文研ブログ

調査あれこれ 2023年10月03日 (火)

メディアは社会の多様性を反映しているか~2022年度調査から② ~テレビニュースでは「名前がない」女性たち~【研究員の視点】#506

メディア研究部(多様性調査チーム) 青木紀美子 小笠原晶子 熊谷百合子 渡辺誓司

テレビの多様性調査の結果を紹介する前のブログ(#505)では、テレビの世界は番組全般をみてもニュース番組をみても「若い女性と中高年の男性」が中心で、人口推計では高齢になるほど女性が多い日本の現実とかなり違いがあることをお伝えしました。それでは年齢以外の側面からみると、女性と男性の取り上げられ方には、どのような特徴があるのでしょうか。

今回は、2022年度に私たちが行った調査のうち、夜のニュース報道番組の登場人物についての分析結果から、女性と男性の取り上げられ方をみてみます。調査の対象としたのは2022年6月と11月のある1週間、平日(月~金)の夜9~11時台のニュース報道番組で話をした、あるいは話が引用された人たちです。なお性別で集計した際に、女性・男性にあてはまらない性自認や性表象の人たちは数がとても少なかったため、今回も女性と男性に絞って比べてみます。

ニュースでは、番組が登場人物を一定の重みをもって取り上げているかどうかをみる材料として、字幕表記などによって名前がわかる立場で登場しているかどうかが1つの指標になると考えました。「名前あり」「名前なし」に分類し、人数を女性と男性に分けて比べてみた結果が下の図です。

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「名前あり」は圧倒的に男性が多く、女性の5倍近くになります。また、男性に絞ってみると、「名前あり」が「名前なし」の2倍以上でした。一方、「名前なし」では女性と男性の差がかなり小さくなりました。そして、女性に絞ってみると、「名前あり」よりも「名前なし」が多いという結果が出ています。

それでは女性と男性はどのような立場で登場しているのか。これをみるために登場人物を職業・肩書別に分類したのが下の図です。女性と男性の人数の偏りが少ない指標を左から順に並べました。

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偏りが小さく、女性の人数が比較的に多いのは「親、家族」「雇員、従業員」「市民、住民、通行人」などです。一方、偏りが大きく、女性の人数が少ないのは「メディア・マスコミ関係者」「学識者、研究者、専門家」「スポーツ関係者」「政治家」「中小企業主、個人事業主」「財界人、企業経営者、役員」などでした。

ここまでの情報をあわせてみると、夜のニュース報道番組に出てくる女性は、いわば「名もなき」市民や雇員として取り上げられる人が多く、これに対して男性は、名前はもちろん社会的権威や決定権がある立場で登場することが多いことがわかります。こうした格差があるのは、なぜなのでしょうか。

これについては、日本では女性の社会進出が遅れているという現実があり、それがメディアに反映されているという側面もあるかもしれません。そこで社会の実態に比べてみるとどうか、格差が大きい職業・肩書の指標と比較可能なデータを探して比べてみたのが以下です。

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3つのグラフそれぞれ一番左側の数字が夜のニュース報道番組に登場した女性の割合、そのほかのデータは総務省などのデータをもとにしています。こうして比べてみると、テレビの世界に登場する「政治家」「学識者、研究者、専門家」「医師」における女性の割合は、社会の実態よりもさらに少ないようです。これは限られた日数のサンプル調査ではありますが、名前の有無、職業・肩書という側面からみても、テレビの世界が社会の多様性を反映しているとは、なかなか言いがたいことを示唆しています。

2回のブログでみたテレビのジェンダーバランスの偏りは何を意味しているのか、また背景には何があるのか。文研フォーラム2023秋 10月4日(水)13時~ 「メディアの中の多様性を問う~ ジェンダー課題を中心に」では、メディアにおける多様性の課題をパネリストとともに考えます。

