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メディアの動き

メディアの動き 2023年06月07日 (水)

NHKを巡る政策議論の最新動向③NHKのネット活用業務の必須業務化に向けた説明に質問相次ぐ【研究員の視点】#488

メディア研究部(メディア動向)村上圭子

はじめに

 5月26日、NHKは総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会(以下、在り方検)」の公共放送ワーキンググループ(以下、WG)第8回会合において、現在は任意業務として行っているインターネット活用業務(以下、ネット活用業務)について、今後は必須業務化を前提に考えたいという意思を表明しました1)。そして、必須業務の範囲については、「『放送と同様の効用』をもたらす範囲に限って実施することが適切2)」との説明を行いました。 
NHKの説明の詳細については後ほど詳しく触れますが、説明の後に行われた約80分間の議論では、NHKに対して構成員たちから数多くの厳しい質問が投げかけられました。「質疑がかみ合っていない、(NHKは)かならずしも答えていないところが多々見受けられる3) 」との指摘もあり、WGでは構成員の質問を整理した上で、再度NHKに回答を求めることになりました。

 WGの3日後の同月29日には自民党の情報通信戦略調査会が開かれ、NHKは同じテーマでヒアリングを受けました。調査会は非公開で行われましたが、NHKはWGの質疑で述べた内容よりも踏み込んだ見解を述べたことが新聞などで報じられました4)。そして、6月7日午後に開催される在り方検の親会では、再びNHKによる報告が行われます。また同日午前にはWGも開かれ、NHKのネット活用業務の必須業務化に対して懸念を述べてきた新聞協会と民放連が主張を述べることになっています。

 以上のように、NHKを巡る政策議論は急ピッチで進んでいますが、こうした最中に発覚したのが、現在は業務として認められていないBSの同時配信の開発に向けた設備整備費用として、2023年度の予算として9億円を計上することを決定し、その後、調達や契約の手続きを進めていたという問題です。5月29日、NHKは予算・事業計画との明確な関係性について内外に十分な説明が行われてないまま手続きが進められていたことは適切でなかったとして、必要な是正措置をとったことを総務省に報告しました5)。総務省は「NHKにおける契約手続きその他の意思決定のプロセスについて、ガバナンスの面で再確認」を期待するとのコメントを発表。NHKは今後、会長直下に弁護士等からなる検討会を設置し、改革を行っていくとしています。ネット活用業務の必須業務化に向けた議論が大きく注目され、また、それを審査・評価するためのNHK内部のガバナンスの強化が問われている中でなぜこのような事態が起きてしまったのか。NHKは言葉を尽くして説明していく必要があります。

 いずれにせよ、NHKのネット活用業務の必須業務化というテーマは、視聴者・国民の負担、今後の日本社会におけるNHKや放送メディアの姿、デジタル情報空間における課題解決のあり方など、非常に多くの重要な論点が複雑に絡み合ったものであることは言うまでもありません。本ブログでは政策議論にできるだけ並走しながら論点を整理し、今後の議論を読み解くための視座を示していきたいと考えています。第3回の今回は、在り方検におけるNHKの説明とその後の構成員の意見・質問の内容を論点別に私なりに整理します。なお、NHKが回答した内容については、前述したように、再度NHKに回答する機会が与えられることになりましたので、その際にきちんとまとめたいと思います。

1. NHKの説明の概要

 NHKが第8回会合で示した資料は、NHK自身が「すでに報告をしている内容も多く含まれている」と前置きで語ったように、去年11月の第3回で報告した資料をベースに作成されたものでした6) 。その資料をもとに、NHKはまず、「視聴者国民の皆様のメディアへの期待を踏まえてNHKの進むべき道を考えるのが適切である」という認識を改めて示しました。そして、ネット活用業務の必須業務化については、視聴者国民からの期待が高い「情報空間の参照点」となるような信頼できる基本的な情報の提供と、新聞や民放などの「信頼できる多元性確保」への貢献を基本的な考え方としていることを述べました。その上で、今回は①業務範囲、②ガバナンスのあり方、③負担のあり方、④(情報空間全体の)多元性確保への貢献、の4点について説明しました。以下、それぞれについて、NHKの説明とそれに対する構成員の主な意見もしくは質問を対照させて見ていきます。なお、本ブログの執筆時点では総務省のウェブサイトに議事録が公開されていないため、構成員の発言は筆者のメモからの意訳であることをあらかじめお断りしておきます。

2.必須業務の範囲と規律のあり方

*NHKの説明
 図1は、NHKが今回初めて示した必須業務の範囲に関する考え方です(図17))。ネット活用における必須業務の範囲は、『放送と同様の効用』をもたらすものに限って実施していくことが適切であるとし、放送の同時・見逃し配信ならびに放送と同一の情報内容を多元提供する報道サイトを基本とする、との考えを示しました。理由としては、視聴者・国民の間には、新聞や民放などの伝統メディア全体への期待が高いということを踏まえたとしています。 

(図1)

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 また、『放送と同様の効用で異なる態様のもの』についても一部必須業務にすることが考えられるとしました。『異なる態様のもの』、つまり、放送と同一の内容ではないけれど同様の効用をもたらすものとは何を指すのでしょうか。NHKは4つの例を示しながら説明を行いました。図2はその4例について、NHKの資料と説明をもとに、問題意識と具体的な内容に分けて私なりに簡略化して示したものです。詳細はNHKの報告資料8)を参照ください。

(図2)

table_murakami.png※OTT9)

 また、NHKはプラットフォーム等を通じた提供も含めて、サービスの横幅が広がることがある一方で、縦幅が縮まることも示唆しており(図1の下段の点線で囲った部分)、今後一層、NHKとして経営資源の選択と集中を行っていくことを強調しました。

 NHKは必須業務化した際の規律のあり方についても触れています。ネット活用業務が必須業務となった際には、「全体として公平性確保、多角的論点提示等の規律が必要」であり、「『放送』同様の自律型モデルが望ましいと考える」と述べました。

