文研ブログ

メディアの動き 2018年06月19日 (火)

#131 これからの"放送"はどこに向かうのか? ~議論の舞台は再び総務省へ~ 

メディア研究部(メディア動向) 村上圭子

6月15日、「規制改革実施計画(以下、実施計画)」が閣議決定されました。
去年10月にスタートし、メディアでも度々報じられてきた内閣府の「規制改革推進会議(以下、推進会議)」による“放送を巡る規制改革”の議論はひとまずこれで一区切りとなります。

5月29日のブログ(#127)では、「規制改革推進に関する第3次答申」の構成(案)提出のタイミングでその内容に触れましたが、その後、第3次答申が提出され、実施計画も決定しましたので、改めて推進会議が示した具体的な内容を確認すると共に、同時並行で議論が進んできた、放送を所管する総務省の様々な検討会の議論との関係性について触れ、今後の議論を展望したいと思います。

実施計画では、“放送を巡る規制改革”として12の項目が掲げられました。
 


*インターネット同時配信の推進、通信・放送の枠を超えて新たな環境に対応したプラットフォーム・配信基盤の構築
*新規参入の促進
*ローカル局の経営基盤の在り方の検討
*放送事業者の経営ガバナンスの確保
*NHK国際部門の充実・抜本強化
*放送コンテンツの海外展開の支援
*NHKアーカイブの活用
*制作関連の取引、働き方など制作現場の更なる環境改善
*コンテンツ流通の促進
*電波の有効利用
*新たなCAS機能の今後の在り方の検討
*その他(放送政策の在り方についての総合的な点検)



あまりに盛りだくさんな内容なので、私なりに下記にポイントを2点まとめてみました。

推進会議で当初、最大のねらいとしていた、地上放送事業者に割り当て中の周波数帯域を放送事業者以外にも活用の道を開くという“電波の有効利用”については具体的な記載が乏しかった

このテーマは、どの時期を想定するのかで前提とする技術の進展が異なるため、結論もおのずと異なります。
にもかかわらず、関係者間で合意がないまま(合意がとれないまま)、いささか乱暴に議論が進められてしまったことが最大の要因だと思います。
個人的には、地上4Kをどう進めるのか、現在の地上放送のネットワークの将来像をどう描くかといった放送政策の大きなビジョンが議論の俎上にあげられないまま、帯域の技術的な有効活用策(SFN)やハード・ソフト分離といった方法論の議論ばかりが先行したことに違和感を覚えていました。

多くの項目が既に総務省の検討会等でこれまで議論が続いている内容だった

図1にあるように、総務省でも2015年から、通信・放送融合時代の放送の未来像について様々な場で検討が行われており、今回の実施計画で挙げられた同時配信の推進やコンテンツの海外展開や流通促進、製作関連取引、ローカル局の経営などの項目は、まさに検討会の主要課題となっていました。

<図1>
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ただこれらのテーマについて、総務省の検討の場では、課題は共有されているものの本質的な議論になると現行のビジネスモデルの大きな見直しを伴うことや事業者間の利害対立が先鋭化すること等から、議論になかなか進展がみられないことも少なくありませんでした。
今回、実施計画に書き込まれたことで、総務省では今後、踏み込んだ議論が求められることになりますが、既に、実施計画と軌を一にして提出された総務省側の検討会等の報告書案を読むと、これまでには見られない新たな記載が随所になされていることに気付きます。
諸課題検・未来像分科会報告書案

<図2>
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<図3>
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出典:総務省・諸課題検 未来像分科会報告書案(6月5日)

図2・3は報告書案の最後に示されているアクションプランです。
図2の「将来に向けたネットワークの大きな変革への対応」、具体的には地上4K放送の実施の是非について、図3の「地方を含む情報提供体制の確保」、具体的にはローカル局の合理化や再編についてが、今後の議論の大きなポイントになってくると思われます。

