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メディアの動き

メディアの動き 2022年10月14日 (金)

#426 これからの"放送"はどこに向かうのか? ~始まった「公共放送ワーキンググループ」の議論~

メディア研究部(メディア動向) 村上圭子

◇NHK 経営計画修正案 意見募集中

 10月11日、NHKは、経営計画(2021年―2023年度)の修正案を発表しました 1)。そこでは、来年10月から、地上契約と衛星契約(地上とBSのセット)の受信料を、それぞれ1割値下げする方針が出されました(図1 2))。

図1

 値下げは、NHKがこれまで取り組んできた、スリムで強靭な「新しいNHK」を目指す業務改革によって生み出された繰越金を原資に行われ、総額1500億円が充てられる予定です。繰越金はこの他、情報空間の健全性の担保のための投資や日本のコンテンツ業界の人材育成、それから、民放との連携によるインフラ維持コストの低減等にも充てられることが示されました。こちらは総額700億円が予定されています。インフラ部分における民放との連携は、以前、本ブログ 3)でもとりあげた通り、去年から「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会(在り方検)」で議論が進んでいるものです(図2 4))。

図2

 また案では、繰越金の還元策だけでなく、放送サービスをスリム化する案も示されました。具体的には、2024年3月末に、現在3波あるBS(右旋)放送のうち、2Kの1波を停波し、2Kと4Kの1波ずつの体制にするというものです(図3 5))。

図3

 この他、「安全・安心を支える」「あまねく伝える」という重点項目の強化を併せた大きく3点が、今回の修正案のポイントとなります。重点項目の強化については後ほど改めて触れたいと思います。NHK経営委員会による意見募集が11月10日まで行われています 6)

◇「公共放送ワーキンググループ」議論開始

 このNHKによる経営計画修正の取り組みと並行して、総務省の「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会(在り方検) 7)」には「公共放送ワーキンググループ(WG)」 8)が設けられ、議論が開始されています。9月21日に第1回会合が行われ、年内にあと3回、来年3~4回の会合を経て、6月に取りまとめが示される予定です。本ブログではこの第1回会合で示された構成員の発言 9)を軸に、論点の全体像を確認しておきたいと思います。

・WGの検討項目

 WGの検討項目として事務局から示されたのは以下の4点でした(図4 10))。項目別にみていきます。

図4

・ネット時代における公共放送の役割

 去年11月から行われている在り方検(親会)の議論では、デジタル情報空間における課題が増大する中、公共放送であるNHKだけでなく民放も含めて、「伝統的かつ例外的に情報空間の環境整備のために国の政策が展開されてきた 11)」放送メディアが果たすべき役割はこれまで以上に大きくなっている、との共通認識が形成されてきました 12)。今回のWGは、放送メディアの中でも、特にNHKが今後担っていくべき役割とは何なのか、この再定義が検討の出発点となります。
 第1回会合だったということもあり、構成員からは、放送メディア全般の今日的役割を再確認する発言が目立ちました。そんな中、落合孝文構成員からは、必ずしも収益につながらないが大事な価値観を持つ情報をしっかり発信していくことがNHKの役割として重要であるとの発言が、そして山本隆司構成員からは、NHKはジャーナリズムに基づく編集メディアとして、ネット空間に欠けているものについてどのような役割を果たしていくのかを明確にする必要があるとの意見が出されました。また、瀧俊雄構成員からは、NHKではセレンディピティ 13)アルゴリズムの研究に取り組んでいることを聞いている、ネットの欠点を克服する方向に期待したいというコメントもありました。

・ネット活用業務の在り方 ①放送法における位置づけ

 事務局が示した論点を見ればわかる通り、WGが議論の主軸に置いているのは、NHKのネット活用業務です。議論の前提となる現在地を確認しておきます。
 NHKは「NHKプラス」「NHKニュース防災アプリ」「NHKオンデマンド」など、ネットを活用した様々な業務を行っていますが、これらのサービスは放送法上、"任意業務"という位置づけになっています(図5 14))。そのため、毎年NHKは、ネット活用業務の内容や種類、費用について「インターネット活用業務実施基準(実施基準) 15)」を策定し、総務大臣の認可を得た上で業務を行うというルールになっています。このうち受信料を財源とする業務については、2020年度まで、受信料収入の2.5%以内で行うということになっていましたが、2021年度からはそれが変更され、自ら上限額を提示し、大臣の認可を得た上で実施しています。2022年度に設定した上限は200億円でした。

図5

 WGでは、任意業務であるこのネット活用業務を、今後、放送法上どのように位置づけていくのかが大きな論点とされています。この論点は、8月に自民党の「放送法の改正に関する小委員会」がまとめた第三次提言にも、「放送の補完ではなく、NHKの本来業務とすべきかどうか、本来業務とする場合にはその範囲をどのように設定するかも含めて検討すること」という形で示されていました 16)

 WGの第1回会合で、明確に本来業務化すべきと主張したのは宍戸常寿構成員でした。宍戸構成員は、ジャーナリズムに裏付けられた公共的な動画配信が日本で遅れたことにより、現在のデジタル情報空間の課題が大きくなったという認識を述べた上で、NHKに先導的役割を果たさせることで、民放も含めて公共的な情報が適切にネットに供給され、健全な世論が形成されることを"デジタル社会の基本政策"として確保すべき、と発言しました。一方で、大谷和子構成員からは、必須業務か任意業務かという大雑把な議論は卒業すべき、林秀弥構成員からは、本来業務化は是か非かという二項対立的な図式での議論は問題を矮小化する、といった発言もありました。大谷構成員からは、NHKはデジタル情報空間でどのような役割を果たすのかをまず検討し、その上で、その役割を果たすための制度をデザインし、受信料の使い道を定義すべきとの趣旨の発言もありました。

 私はこれらの発言を聞いて、今から5年前程前のことを思い出しました。在り方検の前身である「放送を巡る諸課題に関する検討会(諸課題検)」でも、ネット活用業務の本来業務化という論点が議論の俎上に上った時があったのです。
 NHKは当時、放送法では認められていなかった常時同時配信(現在のNHKプラス)を実施できるよう制度改正を要望していました。あわせて負担のあり方については、会長の常設諮問機関「NHK受信料制度等検討委員会(受信料検討委員会)」を設けて議論を進めていました。
 受信料検討委員会は、「条件が揃えば、放送の常時同時配信はNHKが放送の世界で果たしている公共性を、インターネットを通じても発揮するためのサービスと考えられるとし、テレビを持たずにネットだけでモバイル端末でこのサービスを利用する人達にも受信料を負担してもらう受信料型を目指すことに一定の合理性がある」という答申案 17)をまとめ、2017年7月、NHKはこの内容を諸課題検で報告しました 18)。私は総務省の会議室で会合を傍聴していましたが、この日を契機に、放送業界や新聞メディアでは、NHKのネット活用業務を本来業務化するか否かという議論が大きくなっていったと記憶しています 19)。その後、高市早苗総務大臣(当時)が、「常時同時配信を「本来業務」として位置づける考え方については、私は、多岐に渡る課題がある 20)、井上弘民放連会長(当時)が、「独占的な受信料収入で運営されるNHKがインターネット活用業務を拡大することは、民間放送だけでなく新聞などの民間事業と競合する可能性を高める 21)とそれぞれが会見で言及。結果、NHKのネット活用業務の本来業務化は時期尚早とされ、任意業務のまま、受信契約をした方々を対象とする同時配信等を可能とする放送法改正が行われることになり、今に至っているのです。

・ネット活用業務の在り方 ②規制の在り方について

 NHKのネット活用業務の本来業務化の議論と切っても切り離せないのが、民放や新聞社が繰り返し述べてきた、いわゆる"民業圧迫"という懸念です。今年7月に公表された在り方検(親会)の取りまとめ案に対する意見募集においても、日本新聞協会は、「NHKが巨額な放送受信料を財源にネット業務をさらに拡大して取り組めば、民間事業者の公正な競争をゆがめ、言論の多様性を失わせることになりかねない 22)と述べています。
 一方、NHKの前田晃伸会長は今年9月の定例会見で、ネット活用業務に関して民業圧迫や肥大化の懸念が指摘されているのでは、という記者の質問に対し、NHK内に設置している「民業圧迫ホットライン 23)」に触れ、電話はこれまで1件しかなく、その1件も通話ができるかどうかの確認だったと明かしました。その上で「民業圧迫とかそういう事実はない」と発言しています。
 WGでは、この民業圧迫について、山本構成員からは抽象論のレベルではなく具体的な内容を示して議論をしていくべきではないか、林構成員からは、具体的にどのような市場においてどのような競争阻害が生じるか個別具体的に分析するのが議論を前に進める第一歩ではないかとの発言がありました。加えて競争法が専門の林構成員からは、視聴者向けのBtoCは民業圧迫の懸念はあまりなく、事業者向けのBtoB(toC)の分野で競争分析が必要ではないかいった具体的なコメントもありました。
 一方、宍戸構成員からは、NHKのネットサービスは健全なネット空間を作るために必要だと言う話であり、(民放や新聞と)同じレベルの競争に巻き込まれるのではなく、人々が多様な考えにどれほど触れたかで、行動変容や価値観の変容が起きたか、その指標に力点がおかれるべき、との見解が示されました。

・ネット活用業務に関する民放への協力のあり方

 この項目については、第1回会合では多くの発言はありませんでした。ネット利用者からアクセスしやすい共通の番組表などのプラットフォームの作成が必要、とか、NHKは民放が抱える課題の解決に向けて技術面に限らず手段を限定せずに協力することが必要ではないか、といった意見が出されました。

・ネット活用業務の財源と受信料制度

 このWGの開催にあたり、寺田稔総務大臣は会見で、「テレビなどの受信設備を設置した者から受信料を取るという現在の法制のもとでは、現時点ではテレビなどの受信設備を設置していない方に対して、新たに受信料を徴収することは考えていないわけであります。(中略)ただ、今後の受信料のあり方については、まさにこれから始まります公共放送ワーキングでのご議論も十分踏まえて、幅広く国民や視聴者の皆様から十分な理解を得るような姿にしていく必要がある 24)と述べていました。そのため、WG開始前には、いわゆる"ネット受信料"の議論に踏み込むのかどうか、ということが新聞報道などで取り上げられていました。
 これについて第1回会合では、参加した9人 25)のうち8人から、議論は時期尚早、現実的ではない、問題外、といった反応が示されました。ただ、三友仁志座長と林構成員からは、PCやスマホにNHKの配信サービスのアプリをインストールするなど自ら受信できる環境を用意している人達について受信料契約の対象とするかどうかについては議論してもいいのではないか、という発言もありました。
 民放連からは、在り方検(親会)の取りまとめ案に対し、「仮に「放送の補完」との位置付けの見直しを含めて検討するのであれば、テレビ受像機に紐づいて契約義務を定めている現行の受信料制度との関係を整理し、視聴者・国民各層の十分な理解を得ることが欠かせません」という意見が出されています。業務と制度とをつなぐ議論が行われるのかどうか、今後に注目していきたいと思います。

◇おわりに

 冒頭にも触れましたが、NHKは現在の経営計画で掲げている「安全・安心を支える」「社会への貢献」「人事制度改革」「あまねく伝える」「新時代へのチャレンジ」という5つの重点項目のうち、今回の修正案では、「安全・安心を支える」「あまねく伝える」の2つをより強化していくという方針が示されました。特に「安全・安心を支える(図6) 26)」については、環境変化が加速する中、NHKが公共放送として社会にどのような役割を果たしていくのかという考えを、アップデートして社会に示したということだと思います。

図6

 WGでは今後、NHKが"インターネット時代"に"ネット活用業務"を通じてどのような役割を果たしていくのか、という観点からの議論が深められていくことになると思います。その前提として、事務局が示した論点の中には、環境変化の中で使命を終えた役割についても検討するとされていますが、同時に、これまで公共放送として果たすべき役割の中で果たし切れていなかったことを再点検するという視点も必要ではないかと考えます。宍戸構成員からは、9月16日に採択されたEUのメディア自由法案 27)が紹介された上で、経営委員会を含めたNHKのガバナンス改革はどこまで進んでいるのか、という厳しい指摘もありました。
 今回のWGだけでなく在り方検全般に言えることだと思いますが、今行われている議論は、デジタル情報空間の課題にいかに対応していくか、という問題意識に前のめりになりがちで、そのために放送メディアはどのような役割を果たすべきか、といったロジックで議論が進められています。しかし、法制度の議論が、放送波という伝送路が前提であった放送サービスから、ネットも活用したメディアサービスのあり方に拡張していく以上、長期的には、伝送路によらず、公共的なメディアの役割を再定義し、それを誰がどのように担うのかという骨太の議論をしていかなければ、受信料制度も含めて、誰がどのように公共的なメディアを支えていくのかといった議論にはつながっていかないのではないかと思います。そのような長期的な視点も持ちつつ、短期的には、NHKと民放・新聞、そこにネット上のプラットフォームの存在も意識しながら、競争・協調・すみ分けについての建設的な議論がどのように行われていくのか、今後のWGや在り方検の議論に注目していきたいと思います。


1) https://www.nhk.or.jp/keiei-iinkai/iken/pdf/keikaku2022.pdf
2) 同上 P10
3) https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/500/472560.html
4) 1) 参照 P12
5) 1) 参照 P5
6) https://www.nhk.or.jp/keiei-iinkai/iken/221011k/index.html
7) https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/digital_hososeido/index.html
8) https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/digital_hososeido/02ryutsu07_04000322.html
9) 執筆段階では総務省から議事録が公開されていなかったので、筆者の傍聴メモを参照した
10) https://www.soumu.go.jp/main_content/000837157.pdf
11) WG第1回で紹介された曽我部真裕構成員のコメントから
12) この議論の詳細は...... https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2022/08/10/
13) 偶然や予想外の出会いという意味
14) https://www.soumu.go.jp/main_content/000837155.pdf P19から引用 赤囲いは筆者
15) 2022年の「NHKインターネット活用業務実施基準」 https://www.nhk.or.jp/net-info/data/document/standards/220111-01-jissi-kijyun.pdf
16) https://www.nhk.or.jp/bunken/research/focus/f20221001_1.html
17) https://www.nhk.or.jp/pr/keiei/kento/toshin/
18) 諸課題検討2017年7月4日会合 https://www.soumu.go.jp/main_content/000498611.pdf
19) 文研ブログ https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2017/07/28/
20) https://www.soumu.go.jp/menu_news/kaiken/01koho01_02000602.html
21) https://j-ba.or.jp/category/interview/jba102350
22) https://www.soumu.go.jp/main_content/000837155.pdf から引用
23) 2020年9月開始 https://www.nhk.or.jp/css/goiken/mingyo.html
24) 2022年9月13日閣議後記者会見 https://www.soumu.go.jp/menu_news/kaiken/01koho01_02001169.html
25) 座長含む。曽我部真裕構成員は欠席
26) 1) 参照 P9
27) https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/IP_22_5504
メディアの動き 2022年09月20日 (火)

