文研ブログ

放送ヒストリー 2019年04月22日 (月)

#182 公共放送の内側から見た「放送制度」

メディア研究部(メディア動向) 山田 潔


「放送法の一部を改正する法律案」が3月5日、国会に提出されました。この改正案は、NHKのテレビ放送をインターネットで常時同時に配信できるようにNHKのインターネット活用業務の対象を拡大すること、また、関連団体も含めたNHKグループの経営の適正性を確保することなどに向けた制度整備を図るものです。電波による無線放送を行ってきた公共放送NHKを、インターネット動画配信が一般化したこの時代に、どのように対応させるべきか、現時点での「放送制度」が審議されています。

私たちは『放送研究と調査』2019年2月号から「シリーズ 証言を基に読みとく放送制度」の掲載を開始しています。これまでに何度も修正され、作り上げられてきた「放送制度」の形成過程を、学識経験者や、放送事業者、行政機関の関係者などからの聞き取りを基に検証するシリーズです。

初回は、行政法学者である塩野宏・東大名誉教授の証言でした。第2回は、NHKの経営企画部門で放送制度の見直しなどに関わった元NHK監事・黒川次郎氏の証言(『放送研究と調査』2019年3月号)です。

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証言する黒川次郎氏

黒川氏は、1960年代前半の放送法改正の動きに対応してNHKが設置した放送法制研究会の若手事務局員として、同じく若手研究員だった塩野氏を含む外部有識者による制度検討を間近で経験。その後も受信料体系の見直しや衛星放送開始に伴う制度的対応など放送制度に関する幅広い業務をNHKの中心として担いました。塩野氏とほぼ同時代に、放送制度の形成過程をNHKの内側から見てきた人です。黒川氏の証言は多岐にわたりましたが、今回は1970年代半ばまでを取りまとめました。

カラー放送や衛星放送が放送制度と関係が深いのはもちろんですが、証言を聞くと、一見あまり関係がなさそうな沖縄返還、地価高騰といった事象もNHKの経営にとって大きな影響があったようです。放送制度が技術や社会情勢と密接に絡んでいることがわかります。

「平成」から「令和」へ、いよいよカウントダウンが始まっています。新しい時代、放送はどのように役割を果たしていくのでしょうか。放送制度形成の経緯を、証言を通して立体的に知ることが、今後を考える一助となればいいのですが。

少し間をあけながら、シリーズは今後も続けていきます。
当研究所が届けるアナザー・ストーリー、ぜひ楽しんでください。

おススメの1本 2019年04月19日 (金)

#181 平成時代の「放送研究」あれこれ ~放送文化研究所・30年間の論文から~ ①「報道リポートを考える」(平成元年)

メディア研究部(メディア動向) 柳澤伊佐男


間もなく「平成」という時代が終わります。この30年の放送の歩みを振り返ってみますと、衛星(BS)放送の開始に伴う多メディア・チャンネル化、デジタル化、インターネットの発達による放送と通信の融合など、めまぐるしく変化したことがわかります。そうした「平成」時代の放送界の動きについて、NHK放送文化研究所(文研)はどう向き合ってきたのでしょうか。

そのような動機から、文研が平成の30年間に手掛けた調査研究について、毎月発行している『放送研究と調査』に発表された論文・リポート等から振り返ってみました。その中には、研究の内容がユニークなものも少なくありません。何がユニークなのかは、「独断と偏見」になってしまいますが、そのいくつかを、このブログの場でご紹介したいと思います。まずは、平成元年の論文「シリーズ・報道リポートを考える」です。

この論文は、同年(1989年)の『放送研究と調査』1月号から7月号にかけて、6回にわたって連載されました。この論文が出る前年の11月号に「報道リポートを考える 新しいニュース表現の可能性を求めて」という座談会の記事が掲載されています。この時の座談会で提起された問題が6回にわたる論文の柱になっています。タイトルを見ますと、1回目が「字から入る習性をやめる」、2回目が「事実のみを語る」、3回目が「取材力と常とう表現」、以降、「『ニュース』のスタイル」「『リポート』のスタイル」、最終回が「『リポート』のことば」となっています。この論文をベースにしたものが、のちに1冊の本になっています(松岡由綺雄『ニュースよ 日本語で語ってほしい ~放送文章入門~』平成4年)