最後に図4では、規制改革実施計画と総務省の報告書案から見えてきた、放送を巡る今後の論点を私なりに5つのキーワードを中心にまとめてみました。
今後一層社会的課題が増える日本の民主主義の発展に寄与し、人口が減少し経済が縮小する地域を支える基盤となる“ナショナル・ミニマム”の担い手として、地上放送事業者への期待が大きいことは、推進会議でも総務省の議論でも共通しています。しかし、個々の暮らしをインターネットテクノロジーによってサポートする様々なパーソナルサービスの増大が見込まれる中、“電波の有効利用”というテーマは引き続き問われてくることは間違いありません。今後もこうした公共的なメディアとしての役割を果たし続けていくためにはどのような体制でいくのか、たとえばそれはNHKと民放127社の“共通プラットフォーム”という姿なのかどうか。そしてどのような技術を活用していくのか、放送波による高度化を“将来の伝送ネットワークモデル”の中にどう位置づけていくのか。そして地域におけるメディアとしてのローカル局の役割を維持していくための“経営基盤強化”策をどう考えていくのか。事業者は大きな決断を今後していかなければならないと思います。私も引き続き、このテーマについて考えていきたいと思います。


<図4>
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なお、去年までの規制改革推進会議の議論については、『放送研究と調査』2018年3月号「これからの“放送”はどこに向かうのか? Vol.1」で記しています。どうぞご覧ください。

おススメの1本 2018年06月15日 (金)

#130 アクティブ・ラーニングとメディアとの関係は?

メディア研究部(番組研究) 宇治橋祐之

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アクティブ・ラーニング
という言葉、ご存知でしょうか? 最近の教育界のキーワードの一つです。
教師が一方的に説明をして生徒が聞くだけの講義型の授業ではなく、子どもたちがグループで話し合ったり、調べたことをまとめたり、プレゼンしたりする、アクティブな要素のある授業です。
授業の中で、生徒が進んで学んでいくこと、仲間と話し合いながら学んでいくこと、学んだことをより深く理解していくことは、小学校を中心にこれまでも進められてきましたが、特に高校の授業で取り入れる動きが盛んです。
新たな学習指導要領(小中高校などで教える内容や目標を示した国の基準)に基づく授業が、小学校で2020年度から、中学校で21年度から、高校で22年度から全面実施されます。そこでは「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」という言葉がアクティブ・ラーニングと同様の意味で使われ、重視されています。

『放送研究と調査』6月号「アクティブ・ラーニング時代のメディア利用の可能性 ~2017年度「高校教師のメディア利用と意識に関する調査」から①~」では、高校の授業でのメディア利用の様子とあわせて、「アクティブ・ラーニングの視点にたった授業」での、メディア利用について分析しています。
全日制高校で、「アクティブ・ラーニングの視点にたった授業」をしているという先生は、理科82%、社会83%、国語91%、外国語89%と、調査した教科すべてで8割を超えていました。 
しかし、その際にメディアを利用しているかというと、「パソコン」や「プロジェクター」などの機器について、「いずれのメディア環境も利用していない」という先生の割合は、担当教科によって3割から5割。そして、「インターネット上のコンテンツや動画、静止画」「NHKの放送番組」などのメディア教材について「いずれのメディア教材も利用していない」いう先生も3割から5割という結果でした。
イラストにあるような、先生が「電子黒板」などで課題を動画や静止画で提示して、生徒が「タブレット端末」などで調べたりまとめたり発表したりする授業は、あまり多くはないようです。

そこで、アクティブ・ラーニングの視点にたった授業を「よく実施している」先生と「時々実施している」先生、「何度か実施したことがある先生」で比べてみました。教科によって結果はやや異なりますが、「よく実施している」先生のほうが、「パソコン」や「プロジェクター」などの機器についても、「インターネット上のコンテンツや動画、静止画」「NHKの放送番組」などのメディア教材についても、利用が多い傾向があるという結果を得ました。
アクティブ・ラーニングはメディアを利用しなくてもできるものですが、メディアを使うことで可能性が広がりそうです。

『放送研究と調査』6月号の報告では、他にも授業での「NHK高校講座」、NHK for Schoolなどの利用の様子についても調査結果をまとめています。高校の教室でどのようにメディアが利用されているか、興味のある方はぜひご覧ください。

放送博物館 2018年06月08日 (金)

#129 「減点パパ展」関連トークショーに あの悪役俳優が登場します!

