文研ブログ

ことばのはなし

ことばのはなし 2018年08月17日 (金)

#140 放送用語、韓国でも悩んでる ~「MBC韓国語委員会」NHK文研訪問~

メディア研究部(放送用語・表現) 塩田雄大

「ことばの乱れ」、外来語の多用・乱用、耳で聞いたときのわかりやすさ…
放送用語についてのさまざまな問題は、尽きることがありません。

ところで、このような悩みは、日本だけのものなのでしょうか?
いえいえ、そんなことはありません。ほかの国でも、程度の違いこそあれ、似たようなことで悩んでいるんです。

韓国語は、発音の面では日本語とかなり違いますし、また近年は漢字表記をほとんど使わないなど、日本語とは共通しないところが結構あります。
その一方で、文法の構造は日本語とものすごくよく似ていますし、また語彙の構造も「韓国語固有の語・漢字語・外来語」という、日本語と同じ「3層構造」になっているんです。

ことばの構造が似ているということは、また社会の構造に共通項があるということは、いろいろな「言語問題」に対して、お互いの対処方法が参考になるかもしれないのです(キリッ)!


7月13日金曜日、私たちNHK放送文化研究所では、韓国MBC文化放送の「MBC韓国語委員会」の一行8名からの訪問を受けました。

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韓国MBC(Munhwa〔=文化〕 Broadcasting Corporation)は、韓国全域を放送エリアとする地上波放送局です。
そして「MBC韓国語委員会」は、放送でのことばづかい〔=韓国語〕を検討する組織です。
この委員会では、ニュース・スポーツ中継・選挙報道などを対象に、韓国語のさまざまな表現について研究しているんです。
MBCのアナウンサー局を中心として、2003年に発足しました。
メンバーは、言語学・メディア学の専門家と、放送現場の担当者です。

今回の訪問は、放送用語をめぐる日本の現況と対策を知るためだそうです。
この日、「放送用語」という共通の問題と日々格闘している者どうし、悩みを語り合いました。
中でも印象的だったのは、「外来語」の取り扱い方に関する話題です。

韓国でも日本と同じように、「外来語の多用・乱用」が問題視されています。
韓国ではそれぞれの外来語について、「これは『放送で使ってもよい・使ってはいけない』」ということを、一つ一つ定めようと努力しているようなんです。

それに対してNHKでは、かつてはそのような姿勢の時期もありましたが、その後、

外来語に対して個別に使用可否を示す(「個別規定方式」)のではなく、おおまかな指針を提示しつつ判断を使用者(番組・ニュース制作担当者、アナウンサーなど)にゆだねる、という「理念提示方式」とでも呼ぶべき方法に方針が変わっていった
塩田雄大(2007)「放送における外来語-その「管理基準」の変遷」『言語』36-6

 というのが実情です。

その外来語を使わないとどうしても意味・内容が伝えられないという状況であればあえて使うし、ほかの言い方でも差し支えない場合には安易に使わない。それを最終的に判断するのは、ニュース・番組を制作している担当者やアナウンサーです
私たち放送用語担当者は、あくまで助言をする立場です。

また、韓国のインターネット専門チャンネルで流しているニュースのことばづかいは、非常にくだけたものだそうです。
視聴者がこうしたニュースを視聴するのに慣れてきて、最近では、地上波ニュースでの伝統的なことばづかいに違和感を覚える人も出てきているというのが、MBC側での悩みとして伝えられました。


実は、2003年に「MBC韓国語委員会」が発足する前の年に、NHKの「放送用語委員会」の取り組みを参考にしたいので教えてほしいという依頼を受けたことがあります。
当時NHK放送文化研究所では日韓の報道比較研究を進めていたのですが、その成果を公表するソウルでのシンポジウムの日程に合わせて、NHKの「放送用語委員会」の組織体制や活動成果などについて、MBCで説明をしました。
MBC側はさらに詳しく知りたいということで、その翌年、NHK放送文化研究所への訪問がありました。

この2回の会合で中心的な役割を果たしていたMBCの現役バリバリアナウンサーが、「アナウンサー局長」となって、今回ふたたびお越しになったのです。
実に15年ぶりの再会でした。
そういえば前にお会いしたときには「冬のソナタ」もまだ日本では放送されていなかったし(2003年4月にNHK BS2で放送開始)、「韓流」や「チーズタッカルビ」なんてことばも日本語にはなかったなあ。
「防弾少年団」の踊る姿をYouTubeでぼんやり眺めながら、いろんなことを考えました。

ことばのはなし 2018年01月19日 (金)

#109 放送では、"弁当"?それとも "お弁当"?