 
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この論文の発表当時、私は記者生活2年目でした。取材、原稿もちろんですが、話して伝えるリポートにも苦しんでいました。事案の本筋を伝える「本記」原稿とともに、意義や課題を提起する「リポート」原稿を作るのですが、原形をとどめることがないほど、デスクに直されていました。いくら「話し言葉でわかりやすく」伝えようと思っても、デスクに直された原稿を読み上げるだけの「内容が伝わらない」リポートになっていたようです。

この論文の発表から30年、NHKをはじめとするテレビでの「ニュースリポート」はどう変わったでしょうか。画面を見る限り、アナウンサーのようによどみない言葉で報告を行う記者・リポーターが多いようです。感覚的なものかもしれませんが、「しゃべり」の能力は、全体的にあがっているようです。では、伝える内容については、どうでしょうか。今回取り上げた論文では「取材力の甘さを話のうまさでカバーしてはいけない」と戒めています。私自身の反省を込めて、この言葉を後輩の記者・リポーターに伝えたいと思います。

※今回紹介した論文をご覧になりたい場合は、国会図書館やお住まいの都道府県立の図書館のサイト等で検索・確認していただくか、NHK放送博物館(東京都港区愛宕2-1-1)で、ご覧いただけます。

調査あれこれ 2019年04月12日 (金)

#180 都市直下型地震 その時役立つメディアとは? ~大阪北部地震のメディア利用動向インターネット調査とは~

メディア研究部(メディア動向) 入江さやか
編成局 編成センター      西 久美子


■大都市・大阪を襲った「直下型地震」

2018年6月18日午前7時58分ごろ、大阪府北部を震源とするマグニチュード6.1の地震が発生。
大阪市北区、大阪府高槻市、枚方市、茨木市、箕面市で震度6弱の強い揺れを観測しました(以下、大阪北部地震と表記)。この地震で、関西地方の多くの鉄道が当日の夕方にかけて運転を見合わせたため、いわゆる「帰宅困難者」が多数発生しました。NHK編成局編成センターとNHK大阪放送局では地震発生当日のメディア利用動向を早期に把握するため、大阪府在住の16~79歳の男女・2,051人を対象にインターネットによる調査を行いました。さらにこの調査結果を揺れの大きかった大阪府北部とそれ以外の地域に分けて分析しました。

大阪北部在住の回答者の4分の1が「帰宅困難者」に

調査結果をみますと、大阪北部に在住する回答者(1,014人)のうち、25%の人が「歩いて帰宅した」「自宅に帰らず外出先などに泊まった」「普段と違う交通機関を使って帰宅した」などと回答し、いわゆる「帰宅困難者」になっていたことがわかりました。

これらの「帰宅困難者」が、帰宅の可否を判断するのに利用したメディアについては、「インターネットのポータルサイト(Yahoo!・Google等)」が27%で最も多く、次いで「NHKテレビ」(23%)「交通機関のサイト・乗り換え案内アプリ」(17%)「民放テレビ」(16%)などとなっていました。自分の行動や対応を決めるための情報を、主にテレビやネットから得ようとしていたことがわかりました。

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図1 大阪府北部在住の「帰宅困難者」が帰宅の可否の判断に利用したメディア
(複数回答・上位5位まで)
 
 

■もしもテレビやスマホが使えなくなったら?

