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メディアの動き

メディアの動き 2019年02月08日 (金)

#168 TBSラジオ、番組制作の指標にradikoの聴取データ

メディア研究部(メディア動向)越智慎司


TBSラジオは、ラジオ番組をインターネットで配信するradikoの聴取データを番組制作に活用する取り組みを始めました。

ラジオでは、番組制作や広告取引の指標として「聴取率」が利用されています。聴取率は多くの場合、調査対象者にどんな番組を聞いたかを記録してもらう方法で調べます。首都圏の民放の場合、ビデオリサーチが2か月に一度、1週間にわたって行っている聴取率調査のデータを利用しています。
TBSラジオは番組制作の指標として、こうした聴取率の代わりに、リスナーの動向をリアルタイムで把握できるradikoのデータを活用することにしました。データをグラフなどで見やすくするツールを開発し、1月末から試験運用を始めました。

今回開発されたツールは「リスナーファインダー」という名前で、radikoからTBSラジオの番組をリアルタイムで聴いている人数が画面の中で1分単位のグラフで表示されます。また、延べの視聴分数や性別・年齢層、各SNSで番組がシェアされた数なども表示され、電通が開発したデータ管理プラットフォームにあるデータと合わせると、リスナーの志向性の分析につなげることもできます。TBSラジオのスタッフルームや副調整室にはこうしたデータを表示するモニターが設置されました。TBSラジオは「リスナーファインダー」のデータは外部に公表せず、広告取引にも使わないとしています。

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TBSラジオの三村孝成社長は「radikoと聴取率調査の数字の関係性をずっと見てきたが、ほとんど等しい動きになっており、リアルタイムの数字で企画や演出を検証するほうがニーズに応えられると考えた。今のラジオにとってのテーマは、ラジオに接触していない人をリスナーにすることで、制作者がリスナー開拓のアイデアを出すことに、新しいツールを使っていきたい」と話しています。

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radikoのデータという聴取率に代わる指標を活用しようとするTBSラジオの取り組みが、今後、ラジオ業界にどのような影響を与えるのか、注目したいと思います。

メディアの動き 2019年02月01日 (金)

#166 デジタル時代に放送はどう向き合うか ABU総会からの報告

メディア研究部(海外メディア研究) 吉村寿郎


アジア太平洋地域の放送の発展をめざし、お互いに協力し合う放送機関の連合体、それがAsia-Pacific Broadcasting Union(ABU・アジア太平洋放送連合)と呼ばれる組織です。今年で55回目を迎えるABU総会と関連会議が2018年9月30日から10月5日にかけてトルクメニスタンの首都アシガバートで行われ、約50の国と地域から500人近くが参加しました。

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放送局は今、ソーシャルメディアなどの影響力が強まるデジタル時代にいかに適応し、進化していくかが問われています。一連の会議では「デジタル時代に放送はどう向き合うか」をテーマにさまざまな意見が交わされました。「放送局がこんなことまでするの?」といった斬新な取り組みから、時代に流されずラジオ放送の原点を見つめ直すような番組の紹介まで、バラエティに富んだプレゼンや議論を1週間にわたって聞き続け、アジアの放送局の最新動向を探ってきた報告が「ABUアシガバート総会からの報告」『放送研究と調査』2019年1月号です。総会では各国の放送局でデジタル戦略を担う専門家からも直接話を聞くことができ、日本とはひと味もふた味も違う発想に刺激を受けました。これからの放送メディアのありようを考えるひとつの手がかりとして、ご一読いただければ幸いです。

ところで今回の出張では、トルクメニスタンという国のメディア事情などを肌で感じることが出来たのも貴重な経験でした。「国境なき記者団」がまとめている「世界の報道自由度ランキング」によると、トルクメニスタンは世界ワースト3にランキングされ、最下位の北朝鮮などとともに言論が厳しく統制された国として知られています。現地でまず驚いたのは、ガイドと呼ばれる政府関係者が片時も離れずついてくること。ABU総会への参加が目的とはいえ、海外の報道機関の関係者が外に出て勝手な取材をしないよう、行動を見張っているのです。会議日程の合間を縫ってトルクメニスタンの国営放送が企画してくれた小旅行では、野外ミュージアムのような場所に案内され、「庶民の暮らし」をわざわざ再現して見せてくれました。

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出張の最終日には、アシガバート市内を駆け足で見て回りました。実は見どころ満載です。世界最大の星形建造物に屋内観覧車、世界最長のじゅうたんなど、ユニークな「世界一」が並び、天然ガスの輸出に支えられた国の豊かさを象徴しています。

