メディア研究部(海外メディア研究)青木紀美子
ニュースの砂漠?ニュースのジャングル?何やら言葉遊びのようですが・・アメリカのジャーナリズムが直面する危機をあらわした表現です。
デジタル化の波で地方の新聞が減り、記者の数も減り、地域に密着した取材発信がなくなった情報の空白地帯が増えているというのが「ニュースの砂漠」です。
一方で、市民の側からみると、さまざまな媒体が溶け込んだデジタル空間には不確かな情報や偽情報を含めて情報が氾濫し、必要な情報がどこにあるのか、何が信頼できる情報なのかが分かりにくい、情報の乱立状態になっているというのが「ニュースのジャングル」です。

こうした情報の空白地帯「ニュースの砂漠」と情報の乱立状態「ニュースのジャングル」に立ち向かおうとする試みの一つがコラボレティブ・ジャーナリズム(Collaborative Journalism)です。
日本ではあまり耳にしない表現ですが、複数のメディアの協力(Collaboration)によって取材発信することで、アメリカでは調査報道(Investigative Journalism)や課題解決型のジャーナリズム(Solutions Journalism)などと並んで、取材報道の一つのあり方と位置づけられるようになっています。
私はこれを「連携ジャーナリズム」と訳してみました。広辞苑によると「連携」は「同じ目的を持つ者が互いに連絡をとり、協力し合って物事を行うこと」とあり、まさしくCollaborative JournalismのCollaborationが意味するところに近いと考えたためです。
アメリカの地域メディアの「連携ジャーナリズム」では、社会の課題解決など、目的を共有する複数のメディアが取材力と発信力を持ちより、相互に補完することによって空白を埋め、市民にとって信頼できる情報の一つの指標になることをめざしています。

同じ業種だけではなく、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、オンラインと、多様なメディアが垣根を越えて集まり、規模の大小にかかわらず対等なパートナーとなるチームが増えています。また、取材するテーマを決めるところからメディアどうしで話し合い、あるいは、ともに市民の意見や要望を聞きとり、単発の記事で終わるのではなく継続的に連携する例が目立ちます。
地域ジャーナリズムの支援に力を入れる非営利財団Knight Foundationは、2019年は「ローカル連携の年(A Year of Local Collaboration)」 になると予想しました。では、実際にはどのようなメディアが参加した連携ジャーナリズムが行われ、どのような成果をあげているのでしょうか。「放送研究と調査7月号」の「アメリカで広がる 地域ジャーナリズムの連携とその可能性」でさまざまな具体例を紹介していますので、ご一読ください。
世論調査部(視聴者調査)山本佳則
リビングでスマホのアプリを起動させ、見逃していたテレビコンテンツを夜な夜な視聴する妻(本当は放送と同時にリアルタイムで見たいのだが・・)、その横の寝室で子どもを寝かしつける私。
日中は仕事・育児・家事に追われ、ゆっくりテレビなんて見られない!
ましてや子どもが寝てからは、テレビはなんとなくスイッチを点けにくい!
テレビコンテンツを、インターネットを経由してスマホで視聴することが、我が家では普通の光景になりつつあります。
「放送研究と調査7月号」では“ユーザーからみた新しい放送・通信サービス”と題し、2018年11月に実施した「メディア利用動向調査」の結果を掲載していますが、この中から「放送のインターネット同時配信」についての報告の一部をご紹介します。
まず、実際に利用したいと考える人はどの程度なのか、「あなたは、インターネット同時配信が災害時などに限らず、日常的に実施されるようになったら、利用したいと思いますか」と尋ねました。
結果は「利用したいと思う」と「どちらかといえば利用したいと思う」を足した「利用したいと思う」計が全体で37%でした。男女年層別にみると男女16~29歳、男40~50代でおよそ5割と全体よりも高く、若中年層で一定の需要があることがうかがえます。
<インターネット同時配信の利用意向>(男女年層別)

※ は全体と比べ統計的に高い層であることを示す
次にインターネット同時配信の利用意向はテレビ視聴時間の長短と関係があるのかをみてみました。
ここでは、テレビの視聴時間が比較的長い高齢者を除いて59歳以下の方に絞っています。
<インターネット同時配信の利用意向とテレビ視聴時間量(59歳以下)>

〇は「利用意向なし」と比べて統計的に高いことを示す
〇は「利用意向なし」と比べて統計的に低いことを示す
同時配信を「利用意向あり」の人は「意向なし」の人に比べて、「テレビをほとんど、まったく見ない」は少なく(10%<16%)、逆に「テレビを30分~1時間くらい視聴する」は高くなっています(33%>27%)。
つまり、インターネット同時配信の利用意向のある人は、テレビに接触しているものの視聴時間が短い、いわゆる“ライトユーザー”であると考えられます。
まさしく私も妻も子育て中の身で、いわばテレビ視聴の“ライトユーザー”。
インターネット同時配信が始まったら、みたかったスポーツやドラマも、リアルタイムでスマホで視聴できるようになるかも・・と期待しつつ。
「放送研究と調査7月号」もぜひご覧ください。
計画管理部 東山一郎
NHK放送博物館では、「むかしの音でめぐる“にっぽん”」と題した企画展を開催中です。
この企画展は、日本各地の方言や物売りの声、祭りや鉄道の音などを集めて展示したもので、いわば「音の展覧会」といったものです。