今回の大阪北部地震では、交通・通信・ライフラインなど大都市を支える機能が一時的に停止・低下しましたが、テレビ・スマートフォンなどの情報機器はほぼ使用できる状況でした。一方、この地震から2か月半後の「北海道胆振東部地震」では、北海道のほぼ全域が停電(ブラックアウト)し、テレビやスマートフォンやパソコンが利用しにくい状況になり、ラジオが主な情報源になりました。

都市直下型の大地震の際に正確な情報が得られないと、帰宅できないばかりか、大きな混乱につながるおそれもあります。今回の地震を受けて大阪府では、災害時の一斉帰宅の抑制とともに、「安否確認・情報収集手段の確保」も呼びかけています。テレビやネットが使えなくなった場合に備えて、電池で使える「ラジオ」もぜひ1台備えておきたいものです。

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図2 大阪府が作成したチラシ「STOP!一斉帰宅」から
(http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/23998/00000000/chirashi.pdf)

今回の調査結果の詳細は、NHK放送文化研究所のウェブサイトでご覧いただけます。
「放送研究と調査」2019年3月号 
都市直下型地震 その時役立つメディアとは? ~大阪北部地震のメディア利用動向インターネット調査とは?~

あわせて、「北海道胆振東部地震」の調査報告もぜひお読みください。
「放送研究と調査」2019年2月号 
北海道ブラックアウト どのメディアが機能したのか 
~「北海道胆振東部地震」メディア利用動向インターネット調査から~

メディアの動き 2019年04月05日 (金)

#179 「Screenless Media」の可能性

メディア研究部(メディア動向) 越智慎司 

3月29日、「Screenless Media Lab.」という研究所の設立発表会を取材しました。TBSラジオが外部の研究者とともに、「聴覚からの情報」についての研究を始めるということです。ラジオのリスナーを増やすのにつなげようということなのでしょうか?取材すると、目指すところは、もっと先にあることがわかりました。

研究所の所長に就任したのは、政治社会学者の堀内進之介さんです。スマートスピーカーなどの技術と人間との関わりについての著書があり、企業で音声に関する研究も行ってきました。

設立発表会で堀内さんは、「Screenless Media Lab.」の研究テーマのひとつとして、「『視覚からの情報』と『聴覚からの情報』のバランス」を挙げました。堀内さんによると、これまでは情報の取得や伝達の手段としては、視覚からが優位とされ、視覚からの情報に偏っている環境があるが、近年の研究では、聴覚からの情報が、内容の整理や理解、動機づけといった積極的な関わりについて、効果が高いと評価されているということです。研究所では、情報過多で受け手が疲れるなどの問題が起きている中、視覚からと聴覚からの情報の役割を切り分け、聴覚からの情報が受け手の理解や意欲にどのようにつながっているかといった視点から研究を進めることにしています。

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(右から2人目が堀内所長)

また、TBSラジオの制作現場の人たちは経験で、「ラジオショッピングは商品の返品率が低い」とか「パーソナリティーの話を聞いていると、その気になってくる」といった、ラジオ独特の効果のようなものを感じているということです。研究所では、こうした現場で培われたものと研究者の知見とを合わせて、音声メディアでどのような情報の伝え方をすればよいか、使うワード、語順、速さ、言い方といった具体的な部分についても研究するそうです。

NHK放送文化研究所が2015年に行った「もしラジオ未利用者が1週間ラジオを聴き続けたら」という調査でも、利用者から「知らない人の話を、ラジオだとすんなり聴けた」「なぜか、話していることが頭に入る」といった、ラジオを評価する声があがっています。

単なる音声メディアでなく、視覚のメディアとも共存する「Screenless Media」としての可能性を探ろうとする「Screenless Media Lab.」ですが、ロゴなどに「TBS」の文字がありません。研究の成果は、書籍の出版やラジオ番組での報告などを通じて、業界や社会に広く還元したいと考えているそうです。

メディアの動き 2019年03月29日 (金)

#178 初めてのSXSWで「原爆」に出会った

メディア研究部(メディア動向) 谷 卓生


「VR(仮想現実)やAR(拡張現実)の技術を使ったコンテンツの最新動向を知ることができれば!」と、初めて出かけたSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)。米国テキサス州オースティンで毎年3月に行われる、最新のテクノロジーなどに関する世界最大級のイベントだ。

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私は、そこで、THE ATOMIC TREE(原爆の木)という1本の「バーチャルシネマ」に出会った。