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ここだけはじっくり見ておきたいと思っていたのは、イスラム芸術の粋を集めた荘厳な装飾で知られるキプチャク・モスクです。

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扉の隙間から漏れる光を眺めていると、もう少し、この未知の国の扉を押し開けてみたいという欲求に駆られてしまうのでした。今回のABU総会の取材をきっかけに、今後、国ごとに異なる事情を踏まえながらアジアの放送局の現地調査などを行っていきたいと考えています。

メディアの動き 2019年01月18日 (金)

#163 「著作権70年時代」にできること、すべきこと

メディア研究部(メディア動向) 大髙 崇


昨年12月30日、TPP協定が発効したことで、日本国内での著作権は「著作者の死後70年」まで保護されることになりました。従来は死後50年までだったので一気に20年延長です。この問題については、放送アーカイブ活用の側面から考えた論文を『放送研究と調査』の2018年8月号9月号に掲載しましたので、お読みいただけるとうれしいです。

三島由紀夫(1970年没)をはじめとした有名作家の作品はもちろん、無名の、例えば私が絵を描いたり曲を作ったりしたものでも、死後70年を経過しないと他の人が無断で使用することはできなくなりました。作者が誰かわからない、とか、連絡先がわからない、といった理由で作品が「お蔵入り」のままになってしまう、「権利者不明問題」は、この先さらに深刻になるでしょう。NHKでいえば、過去に放送し保存している番組(放送アーカイブ)は約100万本に達しますが、番組内で使用した著作物の権利者の連絡先がわからないなどの理由で、再利用できないものが大量にある状況です。

この著作権保護期間延長を受けて、1月10日に急きょ都内で開催されたシンポジウム「著作権延長後の世界で、我われは何をすべきか」を取材してきました。

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(写真・シンポジウム会場)
満席! 関心の高さがうかがえます。

著作権法の研究者や弁護士、漫画家や写真家が所属する団体の方々に加え、著作権の消滅した文芸作品をインターネット上で公開している青空文庫のメンバーなど、多数の関係者が登壇。「これから何ができるか、何をすべきか」について、多くの斬新な提案と熱い議論がなされました。このうち、私が注目した発言をご紹介します。

東洋大学の生貝直人准教授が着目したのはアメリカの著作権法。絶版などの理由で入手できない作品について、保護期間の最後の20年間は、図書館などがデジタル化して利用してもよい、という条項があります。日本の著作権法でも同様の法改正を行い、絶版のものなどは、非営利のアーカイブ機関であればインターネット公開ができるような環境づくりをすすめてはどうかと提案しました。

また、日本漫画家協会理事の赤松健さんは、国会図書館がスキャンデータとして保有する1968年以前(50年以上前)の作品を、利用者には無料配信し、広告収益を作家や出版社へ還元するビジネスモデルを唱えました。

こうした、法制度改革や新しいビジネスモデルのアイデアが続々と登場し、放送アーカイブの利活用にあてはめて応用できそうなものも多く、とても建設的なシンポジウムとなりました。

もともとは「プロの作家」の権利だけを念頭に作られた著作権法。しかし今は、インターネットを通じて誰もが「著作者」になれます。「著作権70年時代」を迎えて、創る人も、使う人も納得できるようなルールを作るために、発想を新しくする必要がいよいよ高まっています。


メディアの動き 2018年12月13日 (木)

#158 生放送の字幕を自動生成しスマホに配信、民放24局で実験 ~字幕放送の"最適"を探る~

メディア研究部(メディア動向) 越智慎司

全国11エリアの民放24局で、生放送の番組の音声から字幕を自動生成しスマートフォンに配信する実証実験が、11月19日~30日の間に行われました。民放でこのような規模で字幕放送の実験が行われるのは初めてだということです。
実験には、在阪民放5社で構成する「マルチスクリーン放送協議会」が開発したシステム「字幕キャッチャー」が使われ、各局はそれぞれ5日間、夕方のニュースなどの音声から自動生成した字幕をスマホに配信しました。このシステムにはNHK放送技術研究所や情報通信研究機構(NICT)の音声認識の技術が導入されています。また、多くの人が利用しやすいよう、ダウンロードが必要なアプリではなく、スマホに標準搭載されているウェブブラウザーを使ったということです。協議会は実験後、字幕を受信した障害者や高齢者から感想や意見を集めています。

