メディア研究部(放送用語・表現) 塩田雄大
晴れた午後。すいこまれるブルースカイ。
2回目の洗濯機を回したよ。干し担当くん、あとは任せた!
「えーとズボンってさ、裏返して干せばいいんだよな?」
「あ、そうしといてくれるとうれしい」
風にゆれる洗濯もの。すずらんの香り。まぶしい日差しに流れる平井堅。
「この歌詞の『記念日には花束を 電話は1日おきにして』※っていうの、要するに毎日電話するってことだよな」
「えー、違うんじゃない?」
「だってさ、もしきょう『2日おきに電話します』って言われたら、次の電話は2日後、つまり、あさってだと思わねえ? だったら、『1日おき』の次の電話は1日後、あしたなんだから、結局『毎日』ってことだろ。『放送研究と調査』の12月号に載ってる調査結果だとさ、…」
ハッ!! そうなの? わたしがこれまでずっと使ってきた日本語、まちがってたってこと? いやいや落ち着け私、空腹は人を混乱させるんだ。
「よ、よくわかんないけど、カップやきそば食べる? なんと98円で売ってたの」
「そうそう、それ聞きたかったんだ、カップやきそば作るとき、『湯きり』って言う? 『湯ぎり』って言う?」
ヒッ!! やばいスパイラルに入ってきたかも。
「『放送研究と調査』の1月号、もう読んだだろ? そこにさ、『~を切る』みたいなのを名詞にしたときには『~ぎり』じゃなくて『~きり』になる傾向がある、って書いてあるんだよな」
「『お湯を切る』だから『湯ぎり』じゃなくて『湯きり』ってこと? あ、『爪きり』も『爪ぎり』とは言わないもんね、『爪を切る』わけだから。なるほどー」
「おっ、なかなかいいセンスしてるな」
「反対に、『輪切り』は『輪を切る』わけじゃなくて『輪みたいに切る』から、『輪ぎり』なのね」
いろいろあったけど、ステイホームも悪くない。
日常と、リスペクト。
相手がほんとに大切にしているものを大切にしていればさ、きっといいことあるよ。
こんどは、「ステイホーム」を「ホームステイ」にするとなんでこんなに意味が変わっちゃうのか、またゆっくり教えてよ。
※「言わない関係」 歌:平井堅 作詞:Ken Hirai 2004年
メディア研究部(放送用語・表現) 井上裕之
ニュースは 握りずし である。
どちらも扱う“ネタ”は、「新鮮」で、なるべく素材を加工せず「そのまま」、そして「種類が豊富」なほうがいいから。
…もちろんこれは例え話です。が、テレビ番組を料理に例えると、ドラマやドキュメンタリーは、作品一つ一つが味わい深い、さながら手の込んだフランス料理や中国料理。その点ニュースは、手早く食べられる握りずしの魅力を持っています。
ふだんはみんな、「トロがうまい」「きょうのウニは新鮮」と、ネタのよしあしに注目し、それらをのせるシャリを話題にしません。でも、かの料理界の巨匠、ジョエル・ロブションは、日本で銀座のすし屋に連れて行かれたとき、最初に白身、次にイカ、と注文した後、3番目にはなんと、シャリだけを握ってほしいと頼んだそうです。そして、それを口にするや、「この味は自分にはできない」と、老舗の編み出した酢飯の味わい深さに脱帽したとか…。
このシャリにあたるのが、ニュースでは文章です。どんなできごとでも、短い時間で視聴者の前に出してしまうその文章スタイルは、ネタのおいしさをそのまま伝えることを最優先にし、自己主張をしません。だから、ふだんは誰も気に留めませんが、料理界の巨匠が感嘆したシャリだと思えば、その秘密にも興味がわいてきませんか?
