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メディアの動き 2023年11月17日 (金)

【メディアの動き】ジャニーズ事務所が社名変更・廃業へ民放各局の検証番組相次ぐ

 故ジャニー喜多川氏による性加害の問題で,ジャニーズ事務所が10月2日,記者会見し,同月17日付で社名を「SMILE-UP.」に変更すると発表。被害者への補償はこの会社が行い,将来的に廃業するとした。またタレントのマネージメントなどを行う新会社の設立を明らかにした。この会見をめぐっては,運営担当のコンサルティング会社が,質疑応答で指名しないようにする記者をまとめた「NGリスト」を作成していたことが後日,明らかになり,批判を浴びた。

 当面の焦点は,被害者への補償や再発防止の取り組みがどこまで実行されるかにある。NHKはこうした取り組みが着実に実施されると確認されるまで,『紅白歌合戦』を含めた新規の出演依頼は行わない方針を明らかにしている。民放各局も「適切に判断する」などとして,対応を慎重に見極める構えだ。

 その一方で,メディア自身の責任も免れない。今回の性加害問題では,被害拡大の背景に「マスメディアの沈黙」があると指摘された。9月のNHK『クローズアップ現代』に続き,10月に入ると民放各局の検証番組が相次いだ。日本テレビは同月4日の『news every.』,フジテレビは21日の『週刊フジテレビ批評特別版』,テレビ東京は26日の『特別番組』で,いずれも社内調査の結果を伝えた。またTBSの『報道特集』は7日,関係者への独自の取材をもとに自社の対応を検証した。社内調査や取材の対象になったのはフジテレビで77人,テレビ東京で134人,『報道特集』で80人以上にのぼった。

 この中でまず問われたのは,報道機関としての姿勢である。1999年に始まった『週刊文春』のキャンペーン報道をめぐり裁判結果を報じなかったことや,今年(2023年)3月にイギリスBBCのドキュメンタリー番組が放送されたあとも迅速に対応しなかったことについて,「男性の性被害に対する認識が鈍かった」「芸能ネタ,週刊誌ネタだと思っていた」など,報道局の反省の弁が伝えられた。検証のもう1つの柱は旧ジャニーズ事務所と各局との関係である。日ごろ事務所側と直接向き合ってきた番組制作・編成部門への調査・取材では,一部の社員から,事務所側の圧力や自局の忖度(そんたく)を感じていたという証言が出たことが伝えられた。これを受け,番組では「社内でジャニーズを特別扱いする空気が20年以上にわたって醸成された」(日本テレビ),「必要以上に気を遣う意識が根づいていた」(フジテレビ)との認識が示された。『報道特集』は,テレビ局自身が報道とエンターテインメントの両方を担っていることが大きな矛盾になっているという,制作担当者の声を報じた。

 一連の検証番組はいずれも社内の調査・取材にとどまっているのが現状だ。その一方で,性加害の深刻な被害を訴える新たな証言も報道されている。NHKは10月9日の『ニュース7』で,2002年秋に当時高校生の男性が東京・渋谷のNHK放送センター内のトイレで,ジャニー氏から複数回にわたり性被害に遭ったと証言していることを伝えた。局によって濃淡はあるにせよ,実態の解明がまだ緒についたばかりであることを端的に示すものといえる。こうした中,TBSは番組での検証とは別に,外部の弁護士を交え中立的で第三者的な立場から評価する社内調査を実施すると明らかにした。重大な人権侵害を長年見過ごし,結果的に被害を拡大させたメディアの責任が引き続き問われている。