メディア研究部(放送用語・表現) 滝島雅子

突然ですが、例えば「弁当」のことを人に伝えるとき、あなたは「弁当「お弁当のどちらを使いますか?
街をちょっとぶらりとするだけで、以下のような表示が至る所に見つかります。

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世の中では、「お弁当」も使われることが多いようですね。

さて、この「お弁当」のように、名詞に敬語接頭辞の「お」を付けて、物事をきれいに言うことばを「美化語」といいます。「美化語」は、「敬語の指針」(文化庁答申2007)で、敬語の5分類(尊敬語、謙譲語Ⅰ、謙譲語Ⅱ、丁寧語、美化語)の1つとされました。放送の中で、「美化語」をどのくらい使うべきなのかは、放送現場でしばしば議論になる問題です。というのも、NHKでは、従来、放送では「物事を丁寧に言うために付ける「お」は、できるだけ省いたほうが、すっきりとした表現になる」(『NHKことばのハンドブック第2版』)とされ、特にニュース番組などでは、「お弁当」ではなく「弁当」が使われてきたからです。そこで、今回、放送の中の「美化語」の適切な使い方を探るため、アナウンサーと視聴者双方へインタビュー調査を行い、美化語に関する意識を調べたところ、例えば「お弁当」に関しては、以下のような意識が見えてきました。

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これを見ると、伝え手であるアナウンサーと、受け手である視聴者とでは、「お弁当」という美化語の使用をめぐって、意識のずれがあることがわかりました。アナウンサーが、従来の考え方に従って「お」を省いて伝えたことが、視聴者にとってはかえって違和感につなる場面もあると言えそうです。

「お」を付けるか付けないか、という問題は、小さな問題に見えて、実は日本語のコミュニケーションにあふれています。「花か、お花か」「肉か、お肉か」「墓か、お墓か」…、みなさんはどのように考えますか?

『放送研究と調査』1月号「放送における美化語の意識調査 ~視聴者とアナウンサーの双方へのインタビュー調査から~では、具体的な放送場面での美化語についてアナウンサーと視聴者のそれぞれの意識を探り、放送の中で美化語をどのように使うべきか、分析・検討を行いました。どうぞ、“お手”に取ってご覧ください。

 

ことばのはなし 2017年12月08日 (金)

#105 ら抜かないことば

メディア研究部(放送用語・表現) 塩田雄大

べつに、怒って出てかなくってもいいじゃない。


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はぁあ、休みの日にやんなるわ。女ですもの泣きはしないけど、なんであたしの気持ち、わかってもらえないんだろ。
なにこの本、『放送研究と調査』(2017年12月号)? あいつ、あいかわらずマニアックだね。え、“「高齢者」は、72歳7か月からである”って、どういうこと?

▼「高齢者」は公的には「65歳以上」と定義されることが一般的であるが、一般の人々の意識の平均値を算出すると「72歳7か月から」であった。

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うわ、もしかしてこんなこと真剣に算出しちゃったりしてる人がいるの?


▼「雨かもしれませんね_ 」および「もう終わったのかもしれませんよ_ 」のように書くときに、句点[ 。]と疑問符「?」のどちらを使うかを尋ねたところ、句点[ 。]であるという回答がいずれも約半数を占めた。

そうそう、これは「?」じゃなくて「 。」であるべきよね。


▼テレビで[見れる]という発言があったとき、それに合わせて字幕スーパーを施すとしたらどのようにするのがよいかを尋ねたところ、【「見られる」と表示するのがよい】という規範的な意見は、[女性][50歳以上][大卒][関東]に特に多い。

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うそやだなにこれ、この条件、年齢以外はぜんぶあたしに当てはまってるじゃん。

もしかしてあいつ、あたしにこれ見せようとして…

ことばのはなし 2017年07月07日 (金)