*構成員の意見・質問
 NHKが必須業務の範囲は、『放送と同様の効用』をもたらすものに限るとしたことについて、構成員からの意見が相次ぎました。まず、宍戸常寿構成員からは、「放送と同様の効用が一体何なのかについて、個別案件を説明し、NHKの独りよがりではなくファクトデータに基づく裏付けがあるということは非常に重要。ただ、ネット活用業務を必須業務化することで、全体像として何を目指していこうとしているのかを発信してほしい。どこかのタイミングで示してもらいたい」とのコメントがありました。大谷和子構成員からも、「NHKは放送と同様の効用という言葉を使っているが、国民・視聴者にとってどんな効用があるのか、必須業務とすることの意義について、NHK自身の言葉で聞きたい」と、同趣旨のコメントがありました。落合孝文構成員からは、「ネット活用業務においても放送と同様の効用という提起だったが、電波で情報発信していた時代の放送に社会的に求められるものと、ネット社会で情報が氾濫する中で求められる役割については、実態が変わっている部分もあるのでは」という問題提起がありました。
 放送と同様の効用で『異なる態様のもの』に関する意見や質問も複数ありました。その多くが、NHKが任意業務として、受信契約の有無にかかわらず広くネット上で展開してきた、番組の周知・広報、ニュースを深掘りするテキスト記事などの「理解増進情報」についてでした。「これまで理解増進情報については、なしくずし的な拡大ということを民放連や新聞協会が懸念してきたが、『放送と同様の効用』と理解増進情報とはどういう関係にあるのか?」(落合構成員)。「理解増進情報は廃止になって、『放送と同様の効用で異なる態様のもの』に衣替えしていくのではないか。その際に、これまで言われていた「歯止めがない」という問題と同じ問題が発生するのでは?」(曽我部真裕構成員)。このほか、「これまでの理解増進情報の中で、公共放送に関する理解を深めてもらうものやサービスへの誘導についてはどう考えているのか」(瀧俊雄構成員)、といった質問や、「現在の任意業務における費用は190億円強で行っており、多くは放送との共通費であると理解しているが、純粋にネット業務にかかっている費用はどのくらいか?また、この先、どのくらいの額を想定しているのか?」(内山隆構成員)といった質問もありました。また曽我部構成員からは、「成長性は低いが公共性が高いアーカイブの提供についてはより積極的に必須業務に位置づけていくことが求められるのではないか?」といった意見もありました。

 また、ネット活用業務が必須業務化された場合、放送と同様の規律はネット業務においてどうなるのか、という点についての質問も相次ぎました。まず具体的な内容としては、「NHKプラスは現状では全ての番組が流されているわけではないが、必須業務化した際には全部流す方向で考えられているのか?またBSについてはどう考えているのか?」(長田三紀構成員)、「ネット必須業務化に関して、あまねく受信義務についてはどう制度として整理していくのか?」(内山構成員)、「番組編集準則やあまねく受信義務、放送番組審議会、重大事故報告などの放送法の規律がネット活用業務にかかることを考えた場合、NHKが業務を行う上で支障はあるか?」(山本隆司構成員)という質問がありました。林秀弥構成員からは質問ではなく、「ネット上の規律を法的に措置するということには慎重であるべき。協会内部の自主自律にとどめることが妥当」という意見が述べられました。

3.ガバナンスのあり方

 NHKのネット活用業務が必須業務になったとして、民間事業者との公正競争を確保するという観点から、どのような内容のサービスをどのくらいの費用をかけて行うのか、事前の審査や事後の評価の仕組みはどうあるべきか、そして国はどこまでその仕組みに関わるべきなのか。このテーマについては、これまで約半年行われてきたWGの議論でも多くの時間が割かれてきました。中でも、構成員たちの関心が高かったのが、経営委員会を軸とした組織のガバナンス強化にNHKがどう取り組むかという点でした。NHKの取り組みの中身によって、審査や評価に関する国の関与の度合いが異なってくるためです。議論では、国の関与を強めるよりも、できる限りNHKの自発的な取り組みに期待したい、という声が多かったように思います。では、NHKはどのような説明を行ったのでしょうか。

*NHKの説明
 NHKはネット活用業務が必須業務となった場合、放送各波と同様に、毎年度の予算・事業計画で規模、内容を示すことになるのではないかと述べ、現在の放送同様のガバナンスを想定していると発言しました。また、一定の規模の新規サービスを始めるにあたっては、経営委員会の監督のもと、サービスの公共性が市場影響を上回るかどうかを審査する、BBCで実施中の「公共価値テスト」のようなものを事前に実施した上で業務範囲に追加していくことも検討したいということを述べました。「公共価値テスト」は、サービスの公共性が市場影響を上回るかどうかを審査するテストで、イギリスの公共放送BBCが実施しています。加えて、BBCが全体状況の変化に合わせ、民間企業との公正競争が確保されているかどうかを数年に一度チェックする競争レビューのようなものを行うこともあり得るのではないかとしました。

*構成員の意見・質問
 林構成員からは、「BBCがこうだから日本も横にならえ、ということにはならない。総務省内に市場検証会議のようなものを立ち上げて、定点観測的にレビューを行うべき。今回の説明で書かれている程度のことでもし競争ルールをすますというのであれば、懸念を払拭するのは難しいし賛同しがたい」と厳しいコメントがありました。また、林構成員は、事前のチェックに関しては「メディアを巡る市場構造の激変の可能性をはらむ制度改正が行われようとしているときに、チェックやガバナンスを当事者による強化だけに委ねていいのか。必須業務化するのであれば、執行部をチェックする経営委員会による監督と機能強化はマストだがそれでは足りない。少なくとも最初の数年間は費用の上限も含め、現在の実施基準を作成して総務省のチェックにかけるべき」とも発言。そして「総務省といっても電波監理審議会の諮問と議決というプロセスを踏むので、いわゆる政治色が入ることはないだろう」と付け加えました。
 宍戸構成員からも、「従来のガバナンスで本当に十分なのか、どういう工夫をするつもりなのかがはっきりしないと、外からの強い枠組みを考えていかざるを得ない。電波監理審議会もしっかりした組織だが、政府の監督が及ぶことはやはり慎重な配慮が必要。自律的な判断をNHKが行い、それを外から評価する形でないとうまく回らない。だからこそ経営委員会制度があるのだが、WGの議論の温度感が経営委員会にきっちり伝わっているのか気になっている」という厳しいコメントがありました。曽我部構成員からも、「一般的なNHKのガバナンスで処理していくということになると、個別のネットのコンテンツに対する批判があることを考えると、経営委員会でそれをチェックするというのは難しいのではないか。特別なガバナンスが求められてくるのではないか」との指摘がありました。

4.負担のあり方

 この論点についても、WGではこれまで多様な角度から議論が行われてきました。その結果、テレビを所有しておらずNHKと受信契約を締結していない人についても、アプリをインストールし、個人情報の入力など、何らかの強い利用の意思を示した場合には受信契約の対象になり得るのではないか、という一定の方向性がみられていたと思われます10)

*NHKの説明
 NHKが示した考え方も、WGでの一定の方向性と近しいものといっていいと思います。NHKは、「多機能端末であるスマートフォンを所有しただけで、現在のテレビ受信機のように扱うことは選択肢には入らない」とした上で、「公平性、公平負担の観点から、同様の効用が得られているのであれば、同様の負担を頂くのが適当ではないか」と述べました。そして制度的には、「“受益感”が無い“所有即契約”ではなく、“受益感”が公平性を上回る有料契約=“サブスク”でもない形」であるとし、詳細は詰めていく必要があるとしました11)

*構成員の意見・質問
 この論点については、WGの一定の方向性と近しいものだったこともあり、ほとんど意見はありませんでしたが、山本構成員からNHKに対し、法制度を今後WGで議論していく上で、実務上留意してほしい要望や積極的な考えはないか、との問いかけがありました。

5.(情報空間全体の)多元性確保への貢献

*NHKの説明
 NHKからは、具体的な内容として大きく2つの方向性が示されました。1つは、新たに取り組みが始まっている、伝統メディアによる情報空間全体の多元性確保に向けた動きへの貢献(図312))、もう1つが放送分野における貢献です。こちらは、民放があまねく受信努力義務などを遂行するにあたり、NHKは必要な協力をするよう務めなければならないという改正放送法の内容を意識したものであると思われます。具体的には放送ネットワークの効率的な維持・管理、日本のコンテンツ産業の後押しや放送ソフトウエア開発等を挙げていました。