字幕放送については、総務省が2018年2月に策定した指針で、民放の県域局(独立U局を除く)では、2027年度までに字幕付与の対象番組のすべて、少なくとも80%以上につけるという目標が示されています。しかし、地域の民放各局は字幕放送の人手や費用が限られ、どう対応するかが課題となっています。

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「字幕キャッチャー」のデモンストレーション、Inter BEE 2018

実証実験の直前に、放送機器展「Inter BEE 2018」(11月14~16日、千葉市)で行われた「字幕キャッチャー」のデモンストレーションを取材しました。生放送の字幕は、間違いがないよう人の手で入力や修正を行うため、実際の音声から大きく遅れることが多いですが、協議会によると「字幕キャッチャー」での遅れは5秒程度だということです。一方、自動で作られた字幕は、文意は読み取れるものの、漢字などが正しく表示されないケースが散見されました。

協議会は、字幕の自動生成の実用化には、間違いがあっても字幕が有用だという視聴者の声、その声を国などが後押しし、社会の理解を得ること、完璧でない字幕を送ることについての放送局の判断、などが重要だと考えています。このため、今回の実験で字幕放送を見た人たちからリアルタイム性や表示の正確さをどの程度必要としているか聞くことにしています。今、どのくらいであれば視聴者に受け入れてもらえるのか、協議会と地域の民放各局は、字幕放送の“最適”を探ろうとしています。

メディアの動き 2018年10月12日 (金)

#148 アメリカ公共放送局が生き残りをかける次世代放送規格とは?

メディア研究部(海外メディア研究) 大墻 敦


今回、『放送研究と調査』10月号に掲載した論考を書くにあたり、自宅のパソコンから、アメリカのワシントンDCやアリゾナ州フェニックスにいる「ATSC3.0」(次世代地上放送規格)の導入に取組む関係者たちのパソコンにスカイプでつなぎインタビューをしました。「自前の伝送路を持たないと、インターネットに負ける」「インターネットと同等の機能をもつ伝送路で勝負!」など、オフィスでの勤務を始めたばかりの彼らの威勢の良い英語が、深夜の私の部屋に響きました。

日本では2011年7月にアナログ放送が停波し、まだ7年。なのに「もう次世代?」と思われる方も多いかと思います。放送局で長年にわたり働いてきた私でも、そう思います。そもそも、アナログからデジタルへ転換する理由も、当時、よくわかりませんでした。私は番組制作が専門で、技術的なことには疎い人間です。
そんな私がこの論考に取り組むことになったきっかけは、昨年12月に行ったAPTS(America’s Public Television Stations、アメリカ公共テレビ連盟)のロナ・トンプソン副社長へのインタビューでした。彼女が「ATSC3.0の導入により公共放送はNetflixなどのOTT企業、YouTube、Amazon、Facebookなどに押され気味の状況を挽回するチャンスだ」と熱弁をふるうのに驚きました。正直、「ATSC3.0って何?」という気持ちでした。しかし、調べていくとアメリカでも地方のテレビ関係者たちの危機感は強く「このまま座してインターネットに敗北するのか」「リスクはあるけれども、うって出るべきか」と悩みが深い現状を知りました。

mr1810cover-140.png今回の論考のタイトルは「次世代放送規格「ATSC3.0」にアメリカ公共放送局はどう取り組んでいるのか?~地方都市における新たなテレビ・エコシステムの構築へ~」と、ちょっと長くて難しそうです。でも、私としては、テレビの将来を考えるうえでは欠かせない視点の提供ができたのではないかと考えています。関係者たちが全員口をそろえて言ったのは「成功するかどうかは分からないけど、前進するしか道はない」という主旨の言葉でした。是非、読んで下さい。




メディアの動き 2018年09月14日 (金)

#144 受信料は時代遅れで不公平?-デンマークの選択

メディア研究部(海外メディア研究) 中村美子

4月に、デンマークに行って来ました。

いま、番組研究グループの渡辺誓司主任研究員と共同でパラリンピック放送をテーマに調査研究を進めています。デンマークの公共放送DRのパラリンピック放送を取材することが、デンマークを訪問する第1の目的でした。
ところが、1月に「受信料廃止/税金化」と「DRの予算を5年間で20%削減」の2点について与野党が合意し、4月にはこの政治合意を前提に、政府は2019年から5年間のメディア政策提案を発表しました。いま、ヨーロッパ各国で、公共放送の財源制度や財源規模の見直しが続いています。が、正直に言って、デンマークの動きはノーマークでした。

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他の国に比べると“電光石火”の決定に、いくつもの疑問がわきあがりました。受信料廃止の理由は?税金化のリスクをどれほど考慮したのか?また、DRに「ニュース、教育、文化」に集中することを政府は求めています。公共放送にとってコンテンツを通じて視聴者との関係の構築することがますます重要になっています。ましてや、NetflixやYouTubeなどの利用が高まり、情報や娯楽の選択肢は拡大しています。それなのに、公共放送の範囲を狭める意図は何か?