文研フォーラムの事前申し込みは既に締め切りましたが、その後も多くの方から視聴のご要望を頂いているため、10月4日のフォーラム開催当日にも申し込みも受け付けることにしました。ご関心ある方は、当日、下記リンクからお申し込みください。受け付け後に視聴用URLを送付します。
https://www.nhk.or.jp/bunken/forum/2023_aki/index.html
上記リンクでは、10月10日(火)~12月24日(日)に見逃し配信も予定しています。

2022年度調査結果全体については、「放送研究と調査」10月号で詳しく報告しています。
https://www.nhk.or.jp/bunken/book/monthly/index.html?p=202310

また、これまでの多様性調査チームの調査報告も以下からご覧いただけます。

連載 メディアは社会の多様性を反映しているか① 調査報告 テレビのジェンダーバランス
『放送研究と調査』2022年5月号 掲載

連載 メディアは社会の多様性を反映しているか② 研究発表「テレビのジェンダーバランス」ディスカッションから
『放送研究と調査』2022年8月号

連載 メディアは社会の多様性を反映しているか③ 将来に向けた危機感を問うアメリカの事例と専門家の提言
『放送研究と調査』2023年1月号

放送研究リポート
テレビ出演者のジェンダーバランス~トライアル調査から
『放送研究と調査』2021年10月号

調査研究ノート 海外公共放送とダイバーシティー戦略 "多様性"の指標とは
『放送研究と調査』2021年2月号

調査あれこれ 2023年10月02日 (月)

メディアは社会の多様性を反映しているか~2022年度調査から ①~テレビの世界は「中高年の男性と若い女性」~【研究員の視点】#505

メディア研究部 (多様性調査チーム) 青木紀美子 小笠原晶子 熊谷百合子 渡辺誓司

 誰もが生きやすい、多様な人々が力を発揮できる社会をつくっていくためには多様性の尊重と、公平性、包摂性の実現が欠かせないという認識が広がってきました。では、社会を映す鏡であると同時に、社会のあるべき姿を示す役割も持つメディアは多様性をどう反映しているのでしょうか?それを把握する一つの方法として、私たちは、テレビ番組に登場するジェンダーバランス、まずは女性と男性を中心に調べてみました。

 その前に、総務省の人口推計によると、日本の人口に占める女性と男性の割合は、女性は男性より多く、2022年時点で総人口の51.4%を占めています。

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 一方、テレビに登場している女性と男性の比率は、2022年度の文研の調査では、番組全般で、女性は半分に満たない約4割でした。これは、番組について放送日時や内容、登場人物などを記録したメタデータを使い、6月の1週間、NHKと民放キー局計7チャンネルで放送された全ての番組(映画、アニメ、再放送を除く)を対象に調査したものです。なお番組全般は、エム・データ社の性別分類で分析しています。

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 さらに、NHKと民放キー5局の夜ニュース報道番組(夜9時~夜11時台に放送)にしぼり、6月と11月のそれぞれ5日間(月~金)で、登場した人物を調べてみると、登場する女性の割合は、番組全般の出演者よりも1割程度少なく、約3割を下回りました。

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 次に年代別にみてみます。日本の人口統計では、50代まで男性が女性を上回っていますが、60代以降は女性が男性より多くなっています。

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 しかし、メタデータをもとに分析した番組全般出演者でみると、女性は20代が最も多く、30代以降は減少します。男性は40代がピークで50代以降は減少しますが、60代、70代とも女性より圧倒的に多くなっています。

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 夜のニュース報道番組でも同じような傾向がみられました。女性は19-39歳で最も多く、40歳以降は減少します。男性は40-64歳が最大で、65歳以降は減少しますが、40代以降、女性よりはるかに多くの男性が登場しています。

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 テレビ番組やニュースに登場する人たちは全体として男性に偏っていることがわかりましたが、ある分野では、女性の方が多い、あるいは女性と男性が半々に近い状況がありました。それが、番組の司会者やリポーターです。番組全般では「アナウンサー・キャスター・リポーター」、夜のニュース報道番組では「レギュラー出演者」という指標に分類して数えています。テレビ番組全般、夜のニュース報道番組とも、登場する数は、男女半々に近く、バランスが取れているようにみえます。