ニュースの文章は、読み上げられる前提で書かれた文章を実際に声に出して読んで伝える点で、「話しことば」とも「書きことば」とも違う、「読みことば」とされています。文研では、それをしばしば「放送文章」と呼んできました(連載のタイトルはここから来ています)。ニュースの放送文章は、100年近い日本の放送の歴史の中で生み出されたことは確かです。ただ、その特徴は、ネット時代を迎えた今もまだよくつかめていません。
「放送文章」ということばが使われているNHK放送用語委員会の報告(『放送研究と調査』1993年6⽉号)
本連載は、文研が毎月発行している『放送研究と調査』のことし5月号から隔月でスタートしました。第1回は、「NHKニュースの文はなぜ長い」。読みことばには「改行一字下げ」という段落の目印がないこと(放送文章は“声”だから当然なのですが…)と、ニュースの1文が長いこととの関係についてお伝えしました。第2回(7月号)は、映像と放送文章の浅からぬ関係についてお伝えします。ふだん気が付かない視点から、読みことばの特徴に迫りたいと考えていますので、みなさんにも“シャリだけ”のおすしの奥深さをお楽しみいただければ幸いです。
メディア研究部(放送用語)滝島雅子
子どもに小遣いを「やる」/「あげる」
ペットにえさを「やる」/「あげる」
植木に水を「やる」/「あげる」
・・・みなさんは、どちらを使いますか?
おそらく、「「やる」はちょっと乱暴な言い方だから「あげる」のほうが丁寧でいい」と思った人も多いのではないでしょうか。
従来、このような「あげる」の使い方は、「敬語の誤用」とされてきました。「あげる」は敬語の分類で言うと「謙譲語」であり、本来、敬意が必要な相手に使うことばなので、目下の人やペット、植木に敬語を使うのはおかしいというわけです。ところが、今回、文研が行った調査では、7割を超える人が「おかしくない・自分でも使う」と答えました。どうやら、こうした「あげる」は、もはや「誤用」とは言えない状況になっているようなのです(図1)。
図1:「あげる」は「おかしくない・使う」(全体)
また、「あげる」について「おかしくない・使う」と答えた人を年代別に見ると、「子どもに小遣い」「ペットにエサ」「植木に水」では、20~50代は8割前後から9割の高い割合を示していますが、60代以上は、いずれも割合が下がっており、高年層では「人」以外に対して「あげる」を使うことへの抵抗感がうかがえます。
図2:「あげる」は「おかしくない・使う」(世代別)
国語辞書編纂者の飯間浩明氏は、最近の著書の中で、植木に水を与えることを「水やり」ではなく「水あげ」、動物にえさを与えることを「餌やり」ではなく「餌あげ」とする、名詞としての使い方も増えてきたと指摘しています。改めて、「あげる」の勢力拡大ぶりに驚かされます。ここまで来ると、「あげる」を「誤用」として回避するのは、もはや、難しくなってきているとも言えそうですが、みなさんは、どう考えますか?
詳しくは、『放送研究と調査』11月号「相手選手に点を“あげて”しまってもよいのか~2019年「日本語のゆれに関する調査」から~」をご覧ください。今回の調査報告では、ほかに、「気象情報での気温の伝え方についての調査」や、最近問題になっている英語入試のあり方にも関連する「外国語・日本語をめぐる意識調査」の結果も報告されています。報告を読んで、「へえ~」「なるほど~」「おもしろかった~」などと感じていただけたら、ぜひ、知り合いの人にも教えてあげてくださいね。
(参考文献)飯間浩明(2019)『知っておくと役立つ街の変な日本語』朝日新書
メディア研究部(放送用語・表現) 塩田雄大
ドタキャンとか、やめてよね。「駅に到着しだい、連絡する」ってLINEしてきたあいつに「それを言うなら“到着ししだい”でしょ(笑)」って返したら、それっきり返信のなかった、土曜の夜。
きのう食べ残したピザを食べて、狭い部屋の掃除をして、1週間分のたまった洗濯をして、冷蔵庫の缶ビールを補充して、やることのなくなった晴れた日曜。テレビのアナウンサーの声。
次です。