そこで、パラリンピック放送の現地調査をチャンスに、メディア政策に係る国会議員、メディア・コミュニケーションの研究者、当事者のDRにこうした疑問をぶつけてみました。その答えは、ぜひ『放送研究と調査』9月号 「受信料廃止を決めたデンマーク ~新メディア政策協定と公共放送の課題~」をご覧ください。

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原稿では、聞き取り調査での空気をお伝えすることができませんでしたが、国会議員は、DRを“governmental broadcaster”と呼び、「DRに対する政府のコントロールを維持し続ける」と正直に語るため、内心複雑な思いがありました。また、研究者とDRの幹部職員が、「政治的交渉に立ち入ることができない」と淡々と語る様子も想像とは違ったものでした。

デンマークでは来年総選挙が予定され、左派への政権交代があるかもしれません。その場合、メディア政策の修正も考えられますが、「受信料の廃止/税金化」は与野党合意ですから、よほどのことが起きない限り、これが覆ることはありません。

ところで、デンマークの取材は今回が2回目です。10年余りのブランクがありました。海外のホテルでは滞在中、部屋のテレビのチャンネルをあちこち変えながら、その国のテレビ番組をチェックします。なぜか、公共放送DRが放送する6つのチャンネルしか見ることができませんでした。広告放送のTV2など数チャンネルはあったはずなのに、どうしたのでしょうか。ホテルが悪い? 一応、三つ星には宿泊できました。あとで思い出したのですが、デンマークの地上デジタル放送は、DRのチャンネル以外すべて有料サービスで提供されています。これが、原因かもしれません。

それにしても、DRのどのチャンネルも超真面目。ドキュメンタリーやクラシック・コンサートが目に付き、夕方の子ども向けチャンネルはアニメ、若者向けと思われるチャンネルではテレビゲームの攻略をテーマにしたスタジオ番組でした。最近世界的にじわじわと人気が出てきた北欧ドラマ・ミステリーは、週末を含め5日間の滞在期間中、まったく見ることができませんでした。こんなところに、もうすでに政治の意向が影響しているのでは、と思ってしまいました。

メディアの動き 2018年08月09日 (木)

#139 西日本豪雨 復旧・復興に向けた情報をどう届けるか? ~広島県の臨時災害放送局を訪ねて~

メディア研究部(メディア動向) 村上圭子

豪雨災害としては平成に入って最も甚大な被害となった西日本豪雨。7月6日の発生から1か月が過ぎましたが、今も3500人を超える方々が避難所で過ごしています。

139-0810-1-2.jpg私は先月末、被害が大きかった広島県安芸郡坂町と熊野町を訪ねました。気温35度を超える猛暑の中、土砂が覆う自宅と避難所である夏休み中の小学校を往復しながら復旧作業に追われる高齢の方々を目の前に、胸が詰まってしまい、恥ずかしながらかける言葉が見つかりませんでした。

東京では、被災地に関する報道はめっきり減りました。しかし、被災地では当然のことながら苦悩の日々は続いています。失われた命に対する葛藤、住まいという人権を取り戻すための闘い、本当の苦悩はこれからかもしれません。どんな災害でもそうですが、被災した当事者とそうでない人達の間の意識の差は日を追うごとに開いていきます。それは、被災地と非被災地の間でもそうですが、被災地内の被災者と非被災者の間でもそうです。その差をいかに縮められるか、忘却ではなく共助の後押しができるかは、メディアの大きな役割だと思っています。

139-0810-2-2.pngさて、坂町と熊野町では、それぞれの町役場が免許人となり、地域住民向けのFMラジオ局が立ち上げられています。今回私は、このラジオ局の取材に行ってきました。正式名称は臨時災害放送局(災害FM)。被災した市町村が、復旧・復興に必要な生活情報や行政情報を住民に伝える手段が必要だと考えた時に活用できる国の制度です。総務省の総合通信局に市町村が電話で申請し、そのエリアで周波数さえ空いていれば簡単に開局することができます。東日本大震災では28市町村で開局し、その後も熊本地震の益城町や豪雨災害に見舞われた茨城県常総市などで活用されています。