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約10分間のこの映画の主役は、広島への原爆投下に耐え、生きのびた、樹齢およそ400年とされる松の盆栽だ(爆心地から約3キロの地点にあった)。盆栽は、戦後、アメリカに寄贈され、今も米国立樹木園にある。映画は、「360度カメラ」を使って盆栽に迫り、この木に刻まれた400年の歴史、“原爆の惨禍を含む400年の記憶”を浮かび上がらせようと試みている。原爆の爆発の様子は、CGを使って表現されていて、被害を受けた広島の人や街など悲惨な様子は一切描かれてはいないが、HMD(VRを体験するためのゴーグル状の装置)をつけて“没入”した空間で、わたしは、静かに、“1945年8月6日”に思いを馳せることができた。単なる情報としてではなく、VRならではの“一本の木との対話”という「体験」を通して。

同じフロアで、“いかにもVR” “いかにもAR”の未来風のコンテンツが数多く並ぶ中、この作品は異彩を放っていた。今でも、アメリカでは、原爆は戦争の終結を早めたという意見が根強く、原爆について批判的な議論を行うことが難しい。私が強く反応しすぎなのかもしれないが、SXSWというたいへん注目される場で世界初上映を行った、この映画の制作者たち(アメリカの制作会社の作品だ)に拍手を送りたいし、「やられた」とも正直思った。


しかし、SXSWという祭典の性格を考えると、このような挑戦は、実は、十分にあってしかるべきなんだと思う。日本では、SXSWは、テクノロジーの祭典と思われ(誤解され!?)、IT企業やスタートアップには注目されてきたし、SONYなどの大企業は、独自にスペースを借りて、展示を行ったりもしている。確かに、TwitterやAirbnbが、ここで注目されて世に出たことを考えると、そう受け止められたとしても不思議ではない。でも、もともとが1987年に音楽イベントとして始まり、映画やテレビ、ジャーナリズム、政治、デザイン、LGBTなど多彩なテーマに関する討論や講演、展示が行われてきたことを踏まえると、SXSWは、主にテクノロジーという切り口から、“社会について総合的に問い直そう”というイベントなんだと思う。今年も、次の大統領選に名乗りを上げている上院議員が、GAFAの分割論をぶち上げたり、史上最年少で当選し、時の人である下院議員のアレクサンドリア・オカシア・コルテス氏が、テクノロジーを正しく使えば労働者を解放できるとして現在の経済システムを批判するなど、“テック礼賛”とは一線を画す講演などが少なくなかったという。

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コルテス氏(SXSWの公式ホームページから)

「原爆の木」に、話を戻そう。どうして、この映画に、私が「やられた」とまで思ったかというと、いくつかの日本勢の出展を見たあとだったからだ。まずは、日本館「THE NEW JAPAN ISLANDS」(統括ディレクター:メディアアーティストの落合陽一氏)。経済産業省や企業らが、「発酵」などをモチーフにして“日本の未来”を発信するというものだった。私が訪れたとき(3月11日)には、展示の最終日の終わり頃だったからか、畳敷きの舞台で、盆踊りとカラオケ大会が行われていて、“打ち上げモード”。正直、意味がよくわからなかった。

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そして、NHKとSONYが出展した「8K  THEATER」。8Kの超高精細映像と22.2chの臨場感を体験してもらう、コンサートや自然の風景、祭りなどをまとめたコンテンツが繰り返し上映されていた。だが、私が懸念するのは、SXSWで提示するコンテンツとして、「それだけ」で良かったのかということだ。開催期間(3月8~17日)には、ちょうど東日本大震災の「3.11」が入っている。少しずれるが、地下鉄サリン事件が起こった「3.20」もある。NHKは、広島の原爆資料館の収蔵品を、8Kで撮影したコンテンツも持っている。
「日本」が発信できる重要なテーマは、実は、いろいろあるんじゃないかと思うのだ。