「【完成しだい】と言う」という人が、「【完成ししだい】と言う」という人よりも圧倒的に多いことが、NHK放送文化研究所でおこなった全国調査の結果でわかりました。
この調査は、現代日本語の状況を知るために定期的におこなわれており、ことし3月に、全国の20歳以上の男女4,000人に依頼して、1,200人から回答を得たものです。
調査では、「【完成しだい】、ご連絡します」「【完成ししだい】、ご連絡します」という2つの文を回答者に見せたうえで、どちらの言い方をするかについて尋ねています。その結果、「【完成しだい】と言う(【完成ししだい】とは言わない)」と答えた人がもっとも多く、全体の71%となりました。
一方、現代の国語辞典のなかには、【完成ししだい】などが本来の形で、「し」を抜いた【完成しだい】などは「俗な言い方だ」と説明しているものもあり、関係者に大きな波紋を呼んでいます。
調査を担当した研究員は、「たいへん驚いている。今後の対応も含め、慎重に判断したい」と話しています。
なんだ、じゃ「到着しだい」って言うあいつのほうが普通なのか。辞書の読みすぎだったんだ、わたし。少しひかえなくちゃ。てへっ。謝んないと。
「きのうはごめん、ひとのことばづかいを笑っちゃいけないって、大切なこと、忘れてた。許してくれる? あとさ、駅前のドラッグストアでトイレットペーパーが特売みたいだから、ダブルのやつ、こっち来るときに買ってきて。それと、本屋さんで『放送研究と調査』っていう雑誌の12月号もね☆」
「"すべき"の問題をどうするべきか ~2018年「日本語のゆれに関する調査」から~」『放送研究と調査』2018年12月号
メディア研究部(放送用語・表現) 塩田雄大
NHKでは、いろいろな職種の人が働いています。その中には、具体的にどんな仕事をしているのか、なかなかイメージしにくいものもあります。放送文化研究所の仕事も、もしかするとそうかもしれません。
このたび、「NHKのさまざまな仕事や内容を、ネット動画で紹介する」という連続企画の第一弾で、放送文化研究所の放送用語班が取り上げられました。
「紹介する」と言っても、働いている本人が出演するのではなく、その仕事ぶりを、プロの演じ手が(かなり)デフォルメして伝えるという形式になっています。
動画の制作担当者と面談を重ねて、放送用語班の仕事と研究員の行動特性を伝え、全体の構成が作られていきました。
演じていただいたのは、なんと! 超ビッグネーム、友近さんです。
友近さんに、放送用語班の研究員が「憑依」したという仮構でできあがったのが、今回の動画です。
気になることば
放送のことばが気になるのは、放送用語班の研究員として当たり前のことです。加えて、各研究員は、放送のことばだけを気にしているわけではないんです。というか、放送以外のことばも、気になっちゃうんです。
たとえば、「素爪」ということばがあります。これは、「マニキュアを塗っていない爪」という意味(だそう)です。
では、このことば、「すつめ」と言うのか、「すづめ」と言うのか? 「すづめ」だったら、「すずめ」と同じ発音になってしまうのではないか? 「すずめ」って言えば「半分、青い。」の楡野鈴愛は確かに「素爪」っぽい雰囲気だったな、あれ、「雰囲気」って「ふいんき」だっけ「ふんいき」だっけ、ところで「かに爪コロッケ」は「かにつめ」なのか「かにづめ」なのか、「汚部屋」は「おへや」か「おべや」か、で「猫砂」の発音はいったいどうなるんだ、ちなみに「酢イカ」は「SUICA」と同じアクセントでいいのかい、と、もうやめておきますがこんなふうにとめどなく思いがあふれていっちゃうのが、放送用語班の研究員なんです。これ、ぼくだけじゃないんですよ、ほんとに。
研究員はみんなずっとこんな感じですから、テレビを普通に見ていても、気になるところが自然と耳に残ってくるんです。
メディア研究部(放送用語・表現) 塩田雄大
「ことばの乱れ」、外来語の多用・乱用、耳で聞いたときのわかりやすさ…
放送用語についてのさまざまな問題は、尽きることがありません。
ところで、このような悩みは、日本だけのものなのでしょうか?