災害FMの大きなメリットは、県全体をカバーするNHKや民放では伝えきれないきめ細かな情報を、住民にできるだけ近い距離感、同じ目線で伝えられることです。もちろんホームページや登録制メール、SNSなど、市町村がこうした情報を伝達できる手段は他にもあります。しかし、大きな災害の場合、避難所の暮らしは長期化し、その多くは高齢の方々になりがちです。こうした中、昔から慣れ親しんだメディアであるラジオや、同じ時間を共有する生放送という手段は、単なる情報だけでなく安心感も提供してくれるという声が、過去の災害ではよく聞かれました。ケーブルテレビやコミュニティFMなど、地域単位のメディアがある市町村であれば、これらのメディアがそうした役割を担えますが、日本の全市町村の中でコミュニティFMがあるのは全体の約3割、ケーブルテレビがあるのは約半分です。それだけに、これらの地域メディアが存在しない市町村が被災した際、この制度を活用するケースが増えているのも納得できます。


まず坂町役場を訪ねました。役場庁舎の屋上には、防災行政無線の横に災害FMのアンテナが設置されていました。東日本大震災の際には、市町村が開局を望んでもなかなか機材が入手できず、開局が大きく遅れるケースが相次ぎました。その教訓から、現在は多くの総務省の総合通信局などに、災害FMを立ち上げるための機材一式(アンテナ、送信機、マイクなど)があらかじめ整備されています。災害後、中国総合通信局が坂町・熊野町の役場に連絡をし、職員がぞれぞれの役場に出向いて機材を設置しました。

スタジオは、役場2階の印刷室に設けられていました。放送担当は3人。この日の担当は、ホームページなどの広報業務をしている総務部の縫部未来さんでした。縫部さんは防災行政無線の呼びかけを担当していたことがあり、マイクの前で話すのはあまり緊張しないとのこと。気象情報や交通情報、犯罪を警戒する警察からの呼びかけや、避難所にいる人たちに対し空き家を提供してくれる人を募集するなど、30分近い放送を落ち着いてしっかりと伝えていました。

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坂町には役場の他にもう1つ、被害が大きかった小屋浦地区にもスタジオが設けられていました。スタジオはこの地区で最も大きな避難所となっているふれあいセンターで、私が訪ねた時には90人近くが生活されていました。 この日の担当は民生部の楠朋子さん。私が訪れた時はちょうどお昼時で、放送の開始直前までお弁当の配布や避難所の皆さんへの対応に追われていました。ご自身もこの地区の出身だそうで、この豪雨で車を失ってしまったとのこと。地区を通るJRも運転をストップしており、交通に関する情報は特にみな関心があるのでしっかり伝えたい、同じ被災者の目線で今求められている情報を選んで伝えていきたい、と話してくれました。

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次に熊野町を訪れました。139-0810-7.jpg熊野町では大きな土砂崩れが起き、4つの避難所が開設されていました。役場では、災害後時間が経つにつれ、役場が何をしようとしているのかきちんと伝えなければ被災した住民はますます不安に陥ってしまう、だから職員自らが行政の情報をしっかり伝えるべき、との問題意識を持って災害FMの運営に臨んでいるとのことでした。開局時には広島県内のコミュニティFM2局の指導も受けながら、どんな放送を行えばいいか模索しているといいます。現在の運営体制、通称“アナウンス部”は8人。みな本来業務を行いながら、男女ペアで30分の生放送を1日4回こなしているそうです。


熊野町の災害FM放送の様子

この日の担当の民生部の森川裕美さんは保健師でもあり、日頃から多くの住民に直接お話をする機会が多いそうです。被災した住民に伝えたいことはたくさんある、マイクを前にして話すのは慣れないけど、できるだけ自分の言葉で伝えていきたい、と意欲満々でした。また役場ではちょうど被災した住民にラジオを配布する準備をしており、ラジオの裏側には1枚1枚、学童保育の子供たちが書いたかわいいイラストと励ましのメッセージがシールとして貼られていました。

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私はこの災害FMに関しては、東日本大震災の前から調査を続け、課題についても指摘してきました。(『放送研究と調査』2012年3月号