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ただ、まったく“希望”がないわけではなかった。
オースティンのライブハウスで、CHAIという女性4人のバンドがライブ(SXSWの公式ライブ)を行っているのを見た。会場には、数百人が詰めかけ満員。オジサン・オバサン世代にはほとんど知られていないけれど、若い世代には人気があるという日本人グループだ。彼女たちは、「女の子はみんな、生まれた時からかわいくて、かわいくない人なんていない」「かわいいってもっと種類いっぱいあっていいと思うし、それぞれの個性がかわいい」という“NEO KAWAII”を打ち出し、現地でも共感をもって迎えられていた。こんな文化的発信が、現に行われているのだ。

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なお、ここに書いたことのかなりの部分は、オースティン滞在中の、いろんな人との議論や教えに負っている。一人一人名前をあげないが、あらためてお礼を言いたいと思う。
         

おススメの1本 2019年03月26日 (火)

#177 「北海道胆振東部地震」で拡散した流言

メディア研究部(メディア動向)  福長秀彦

フェイクニュースや流言、デマの研究をしています。去年9月6日の「北海道胆振東部地震」でも数多くの「流言」が飛び交いました。その事例研究を『放送研究と調査』2019年2月号に書きました。

流言とは、推測による根拠のない情報が、人びとの不安や恐怖、怒りなどの感情によって拡散するものです。流言のほとんどは誤報ないしは著しく不正確な情報です。

北海道胆振東部地震で発生した流言は、「全域で断水する」「○○地域でこれから断水する」「○○時から断水する」(札幌市や旭川市、帯広市、小樽市など12市町)、「8日に本震が起きる」、「苫小牧で地鳴りがしているので大地震が起きる」などで、Twitter上で拡散しているのが確認されました。

北海道胆振東部地震による土砂崩れを伝えるNHKニュース(9月6日放送)
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(注)画面逆L字の一部を割愛


「小樽 断水」のキーワードでTwitterの投稿を検索してみると、地震発生の直後には、水を貯めておくなどの用心を呼びかけるツイートが多く、「これから断水する」という投稿は見当たりませんでした。ところが、しばらくすると「断水するらしい」という推測形、さらに時間が経つと「10時半から断水する」という確定的な表現の投稿が現れました。もちろん、いずれも事実無根です。

「8日に本震」のキーワード検索で最初に現れたツイートは、“熊本地震や東日本大震災のように、2日後に本震が起きなければいいが”と単に心配した投稿でした。しかし、このあとすぐに「8日に本震くるの?」という疑問形、「8日に本震くるかもしれない」という推測形のツイートが次々と現れました。また、それらに交じって「怖い」という恐怖感を訴える投稿が多数ありました。SNSは文字で伝えられるので、口伝てに比べて流言が変容しにくいとされていますが、トーンが次第に強くなっていく傾向が窺えました。

自治体やNHKなどのメディアがSNSで発信した、流言を否定する情報には流言の拡散を抑制する効果がありました。否定情報がTwitter上で伝播してゆくスピードは、「8日に本震」「苫小牧で地鳴り」など恐怖感情の強い流言ほど早い傾向が見られました。

放送の逆L字画面に二次元コード貼り付け
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(注)NHK総合テレビ9月6日の放送画面に加筆


北海道胆振東部地震では、大規模停電によって多くの人びとが長時間にわたってテレビから情報を得ることができませんでした。先行研究によると、流言の拡散を抑制する基本は、「正確な情報を十分に伝え、情報の曖昧さをなくすこと」とされています。

NHKはテレビ・ラジオの放送をインターネットで同時配信するとともに、ライフライン情報などのきめ細かなコンテンツをウェブサイトやスマホのアプリでも提供しました。Twitterのツイートにそれらへのリンクを貼ったり、北海道以外の人たちが札幌放送局のウェブサイトにアクセスして、詳しい情報を道内の人たちに伝えることができるようにと、全国放送のテレビ画面に二次元コードを貼り付けたりしました。

北海道胆振東部地震は、ネット時代の流言の拡散抑制を考えるうえからも、重大な災害であると思います。

 