メディア研究部(メディア史研究) 東山一郎

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現在、NHK放送博物館で開催中の企画展「減点パパ+減点ファミリー展」。放送博物館では、この企画展をより楽しんでいただくために、「減点パパ」「減点ファミリー」ゆかりのお二人によるトークイベント「二代目三波伸介と悪役俳優・上野山功一のミュージアムトーク」を6月23日(土)に開催します事前申し込み制)。喜劇役者の二代目三波伸介さんと、1981年に「減点ファミリー」に出演された悪役俳優の上野山功一さんに、出演の思い出や番組の裏話などをお話しいただきます。

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1973年から82年までに440回余り放送された「減点パパ」「減点ファミリー」の〝売り″は、三波伸介さんが描く「似顔絵」と、お子さんがパパ・ママに向けて披露する「作文」の二つ。今回の企画展の〝目玉″でもあります。

企画展に向けて、似顔絵、作文、映像を確認・整理していくなかで、印象に残ったもののひとつに、「悪役もの」がありました。「減点パパ」には、成田三樹夫さん、藤岡重慶さんなど多くの悪役俳優の方が出演されていて、その出演回を私は勝手に「悪役もの」と呼んでいました。「悪役もの」には、俳優の顔と「パパの顔」の違い・ギャップが際立っていること、そして「作文が泣かせる」という特徴がありました。その「悪役もの」のなかで最も印象に残ったのが、上野山さん親子の回でした。プロフィールによると上野山さんは日活と大映の映画で活躍された後、『キイハンター』『太陽にほえろ』『必殺仕事人』『水戸黄門』など民放のテレビドラマを中心に、のべ500回にわたり悪役を演じられたとのこと。当時小学生だった息子さんが悪役俳優のお父さんに向けた作文の次のフレーズに心引かれました。 

・・・テレビでいつも殺されているお父さんを見ていると、少し悲しい思いで下を向いているときもありました。でも、僕ももう大きくなったから大丈夫です。何度殺されても、お父さんは家に帰ってくるから・・・

この作文を読む映像を見ながら、「いい子だな」「いい親子だな」「会ってみたいな」「話を聞いてみたいな」と思っていたことが、今回のトークショーという形になりました(単純ですみません)。

喜劇役者と悪役俳優という異色の組み合わせのトークショー。「減点パパ」「減点ファミリー」の実際の出演者のお話をうかがう貴重な機会でもあります。企画展と合わせて、ぜひご観覧ください!

お申し込みなどについては、NHK放送博物館ホームページをご覧ください。


NHK放送博物館

休館日 :月曜日(月曜日が祝日・振替休日の場合は火曜日休館)、年末年始
入場料 :無料
開館時間:午前9時30分~午後4時30分
所在地 :〒105-0002 東京都港区愛宕2-1-1  
TEL  : 03-5400-6900

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(ホームページはこちら)  


 

文研フォーラム 2018年06月01日 (金)

#128 欧米メディアのマルチプラットフォーム展開

メディア研究部(海外メディア研究)大墻 敦

3月6日、NHK文研フォーラム2018の前日、CNNデジタルワールドワイド上席副社長兼編集長メレディス・アートリー氏アメリカ公共放送(Public Broadcasting Service、以下PBS)テクノロジー戦略担当副社長エリック・ウォルフ氏が、千代田放送会館に到着して、打ち合わせが始まりました。打ち合わせは終始なごやかな雰囲気に包まれ楽しいもので、そこには放送局で働く人間同士の共感がありました。

今や、放送局が自社、他社を問わず多数のプラットフォームを使うのは当たり前になっています。では、どのように管理し、どのように成果指標を設定しPDCAサイクルをまわすべきなのか?メディア業界の人たちの疑問に応えるためにシンポジウムを開催することに決めたのは、昨年12月のことでした。パネリストの選考で考えたのは、さまざまなプラットフォームを用いてニュースや映像コンテンツ配信に積極的に取組んでいる欧米の放送局の責任者に来てほしいということ。CNNのアートリー氏とPBSのウォルフ氏は、ともに、その条件を満たす絶好の人物でした。