(図3)

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*構成員の意見・質問
 内山構成員からは、「民放ローカル局の番組の配信としてNHKプラスへの参加を考えた場合に NHK側は協力可能か?どういった形の供給が可能か?視聴者に見える表舞台ではなかなか難しいという感じもするが、例えば(ユーザーにコンテンツをスムーズに届けるためのキャッシュサーバーのネットワークである)CDN のようなバックヤードの部分で協力するということはありえるのか?」「国際展開において、日本のコンテンツホルダーやIP(知的財産)ホルダーとの協力への展望はあるか?」といった具体的な質問がありました。さらに「2040年におけるNHKの競争相手は誰だと考えているのか?」という問いかけもありました。曽我部構成員からは、「多元性確保について必須業務として取り組むのであれば、案件があってそれに個別ベースで取り組むというのではなく、NHKが計画性をもって戦略的に施策を考えるというのがあるべき姿ではないか」との指摘がありました。

おわりに

 今回のブログは、NHKの説明とそれに対する構成員の意見や質問を整理してまとめ、できるだけWGの議論の雰囲気を伝えられればと思いましたが、いかがでしたでしょうか。80分の議論の最後には三友仁志主査から、「NHKには情報空間の健全性やメディアの多元性多様性を維持するために、ネット活用に向けた日本のリーダーとしての矜持(きょうじ)を伺いたかった」「NHKに関する様々な懸念が示されているところ。ぜひNHKにはそれらを自らが払拭する一層の努力を期待している」との重い言葉が投げかけられました。
WGや在り方検の親会の議論は、今夏のとりまとめに向けたラストスパートに向かっています。今後も引き続き議論に並走しながら、論点を整理し、議論における課題があれば、その都度指摘していきたいと考えています。


1)   在り方検・公共放送WG第8回 NHK説明資料 https://www.soumu.go.jp/main_content/000882687.pdf

2)   NHK井上樹彦副会長の発言

3)   三友仁志座長の発言。その他、落合孝文構成員からも同様の発言があった

4) 複数の新聞報道によると、ヒアリングにおいてNHKは、必須業務化後は、ネット活用業務は「映像と音声が伴うものに純化したい」とし、テキスト情報のみの報道については、今後見直す可能性についても触れたとのこと

5)   https://www.nhk.or.jp/info/otherpress/pdf/2023/20230530_1.pdf

6)   第3回のNHKの報告内容については下記で詳細を記載している
  https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/100/478763.html

7)   1)参照 P11

8)   1)参照 P13~16

9)   オーバーザトップの略。ネット回線を通じてコンテンツを配信するストリーミングサービスのこと

10)   議論の詳細については https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2023/05/18/

11)   1)参照 P20~23

12)   1)参照    P25

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村上圭子
報道局でディレクターとして『NHKスペシャル』『クローズアップ現代』等を担当後、ラジオセンターを経て2010年から現職。 インターネット時代のテレビ・放送の存在意義、地域メディアの今後、自治体の災害情報伝達について取材・研究を進める。民放とNHK、新聞と放送、通信と放送、マスメディアとネットメディア、都市と地方等の架橋となるような問題提起を行っていきたいと考えている。

メディアの動き 2023年05月29日 (月)

ヨーロッパ公共放送の文化支援 "放送オーケストラ&合唱団"をめぐって【研究員の視点】#484

メディア研究部 (海外メディア研究) 小笠原晶子

 “放送オーケストラ”や“放送合唱団”についてご存じでしょうか?ラジオ放送が開始された1920年代から組織された放送局専属の楽団で、放送に向けた演奏や音楽文化の普及の役割を担ってきました。現在も、ヨーロッパには、規模やレベルはさまざまですが、ドイツのMDRライプチヒ放送交響楽団(1924年創立)やバイエルン放送交響楽団(1949年創立)、イギリスのBBC交響楽団(1930年創立)など世界的に知られた楽団が多数存在します。日本にも、定期演奏会や大河ドラマのテーマ音楽の演奏などでおなじみのNHK交響楽団は1926年設立で、まもなく100周年を迎えます。

 ヨーロッパでは近年、こうした放送オーケストラや放送合唱団の存続が議論になっています1)。 経営合理化や経費削減により、縮小や廃止の方針が打ち出されるなどしています。 その一方で、そうした方針には、音楽家や市民などから強い反対の声が上がり、 楽団の廃止やリストラ計画が保留となるケースも相次ぎました。 最近の動きは放送文化研究所の月報「放送研究と調査」2023年4月号2)、5月号3)の「メディアフォーカス」で報告しています。

 今回のブログでは、音楽家や市民が、放送オーケストラの存続を求めた声に注目します。民間オーケストラが多数存在するなか、公共放送のオーケストラや合唱団の存続がなぜ求められたのか、人々の声から、公共放送の音楽文化支援、ひいては公共放送のサービスに求められているものは何かを考えたいと思います。

オーストリア公共放送ORF 放送オーケストラ廃止案に音楽界から反発
 まず、オーストリアのケースです。2023年2月、音楽の国オーストリアの公共放送ORF会長が、1969年に誕生した放送オーケストラ、ウィーン放送交響楽団(RSO)の廃止案を発表しました。ORFはインターネットによる番組配信サービスなどに対応する新しい財源制度検討の条件として、政府から経費削減を求められ、ORF会長は2026年までに約3億ユーロ(約450億円)を削減する策を示しました。その中にRSOの廃止が含まれていました。

 RSOはミッションの柱の1つに、「現代音楽の保護・育成」を掲げています。特に現代音楽4)については、新曲の委嘱や初演に力を入れ、これまでも、新たな作曲家の作品を世に送り出してきたことをホームページで紹介しています5)

rso_1_W_edited.pngRSOのミッションステートメント「われわれの時代の音楽をわれわれの時代の人々に」を紹介するホームページ

 今回のRSOの廃止案に対しては、こうした活動実績を踏まえ、RSOはもとより、音楽関係者や市民の間でも存続を求める声が強く上がりました。以下、新聞やニュースを通じて報じられた声です

★ウィーンフィルハーモニー管弦楽団6)(RSO ホームページ記事より 抜粋)
「RSOはかけがえのない重要な文化財だ。創設以来、世界の音楽界に大きな影響を与えてきた。その独自性は、何よりも現代音楽への姿勢だ。オーストリアのオーケストラでこれほど多くの現代音楽を演奏しているところはない。」

★ウィーン交響楽団 芸術監督 ヤン・ナスト氏7)(ORF  ニュース記事より 抜粋)
「RSOは現代音楽の保護・育成によって、ウィーンの音楽文化の中にしっかり根づいている。組織やコンサートホールの収益性を度外視できないウィーンフィルやウィーン交響楽団に比べ、RSOは音楽市場でより大胆に活動できる。」

