文研ブログ

調査あれこれ 2019年06月14日 (金)

#192 平成で日本人はどう変わったか?~博報堂生活総研と座談会を行いました

世論調査部(社会調査)荒牧 央


文研では1973年から5年ごとに「日本人の意識」調査を継続して行い、日本人のものの見方・考え方の変化について分析を続けています。

先日、同じように長期の時系列調査を実施している博報堂生活総合研究所(以下、生活総研)の研究員お二人と、文研の「日本人の意識」調査チームで「平成」の価値観の変化をテーマに座談会を行いました。

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博報堂生活総研 三矢さん・内濱さん      NHK文研 村田・荒牧・吉澤


生活総研では「生活定点」調査や「家族調査」などの時系列調査を、長いものでは30年にわたって実施し、それらの調査データからの知見を最近書籍にもまとめられています。

今回、お互いの知見を持ち寄ったことで、
・家庭に対する意識や家族のあり方は大きく変わったものの、家族の価値は決して低くなっていないこと
・人間関係などで「公」よりも「私」を重視する考えが強まっていること
などが共通の傾向としてみえてきました。

そのほか、一見似たような質問なのに食い違う結果が出ている質問や、私たちの調査では全く尋ねていないような質問などもあり、興味はつきませんでした。

そもそも別の研究機関の方と、それぞれの調査データについて時間をとって議論するという機会は、実は多くありません。そういう意味でも非常に有意義な時間になったと思います。

今回の座談会の様子は博報堂のウェブサイトに掲載され、文研のサイトにも掲載しています。ぜひご一読いただければと思います。

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         座談会を終えて

『放送研究と調査』5月号
6月号では、2018年に実施した「日本人の意識」調査の最新の結果について詳しく報告しています。こちらもぜひご覧ください。


おススメの1本 2019年06月11日 (火)

#191 平成時代の「放送研究」あれこれ ~放送文化研究所・30年間の論文・リポートから~④ テレビの災害情報はどう評価されたか  ~『雲仙・普賢岳災害と放送』調査から~(平成4年)

メディア研究部(メディア動向)柳澤伊佐男


NHK放送文化研究所(文研)が手掛けた平成時代30年間の調査研究を紹介するシリーズ、4回目は、平成4年(1992年)の「放送研究と調査」1月号に掲載された「テレビの災害情報はどう評価されたか~『雲仙・普賢岳災害と放送』調査から~」を取り上げます。


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この論文は、防災や報道のあり方に多くの教訓・課題を残した長崎県の雲仙・普賢岳の火山災害をテーマに、災害情報の伝達がどのように行われたかについて分析したものです。雲仙・普賢岳は、長崎県にある火山で、平成2年11月、198年ぶりに噴火しました。翌年(平成3年)6月3日の大火砕流で報道関係者や消防団員ら43人が犠牲になったほか、噴火活動が4年半続くなど、災害は大規模で長期間に及びました。この火山災害について、文研は、平成3年10月、ふもとの島原市・深江町(現在の南島原市深江町)の住民にアンケートを実施し、学識・防災関係者への聞き取り調査なども行った上で、災害情報はどう収集されてどう伝えられたか情報は人々にどう受け止められ理解されたか、▼災害放送はどう評価されたかという3点について、分析を行いました。

論文では、分析の結果をもとに▼災害情報の入手と放送、▼メディアへの評価と期待、▼災害情報の伝え方、▼テレビの取材、以上の4つの項目について考察しています。この中で私が特に注目したのは、「テレビの取材」に関する考察です。当時の報道各社の取材について、▽応援を含む多数の取材陣が現地に入ったことで、タクシーが各社にチャーターされ、市民の足が奪われた▽川沿いの狭い道路に各社の中継車が並び、土石流災害復旧の作業を妨げた▽避難した後の留守宅に入り込み無人カメラ用の電源を引き出して警察から事情聴取されたテレビ局もあったとした上で、「こうした無秩序で節度を欠いた取材が繰り返された結果、被災者からは厳しい報道批判、不信の声が上がるように」なったと指摘しています。本人か家族が取材を受けたり、取材を目撃したりした住民のうち、5人に1人がテレビ局の取材態度に批判的だったという調査結果なども紹介しています。