今回、坂町と熊野町を訪れてみて、これまでの災害の教訓が生かされているという印象を強く持ちました。災害FMは制度上、必要がなくなれば速やかに閉局することが決められているため、両町ともいつまで運営をするのかはまだわかりません。ただ、単に行政が情報を伝えるだけでなく、被災した住民の心の癒やしとなったり、被災していない住民との接点となったりしながら、町全体の復旧・復興に役立つメディアとして機能していくことを期待しています。

最後に、情報伝達という観点でいえば、今回の災害では、避難情報の内容は適切だったのか、どこまで住民に届いていたのか、そしてその情報はどこまで避難行動につながったのかが改めて問われています。今回は、災害後の復旧・復興時の市町村による情報伝達について取材しましたが、災害発生時の情報伝達のあり方についても取材を深めていきたいと思っています。

メディアの動き 2018年07月18日 (水)

#136 これからの"放送"はどこに向かうのか? ~進むか?NHKの常時同時配信~

メディア研究部(メディア動向) 村上圭子

7月13日、およそ半年ぶりに総務省で「放送を巡る諸課題に関する検討会(以下、諸課題検)」の親会が開催されました。
諸課題検では、ローカル民放やケーブルテレビの将来像、視聴ログ活用のあり方など、通信・放送融合時代のテレビの未来についてテーマごとに数多くの分科会が設けられて議論されており、これらの分科会をとりまとめて論点をつないでいくのが親会の主な役割です。ただ、NHKに関する議論だけは分科会でなくこの親会で議論されており、今回、第二次取りまとめ案(以下、取りまとめ案)として「新たな時代の公共放送」の項目が示されました。

取りまとめ案の内容については既に多くのメディアが報じているので、目にしている方も少なくないかもしれません。NHKはこれまで諸課題検で、放送と全く同じ内容をインターネットで届ける“常時同時配信”を2019年度から開始したい、そのために必要な放送法の改正をしてほしいと要望し続けてきました。取りまとめ案では、NHKが「常時同時配信を実施することについては、国民・視聴者の理解が得られることを前提に、一定の合理性、妥当性がある」とし、総務省は「制度整備等の対応について具体的な検討を行うべき」との文言が示されました。諸課題検が最初に開催されたのは2015年11月ですから、これまで3年ちかくの間、19回にわたって議論が重ねられた結果、ようやく実施への道筋が見えてきたといえます。

≪NHKの常時同時配信を巡るこれまでの議論については、『放送研究と調査』2017年7月号〈「これからのテレビ」を巡る動向を整理する Vol.10〉(33P) の中でその変遷を一覧表にまとめています。≫

取りまとめ案では、今後の進め方で「常時同時配信の実施に当たって求められる」こととして、下記のような“条件”が示されました。この“条件”は今回突然出てきたものではなく、既に2016年9月の第一次取りまとめの段階で、常時同時配信の実施は単体ではなく「業務・受信料・経営」の“三位一体”改革の中で検討されていくことが不可欠とされていたものが、より具体的な文言として示されたものといえます。ただ、「他事業者との連携・協力等の確保」「見逃し配信」など、ネット活用業務のあり方に関する条件がより明確に示されたこと、そして受信料のあり方の見直しの部分に「水準」という文言が新たに付け加えられたことは、今回の大きなポイントと言えると思います。

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 出典:諸課題検・第二次取りまとめ案概要 第1部第3章(※太字も原文のまま)

この取りまとめ案について、構成員から様々な意見が述べられました。印象的だったのは、約半数の構成員から
常時同時配信やネット展開については、NHKと民放が協調・連携して進めてほしい、との声があがっていたことでした。
例えば下記のような意見がありました。
 「動画配信のインフラやプラットフォームなどの共同での整備、アプリの共通化についてNHKと民放各社がそろそろ本気で検討されることを期待したい。特にNHKにはしっかり汗をかいていただきたい
 「NHKのタイミングに見計らって、民放も足並みをそろえて協調領域として体制を整えていただきたい
 「NHKと民放がネット空間の中でどういうふうに信頼できる情報をつくっていくかというのは、業界の問題だけでなく、国民にとっても重要な問題。これまでの垣根、しがらみを外して議論してもらいたい

私はこの諸課題検を第一回から傍聴し続けていますが、実は当初から、常時同時配信やネット展開についてはNHKと民放が共通のプラットフォームで実施することが重要である、という意見が多くの構成員からあがっていました。そのため今回の議論を聞いていてふと、当時と変わらない議論をしているなぁという感覚にも陥りかけました。しかし同時に、思い起こせばこの3年あまりの間、NHKは様々な形で同時配信の実験を重ねてその結果を公表し、民放は実施に向けたビジネス上または民放特有の課題を提示し、時にやや感情的な議論もありながら、それでもなお今回のような議論が行われているということこそを重く受け止めなければならない、と思い直しました。