 また、上記ウィーン交響楽団のホームページには、他の国内オーケストラと連名で、RSOの現代音楽の振興に向けた貢献を評価し、存続を求める声明が掲げられています8)

wien_2_W_edited.png※ウィーン交響楽団ホームページに掲載された、ウィーン交響楽団と国内7楽団の連名によるRSO廃止反対を訴える声明

★現代音楽作曲家 オルガ ノイヴィルト氏(Derstandard紙 記事より抜粋9)
「コロナやロックダウンで、現代音楽の活動の回復には時間がかかっている。現代音楽を支援するどころか、もはや必要とされていないように見える。RSOの廃止は取り返しのつかない結果を招くであろう。音楽の革新に対する政治家や社会の軽視を示す。MDW(ウィーン国立音楽大学)の教授である私にとって特に悲しいのが、若い世代に芸術表現の機会が奪われてしまうことだ。」

★現代音楽作曲家 ゲオルグ フリードリッヒ ハース氏(Derstandard紙 記事より抜粋10)
「RSOが廃止され、現代音楽のラジオ放送もなくなれば、遅かれ早かれ、商業放送はORFと不当な競争を強いられると訴えるだろう。私を含む多くの芸術家が、ORFが文化的使命を全うせず、大衆迎合のプログラムで、民間より競争で有利に勝つために受信料を使っていると証言するだろう。」

 そしてRSOの廃止案発表からまもなく、「SOS RSO」という楽団の廃止撤回を求めるオンラインの署名活動も立ち上がりました11)。これは8万人分の署名を集めましたが、オーストリアの人口の1%近くに相当する数字です。その中には、世界的にも著名なドイツの放送オーケストラ、バイエルン放送交響楽団の首席指揮者サイモン・ラトル氏らの署名もありました。同楽団ではホームページでも、RSOの特筆すべき現代音楽への貢献を挙げ、反対の声明を発表しています。

bayern_3_W_edited.png※バイエルン放送交響楽団のホームページに掲載されたRSOの存続を求める声明

 こうした音楽家や市民からの反対の声や、政府内にもRSOの廃止に反対する声も上がるなか、政府は3月24日、廃止案を取り下げ、存続に向けた財源を検討するとしました12)。RSOは3月24日、ツイッターで、次のように支援者への感謝を伝えています。

rsotw_4_W_edited.png※RSOツイッターより:3月24日、RSO廃止案撤回の発表を受け、支援者に感謝を伝えるメッセージ13)
「われわれは喜びでいっぱいである。発表されたように、オーストリア政府はRSOを将来にわたって継続的に守ると表明した。われわれは全ての支援者に感謝したい。そしてみなさんのために音楽を続けることができてとても嬉しい。」

 クラシック音楽は、およそ500年という歴史を持ち、さまざまな音楽形式や演奏スタイルが時代と共に生まれてきました。そうしたクラシック音楽文化の継承と発展には、新しい作品の創造への投資が不可欠ですが、一方、まだ評価の定まっていない新しい現代音楽のプログラムは集客リスクを伴います。RSOは公共放送のオーケストラとして、そうしたリスクある投資も担い、クラシック音楽を今日まで継承させてきたと支持され、存続を求める声につながりました。

BBC放送合唱団廃止と放送オーケストラ人員削減案  市民などもから強い反発
 オーストリアに続き、イギリスでは3月、放送局傘下の楽団の縮小や廃止に向けた動きがありました。BBCは財源不足に対応しながらデジタル化や経営合理化を進めるなか、3月7日に新しいクラシック音楽の戦略を発表しました。戦略には、イングランドの3つの放送オーケストラ(BBC交響楽団、BBCコンサート管弦楽団、BBCフィルハーモニー管弦楽団)の人員20%削減、そして100年の歴史がある合唱団BBC Singersの廃止が含まれていました。その目的は、オーケストラはより多くの音楽家と柔軟に、全国各地で演奏する、そして合唱は、全国各地の合唱団と活動し、より幅広くイギリスの合唱界全体に投資するため、などとしています。

 この案には、BBC傘下のオーケストラ指揮者をはじめ、音楽家や市民から強い反対の声が上がりました。中でも廃止案が出されたBBC Singersについては、ヨーロッパの各国の放送合唱団や、広く民間の合唱団からも強く存続を求める声が上がりました。BBC Singersの団員は20名で、長年、現代音楽の初演や幅広いレパートリーの演奏のほか、各地域で音楽普及活動にも取り組んできました。民間の合唱団のメンバーは、なぜBBC Singersを支持しているのか、ホームページやSNSに上がった主な声を紹介します。

☆国内外の多数の合唱団から「Don't Scrap BBC Singers!」

bbc_5_W_edited.png※BBC Singers廃止撤回を求める「Don’t Scrap The BBC Singers!」YouTube投稿動画より14)

 上記YouTube動画は、イギリス国内のさまざまな合唱団の人々によって、BBC Singers廃止反対を広く訴えるため投稿されたものです。イギリスはじめ海外も含む100近い民間合唱団が、それぞれ「Don’t Scrap BBC Singers!」などと訴えています。参加している合唱団は、子どもや若者から高齢者まで、また活動場所と思われる撮影場所も教会やコミュニティーハウスのような施設などさまざまです。参加者はメッセージを歌にしたり、こぶしを振り上げたり、それぞれ工夫をこらして廃止撤回を訴えています。そして動画には次のようなメッセージが添えられています。
「イギリスでは毎週、200万人が合唱団で歌っています。BBC Singersは、100年にわたってイギリスの音楽生活に不可欠な存在で、世界的にも名声を博しています。アマチュアもプロも、音楽家はいたるところ、BBC Singers解散の決定を覆すよう、BBCに求めます。イギリス中の受信許可料支払者は要求します。“BBC SINGERS を守れ!”」

☆アマチュア合唱団200団体 BBCへ反対の公開書簡
 国中のアマチュア合唱団が連携し、BBC会長宛にBBC Singersの廃止撤回を求める公開書簡を送るという動きもありました。3日間で、229の合唱団メンバー18,290人が,この呼びかけに賛同したとしています。

wimbledon_6_W_edited.png合唱団 Wimbledon Choralのツイッターに投稿されたBBC Singers存続を求める公開文書15)
(1頁に続き、2~4頁に合唱団の名前が記載されている。)

手紙によると、合唱団は、廃止撤回を求める思いについて、次のように書いています。一部を紹介します。
「合唱団の長いリストを見てください。都市部から地方まで、全国各地の団員18,000人です。高齢者から若者まで、コミュニティーも仕事もさまざまです。(大半はもちろん、受信許可料支払者です)。伝統的な合唱団や室内合唱団ほか、コミュニティーや職場、若者の合唱団、男声合唱団、LGBT+やホスピス、また教会やカレッジの合唱団です。小さなグループから何百人規模のグループまであります。美しい合唱を愛する人々にエリート意識はありません。」
「BBC Singersはイギリスの合唱界で、とても重要な位置を占めています。アマチュアが憧れるトップレベルの素晴らしさだけではありません。たくさんの親密なつながりがあるからです。BBC Singersはかつてのわれわれのメンバーであり、BBC Singersの現役メンバーや元メンバーが、数多くわれわれ合唱団の指揮をつとめています。ソリストとして定期的にアマチュア合唱団と演奏しています。われわれの地域に来て演奏し、定期的に素晴らしい音楽を届けています。個人的に、われわれ合唱団の家族なのです。イギリストップのプロ合唱団をつぶすことは、われわれをないがしろにするということになるでしょう。」