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 ところが、番組全般の「アナウンサー・キャスター・リポーター」や夜のニュース報道番組の「レギュラー出演者」も、年代別、年層別にみると、女性と男性の現れ方の違いがみえてきます。
 番組全般、夜のニュース報道番組とも、女性は20代、30代に大きく偏っています。調査からは、明らかに「中高年の男性と若い女性」という構図がみえてきました。

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 私たちは、2021年度からこの調査を行っていますが、2021年度と22年度、ほぼ同じ傾向でした。22年度は、このようなジェンダーバランスのほか、障害の有無や人種的多様性についても、テレビの登場人物をみる分析指標に加えています。調査結果全体については、「放送研究と調査」10月号で詳しく報告しています。ぜひご覧ください。
https://www.nhk.or.jp/bunken/book/monthly/index.html?p=202310

 また、文研フォーラム2023秋 10月4日(水)13時~ 「メディアの中の多様性を問う~ ジェンダー課題を中心に」では、こうした調査データもご紹介しながら、メディアが社会の多様性推進に向けて、果たすべき役割について、パネリストとともに広く考えます。
すでに事前申し込みは締め切りましたが、その後も多くの方から視聴のご要望をいただいておりますので、今回は当日申し込みも受け付けることにいたしました。当日になりましたら、ぜひ下記リンクからお申し込みください。受付後に視聴用URLを送付します。
https://www.nhk.or.jp/bunken/forum/2023_aki/index.html

なお、同時配信を見逃された方は、10月10日(火)~12月24日(日)まで、上記HPで見逃し配信を予定しています。

 

これまでの多様性調査チームの調査報告は以下からご覧いただけます。

連載 メディアは社会の多様性を反映しているか① 調査報告 テレビのジェンダーバランス
『放送研究と調査』2022年5月号

連載 メディアは社会の多様性を反映しているか② 研究発表「テレビのジェンダーバランス」ディスカッションから
『放送研究と調査』2022年8月号

連載 メディアは社会の多様性を反映しているか③ 将来に向けた危機感を問うアメリカの事例と専門家の提言
『放送研究と調査』2023年1月号

放送研究リポート テレビ出演者のジェンダーバランス~トライアル調査から
『放送研究と調査』2021年10月号

調査研究ノート 海外公共放送とダイバーシティー戦略 "多様性"の指標とは
『放送研究と調査』2021年2月号

メディアの動き 2023年09月16日 (土)

【メディアの動き】"ゆっくり北上"台風7号で特別警報,通過後はお盆の新幹線に影響

 台風7号が,8月15日午前5時前に和歌山県潮岬付近に上陸し北上。近畿や東海,中国地方などに大雨をもたらした。特に台風の発達した雨雲がかかり続けた鳥取県では,線状降水帯が発生。気象庁は15日午後4時40分,鳥取県に大雨の特別警報を発表し,最大級の警戒を呼びかけた。

 さらにこの台風は,新型コロナが5類に移行してから初めて迎えたお盆の交通機関に大きな影響を与えた。このうちJR東海は,12日に東海道新幹線の計画運休の可能性に言及。13日には「15日は終日,名古屋駅と新大阪駅の間で運転をとりやめる」と計画運休の実施を発表した。そして,台風通過後の16日は「始発から通常どおり運転する予定」だった。しかし,台風が日本海に抜けたあとも湿った空気が流入し続けた影響で,16日は東海などで雨雲が発達。沿線の大雨の影響で午前8時半ごろから静岡県内で運転を見合わせた。その後,見合わせ区間は広がり,一時は,直通する山陽新幹線を含めた東京駅と博多駅の間にまで拡大。16日の東海道新幹線は,185本以上が運休,240本以上で遅れが発生し,約30万5,000人に影響が出た。ダイヤの乱れは17日の夕方ごろまで続いた。