#86 「エロチック」か「エロティック」か

メディア研究部(放送用語・表現)  滝島雅子/山下洋子

同じ事柄を伝えるのに、複数の言い方が使われることを
「ことばのゆれ」と呼びます。当部 放送用語班では、こうした「ことばのゆれ」に関する調査を、年に1~2回行っています。昨年7月の調査では、敬語を使った「依頼表現」や「許可を求める表現」、また対人関係を良好に保つための「配慮表現」のほか、「カタカナの表記」についての、世の中の一般的な使用の傾向を調査しました。その結果を『放送研究と調査』7月号で報告しています(「配慮表現」については8月号で報告の予定)。

みなさんは、人に何かをしてもらうよう頼むとき、どんな言い方をしますか。例えば、ボールペンを人に借りたいときは、一般的には「ボールペンを貸して(ください)。」ですよね。
ところが最近、「ボールペン貸してもらっていい?」、(または敬語を使って)「ボールペンを貸していただいてもよろしいでしょうか。」といった言い方をよく耳にするようになりました。これは、相手の「(ボールペンを)貸す」という行為を、いったん「貸してもらう(貸していただく)」という自分の行為に置き換えて、その許可を求めるように表現している言い方と捉えることができます。なぜわざわざ、このような、回りくどい言い方をするのでしょう。7月号では、こうした表現の使用傾向や支持される理由を考察しています。

また、後半では、外来語の表記の調査結果も報告しています。
「肉感的」などの意味の「erotic」をカタカナで書く場合、みなさんは、エロチックと書きますか?エロティックと書きますか?あんまり使わないことばだなぁと思う方も多いかもしれませんが、どちらかと言えばどうでしょう?
NHKの放送では、「エロチック」で発音・表記することにしています。
筆者自身、自分ではどう使っているかを考えてみました。どちらもおかしくないけれど、「エロティック」のほうが使いやすい気がします。2つの表記はイメージが違っていて、「エロチック」のほうがいやらしく感じます。なんだか「エロチック」は使いにくい。
今回報告している調査の結果、30歳代の女性で、「エロティック」を選ぶ人が少し増えていました。「エロティック」のほうが使いやすいと感じるのは、筆者が女だからなのかもしれません。
erotic以外に、dramatic(ドラマチック?ドラマティック?)、plastic(プラスチック?プラスティック?)「チック」「ティック」どちらの書き方を使うのかを聞きました。
そもそも、なんで「チック」と「ティック」と、2つの言い方、書き方があるんでしょう? 調査結果のほか、そんなことも考察しています。
『放送研究と調査』7月号で「ことばのゆれ」の世界をのぞいてみてください。

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ことばのはなし 2017年05月26日 (金)

#80 『NHK日本語発音アクセント新辞典』を使いこなすために・・・

メディア研究部(放送用語・表現) 太田眞希恵

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 「ピンクのきらめきが素敵です」
 「重いけど(程よく鈍器)、これから使うのが楽しみです」・・・などなど、
ちょうど1年前(2016年5月末)に刊行された『NHK日本語発音アクセント新辞典』には、刊行した直後から、ネット上でさまざまな反響がありました。
中には、「重量も・・・989gに増量」と、編集部の私たちでさえ知らなかった重さをわざわざ計って教えてくださった方も・・・。ありがとうございました。
そんな“ピンク色の重いヤツ”(=『NHK日本語発音アクセント新辞典』)は、皆さんの“相棒”としてお役に立っているでしょうか。

今回の『新辞典』は、“アクセント記号を変える”という最大の変更がありました。利用者の皆さんにとっても、やはりこれがいちばん大きな“変更点”だったようで、「記号が変わって読みづらい!」という声から「PCで入力できるから歓迎すべき」という声まで、賛否両論のさまざまな反応がありました。
しかし、慣れるまでは、混乱や誤解もあるようです。例えば
 「『熊』に、頭高のアクセント[ク\マ]が加わったと聞いたけれど、見つかりません!」
という問い合わせもありました(←それもNHKのアナウンサーから!)。