#423 総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」取りまとめ公表を受けて(3)「攻めの戦略」議論 本格化へ

メディア研究部(メディア動向) 村上圭子

 総務省で開催中の「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会(在り方検) 1)」では、今秋、2つのワーキンググループ(WG)が発足する予定です 2)。1つはデジタル情報空間においてフェイクニュースやアテンションエコノミー等の課題が指摘される中、「誰もが安心して視聴できるという信頼を寄せることができる配信サービス 3)」に、人々がアクセスしやすくするための方策を検討するものです。検討の対象となるサービスとしては、地上放送の同時配信等が想定されています。もう1つは公共放送に関するもので、ネット時代における公共放送の役割や、現在は放送の補完業務であるNHKのネット活用業務の位置付け等について検討されます 4)。こちらは明日21日に第一回が開催されることになっています 5)

 上記はいずれも、放送コンテンツのネット配信を政策的にどのような姿で促進させていくのかを検討するもので、8月に公表された在り方検の取りまとめでは、今後の放送制度議論における「攻めの戦略」と位置づけられています。在り方検は去年11月から議論が行われていますが、これまでは、前回のブログでも紹介したような 6)、ハード機能のコスト負担の軽減という「守りの戦略」が主要な論点でした。いよいよ今秋から、この「攻めの戦略」の議論が本格化することになります。この議論は、ネット空間における“放送局の公共性”とは何かが問い直される本質的なテーマに通じると私は考えています。そのため本ブログでは、議論を前に在り方検の取りまとめやこれまでの議論等から、主要なポイントをまとめ、若干の問題提起をしておきたいと思います。

① 「放送に準じた公共的な取組を行う放送同時配信等を後押しする方策」

 上記のカギカッコに入った文言は、在り方検の取りまとめをそのまま転記したものです。これから検討される主要な「攻めの戦略」のうちの柱の1つで、この「放送に準じた公共的な取組を行う放送同時配信等」が、先に述べた「誰もが安心して視聴できるという信頼を寄せることができる配信サービス」にあたります。一読しただけでは意味を読み取りにくいので、文言を分解してみておきたいと思います。

〇「放送に準じた公共的な取組を行う」とは?

 こちらは、これまで放送局が放送制度の下で担ってきた様々な公共的役割を、ネット空間においても放送に“準じた”形で担っていくこと、と言い換えていいでしょう。取りまとめの中では、取り組みの具体的な内容として、災害情報や地域情報等の発信、視聴履歴の適切な取り扱い等があげられていました。
 このうち視聴履歴については、在り方検と並行して「放送分野の視聴データの活用とプライバシー保護の在り方に関する検討会(視聴データ検) 7)」で議論が行われてきました。「放送に準じた公共的な取組」としての“適切な取り扱い”として最も重要視されていたのは、視聴者の「安心安全の確保」でした。
 構成員の一人で、デジタル情報空間における課題に警鐘を鳴らし続ける慶應義塾大学教授の山本龍彦氏は、「放送の世界のように、過度なプロファイリングやパーソナライズが行われず、フィルターバブル、エコーチェンバー、フェイクニュース等が起きにくいような情報提供機能はこれからも残していく必要がある 8)」と述べています。確かに、放送波の技術的な特徴は一方向、いわゆる“送りっ放し”で、誰が視聴しているのかというデータを把握できないため、双方向が基本のネットサービスのような、視聴者の属性等に応じてコンテンツや広告を出し分けるようなサービスはできません。しかし、多くの人たちに同じ内容を一斉同報することこそが、放送メディアの最大の価値や役割でした。
 しかし、デジタル化によってテレビがネットに接続できるようになってから、テレビ放送の視聴においてもデータの収集が可能となりました。日本よりも早くテレビのネット接続が進んできたアメリカでは、視聴データを活用したターゲティング広告も行われるようになっています。日本でも、ここ数年はテレビのwi-fi接続の広がりもあり、全世帯の半分近くのテレビはネットに接続した状態、つまり、“コネクテッドTV(CTV)化”しています。現在、在京キー局を中心に各局が様々な形で視聴データを収集しており 9)、今後、そのデータをどのように活用していくかは、各局にとっても放送業界にとっても、重要な経営戦略の1つとなっています。ただし、データの取り扱いについては、これまで放送局が担ってきた公共的役割に鑑み、「放送受信者等の個人情報保護に関するガイドライン 10)(放送分野ガイドライン)」が設けられ、それに則って放送業界や専門家を交えた慎重な議論が進められています 11)
 視聴データ検の議論では、こうしたテレビ放送の視聴データだけでなく、放送局による配信サービスの視聴データも大きな論点となりました。構成員の一人、弁護士の森亮二氏は、「テレビのコンテンツを配信する際は、コンテンツは既に自主的な取組によって安全であるが、データにおいても安全だということは一定程度確保していただきたい 12)と述べました。つまり、放送局は放送法の下、自主自律的な取り組みの中で、視聴者にとって安全なコンテンツを制作してきているが、それと同じように、配信サービスにおける視聴データについても安全な取り扱いをする責務があるのではないか、という主張です。こうした要望は、8月に公表された自民党の「放送法の改正に関する小委員会(放送法小委)」第三次提言にも、「視聴履歴から視聴者の政治信条が察知され、政治的ターゲティング広告に悪用され、社会の分断を加速するようなことがあってはならない」という形で示されています。
 また、先出の山本氏も、放送局がネット上で配信サービスを行う際には、「データ利活用についてある程度の上乗せ規律もやむを得ない 13)という見解を述べています。この「上乗せ規律」とは、ネット上でサービスを行う事業者全てに適用される「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン 14)」に加えて、現在、放送局が“テレビ放送の視聴データの取り扱い”において適用されている「放送分野ガイドライン」を、“配信サービスの視聴データの取り扱い”においても適用する、つまり、“上乗せ”する、ということを意味しています。

〇「後押しする方策」とは?

 ネット上では現在、Google、Meta、Amazonに代表されるグローバルプラットフォームを中心にした事業者が、cookie情報等を使ってユーザーがどのサイトを閲覧したのかを追跡してユーザーの属性や嗜好を把握し、それに基づいたターゲティング広告やレコメンドで存在感を増しています。企業等の広告費は、一度に多くの人に“リーチ”できるメディアである放送から、個人やグループに対して“ターゲティング”できるネットサービスに流れており、その動きを止めることはもはや困難です。放送の広告費が目減りしていく分を、いかにネット上の配信サービスの広告費で補っていくかが、民放ビジネスにとっては大きな課題なのです 15)
 そのため、配信サービスに対しても放送分野ガイドラインの規制が上乗せされるということは、他のネット事業者よりもデータの取り扱いに対する説明責任の厳格化や限定的な活用が求められるため、民放のビジネスにとって足かせとなるおそれがあります。視聴データ検でも、他の事業者との間で公正な競争が確保されないのではないかとの指摘もなされました。民放連及び民放キー局関係者からは、放送分野ガイドラインの適用範囲はあくまでテレビ放送の視聴データを利用する場合のみであり、配信サービスにおいて上乗せすることについては消極的な姿勢が示されました。
 こうした中で視聴データ検が示した方向性は、放送局には一律に上乗せ規律を強制するのではなく、規律を受け入れるかどうか、つまりネット上で「公共的な取組」を担うかどうかは放送局自らの意思に委ねるべき、というものでした。その上で、「公共的な取組」を担う判断をした放送局については、政策的に何等かの“非対称措置”を検討すべきではないか、そして、「誰もが目を通すメディア」(プラットフォーム)に、放送コンテンツが提供されることが重要ではないか、という方向性が示されました。この非対称措置とは、事業者へのインセンティブ(優遇措置)という意味合いもありますが、それ以上に、安全な配信サービスへの視聴者のアクセスを支援し、視聴者保護を図る必要がある、という観点が強調されました。この非対称措置が、文言の最後に書かれている「後押しする方策」にあたります。

〇「放送同時配信等」とは?

 では、ネット上の展開を“後押し”していく放送局のサービスやビジネスとは具体的にどのようなものなのか。それを示しているのが「放送同時配信等」です。余談になりますが、役所の資料の文言には、このように頻繁に“等”が使われますが、時に“等”の方に比重があることも少なくないので注意が必要です。
 「放送同時配信等」という言葉は今回が初出ではなく、去年、著作権法改正の議論の際、同時配信、追っかけ配信(番組途中から視聴した場合、冒頭までさかのぼって視聴できる)、一定期間の見逃し配信を含んだ総称として用いられました。現行の改正著作権法上、これらが放送に準ずる位置づけとなっています 16)。そのため今回の後押しの施策の対象も、「NHKプラス」の同時配信、「TVer」で4月からスタートした民放キー5局系のゴールデン・プライムタイムのリアルタイム配信という狭い範囲に留まることなく、議論は進んでいくのではないかと思われます。

② 「非対称措置」と「プロミネンス・ルール」

〇非対称措置の具体策とは?

 今秋から開始されるWGでは、非対称措置の具体的な内容に関する議論が行われると思われます。視聴データ検が4月に公表した「配信サービスに対するガイドラインの適用に関する基本的考え方 17)」や在り方検の取りまとめを読むと、以下のような内容が検討項目にあがってくると思われます。

  • CTV上における措置として、放送局によるネット配信を簡便に視聴できるようにすること
    (TVerやNHKプラスが上乗せ規律に準じた準則を採用する場合にテレビ上ですぐ起動するようにする等)
  • 動画共有サイトや動画配信プラットフォーム上における措置として、放送コンテンツの充実・強化や、
    その他のコンテンツと区別できる形で提供されるようにすること

 私は先に発行された「放送研究と調査」6月号の「これからの“放送”はどこに向かうのか?Vol.7 18)」で、この非対称措置 19)について、「意欲的な論点であるものの、放送政策として具体的にどのような振興策があるのか、筆者にはイメージがわかない」と述べました。この措置のパートナーとなるテレビメーカーやプラットフォーム事業者のメリットや、施策の持続可能性について見通せないと感じたからです。今もその認識はあまり変わっていませんが、本ブログでは、6月号を記した際に紙面の都合で触れられなかった内容も記した上で、もう少し深く、私の認識を示しておきたいと思います。

〇「プロミネンス・ルール」とは?

 安全な配信サービスへの視聴者のアクセスを支援し、視聴者保護を図るために、放送に準じた公共的な取組を行う放送同時配信等を後押しするという今回の議論には、イギリスの情報通信政策における「プロミネンス・ルール」が参考にされたのではないかと私は推察しています 20)。このルールについては、在り方検の構成員であるマルチメディア振興センターの飯塚留美氏が第3回会合で短く紹介しましたが 21)、初めて聞くという方も少なくないと思います。正直、私も当時、詳細については知りませんでした。
 プロミネンスには、目立たせること、突出させること、という意味があります。イギリスには、BBCだけでなく、ニュースの不偏不党やローカル番組制作、コンテンツ産業発展のための一定の制作外注化等が放送免許の要件となっている、商業放送も含めた6局が「公共サービス放送(PSB) 22)」として存在しています。このPSBを“目立たせる”のが、このルールとなります。では、どこの場で目立たせるのかですが、飯塚氏が在り方検で紹介した、去年のOfcom(イギリスにおける放送通信分野の独立規制機関)の政府への提言には、以下のような内容がありましたので、飯塚氏の資料から転記させてもらいます。

  • CTVにおけるプロミネンスの確保
    ライブでもオンデマンドでも、全ての主要なテレビプラットフォーム上で公共サービスコンテンツのプロミネンスを確保する
  • プラットフォームに、PSM 23)コンテンツにプロミネンスの付与を義務付ける

 この内容を見ると、先に紹介した日本の在り方検で想定されている非対称措置の案と、かなり似通ったものであることがおわかりいただけると思います。これが、私がイギリスのプロミネンス・ルールを参考にしているのではないかと推察した理由です。
 ただ、もう少し詳しくこの提言の中身を見てみると、「プロミネンスに係るルールをアップデートする必要がある」となっており 24)、イギリスにおけるプロミネンス・ルールは去年いきなり登場してきたものではないということがわかります。イギリスは日本と大きく異なり、地上放送が50チャンネル以上あるため、プロミネンスはこれまで、電子番組ガイド(EPG)の中、つまり、“地上放送の場における”ルールでした。それが、去年のOfcomの提言では、YouTubeやNetflix、Amazon等のグローバルな配信サービスがひしめく“プラットフォームという場にも拡張”してこのルールを適用する、という提言となったのです。
 Ofcomの提言を受け、イギリス政府は2022年4月、「放送白書 25)」を公表し、正式にこのルールをプラットフォームにも適用できるよう改正しました。そしてOfcomに対しては、PSBとプラットフォームの交渉に介入する権利を与えています 26)。今後、PSBとプラットフォーム、そしてOfcomの間でどのような議論が進んでいくのか、注目していきたいと思います。また、このルールから少し話はそれますが、同時にこの白書では、これまで放送サービスに適用していた番組コード(番組内容に関する規律)を、Netflix等、ネットでのみコンテンツサービスを展開するOTT事業者に対してもテレビ同様の内容を適用することを提言しました。実効性のある規制になっていくのか、こちらも要注目です。いずれにしてもイギリスでは、存在感を増しているプラットフォームに対して、PSBのプロミネンスとコンテンツ規制という2つの側面から視聴者を保護していこうという強い姿勢がうかがえます。