☆オンライン署名活動で BBC Singers存続を求める15万人分の署名
 BBCがBBC Singers廃止の発表した3月7日に、廃止撤回を求めるオンライン署名もスタートしました。

singers_7_W_edited.png※BBC Singersの存続を求めるデジタル署名サイト16)

このサイトは、最終的に15万人を超える署名を集めました。なぜ廃止に反対か、署名に添えられた支援者の声には、将来的に音楽を目指す若者が職を得られなくなる、芸術は必要でぜいたく品ではない、 BBCは世界の放送局が羨望する文化振興の模範であるべきだ、などといったコメントが投稿されていました。

 今回のBBC Singers廃止やBBCのオーケストラの人員削減案については、BBC傘下のオーケストラの指揮者や音楽家はもとより、音楽界の重鎮や政治家からも反対の声が上がっていました。3月24日、BBCは複数の団体から代替財源に関する提案があったとして合唱団の廃止案は保留し、オーケストラについても、強制的な人員削減は避けると発表しました。4月13日には、BBCは経費削減は必要としながら、オーケストラの人員削減について代替案を検討すると発表しました。

 2023年に入って続いたオーストリアやイギリスの動きですが、ヨーロッパで多くの主要公共放送が、経費削減や経営合理化で厳しい経営を迫られています。財源が限られるなか、何をサービスとして維持するのか、判断を迫られています。文化的支援についても、その成果を何をもって評価するか、客観的な指標が求められますが、今回のオーストリアやイギリスの動きを見ると、数字的な評価や短期的な視点では計れない、人々や社会の豊かな営みを支える役割や価値があるように思いました。今回は音楽に注目しましたが、歴史ある文化を広く継承し発展させるため、公共放送が担う役割とは何か、今後も欧州の動きを追いながら考えていきたいと思います。


1)例として、フランスの公共ラジオRadio France傘下の合唱団Chœur de Radio Franceのメンバーが2020年に約30%カット、アイルランドの公共放送RTÉ のオーケストラと合唱団National Symphony Orchestra and Choirs が2022年1月、National Concert Hallの運営に移管された。

2)https://www.nhk.or.jp/bunken/research/focus/f20230401_6.html

3)https://www.nhk.or.jp/bunken/research/focus/f20230501_6.html
https://www.nhk.or.jp/bunken/research/focus/f20230501_8.html

4)音楽の友社 「新音楽事典(1997版)」によると、「もっとも広い意味をもつ<現代音楽>は,<20世紀音楽>のほぼ同義語と考えられる。」

5)https://rso.orf.at/en/node/4617

6)https://rso.orf.at/en/node/4668

7)https://orf.at/stories/3305907/

8)https://www.wienersymphoniker.at/de/news/2023/2/stellungnahme-zur-geplanten-einsparung-des-rso-wien

9)https://www.derstandard.at/story/2000143781592/ueberlebenskampf-des-rso-wer-traegt-die-verantwortung

10)https://www.derstandard.at/story/2000143781592/ueberlebenskampf-des-rso-wer-traegt-die-verantwortung

11)https://mein.aufstehn.at/petitions/sos-rso-rettet-das-radiosymphonieorchester-wien

12)その後4月24日、政府は2026年まで連邦政府の補助金で運営し、それまでにそれ以降の財源形態について検討することを表明した。

13)https://twitter.com/rsowien/status/1638948339965374464?cxt=HHwWgMDRjZ21274tAAAA

14)https://www.youtube.com/watch?v=T4ft6ghF6y8

15)https://twitter.com/WimbledonChoral/status/1638103785024225280

16)https://www.change.org/p/stop-the-planned-closure-of-the-bbc-singers

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小笠原晶子
報道局、国際放送局を経て、2019年6月から放送文化研究所研究員。
フランスやヨーロッパのメディア動向、メディアの多様性に関する調査など担当。

メディアの動き 2023年05月25日 (木)

NHKを巡る政策議論の最新動向②民放連・日本新聞協会の主張は?【研究員の視点】#483

メディア研究部(メディア動向)村上圭子

はじめに

 NHKを巡る政策議論の最新動向、1回目は総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会(以下、在り方検)」の「公共放送ワーキンググループ(以下、WG)」で行われた受信料制度議論についてまとめました 。1)そこでも紹介しましたが、4月27日に民放連は、「NHKインターネット活用業務の検討に対する見解と質問について2) 」をWGに提出しています。そして5月19日には日本新聞協会メディア開発委員会(以下、新聞協会)も、「NHKインターネット活用業務の検討に対する意見 3)」を提出しました(以下、「意見書」と総称)。
 両者の意見書には、NHKが受信料財源によるネット展開を拡大することや、現在の任意業務を必須業務化することへの懸念が示されています。こうした中、5月24日、NHKの稲葉延雄会長は定例会見で、インターネットの世界でも放送と同じ役割を果たしていきたい、と必須業務化への意欲を示しました。26日のWG 4)ではNHKが報告を行う予定になっていますので、2回目の今回は、その報告前に、民放連と新聞協会が公表した意見書のポイントをまとめておきたいと思います。

1.6つの項目

 意見書では、民放連は13、新聞協会は10の質問をあげています。1つ1つの質問文が比較的長く、中には200字近いものもあります。少なくとも私は、文章をそのまま読んだだけではなかなか理解が進まなかったので、質問内容を項目に分けて整理してみました(図1)。

<図1>

  • 1)NHKのネット活用業務拡大と「情報空間の健全性」との関係
  • 2)ネット活用業務を中心としたこれまでのNHKの取り組みの検証            
  • 3)ネット活用業務の必須業務化に伴う民間事業者への影響
  • 4)NHKの説明責任
  • 5)制度改正に対する疑問 ①必須業務化②受信料制度③義務・規律
  • 6)政策議論の今後

 この6項目に従い、民放連と新聞協会のそれぞれの質問を整理したのが図2です。この図に沿って、両者の主張を見ていきたいと思います。

<図2>

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2.両者共通の主張

 まず民放連と新聞協会がおおむね同じ主張をしていると思われたのが、1)「NHKのネット活用業務拡大と情報空間の健全性との関係」、4)「NHKの説明責任」、5)「制度改正に対する疑問①必須業務化」、6)「政策議論の今後」です。それぞれ見ていきます。
 改めて確認しておくと、在り方検の問題意識の前提にあるのは、課題が山積するデジタル情報空間におけるインフォメーションヘルスの確保です。公共放送WGでも、NHKには先導的な役割を期待するという方向で議論が進んできました。しかし、民放連および新聞協会は、NHKのネット活用業務の拡大は、どのように「情報空間の健全性」の確保につながるのか、必須業務化でなぜ健全性が高まることになるのか、という根本的な疑問を投げかけています。
 そして両者とも、もしネット活用業務の拡大や必須業務化の議論を進めるのであれば、まずNHK自らがネット上で具体的にどのような業務を行おうと考えているのかを説明すべきであると主張。その上で、そうした業務がネット上でもたらす効果や市場への影響を検討するというのがあるべき議論の順序ではないか、としました。民放連からは、対象業務が抽象的なままでは公正競争の議論も抽象論になってしまう、との指摘もありました。新聞協会からは、そもそもなぜネット活用業務が任意業務ではだめなのか、NHKにはその理由を説明してほしいという要望もありました。NHKは去年11月、第3回のWGで報告を行っていますが、両者の質問からは、NHKの報告内容に納得できていなかったことがうかがえます5)
 また、仮に制度改正が行われ、NHKのネット活用業務が必須業務化になったとして、具体的にNHKの業務展開はどう変わり、ひいては視聴者 ・国民にとって何が変わるのか、という質問もありました。また民放連からは、もしもネット活用業務を区分し、一部を必須業務、残りを任意業務とする場合は、どのように規定するのか、という質問もありました。