当時、私も現場で取材にあたった報道陣の一員でした。避難所で、合羽姿の記者がそのまま入ろうとして、市の職員から注意を受けた場面に遭遇したことがあります。火砕流で犠牲者が出た後、私たちに対する市民の接し方が厳しくなったと感じたこともありました。私も批判の対象になった1人だったのでしょうか。

雲仙・普賢岳の災害の後、災害取材・報道のあり方が大きく変わりました。災害現場に向かう際、上司から、▼現地の状況に動じることなく、正しい情報を冷静に伝えること、▼自らを含めたスタッフの安全確保に十分注意を払うことなどを、繰り返し言われました。今でもその心構えで臨んでいるつもりです。防災・減災の情報は、人の命に関わるだけに、的確かつ、迅速に伝えることが求められます。もちろん、取材態度を含めて、視聴者の信頼を損なうことがあってはなりません。いまのマスコミ報道をめぐる状況はどうでしょうか。28年前の雲仙・普賢岳の教訓を忘れてはならないと思います。


調査あれこれ 2019年06月07日 (金)

#190 世論調査の手法はいろいろ - より良い手法を探っています

世論調査部(研究開発)萩原潤治

「世論調査部の萩原です」と自己紹介すると・・・
「あー、内閣支持率のニュースをよく見ますよ」とか「電話で調査してるんですよね?」とか言われることが多いですね。

確かに、NHKは毎月、内閣を支持するか否かなどを聞く「政治意識調査」を電話で行い、結果をニュースにしていますので、世論調査=電話という印象が強いのかもしれません。ただ、世論調査には電話法のほかにもいくつか手法があるんです。

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「個人面接法」では調査員が調査相手のご自宅を訪問し、面談して回答していただきます。また、「郵送法」では質問紙を郵送し、回答を記入して返送していただきます(NHKでは、調査員が質問紙を届ける「配付回収法」という手法も行っています)。

冒頭の「政治意識調査」は、その時々の内閣支持率や時事問題などについて、人びとの意識を把握する調査ですので、調査期間はできるだけ短く、また結果もなるべく早くお伝えすることが望ましいでしょう。それで、最も機動性の高い「電話法」が選ばれているというわけなんです。

さて、この「電話法」に携わっている人たちにとって、2016年は大きな転機の年でした。
それまでの全国電話調査は固定電話だけが対象でしたが、これに加えて携帯電話にも発信する「固定・携帯RDD」を報道各社が導入し始めたのです。NHKも2016年12月からこの手法を採用しています。携帯電話しか持たない人にも調査できるようになったことで、若い人の回答数が増え、調査の精度がアップしました。

しかし、問題も残っています。全国ではなく、都道府県など地域を限定した電話調査では、携帯電話の番号からは地域が特定できないので、今も固定電話のみで調査をせざるを得ないのです。せっかく、「固定・携帯RDD」を始めたのに、地域調査は固定電話だけのまま・・・もどかしいですが、今のところ解決策は見つかっていません。

さらに、この固定電話調査は、若年層の回答数が少なく、高年層の回答数が多いという傾向があります。「世論調査=国民の縮図」として公表する以上、この状況が深刻化する前に手を打たなければ、世論調査への信頼は揺らぎかねません。

(前置きが長くなりましたが・・・)そこで!今回の神戸市などを対象にした地域限定の世論調査では、固定電話による調査の代わりに、「郵送法」を改良して行い、その効果を検証しました。

「郵送法」は、有効率の高さや多様な質問文・選択肢を作ることができるという特長がありますが、機動性では「電話法」にかないません。このため今回は、いつもの「郵送法」よりも、どの程度、調査の期間を短くできるのかを工夫して設計してみました。

この改良版・郵送法は、固定電話調査の代わりになりうるのでしょうか。手法の詳細と精度の検証結果について『放送研究と調査』5月号に書きました。ぜひご覧ください。

 

おススメの1本 2019年05月31日 (金)

#189 平成時代の「放送研究」あれこれ~放送文化研究所・30年間の論文・リポートから~③  調査研究ノート 韓国「論文ねつ造事件とメディア」(平成18年)

メディア研究部(メディア動向)柳澤伊佐男


NHK放送文化研究所(文研)が手掛けた平成時代30年の調査研究を紹介するシリーズ、3回目は、韓国のメディアに関するリポート、平成18年(2006年)の「放送研究と調査」5月号に掲載された「韓国『論文ねつ造事件とメディア』」を取り上げます。