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NHK文研フォーラム2018 シンポジウムの様子(3月7日)

シンポジウムの内容の概略は下記のようなものでした。

アートリー氏は「テレビ、新聞、インターネットなどの媒体の壁が消滅し、あらゆるデジタルサービスに対応できるモダン・ジャーナリストが必要。」と述べ、「コントロールできることとできないことを意識すること」などの5つの教訓、データ分析のノウハウ、収益確保の手法などについて報告をしました。

ウォルフ氏からは、公共メディアへの進化を目指すPBSがデジタルサービスだけでなく、全米放送サービスの充実も改めて目指していることについて、子ども向けサービスPBSKIDSを例に報告がありました。
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また、BBCの戦略と2016年に放送サービスを停止しインターネットのみで配信を始めた若者向けチャンネルBBCThreeの成果と課題については、放送文化研究所の田中孝宜研究員から報告が行われました。
そして、放送局のマルチプラットフォーム展開の究極の目的は、オーディエンスとのEngagement(つながり)を高めることでパネリストたちの意見は一致しましたが、その測定は現状では困難であり不可能に近いという認識も示されました。

『放送研究と調査』6月号「シンポジウム 欧米メディアのマルチプラットフォーム展開~アメリカCNNとPBS(公共放送)、イギリスBBCの報告から~」で議論の詳細についてお伝えします。今後も取材を続け、本ブログでもまた取り上げていきたいと思っています。

メディアの動き 2018年05月29日 (火)

#127 放送事業者が考える放送の未来は?

メディア研究部(メディア動向) 村上圭子

5月25日、内閣府の「規制改革推進会議(以下、推進会議)」は、6月初旬に取りまとめ予定の「規制改革推進に関する第3次答申」の構成(案)を発表しました。
この推進会議は、「岩盤のように固い規制や制度に真正面から挑戦」することを旗印に、農林・水産、医療・介護、保育・雇用など幅広い分野を対象に議論が行われており、放送についても去年10月から、「投資等ワーキング・グループ(以下、WG)」内で議論が続けられてきました。
開かれたWGの回数は、これまでで実に26回。推進会議の放送分野に対する力の入りようが伺えます。

では、どのような放送の規制や制度に対して“真正面から挑戦する”内容の答申が出されるのでしょうか。
25日に示された構成(案)では、
 1. 通信・放送の融合が進展する下でのビジネスモデルの展開の方向性
 2. より多様で良質なコンテンツ提供とグローバル展開
 3. 電波の有効利用に向けた制度のあり方
という3項目が示されました。
この答申を受ける形で、今後は放送を所管する総務省が、指摘された既存の規制や制度の見直しを行うことになりますが、3.については既に、総務省の「放送を巡る諸課題に関する検討会(諸課題検)」の「衛星放送の未来像に関するWG」で、地上波キー局系民放やNHKなどが放送を行っているBS右旋においては、新規参入時や5年に一度の再認定時に、これまでは行ってこなかった帯域有効活用の検証を総務省が行うなどの内容が示された報告書(案)が5月18日に出されており、これが1つの出口になるものと思われます。

1.に関しては、3月半ば以降、様々なメディアで報じられ特に民放などからは大きな反発が示された、安倍政権が考えたとされる放送制度改革案の中の放送法4条(放送事業者に政治的公平などを定めたもの)撤廃が盛り込まれるかどうかが注目されていましたが、推進会議の大田弘子議長は4月の会見で、4条撤廃に焦点をあてて議論しているわけではない、との発言を行っており、盛り込まれる可能性は低いようです。

ただ安倍総理が国会で示した、放送もネットも「見ている人にとっては差がなくなった」との指摘については、今後の通信のテクノロジーの進展も考えると、“長期的”にはそのことを想定した議論も行うべきだと考えます。
その際には、
 ・ “長期”をいつに設定するかによって議論は大きく変わること、
 ・ これまで使ってきた幅広の“放送”の定義を位置づけ直し、定義についての共通認識を持つこと、
 ・ 国民や社会にとっての未来のメディアのあるべき姿から考えて放送の未来を導き出すこと、
これらの議論の前提がなければ、建設的な議論にはならないのではないかと思います。
安倍政権が考えたとされる放送制度改革案も、そして一連の規制改革推進会議における議論も、このあたりの丁寧さがいささか欠けていたのではないか、取材を通じてそのような印象を持っています。