それは、こんな理由によるものです。「熊」ということばの『新辞典』での表示例です。
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このように、『新辞典』では、第2アクセント以降についてはスペースの関係もあって、“フル表示”をすることなく、記号を使って“その直後に下がり目がくる音を□(四角)で囲んで示す”ということにしています。この、第2アクセント、第3アクセント・・・の記号表示がわかりにくいらしく、なかなかこれに気づいてもらえない、という事態がよくあるようなのです。ちなみに、海藻の「わかめ」は、このように載っていますよ。
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・・・ということで、刊行から1年。“ピンク色の重いヤツ”=『新辞典』を使いこなすために、これまで受けた質問などをまとめた「使い方Q&A」を、文研のサイトに掲載しました。
例えば、以下のような質問に答えています。

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同じページからは、『新辞典』改訂に携わった文研の研究員が書いたシリーズ論文「『新辞典』への大改訂」(全11回)や、「ポイント解説」動画(文研フォーラム2016より)にもアクセスできます。

日本語のアクセントについて、もっともっと知ってもらいたい。私たちの「オモイ」を、この「オモイアクセント辞典から、ぜひ感じとってください。

ことばのはなし 2017年03月10日 (金)

#69  「俺はナンバーワンになりたいんだ」 ←誰が言ったことばでしょう?

メディア研究部(放送用語・表現) 太田眞希恵

 俺はナンバーワンになりたいんだ
 200mでは世界記録を狙いにいく
   
 俺はやると言っただろう
 自分を誇りに思うよ


これは、リオデジャネイロオリンピックを伝えるテレビ番組に出た、ある外国人選手のインタビューについていた翻訳テロップです。誰のインタビューかわかりますか?

このインタビューの話者は、陸上男子100m、200m、4×100mリレーに出場して3つの金メダルをとったウサイン・ボルト選手(ジャマイカ)です。多くの人がこの選手を思い浮かべたのではないでしょうか。「200m」「世界記録」というのが大きなヒントになったとは思いますが、実はそれ以外にも、多くの人を正解に導くヒントがあります。それは、「」という1人称代名詞や、「~んだ」「~よ」などのことばづかいです。ボルト選手らしいことばで訳されています。
このような“ある人物像と結びついた特徴あることばづかい”のことを「役割語」といいます。ちょっと聞きなれないことばですよね。先行研究にある次のような例題を解いてみると、イメージがつかめると思います。

問題 次のa~hとア~クを結びつけなさい。
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『<もっと知りたい!日本語> ヴァーチャル日本語 役割語の謎』金水敏 著(岩波書店)より (※正解は末尾に)

この「役割語」については、日本語研究の分野でいろいろな研究が進んでいます。漫画や小説などフィクションの世界で使われることが多いのですが、ノンフィクションの分野であるテレビのスポーツ放送でも、外国人選手のインタビューにあてた翻訳のことばにけっこう使われていることがわかっています。最初にご紹介したボルト選手の翻訳テロップもその例です。

さて、「俺」という1人称代名詞や、「~さ」「~よ」「~んだ」などの男性的なことばづかいが似合うボルト選手ですが、リオデジャネイロオリンピックのテレビ放送では、次のような翻訳テロップもありました。

 リオでのゴールと私の夢は同じです
   
 僕はなぜか他の種目より
 200mでいつも緊張するんです
   
 そうです リオが最後です


これらの翻訳テロップでは、「」「」や、「~です」という丁寧な表現が使われていました。このような違いは、なぜ現れるのでしょうか。

こうした、オリンピック放送に使われた翻訳テロップの「役割語」について研究・分析したものを『放送研究と調査』3月号に掲載しました。
 ■再考 オリンピック放送の「役割語」 ~“日本人選手を主人公とした「物語」”という視点から~ 
  『放送研究と調査』2017年3月号

2008年の北京オリンピックの際に分析した下記のものと合わせてお読みいただくと、オリンピック放送で展開される「役割語」の世界について、さらに理解できるかと思います。
 ■ウサイン・ボルトの“I”は、なせ「オレ」と訳されるのか ~スポーツ放送の「役割語」~
  『放送研究と調査』2009年3月号


ぜひ、お読みください。

 …これを「役割語」ふうに言うと、
「ぜひ、読んでくれよな」  (ボルト選手ふう)
「ぜひ、お読みくださいませ」(奥様ふう)
「ぜひとも、読むのじゃぞ」 (博士ふう)
「ぜったい、読んでよね」  (男の子 または 女の子)
…あなたなら、どんなふうに言いますか?