いえいえ、そんなことはありません。ほかの国でも、程度の違いこそあれ、似たようなことで悩んでいるんです。
韓国語は、発音の面では日本語とかなり違いますし、また近年は漢字表記をほとんど使わないなど、日本語とは共通しないところが結構あります。
その一方で、文法の構造は日本語とものすごくよく似ていますし、また語彙の構造も「韓国語固有の語・漢字語・外来語」という、日本語と同じ「3層構造」になっているんです。
ことばの構造が似ているということは、また社会の構造に共通項があるということは、いろいろな「言語問題」に対して、お互いの対処方法が参考になるかもしれないのです(キリッ)!
7月13日金曜日、私たちNHK放送文化研究所では、韓国MBC文化放送の「MBC韓国語委員会」の一行8名からの訪問を受けました。
韓国MBC(Munhwa〔=文化〕 Broadcasting Corporation)は、韓国全域を放送エリアとする地上波放送局です。
そして「MBC韓国語委員会」は、放送でのことばづかい〔=韓国語〕を検討する組織です。
この委員会では、ニュース・スポーツ中継・選挙報道などを対象に、韓国語のさまざまな表現について研究しているんです。
MBCのアナウンサー局を中心として、2003年に発足しました。
メンバーは、言語学・メディア学の専門家と、放送現場の担当者です。
今回の訪問は、放送用語をめぐる日本の現況と対策を知るためだそうです。
この日、「放送用語」という共通の問題と日々格闘している者どうし、悩みを語り合いました。
中でも印象的だったのは、「外来語」の取り扱い方に関する話題です。
韓国でも日本と同じように、「外来語の多用・乱用」が問題視されています。
韓国ではそれぞれの外来語について、「これは『放送で使ってもよい・使ってはいけない』」ということを、一つ一つ定めようと努力しているようなんです。
それに対してNHKでは、かつてはそのような姿勢の時期もありましたが、その後、
外来語に対して個別に使用可否を示す(「個別規定方式」)のではなく、おおまかな指針を提示しつつ判断を使用者(番組・ニュース制作担当者、アナウンサーなど)にゆだねる、という「理念提示方式」とでも呼ぶべき方法に方針が変わっていった
塩田雄大(2007)「放送における外来語-その「管理基準」の変遷」『言語』36-6
というのが実情です。
その外来語を使わないとどうしても意味・内容が伝えられないという状況であればあえて使うし、ほかの言い方でも差し支えない場合には安易に使わない。それを最終的に判断するのは、ニュース・番組を制作している担当者やアナウンサーです。
私たち放送用語担当者は、あくまで助言をする立場です。
また、韓国のインターネット専門チャンネルで流しているニュースのことばづかいは、非常にくだけたものだそうです。
視聴者がこうしたニュースを視聴するのに慣れてきて、最近では、地上波ニュースでの伝統的なことばづかいに違和感を覚える人も出てきているというのが、MBC側での悩みとして伝えられました。
実は、2003年に「MBC韓国語委員会」が発足する前の年に、NHKの「放送用語委員会」の取り組みを参考にしたいので教えてほしいという依頼を受けたことがあります。
当時NHK放送文化研究所では日韓の報道比較研究を進めていたのですが、その成果を公表するソウルでのシンポジウムの日程に合わせて、NHKの「放送用語委員会」の組織体制や活動成果などについて、MBCで説明をしました。
MBC側はさらに詳しく知りたいということで、その翌年、NHK放送文化研究所への訪問がありました。
この2回の会合で中心的な役割を果たしていたMBCの現役バリバリアナウンサーが、「アナウンサー局長」となって、今回ふたたびお越しになったのです。
実に15年ぶりの再会でした。
そういえば前にお会いしたときには「冬のソナタ」もまだ日本では放送されていなかったし(2003年4月にNHK BS2で放送開始)、「韓流」や「チーズタッカルビ」なんてことばも日本語にはなかったなあ。
「防弾少年団」の踊る姿をYouTubeでぼんやり眺めながら、いろんなことを考えました。
メディア研究部(放送用語・表現) 滝島雅子
突然ですが、例えば「弁当」のことを人に伝えるとき、あなたは「弁当」「お弁当」のどちらを使いますか?