〇今後の議論への期待

 ここまで、日本の非対称措置とイギリスのプロミネンス・ルールの類似点を指摘してきました。逆に異なっているのは、先に触れたように、日本では非対称措置の対象とする条件として、視聴データの適切な取り扱いという側面が強調されているという点です。確かに、ネット上におけるインフォメーション・ヘルスの確保という、これまで在り方検が掲げてきた最も大きな問題意識と、放送局の視聴データの適切な取り扱いは密接不可分であり、それをベースに議論が進んできた経緯は理解できます。しかし、プラットフォーム上で“目立たせる後押し”をする施策の対象を決める判断として、そのことが強調されすぎることについては正直、違和感があります。視聴者の安心安全だけでなく、社会における民主主義を下支えするという観点も含めて考えていくならば、“どういうルールを守る”事業者を後押しするかだけでなく、“どういう理念を持って社会に向き合い、どういうサービスを提供している”事業者を後押しするのかという視点も必要ではないかと思うからです。また、対象となるのが放送局による配信サービスという前提がある以上、例えば同時配信等のサービスを実施していないローカル局のコンテンツはどうするのかという課題もあります。政策的に後押しすべきコンテンツが、仮に地域情報を発信するローカル局のコンテンツであるとするならば、そうしたコンテンツをいかに配信サービスに載せられるかということを、施策の優先順位として考えてもいいはずです。
 イギリスは、多チャンネル時代におけるPSBとは何か、その後、プラットフォーム時代におけるPSMとは何かという形で、BBCだけでなく商業放送も含めて、メディアにおける「公共」の定義をアップデートし続け、その上でプロミネンス・ルールを位置付けています。日本の場合は、電波の希少性や社会的影響力、あるいは「一定の規律を受ける放送と、自由な活字メディア、インターネットとの組み合わせで全体最適を図る 27)」部分規制論という形で、「放送の公共性」が論じられてきました。ただ、それは常にNHKと民放の二元体制が前提であり、民放だけを切り出してメディアとしての「公共」を論じるということは、あまり活発になされてこなかったように思います。放送制度の議論が、放送という閉じた世界からネットに拡張していく今こそ、この論点に逃げずに向き合っていく必要があるように思います。その際の議論を、視聴データの適切な取り扱いという狭いところに押し込めず、もうすこし幅広に議論していくきっかけにはできないでしょうか。
 また、話は更に大きくなりますが、もう一点指摘しておきたいと思います。“目立たせる後押し”の施策がCTVの場合、そもそもテレビですので、後押しする事業者が放送局に限定されるということは、ある程度は納得感もあると思います。しかし、ネット上のプラットフォームの場合はどうでしょうか。ラジオ、新聞や雑誌等の活字メディア、ネットコンテンツ等、あまた存在するメディアの中で、公共を標榜し、それを実践してユーザーから信頼を得ている事業者は少なくありません。なぜ放送局、それも地上放送局のみが、他のコンテンツと区別されて後押しされることになるのでしょうか。放送法によって規律されているという根拠は、多メディア時代においてどこまでユーザーに通用するのか、地上放送が今後もどこまで信頼に足るメディアとして存在し続けられる保証があるのか、そのために目に見える形で努力が続けられているのか、このあたりは大きく問われてくるのではないかと思います。
 つまり、デジタル情報空間における日本版プロミネンス・ルールをどう考えるかというテーマは、これまでの部分規制論を超えた、新たな公共メディアサービスの姿を考えていくという議論にもつながってくると思うのです 28)。テレビメーカーやプラットフォーム事業者、地上放送以外のメディア、そして何よりユーザーにとって、納得感のある議論をどこまで積み上げていくことができるのか、今後始まる議論に注目しています。

③ 公共放送WGの論点

 在り方検の「攻めの戦略」である、放送コンテンツのネット配信を政策的にどのような姿で促進させていくのか、そのもう1つの柱がネット時代における公共放送の役割に関する検討です。
 NHKは今年4月から5月にかけて、テレビを全く、あるいはほとんど見ない約3000人を中心に、公共メディアとして番組や情報をネットで届ける意義や役割について検証する社会実証(第一期)を行いました。情報を正しく・偏りなく理解することを支援する機能や、 偏ったレコメンドを避ける機能等7項目を用意し、アンケート形式で、その機能が社会にとって、もしくは自分にとって有用かどうかを尋ねました。第一期の結果報告 29)については既に実施済みで、今秋にはUIやUX等の使い勝手について検証する第二期の実証を行うことになっています。先出の自民党の放送法小委の第三次提言では、「NHKによる社会実証の結果も踏まえ、インターネット活用業務を、放送の補完ではなく、NHKの本来業務とすべきかどうか、本来業務とする場合にはその範囲をどのように設定するのかも含めて検討すること」とされています。
 今月13日に行われた寺田総務相の閣議後会見 30)では、公共放送WG発足に際し、記者から次のような質問が出されました。「ユーザーである国民としては、いわゆるネット受信料を導入されるのではないかということが関心事(中略)。本来業務化によってネット受信料を導入することが自然な流れになりうるのか、あくまで別個の議論として慎重に考えるべきか」。この問いかけに対し、総務相は、今後の受信料のあり方についても含めて公共放送WGで議論していくと答えています。明日の初回のWGで論点とスケジュールが提示されると思いますので、改めてブログで議論の内容をまとめていきたいと思います。
また、会長の常設諮問機関である「NHK受信料制度等検討委員会」におかれた「次世代NHKに関する専門小委員会(第2次)」の議論にも注目していきたいと思っています。そこでは、イギリスを始め、欧州各国でPSM(公共サービスメディア)のデジタル戦略についての議論が開始されていることを受け、日本でも国内のPSM像をどのように考えていくべきかを議論すべき、という問題提起が行われています。そして、日本版PSM像を考えていくにあたっては、NHKが公共メディアとしてどうあるべきかだけでなく、民放との関係性や、新聞等の伝統メディアをどう位置付けるのかといった視点も持たなければならないのでは、という議論が始まっています 31)。この議論はまさに、在り方検の「攻めの戦略」の2つのWGをつなぐものだと感じています。

 今回のブログでは、在り方検の取りまとめを受けて、私なりに少し大きな論点を提示してみました。まだ調査や取材が至らない点も多いので、引き続き学びながら、できるだけわかりやすく発信していきたいと思っています。


1) https://www.soumu.go.jp/main_content/000828826.pdf
2) https://www.soumu.go.jp/main_content/000832589.pdf p17
3) このキーワードは、「放送分野の視聴データの活用とプライバシー保護の在り方に関する検討会」第7回で示された「配信サービスに対するガイドラインの適用関係の検討の方向性」の中で示されている
4) 9月13日の総務相の閣議後会見 https://www.soumu.go.jp/menu_news/kaiken/01koho01_02001169.html
5)https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/digital_hososeido/02ryutsu07_04000322.html
6) 「守りの戦略」についての整理は、8月25日の文研ブログを参照
7) https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/viewership_data/index.html
8) 視聴データ検 第4回会合議事要旨より
9) データ放送の画面を経由して、視聴したチャンネルや日時、IPアドレス等の個人に関連する情報、「非特定視聴履歴」を収集。ユーザーが同意しない場合には収集をストップすることができる、"オプトアウト形式"で実施中。これとは別に、それぞれの局が、名前(ニックネーム)・年齢・メールアドレス・住所等、個人を特定できる情報、「特定視聴履歴」も収集。こちらは、ユーザーの同意を必要とする"オプトイン形式"で実施され、民放の場合は、TVerのIDとの連携などが行われている
10) https://www.soumu.go.jp/main_content/000797516.pdf
11) データ検では、このガイドライン改訂を巡り、放送局としてデータを活用してどんなサービスを行うべきか、行うべきではないのか、各局のデータを共有するために提案された仕組み「共通NVRAM」にはどんな要件が必要なのかについて、視聴者の安心安全が確保されるのかという観点から厳しい議論が行われていた。こちらについては、後日「放送研究と調査」でしっかり触れていきたい
12) 視聴データ検 第6回議事要旨より
13) 視聴データ検 第4回議事要旨より
14) https://www.soumu.go.jp/main_content/000805614.pdf
15) 放送局におけるネットでの動画広告収入は年率150%を超える伸びを記録しているものの、放送局の広告費全体に占める割合は約5%にすぎない
16) 放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化に関するワーキングチーム報告書「放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化に関する制度改正等について」
17) https://www.soumu.go.jp/main_content/000811235.pdf
18) https://www.nhk.or.jp/bunken/research/domestic/pdf/20220701_7.pdf
19) なお、原稿執筆の際に確認していた視聴データ検の議事要旨では、講じる施策について、「非対称措置」ではなく「インセンティブ」と呼称されていた
20) 非対称措置について議論された視聴データ検では、このプロミネンス・ルールについての議論は行われておらず、在り方検で少し触れられていただけであるため、私の推察とした
21) https://www.soumu.go.jp/main_content/000782843.pdf
また飯塚氏は、『ジュリスト』(2022年9月号)の「通信・放送・メディアの在り方」という座談会の中でも、このルールについて詳細に発言している
22) チャンネル4、ウェールズ語放送(S4C)、民放大手(ITVとチャンネル5)、スコットランドの民放(STV)
23) 公共サービスメディア(PSM)のこと。Ofcomは去年、政府に対し、公共サービス放送(PSB)から公共サービスメディア(PSM)への移行を支援するよう、PSMの目的を定めることを提言している
24) https://minpo.online/article/-ofcom.html
25) Up next - the government's vision for the broadcasting sector - GOV.UK (www.gov.uk)
26) https://minpo.online/article/it.html
27) https://www.soumu.go.jp/main_content/000536353.pdf P13
28) こうした観点で、私が興味深く感じた論考を『ジュリスト』(2022年8月号)から2本紹介しておきたい
  長谷部恭男「デジタル情報空間における放送と放送法制」
  水谷瑛嗣郎「放送法制から見たデジタル情報空間」
29) https://www.nhk.or.jp/net-info/data/document/social_proof/social_proof_1st_results.pdf
30) https://www.soumu.go.jp/menu_news/kaiken/01koho01_02001169.html
31) https://www.nhk.or.jp/info/pr/kento/assets/pdf/sub_committee_2_04.pdf
メディアの動き 2022年09月12日 (月)

#420 この作品をコピーして使いたい ➡ 作者に連絡しても返事がない ➡ どうする!?   ~文化審議会「新しい権利処理の仕組み」議論から考える~

メディア研究部(メディア動向) 大髙 崇

 今日から宣伝部に配属されたあなたの最初の仕事が、販売促進イベントのポスターの制作になりました。素敵なポスターを期待しているよ、と上司に言われたあなたは、プレッシャーを感じたのか、どうもいい案が浮かばず、とりあえずインターネットであれこれ閲覧していると・・・。

 「おお、これは素敵だ! イベントのコンセプトにもぴったりだ!」

という写真画像とご対面。一瞬にしてポスターのイメージが浮かび、さっきまでのプレッシャーはどこへやら。俺って才能あるかもしれない。俺のハイスペ、やべえ。

(10分経過)

  できた!ポスターデザイン案! デキる男は仕事が早いぜ。写真を背景に宣伝文字をゴン攻めでレイアウトしたデザイン。このイベントは行きたくなる!・・・おい上司、見て驚け。

「部長、よろしいでしょうか。デザイン案を作りましたのでご確認お願いします」
「早いね。・・・・・・おお、いいねえ!」

 どうだ。どうだ! ボーナス今から楽しみだ‼

ところでこの写真許可取ってるよね? 著作権、大丈夫だよね?」 

 え?・・・げげ! 萎え~~。。。

 その場は何とか取り繕い、撮影者の写真家さんのホームページから秒で連絡先を見つけ出し、写真使用の許可お願いメール送信。・・・ふう。俺に乙。弱気に勝つ。もう終わっちまうのかい夏。あぁ~~、無事にOKもらえたらいいんだけど・・・。

(2日経過)

「ポスターデザイン、まだ?」
「ぶ、部長、すみません! ちょ、ちょっとお待ちください。もう少しいい感じになりそうなので、デザイン練り直してまして・・・」
「こだわるねえ。立派、立派。まぁでも、今日中にはお願いね」
「いやあ、お待たせしてすみません。は、今日中で。承知しました。どうぞご心配なく」

 ・・・あの写真家! 昨日も今日もメール送ったのに全然返信ねーし。ガチ無礼‼
 どうしよう。・・・いや待て。こっちは誠意を尽くしてお願いしてるし、返事をしないほうが悪いわけだし・・・。写真使っちゃっても許されるんじゃね? 時間切れってことで、いいんじゃね??