「ぜったい、読んでよ! ちゃんと読みなさいよ!」(家で息子に言うときの私…)



「問題」の答え:a-エ,b-ウ,c-ク,d-ア,e-キ,f-イ,g-カ,h-オ

ことばのはなし 2016年11月18日 (金)

#54 [ドートンボリ ̄]と[ドート\ンボリ] NHKサンはどっちなの?

メディア研究部(放送用語・表現) 井上裕之

大阪の繁華街・道頓堀。この「どうとんぼり」という地名、みなさんは声に出して読むとき、どう読みますか?全国的に使われてるのは、抑揚を付けない[ドートンボリ ̄]ですよね。でも、地元・大阪では[ト]にアクセントを置く[ドート\ンボリ]と言う人が多いんじゃないでしょうか([\]は、そこで音が下がる、つまりその前の音にアクセントを置いて読むことを表す記号で、[ ̄]は、音の下がり目がなく平板に読むことを表す記号です)。
こんなふうに、“全国的なアクセント”“地元のアクセント”が違う地名って、国内にはけっこうあるんですよね。少しだけご紹介しますと…。

岡崎(愛知) [オカ\ザキ]vs.[オカザキ ̄]
清里(山梨) [キヨ\サト]vs.[キヨサト ̄]
北谷(沖縄) [チャ\タン]vs.[チャタン ̄]
前橋(群馬) [マエ\バシ]vs.[マエバシ ̄]
余市(北海道) [ヨ\イチ]vs.[ヨイチ ̄]  

ここに挙げた地名、2つのアクセントのうち、先に挙げた型が全国的に知られてて、後ろの型が地元で親しまれてると思うんですよね。こういう地名、実はNHKのアナウンサーの中でも、「放送ではどっちで読んだらいいの?」という疑問が、けっこう以前からあるんです。視聴者から「NHKサンはどっちで読むの?」とか、「あ、このアナウンサーのアクセント、地元の読み方と違う!」とか、いつもいろんな意見を言われますから、アナウンサーは。
NHKにも、これまでルールは、あることにはあったんですよ。ただ、「全国放送で読むときは全国的に親しまれたアクセントを使いましょう。地域放送では、地元のアクセントを使ってもよいでしょう」という、大まかなルールで、よく使われる地名のアクセントをひとつひとつ細かく決めてたってわけじゃないんですね。どれが全国的で、どれが地元のアクセントなのかってことは、案外、調べるのが難しくって(一口に“地元のアクセント”と言っても、誰が話すアクセントのことなのか…)。そもそも、毎日出てくる知らない土地の名前をどんなアクセントで読むのかってことに、アナウンサーはいつも頭を悩ませてるっていうのがホントのところなので。
というわけで、『NHK日本語発音アクセント新辞典』#28#43で発刊のご報告をさせていただきました!)では、よく使う3000語ほどの日本の地名について、新たに本編に載せようってことにしました。そしてそれに向けて、全国各地のNHKの放送局のアナウンスグループに調査をして、地元にある地名のアクセントを、「実際に放送でどう読んでいるか」聞いてみました。すると、各放送局では、放送に出てくることの多い地名についてはだいたいアクセントを決めてて、この調査結果をもとに、辞典に載せる地名のアクセントのかなりの数を、決めることができたんですね。
ただ、はじめに書いたような、地元の放送局で使うアクセントが全国的に知られてるものと食い違う場合、どっちを載せたらいいだろう…という問題は、やっぱり最後に残っちゃいました。これについては、文研の中でもケンケンゴーゴー…いや、カンカンガクガクの、まあ、かなりの大議論があったんですが、今回、この問題への一つの答えとして、「地元放送局アクセント」という枠を作ってみることにしました(「地元アクセント」ではなく、「地元放送局アクセント」です)。全国的に知られてるアクセントと違ってても、地元の放送局が実際に放送で使ってれば、この枠で辞典に載せよう、と。例えば「道頓堀」はこんなふうに…。

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この「地元放送局アクセント」、実際に放送する場面では、地域放送だけでなく、全国放送でも使っていいことにしました。ニュースや番組を制作する放送現場の人にとっては、ここに載せた情報をもとに、どっちを使うのがいいのか、番組ごとに選んでもらえるようにしたというわけです。いかがでしょうか?
これについては、『放送研究と調査 11月号』に「NHKアクセント辞典“新辞典”への大改訂⑤ 日本地名と『地元放送局アクセント』~積年の課題に解を求めて~」という論考を載せたので、詳しくはこちらをご覧ください!