 WGの今後の議論の範囲や進め方についても、民放連と新聞協会は同じ問題意識を持っていると感じました。NHKのネット活用業務の必須業務化を検討するということは、NHKにとどまらず、デジタルプラットフォーマーも含めた事業者がユーザーに対して持つ情報空間の健全性確保の責務や、 ネット空間における公共性のあり方を考えることにも通じるとし、そうした「放送法の外側にあるネット配信全般についての検討」(民放連)や、「放送法の枠を超えた議論」(新聞協会)を行うつもりはあるのかが問いかけられました。
 以上見てくると、意見書はあくまでWG宛てですが、質問の多くはNHKに対しても向けられていることがわかります。

3.新聞協会の力点

 ここからは民放連、新聞協会の主張の力点の違いを見ておきたいと思います。 まず、新聞協会の質問書からは大きく2つの主張が読み取れます。1つは、2)のNHKのこれまでの取り組みに対する検証をしっかり行うべき、という要望、もう1つは、3)のNHKのネット活用業務拡大は民間の報道機関の公正な競争を難しくさせるのではないか、という懸念です。検証の要望については3つの質問で、公正競争への懸念については4つの質問で自らの考えを示しています。これらの質問に通底する意識が次の文章からも読み取れます。「NHKのネット業務拡大が情報空間全体の改善にどの程度寄与するか、その効果が他の報道機関などに与える悪影響より優先されるのかを示すべき(中略)。一度棄損されたメディアの多元性や言論空間が元の姿を取り戻すことは難しく、そうした点に留意した議論が行われるべきだ」6)
 NHKは現在、受信契約者であるかどうかに関わらず誰でも視聴することができる、「理解増進情報」と呼ばれる番組関連情報・コンテンツをネット上で展開しています。新聞協会は、この内容について、 オリジナルコンテンツが多いのではないか、また提供方法については受信料制度上問題がないのか、それぞれ検証すべきではないかと主張しています。具体的なサービスとして「NHKニュース・防災アプリ」「NHK NEWSWEB」「NHK政治マガジン」をあげていることからも、これらのサービスを特に問題視していることがわかります。
 
4.民放連の力点

 民放連は13の質問を提出していますが、そのうちの大半が放送制度に関する内容でした。質問のベースには、これまでNHKは、「『放送』を規律するための放送法のもとで、それと矛盾しない形でインターネット活用業務を広げてきた」が、「今般のWGの議論は、この従来の枠組みを一気に超えていこうとしている」のではないか、という問題意識があります7) 。意見書で民放連が挙げた放送制度のうち、受信料に関しては意見書提出後に開催されたWGの第7回で議論されていました8) ので 、ここでは義務・規律に関する質問について触れておきます。
 民放連は今回の意見書のみならずWGの発言においても、NHKのネット活用業務の必須業務化をきっかけに、「放送」全体の枠組みにも何らかの制度変更が及ぶ可能性がないかという懸念もあり、以前から敏感に反応してきました。 民放はこれまで、ネット配信は放送制度の下で行うサービスとは異なり、あくまで個別の局によるビジネス領域であるというスタンスで取り組んできています。しかし、もしもそれが、「放送法において、インターネット配信を放送のように規律する考え」となると、今後のビジネス展開にも影響が及びかねません。そうした意味でこの点は、二元体制の一翼である民放特有のテーマであるともいえます。

5.意見書公表が意味するもの

 今回意見書として示された民放連と新聞協会の主張には、過去半年間に開かれた7回のWGで、論点化され議論されてきたことも数多く含まれています 。在り方検の前身である「放送を巡る諸課題に関する検討会」に設けられた「公共放送の在り方に関する検討分科会 9)」でも、NHKのネット活用業務について議論が続けられてきました。にもかかわらず、ここにきて、こうした質問が提出されたということは何を意味するのでしょうか。
 1つ目は前述した通り、当事者であるNHKの姿勢が問われているのだと思います。 NHKがまず主体的にネット上でどのような役割を果たしたいのか、その考え方や具体的な業務内容を示すべき、という意見は、民放連、新聞協会からだけでなく、複数の構成員からも出されています。NHKはこれまで、まずはWGでの議論を待ちたい、というスタンスを示してきました。これまでのWGの議論、そして 民放連や新聞協会の意見書を受け、5月26日のWGではどのような内容の報告を行うのか。改めてNHKの姿勢が問われることになるでしょう。
 2つ目は、NHKのネット活用業務の拡大や必須業務化を少しでも先送りさせたいという、民放連、新聞協会の思惑ではないかと思います。 放送や新聞といった伝統的なメディア企業は、公共放送であるNHKと同様、人々の知る権利に奉仕し、民主主義を下支えし、文化の発展を担ってきた存在です。在り方検の議論では、デジタル情報空間の課題への対応は待ったなしである、とか、外資系のデジタルプラットフォーマーが存在感を増す中で国内の事業者同士が争っている場合ではない、という問題意識が示されていますが、こうしたテーマに、民放も新聞も、時に私企業としての利害を超えて解決策を検討する議論に参画する責務があると私は思います。一方で、民放や新聞の経営の立場にたって考えてみれば、NHKも含めて、ライバルになり得る事業者は1つでも少ないほうがいいし規模も小さいほうがいいというのも当然の発想です。既存事業の落ち込みとネット上のビジネスの伸び悩みの状況が一層深刻になる中、“あるべき論”を振りかざすだけでは議論は前に進まなくなってきているということだと思います。

