンの生まれはどこですか


   遠く離れて300里  備前の国の岡山で・・・♪♪

このような「きびだんご売り」はすでに存在しないかもしれませんし、「ナモ」もあまり使われなくなっているかもしれません。今回の企画展は、こうした消えてしまっているかもしれない「音」も含め、NHKが収集・保存してきた「すこしむかしの音」で日本各地をめぐることを試みたものです。展示では、日本各地の方言や物売りの声のほか、親しみやすい祭りや鉄道の音など、40点の音声をCDプレイヤーを用いて聴くことができます。


およそ60年前に収録された方言や物売りの声を聴く機会はなかなか無いかもしれません。
そして、距離的にも時間的にも旅をした気分になれるかもしれません。
11月17日(日)まで開催していますので、ぜひこの機会に放送博物館にお越しください。


NHK放送博物館

休館日 :月曜日(月曜日が祝日・振替休日の場合は火曜日休館)、年末年始
入場料 :無料
開館時間:午前9時30分~午後4時30分
所在地 :〒105-0002 東京都港区愛宕2-1-1  
TEL  : 03-5400-6900

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ホームページはこちら

調査あれこれ 2019年08月09日 (金)

#201 年金の政府支出は増やすべき? ~国際比較調査からみえるもの~

世論調査部(社会調査)村田ひろ子


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人生100年時代を見据え、老後に備える資産が2000万円必要になる、という金融庁審議会の報告書が話題になりました。折りしも公的年金誕生から130年、先の参議院選挙でも争点の1つとして注目を集めていたのは記憶に新しいところ。年金だけでは老後の生活設計が成り立たない??そうだとしたら、自分が受け取る年金は多ければ多いほどよいと考えるのが自然でしょう。けれども、「年金の
政府支出を増やしたほうがよいか?」と聞かれたらどうでしょうか?

政府の役割についてのNHK放送文化研究所の世論調査※1)の結果から、みていきましょう。高齢者の年金について、政府の支出を今よりも増やすべきだと思うか、あるいは減らすべきだと思うかを尋ねた結果です。『今より増やすべき(どちらかといえばを含む)』は、日本は46%となっていて、各国と比べて低い水準となっています。2006年の調査では56%だったのが、今回は半数を割りました。日本と同様、65歳以上の高齢人口が多く、GDP(国内総生産)に占める年金支出が高いフィンランドやフランスといった国でも、『今より増やすべき』が少なくなっています。


         政府の支出を増やすべきか「年金」                   
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年層別にみると、若年層よりも高齢層のほうが『今より増やすべき』と回答している国が目立ちます。日本でも若年層の34%に対し、高年層で56%となっていて、両者の差が比較的大きいという特徴があります。


   政府の支出を『今より増やすべき』:「年金」(年層別)
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         ※OECD諸国を中心に抜粋して掲載


高齢化で増え続ける社会保障費により、いわゆる「国の借金」が膨らみ続け、財政健全化への道のりがますます険しくなっている日本。国が直面している厳しい財政事情を背景に、これ以上の税金を年金に投入することへの否定的な考えが広がっているのかもしれません。

「放送研究と調査7月号」では、格差是正や教育問題、物価の安定、テロ対策など、何が「政府の責任」だと考えられているか、国際比較調査の結果から考察しています。ぜひご一読ください!


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※1)ISSP国際比較調査「政府の役割2016」


調査あれこれ 2019年08月02日 (金)

#200 認知症ケアに放送アーカイブ

メディア研究部(メディア動向)大髙 崇


気づけば五十路の坂に立つ。令和になっても平成生まれの鼻タレどもにはまだまだ負けぬと威張ったところで,現実は「ほら,あれですよ,あの,ほら,なんだっけ,だからあれだよ,あれあれ,あれだってば」と言っているうちに日が暮れる。

悲嘆している場合ではない。
年金支給年齢が上がったらどうする。まだまだやらねばならぬのだ。

もの忘れ予防,脳力トレーニングは花盛り。同じ思いの仲間が多いということだ。
近頃ではあの麻雀までもが老化防止にいいとマダムたちにも人気らしい。脳はフル回転,おしゃべりも弾み,若返りにはもってこいだろう。麻雀と言えば,かつては昭和の男臭ぷんぷんで,ともすればダーティーなイメージをまとっていたが,今や熟年セレブが「ロン! 国士無双!!」「あちゃー! ハコテンだーーー!」することが奨励される。あの世の阿佐田哲也もびっくりであろう。