この事件は、平成17年(2005年)に発覚しました。韓国の研究者が世界で初めて「クローン技術を使ってヒトの胚から“万能細胞”ともいわれるES細胞を作ることに成功した」と発表した論文が、ねつ造されたものだったというものです。ご記憶の方も多いかと思います。

この問題を最初に指摘したのが、韓国の民放の報道番組でした。研究者は、当時、クローン研究の“画期的な成果”を次々に発表し、「国民的英雄」などともてはやされていた人物でしたので、報道に対して、他のメディアや国民などから猛烈な反発があったそうです。

文研のリポートでは、▼番組の放送後、放送局に抗議が殺到し、デモが繰り返されて、スポンサーへの不買運動やCMの引き上げにまで発展したことや、▼他の放送・新聞メディアが、番組の取材チームに倫理的な違反があったと報じたり、疑惑が深まる中でも、番組の問題提起を「国益」を害すると批判したりしていたことなどが報告されています。そうした当時の韓国メディアをとりまく状況に対し、論者は「『真実』を明らかにするというジャーナリズムとしての役割を果敢に果たそうとした事実を不当に貶めることがあってはならない」と結んでいます。

私がなぜ、このリポートに関心を持ったかといいますと、かつて「ねつ造問題」を取材したことがあったからです。といっても、平成26年(2014年)に発覚した「STAP細胞」の問題ではありません。韓国の問題の5年前に世間を騒がせた「旧石器遺跡」のねつ造問題です。毎日新聞の報道で明らかになったこの問題ですが、噂のレベルで事前に話は聞いていました。しかし、本当に石器を埋めていたとは思いもしませんでした。他社のスクープでしたが、隠された不正を暴く「調査報道」の意義・必要性を強く感じた体験でした。

その一方、学術的な成果を正しく報道することの難しさも身をもって知りました。学術ネタを報道するには専門的な知識が求められ、目新しいものであればあるほど、事実かどうかを確かめる(ウラを取る)ことが難しくなっていきます。発表者に悪意があっても見抜けない可能性も否定できません。私もかつて、「石器を埋めた」ことに気づかず、「50万年前の遺跡発見」などと報道してしまったことがあります。先日もドイツ宗教学の研究者による論文のねつ造が明らかになりました。こうした不正を掘り起こす「調査報道」は、国の内外を問わず、いまも、ジャーナリズムに求められている大切な役割だと思います。

調査あれこれ 2019年05月24日 (金)

#188 日本人で宗教を信仰している人は何%? 増えてるの減ってるの?

世論調査部(社会調査)小林利行


「ふだん信仰している宗教がありますか」
みなさんがこんな質問をされたらどう答えますか?

NHKが去年10月から11月にかけて行った「宗教」に関する世論調査(全国の18歳以上対象)の結果によると、「仏教」と答えた人が31%、「神道」が3%などと、何らかの宗教を信仰していると答えた人は合わせて36%になりました。

この調査は2008年にも実施しているのですが、何らかの宗教を信仰していると答えた人の割合は、この10年でほとんど変化していません。

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宗教に関する意識や行動は、10年ぐらいではあまり変わらないのかなと思って他の質問をみてみると、むしろこの結果が例外で、他の多くの数字は増加したり減少したりしているのです。

例えば、信仰心があるかどうかを尋ねた質問では、信仰心が「ある」という人が2008年は33%でしたが、去年は26%に減っています。

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では、仏教や神道など、何らかの宗教を信仰している人に限ってみるとどうなるでしょうか。
(①のグラフで、緑や赤などのカラフルな部分の人を100%として考えるということです)

「何らかの宗教を信仰している」と答えた人の中で、信仰心「あり」と答えた人は2008年は65%でした。しかし、去年は53%に減っているのです。

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つまり、「何らかの宗教を信仰している」と答えた人の中でも、信仰心を持つ人が少なくなっていて、最近では約半数になっているということです。

私は宗教学の専門家ではないので詳しく解説できないのですが、日本人にとって宗教を信仰するということは何を意味するのかということを考えさせられる結果ではないでしょうか。

実は、この調査は20年前にも行っていて、多くの質問で過去20年間(3回分)の比較が可能です。
ここで紹介した以外にも、「へえ~」と思える結果がたくさんあります。

例えば、「人に知られなくても悪いことをすれば必ずむくいがあると思うか」という質問があります。
20年前には74%の人が「そう思う」と答えていましたが、去年は何%だったと思いますか?
多くなったのか少なくなったのか? その変化はどの程度なのか?