放送の未来については、先に触れた総務省の諸課題検でも2015年11月から議論が続いています。
今年1月末からは、推進会議の議論と平行する形で「放送サービスの未来像を見据えた周波数有効活用に関する検討分科会」が開催され、5月22日に報告書骨子案が示されました。
その中には、放送の未来像に関する「中長期的な考え方(案)」として、「将来に向けたネットワークの大きな変革への対応」「ネットとの本格的な連携」などこれまで以上に踏み込んだ記載がなされると共に、議論においては、「社会的課題の解決が大きく求められる中、放送メディアの役割はこれまで以上に重要ではないか」という指摘がなされました。
放送事業者は、通信テクノロジーの進展を前提とした大きな変革と公共的なメディアとしての役割の再定義を行うべきである・・・傍聴をしていて、総務省や構成員達の強いメッセージを感じました。

内閣府の推進会議も総務省の諸課題検も、今、取りまとめに向けて最終局面に入っています。
これらの取りまとめを受け、これから放送事業者は自ら未来像を描いていかなければなりません。
少子高齢化や経済の縮小化が進む中で、厳しい合理化にも向き合っていかなければならないでしょう。
通信サービスに活用する帯域が増えていく中、放送用に割り当てられた帯域を十分に活用しきれているか、これまで以上に厳しい目が注がれていくことにもなるでしょう。
そして、リアルタイムでテレビを視聴する人たちが減っていく中においても、信頼されるメディアであり続けるためには、どのようなサービスが求められていくのでしょうか。
放送事業者の考える放送の未来像についてこれからも取材し続け、当事者としてもこの問いに向き合っていきたいと考えています。

文研のホームページでは新たに、3月8日の「NHK文研フォーラム2018」で行った、民放連の井上弘会長との対論の詳細を掲載しました。放送の未来像を考える一助になれば幸いです。
また、去年までの規制改革推進会議の議論については、『放送研究と調査』2018年3月号「これからの“放送”はどこに向かうのか? Vol.1」で記しています。
今回から、新サービスの動向を整理した表についてはホームページのみでの掲載とさせていただいています。併せてご活用ください。

放送ヒストリー 2018年05月25日 (金)

#126 NHK編集・発行放送史の視点と変遷

メディア研究部(メディア史研究) 吉田 功
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上記の4冊はすべて、NHKが戦後になって編集・発行した『放送史』です。どれも1000ページを超える「大著」。最も新しい『20世紀放送史』(右下・2001年刊)は、「上巻、下巻、資料編」で、総重量6.3キロにもなります。
お恥ずかしいことに、私がこれらを初めて目にしたのはNHKに入局して10年以上たってから。「テレビ放送開始50年特別番組」の制作支援を命じられ、これらの分厚い本を手にしました。

読み始めてみるとなかなか面白い。例えば、『日本放送史(25年史)』(左上・1951年刊)には、「(ラジオは)全家庭を講演場として知恵の美果を贈り、或いは全家庭を劇場として愉楽の泉に導いた」とあり、当時、ラジオが最先端の「エンターテインメントツール」だったことがわかります。また、『放送五十年史』(左下・1977年刊)は、オイルショック、公害が深刻になっていた時代を色濃く反映しており、放送(ラジオ、テレビ)による「情報」の氾濫は、国民にとって「情報公害」だと厳しい批判を浴びている、とまで書いています。時代によって、放送の受け止め方は大きく変わるんだなあと、そのとき痛感したことを覚えています。