「音の展覧会」といってもなかなかイメージがわかないと思いますので、実際に展示している音声を少し紹介しますね。
ひとつめは、愛知県愛西市で1958年に収録された方言です。愛西市は愛知県の西部に位置し木曽川に沿った地域です。男女の会話の一部を抜粋します。
エー キョーワ アツィーヤ ネァカ(きょうは 暑いじゃ ないか)
エー アーッツィーナモ(ええ 暑いですね)
エー キョーワ ドコェ イクノー(きょうは どこへ 行くんだい)
クサミシリジャーナモ(草取りですよ)
この地域の方言の中心地は名古屋ですが、名古屋のことばに関して高浜虚子が1942年に次の句を詠んでいます。
なもなもと 名古屋訛の 声涼し
この句に表れているように、助詞の「ナモ」が名古屋の方言のひとつの特徴だったようです。実際の音声を聴くと、この「ナモ」のおかげなのか、ことば全体が柔らかく優しい感じに聞こえます。「声涼し」のなかに虚子は「優しさ」を感じ取っていたのかもしれません。
下の写真は、1956年に福岡市で撮影された「きびだんご売り」です。

「文研月報」1957年12月号より
この「きびだんご売り」の展示では、こんなふれ売りの歌を聴くことができます。
♪♪ 日本一のオキビチャン オキビチャンのあーつあつ
ぬくーて 甘くて オキビチャン キビチャンの生まれはどこですか
遠く離れて300里 備前の国の岡山で・・・♪♪
このような「きびだんご売り」はすでに存在しないかもしれませんし、「ナモ」もあまり使われなくなっているかもしれません。今回の企画展は、こうした消えてしまっているかもしれない「音」も含め、NHKが収集・保存してきた「すこしむかしの音」で日本各地をめぐることを試みたものです。展示では、日本各地の方言や物売りの声のほか、親しみやすい祭りや鉄道の音など、40点の音声をCDプレイヤーを用いて聴くことができます。
およそ60年前に収録された方言や物売りの声を聴く機会はなかなか無いかもしれません。
そして、距離的にも時間的にも旅をした気分になれるかもしれません。
11月17日(日)まで開催していますので、ぜひこの機会に放送博物館にお越しください。
NHK放送博物館
休館日 :月曜日(月曜日が祝日・振替休日の場合は火曜日休館)、年末年始
入場料 :無料
開館時間:午前9時30分~午後4時30分
所在地 :〒105-0002 東京都港区愛宕2-1-1
TEL : 03-5400-6900

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世論調査部(社会調査)村田ひろ子

人生100年時代を見据え、老後に備える資産が2000万円必要になる、という金融庁審議会の報告書が話題になりました。折りしも公的年金誕生から130年、先の参議院選挙でも争点の1つとして注目を集めていたのは記憶に新しいところ。年金だけでは老後の生活設計が成り立たない??そうだとしたら、自分が受け取る年金は多ければ多いほどよいと考えるのが自然でしょう。けれども、「年金の政府支出を増やしたほうがよいか?」と聞かれたらどうでしょうか?
政府の役割についてのNHK放送文化研究所の世論調査※1)の結果から、みていきましょう。高齢者の年金について、政府の支出を今よりも増やすべきだと思うか、あるいは減らすべきだと思うかを尋ねた結果です。『今より増やすべき(どちらかといえばを含む)』は、日本は46%となっていて、各国と比べて低い水準となっています。2006年の調査では56%だったのが、今回は半数を割りました。日本と同様、65歳以上の高齢人口が多く、GDP(国内総生産)に占める年金支出が高いフィンランドやフランスといった国でも、『今より増やすべき』が少なくなっています。
政府の支出を増やすべきか「年金」

年層別にみると、若年層よりも高齢層のほうが『今より増やすべき』と回答している国が目立ちます。日本でも若年層の34%に対し、高年層で56%となっていて、両者の差が比較的大きいという特徴があります。
政府の支出を『今より増やすべき』:「年金」(年層別)

※OECD諸国を中心に抜粋して掲載
高齢化で増え続ける社会保障費により、いわゆる「国の借金」が膨らみ続け、財政健全化への道のりがますます険しくなっている日本。国が直面している厳しい財政事情を背景に、これ以上の税金を年金に投入することへの否定的な考えが広がっているのかもしれません。
「放送研究と調査7月号」では、格差是正や教育問題、物価の安定、テロ対策など、何が「政府の責任」だと考えられているか、国際比較調査の結果から考察しています。ぜひご一読ください!

※1)ISSP国際比較調査「政府の役割2016」