調査あれこれ 2019年03月22日 (金)

#176 北海道ブラックアウト どのメディアが機能したのか ~「北海道胆振東部地震」メディア利用動向インターネット調査から~

メディア研究部(メディア動向) 入江さやか
編成局 編成センター 西 久美子

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■  北海道で震度7 北海道がほぼ全域で停電

2018年9月6日午前3時すぎ、未明の北海道を震度7の激しい揺れが襲いました。地震の規模はマグニチュード6.7、北海道厚真町で震度7、安平町・むかわ町で震度6強を観測。厚真町で発生した大規模な土砂崩れなどで41人が亡くなりました。私(入江)は、東京にいましたが、地震発生を知らせるメールで目を覚ましました。テレビで緊急ニュースを見ていたところ、函館市の函館山に設置されたNHKのロボットカメラに映っていた夜景が一瞬で闇に沈んだのです。震源から函館市までは直線距離でも約150キロあります。「なぜ函館まで!?」最初は何が起きたのかわかりませんでした。

経済産業省によると、北海道最大の火力発電所である「北海道電力苫東厚真発電所」が地震の揺れによる自動停止や障害で停止。電力供給のバランスが崩れ、地震発生から18分後の午前3時18分に北海道全域約295万戸(発電所を持つ離島を除く)への電力供給が停止、過去に例のないブラックアウト(大規模停電)となったのです。道内ほぼ全域での停電は約11時間続き、全域への電力供給再開は約64時間後の9月8日午後7時でした。


■テレビ・ラジオにも大きな影響

停電のため各家庭などでテレビが見られないばかりか、北海道内の地上波テレビ放送の中継局160局のうち28%にあたる45局が停波しました。NHKはウェブサイトや防災アプリでテレビ放送を同時配信したほか、6日朝の『おはよう日本』ではアナウンサーが北海道以外の視聴者に向けて「NHKが報道する情報をメールやSNSなどで北海道の家族や友人などに伝えて」という異例の呼びかけをしました。北海道の民放4社も、各社のウェブサイトやYouTubeで地震関連情報を同時配信しました。


■その時使えた情報機器は?

NHK編成局編成センターでは地震発生当日のメディア利用動向を早期に把握するため、北海道全域(16~79歳の男女・3375人)を対象にインターネットによる調査を行いました。地震発生当日に使用できた端末・機器は、時間によって変わっていったことがわかりました(図1)。

すべての時間帯を通じて利用できた割合が高かったのは「ラジオ」でした。「テレビ」は、68%が「当日利用できなかった」と回答しました。

「インターネット(スマートフォン・タブレット端末)」は、「地震発生直後から未明」までは40%の人が利用できていましたが、夜間にかけて20%台まで下がりました。停電が長期化する中、電源節約のために使用を控えたことや、北海道内の各地で基地局の停波が相次いだことが背景にあると考えられます。

「ラジオ」を利用した人にその理由を尋ねたところ、NHK・民放ともに「情報が信頼できるから」「欲しい情報が得られると思ったから」というコンテンツへの評価も高かったのですが、「他になかったから」「電力やバッテリーの消費を節約するため」という理由も目立ちました。

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図1 地震発生当日に利用できた端末・機器(複数回答)


■「情報ブラックアウト」を避けるために

平常時はスマートフォンやタブレット、パソコンでラジオを聴くこともできますし、防災情報や交通情報などあらゆる情報が欲しいときに手に入ります。しかし、災害時に同じように使えるとは限りません。携帯電話事業者や電力事業者なども災害時の早期復旧対策に力を入れていますが、電力のブラックアウトが「情報ブラックアウト」にならぬように個人レベルでも情報面の防災対策をしておきたいものです。

ちなみに、災害情報の調査・研究に携わっている私は「紺屋の白袴」ではいけませんので、携帯ラジオ(テレビ音声・AM・FM受信可)を、スペアの電池と一緒にいつも持ち歩くようにしています。非常食や水の備蓄も大事ですが、情報面での備えも忘れないでください。