 専門家によると,今回の台風は進行速度が比較的ゆっくりだった。また,日本海に抜けたあとも湿った空気が台風に向かって流入し雨雲が発達したことなどが特徴といえる。台風通過後も大雨が降り続くという事態はこれまでもあったが,それを的確に予測し交通機関の運行などにどう生かすか,大きな課題を残した。

メディアの動き 2023年09月16日 (土)

【メディアの動き】福島第一原発の処理水,海洋放出開始,中国の猛反発など影響広がる

 福島第一原子力発電所にたまる処理水について,東京電力は8月24日,基準を下回る濃度に薄めたうえで,海への放出を開始した。処理水は,原発事故の直後から発生している汚染水を処理したあとに残るトリチウムなどの放射性物質を含むもので,その量は134万トンと,1,000基余りのタンクで保管できる容量の98パーセントに達し,12年前の事故発生時からの懸案となっていた。放出に先立って東京電力がトリチウムの濃度を確認したところ,国の基準や自主的に設けた基準を大きく下回っていた。

 放出の開始を受けて,福島県内の漁業者などからは風評被害を懸念する声が聞かれた。さらに中国政府が猛反発。放出開始直後に「断固たる反対と強烈な非難を表明する」などとする外務省報道官の談話を発表したあと,税関当局が日本を原産地とする水産物の輸入を24日から全面的に停止すると発表。「福島の核汚染水」という強いことばを使い,「中国の消費者の健康を守り,輸入食品の安全を確保する」と表明した。中国のSNSでは「福島で放射線量が瞬時に上がった」などの根拠のない投稿も拡散した。これに対し,西村環境大臣は記者会見で「事実に反する内容を含む発信には政府として適切に反論を行う(略)科学的根拠に基づいた情報を開示することで,国内外の理解や安心の醸成につながると考えている」などと述べた。

 処理水の放出期間は30年程度に及ぶ見込みで,長期的な安全性の確保と国内外の理解を得ることが課題となっている。メディアにも,この問題に関する正確な情報を長期にわたって伝え続けることが求められている。

メディアの動き 2023年09月16日 (土)

【メディアの動き】NHKのネット活用業務「必須業務化」へ,公共放送WG取りまとめ案まとまる

 8月31日,総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」で,「公共放送ワーキンググループ(WG)」の取りまとめ案が示された。案では,現在は任意業務として行っているNHKのネット活用業務を必須業務とすべきとの方向性が示された。

 また,ネットのみで同時・見逃し配信を視聴する人にも相応の負担を求めることが適当だとした。ただ,パソコンやスマートフォンを保持しただけで対象とするのではなく,ID取得等,視聴意思が明確な行為を前提としている。

 必須業務の範囲は「放送番組と同一のもの」を基本とし,放送番組以外については,1)災害情報等の国民の生命・安全に関わる情報,2)放送番組の密接関連情報・補完情報,に限定。提供の対象は費用負担者を前提としつつ,1)については例外的に非負担者への提供も必要な場合があることに配慮すべきとした。NHKがこれまで無償で提供してきた番組周知のための情報や取材を深掘りしたテキスト配信等の「理解増進情報」は廃止の方向性が示された。

 また,放送番組以外の具体的な範囲や提供条件については,NHKが原案を策定し,評価・検証を第三者機関が実施して,総務相がNHK予算に意見を付し,国会審議で判断されるとした。

 案では,日本のコンテンツ産業が海外事業者との競争に直面する中,NHKには放送全体のプラットフォームの役割が期待されているとしている。今後NHKはどのような姿で,個人の自律的な判断や民主主義社会の発展,日本のコンテンツ産業に貢献していくのか。改めてその役割が問い直されている。

メディアの動き 2023年09月16日 (土)

【メディアの動き】調査報道大賞で『週刊文春』のジャニーズ報道などが大賞に

 8月9日,優れた調査報道を顕彰する「調査報道大賞」が決定した。90の応募作から2つの大賞を含む7つの作品が選ばれた。

 大賞の1つは『週刊文春』の「ジャニーズ事務所・ジャニー喜多川 少年たちへの性加害の一連の報道」だった。この報道は1999年の初報から24年を経ている。調査報道大賞の特徴は,時間がかかっても成果が顕著になった報道を対象としていることで,その典型だといえる。