 WGでは、何度も確認されているとおり、インターネット時代のNHKの役割、ネット業務の範囲、公正競争のあり方、財源・受信料問題をひと通り議論し終わった後、改めて積み残された論点を議論していくことになっています。今後どういう進め方をしていけば建設的な議論ができるのでしょうか。
 民放連、新聞協会が共に疑問を投げかけていたとおり、デジタル情報空間における健全性の確保と各メディアの役割という議論は、NHKだけでなく、放送法の枠を超える議論です。公共放送WGと平行して別な会合でも議論を進め、WGの議論と接合させながら改めてNHKの役割や業務を考えていく、そうした議論の設計も必要なのではないかと思います。
 また、NHKが主語の議論になると、どうしても民放・新聞とNHKの関係が「競争」の観点一辺倒の議論になりがちです。もちろん、公正競争の議論はWGでもさらに具体的に進めていくことになりますが、一方で、「協調」「連携」の観点からの議論をどのように進めていくのかも考えていかなければなりません。今回の両者の意見書には出てきませんでしたが、過疎化や地域経済の衰退に悩む地域を基盤にしたローカルメディアの状況は、東京や全国を基盤とするメディアよりもさらに深刻です。こうした地域に地盤を置くローカル局、ケーブルテレビ、コミュニティ放送局、地方紙などのローカルメディアを支えるための協調や連携を、NHKはどう進めていくべきか。受信料を財源にした何らかの枠組みを作っていくことはできるのか。このことは、今回のWGの議論の主舞台であるネット空間にとどまらず、幅広く考えていかなければならないテーマだと思います。そのためには、NHK主語ではなく、地域メディア主語の議論をしていく必要があるはずです。
 現在示されているスケジュールでは、WGは今夏にとりまとめを発表することになっています。今後、どこまで議論は深まっていくのか。引き続き注視し、ブログを執筆していきたいと思います。


  •   1.  https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2023/05/18/
  •   2.  https://j-ba.or.jp/category/topics/jba105989
  •   3.  https://www.pressnet.or.jp/statement/20230519.pdf
  •   4.  https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/digital_hososeido/02ryutsu07_04000377.html
  •   5.  第3回のNHKの報告とそれを受けた議論について詳しくは...
           https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2023/01/25/
  •   6.  カギカッコ部分は新聞協会の意見書1Pから引用
  •   7.  カギカッコ部分は民放連の意見書2Pからの引用
  •   8.  WG第7回の議論の内容については1)を参照
  •   9.  公共放送の在り方に関する検討分科会とりまとめ
  •        https://www.soumu.go.jp/main_content/000733495.pdf

 

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村上圭子
報道局でディレクターとして『NHKスペシャル』『クローズアップ現代』等を担当後、ラジオセンターを経て2010年から現職。 インターネット時代のテレビ・放送の存在意義、地域メディアの今後、自治体の災害情報伝達について取材・研究を進める。民放とNHK、新聞と放送、通信と放送、マスメディアとネットメディア、都市と地方等の架橋となるような問題提起を行っていきたいと考えている。

メディアの動き 2023年05月22日 (月)

【メディアの動き】北朝鮮ミサイルで初の「日本領土・領海 に落下予測」,その後「可能性なくなる」

4月13日午前7時26分,防衛省は北朝鮮から弾道ミサイルの可能性のあるものが発射されたと発表した。

その約30分後の午前7時55分,政府は,人工衛星を通じて自治体などに緊急に情報を伝えるJアラート=全国瞬時警報システムで「北海道周辺」を対象に,直ちに避難を呼びかける情報を発信。

さらにその1分後の56分には,エムネット=緊急情報ネットワークシステムで,「先ほど発射されたミサイルが午前8時ごろ,北海道周辺に落下するものとみられます。北海道においては直ちに建物の中や地下に避難して下さい」と伝えた。

政府がJアラートとエムネットで情報を発信したのは今回で7回目だが,日本の領土や領海への落下が予測されたのは初めて。

各放送局は臨時ニュースで避難を呼びかけ,北海道では通勤客が地下街に避難するなどの影響が出た。

しかし,政府は午前8時16分,エムネットで「当該ミサイルについては北海道及び,その周辺への落下の可能性がなくなったことが確認されましたので訂正します」と発表した。

これについて同月21日,防衛省は,当初,北海道周辺に落下するおそれがあると探知したのは,結局ミサイル本体ではなく,分離したブースターなどだった可能性があるとする分析結果を公表した。

今回の一連の情報発信をめぐり,岸田総理大臣は同月13日,「国民の安全を最優先する観点から発出し,その後,ミサイルがわが国領域に落下する可能性がなくなったことが確認されたので改めて情報提供を行った。Jアラートの役割を考えれば今回の判断は適切だったと考えている」と述べた。

メディアの動き 2023年05月22日 (月)

【メディアの動き】制作会社側がNHKのBS波削減による制作機会の減少に懸念 

4月24日,総務省が設置する「放送コンテンツの制作・流通の促進に関するワーキンググループ」の第5回会合が行われた。

その中で,全日本テレビ番組製作社連盟(ATP)は,2024年3月にNHKがBS波を削減することについて,懸念と要望を表明した。

BS波削減によって制作機会が失われることに危機感を抱くATPは,外部制作委託や共同制作の比率のいっそうの拡大,そして適正な制作費の確保と総制作費の開示を求めた。

こうした懸念と要望の背景には,国内の製作会社の収益悪化がある。

ATPの調査によると,総売り上げ10 ~ 20 億円未満の製作会社の86%以上が減益(2021年度)であり,特に小規模な会社の経営状態が悪化しているとみられる。

放送をめぐる環境の悪化に対応するためのさまざまな議論の過程で,放送事業者と番組製作会社の間での,制作委託契約や取引価格,さらには著作権の帰属をめぐるトラブルが顕在化し,法令違反の防止,取り引きの適正化は急務となった。

総務省では,適正な取り引きのためのガイドラインの策定・改訂とともに,製作会社等に対応する無料の法律相談窓口を設けるなど,取り組みを進めている。

しかし,NHKが受信料の値下げを決定し,民放各局も番組制作費の削減が相次ぐ中,さらなるしわ寄せが立場の弱い製作会社に及ぶおそれもある。

放送業界がこの悪循環を断たなければ「良質で魅力ある放送コンテンツの製作・流通を促進」することは期待できず,Netflixなど外国資本の動画配信サービスの伸張を止めることは困難であろう。

メディアの動き 2023年05月22日 (月)

【メディアの動き】石川県の馳浩知事が定例会見開かず 地元テレビ局とのトラブルが発端

石川県の馳浩知事が,これまで月に1回のペースで開いていた定例の記者会見について,3月に続き4月も開かないという異例の事態が続いている。

馳知事は,2022年10月に全国公開されたドキュメンタリー映画『裸のムラ』(石川テレビ製作)で,県職員の映像が無断で使用されたと主張。

石川テレビの社長に定例記者会見への出席を求め,その場で議論したいという意向を示した。

これに対し,石川テレビは「肖像権侵害にはあたらず,当社が主催する記者会見以外に社長が出席することはない」として応じない考えで,両者の言い分が相容れないまま,定例会見が開かれていない。

一方で,新年度の抱負を述べた4月4日の臨時記者会見など,4月に3度の会見に臨み,その場で,記者がなぜ定例会見を開催しないのかを知事にただすという状況が続いている。

2022年3月に初当選した馳知事は,定例記者会見の実施を知事選で公約の1つに掲げていた。

今回の事態について,新聞労連や民放労連などで作る日本マスコミ文化情報労組会議は同月21日,声明を発表し,「そもそも記者会見は県民に向けて行われるもの」としたうえで,「『定期的に開催する』と知事選で公約した会見の機会を一方的に閉ざすのは,県民の『知る権利』を侵害する行為そのものだ」と非難し,早急に定例記者会見を再開するよう求めた。