今回の調査結果の詳細は、NHK放送文化研究所のウェブサイトでご覧いただけます。

北海道ブラックアウト どのメディアが機能したのか~「北海道胆振東部地震」メディア利用動向インターネット調査から~

なお、『放送研究と調査』3月号では、昨年6月に発生した「大阪府北部の地震」に関するメディア利用動向調査の結果も掲載しています。こちらもあわせてお読みください。

放送ヒストリー 2019年03月15日 (金)

#175 シリーズ「証言を基に読み解く放送制度」 スタート ~文研が届けるアナザー・ストーリー~

メディア研究部(メディア動向) 山田 潔


平成が終わり、1つの区切りを迎えようとする中で、いろいろな角度から「昭和そして平成がどういう時代だったのか」の振り返りがなされています。

戦後の昭和から平成にかけて、表現の自由と技術革新を反映しながら大きく成長し、人々にさまざまな情報を届けてきたメディア「放送」。戦後の焼け野原で流れたNHKのラジオ放送だけから、民放ができ、テレビジョン放送開始、それがカラー化し、BS、ハイビジョン、デジタル化、4K・8K、そして今、電波による放送に加えたインターネットの本格活用が模索されています。

日本の放送は、戦前の反省に立ち、豊かで多様な番組をあまねく届ける民主的な放送を目指して、受信料による公共放送NHKと、広告収入による多くの民放という財源を異にする二元体制を中心に互いに切磋琢磨しながら自律的に進んできました。一方で、放送を行うには、電波免許が必要なことや、番組内容についての政治的公平性確保といった規律が設けられるなど、他のメディアと少し異なった制度が設けられています。また、電波や受信機に関する技術規格、放送事業者の経営のあり方などの面でもこれらの要請を前提として考えられてきました。

今回はじめたシリーズは、こうした日本の「放送制度」がどのような過程を経て形成されてきたのかまた、関係者はどのように関与したのかこれまで必ずしも明らかになっていない点を、放送制度の検討に関わった方々の証言を基に読み解こうというものです。


シリーズ第1回(『放送研究と調査』2019年2月号に掲載)は、放送制度の根幹とも言える放送法についてです。放送法は1950年の制定後、改正規模は大小さまざまですが、2018年末までに実に60回も改正され現在に至っています。改正には、所管官庁、放送事業者の担当者、国会議員、放送制度に詳しい有識者など多くの関係者がそれぞれの立場であるべき放送の姿を求めて、関与してきました。

その中でも、理論的・体系的な法制度検討における法学研究者の存在は大きいです。今回は行政法学者として長年にわたり放送法制の研究に携わり、法改正に向けた有識者会議の座長を務めるなど検討の中心となってリードされた東京大学名誉教授・塩野宏氏に、ご自身が放送法に関わり始めた1960年代を中心に伺いました。

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証言する塩野宏氏

当時、民放の成長、テレビの普及という状況を受け、政府の「臨時放送関係法制調査会」に対応するため、NHKが独自に理論的検討を行った「NHK放送法制研究会」に若き研究者として参加された塩野氏。新憲法の下、放送の重要性に鑑み、勢い込んで参加されたかと思いきや……。話は聞いてみないと分らないものです。
歩く知性のような塩野氏ですが、私たちにも分かりやすくお話してくださいました。

当研究所が届けるアナザー・ストーリー 是非のぞいてみてください。
シリーズ第2回も『放送研究と調査』2019年3月号に掲載しました。4月に当ホームページでも全文公開されます。)

おススメの1本 2019年03月08日 (金)

#174  時代とともに変化する"子どもとメディア"をめぐる研究

メディア研究部(番組研究) 小平さち子


40年前に、私が“子どもとメディア”の研究に関わり始めた時、人々の注目を集めていたメディアは、圧倒的にテレビでした。当時は、NHKだけでなく、民放各局も、子ども向け番組を多数放送しており、親たちの間でも、研究者の間でも、子どものテレビ視聴時間や番組内容に対する関心が高かったのです。