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麻雀に負けじと,というわけではないが,放送局がアーカイブする古い映像が,シニア世代の脳を活性化させる取り組みに一役買っていると聞いた。子ども時代の懐かしい思い出を語り合うことは認知症の人のための心理療法のひとつで「回想法」というらしい。古い記憶を呼び戻すためのツールとして,NHKのモノクロ時代のニュースなどが活用されているのだ。まさか認知症ケアに活躍するとは,長く放送局で働く者でもなかなか思いつかなかったことである。ひょうたんから駒。麻雀にたとえれば,リーチのみであがったら裏ドラが乗って跳満,である。

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だが,ただ古い映像なら何でもよい,というわけではないようだ。アーカイブ映像は実に大量だが,ではどのように提供すれば役立ち,喜ばれるのかを探り当てるのは難しい。
テーマを決めて,それに合った映像を集めてコンパクトに編集する必要がある。麻雀でいえば,面子をきれいにそろえましょう,と言ったところか。
映像につける説明のナレーションは少ないほうがいい。字牌はなるべく捨てましょう,か。

とにもかくにも,子ども時代のニュースや番組を見て,平成の鼻タレどもが目を丸くするような昔話を思いっきりしゃべれば,きっと元気が湧いてくるはずだし,「あれ,あれ」を言う回数も減る希望が持てるではないか。

……ということで,「NHK回想法ライブラリー」を事例に,放送アーカイブの可能性をテンパって考えました。「放送研究と調査」2019年7月号に掲載しています(麻雀の話はいっさい出てきません)。ぜひご一読ください!

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調査あれこれ 2019年07月26日 (金)

#199 投票率を上げるには? 世論調査からヒントを探ります

世論調査部(視聴者調査)渡辺洋子


7月21日は、参議院選挙の投票日でした。

投票率は48.80%と50%を下回り、
戦後最低を記録した1995年(44.52%)に続く低さでした。
各社の報道では、政治不信の表れや台風による大雨の影響などが指摘されています。

今回、投票率の低さが話題になりましたが、
50%を下回ったのは久しぶりではあるものの、
実際のところは、1992年以降30年近くにわたって、60%に届かないという状況が続いています。

「なぜ、人々は投票に行かないのか?」

そのヒントを得られるかもしれないと、
2018年12月に行った「ニュースメディア接触と政治意識調査」の結果をみてみました。

この調査では、「あなたは、選挙のとき投票に行きますか」という
ふだんの投票姿勢についての質問をしています。

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世論調査に回答してくださる方は投票にも積極的なのか、

「どんな選挙でも必ず投票に行く」「だいたい投票に行くようにしている」人をあわせると8割近くになり、
最近の投票率の傾向より、かなり高くなっています。

この結果が直接、今回の投票結果に結びつくわけではありませんが、
ふだんの投票姿勢が、政治に対する考え方とどのような関係があるのか、
投票姿勢と政治観の関連をみてみたいと思います。


〔政治家〕
まずは、政治家に対する考え方です。
下のグラフは、
「国民の生活や国の将来を真剣に考えている政治家が少ない」について、
「そう思う」と答えた人の割合を示したものです。

先ほどの「あなたは、選挙のとき投票に行きますか」という質問への
回答別に比べてみました。
 
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投票姿勢に関わらず、大多数が
「国民の生活や国の将来を真剣に考えている政治家が少ない」と、
思っていることがわかります。

政治家に不満があるから投票へ行かない、ということではないようです。


〔政治と自分の生活〕
つづいて、政治が自分の生活と関係していると思っているか、について尋ねた結果です。

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「政治は自分の生活に関係ない」と思う人は、
「どんな選挙でも必ず投票に行く」「だいたい投票に行くようにしている」人では、
1割台にとどまっています。

ところが、「特に必要があると思ったときだけ投票に行く」人では3割弱、
「投票には行かない」人では4割と、
投票に行かない人の方が、「政治が自分の生活に関係ない」と思っており、
政治と自分の生活との距離感が、投票への姿勢と関連していることがわかります。


〔選挙への効用感〕
さらに、「自分ひとりぐらい投票しなくても、選挙の結果に大きな影響はない」という、
自分の1票が選挙結果に与える影響力に対する感覚についての質問です。

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「自分ひとりぐらい投票しなくても、選挙の結果に大きな影響はない」と思う人は、
「どんな選挙でも必ず投票に行く」人では2割でした。

それに対して、「投票には行かない」という人ではなんと9割!