街をちょっとぶらりとするだけで、以下のような表示が至る所に見つかります。
世の中では、「お弁当」も使われることが多いようですね。
さて、この「お弁当」のように、名詞に敬語接頭辞の「お」を付けて、物事をきれいに言うことばを「美化語」といいます。「美化語」は、「敬語の指針」(文化庁答申2007)で、敬語の5分類(尊敬語、謙譲語Ⅰ、謙譲語Ⅱ、丁寧語、美化語)の1つとされました。放送の中で、「美化語」をどのくらい使うべきなのかは、放送現場でしばしば議論になる問題です。というのも、NHKでは、従来、放送では「物事を丁寧に言うために付ける「お」は、できるだけ省いたほうが、すっきりとした表現になる」(『NHKことばのハンドブック第2版』)とされ、特にニュース番組などでは、「お弁当」ではなく「弁当」が使われてきたからです。そこで、今回、放送の中の「美化語」の適切な使い方を探るため、アナウンサーと視聴者双方へインタビュー調査を行い、美化語に関する意識を調べたところ、例えば「お弁当」に関しては、以下のような意識が見えてきました。
これを見ると、伝え手であるアナウンサーと、受け手である視聴者とでは、「お弁当」という美化語の使用をめぐって、意識のずれがあることがわかりました。アナウンサーが、従来の考え方に従って「お」を省いて伝えたことが、視聴者にとってはかえって違和感につなる場面もあると言えそうです。
「お」を付けるか付けないか、という問題は、小さな問題に見えて、実は日本語のコミュニケーションにあふれています。「花か、お花か」「肉か、お肉か」「墓か、お墓か」…、みなさんはどのように考えますか?
『放送研究と調査』1月号「放送における美化語の意識調査 ~視聴者とアナウンサーの双方へのインタビュー調査から~」では、具体的な放送場面での美化語についてアナウンサーと視聴者のそれぞれの意識を探り、放送の中で美化語をどのように使うべきか、分析・検討を行いました。どうぞ、“お手”に取ってご覧ください。
メディア研究部(放送用語・表現) 塩田雄大
べつに、怒って出てかなくってもいいじゃない。
はぁあ、休みの日にやんなるわ。女ですもの泣きはしないけど、なんであたしの気持ち、わかってもらえないんだろ。
なにこの本、『放送研究と調査』(2017年12月号)? あいつ、あいかわらずマニアックだね。え、“「高齢者」は、72歳7か月からである”って、どういうこと?
▼「高齢者」は公的には「65歳以上」と定義されることが一般的であるが、一般の人々の意識の平均値を算出すると「72歳7か月から」であった。
うわ、もしかしてこんなこと真剣に算出しちゃったりしてる人がいるの?
▼「雨かもしれませんね_ 」および「もう終わったのかもしれませんよ_ 」のように書くときに、句点[ 。]と疑問符「?」のどちらを使うかを尋ねたところ、句点[ 。]であるという回答がいずれも約半数を占めた。
そうそう、これは「?」じゃなくて「 。」であるべきよね。
▼テレビで[見れる]という発言があったとき、それに合わせて字幕スーパーを施すとしたらどのようにするのがよいかを尋ねたところ、【「見られる」と表示するのがよい】という規範的な意見は、[女性][50歳以上][大卒][関東]に特に多い。
うそやだなにこれ、この条件、年齢以外はぜんぶあたしに当てはまってるじゃん。
もしかしてあいつ、あたしにこれ見せようとして…
メディア研究部(放送用語・表現) 滝島雅子/山下洋子
同じ事柄を伝えるのに、複数の言い方が使われることを「ことばのゆれ」と呼びます。当部 放送用語班では、こうした「ことばのゆれ」に関する調査を、年に1~2回行っています。昨年7月の調査では、敬語を使った「依頼表現」や「許可を求める表現」、また対人関係を良好に保つための「配慮表現」のほか、「カタカナの表記」についての、世の中の一般的な使用の傾向を調査しました。その結果を『放送研究と調査』7月号で報告しています(「配慮表現」については8月号で報告の予定)。
みなさんは、人に何かをしてもらうよう頼むとき、どんな言い方をしますか。例えば、ボールペンを人に借りたいときは、一般的には「ボールペンを貸して(ください)。」ですよね。
ところが最近、「ボールペン貸してもらっていい?」、(または敬語を使って)「ボールペンを貸していただいてもよろしいでしょうか。」といった言い方をよく耳にするようになりました。これは、相手の「(ボールペンを)貸す」という行為を、いったん「貸してもらう(貸していただく)」という自分の行為に置き換えて、その許可を求めるように表現している言い方と捉えることができます。なぜわざわざ、このような、回りくどい言い方をするのでしょう。7月号では、こうした表現の使用傾向や支持される理由を考察しています。
また、後半では、外来語の表記の調査結果も報告しています。
「肉感的」などの意味の「erotic」をカタカナで書く場合、みなさんは、エロチックと書きますか?エロティックと書きますか?あんまり使わないことばだなぁと思う方も多いかもしれませんが、どちらかと言えばどうでしょう?