ことばのはなし 2016年09月23日 (金)

#45 ことばの研きゅう(夏やすみのしゅくだい)

3年 しおだ たけひろ

ぼくは、こないだ、京都に行きました。京都はすごくあつかったけど、ラーメンがとても好きなので、京都でもラーメンを食べました。ぼくの好きなのは、とんこつラーメンのこってりしたやつです。
お店で、「ネギ、入れさせていただいても、よろしいですか?」と聞かれました。えっ、と思って、なんだかへんな言い方だなあと思いました。ぼくが住んでる東京だと、「ネギ、入れてもだいじょぶですか?」とか、「ネギは、お入れしましょうか?」とかが、ふつうだからです。

ぼくは、ラーメンも好きですが、ことばのことも、けっこう好きです。かえりの新かん線のなかで、ずっとかんがえてました。お母さんは「そんなの、どうだっていいじゃない」とあきれてましたが、気になってしかたなかったです。

それで、夏やすみのしゅくだいは、「させていただきます」について、いろんな人にきいて見ることにしました。「ネギ、入れさせていただいても、よろしいですか?」だと、ラーメンのことに気をとられておなかがすいちゃうんじゃないかと思ったから、「あすは、休業させていただきます」と「あすは、休業いたします」で、どっちがいいかとききました。ほかにもいろいろ問だいを作りました。
日本全国の二千人の人におねがいして、千百九十二人の人から、こたえをもらえました。ひとつひとつのこたえを見てたら、すごくたくさんあって、あたまがくらくらしてきました。どのくらいたくさんあるか、マルを千百九十二こ書いて見たら、どのくらいたいへんか分かると思います。
なので、お父さんに高せいのうのパソコンをかりました。パソコンを使ったら、シャシャッ!とけい算できました。パソコンをかんがえた人は、ノーベルしょうをもらうくらい、えらいと思います。

「あすは、
休業させていただきます」は感じがいいけども、「あすは、休業いたします」は感じが悪いと思う人は、全国で30%でした。
それで、こたえた人が住んでるところをもとに地図にしてみたら、この割合は、「かん西」では30%よりも大きいけども、「かん東」では30%よりも小さいと分かりました。京都とかの「かん西」では、「あすは、休業させていただきます」がよくて「あすは、休業いたします」は悪いと思ってる人が、「かん東」よりも多いみたいです。だいたい、西日本は、「かん西」みたいに「させていただきます」が人気があります。

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ぼくは、「ネギ、
入れさせていただいても、よろしいですか?」がへんな言い方だ、と思ったことを、すこし反せいしました。じぶんが住んでるところとちがうところでは、ことばのつかいかたが同じじゃないのは、あたりまえだからです。

ぼくは、このことが分かって、ほんとうによかったです。たいへんだったけど、いい夏やすみでした。くわしくは、「“させていただきます”について書かせていただきます」(『放送研究と調査』2016年9月号)を、見てください。おねがいします。〔10月1日からは論文pdfが公開されます〕


しおだくんは、こってりラーメンが好きなのですね。
とてもよい研きゅうができましたね。よくがんばりました。

先生は、あっさりしおラーメンが好きです。



遠い夏の日を思い出しながら、書きました。

(メディア研究部・塩田雄大・47歳)

ことばのはなし 2016年09月09日 (金)

#43 反響、続々!『NHK日本語発音アクセント新辞典』

メディア研究部(放送用語・表現) 滝島雅子

18年ぶりに大改訂されたアクセント辞典『NHK日本語発音アクセント新辞典』(以降、『SJT』)が刊行されてから4か月がたとうとしています。
お使いいただいていますでしょうか?