自分の投票行動が、選挙結果に対して影響を持つ、と考えている人は投票へ行き、
自分が投票してもしなくても影響はない、と考えている人は投票へ行かない
ということがくっきりと見えました。


若い人たちの投票率が低いことが取り沙汰されますが、
この投票への感覚を年層別にみると、
「自分ひとりぐらい投票しなくても、選挙の結果に大きな影響はない」と考える人は、
やはり若いほど多くなっています。

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こうした投票への意識が、若い人を投票から遠ざける一因になっていると考えられます。


自分の投じた1票が、選挙結果を左右する
このように多くの人が感じるためには、どのようにすればよいでしょうか。

調査では、ふだん利用しているメディアやどんなニュースを見ているのかなど、
ほかにも多くの事がらを尋ねています。
様々な角度から分析を進め、投票を呼び掛ける上でのヒントをさらに探りたいと思います。

今回ご紹介した「ニュースメディア接触と政治意識調査」については、
『放送研究と調査』(2019年6月号)で、「ニュースメディアの多様化は政治的態度に違いをもたらすのか」と題し、選挙に限らず、広く政治意識とニュース接触との関連を分析した結果を報告しています。

ご関心がありましたら、是非ごらんください。



調査あれこれ 2019年07月23日 (火)

#198 小学校でのタブレット端末の利用は進むのか?

メディア研究部(番組研究)宇治橋祐之


令和元年6月は、学校教育の情報化に関する大きな動きが続きました。

まず6月25日に 文部科学省から「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)」 1) が公表されました。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続くSociety5.0の時代に向けて、学校教育の現場でもAIやAR・VRなどの先端技術と教育ビッグデータの活用を進めること、そのために学校ICT環境を整備するという方針を示しています。具体的にはデジタルテレビなどの大型提示装置やタブレット型などの学習者用端末の整備、そして通信ネットワークの充実・強化が示されています。

さらに経済産業省からも同じ6月25日に「未来の教室ビジョン」 2) が公表されています。Science(科学)、 Technology(技術)、 Engineering(工学)、Mathematics(数学)にArt(芸術)を加え、現実社会の問題を解決するために統合的に学習する「学びのSTEAM化」、そして「学びの自立化・個別最適化」、「新しい学習基盤の整備」を3本柱としています。

教育に関わるビジョンをなぜ経済産業省が?と思われるかもしれませんが、学校教育の情報化にはAIや動画、オンライン会話等のデジタル技術を活用した教育技法であるEdTech(エドテック)が関わるので、経済産業省もこうした提言をしているのです。

経済産業省だけではありません。情報通信に関わる施策を担当する総務省でも「教育の情報化の推進」 3) を進めています。教育の内容については文部科学省が担当しますが、教育の情報化になると、文部科学省、経済産業省、総務省が関わってくるのです。

そして6月28日にはこうした施策を進めることが「学校教育の情報化の推進に関する法律」 4) として公布・施行されました。学校教育の情報化は大きな節目を迎えているといえます。


さて、こうしたビジョンが示され、施策が進められる中、学校現場の実態や先生たちの意識はどうなっているのでしょうか?

放送文化研究所では、教室のメディア環境や学校放送番組などのさまざまなメディアがどのように授業で利用されているのかを継続して調査しています。昨年10月から12月にかけては、「NHK小学校教師のメディア利用と意識に関する調査」を実施しました。調査をお願いした全国の小学校の先生の7割近くの方からご回答いただきました。本当にありがとうございます。

小学校の教室にはデジタルテレビやタブレット端末がどのくらい整備されているのか、そして実際の授業ではどの程度使われているのか、そうした機器ではどんな映像が利用されているのか、子どもたちはどの程度タブレット端末を使っているのか。こうした教室でのメディア利用の実態を、「放送研究と調査」6月号『進むタブレット端末の利用と学習におけるメディア利用の可能性~2018年度「NHK小学校教師のメディア利用と意識に関する調査」から~』としてまとめました。

イラストに示したような、教師が大型モニターを使って授業するだけでなく、子どもたちが1人1台のタブレット端末で学習する時代にはどんなメディアが必要なのでしょうか。教育や子どもに関わる方以外にもぜひ読んでいただければと思います。


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1) 文部科学省「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)」     http://www.mext.go.jp/a_menu/other/1411332.htm

2) 経済産業省「未来の教室ビジョン」
https://www.meti.go.jp/press/2019/06/20190625002/20190625002.html

3) 総務省「教育の情報化の推進」
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/kyouiku_joho-ka/index.html

4) 学校教育の情報化の推進に関する法律
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/1418577.htm