 授賞理由には「他メディアの沈黙も映し出すこととなり,ジャーナリズムの在り方を考えることにもなった」との記述もあり,大手メディアがこの問題について,最近まで触れてこなかったことに疑問を投じた形となった。

 もう1つの大賞は神戸新聞の「神戸連続児童殺傷事件の全記録廃棄スクープと一連の報道」だった。「遺族との関係を長く結んでいた地方メディアならではの役割を示していることにも注目したい」と評価された。

 映像部門ではNHKの『ETV特集』「ルポ死亡退院~精神医療・闇の実態~」が優秀賞を受けた。精神科病院で患者が不当な扱いをされている実情を描いたもので,映像や音声という内部状況を直接示すものが報道されたことが「格段の意義がある」と評価された。

 また,「データジャーナリズム賞」に,朝日新聞の「みえない交差点」が選ばれた。警察が公開している60万件余りの人身事故に関するデータを分析した結果,「警察も把握していなかった事故多発交差点」を全国各地で発見し,改善へつなげたことが評価された。

メディアの動き 2023年09月15日 (金)

【メディアの動き】バングラデシュ,国際的批判を受け,「デジタル・セキュリティー法」改正へ

 バングラデシュ政府は8月7日,政府批判の取り締まりに乱用されているなどと批判を受けていた「デジタル・セキュリティー法(DSA)」について,「サイバー・セキュリティー法」と名称を変更し,刑罰を一部軽減した内容に改正する方針を明らかにした。

 DSAは,インターネット上で「名誉毀損を行った」者などに厳しい刑罰を科す内容で知られ,施行から2023年1月までに7,001件が適用された。ジャーナリストや人権活動家など,政府に批判的な人たちの抑え込みや逮捕などに用いられてきた。これに対し,国内外のジャーナリスト団体や人権団体が同法の停止や廃止を繰り返し訴えている。今回の改正方針の発表は,2024年1月予定の総選挙を前に,強権的な姿勢が批判されてきたハシナ政権が国際的な圧力に押される形で行われた。

 改正の内容は,▷「名誉毀損」に対する禁固刑を廃止し,罰金刑のみとする,▷「政府の機密を侵害した」罪に対する禁錮刑の上限を14年から7年に短縮する,などで,9月に議会で可決される見通し。ただし,こうした刑罰の軽減は一部にとどまり,ハッキングを行った者に対し最長14年の禁錮刑を科すなど,新たな内容の追加が予定されている。

 ジャーナリスト保護委員会(CPJ)は声明を発表し,今回の改正方針について,「正しい方向への第一歩だ」としながらも,「政府は,サイバー・セキュリティー法の起草にあたり,ジャーナリストと十分に協議し,国際人権法に適合することを保障しなければならない」と警戒感を示した。

メディアの動き 2023年09月15日 (金)

【メディアの動き】仏国際放送,西アフリカを中心に放送禁止相次ぐ

 軍事クーデターが続く西アフリカで,旧宗主国フランスの国際放送FMM(France Médias Monde)が禁止される事態が相次いでいる。2022年以後,マリやブルキナファソに続き,2023年8月にはニジェールでも放送が遮断される事態となっている。

 7月下旬,ニジェールではクーデターにより,軍の部隊がバズム大統領を排除し,軍事政権の発足を発表した。その後,8月3日,FMM傘下の国際テレビ(France 24)とラジオ(RFI)の放送が,ニジェールで遮断される事態となった。仏日刊紙Le Mondeは,新たな軍当局の指令によるものとしている。FMMは同日,法的枠組みからも外れた決定で,地域の市民の,自由で独立した情報へのアクセスを奪う行為だと,強く抗議する声明を出した。FMMによると,ニジェールでは2022年,RFIは毎週人口の18%にあたる190万人が聴取し,France 24は人口の4分の1が視聴している。