またメディア側に対しても「当の石川テレビをはじめ,県内の各放送局はこの問題をあまり報じていない」などと指摘し,「報道機関は一致して事態の打開に向けて行動すべきだ」として奮起を促した。     

メディアの動き 2023年05月21日 (日)

【メディアの動き】SNS時代の先駆け Buzzfeed News閉鎖

SNSを活用するデジタルニュースの先駆けとなった,アメリカのBuzzFeed News編集部の閉鎖が決まった。

BuzzFeed社のジョナ・ペレッティCEOが4月20日,社員に宛てたメモで伝えた。

同氏は,厳しい経済環境やSNSプラットフォームの運用・利用の変化などを要因として挙げ,報道は,SNS依存度が低く忠実な読者がいて黒字のHUFFPOSTで継続すると述べた。

BuzzFeed Newsは,2006年創業のデジタルメディアBuzzFeed社の報道部門として2012年に出発した。

「このドレスは何色?」など話題や笑いを誘う記事を無料で配信し,FacebookやTwitterなどSNSの利用者間の共有で閲覧数を伸ばした。

一時は既存メディアを脅かす存在ともいわれ,各社のデジタル展開のモデルともなった。

調査報道も行い,2021年には中国・新疆ウイグル自治区のイスラム教徒収容所建設の報道でピュリツァー賞を受賞した。

BuzzFeed社は2015年に時価15億ドル(約2,000 億円)とも評価されたが,Facebookがアルゴリズムを変えてニュース記事配信の優先度を下げたことなどが影響し,閲覧数が激減。

広告収入も減って赤字が膨らみ,2021年末の株式公開後はIT不況もあって株価が大幅に下落し,株主からコスト削減を迫られていた。

BuzzFeed News編集長を2020年まで務めたベン・スミス氏は,SNSを紙面代わりに活用したデジタルニュースメディアの時代が終わったと述べ,New York Timesはベンチャー投資がデジタルメディアの成長を牽引した時代の終章だと伝えた。

アメリカではデジタル時代のベンチャーメディアの代表格ViceやVOXも厳しい経営状況に直面している。 

メディアの動き 2023年05月20日 (土)

【メディアの動き】ChatGPT対応で専門の作業部会を設置へ,EUデータ保護会議

EU(ヨーロッパ連合)加盟各国のデータ保護当局などで構成される「欧州データ保護会議」(EDPB)は4月13日,アメリカのベンチャー企業OpenAIが開発した対話式の生成AI,ChatGPTについて,専門の作業部会を設置すると発表した。

EDPBは,イタリアのデータ保護を担当する当局によるChatGPTに対する3月の禁止措置について協議したうえで,当局間で情報を交換し,協力して対応にあたるため,専門の作業部会の設置を決めたとしている。

イタリアでは3月31日,ChatGPTによる膨大な個人データの収集などが,個人情報の保護に関する法律に違反している疑いがあるとして,データ保護を担当する当局が,一時的に使用を禁止すると発表した。

ロイター通信によると,ChatGPTの使用禁止は欧米ではイタリアが初めてだ。

またある当局筋の話として,今回の作業部会設置は,ChatGPTを開発したOpenAIに影響のある処罰や規則の設置ではなく,透明性のある一般的な政策の策定が目的だとしている。

EU域内では,スペインやフランスで,データ保護機関が,ChatGPTにデータ保護違反がないか,調査を開始している。

ドイツでは,ジャーナリストも含む43の著作者団体が,ChatGPTの著作権侵害などへの脅威に対し,EUで審議中のAI規制法案の強化を求める動きなどがあるほか,生成AIで作成された架空の記事で,週刊誌編集長が解雇されるという問題も起きている。

イタリアでは4月28日,対策が講じられたことを受け,ChatGPTの禁止措置は解除されたが,当局は引き続き欧州データ保護規制の順守を求めている。

メディアの動き 2023年05月19日 (金)

【メディアの動き】韓国,KBS受信料の徴収方法を変更へ

韓国の大統領室は,公共放送KBSの受信料の徴収方法を変更することを決定し,今後,具体的な手続きを検討することになった。

KBSの受信料は,放送法により「テレビ受像機を所持している者」に支払い義務があり,1994 年からは,韓国電力が電気料金とともに徴収している。

ただ,放送を見ていなくても受信料の支払いが必要となるため,「視聴者の選択権を制限する不合理な制度ではないか」という声があり,大統領室では3月9日から1か月間,国民から賛否の意見を募集していた。

6万件弱の回答の結果は,分離徴収についての賛成意見が96.5%だった。

大統領室関係者は結果について,「国民の意思に従い,確実に制度を見直す」と述べている。

具体的には,韓国電力の受信料徴収業務を規定している放送法施行令の見直しが検討されている。

あわせて,規制監督機関の放送通信委員会も,受信料徴収制度の改善に向けた検討を進めることになった。

KBSは,分離徴収となれば受信料収入は半分以下に減り,徴収費用は2 倍以上に増えると予測している。

また,「国際放送,障害者向け放送,クラシック音楽放送などの公共サービスが縮小される」との懸念を示している。

野党の「共に民主党」も,「受信料を武器に公共放送を支配しようとしている」と政府を批判している。

KBSは40 年以上据え置かれた受信料の引き上げを求めており,2022 年10月には野党が放送法改正案を国会に提出していた。

そのさなかに分離徴収の議論が巻き起こったことで,公共メディアの将来像にいっそう注目が集まっている。

メディアの動き 2023年05月19日 (金)

【メディアの動き】英BBCシャープ理事長が辞任を表明

イギリスの公共放送BBCのシャープ理事長は,選任のプロセスで規定違反があったとの調査報告が出たことを受けて,辞任を表明した。

与党・保守党の大口献金者であるシャープ理事長は,旧知であるジョンソン首相(当時)のローンの保証人の手配に関与していたことが 1月に明らかになり,監督機関による調査が進められていた。

4月28日に公表された報告書は,シャープ氏がジョンソン氏に対し,理事長職に応募する意思があることや,ローンの保証人に名乗り出ている知人を内閣官房長に紹介することを事前に伝えていながら,選任にあたって当局に申告しなかったことは問題だとした。

また,シャープ氏が,任命権者であるジョンソン氏を支援したことが有利に働いたという印象を与える危険性があり,事実を申告しなかったことは規定違反にあたるとした。

また報告書はメディアに対し,政府が有力候補の氏名をリークすることで,ほかの候補者が応募を見送っている可能性を指摘し,候補者の多様性を損なうこうした行為も禁止するよう求めた。

報告書の公表を受けてシャープ氏は同日,「報告書は,違反は不注意によるものであり,任命を無効にするものでないとしている」としながらも,「BBCの利益を優先すべきだ。私が居続ければ,局のよい仕事に関心が向けられなくなる」と述べ,辞任を表明した。

BBC 理事会の要請によりシャープ氏は6月末まで職にとどまり,その後,政府による公募で新しい理事長が選出されるまで,理事から選ばれる暫定理事長が任務を行う見通し。

BBCのデイビー会長は「2 年の在職中,BBCの変革と成功に多大な貢献をした」と謝意を示した。