日本では,1953年のテレビ放送開始時点から,テレビが子どもに及ぼす影響,とくに懸念される影響に対する社会的関心は高かった。当初は,極めて主観的な意見を基に議論が行われていたが,やがて,“子どもの生活にテレビが入ってきたことによる変化という意味での影響効果”について科学的な手法による調査の必要性が高まってきた。こうした背景の中で,1950年代後半から60年代にかけて,NHK放送文化研究所,文部省,日本民間放送連盟などが,テレビが子どもの生活行動や余暇活動に及ぼす影響,学力や性格形成など精神面に及ぼす影響等を多面的に調べるため,大規模な研究を実施した。
テレビ成熟期の1970年代,80年代には,番組の内容分析研究,子どもの映像理解に関する研究,幼児向け番組の開発をめざした制作者と研究者の共同研究など,多様な視点とアプローチによる「子どもとテレビ」研究が,メディア研究,心理学,教育学,社会学,小児医学など多分野の研究者たちによって繰り広げられた。テレビの影響検出に終始することなく,テレビのプラス面を子どものために生かすという視点を持つ研究が増えたことは,この時代の重要な特徴といえる。
メディア環境の急激な変化と,家族や学校環境の変容,犯罪の低年齢化・内容の深刻化をはじめとする社会不安が同時に進行した1990年代には,直感的推論に基づくメディア批判が頻繁に登場し,諸外国での議論の影響も受けて,メディア規制をめぐる議論も活発になった。そうした中,テレビゲームやパソコン,インターネットなども含む広い意味での「子どもとテレビ(メディア)」研究への関心が高まり,とくに90年代後半,多くのメディア関連機関・行政機関や研究者が調査研究に関わった。
そして,2000年代に入ると,真の意味でのメディアの影響効果を調べるために重要な,長期間にわたる研究も始まった。NHKが,多様な専門分野の研究者と共同で発足させた研究プロジェクト(“子どもに良い放送”プロジェクト)では,乳幼児期からのメディアとの関わりに着目した研究の第1年次調査を,テレビ50周年を迎えた2003年に開始した。
子どもの発達を支援するテレビ番組の開発や,子どもの成長に好ましいメディア環境づくりに役立つ研究は,今後さらに重要となろう。研究に関わる者は,これまでの研究がそれぞれの時代の中で果たしてきた社会的意味合いにも目を向け,自らの研究の成果を,最大限効果的に社会に生かす工夫を行うことが,これまでにも増して求められている。
子どもとテレビ研究・50年の軌跡と考察
~今後の研究と議論の展開のために~
公開:2002年1月30日
放送研究部 小平さち子
※NHKサイトを離れます