NHKの放送では、「エロチック」で発音・表記することにしています。
筆者自身、自分ではどう使っているかを考えてみました。どちらもおかしくないけれど、「エロティック」のほうが使いやすい気がします。2つの表記はイメージが違っていて、「エロチック」のほうがいやらしく感じます。なんだか「エロチック」は使いにくい。
今回報告している調査の結果、30歳代の女性で、「エロティック」を選ぶ人が少し増えていました。「エロティック」のほうが使いやすいと感じるのは、筆者が女だからなのかもしれません。
erotic以外に、dramatic(ドラマチック?ドラマティック?)、plastic(プラスチック?プラスティック?)「チック」「ティック」どちらの書き方を使うのかを聞きました。
そもそも、なんで「チック」と「ティック」と、2つの言い方、書き方があるんでしょう? 調査結果のほか、そんなことも考察しています。
『放送研究と調査』7月号で「ことばのゆれ」の世界をのぞいてみてください。
メディア研究部(放送用語・表現) 太田眞希恵
「ピンクの煌めきが素敵です」
「重いけど(程よく鈍器)、これから使うのが楽しみです」・・・などなど、
ちょうど1年前(2016年5月末)に刊行された『NHK日本語発音アクセント新辞典』には、刊行した直後から、ネット上でさまざまな反響がありました。
中には、「重量も・・・989gに増量」と、編集部の私たちでさえ知らなかった重さをわざわざ計って教えてくださった方も・・・。ありがとうございました。
そんな“ピンク色の重いヤツ”(=『NHK日本語発音アクセント新辞典』)は、皆さんの“相棒”としてお役に立っているでしょうか。
今回の『新辞典』は、“アクセント記号を変える”という最大の変更がありました。利用者の皆さんにとっても、やはりこれがいちばん大きな“変更点”だったようで、「記号が変わって読みづらい!」という声から「PCで入力できるから歓迎すべき」という声まで、賛否両論のさまざまな反応がありました。
しかし、慣れるまでは、混乱や誤解もあるようです。例えば
「『熊』に、頭高のアクセント[ク\マ]が加わったと聞いたけれど、見つかりません!」
という問い合わせもありました(←それもNHKのアナウンサーから!)。
それは、こんな理由によるものです。「熊」ということばの『新辞典』での表示例です。
このように、『新辞典』では、第2アクセント以降についてはスペースの関係もあって、“フル表示”をすることなく、記号を使って“その直後に下がり目がくる音を□(四角)で囲んで示す”ということにしています。この、第2アクセント、第3アクセント・・・の記号表示がわかりにくいらしく、なかなかこれに気づいてもらえない、という事態がよくあるようなのです。ちなみに、海藻の「わかめ」は、このように載っていますよ。
・・・ということで、刊行から1年。“ピンク色の重いヤツ”=『新辞典』を使いこなすために、これまで受けた質問などをまとめた「使い方Q&A」を、文研のサイトに掲載しました。
例えば、以下のような質問に答えています。
同じページからは、『新辞典』改訂に携わった文研の研究員が書いたシリーズ論文「『新辞典』への大改訂」(全11回)や、「ポイント解説」動画(文研フォーラム2016より)にもアクセスできます。
日本語のアクセントについて、もっともっと知ってもらいたい。私たちの「オモ\イ」を、この「オモイ ̄ 」アクセント辞典から、ぜひ感じとってください。