さて、「歴史」と聞くと、「昔の話なんだから変わるはずはないだろう」というお考えもあるでしょう。
確かに過去の出来事が変わることはありません。しかし、誰が、いつ、その過去を見つめるかによって、そのイメージやとらえ方は違ってくると考えられます。たとえば江戸時代を例に考えてみます。100年前(大正7年)においては、古くさい封建主義の時代で “乗り越える”べき過去だと考える日本人は多かったと思われます。100年後(2118年)の日本人にとっては、逆に地域社会の絆が生きていた共生社会の時代ととらえられ、“学べる過去”と映るかもしれません。
歴史のとらえ方は、時代によって大きく変わると考えられます。歴史学ではこれを「まなざし」、「歴史観」、「視点」といったりするそうです。そこで、『放送研究と調査』5月号に掲載した「NHK編集・発行『放送史』の歴史的視点と変遷」では、それぞれの時代の「放送史」をひもといて、それぞれの時代における、放送へのまなざし、とらえ方に近づこうとしています。

インターネットを含めたこれからの新しいメディアを考える上で、これまでラジオとテレビが歩んできた歴史を検証することは欠かせないと私は思っています。最先端のメディアであった放送が成し遂げたこと、またできなかった課題を洗い出すことは、次世代にとって本当に有用なメディアを創る手かがりになると考えるからです。それには、まず、先人がどんな視点をもって放送というメディアを見ていたのかを知ることが、その第一歩になるのではないかと考えました。
東京・芝浦にあった社団法人東京放送局が日本におけるラジオの第一声を発したのが、1925年。それから間もなく100年がたとうとしています。ここであらためて、放送というもの役割、存在を見つめ直すきっかけになればと願っています。

メディアの動き 2018年05月18日 (金)

#125 スマホは媒体と場所を選ばない

メディア研究部(メディア動向) 関谷道雄

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『放送研究と調査』5月号に掲載した「越境するローカル 交錯するメディア」は、放送、新聞、そしてプラットフォームの3つの業種を8か月かけて取材を進め、執筆しました。脱稿後、取材にご協力いただいた方々に弊誌を送付したところ、「結構幅広いテーマだったんだね」という趣旨の感想が複数寄せられました。弊誌は、放送を中心とした調査研究の専門誌です。放送がメインテーマなのは当然ですが、今回はプラットフォーム活用の視点を縦軸に、放送と同じ既存メディアとして新聞を取り上げました。若年層を中心にしたテレビ離れ、さらに新聞離れが指摘されて久しいですが、スマホのユーザー側から見れば、スマホ上では、プラットフォーム、放送、新聞の差異はどんどん小さくなっているように見えます。私自身、スマホの購入は2010年ごろと周囲を見回しても比較的早いほうで、以来、スマホを中心に放送、新聞に接し、スマホが媒体を選ばなくなりつつあることを実感してきました。その一端が本稿で取り上げたラジオによる文字情報の積極活用と新聞による動画展開です。

また、プラットフォームの伸張に伴い、放送、新聞両媒体の関係者の間では、「どのように活用して、収益に結び付けるか」という議論が活発化しています。収益化の話は難しく、軽々にその議論には入れませんが、深刻なテレビ離れ、新聞離れを背景に、両媒体の関係者の危機感は年々強まっているように見えます。

その一方で、プラットフォーム展開をチャンスと捉える関係者も出ています。本稿では取り上げませんでしたが、沖縄戦のデジタルアーカイブコンテンツを制作した沖縄タイムス社デジタル部記者の與那覇里子氏は「スマホは場所を選ばない。地方の課題を全国の俎上(そじょう)に載せることができる」(『新聞研究』2016年3月号P57)と、収益化に悲観的な見方とは対照的に、積極的にスマホに活路を見出そうとしています。與那覇氏の意見は「我が意を得たり」でした。放送、新聞とも企業としてプラットフォーム、スマホに対応して、収益化を図り、存続させるというテーマは、今後さらに重要性を増していきます。それでも放送、新聞のうち、ローカル局、地方紙という地域社会を担うメディアは、與那覇氏が指摘したチャンスという視点もあわせ持つ必要があるように思います。

調査あれこれ 2018年05月11日 (金)

#124 トランプ政権1年 日米同時世論調査から

世論調査部(社会調査) 吉澤千和子

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世界に衝撃を与えた2017年1月のトランプ政権の発足から1年3ヶ月あまりが経ちました。メキシコ国境に壁を建設して移民の規制を強化する方針を打ち出したり、TPP=環太平洋パートナーシップ協定から離脱したり、さらには鉄鋼製品などの輸入制限措置、初の米朝首脳会談を行う意向表明など、トランプ大統領にまつわるニュースを目にしない日はないかもしれません。