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現在はどうでしょうか。テレビは子どもたちの生活時間の中で、相変わらず大きなウェイトを占めていますが、関心の対象は変化しているようです。スマートフォンを手放すことができない子どもを心配する親、スマートフォンを目にした2歳児に、お気に入りの動画をせがまれる親・・・・・・。学校に目を向けると、タブレット端末の授業への導入が進む中で、先生たちは新たな対応を求められる等、社会に広まった新しいメディアに対する関心が高まっています。

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このように、子どもを取り巻くメディア環境は大きく変化していますが、インターネットの本格的な普及が始まった2000年以降に注目して、文研の他、政府機関や民間の研究所、大学の研究室等で実施された“子どもとメディア”をめぐる多様な調査研究事例に目を通して、この時期の研究動向の特徴を整理してみました。

その結果、「スマートフォンやタブレット端末等新たに登場したメディアを取り上げる研究の増加」「乳幼児を対象とする研究の増加」「メディアの影響分析における、量的側面だけでなく、番組・コンテンツの内容や描写といった質的側面を重視する傾向」「研究成果を授業・保育・保護者の啓蒙等の教育プログラムに反映させる枠組みを意識した研究の重視傾向」等が明らかになりました。

詳細については、“子どもとメディア”をめぐる研究に関する一考察 ~2000年以降の研究動向を中心に~『放送研究と調査』2019年2月号に掲載)をご一読ください。

本稿の前段となる、テレビ放送開始の1953年から2000年までの時期の研究動向については、子どもとテレビ研究・50年の軌跡と考察: 今後の研究と議論の展開のためにと題して、『NHK放送文化研究所年報』47集(2003年1月発行)に発表しています。“子どもとメディア”の研究に関心をお持ちの方は、こちらも併せてお読みいただき、今後の研究の発展に役立てていただければ幸いです。

 

文研フォーラム 2019年03月05日 (火)

#173 世論調査でかんたんチェック! あなたは多数派?少数派? 文研フォーラム2019

世論調査部(研究開発) 原 美和子/平田明裕/萩原潤治

 

いよいよ明日から、文研フォーラム2019!
きょうは、研究発表と連動した体験コーナーのご案内です。

世論調査でかんたんチェック! あなたは多数派?少数派?
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□世論調査の結果がどうだろうと、自分には関係ない
□世論調査とアンケート、大した違いはないんじゃない?
□世論調査って、本当にちゃんと調査しているの?

「NHKで世論調査をしています」というと、こんなご意見や疑問をいただいたりします。えー残念、手前味噌ですが、世論調査って、実に奥が深くって、面白いんだけどなあ。そもそも世論調査は、世の中のみなさんの意見を積み上げた結果なのだから、本当はNHK世論調査というより、「みんなの」世論調査であるはずなんですが・・・・・。

世論調査を、もっと身近に感じてもらいたい、もっと関心を持ってもらいたい、ということでこのたび取り組んだのが、世論調査結果を活用したウェブコンテンツの開発です。

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※画面の詳細は変わる可能性があります

これはフォーラム2日目の研究発表「世論調査から探る人々のニュース・情報選択」と連動したもので、『放送研究と調査』2018年12月号に掲載した世論調査報告「情報過多時代の人びとのメディア選択」のデータをもとに、いくつかの質問に答えると、たとえばこんなことがわかります。

あなたの情報に対する意識は、同年代の中では多数派?少数派?
年代によって、メディアの利用や意識の特性にどのくらい違いがある?ない? 
あなたの情報“視野”は、広い?せまい?

フォーラム開催期間中の午後、会場の千代田放送会館1階で、体験コーナーを設置予定です。フォーラムへいらっしゃる方々、ぜひともお立ち寄りください!

なお、このコンテンツは、体験してくださった方々のご意見も参考にさらにブラッシュアップし、3月中には、文研公開HPから、どなたでも体験できるようにする予定です、こちらもどうぞお楽しみに!
それでは、千代田放送会館でお待ちしています!

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