 なんだか3月まで放送していた「バラエティ生活笑百科」風になりますが(あ、すみません。この段から筆者本人に戻っています)、このような場合、写真を使用すれば、法律上、写真家(権利者)の著作権の侵害だといわれたら、反論するのは難しいでしょう。写真家が返事を怠っていたとしても、あなたは権利者から使用許諾を得ていない(権利処理をしていない)ことに変わりありません。 

 しかし、「返事がもらえないから使えない」というのも、モヤモヤ感は残りますね。
 著作権法の目的は、権利者を保護しつつ、文化の発展に寄与すること。そのバランスをどう図るかが肝ですが、IT技術の発達によって著作物の流通が飛躍的に伸びている今、もっと権利処理の仕組みをシンプルにしてほしい、という声が高まっています。

   時代のニーズに対応すべく、文化審議会の著作権分科会・法制度小委員会では現在、「新しい権利処理の仕組み」について、活発な議論が行われています。「返事がもらえないから使えない」状態も含め、権利者本人からの許諾がなくても、しかるべき手続きをすることで、暫定的に著作物を利用できるようにする「簡素で一元的な権利処理」の方策を検討しているのです。

 8月30日の第二回小委員会では、文化庁から制度化のイメージが示されました。(図)

2209_1_meda_1.png

 制度化のイメージでは、運用は以下のような流れを想定しています。
 著作物の利用を希望する人は、新たに創設予定の著作物の分野を横断した窓口組織に相談し、データベースを活用して権利者を探します。
①権利者が不明、②権利者の連絡先がわからない、または③利用に対する権利者の意思表示がないような場合、「新しい権利処理」の手続きへと進みます。利用者は使用料相当額を支払い、窓口組織はWEB上で公告(利用について広く一般に知らせること)をします。公告と並行して、利用者は「暫定的利用」を行うことができる、というものです。

   現行の著作権法では、上記の①②、すなわち、権利者が不明、連絡先がわからない、といった場合、著作物を利用できる道を開くための「著作権者不明等の場合の裁定制度(※2)」というものがあります。文化庁に対して所定の手続きを行い、使用料相当額の補償金を供託する(法務局に預ける)ことで、権利者に代わって文化庁長官が利用を認める「裁定」をする制度です。著作物の利用に国がお墨付きを与えるわけです。
   しかし、冒頭のポスターに写真を使いたいという例のように、権利者の連絡先はわかるけど③意思表示がない(返事がない)、もしかすると送ったメールを権利者がたまたま見ていなかっただけ、といった場合、裁定制度の申請対象にならない、ということが課題視されています。
  そこで、「新しい権利処理」では、③をカバーしようとしているのです。手続きや費用負担などもあわせて考えると、「新しい権利処理」が利用者の利便性を向上させ、利用の促進につながる期待が持てます。

  しかし、「新しい権利処理」は、お墨付きがない暫定的利用を始めてから権利者が意思表示をした場合、利用を停止させられるリスクも残ります。写真付きポスターの例でいえば、ポスターが完成し、あちこちに掲示したあとになって権利者である写真家から使用不可の連絡が来たら・・・、全部回収という最悪の事態も懸念されるのです。

  第二回小委員会では、出席した複数の委員から、
「権利者の意思表示とは何を指すか、もっと具体例を示して検討する必要がある」
「権利者から不許諾の意思表示があれば即、暫定的利用の停止となれば、利用者側が萎縮する恐れがある。一定期間の利用継続を認めるような設計が必要だ」などの声が上がりました。
  これまでにない制度改正案のため、さらに精査が必要になるでしょう。意思表示のほかにも、窓口組織やデータベースをどの程度「一元的」なものにできるか、など検討課題が残されています。小委員会の予定では、来年1月には報告書を取りまとめ、次期通常国会に法改正案の提出を目指しています。
  今回示されたイメージ通りになるのか、時代のニーズに沿った制度となるのか。私たち放送関係者にとっても、また、著作物を利用する誰にとっても大いに関係する議論です。今後も注視して、随時お伝えしていこうと思います。

2209_1_meda_2.jpg

※1 文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第2回)「簡素で一元的な権利処理方策と対価還元の制度化イメージについて(案)」より
※2  著作権者不明等の場合の裁定制度(文化庁ホームページ参照)https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/chosakukensha_fumei/

 

メディアの動き 2022年08月25日 (木)

#418 総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」 取りまとめ公表を受けて⑵

メディア研究部(メディア動向) 村上圭子

 本ブログは、8月5日に総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会(在り方検)」が公表した「取りまとめ 1)」について整理する2回目です。取りまとめの5つの項目(図1)のうち、1回目は、⑴と⑵について考えました 2)。今回は、残りの⑶守りの戦略(放送ネットワークインフラの将来像)、⑷攻めの戦略(ネット配信の在り方)、⑸放送制度(経営の選択肢拡大等)のうち、⑶について取り上げます3)

murakami1.png 個別の整理に入る前に、地上放送の仕組みについて確認しておきたいと思います。図2-1は主な業務を私なりにまとめたものです。2010年の放送法改正で、放送サービスはハード・ソフト分離型 4) が原則となりましたが、地上放送 5) については事業者の強い要望もあり、これまで通り一致型を選択できる制度整備が行われました。現在、全ての地上放送事業者が、制作・編成・送出・伝送の業務を一体で行う一致型を選択しています。

murakami2.png 在り方検では、これらの業務のうち、送出・伝送部分に関する施策が中心に議論されました。そして、取りまとめでは、IP化の促進等によって、コスト負担を軽減して“守り”を固め、配信サービスを拡充して“攻め”を進めるという方向性(図2-2)が打ち出されました。今回のブログは守りの戦略について見ていきます。

murakami.png ◆ 守りの戦略―放送ネットワークインフラの将来像 ~踏み込んだ問題提起と残された論点~

1.
検討の背景

 放送局は、優れた番組を制作したり、正しい情報を伝達したりすることと同様に、放送波を確実に届けるための送信・伝送業務に取り組むプロフェッショナル達がいます  6)。放送波を確実に届けるには、「放送局の心臓部」と呼ばれる各局舎内に設置しているマスター設備(番組やCMをタイムテーブルに従って送出するシステム)と、放送波を届けるために設置している多くの中継局を事故なく運用することが不可欠です。これは、放送をユニバーサルサービスとして提供する地上放送事業者の最も大きな責務の一つです。 
 しかし、事業者の経営の先行きが不透明感を増す中、これらの設備の保有や維持に関する経費が個々の事業者の経営を圧迫しつつあるという課題を抱えていました。たとえば、マスター設備は10~15年毎に更新する必要がありますが、その都度、県域局と広域局で機能に差があるものの、数億~20億円程度 7)の投資をしなければなりません。ここ数年、各局で更新作業が続いており、早めに更新を済ませた在京キー局では、次期更新が2028年~30年頃に予定されています。また、中継局の維持経費は、民放連によれば民放127局あわせて年間約290億円、NHKによれば年間約230億円かかっているといいます 8) 。全ての経費のうちの約半分は、山間地等に設置されている、カバーエリアが狭く対象世帯数が少ない小規模中継局等の施設です。このうちミニサテについては2026年~28年頃に更新時期が迫っており、民放からは、更新時に受信料収入で民放分も負担できないかといった要望が出されていました。
 そのため在り方検では今回、守りの戦略(コスト負担の軽減策)として、1)マスター設備の将来像、2)中継局の保守・運用・維持管理のあり方、3)維持・更新費用が割高な小規模中継局等のエリアに対する伝送方法の大きく3点が検討されました。
 検討のもう1つの背景としては、IP化やデジタルテクノロジーの急速な進展がありました。マスター設備については集約化やクラウド化が進んでおり、大きな装置を局舎内に設置する“オンプレミス型”が唯一の選択肢ではなくなりつつあります。仮に外部に委ねることができれば、施設を置くスペースも必要なくなりますし、徹夜で監視作業にあたる等の業務の省力化も見込めます。また、放送局は全国津々浦々に放送波を伝送するために中継局を設置してきましたが、光ファイバの普及によって、通信インフラで代替する物理的環境も整いつつあります。2022年4月、国は「デジタル田園都市国家インフラ整備計画  9)」を公表し、2021年度末に99.3%だった光ファイバ世帯カバー率を2027年度末までに99.9%を目指すと掲げています。7月には電気通信事業法が改正され、有線ブロードバンドが「国民生活に不可欠であるため、あまねく日本全国における提供が確保されるべき電気通信サービス」と位置付けられ、整備のための交付金制度もできました  10)

2. 取りまとめの方向性と今後 1)マスター設備 2)中継局の維持・管理等

これまでも一部の事業者においては、制度上可能な範囲内で、マスター設備の集約化を試みたり、系列を超えて地域の局が共同で中継局の維持・管理にあたったりしてきました 11)。在り方検では、これらの取り組みの情報も共有されましたが、より踏み込んだ議論も行われました。たとえば、制度的にハード・ソフト分離型の欧州では、マスター機能を放送局に提供するマネージド会社、無線設備を保有・運用するハード会社、土地・鉄塔・電源等を所有するタワー会社が送信・伝送部分を担っている事例が紹介され、これらを日本はどう参考にしていくのか等が議論されました。
 これらの議論の結果、取りまとめでは、1)マスター設備については集約化・IP化・クラウド化、2)中継局の維持・管理等については共同利用型モデル、という方向性が示されました。(図3)

murakami30.png 1)については、コスト負担の軽減と、安全・信頼性の確保をどう両立させるかが今後の課題とされました。仮にクラウドを利用する場合には、マスター設備の利用者である事業者自身がリスクを把握、制御できるのかが問われるとの指摘がなされました。今後はこれらの技術要件の議論を進めると共に、民放では系列ネットワークを主とした検討が進んでいくものと思われます。
 2) については、共同利用型モデルの導入で、業務効率化・信頼性向上・コスト低減が期待され、各事業者はコンテンツ制作への注力が可能になるといったメリットが強調されました。一方、留意点としては、ハード事業者の収益性の確保があげられました。収益性の確保と密接に関わるのが対象設備の範囲です。小規模局だけでなく、効率のいい大規模局も束ねて業務を行っていかなければ、ハード事業者を作ったとしても経済合理性は見込めません。ただ、今回の取りまとめでは対象施設の範囲までは明記されませんでした。
 取りまとめに合わせて公表された意見募集の内容には、国からの施策の強制や義務化への反対の声も少なくありませんでした。個社の事情も勘案しつつも、広い視野で業界内連携のあり方を考え、イニシアチブをとって進めていく役割は誰が担うのか……。その際、既に民放と共同で多くの中継局の建設を行っているNHKの立ち位置や受信料の負担のあり方はどうあるべきか……。放送局の役割を、ハードからソフトへ、インフラからコンテンツへ、よりシフトチェンジしていくためには、業界内で系列やNHK・民放の垣根を超えて、主体的に議論を進めていく力が求められています。引き続き議論を注視していきたいと思います。

3. 取りまとめの方向性と今後 3)放送波のブロードバンド等代替

 守りの戦略としてもう1つ示された方向性が、3)の放送波のブロードバンド等代替でした。これについては、放送政策にとって大きな転換点となる内容だと感じたため、少し厚めに触れておきたいと思います。
 先ほど、放送波を伝送する中継局の維持経費のうち、約半分は小規模中継局等の施設であるということに触れました。これらの施設はどの位の世帯をカバーしているのかというと、NHKにおいては約2割、民放においては約1.5割となっています。一世帯あたりで換算すると、大規模局に比べて維持経費はかなり割高であることがわかります。そのため、小規模中継局等の施設では、番組の伝送を、放送波からブロードバンド等に代替した方が放送局のコスト負担の軽減になるのではないか、ということが検討されたのです。
 検討の最大のポイントは、代替の対象として、これまで制度上は放送として扱われてきたケーブルテレビネットワークやIPマルチキャスト方式だけでなく、制度上は通信として扱われ、「NHKプラス」「TVer」等のオープンインターネット上の配信サービスと同じIPユニキャスト方式が俎上にあげられ、検討の主眼となったということでした。ちなみに総務省は2018年にIP放送に関する技術基準を施行しているのですが、その際の前提は、事業者が放送と同一の品質を保証することができるIPマルチキャスト方式でした。一方、放送と比べて30秒近く遅れたり、アクセスが集中した場合には映像の画質が悪くなったり、場合によっては画面が固まってしまったりする、“ベストエフォート型”のサービスであるIPユニキャスト方式は、IP放送とは位置づけられませんでした。
 このIPユニキャスト方式を放送波の代替の検討の主眼に置くという方向性は、在り方検が始まった当初から明確に示されていました。光ファイバがユニバーサルサービスとなる時代において、伝送部分は放送と通信の垣根をなくし経済合理性で判断していこうという総務省の意思は理解できましたが、品質が保証されないIPユニキャスト方式を検討の主眼にするということについては、多くの関係者も当初、違和感を抱いており、私も腑に落ちていませんでした。
 そんな中、今年6月、私は幕張メッセで開催された「Interop Tokyo2022」の基調講演で、在り方検の「小規模中継局等のブロードバンド代替に関する作業チーム(作業チーム)」メンバーのクロサカタツヤ氏と一緒に登壇する機会を得ました。そこでクロサカ氏はIPユニキャスト方式を積極的に検討する理由について次のように語りました。「マルチキャストは一定の設備が必要であり、提供できる事業者も絞られる。(中略)これを放送インフラとして使って良いのかという議論はある。だが、ユニキャストならばどの事業者でも対応可能だ」「ユーザー目線に立てば、IPも放送も『いま使っているスマホの中』という印象だろう。ユーザーにとってシームレスに移行できる道を考えるべきでは無いか」12)。これを聞いて私は、IP化とは基本的にオープンなもので、多くの事業者が参加することで技術もサービスも向上していくこと、そしてサービスのあり方は特定の事業者ではなくユーザーが決めていくものであること、通信融合の垣根をなくしていくという本質はこういうことなのだ、ということに気づかされました。

 作業チームは今年2月から議論を開始し、これまで通り中継局から放送波で伝送する場合とブロードバンドで代替した場合の費用の比較を、NHKの小規模中継局以下の63施設の対象エリアを抽出してシミュレーションしました(図4)。内容の詳細は作業チームの取りまとめ 13)が別途公表されているのでそちらを確認いただければと思いますが、今後の人口減少も勘案すると、2040年にはミニサテの約半数のエリアにおいて、ブロードバンドで代替する経済合理性があるという結果が報告されました。

murakami14.jpg

 この試算では、放送アプリケーションの費用や、そもそも光ファイバが敷設されていないエリアでの整備に関わる一切の費用が計上されていないという点には留意する必要があります。また、対象エリアにおいてこれまで放送波経由でテレビを視聴していた視聴者は、ネット接続サービスを利用していなければ、回線を自宅に引き込んだりISPとの契約をしてもらったりする負担が伴ってきます。これをどのようなスキームで整備するのかによっても試算は変わってくる可能性があります。ただ、これまで漠然と、放送波より通信の方が、経済合理性が高いのではないかという指摘がなされてきた中で、こうした具体的なシミュレーションの結果が初めて公表されたことは、在り方検の大きな成果ではないかと思います。
 図5は、作業チームの取りまとめに示された制度面・運用面の課題です。先ほど、総務省は、伝送路においては通信と放送の垣根をなくし、経済合理性で判断していこうという意思があるのでは、と書きましたが、そのための放送制度をどのような姿にしていこうとしているのかについてはまだ見えません。通信として位置付けられており品質の厳密な保証も難しいと想定されるIPユニキャスト方式による代替を、放送法や著作権法でどのように位置づけていくのか。この問題は、そもそも放送の定義とは何か、ユニバーサルサービスとは何かという根源的なテーマにつながります。また、放送規律や受信料制度、既に行われている放送事業者による同時配信等の配信サービスやケーブル再放送サービス等との関係も整理していかなければなりません。言うまでもありませんが、対象となるエリアの受信者・視聴者にどのように理解を得、視聴のためのサポートをしていくのかも極めて重要なテーマです。

murakami10.jpg 今後の検討スケジュールとしては、特定の地域を対象に住民や自治体の協力を得ながら配信実験を行い、年度末に何等かの報告をまとめることが決まっているとのこと。制度面や運用の課題はその後、ということのようですが、総務省の検討を待たず、私なりに考えてみたいと思います。
 次回は、⑷攻めの戦略について整理していきます。