先月、フロリダで日米首脳会談が行われました。一緒にゴルフを楽しみ親密さを示した両首脳、北朝鮮に非核化に向けた行動を求めることでは一致しましたが、経済や貿易の問題では、自国の利益を優先する姿勢を鮮明にしているトランプ大統領が日本との間の貿易赤字削減に強い姿勢を示し、今後厳しい交渉となることも予想されます。

私たちの暮らしに大きな影響を与えるトランプ大統領の政策や言動について、アメリカや日本の国民はどう見て、今後についてどう考えているのでしょうか。NHKでは就任1年を前にした去年12月にアメリカと日本の両国民の意識を探る日米同時世論調査を実施しました。

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■トランプ大統領に良い印象を持っているのはどんな人?

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トランプ大統領に良い印象を持つ人は、アメリカで3人に1人、日本では5人に1人と多くはありません。
では、アメリカでトランプ大統領に良い印象を持っているのはどんな人なのでしょう?まとめると下の表のようになり、共和党を支持する白人の男性で、地方に住み、年齢は40歳以上の中高年、そして年収の高い人たちとなります。
逆に、トランプ大統領に悪い印象を持っているのは、民主党支持層、黒人、女性、都市在住者、若年層です。 

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■アメリカ第一主義は支持されているの?

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トランプ大統領がスローガンに掲げるアメリカ第一主義をどう思っているかについても聞きました。日本では3人に2人が良くないと思っていますが、アメリカでは6割の人が支持しています。アメリカでは、トランプ大統領へは悪い印象を持つ人が多い一方で、アメリカ第一主義については、多くの人が支持しています。

このほか、調査では「アメリカは分断が深まったと思うか」や「アメリカは世界で指導的役割を果たすべきか」「北朝鮮問題の解決方法」「日米関係の展望」なども聞いています。詳しい分析結果は『放送研究と調査』5月号 に載っていますので、ぜひご一読ください。

放送ヒストリー 2018年04月27日 (金)

#123 「災害報道」の後に残された"モノ"の意味 ~特別展「東日本大震災」を振り返る~

メディア研究部(メディア動向) 入江さやか
メディア研究部(メディア史研究) 東山一郎

2011年の東日本大震災の災害報道に関わったNHKの各放送局や職員の手元には、取材のメモや写真など多くの資料が残されました。これらの資料は、未曾有の大災害の報道の背景を伝える貴重な「記録」であり、「記憶」でもあります。NHKではこれらの資料を収集、時系列・項目別・地域別にアーカイブ化し、 昨年NHK放送博物館(東京都港区)で開催した特別展「東日本大震災 伝え続けるために(2017年3月7日~9月10日)においてその一部を公開しました。
こうした取り組みはNHKでは過去に例がありません。そこで、特別展の概要と開催までの経過を総括した「災害報道資料のアーカイブ化と活用の試み」『放送研究と調査』4月号に掲載しました。

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NHK放送博物館で開催された特別展の会場

一口に「災害報道の資料の収集」と言っても、収集を始めた時点で大震災から5年近くが経過しており、容易な作業ではありませんでした。記者・キャスター・カメラマンなどに広く資料の提供を呼びかけたほか、仙台局・盛岡局・福島局に直接足を運び、居室から地下の倉庫まで、時にはホコリにまみれながら「探索」しました。

「特別展」では、東日本大震災の発生した瞬間をとらえた各地の映像、取材にあたった記者やカメラマンの手記、被災地の取材前線の「引き継ぎメモ」に記された若い記者の思い、被災地などからNHKに寄せられた救援を求めるFAX、東京電力福島第一原発事故の状況を解説するためにスタジオで使用した模型など、約100点を展示しました。
特別展開催期間中の放送博物館の来場者は6万4,952人。特別展についてのアンケートを実施したところ、3,360人から回答をいただきました。「印象に残った資料や展示物は何か」という問いに対しては「東日本大震災大震災発生時の映像」25%で最も多く、次いで「被災地の写真と記者・カメラマンの手記」12%「記者の取材ノートやメモ」が9%でした。
アンケートの自由記述を整理すると、震災の記憶の風化を懸念し「これからも伝え続けてほしい」という趣旨のコメントが60件以上ありました。また、同様の展示を「全国で」「常設化して」という意見も目立ちました。