これからNHKは、視聴者、国民、社会に対し、納得できる改革と未来像を具体的に示していくことが求められます。常時同時配信はその未来像の中の1つにすぎず、いよいよNHKの目指す“公共メディア”とは何なのかが問われてくることになります。そして民放を含めた放送事業者全体としては、信頼できる情報を提供できる空間をいかに協調しながらネット上に構築していけるかを考えていかなければなりません。有識者からは、放送事業者への厳しい批判と共に、社会は今後一層その役割に期待しているとの意見が示されています。こうした期待を事業者はどう形にしていくべきなのか、そのための制度改正はどのような道筋をたどっていくべきなのか、引き続き取材をしていきたいと思っています。

メディアの動き 2018年06月19日 (火)

#131 これからの"放送"はどこに向かうのか? ~議論の舞台は再び総務省へ~ 

メディア研究部(メディア動向) 村上圭子

6月15日、「規制改革実施計画(以下、実施計画)」が閣議決定されました。
去年10月にスタートし、メディアでも度々報じられてきた内閣府の「規制改革推進会議(以下、推進会議)」による“放送を巡る規制改革”の議論はひとまずこれで一区切りとなります。

5月29日のブログ(#127)では、「規制改革推進に関する第3次答申」の構成(案)提出のタイミングでその内容に触れましたが、その後、第3次答申が提出され、実施計画も決定しましたので、改めて推進会議が示した具体的な内容を確認すると共に、同時並行で議論が進んできた、放送を所管する総務省の様々な検討会の議論との関係性について触れ、今後の議論を展望したいと思います。

実施計画では、“放送を巡る規制改革”として12の項目が掲げられました。
 


*インターネット同時配信の推進、通信・放送の枠を超えて新たな環境に対応したプラットフォーム・配信基盤の構築
*新規参入の促進
*ローカル局の経営基盤の在り方の検討
*放送事業者の経営ガバナンスの確保
*NHK国際部門の充実・抜本強化
*放送コンテンツの海外展開の支援
*NHKアーカイブの活用
*制作関連の取引、働き方など制作現場の更なる環境改善
*コンテンツ流通の促進
*電波の有効利用
*新たなCAS機能の今後の在り方の検討
*その他(放送政策の在り方についての総合的な点検)



あまりに盛りだくさんな内容なので、私なりに下記にポイントを2点まとめてみました。

推進会議で当初、最大のねらいとしていた、地上放送事業者に割り当て中の周波数帯域を放送事業者以外にも活用の道を開くという“電波の有効利用”については具体的な記載が乏しかった

このテーマは、どの時期を想定するのかで前提とする技術の進展が異なるため、結論もおのずと異なります。
にもかかわらず、関係者間で合意がないまま(合意がとれないまま)、いささか乱暴に議論が進められてしまったことが最大の要因だと思います。
個人的には、地上4Kをどう進めるのか、現在の地上放送のネットワークの将来像をどう描くかといった放送政策の大きなビジョンが議論の俎上にあげられないまま、帯域の技術的な有効活用策(SFN)やハード・ソフト分離といった方法論の議論ばかりが先行したことに違和感を覚えていました。

多くの項目が既に総務省の検討会等でこれまで議論が続いている内容だった

図1にあるように、総務省でも2015年から、通信・放送融合時代の放送の未来像について様々な場で検討が行われており、今回の実施計画で挙げられた同時配信の推進やコンテンツの海外展開や流通促進、製作関連取引、ローカル局の経営などの項目は、まさに検討会の主要課題となっていました。

<図1>
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ただこれらのテーマについて、総務省の検討の場では、課題は共有されているものの本質的な議論になると現行のビジネスモデルの大きな見直しを伴うことや事業者間の利害対立が先鋭化すること等から、議論になかなか進展がみられないことも少なくありませんでした。
今回、実施計画に書き込まれたことで、総務省では今後、踏み込んだ議論が求められることになりますが、既に、実施計画と軌を一にして提出された総務省側の検討会等の報告書案を読むと、これまでには見られない新たな記載が随所になされていることに気付きます。
諸課題検・未来像分科会報告書案