気になる方は『放送研究と調査』4月号をご覧ください。

※ブログ内では、選択肢をある程度まとめて示しているグラフもあります。

 

おススメの1本 2019年05月23日 (木)

#187 "モンスター"を止めるのは誰だ!?

メディア研究部(メディア動向)大髙 崇


“モンスター”井上尚弥の試合、見ました?
ボクシング世界戦、ボッコボコに殴り倒して2ラウンドKO勝ち。強すぎ!
試合前は「最強の対戦相手!」とのふれこみでしたが、「あれ? 相手の選手、弱くね?」と思ってしまうほどの完勝でした。
井上選手、強くて、男前で、礼儀正しくて……、


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という思いとともに……、心の中は、正直……、

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……の日曜でありました。

そんなことはどうでもいいとして(^^;)
試合終わってさっそく、やっぱり、動画がたくさんインターネットにアップされてます。
いわゆる違法アップロードですね。
放送局など「権利者」の側からすると、相当な予算を投じて制作・放送した番組が、次々と無断でアップロードされてしまう状態は、当然放置できません。
そのため、放送局では常々、違法アップロードの番組動画を見つけては、サイトの運営者などに「削除要請」をしています。
私もかつて、この業務の担当でしたが、なにせ相手はインターネットの大海原。自局の番組をすべて探し出すのはとても無理! 大量の動画を見続けて、目がカッサカサになるのがわかります。それでも、ざっくりですが、1日で百件以上の違法動画を見つけることもしばしばありました。
ですが、このあとが、けっこう手間暇がかかるんです。
そのサイトの運営者に対し、削除してほしい動画のアドレスを一つずつコピペして(つまりコピペ百回!)、削除を依頼するメッセージを送ります。削除要請対応のフォーマットがしっかりしているサイトならある程度は楽なのですが、「ここ、メッセージ送って大丈夫なの?」とヒヤヒヤしてしまうサイトも、もちろんたくさんあります。。。

で、削除要請の仕事が終わった頃には、いつもこう。

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まさに、
モンスターにボッコボコにされた気分。

……今年の国会でも海賊版サイト対策の法案提出が見送りになりました。なかなかいいパンチが当たらないこのモンスター、KOされる日は来るのでしょうか。

私も一員の文研・メディア動向グループでは、海賊版サイト問題など、メディアと著作権に関する動向や研究論文を逐次発表しています。以下のリンクよりぜひご覧ください!

◎海賊版サイトや違法ダウンロード関連の記事
「放送研究と調査」2018年9月号
『調査研究ノート 海賊版サイトは"ブロッキングすべき"か』
「放送研究と調査」2019年4月号
(メディア・フォーカス)違法ダウンロード「全著作物に拡大」,文化審議会が報告書』

◎メディアと著作権関連の記事
「放送研究と調査」2018年8月号
『“著作権70年時代”と放送アーカイブ活用(前編)~深刻化する「権利者不明問題」~』
「放送研究と調査」2018年9月号
『“著作権70年時代”と放送アーカイブ活用(後編)~大量著作物利用への道」~』
 「放送研究と調査」2019年4月号
(メディア・フォーカス)ベストセラー『君たちはどう生きるか』,ドラマ化で著者遺族が出版社に抗議』

調査あれこれ 2019年05月17日 (金)

#186 東京五輪・パラまで1年余り。 人々の意識に変化は!?

世論調査部(視聴者調査) 斎藤孝信


2020年東京オリンピック・パラリンピックまで、残すところ1年余り。観戦チケットの予約開始や、各種目の代表選考など、大会に関するニュースや話題を耳にする機会が多くなってきたように感じます。

文研では2016年から継続して、全国の20歳以上の男女3600人を対象に「2020年東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査」をおこなっています。最新の第4回調査(18年10月実施)の結果は、「放送研究と調査」4月号で詳しく報告しているほか、文研のホームページでも全文をお読みいただけます。
このブログでは、その中から、今回の注目点を少しだけご紹介します!