1) https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu07_02000236.html 
2) https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2022/08/10/ 
3) 8月10日のブログでは2回で書くことを予告していたが、取りまとめの要素が多いことから回数を増やした
4) ソフト事業者は放送法の基幹放送事業者の認定を受けた「基幹放送事業者」、ハード事業者は電波法の基幹放送局の免許を受けた「基幹放送提供事業者」。ソフト事業者はハード事業者から設備の提供を受けて事業を行う。ソフト事業とハード事業の分界点だが、送出設備については、事業者が全部または一部をハードもしくはソフトのいずれかに含むかを選択できることになっている(放送法施行規則第3条)
5) 正式には「特定地上基幹放送局」を指す
6) こうした放送技術に関する人材の育成、確保も近年大きな課題となっている
7) 民放ローカル局の場合、広域局で20億程度、県域局で6億程度という(独自ヒアリングによる。系列により異なると思われるのであくまで参考値として提示)。この他に民放は、送出のために営放(営業放送)システムも必要で、こちらも億単位の投資が必要となる。
8) 中継局の年間の維持費用については、民放連、NHKが在り方検で報告した数字を用いた
9) https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban01_02000042.html 
10) https://www.soumu.go.jp/main_content/000821000.pdf P5
11) マスター設備については、JNN系列で、あいテレビ(愛媛県)と中国放送(広島県)ではセントラルキャスティング方式(地域ブロック内で親局を決め、系列局のネット番組やCMの送出を親局が一括管理)が採用されていた時期があった。中継局の維持管理については、在京、在阪、青森県、長崎県等で系列を超えて共同でメンテナンス会社を設立したり業務委託したりするなどの取り組みが行われている。
12) この基調講演の詳細は、Screens「Interop Tokyo 2022基調講演「IP化時代における放送の将来像」レポート」に再掲されている。
前編 https://www.screens-lab.jp/article/28116 
中編 https://www.screens-lab.jp/article/28117 
後編 https://www.screens-lab.jp/article/28118 
13) https://www.soumu.go.jp/main_content/000827791.pdf

メディアの動き 2022年08月10日 (水)

#413 総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」 取りまとめ公表を受けて(1)

メディア研究部(メディア動向) 村上圭子

 8月5日、総務省の「デジタル時代における放送政策の在り方に関する検討会(在り方検)」が、去年11月から約8か月間の議論を踏まえた「取りまとめ」を公表しました1)。私はこれまで、このブログで過去5回2)、そして8月1日にWEBに全文を公開した『放送研究と調査』7月号の「これからの“放送”はどこに向かうのか? Vol.7 ~諸課題検から在り方検へ~3)で議論を整理し、認識を提示してきました。公開された取りまとめについて、2回に分けて私なりに図表を示しながら整理しておきたいと思います。

議論の全体像

 図1が在り方検が公表した取りまとめの概要です。内容は大きく5つに分かれていましたので、それに従って、⑴環境変化、⑵意義・役割、⑶守りの戦略、⑷攻めの戦略、⑸放送制度の順に見ていきます。1回目の今回は、⑴⑵についてです。

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 (1)    「放送を取り巻く環境の変化」~6つのモデルとその課題から確認する~

 取りまとめでは、放送を取り巻く環境の変化を、視聴動向・サービス・ビジネスの分野におけるデジタルシフトの進展と、人口減少等、深刻化する日本社会の課題という2点を軸に述べていました。私は、これらの環境変化が地上放送の土台となってきたモデルをどのように揺るがし、どんな課題をつきつけているのかという観点で整理してみました。
 図2は、地上放送の土台となってきたモデルを私なりに6つに分けて示したものです。①テレビ端末に対して、②放送波を通じて、③民放は広告モデル、NHKは受信料制度のもと、④県域単位を原則としながら、⑤民放は系列ネットワークという仕組みを通じて、⑥NHKと民放の二元体制で実践してきた、としました。放送法という制度の下、長い歴史の中で、これらの6つのモデルが密接に絡み合いながら地上放送を形作ってきたといえましょう。なお、番組や情報等の放送内容については、次項目の「放送の意義・役割」のところで論じたいと思いますので、この図にはあえて入れていません。


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 この6つのモデルが、昨今の環境変化によってどのような課題に直面しているのかを示したのが図3です。以下、それぞれ見ていきます。

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 ①の課題については、もはや説明するまでもないと思いますが、個人的には、直近の内閣府「消費動向調査」で示された、29歳以下の世帯のテレビ所持率が80.9%という数字4)にはいささかショックを受けました。
 ②の課題は、在り方検で最も大きな論点の1つとなりました。テレビは一度に1000万人を超える同時視聴を可能とする絶大なリーチ力を誇るメディアであり、その力は今も他のメディアの追随を許しません。そのリーチ力を支えてきたのは、全国津々浦々に設置している、放送波を届ける中継局等のインフラです。しかし、このインフラ維持のコストが事業者に重くのしかかり、経営を圧迫しているのです。加えて放送波は、“放って送る”という言葉通り、一方向が大きな特徴です。そのため、双方向が前提のネットサービスと比べて、ユーザーデータを入手することが技術的に難しいといったこと等もあり、活用が進んでいない現状があります。このことは、特に民放の広告ビジネスにとって極めて大きな課題となっています。
 それを示しているのが③です。電通「2021年 日本の広告費5)」によれば、2021年の地上波テレビ広告費は、コロナ禍で大きな影響を受けた2020年に比べて大幅に回復しました。ただ、ネット広告費の継続的な伸長によって、地上波テレビ広告費は長期的には低下傾向が続くことが考えられます。また、地上放送事業者はネット広告、特に配信サービスにおける動画広告の取り組みを積極的に進めており、毎年150%近い成長が続いています。しかし、金額ベースでみれば、地上放送の広告費全体の1.5%程度という厳しい現実があります。
 NHKの受信料制度については、先に触れた通り、テレビ端末を所持しない層が確実に増えてきています。加えて最近では、チューナーが内蔵されていないモニターが人気を博しており、これは今後のトレンドとして避けられない状況になっていくと思われます。また受信料の額についても、OTTサービスの浸透等もあいまって、視聴者からこれまで以上に厳しい目が向けられています。
 ②と共に、在り方検で大きな議論となったのが④の課題でした。少子高齢化や人口減少、それに伴う地方経済の縮小によって、銀行、大学、鉄道等、あらゆる産業や公共サービスは事業継続のために合併や統廃合等を行っています。では、県域を基本的な放送対象地域としてビジネスを展開しているローカル局は今後どのような姿になっていくのか、いくべきなのか……。このテーマも長らく課題として指摘されながら、放送制度の議論としては、これまでほとんど触れられてきませんでした。
 ⑤もローカル局に関わる課題です。系列ネットワークに属するローカル局は、キー局等の番組をそれぞれの放送対象地域の世帯に届けることで、キー局からネット配分金を得ています。加えて、キー局等が制作した過去番組を安価に購入し、それらと自社制作の地域番組を組み合わせる形でチャンネル編成をおこなってきました。しかし、キー局等が制作した番組をネット経由で全国どこでも視聴できる環境は広がっており、今年4月からはTVerを通じて、キー局系5局のゴールデン・プライムタイムのリアルタイム配信も始まりました。また、キー局から支払われるネット配分金も年々減少してきています。こうした中、ローカル局はどれだけ自社で番組を制作しているのか、地域の企業等からどれだけ収入を得ているのか、また、番組制作以外にどれだけ地域に根を張ったサービスを行っているのかということが、地域メディアとして生き残っていく上で、これまで以上に重要になってきているのです。
 ⑥は、在り方検の前に開催されていた「放送を巡る諸課題に関する検討会」の時からの懸案のテーマです。特に、ネット上でNHKと民放の共通プラットフォームを作るということは、“べき論”として5年以上前から提起されてきました。現在、民放では、5年前に開始した民放公式配信サービスのTVerが存在感を増しており、NHKでは、2年前から受信料契約世帯向けの同時・見逃し配信サービス、「NHK+」が提供される等、それぞれはネット上での展開を進めて来ています。しかし、両者の連携は極めて限定的なものに留まっています。これまで長らく二元体制で実践してきた“放送の公共性”を、拡大するデジタル情報空間の中でどのような姿で示していくのか、その答えは見えていません。

(2)    デジタル時代における放送の意義・役割 ~繰り返されたキーワードとセンテンス~

 約8か月間の在り方検の議論で最も頻繁に登場したキーワードの1つは、「インフォメーション・ヘルス(情報的健康)」だったと思います。これは、フェイクニュースやアテンションエコノミー6)等、デジタル情報空間で起きている様々な問題に対して、人々は多様な情報にバランスよく触れることで一定の免疫力(批判的能力)を獲得する必要がある、このことを広く伝えるために生み出された造語です7)。在り方検では、インフォメーション・ヘルスの確保という点において、放送に対する期待はむしろ以前よりも増しているのではないか、という文脈で用いられていました。

 取りまとめでは、期待される放送の価値について、「取材や編集に裏打ちされた信頼性の高い情報発信、「知る自由」の保障、「社会の基本情報」の共有や多様な価値観に対する相互理解の促進」という形で表現しています。私は取りまとめを最初に読んだ際、このセンテンスが繰り返されていることが気になり、数を数えてみたところ、実に9回も登場していました。このことからも、今回の取りまとめではいかにこの価値を強調しておきたかったのかが伺えます。
 放送業界に身を置く者として、このような形で価値を評価してもらえることは素直にありがたいと思います。また、放送の持続的な維持・発展のために制度の在り方を検討するという、在り方検としての命題にもかなった議論が進められたとも受け止めています。一方で、今回の議論では、ネット上に流通する情報やサービスに関する課題はクローズアップされましたが、放送事業者が提供する番組や情報の内容に関する課題についてはほとんど指摘されることはありませんでした。これだけ多様なメディアがひしめきあい、あらゆる情報がネット経由で入手できる時代に、放送事業者はどこまで信頼性の高い情報を社会に提供できているのか、期待に応えられる役割が実現できているのか、自ら省みる姿勢を忘れてはならないと思います。取りまとめに甘んじることのないよう、自戒を込めてあえて述べておきます。
 また、今回の取りまとめは、インフォメーション・ヘルスの確保がかなり強調される内容となっていましたが、在り方検の議論では、放送の意義・役割について 裾野の広い有意義な議論が行われていました。私も改めて認識を深める契機になりましたので、図4では取りまとめで触れられていなかった内容も含めて、私なりに整理しておきました。

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 次回は下記の項目をとり上げ、より深く、取りまとめの内容を整理していきたいと思います。

(3)守りの戦略―放送ネットワークインフラの将来像 ~踏み込んだ問題提起と残された論点~

(4)攻めの戦略―放送コンテンツのインターネット配信の在り方 ~本格的な議論は秋以降に~

(5)放送制度の在り方 ~地域メディア機能の再定義~

 

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1)  https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu07_02000236.html 

2) 「文研ブログ#352 総務省で新たな検討会開始。どこまで踏み込んだ議論が行われるのか?」(2021年12月1日)https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2021/12/01/ 

 「文研ブログ#359 総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」これまでの議論を振り返る」(2022年1月20日)https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2022/01/20/ 

   「文研ブログ♯366 民放ローカル局の将来と地域情報の確保を巡る課題~「在り方検」第4回から~」(2022年2月10日)https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2022/02/10/ 

 「文研ブログ♯374 マス排&放送対象地域の見直しは何のため?~「在り方検」第5回から~」(2022年3月7日)https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2022/03/07/  

   「文研ブログ♯375 政策目的の実現のためにどう政策手段を見直すか?~「在り方検」第6回から~」(2022年3月11日)https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2022/03/11/ 

3)  https://www.nhk.or.jp/bunken/research/domestic/20220701_7.html
4)  https://www.soumu.go.jp/main_content/000828943.pdf P10
5)  https://www.dentsu.co.jp/news/release/2022/0224-010496.html 
6)  情報の優劣より人々の関心や注目を獲得することそのものが経済的価値になっていくこと
7) 詳細は……鳥海不二夫・山本龍彦「共同提言「健全な言論プラットフォームに向けて ―デジタル・ダイエット宣言 ver.1.0」」(2022年1月)  https://www.kgri.keio.ac.jp/docs/S2101202201.pdf

メディアの動き 2022年03月23日 (水)

#378 人と人との繋がりを生み出す ~徳島局「AWAラウンドテーブル」の取り組み~

メディア研究部(番組研究) 宮下牧恵


 NHKの地域放送局では、「課題解決型」のニュース企画や番組の制作が多数行われるようになってきていることを、2月25日のブログでお伝えしました。今回は、「課題解決」を目指しながら、地域の中で新しい人と人との繋がりを生み出そうというNHK徳島放送局の取り組みを取材しました。
 徳島局では放送だけでなく、ホームページやSNSでニュース記事や動画の配信を行っていますが、「それだけではNHKの存在意義が薄くなるのではないか」という危機感があったそうです。そうした中、ディレクター、編成、記者など職種の違う職員が集まった際に、「放送で取り上げるだけで取材先との関係が終わってしまうのはもったいない」という話が出てきました。
 「放送を出口にするのではなく、放送を入口にして関係性を繋いでいけば、取材先の人たちが抱えている悩みなどにもっと関わっていけるのではないか」と考えた、末永貴哉ディレクター(現・首都圏局)は、放送を入口にして、ニュースの取材先同士をつなげるプロジェクトを立ち上げてはどうかと発案しました。賛同した13人の職員がコアメンバーとなり、立ち上がったのが、「AWAラウンドテーブル」と呼ばれるプロジェクトです。
 「ラウンドテーブル」とは、大学の教職員や学生などの間で20年以上前から続いてきた取り組みです。報告者と聴き手に分かれ、報告者は自分が抱えている課題や悩みを心ゆくまで話します。聴き手はさえぎらずに話を聞き、報告者に寄り添ったアドバイスをすることが求められます。末永ディレクターは、学生時代に「ラウンドテーブル」の取り組みを学び、放送にも取り入れることが出来ないかと考えたそうです。