 これまでも西アフリカでは,軍事クーデターが発生したマリで,2022年3月,暫定政権がFrance 24とRFIのマリ軍に関する報道は虚偽だとして,両局の国内での放送を禁じた。同様にブルキナファソでも,軍事クーデター後の2022年12月にRFI,2023年3月にFrance 24の放送が相次いで禁止された。さらに8月26日,大統領選挙が行われたアフリカ中部のガボンでも,当局により,France 24とRFIが,選挙関連報道で客観性とバランスを欠いたとされ,一時的に放送が遮断される事態となっている。その後,30日には軍の将校らが権力掌握を宣言し,混乱が広がっている。

メディアの動き 2023年09月15日 (金)

【メディアの動き】生成AI利用・報道基準,米APが公表

 ChatGPTなど生成AIの利用が広がる中,アメリカの大手通信社APは8月16日,生成AIの取材・編集利用についての基準を公表。翌17日,全米の地方紙など多くの英語メディアが参照する報道の手引「AP Stylebook」にも,AIに関わる報道のガイダンスや関連用語を追加した。

 このうちAP Stylebookでは,AIツールについて報じる際に,▷人間であるかのような表現や代名詞は避け,▷開発された目的や機能を説明する,▷その利用によって誰に利益があり,誰が不利益を被る可能性があるかを伝える,▷具体的な根拠を伴わない将来の可能性に関する開発者や企業の発言は慎重に扱い,現実にある課題の取材を優先する,などと勧告している。

 APとしての生成AI利用の基準では,事実を積み重ねて評価・整理し,記事・コンテンツを編集するという記者の中心的な役割に代わりはなく,AIが代替することはないとしたうえで,▷写真や動画,音声の加工・修正に使わない,▷機密情報などを入力しない,▷生成AI作成の情報は未検証の情報と同様に扱う,▷外部からの情報に生成AI作成のものが紛れ込むことを警戒する,などの注意を促している。

 アメリカではこのほか,ラジオ・テレビ・デジタルニュース連盟(RTDNA)が5月,報道機関がAIを利用する際には透明性や情報の正確さを担保する基本方針を明示するよう勧告した。非営利組織Partnership on AIはAI研究者,APや地方紙大手Gannettと協力し,幅広い意見交換の機会も設けながら,AIの利用やツール開発委託のガイドライン案,AIツールのデータベースなどを作成している。

メディアの動き 2023年09月15日 (金)

【メディアの動き】韓国KBS 理事会,社長の解任案提出

 韓国の公共放送KBSの理事会は8月30日,定例理事会においてキム・ウィチョル(金儀喆)社長の解任案を緊急案件として提出し,非公開での議論の結果,9月の臨時理事会で採決することを決めた。キム社長はムン・ジェイン(文在寅)政権下の2021年12月に社長に就任し,任期は3年。理事会は解任の理由として,経営の悪化や偏向報道などを挙げている。

 KBSの理事会は理事長と理事の合計11人。メンバーは韓国放送通信委員会(KCC)の推薦を受けて大統領によって任命され,これまでも時の政権の影響を色濃く反映してきた。ユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領の就任後,政権寄りの理事への入れ替えが進み,8月時点では与党系6人,野党系5人で,キム社長の解任案は賛成多数で採択されるものとみられる。

 ユン政権は,これに先立つ同月25日に放送通信委員会の新しい委員長に,イ・ドングァン(李東官)氏を任命した。イ委員長は,保守系大手紙,東亜日報の記者出身で,イ・ミョンバク(李明博)政権では大統領府報道官などを務めた。イ委員長は28日に行われた就任式の挨拶で,公共放送の運営と内容が労働組合の意思によって左右されていると指摘するとともに,経営陣を含め,公共放送の構造改革に強い意欲を示していた。

 解任案についてキム社長は声明を出して,「KBSは政権が変わるたびに外圧に悩まされてきた。そのたびにKBSの構成員たちは国民とともに公共放送の独立を守るために闘ってきた。与党理事らの今回の社長解任案提出は,こうした努力に真っ向から背くことだ」として批判した。