<準備状況の評価が大幅に改善>
大会の準備状況についての評価は、調査開始からの2年間で大きく改善しました。
「とても順調だと思う」と「まあ順調だと思う」を合わせた『順調だ』は、第1回(16年10月)の18%から、第4回は52%になり、すべての調査を通じて初めて『順調ではない(あまり+まったく)』を上回りました。

第1回調査は、大会の総費用が3兆円を超える可能性が明らかになったり、新国立競技場の着工が遅れたりしていた時期でしたので、多くの人々が準備の進ちょくを危惧していたのでしょう。
それから2年が経ち、第4回調査の時点では、各競技施設の建設が着々と進み、競技日程も発表された(発表は18年7月)こともあり、『順調だ』と受け止める人が増えたのではないでしょうか。

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ちなみに(今回の報告内容からは、少し横道にそれますが)・・・。
前回の東京オリンピックの時はどうだったのでしょうか。

文研が東京都民を対象に、1964年6月に実施した世論調査(「オリンピックの準備は、あまり進んでいないようだ」という意見に対して、「賛成」か「反対」か「どちらともいえない」かの3択で回答してもらう方法)をひもといてみると・・・。

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このように、大会が4か月後に迫る中でも、半数以上の人が「準備はあまり進んでいない」と厳しい評価をしていました。当時は、交通インフラ整備や街の美化などが「五輪までに間に合うのか?」と問題になっていたようです。そうした不安と、国内初のオリンピックを成功させなければ!というプレッシャーが、この数字の裏側にはあったのかもしれません。

<「純粋なスポーツ」として捉える人が増えたパラリンピック>
第4回調査では、パラリンピックに対する人々の意識にも変化がみられました。たとえば、「パラリンピックは、どのように伝えるべきか(スポーツとして?福祉として?)」では、「オリンピックと同様に、純粋なスポーツとして扱うべき」が、第1回の37%から、43%に増加しました。

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全文掲載した報告の本編では、ここでご紹介した内容のほか、大会への関心の有無や、開催に伴う期待と不安、大会時のメディア利用の意向なども詳細に報告しています。ぜひご一読ください。

放送ヒストリー 2019年05月10日 (金)

#185 「現実に負けに行く」精神

メディア研究部(メディア史研究) 宮田 章

ネット時代の昨今、人々は見たいものだけを見て、聞きたいことだけを聞いていると言われる。自分の好みや信念に合う情報なら、それがフェイクでも現実と信じ込み、逆に自分の好みや信念に合わない現実を「そんなことあるわけがない」と否認する人も多くなっているようである。

筆者はかつてテレビドキュメンタリー(以下「ドキュメンタリー」と記す)の実作者であり、今はその制作技法の経年的な展開を研究している[i]。この小文では、多くの優れたドキュメンタリーが、その作り手の好みや信念が、現実に裏切られることをむしろ喜び、歓迎するタイプの精神から生まれたことを指摘したい思う。

優れたドキュメンタリーの作り手の多くは自己否定の達人である。ある現実についての自分の考えが、現実自体によって裏切られることを喜ぶ性格を持ち合わせている。そうでないと、その作り手は、自分の考えとは違う現実が持つ魅力を、自分の番組に取り込みにくいからである。優れたドキュメンタリーの作り手の多くは、いわば「現実に負けに行く」という気概を持っている。

「現実に負ける」ためには、「負ける」に値するだけの自分の考えを持たなければならない。優れたドキュメンタリーの作り手の多くは調べ魔である。徹底的にリサーチしてそのテーマについて自分の考えを養い、それをロケ前の番組構成案にまとめる。「どうせ負けに行くのだから」などと手を抜くことはない。構成案が的確であればあるほど、より高いレベルで現実に「負ける」ことができる。

ロケ現場についたら構成案の細かい部分は忘れる。なるべく相手のペースに合わせて、その時その場のヒト、コト、モノに接する。運良く、自分では思いもよらなかった現実の豊かさ・複雑さ・割り切れなさ・・・に触れられたなら、めでたく「負け決定」である。優れた作り手はこれを発見として歓迎する。ロケだけではない。ロケ後の編集室でも多くの発見がある。収録してきた映像と音声を多種多様に組み合わせる中で、たくさんの未知のものが生まれるからである。ドキュメンタリーの企画時を入口、放送時を出口とすれば、入口と出口で作り手の考えは変わっていなければならない。入口と出口が同じなら、わざわざドキュメンタリーなど作る必要はない。作り手が入り口で知っている程度のことは、そのテーマに関心がある者なら、大抵知っているからである。