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 「AWAラウンドテーブル」で目指したのは、以下の3つのステップです。

① 地域の人をつなぐ場となるイベントを開催する
② イベントの様子や参加者の「その後」を放送する
③ 放送を見た人が「応援者」となりつながりの輪がひろがる

 まず行われたのが、NHK徳島放送局で放送されている「とく6徳島」(月~金、18時10分から)の放送の中から、「地域おこし」に関連したテーマのニュース1年間分、300本を調べるという作業でした。そのうち100本のニュースで取材し、出演してもらった地域の人たちに連絡を取りました。そして、改めてその人が放送で伝えきれなかった思いや、いま直面している課題、公共メディアに期待したいことなどを聞き取りました。そして、いくつかの共通した悩みを抱える約20人の人たちに集まってもらい、悩みをとことん話し合ってもらうイベントを2021年3月に開催。その模様を収録し、徳島県内向けの番組「あわとく」(金曜夜7時30分から7時55分まで)で5月14日に放送しました。

 イベントでは、悩みの種類によって参加者を4つのグループに分けました。PRがうまくいかない「情報のしかたを模索」するグループ、後継者がいない「担い手不足について議論」するグループのほか、「異業種との連携を模索」するグループ、「コロナ禍の地域おこしを議論」するグループです。

 例えば、「情報発信のしかたを模索」するグループでは、公務員YouTuberとして徳島県南部の観光PRを担っているものの、チャンネル登録者が伸びないという県職員が報告者になりました。聴き手の一人は7年前から動画投稿サイトで自身の酒造メーカーの商品やレコードを紹介する活動をしてきた男性。「動画はふざけていていい、行ったらすごく楽しかったということが大事」と、行政マンがなかなか思いつかない発想で、アドバイスしていました。
 また、「異業種との連携を模索」するグループでは、障害者団体の代表の女性が報告者となりました。この女性には、重度心身障害者で28歳(取材当時)になる娘さんがいます。女性はかねてから娘さんが障害者という枠を超えて、就労できないかと模索していました。


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「生産力がない障害者は仕事も持てないのか」と悩み、娘にしかできないような役割が何かないかと相談をしました。そこで、4年近く前から福祉施設と連携し、徳島県産の野菜をメニューに取り入れたり、自らも野菜を作ったりしている飲食店の経営者が、収穫したカラフルなジャガイモを味見してもらうなど、女性の娘さんにインフルエンサーの役割を担ってもらえないかとアイデアを出しました。イベントの後、このグループでは、先ほどの飲食店経営者や徳島大学の教授などが自主的にオンラインでやり取りを始め、ジャガイモの収穫祭を行う準備を進めました。その様子も、5月の放送で紹介されました。
 さらに放送後、徳島大学ではこの動きを授業で取り上げ、どうすれば収穫祭を盛り上げることができるのか、学生たちからもアイデアを募るなどして、人のつながりが広がっていきました。そして、7月に収穫祭が行われ、重度心身障害を持つ娘さんは、特製ムースなどメニューの開発補助を行ったほか、カラフルなジャガイモの詳細を伝えるビラの配布や、ジャガイモの魅力を客にPRして回るなどを行うなど広告塔としての役割を担いました。
 末永ディレクターは、収穫祭の準備や当日の模様などを再度取材し、11月に放送された「AWAラウンドテーブル」第2弾の回で短いVTRにまとめて放送しました。
 また、「あわとく」の中で放送しきれなかった他のグループのエピソードや出演した方の活動などについては、「とく6徳島」で放送したそうです。


220322-3.JPG 末永ディレクターによると、参加した人たちに公共メディアに何を期待するかを尋ねたところ、「普段から人とつながる機会が少なかったり、自分と同じような立場の人とばかりつながってしまうため、今回のように違う立場や考え方の人と出会える機会を作ってもらえれば」という声が多く聞かれたそうです。イベント自体の満足度は非常に高いものでした。一方で、悩み相談や座談会のような映像を、どうすれば視聴者に楽しく見てもらえるのか、演出面に課題を感じたということです。
 

 徳島放送局の京戸英之副部長によると、「来年度は『AWAラウンドテーブル』のスキームを一層進化させて、徳島県で必要とされ続ける地域放送局を目指します。テーマを、ツーリズムや地域活性化など、県民の関心の高い分野に絞りこみ、内容をさらに充実し、もっと多くの人に見てもらえるよう努めます。」とのことでした。

次回も、地域放送局の新たな取り組みについてブログでご紹介します。


メディアの動き 2022年03月11日 (金)

#375 政策目的の実現のためにどう政策手段を見直すか? ~「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」第6回から~

メディア研究部(メディア動向) 村上圭子


 本ブログでは、総務省で開催中の「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会(本検討会)」を傍聴している私が、私なりに論点を整理し所感を記しています1)
。今回は、第6回の議論についてです。

①    政策目的と政策手段

 今年に入ってから、本検討会では主要な論点として、「マスメディア集中排除原則(マス排)」と「放送対象地域」を見直すかどうかが集中的に議論されています。これは、情報空間がネットに拡張して人々のメディア接触が大きく変容する中、また人口減少が進み地域経済が衰退しローカル局の経営基盤が揺らぎかねない状況になる中、放送の「多元性・多様性・地域性」の確保という政策目的を実現するための政策手段(上記2つの制度)が時代に合わなくなっている部分があるのではないか、という問題意識からスタートしています。政策手段が政策目的の実現を却って妨げているのではないか、と言い換えてもいいでしょう。なんだか最初から堅苦しくなってしまいましたが、このことは、この論点を見ていく点で常に忘れてはならないポイントだと思っています。

②    固まってきた見直しの方向性(案)

 前回の第5回会合では、総務省側から示された「見直しの方向性(案)」を巡り議論が行われました。それを受け、今回は、より明確な方向性(案)2)が示されました。ポイントをまとめておきます。

    1⃣認定放送持株会社制度の地域制限(現状は12地域)は撤廃

    2⃣隣接・非隣接を問わず、一定の制限の範囲内で異なる地域の兼営・支配を可能に

    3⃣同一地域については現状維持。ただしハード設備連携等で緩和ニーズがあるかを継続注視

    4⃣放送対象地域は変更せず、希望する局は複数地域での放送番組の同一化を可能に

    5⃣放送番組同一化の制度を設ける場合には、地域情報の発信確保の仕組みを措置

③ それぞれのポイントについての議論の整理と若干のコメント

 1⃣についてはこれまでも構成員から反対の声は上がりませんでしたが、今回、資本関係と自社制作番組比率との間に関連性が認められない、つまり、例えばキー局持株会社の関係会社の局とそうでない局との間に比率に差異はない、という事務局側の資料が提示され、案では「撤廃」に踏み込みました。撤廃を巡っても、特段の異論はありませんでした。

 ただし、あくまでこれは現時点での比率の数字であり、ローカル局がキー局持株会社の関係会社や子会社になってからその比率が維持されてきたのか向上してきたのか、それとも減少してきたのか、といった経年での分析ではないことには注意が必要だと思いました。認定放送持株制度導入の政策目的は、「地上放送事業者に関し、多額の資金調達や経営の一層の効率化が大きな経営課題となる中、持株会社を通じた資金調達を可能とし、放送事業者の経営の安定基盤を強化する、人材、資金、設備等について経営資源の効率的運用を可能とする、放送事業者間の連携ニーズに柔軟に対応することを可能とする3)」ということであるため、必ずしも地域に向けた自社制作番組の充実は政策目的ではありません。一方で放送法163条において、認定放送持株会社の関係会社には地域向け番組制作への努力が定められています。仮に今回「撤廃」することになったとしても、経年での評価を、地域性の確保という観点から注意深く見ていく必要があるのではないかと感じました。

 2⃣については、局にとって使い勝手のいい柔軟な制度改正が必要だ、という方向で議論は進んでいきました。また、この考え方は4⃣の放送番組の同一化の対象地域を考える際にも援用できるのではないか、ということも今回、示されました。それを受け、現在、現行法では隣接地域の局において3分の1の出資規制がかからない、つまり、局同士の合併まで可能な制度(「特定隣接地域特例」)では対象外とされている広域局の扱いをどうすべきか、ということが一つの論点となりました。
 一例としてあげられたのが静岡県でした。静岡県の場合、東部は関東エリアに近く、逆に西部は中京エリアに近い生活圏となっています。しかし現行法上は、関東も中京も広域局の地域であるため、もしも静岡県にある局が経営統合もしくは番組同一化を考えたとすれば、静岡県については長野県か山梨県としか一緒になれず、生活圏を同じくする関東や中京とは一緒になれません。それは視聴者目線から考えてどうなのか、という問題提起がありました。今回は静岡県が例にあげられましたが、このほかにも同様の課題を抱える県は存在すると思います。それに対して総務省側からは、三大広域圏の資本関係が結びつくことは放送の多様性が損なわれる恐れが強いとの懸念があるため、現行法では認められてこなかった、また、資本関係の強化であれば認定放送持株会社制度を活用すれば可能であり、これまで要望もなかったという発言がありました。ただ、検討の余地はあるという発言もありましたので、次回更に議論が深められていくものと思います。
 しかし、当然ながらこうした“静岡県問題”のようなことは、放送制度特有の論点ではないということには注意が必要だと思います。今後仮に、行政単位が現在の都道府県から、道州制や広域行政圏などへ見直す議論が進んでいくとしたら、同様の問題が顕在化してくることは間違いありません。それをどう解消していくかについては、大きな政治的判断を伴うものとなってくるでしょう。そうした判断の前に、事業者の事情によって先んじて放送制度の側がこのような議論をし、新たな枠組みを設けようとしていることについては、個人的にはいささか違和感を覚えますが、今回、放送対象地域という原則を変えない、ということで、“後戻りできる”制度設計とみることもできると思います。次回は、広域局において隣接特例を拡張するかどうかが議論されると思いますが、認定放送持株制度がある中、今一度、放送3原則という大きな政策目的に立ち返りながら、幅広い議論が行われることを期待しています。

 3⃣については、ローカル局自身から、系列を超えた1局2波や、局の数を減らすクロスネット局化といった具体的な要望が出ていない以上は現状維持でいいのではないか、という構成員が多かったように思います。今回、テレビ朝日HDはヒアリングの追加資料を提出しましたが、そこにおいても同一放送地域内の緩和については否定的な見解が述べられていました4)。ただ、ローカル局の要望については、三友座長が愛媛県を訪れてヒアリングした結果が次回示されるということなので、潜在的にローカル局にこうしたニーズがあるのかどうか、少しは明らかになってくると思いますので、次回の議論を待ちたいと思います。
 また、こうした論点とは異なり、専らハード設備を前提とした連携を行うため、マス排緩和を行わなければできないような資本関係強化の必要があるのかどうかも議論されていました。今回の議論では、ハード設備といっても、“ソフト寄り”のハードとしてのマスター設備については、系列で仕様が異なるために“タテ”(つまり系列ごと)の連携が、一方で中継局設備のようなものについては“ヨコ”の連携が求められるのではないかといった、放送業界にとってよりリアリティのある議論になっている印象を受けました。その上で、ヨコ連携については、既に中継局についてはNHKも含めた共建が進んでいること、またメンテナンス会社については系列を超えて横で共同の会社を作ったり、共同で別会社に委託したりという取り組みが既に進んでいる実例がある中 5)、更に経済合理性を高めていくためにどのような姿を模索していくのか、これはユニバーサルサービスのブロードバンド代替の取り組みを本格的に進めていくことになる中で、NHKも含めた次のステージの議論として改めて出てくる論点ではないかという印象を持ちました。

 4⃣の複数地域の同一放送の可能化については、5⃣の地域情報確保の措置とワンパッケージで議論されてきました。同一放送を可能にするという政策手段によって実現しようとする政策目的は何なのか、今回の検討の中では最も重要な議論であるように思います。ここについては、まだ議論がしつくされているとは思いませんので、次項で詳細に述べていきます。

④    複数地域での番組の同一化の政策目的は何か?