<図2>
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<図3>
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出典:総務省・諸課題検 未来像分科会報告書案(6月5日)

図2・3は報告書案の最後に示されているアクションプランです。
図2の「将来に向けたネットワークの大きな変革への対応」、具体的には地上4K放送の実施の是非について、図3の「地方を含む情報提供体制の確保」、具体的にはローカル局の合理化や再編についてが、今後の議論の大きなポイントになってくると思われます。

最後に図4では、規制改革実施計画と総務省の報告書案から見えてきた、放送を巡る今後の論点を私なりに5つのキーワードを中心にまとめてみました。
今後一層社会的課題が増える日本の民主主義の発展に寄与し、人口が減少し経済が縮小する地域を支える基盤となる“ナショナル・ミニマム”の担い手として、地上放送事業者への期待が大きいことは、推進会議でも総務省の議論でも共通しています。しかし、個々の暮らしをインターネットテクノロジーによってサポートする様々なパーソナルサービスの増大が見込まれる中、“電波の有効利用”というテーマは引き続き問われてくることは間違いありません。今後もこうした公共的なメディアとしての役割を果たし続けていくためにはどのような体制でいくのか、たとえばそれはNHKと民放127社の“共通プラットフォーム”という姿なのかどうか。そしてどのような技術を活用していくのか、放送波による高度化を“将来の伝送ネットワークモデル”の中にどう位置づけていくのか。そして地域におけるメディアとしてのローカル局の役割を維持していくための“経営基盤強化”策をどう考えていくのか。事業者は大きな決断を今後していかなければならないと思います。私も引き続き、このテーマについて考えていきたいと思います。


<図4>
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なお、去年までの規制改革推進会議の議論については、『放送研究と調査』2018年3月号「これからの“放送”はどこに向かうのか? Vol.1」で記しています。どうぞご覧ください。

メディアの動き 2018年06月01日 (金)

#128 欧米メディアのマルチプラットフォーム展開

メディア研究部(海外メディア研究)大墻 敦

3月6日、NHK文研フォーラム2018の前日、CNNデジタルワールドワイド上席副社長兼編集長メレディス・アートリー氏アメリカ公共放送(Public Broadcasting Service、以下PBS)テクノロジー戦略担当副社長エリック・ウォルフ氏が、千代田放送会館に到着して、打ち合わせが始まりました。打ち合わせは終始なごやかな雰囲気に包まれ楽しいもので、そこには放送局で働く人間同士の共感がありました。

今や、放送局が自社、他社を問わず多数のプラットフォームを使うのは当たり前になっています。では、どのように管理し、どのように成果指標を設定しPDCAサイクルをまわすべきなのか?メディア業界の人たちの疑問に応えるためにシンポジウムを開催することに決めたのは、昨年12月のことでした。パネリストの選考で考えたのは、さまざまなプラットフォームを用いてニュースや映像コンテンツ配信に積極的に取組んでいる欧米の放送局の責任者に来てほしいということ。CNNのアートリー氏とPBSのウォルフ氏は、ともに、その条件を満たす絶好の人物でした。

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NHK文研フォーラム2018 シンポジウムの様子(3月7日)

シンポジウムの内容の概略は下記のようなものでした。

アートリー氏は「テレビ、新聞、インターネットなどの媒体の壁が消滅し、あらゆるデジタルサービスに対応できるモダン・ジャーナリストが必要。」と述べ、「コントロールできることとできないことを意識すること」などの5つの教訓、データ分析のノウハウ、収益確保の手法などについて報告をしました。

ウォルフ氏からは、公共メディアへの進化を目指すPBSがデジタルサービスだけでなく、全米放送サービスの充実も改めて目指していることについて、子ども向けサービスPBSKIDSを例に報告がありました。
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また、BBCの戦略と2016年に放送サービスを停止しインターネットのみで配信を始めた若者向けチャンネルBBCThreeの成果と課題については、放送文化研究所の田中孝宜研究員から報告が行われました。
そして、放送局のマルチプラットフォーム展開の究極の目的は、オーディエンスとのEngagement(つながり)を高めることでパネリストたちの意見は一致しましたが、その測定は現状では困難であり不可能に近いという認識も示されました。

『放送研究と調査』6月号「シンポジウム 欧米メディアのマルチプラットフォーム展開~アメリカCNNとPBS(公共放送)、イギリスBBCの報告から~」で議論の詳細についてお伝えします。今後も取材を続け、本ブログでもまた取り上げていきたいと思っています。