フェイクを現実と信じ込み、現実をフェイクと否認する傾向をネットが固定・強化するばかりなら、この社会は危うい。自分の好みや信念が、現実に裏切られることをむしろ喜び、歓迎するという精神現実に負けに行く」ドキュメンタリー制作の精神は、現代において重要な意味を持っているのではないだろうか。


[i] 『放送研究と調査』2019年4月号に、NHKドキュメンタリーの制作技法の中長期的な展開」という論文を掲載しました。NHKのテレビドキュメンタリーを対象にした初めての通史です。興味のある方はご一読下さい。

メディアの動き 2019年04月26日 (金)

#184 映画「THE ATOMIC TREE」(原爆の木)を撮るのに、 なぜ"VR"を使ったのか?

メディア研究部(メディア動向) 谷 卓生


「どうして、“被爆した松”の話を、映画にしようと思ったのか」、わたしの質問に対して、監督は、「ただただ、この松のストーリーが大好きなんだ」と答えた。

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以前、米国の祭典SXSW1)(サウス・バイ・サウスウエスト)について書いたブログで紹介したバーチャルシネマ「THE ATOMIC TREE」(原爆の木)2)。4月、この映画の2人の監督のひとり、米サンフランシスコで暮らすエマニュエル・ヴォーンリー(Emmanuel Vaughan-Lee)さんに話を聞いた。日本のメディアからのインタビューは初めてだという。

エマニュエル監督が()かれたというストーリーとは・・・今から約400年前、神聖な島(広島の宮島)の山で生まれた松が、広島で盆栽業を営む山木家で代々育てられ、1945年に爆心地から約3キロの地点で被爆。戦後、米建国200年(1976年)を祝うために山木家から米国に寄贈され、米国立樹木園で展示されていた。その後、2001年に、盆栽の寄贈者の孫たちが米国を訪れた際に、初めて被爆の事実を伝え、樹木園はそれを公表した。それ以降、その松は、「ヒロシマサバイバー」と呼ばれ、もっとも尊い木のひとつとして、世界的にも知られるようになった。・・・

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監督は、この物語を表現するために、360度カメラを使った「バーチャルシネマ」という手法を採った。スクリーン上の映像を見るのではなく、「見る人が、松の木があるのと同じ世界・空間にいる」ことができるバーチャルシネマ。“同じ空間“で、この松の年輪に刻まれた約400年の記憶を体感してもらいたい、より強く木とのつながりを感じてもらいたいと意図したという。確かに、それは、かなりうまくいったと言え、わたしは、以前のブログに、「VRならではの“木との対話”」というふうに表現して、このことを伝えた。わたしとしては、木を擬人化した、このような表現は、違和感がないものであったが、エマニュエル監督は、インタビュー中、何度も「自然をキャラクターとして捉えることは、西洋人にはないと思う」と話した。この映画の日本での撮影を、コーディネートした向井万理さん(映像ディレクター/プロデューサー)も、「ディズニーのアニメなどを除けば、自然を擬人化することはほぼない。観客は、ディズニーアニメもあくまでファンタジーと割り切ってみている」と補足してくれた。
しかし、SXSWで、この映画を見た人から、監督にとって、とてもうれしい感想が寄せられたという。

  「この映画を見ることで、“木の友だち”ができた!」

他には、涙を流しながら映画を見ている観客もいたという。バーチャルシネマという手法が生んだ“体験”が、“新たな価値観”を伝えることにも役だったと言えるのではないだろうか。

日本人としては気になる、“原爆”のことをどう考えているかを監督に聞いてみた。
「自分はアメリカ人なので、とてもセンシティブな問題だ。映画自体も、原爆のことにだけ焦点を当てたものではない。原爆のことをどう考えるかは、それぞれの観客にゆだねたい」と述べるにとどまった。この映画は、日本人にも見てもらいたいので、日本語版の制作を検討していて、日本でもぜひ上映したいという。