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いろんなことが新しくなったこのピンクの辞書が世の中でどんなふうに受け入れられるのか、子どもを一人立ちさせたあとの親のような気持ちで、ドキドキしながら見守ってきましたが、おかげさまでユーザーの皆さんからたくさんの反響がありました。
ありがとうございます!
ツイッターのメッセージからいくつか拾ってみますと・・・
 「アクセント記号が変わったんですね!」
 「前の棒カギ式のほうが良かった~」
混乱させてしまってごめんなさい!アクセント記号が変わり驚かれた方も多いようですね。そうなんです。今回の大改訂の最大のポイントは、何といっても「アクセント記号の刷新」なんです。これまでの棒カギ式から、赤色で音の下がり目を示す方式に変わりました。
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慣れ親しんだ表記から新しい表記に変わることに、抵抗感がある方も多いと思います。しかし、自然な音調で発音しようとするときは、「どこが低い部分でどこが高い部分か」ということよりも、「どこで大きく下がるか(あるいは大きく下がるところがないのか)」ということに注意を払うのがいちばん大切だという考えから、この方式を採用しました。詳しくは、『SJT』の巻末付録に掲載されている「解説・資料編」(付録p.7)をご覧ください。また、『放送研究と調査』(2016年7月号)の論文「18年ぶりの改訂で誕生『NHK日本語発音アクセント新辞典』~アクセント記号や見出しの立て方も一新~」もぜひお読みください。

 「色がスタイリッシュすぎる!」
 「ピンクのきらめきがすてき!」

これまでにない「表紙の色」への反応も多数ありました!ありがとうございます。今回の『SJT』の表紙の色は、まさかの「ピンク」で、しかも「ラメ」! 編集スタッフに若い女性が多いからでは? とも一部でささやかれましたが、決してそういうことではなく、一応理由があります。
放送現場で、放送に使うことばの問題を考えるときの必須資料としては、以下の3つがあります(ニュースの部署には必ず置いてあります)。
 ①『NHK漢字表記辞典』…放送上、漢字などの表記をどうするかのルールを示した辞書
 ②『NHKことばのハンドブック第2版』…放送上のことばのルールを解説した参考書
 ③『NHK日本語発音アクセント辞典』…発音・アクセントを調べる辞典
それぞれの表紙の色は?というと、①は「水色」、②は「オレンジ色」、そして③、これまでの1998年版では「緑色」でした。そこに新しく加わる『SJT』は、緊急報道など時間がない放送現場では、誰にでもすぐわかるインパクトのある色である必要がありました。つまり「あの○○色の辞書」と言ったとき共通認識が得られる色…ということで、さまざまな辞書をあたり、どの辞書とも、かぶらない色ということで「ラメピンク」になったというわけなんです。並べてみると、手前みそですが、独自の存在感があってなかなかいいでしょう?

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放送現場以外の皆さんにも、「ピンクの辞典」として親しんでもらえたらうれしいです(よからぬ誤解を与えない言い方としては、なるべく「ピンク辞典」とは言わずに、間に「の」を入れるのがお薦めですが…)。

そして反響の中には、以下のような声も…。
 「巻末の数字のアクセントはすばらしい!」
 「数詞のアクセントは細かく載っていて大変よい」
よくぞ気づいてくださいました! 今回の『SJT』は、ページ数が大幅に増えましたが、その理由としては、収録語数(本編)が1998年版のおよそ6万9,000語から7万5,000語に増えたのに加え、巻末付録の解説・資料も充実させたということがあります。その付録の多くを占めるのが「数詞+助数詞」の発音・アクセントのページです。

「3羽」や「15分」など、数詞に「ものや事柄を数えることば」(助数詞や単位など)が付いた場合にどのように読むかは、特にアナウンサーにとっては切実な問題ですが、今回、現場からの熱い要望に応えて、20までの数詞の発音・アクセントを個別に示したほか、よく使う「助数詞や単位」については、「21~99、100、1000、10000」に関しても掲載しました。ぜひご活用いただければと思います。