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特別展は昨年9月に閉幕しましたが、2018年2月にオープンしたNHK仙台放送局の新放送会館に設けられた恒久的な「東日本大震災メモリアルコーナー」にその一部が活用されています。さらに5月6日までは企画展「東日本大震災を伝え続けるために」も開催されています。

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NHK仙台放送局での企画展(5月6日まで)

「放送」、その中でも「報道」は、常に新しいものを追いかける仕事であるだけに、過去の資料の大半が置き去られ、消え去っていきます。しかし、それらの中にも見る人の心に響くものがあるということを私たちは学びました。
東日本大震災から7年。「伝え続けてほしい」という多くの人々の声にどのように応えていくか。これからも模索を続けていきます。

放送ヒストリー 2018年04月20日 (金)

#122 ドキュメンタリーの「作品性」 

メディア研究部(メディア史研究) 宮田 章

テレビ番組には作品性が濃いジャンル薄いジャンルがあります。

たとえばドラマは作品性が濃いジャンルです。ドラマの1カット1カットは基本的にすべて、作り手(俳優を含む)の思惑が映像・音声として具現化したもので、まぎれもない作り手の産物(作品)です。ドラマ作品を支えているのは作り手の優れた技巧(創造力)に裏付けられた表現としての魅力です。一片のフィクション(虚構)であるドラマが、現実、あるいは現実に取材した番組に伍していくためには、表現としての独自の魅力が必要です。ドラマの作り手に現実の取材力は求められませんが、魅力的な虚構を構築する創造力は必須です。

反対に、ニュースは作品性が薄いジャンルです。ニュースの中身は、ニュース記者の思惑とは関係なく存在している事実・現実です。ニュース記者の仕事はこれをできるだけ客観的に記録して人々に伝えることです。ニュースは作品ではなく記録であり、原理的に言えば、個々のニュースは、それが記録した事実の力以外に表現としての魅力をもつ必要はありません。ニュース記者に取材力は必須ですが、創造力はむしろ抑制の対象です。

では、ドキュメンタリーはどうでしょう?
結論から言うと、ドキュメンタリーはドラマのように「作品」でもあり、ニュースのように「記録」でもあるという、「どっちつかず」あるいは「どっちもあり」のジャンルです。ドキュメンタリーの作り手がいくら作品を作ろうとしても、取材対象である現実は、作り手の思惑とは違う、あるいは作り手の思惑を超えたものを必ず含んでいます。つまり、現実に取材して得た映像や音声は必ず記録性を帯びます。逆に、作り手がいくら記録を標榜しようと、ドキュメンタリーは、その作り手が(しばしば意識せずに)依拠している視点や手法の産物であることから逃れることはできません。つまり、得られた映像・音声は必ず作品性を帯びるのです。作品性と記録性が混在し、常にせめぎ合っているジャンル、それがドキュメンタリーです。

筆者(宮田)は、作品性と記録性がせめぎ合うところから生まれる、ドキュメンタリー独特の現実表現に強い魅力を感じます。ドキュメンタリーの魅力は多彩です。作品性より記録性が勝るタイプ、反対に、記録性より作品性が勝るタイプ、いずれのタイプにも多くの秀作、傑作が存在します。過去のドキュメンタリーを見ていると、この作品性と記録性のバランスは、テレビドキュメンタリーが誕生した1950~60年代から、同時録音技術が普及した70年代、そして現代に至る大きな時間の流れの中で、ゆっくり変化しているように感じます。

『放送研究と調査』4月号に発表した論考(「データから読み解くテレビドキュメンタリー研究」)は、作品性と記録性のせめぎ合いの一端を、数量的データを用いて可視化する方法を示したものです。興味を持たれた方はご一読ください。

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