エマニュエル監督たちが、バーチャルシネマを作ったのは、本作で2本目。「VRを使った表現の可能性を感じているし、この市場は伸びていくと考えているので、今後も、バーチャルシネマの制作を続けていきたい」と話した。


1)アメリカ南部テキサス州オースティンで毎年3月に開催される、最新のテクノロジーや映画、音楽、メディア、ゲームなどに関する世界最大級のイベント(https://www.sxsw.com/)

2)SXSWでの上映が、世界初。監督は、エマニュエルさんとアダム・ロフテンさんhttps://goprojectfilms.com/films/the-atomic-tree/)

 

おススメの1本 2019年04月24日 (水)

#183 平成時代の「放送研究」あれこれ ~放送文化研究所・30年間の論文・リポートから~ ②「平成の皇室観~『即位20年 皇室に関する意識調査』から~」(平成21年)

メディア研究部(メディア動向) 柳澤伊佐男

NHK放送文化研究所(文研)が手掛けた平成30年間の調査研究について振り返るシリーズ、2回目は、平成21年(2009年)に行われた「即位20年 皇室に関する意識調査」についてご紹介します。

この世論調査は、天皇の即位20年というタイミングをとらえ、平成21年10月30日からの3日間、全国の20歳以上の男女を対象に、電話法(RDD追跡法)で行われました。NHK社会部との共同調査で、調査対象は3,313人。このうちの62%にあたる2,043人から回答を得ています。調査の目的は、「皇室への関心・感情や、皇室との距離、皇位継承のあり方などについての意識を探ること」で、その結果が、「即位の礼」20年にあたる同年11月12日のニュースで報道されました。詳細は、翌年(2010年)の『放送研究と調査』2月号に掲載されています。

調査結果の一部をご紹介します。天皇が憲法で定められた象徴としての役割を果たしていると思うかを尋ねたところ、▼「十分に果たしている」と答えた人が全体の48%、▼「ある程度果たしている」37%、▼「あまり果たしていない」8%、▼「全く果たしていない」2%で、「果たしている」と答えた人の割合は85%に上りました。象徴としての役割を「十分に果たしている」と評価した人は、男性・女性ともに年齢が高くなるほど多くなっていました。

また、皇室に親しみを感じるかとの問いに対して▼「とても親しみを感じている」と答えた人が16%、▼「ある程度親しみを感じている」46%、▼「あまり親しみを感じていない」29%、▼「全く親しみを感じていない」9%でした。

調査は10年前に行われたものですが、当時から、多くの国民が、今の天皇は憲法が定める象徴としての役割を果たしていると考えていたことや皇室に親しみの感情を抱いていたことがわかり、大いに興味を持ちました。


「天皇に対する感情」は、文研が行っている「日本人の意識」調査の中でも尋ねています。平成30年(2018年)の調査では、▼「尊敬の念を持っている《尊敬》」と答えた人が全体の41%、▼「好感を持っている《好感》」36%、▼「特に何とも感じていない《無感情》」22%で、▼「反感を持っている《反感》」0%(0.2%)でした。

こちらの世論調査は、昭和48年(1973年)から5年ごとに実施されていますが、昭和の時代は、《無感情》と答えた人が常に40%を超え、最も多い回答でした。それが、平成になると、《好感》が大幅に増え、平成25年(2013年)の調査から、《尊敬》や《好感》が《無感情》を上回るようになっています。

私は平成の「国体」や「植樹祭」に出席された両陛下の取材を担当したことがあります。そうした「三大行幸啓」(もうひとつは「全国豊かな海づくり大会」)だけでなく、災害の被災地を訪問された際も何回か取材しました。画面を通してですが、南太平洋の島々で戦没者を慰霊するお姿も強く印象に残っています。こうした象徴としてのお務めを伝えてきたことが、平成の「皇室観」につながっているのでしょうか。

では、新しい時代の「皇室観」は、どうなるのでしょう。「令和」の時代に行われる世論調査を通して考えてみたいと思います。

※紹介した論文は、放送文化研究所のホームページに掲載されています(「日本人の意識」の論文は2003年の調査以降)。
冊子でご覧になりたい場合は、国会図書館やお住まいの都道府県立図書館のサイト等で検索・確認していただくか、NHK放送博物館(東京都港区愛宕2-1-1)でも、ご覧いただけます。