 改めて確認しておくと、現行制度においても、複数地域での番組の同一化を実現する制度は既にあります。この制度は「経営基盤強化計画認定制度」というものですが、「経済事情の変動により放送系の数の目標の達成が困難になる恐れがある等と認められる」地域に指定され、そこの地域の局が計画を作成して総務大臣の認定を受けて初めて実現するもので、いわば、経営が悪化してからの対応策のような制度です。今回議論されているのは、経営が悪化する前に複数局が番組の同一化という施策を行うことで、ローカル局の経営基盤強化を図ろうという、いわば“転ばぬ先の杖”の性質のもので、既存制度とは別立てで設けていこうということを総務省側は方向性案として示しています。
 これを要望したのはテレ朝HDで、要望の際、その目的は「地域での放送の維持」であるとしていました。では、ここで想定する“地域”とは何を指すのか。これが非常に重要な論点だと思います。4⃣と共に議論されている5⃣の地域情報確保の措置についても同様です。今回の議論では、災害でも県よりも広域の地域のニーズがある、といった意見や、県よりも小さな住民自治の単位としての地域情報の確保が重要だ、と言った意見が出され、かならずしも構成員の間で、地域の範囲や地域情報のイメージが共有されているとは思えませんでした。一方で、共有できないのは当然であり、それぞれの地域によって、またそれぞれの局面によって住民のニーズも異なるため、そこは放送を行う局に委ね、局が自らの判断で行っていくべき、という趣旨の発言もありました。
 5⃣の地域情報確保の措置については、これまでのような事業者の努力義務に委ねていてはだめだ、といった厳しい意見や、地域性確保の取り組みのモニタリングが必要という意見、事業者が視聴者への責任として情報発信の見える化を自らの判断で取り組んで公表すべきといった意見が出されました。また、こうした取り組みについては、放送番組の同一化の制度を活用した局かどうかに関わらず、全ての局が公表していくべきではないか、といった意見も出ました。事業者への過度な介入にならず、しかし制度のお題目として形骸化したものにならないよう、そして何より、こうした取り組みが事業者にとって単なる義務ではなく、取り組みを行う事が地域の信頼の確保やビジネスにつながり、更に局が地域メディアとしての役割を高めていくきっかけとなる、そういう方向に向かう議論になっていくことを期待します。前回のブログで私は、単なる放送による地域情報の提供という視点ではない多面的な地域性の物差しを開発することが必要だと述べましたが、そのことを今回も改めて述べておきたいと思います。その物差しをローカル局自らが開発し、公表していくことを通じて、地域における自局の存在意義とは何かを再認識し、住民や広告主・自治体などとコミュニケーションをしていく一つのツールにしていくことができるといいのではないかと考えます。
 更に今回の議論では2つ重要な視点が提示されました。1つ目は、小さな経済圏の情報発信が減ることが懸念されるので、何らかの手段で、地域情報の総量を定量的に維持できる仕組みが必要ではないか、という視点です。番組の同一化によって局の経営合理化を進め、そのことによって地域情報の確保を図っていくという政策目的そのものは総論では同意しますが、更にもう一歩踏み込んで、“市場原理にゆだねていては減少していくことが想定される地域”における情報の確保にこそ力を入れて取り組む視点が、公共的なメディアとしての放送には重要なのではないかと思います。そのためには、複数地域の同一番組における編成の方針や取材地域の力点の置き方をどうするか、といったことも重要になってきます。こうした、地域に対する考え方についても、放送局が積極的に公表していくことが重要なのではないかと思います。
 2つ目は、放送をリアルタイム視聴する人が減少する中で、アクセシビリティをどのように高めていくか、そこを下支えする方策を考える事ができないか、という視点です。その一つのアイデアとして、ネット上の外部プラットフォームや、公共施設のサイネージに優先的に放送コンテンツを載せていくといったことが制度的に考えられないか、という意見が出ました。“市場原理にゆだねていては減少していくことが想定される地域”における情報の確保のため、欧州では、公的支援や受信料による支援の枠組みがあるといった事例が増えていますが、日本ではどのようなモデルがありうるのかを考えていく上で、アクセシビリティという視点から考えていくことも興味深いと思いました。

1)  https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2021/12/01/ 
     
https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2022/01/20/ 
      https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2022/02/10/
 
     
https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2022/03/07/ 
2)https://www.soumu.go.jp/main_content/000797980.pdf
3)https://www.soumu.go.jp/main_content/000404701.pdf
4)https://www.soumu.go.jp/main_content/000797976.pdf 
5)長崎県や青森県等では系列を超えてメンテナンスの会社を設立・運営、関東広域圏では同一会社に委託しているなどの事例がある

 

 

メディアの動き 2022年03月07日 (月)

#374 マス排&放送対象地域の見直しは何のため? ~総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」第5回から~

メディア研究部(メディア動向) 村上圭子


はじめに
 総務省では現在、放送メディアの今後について議論する「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」が開催されています。会議を傍聴し、取材を続けている私は、これまで3回、本ブログで傍聴記を書いてきました 1)。3月も2回の会合が行われることになっており、地上放送におけるマスメディア集中排除原則(マス排)と放送対象地域の見直しが集中的に議論されることになっています。その議論に先立ち、2月16日の第5回会合では、総務省から見直しの具体的な方向性の案が示され、構成員達が議論しました。今回のブログでは、この案の内容と主な意見を整理 2)すると共に、私が抱いている議論への違和感と今後への期待について述べたいと思います。

1.年度末までに議論を急ぐ背景
 本検討会では放送メディアの今後を考える上で必要な多岐にわたる論点が議論されていますが、総務省は、特に上記の論点については、年度末までに一定の方向性を出さなければならないとしています。
 なぜ議論を急がなければならないのでしょうか。その理由は去年6月に公表された最新の「規制改革実施計画(実施計画) 3)」にあります。実施計画を取りまとめる規制改革推進会議は、「デジタル時代に向けた規制・制度の見直しを進め、経済成長、国民の生産性・効率性の向上、個のエンパワーの実現」を目的に議論を行う内閣総理大臣の諮問機関です。1年間の議論を経て毎年6-7月に実施計画をまとめ、各省庁に対し、所管する業界の規制や制度の見直し、時代の変化に対応した新たな施策の検討・導入を期限付きで求めています。
 現在、総務省が実施を求められている放送関連の施策の中で、期限が迫っている1つが「ローカル局の経営基盤強化」です(図1)。このうち「b」のNHKとローカル局、もしくはローカル局同士で放送設備やネット配信設備の共用化を進めていくことについては、放送法改正案として今年2月に閣議決定されています 4)。本検討会で議論の対象となっているのは「a」の方です。実施計画によると、総務省は令和3年度中、つまり今月中に、「ローカル局の経営自由度を向上させるための議論を進め(中略)中長期的な放送政策の全体像を踏まえた施策を検討」し、結論を出さなければならないとされているのです。

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2.総務省の「見直しの方向性」⑴マスメディア集中排除原則
 第5回会合では、総務省からマス排と放送対象地域に関する「見直しの方向性(案)」が示されました。この内容は、前回(第4回会合)のヒアリングで、フジ・メディア・ホールディングス(FMH)とテレビ朝日ホールディングス(テレ朝HD)が要望した内容 5)を下敷きにする形でまとめられていました。
 まず、マス排の見直しの方向性の内容(図2)と、主な議論を3つの論点にわけてみておきます。

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認定放送持株会社が傘下に入れる局の地域制限(12地域)の緩和を認めるべきか?
 FMHが要望したこの論点については、概ね緩和に賛成の意見が述べられ、異を唱える構成員はいませんでした。その上で、子会社化の事例が極めて少ない(※全てのキー局持株会社の中で、ローカル局を子会社化しているのはFMHの仙台放送のみ)ことから、より使いやすい制度の検討が必要ではないかという発言や、緩和するとしてもその上限の数を根拠と共に示すことができないなら撤廃となるのではないか、との発言がありました。
 また、大谷和子構成員からは、緩和には賛成するとした上で、ローカル局が地域の情報空間の形成を確保するのに必要な役割を担い続けるためにも、ローカル局を単なる出先機関にしてはいけない、取材や番組編集の能力を維持することが重要、との発言がありました。

(持株制度以外で)隣接の有無に関わらず複数地域の兼営・支配を認めるべきか?
 前回のブログでも触れましたが、現行制度においても、持株制度を活用しなくても一事業者が複数の放送対象地域にある放送局を兼営したり、また複数局が経営統合したりすることが可能な経営の選択肢が用意されています。現行制度で何ができて何ができないのか、議論を整理する前提として改めて確認しておきます。
 まず、隣接している県同士の局であれば合併まで可能な「特定隣接地域特例」という制度があります(広域局は対象外)。また、隣接していない県であっても、“地域的関連性が密接であるもの”として、東北全県、九州全県、九州全県+沖縄県については同様の制度の活用が認められています(図3)。つまり、現時点においても、放送局がいわゆる“広域ブロック”で一体的に経営を行うということは制度上認められているのです。

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 逆に、隣接していない地域の局同士(除:東北、九州)の合併等の資本関係の強化(持株制度活用においては可)は認められていません。また、同一放送対象地域における複数の局の支配(兼営)もできません。ただしラジオについては、地域が隣接していなくても、また同じ地域であっても、4局まで兼営・支配が可能な「ラジオ4局特例」という制度が存在しています。
 構成員からは、隣接という条件はつけなくていいのではないかという発言や、「ラジオ4局特例」をテレビも参考にしたらどうかといった、緩和に向けた前向きな発言が続きました。林秀弥構成員は、異なる地域でのマス排緩和は事業者の経営の選択肢を増やす効果がある、緩和によって放送の地域性が一直線に損なわれるという議論があるが腑に落ちない、地域性の確保(それぞれの県の情報をそれなりに放送する配慮)は必要だが資本規制とは別に考えるべきだ、と主張しました。

同一放送対象地域に関する支配関係の基準は現状維持とすべきか?
 この論点については、構成員の意見は2つに割れました。
 先に述べたように、ラジオについては同一放送対象地域で一つの事業者が複数の局を兼営することが可能となっています。実際、関西広域を放送エリアとする株式会社FM802がFM COCOROの免許を継承し、1局2波の形で運営を行っています。しかし、この特例をテレビに拡大することについては、具体的なニーズが限定的なことから慎重であるべきという発言が複数の構成員からありました。
 一方で、3人の構成員からは、ニーズの有無に関わらず同一地域における横の連携を促進させるべき、という発言がありました。1人は視聴者目線の観点から、2人は設備投資の経済合理性の観点からです。伊東晋構成員は、系列を超えて資本関係を強化することでインフラ設備などの効率化を図るという戦略を選択肢に加える事が可能になるため、同一地域内でもマス排の一定の緩和を実施してもいいのでは、と主張しました。また飯塚留美構成員からは、ハード面では伊東構成員同様に横の連携が必要としたうえで、ソフト面では番組の独自性や視聴者利益という観点から規制の枠組みの維持がどうあるべきか考える必要がある、との意見が出されました。

3.総務省の見直しの方向性②放送対象地域
 次に、放送対象地域の見直し(図4)についてもみておきます。

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放送対象地域の拡大を認めるべきか?
 先に触れたように、現行制度においても「特定隣接地域特例」を活用すれば、一事業者が異なる複数地域の局を兼営したり、経営統合したりすることは可能です。しかし、事業者の一存で、複数地域のそれぞれの免許を統合して放送対象地域を広域化することはできません。もしも放送対象地域そのものを拡大する場合には、地域ごとに放送局数の目標を定めている「基幹放送普及計画」を変更する等の制度改正が必要になってきます。
 今回の議論を聞く限り、この放送対象地域の拡大については、県域放送が実施されている地域の視聴者やローカルスポンサーの意向や影響を懸念する観点等から、消極的な発言が大勢と感じました。奥律哉構成員からは、費用圧縮を全面に出した政策だと思うが、マーケティング収入がどうなるのかはわからず、うまくいかなかった場合も立ち戻ることができるような柔軟な制度であるべき、との意見が出されました。

放送対象地域は変更せず、複数地域における放送番組の同一化を認めるべきか?
 放送対象地域はそのままにした上で、複数地域の局において番組を同一化できるような制度を設けることについては、複数の構成員から前向きな発言がみられました。ただし、その発言には、取材拠点は維持すべきとか、各地域における地域情報を確保する仕組みが必要、といった条件が付け加えられていました。

同一放送番組の放送対象となる地域で地域情報確保のための仕組みを作るべきか?
 今回の議論では、確保のための具体的な仕組みに関する意見は出ませんでしたが、瀧俊雄構成員からは、持株制度においては子会社に対して地域向け自社制作番組の確保に関する努力義務があるが、こういったものを参照すべきでは、との発言がありました。また、森川博之構成員からは、自社番組制作比率という数字のみで判断することは慎重にすべきであり、かつて行っていた「通信・放送産業動態調査」のような調査をミクロに行うことで、地域住民にどうローカル局の番組が消費されているのかを把握すべきだ、といった発言がありました。

4.現時点で感じている違和感と今後の議論への期待
 以上の論点については、3月末までの2回の会合において集中的に議論するということですので、その議論を注視していきたいと思いますが、現時点で私が感じている違和感について述べておきたいと思います。

*どのような放送メディアの未来を描くのか?
 まず、総務省から提示された見直しの方向性を見て感じたのは、規制改革実施計画に応えるために、制度改正ありきで進めようとしているのではないか、ということです。もちろん、閣議決定された実施計画をおざなりにできないことも、その期限が迫っていることも十分に理解できます。しかし、論点が制度の細部に入り込み過ぎるあまり、そもそも何のために制度改正するのか、そして、その改正によってどのような放送メディアの未来を描こうとしているのか、そうしたことが見えなくなってしまうことを懸念しています。
 例えば、「特定隣接地域特例」は2004年の改正放送法施行で導入されましたが、当時は道州制の議論が盛んにおこなわれていた時期でした。その議論は下火となって久しく、それが理由かどうかはともかくとして、この特例はこれまで使われてきませんでした。しかし、加速する人口減少によって、都道府県という行政単位のあり方や、圏域化、広域化といった地方自治を巡る議論は今後、再燃することになるでしょう。また、地方自治のこうした流れと、実際に地域社会に暮らす住民の情報やコンテンツに対するニーズは、一致する部分も異なる部分もあると思います。これらの状況を想定しつつ、放送メディアを、少なくとも今しばらくは地域の民主主義や文化の基盤を支える存在として機能させ続けるとするならば、現在の基幹放送普及計画をどのような姿に見直していくことが望ましいのでしょうか。
 また、ハード部分については地域の横連携により経済合理性があるという状況があります。本検討会ではユニバーサルサービスのブロードバンド代替の議論が今後本格化する予定です。ではその先に、ハード・ソフト分離のようなモデルを想定するのでしょうか、しないのでしょうか。この議論は、周波数問題など非常に難しい問題を惹起する可能性があることは想像できますが、だからといっていつまでも避け続けることはできないと思います。なぜなら、この判断によって、ローカル局の将来のシナリオは大きく変わってくると思うからです。
 こうした未来を想定した“バックキャスティング思考”の議論は、本検討会単独で出来るとは思っていません。しかし、本検討会が目先の結論を急ぐあまり、多岐にわたるはずの議論が十分に尽くされずに、事業者からの要望を追認していくような段取りが中心になるとするならば、やはりいささかの違和感を覚えざるをえません。