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『SJT』版 巻末付録P198

ところで皆さんは「1円」をどのように言いますか。アクセントは①[イチエン ̄](平板型)? ②[イチ\エン](中高型)? 伝統的には①ですが、今このアクセントが②にシフトしつつあります。2013年5月に、アナウンサーを対象に行った調査では、[イチエン ̄]のように平板型を支持する人が9割近くを占める一方で、[イチ\エン]のように中高型を支持する人も6割を超えていました。

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今回の『SJT』では、こうした変化も考慮し、「数詞+円」のアクセントに、第2アクセントとして初めて[イチ\エン]などの中高型アクセントを加えました。『SJT』の「数詞+助数詞」の発音・アクセントについて詳しくは、『放送研究と調査』(2016年9月号)の論文「NHKアクセント辞典 “新辞典”への大改訂③ 「数詞+助数詞」の発音とアクセント~変化の動向と新辞典への反映~」をご覧ください。

今回は、『SJT』のユーザーのみなさんの反響の中から、その一端をご紹介しました。これから『SJT』をさらにお使いいただく中で、またどんな反響があるか、編集部一同、楽しみにしております。今後とも「ピンク辞典」をどうぞよろしくお願いいたします。

ことばのはなし 2016年06月10日 (金)

#30 「パンダが亡くなりました」はおかしいですか?

メディア研究部(放送用語・表現) 山下洋子

5月26日に、井の頭自然文化園の象「はな子」が、息をひきとりました。
動物園には献花台が設けられ、多くの人たちが「はな子」の死をいたみ、その様子はニュースにも取り上げられました。
今回のように、動物の「死」がニュースになることは多くあります。「パンダ」やその赤ちゃん、そして「猫の駅長」のように、人気を集める動物が死んだ場合、そして今回の「はな子」のように動物園で長年飼育され、人々に親しまれていた動物が死んだ場合などです。
こうしたニュースを伝えるのに、動物の「死」をどう表現したらいいでしょう?いつも困らされる問題です。

NHKのニュースでは、「死ぬ」を原則にしています。「死亡」や「亡くなる」は「人」に対して使う表現で、動物に使うのはおかしいと考えられるためです。
しかし、「象のはな子が死にました」というと、事実は伝えているが、なまなましすぎて、違和感があるという方がいます。
一方で、「象のはな子が死亡しました」「象のはな子が亡くなりました」では、まるで人間のことを言っているようで、おかしいという方もいます。
では、どういう表現が適切なのでしょうか。
みなさんはどう思われますか?

文研では、去年(2015年)の3月に「日本語のゆれに関する調査」を行い、その中で、動物が死んだときにニュースなどで使う表現について聞きました。
「日本語のゆれに関する調査」は、文研の「放送用語班」が、年に1回から2回実施している世論調査です。
調査では、「パンダ」「イリオモテヤマネコ」「飼い猫」「公園にいる猫」に対して、「死亡する」「亡くなる」「死ぬ」“どの表現を使うとおかしいと思うか”を聞きました。
調査の結果は、図のとおりです。

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この結果を見ると、どの動物にも“「亡くなる」を使うのはおかしい”と感じられているようです。
特に、「公園にいた猫」に “「亡くなる」を使うのはおかしい”と感じられているようです。一方、同じ猫でも人間に身近な存在である「飼い猫」になると“「亡くなる」がおかしい”という人がやや少ないという結果になりました。
さて、実際のニュースでは「象のはな子」について、どう伝えていたでしょうか。
主に「死ぬ」を使っていましたが、「死ぬ」ばかりを使うのではなく、「息をひきとりました」「天寿をまっとうしました」などの表現も入れて説明していました。また、動物園関係者や、動物園で「はな子」の死を悼んだ方たちは、「死ぬ」や「死亡」「亡くなる」ではなく、「静かに逝った」「天国へ旅立った」などの表現を使っていました。
インタビューで、「象のはな子」は「人間にきわめて近い動物だった」と言っている方がいました。調査の結果でもわかりますが、動物の「死」を伝える場合、人間に近い動物であればあるほど「死」を遠回しに言う表現が好まれるのかもしれません。

調査の結果などくわしくは、『放送研究と調査』2016年6月号に掲載されています。 ぜひ、ご覧ください。
『放送研究と調査』2016年6月号 “パンダが亡くなりました”はおかしいですか? ~2015年「日本語のゆれに関する調査」から①~