*制度改正の目的は何か?
 また、規制改革実施計画には、「マスメディア集中排除原則が目指す多様性、多元性、地域性に留意しつつ、ローカル局の経営自由化を向上させる」と書かれていますが、総務省から出された「見直しの方向性」は、キー局持株会社の要望が下敷きとなっており、ローカル局の要望を受けた形ではありません。ローカル局の経営基盤強化のための制度改正が本当にローカル局の経営自由化を向上させることにつながるのか、実質的にキー局持株会社の維持強化のためになってしまわないか、こうした視点をより意識した議論も深めていく必要があると思います。系列ネットワークという強固な枠組みの中で、また地域の新聞社等の複雑な資本関係がある中で、ローカル局個社の経営者が声を上げにくい実情も想像に難くありませんが、顕在化しにくい声をすくい上げ、複雑な実情への想像力を持ちながら、丁寧に制度を設計していく視点も忘れずにいて欲しいと思います。
 更に言えば、規制改革の目的そのものが事業者目線に陥っていないか、ということにも注意を払う必要があると思います。この点については、今回の議論で山本龍彦構成員からも、地域住民の声を議論に反映させないと事業者目線だけの改革になってしまうという発言がありました。今問われるべきは、キー局持株会社の生き残りでもローカル局の生き残りでもなく、地域社会の中において信頼できるメディア機能をいかに生き残らせるか、そのための国の政策はどうあるべきなのか、ということなのではないかと思います。

*地域性確保の議論に向けた期待
 第5回会合では、上記の議論に入る前に、「マルチスクリーン型放送研究会(マル研)」という、地域や系列を超えて64の放送局を含む97社が参加する任意団体の有志が提出した意見が紹介されました。具体的な内容は資料 6)が総務省のWEBサイトに公開されているためここで改めて紹介はしませんが、番組制作だけではない多面的なローカル局の存在意義や、地方再生に向けて住民から寄せられる期待など、ローカル局で働く一人一人の思いが詰まった問題提起だという印象を受けました。前回(第4回)の議論においては、ローカル局の地域性を測る尺度として自社番組制作比率にフォーカスする構成員が多かったのですが、この意見が紹介されたことで、ローカル局が地域で果たしている多様な側面についての理解が深まったのではないかと思います。
 また、今回の会合では構成員の求めに応じ、民放連から放送局の自社番組制作比率が提示されました。その資料は構成員のみに示され、一般に公開されませんでした。このことは少し残念に思いました。改めて言うまでもなく、放送事業は貴重な国の財産である公共の電波を使う免許事業です。ローカル局がキー局等の番組を各放送対象地域に確実に届けていくという役割だけでなく、地域メディアとしての役割を果たしているということを訴えていくには、どれだけ“放送波を通じて”その役割が果たせているのかが問われる、逆に“放送波がなければ”その役割が果たせないのかを証明していかなければならないのは当然のことです。それが、タイムテーブルの中の何パーセントを自社で作っているかという単純な尺度では測れないとするならば、仮に自社制作比率が1割程度であったとしても、放送波というリーチを太い幹として、そのリーチを生かし、どれだけ多くの機能を太い枝として抱え、太い根として這わせているのか、こうしたローカル局のメディア機能の全体像を、社会に納得できるデータで示していくことが求められているのだと思います。
 マス排の緩和や放送対象地域の拡大もしくは複数地域における同一番組化といった議論と平行して進むであろう地域性の確保という論点を、単なる地域情報の確保という観点にとどまらない議論にしていくことは、ローカル局にとってだけでなく、地域社会の今後を考えていく上でも重要なことなのではないかと思います。今後の議論に大いに期待したいと思います。


1) https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2021/12/01/
  https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2022/01/20/ 
  
https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2022/02/10/
2) 執筆時に議事録が公開されていなかったため、筆者のメモを元に整理
3) https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/publication/keikaku/210618/keikaku.pdf
   (放送関連は17-18P)
4) 去年の国会に提出したが審議せず廃案となり、改めて今回、外資規制の見直しを加えた内容を閣議決定した
5) https://www.soumu.go.jp/main_content/000789270.pdf FMH資料
     https://www.soumu.go.jp/main_content/000789271.pdf テレ朝HD資料
6) https://www.soumu.go.jp/main_content/000793873.pdf


メディアの動き 2022年02月25日 (金)

#373 市民の声から地域の課題を解決する ~地域放送局の新たな取り組み~

メディア研究部(番組研究) 宮下牧恵


 人口減少、産業の衰退、長引くコロナ禍による影響など、いま全国の多くの地域が様々な課題を抱えています。地域に根差した情報を発信している放送局や新聞社などの地元メディアにとっても、いかに地域の役に立ち、地域の人たちの信頼を得て、存在価値を認めてもらえるかが、ますます重要になっています。

 全国にあるNHKの地域放送局でも、近年、地域の「課題解決型」のコンテンツ制作が多数行われるようになっています。主に、若いディレクターや記者が中心となり、地域の人々の悩みや困りごとを聞き、専門家や市民と連携して、行政を動かしたり、解決のためのアイデアを出し合ったりしながら、困りごとを解決していく取り組みです。
 NHKの「まとめブログ」 1)によると、現在全国の地域放送局などで、20以上もの「課題解決型」のニュース企画や番組制作の取り組みが行われています。

 こうした動きは既に海外でも盛んになっています。
 アメリカでは、誰もが情報を発信・受信できるデジタル時代、様々な情報があふれる中で、これまでの一方通行的な報道のあり方が問われるなど、メディアに対する人々の信頼や支持が揺らいでいます。こうした中、危機感を持った地方紙やラジオ局などにより、10年ほど前から、市民が必要とするものに応え、身近な情報源になるために、エンゲージメントに重点を置く「エンゲージド・ジャーナリズム」や、問題提起で終わらず、課題解決につながる情報も伝える「課題解決型ジャーナリズム」が行われています。
 日本でも、西日本新聞社が、2018年から始めた「あなたの特命取材班」など、市民から寄せられた疑問や困りごとを出発点に記者が取材を行う「ジャーナリズム・オン・デマンド(JOD)」と呼ばれる取り組みが知られており、今では全国の地方紙などにネットワークが広がっています 2)

 今回は、NHKの地域放送局の取り組みの中から、福岡放送局の「ロクいち!福岡」(月~金、18時10分から)で2021年4月から毎週金曜に放送しているコーナー「追跡!バリサーチ」についてご紹介します。

 「バリサーチ」とは聞きなれない言葉ですが、福岡局のホームページでは、次のように説明されています。

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 「追跡!バリサーチ」は、ホームページ上で生活上の悩みや社会的な課題になっていることについての意見、アイデアを募集しています。これまでに「追跡!バリサーチ」に寄せられた声は約700件に上ります。取材・制作スタッフは、視聴者の疑問に答えるだけではなく、対話の「循環」を通して役立つニュースを目指しているそうです。視聴者や市民が意見を言いたくなるように工夫しながら、制作をおこなっています。

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 最近、多くの反響が寄せられているのが、エスカレーターのマナーについての企画です。きっかけは、2021年12月に「ロクいち!福岡」で放送した記者リポートでした。7年前に脳内出血で倒れ、左半身に麻痺がある女性が、エスカレーターの右側にしか立つことが出来ず、2列乗りにしてほしいと訴える内容です。担当した福原健記者は、入局4年目で、普段は県政取材を担当しています。福原記者自身も福岡県に初めて来た際に、エスカレーターに2列で乗ることを訴えているポスターを見て、他の地域では見たことがなかったことから関心を持っていたそうです。そこで、以前からエスカレーターの右側に立つことしかできず、「邪魔だ」「急いでいるからどいてくれ」などと言われて恐怖を感じている当事者の声を取材しました。

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 デジタル発信にも力を入れている福岡放送局がこのリポートの動画をTwitterに投稿したところ、インフルエンサーや作業療法士など問題意識を持った人々から反響があり、「実は困っていた」「家族が当事者で困っている」「こうした問題があることを知らなかった」という声が寄せられました。一方で、「右側を歩く自由もある」など、2列乗りに反対する声も一定程度あったそうです。
 こうした反響をふまえ、追加の取材を行い、2022年1月21日に「追跡!バリサーチ」として放送しました。Twitterに反応した人たちにインタビューするとともに、どうすればエスカレーターの2列乗りが定着するのかアイデアを募集しました。
 そして2月4日には、第2弾を放送。視聴者からホームページなどで寄せられた30件ほどのアイデアを8つにまとめ、福原記者が福岡市交通局に持ち込み、プレゼンテーションを行いました。中でも、1年半前に脳卒中で倒れ、半身に麻痺を抱えて青森県で生活している人から寄せられた、エスカレーターのステップに「止まれ」というシールを貼るアイデアや、足型のシールを貼るのが良いという意見は好評で、交通局では、実際に取り入れられないか、検討することになったそうです。市民の声と放送との循環が、社会を動かす一歩になるかもしれません。

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こうした取り組みの詳細については、福岡放送局のブログを御覧下さい。

 「追跡!バリサーチ」では、福岡市交通局で実際にアイデアが採用されるのか、今後も経過を取材するとともに、社会実験を行うなど、続編を制作していきたいとのことです。
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 福原記者は、「葉書1枚にびっしりとアイデアを書いて下さった方がいました。交通局の皆さんもお客様の声だということで大事に受け止めてくれ、視聴者の声は強いと思いました。ここからが本番だと思っています。」と語り、取り組みの手ごたえを感じているようでした。



 「追跡!バリサーチ」では、さらに来年度は「ロクいち!福岡」のキャスターが自ら困りごとの現場に出かける「出張バリサーチ」などの企画を検討中で、視聴者とのタッチポイントを増やすようなチャンネルを作っていきたいとのことです。

 地域放送局の新しい動きについて、今後もこのブログで紹介していきたいと思います。

 


1) 各局の取り組みの詳細については、【まとめブログ】で閲覧が可能
2) メディア研究部 青木紀美子「Engaged Journalism ~耳を傾けることから始める「信頼とつながり」を育むジャーナリズム~」『放送研究と調査』(2020年3月号)P2-P21


メディアの動き 2022年02月15日 (火)

#368 チーム岸田は持っているか? ~コロナ禍に向き合う「ペースノート」~

放送文化研究所 研究主幹 島田敏男


 「ペースノート」という一般にはなじみの薄い言葉をあえて使いました。
カーラリーの世界で、原野の難コースを巧みなハンドルさばきで高速疾走するときに欠かせないのが「ペースノート」と呼ばれる指示書です。

 この指示書を作成するのはドライバーではなく、助手席に座るナビゲーター(コ・ドライバーとも呼ぶ)です。レース前の試走の段階で急カーブの曲がり具合、直線部分の距離や路面状況などを確かめ、それを記号で書き記したものが「ペースノート」です。

 反射神経とハンドルさばきに秀でたドライバーは、ナビゲーターが読み上げる「ペースノート」のデータを信頼し、視界が悪くても身体の感覚で車を操るそうです。まさに事前準備の積み重ねとデータの共有が成果をもたらす世界です。

 この話を教えてくれたのは、大学の自動車部に所属していた当時からカーラリーに参戦しているベテランドライバー&ナビゲーターの二刀流の友人です。聞いた瞬間に「まさにチーム岸田が問われているのはこれだな」と感じました。

 「ペースノート」は難しいコース、厳しい気象条件の時ほど効果を発揮します。年明けから感染者数が急拡大し、2年以上続くことになった新型コロナウイルスとの闘い。視界はなかなか晴れず、悪路は連続しています。

220215-1.png これを乗り越えるために、岸田総理が前任者、前々任者のたどった軌跡を見つめ直して「ペースノート」を編み出しているか。そしてそれをチーム岸田が共有して対処しているかが問われている局面です。

 そういう状況の下で、2月11日(金)~13日(日)にNHK月例電話世論調査が行われました。

☆「あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか」という質問に対する答えは、やや下り坂の印象です。

「支持する」   54%(対前月-3ポイント)
「支持しない」  27%(対前月+7ポイント)

「支持する」の3ポイント減少は、統計分析上は有意差がないという評価になります。ただ「支持しない」が明らかに増加しています。

 この要因としては、コロナ禍に対する政府対応の評価が低下したことが挙げられます。岸田内閣が発足した去年10月以降、わずかずつ上昇を続けてきた評価の数字がストンと落ちました。

☆「あなたは新型コロナウイルスをめぐる政府の対応を評価しますか」という質問に対する答えです。

「評価する」  59%(対前月-6ポイント)
「評価しない」 37%(対前月+6ポイント)

内閣支持、不支持の回答よりも傾向が明確に出ています。

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 岸田内閣は、オミクロン株感染者が11月30日に国内で最初に確認されたタイミングで外国人の新規入国停止を果断に打ち出しました。そして感染が各地で急拡大を見せた年明け以降は、入院病床の確保と3回目のワクチン接種に軸足を移しました。

 ただ、3回目のワクチン接種の加速は全国各地の市区町村ごとに対応が様々で、菅内閣当時に指摘された国と基礎自治体の間の連携のばらつきは、今回も十分に克服されたとは言い難い面があります。

 まさに冒頭に紹介した「ペースノート」の中で、ワクチン接種の加速について、第5波までの教訓を生かした課題がどこまで把握されていたのかがポイントです。

 後藤厚生労働大臣は、重症化リスクの高い高齢者施設の利用者や職員への3回目の接種について「できるだけ早くということで、2月中に終えると申し上げているわけではない。努力をしている。今、自治体と丁寧に相談している」(2月14日・衆院予算委)と苦しい答弁でした。

 岸田総理は第6波の襲来に際して、社会・経済活動に大きな影響を及ぼす緊急事態宣言は避け、まん延防止等重点措置を段階的に発出することで対処してきました。

 これはオミクロン株が従来の新型コロナウイルスより感染力は強いものの、重症化率が低い点に着目した判断です。2月5日に全国の新規感染者数が初めて10万人を超えた後、東京などでは感染拡大の勢いが収まったようにも見えますが、重症者の数などは依然として高い水準です。

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☆政府は東京など13都県の「まん延防止等重点措置」を延長することを決めました。決定をどう思いますか」という質問への答えです。

「適切だ」49%、「延長せず解除すべきだった」15%、「緊急事態宣言にすべきだった」26%

 感染拡大に歯止めがかかり始めたように見えてはいても、社会の安全・安心を確保するために、暫くは「慎重運転」を望んでいる国民が多いことが窺えます。

 「まん延防止等重点措置」は36都道府県で継続(2月15日現在)しています。この先、重症者の増加を抑えて減少に転じさせ、うまく事態の悪化を回避できれば、次は措置の解除・出口の判断になります。

 出口のタイミングを測る際のデータは、チーム岸田の「ペースノート」にどう記されているのか。国民の多くが、この先の第7波の襲来を極力抑えることができるような判断を期待しているのは確かです。