文研ブログ

調査あれこれ 2018年12月07日 (金)

#157 ラプソディと「リアル」

世論調査部(視聴者調査) 保髙隆之


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いま話題の映画「ボヘミアン・ラプソディ」、ご覧になりましたか?

私は公開直後にドルビーアトモス版を鑑賞。ラスト20分あまりのライブシーンは圧巻でした。(余談ですが、懐かしさのあまりクイーンが過去に楽曲提供した「フラッシュ・ゴードン」(オープニング「だけ」は最高!)や「ハイランダー/悪魔の戦士」といった作品のBDを久しぶりに奥から引っ張り出しました。)

さて、場内が明るくなった後の客席の空気感から、私が思い出したのが「シン・ゴジラ」と「カメラを止めるな!」。いずれもSNSを通じての情報拡散が大ヒットにつながったとされる映画ですが、個人的には、上映後の観客たちの「一体感」、まさにこの日のこの上映回を共有したという実感があり、作品それ自体はもちろん、劇場での体験こみで楽しんだ作品でした。よくマーケティングでいわれる「リアル」イベントの価値とは、こういうことなのだろうな、と肌感覚で納得したものです。(それぞれの作品で「応援(発声)上映会」が話題になったのも偶然ではないと思います。)

この「リアル」という価値、私がこの1年あまり携わってきた研究で、大学生たちから何度も聞いたキーワードでした。

研究の一環で、10代後半から20代のみなさんに話を伺ったのですが、テレビとSNSの情報を比較したときに、「テレビで放送されている内容はどうせテレビ局に都合のいいように編集されていそうでリアルさを感じない」。一方、「SNSからの情報は当事者の生の声なのでリアルに感じる」「自分が知っている(逆に自分のことを知っている)人と共有した情報はリアル」といった声が共通して聞かれました。例えると、SNSからの情報は産地直送の生の食材で、調理をするのも自分自身なので「リアル」。テレビからの情報はどんな人が間に入って調理したか分からない加工品として届けられるから「非リアル」、といった“イメージ”があるようでした。そして自分にとって「リアル」な情報を共有できるSNSは「自分たちの側のメディア」で、テレビは「あちら側のメディア」である、と、テレビ局の人間としては耳の痛い発言をする若者もいました。こういったテレビに対する微妙な距離感は、利用時間の比較だけでは分からないものです。あらためて、いまの若年層のメディア利用行動と情報に対する意識の関係を世論調査で探りたいと思いました。

そんな「情報とメディア利用」世論調査の結果を、『放送研究と調査』12月号文研のホームページで報告しています。はたして若年層の情報観やニュースの入手先の特徴とは? ぜひ、ご一読ください!

おススメの1本 2018年11月30日 (金)

#156 大阪府北部の地震で飛び交った流言・虚偽情報

メディア研究部(メディア動向) 福長秀彦


2018年は「大阪府北部の地震」(6月)、「西日本豪雨」(7月)、「北海道胆振東部地震」(9月)と大きな災害が続きました。そのたびに、事実の裏づけがない情報が飛び交いました。
このうち大阪府北部の事例を『放送研究と調査』11月号で分析しました。
事実の裏づけがない情報は、「デマ」と総称されていますが、厳密に言うと、思い込みや疑いなどによる根拠のない情報が人びとの動揺や不安などによって拡散するのが「流言」、誹謗ひぼう中傷など悪意のウソによる虚偽情報が「デマ」と定義されています。流言にはデマのよぅな作為性はないとされています。

大阪府北部の地震では、「京阪(電鉄)の電車が脱線」、「京セラドーム大阪の屋上に亀裂」、「シマウマ脱走」などの事実無根の情報が拡散しているのがTwitter上で確認されました。

 京セラドーム大阪
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(注)2018年8月10日に筆者撮影

「京阪脱線」のキーワードでTwitterの投稿を検索してみると(Yahoo!リアルタイム検索等を使用)、地震が発生した直後に投稿されたツイートは「脱線するかと思った」「脱線したかと思った」というものでした。ところが、しばらくすると「脱線したの?」という疑問形のツイート、続いて「脱線しているらしい」という推測のツイートが増えてゆきます。やがて、「脱線した」という確定的な表現の投稿が現れました。この例は、事実の裏づけがない情報が人びとの動揺や不安によって変容しながら拡散してゆく「流言」と言えるのではないでしょうか。
「シマウマ脱走」のツイートは明らかに虚偽情報ですが、悪意によるデマというよりは悪ふざけの「フェイクニュース」に当たると思います。熊本地震の際の「ライオン逃げた」のツイートと同様に、まったく無関係の画像が添付されていました。

「シマウマ脱走」の虚偽情報などに注意を呼び掛けるNHKニュース(6月18日放送)
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(注)画像はツイートに添付されていたもの

流言や虚偽情報(デマ、フェイクニュースなど)はTwitterなどのSNSによって瞬時に、そして広範囲に拡散し、拡散する様子がリアルタイムで可視化されます。災害時の流言や虚偽情報の中には、人びとの安全に係わり、迅速に拡散を抑制しなければならないものが多くあります。大阪府北部の地震以降、自治体や警察は「事実と異なる情報に注意し、確認されていない情報をむやみに拡散しないように」と積極的に呼びかけるようになっています。また、NHKなどメディアが事実無根の情報を打ち消す報道をすることも多くなりました。

マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究グループによると、Twitter上で虚偽情報が伝わるスピードは正しい情報よりもはるかに速いということです。流言についても同じことが言えるのではないでしょうか。SNS時代の流言や虚偽情報をどう抑制すべきか、緊急時コミュニケーションの重要なテーマであると思います。

調査あれこれ 2018年11月23日 (金)

#155 近づく!2020年東京オリンピック 見たい競技は何ですか!?

世論調査部(視聴者調査) 斉藤孝信


2018年も残すところ、ひと月余り。開催決定の頃には「まだ先の話」と思っていた2020年東京オリンピック・パラリンピックも、いよいよ近づいてきましたね。
皆さんは、2020年の東京オリンピックで、どんな競技の観戦を楽しみにしていますか?
文研が2018年3月、全国の20歳以上の男女3600人を対象に実施した「2020年東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査」では、リオデジャネイロ五輪で日本選手が上位入賞した競技や、東京五輪から正式種目となる競技、開閉会式など合わせて25の中から、「見たい」と思うものをいくつでも選んでもらいました。
上位10競技はご覧のようになりました。

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「体操」が69%で最も多く、「陸上競技」も約6割。「競泳」「開会式」「卓球」は約半数の人が見たいと回答しました。
こうみますと、リオデジャネイロ大会で日本勢がメダルを獲得した競技が多いですね。「東京でもぜひメダルを!」と熱望する皆さんの声が聞こえてくるようです。
どうですか?あなたが「見たい!」と思う競技はたくさん入っていましたか?
この調査は2020年の東京五輪まで続ける予定ですが、今後、各種目の代表選手が決まったり、ラグビーのワールドカップやサッカーのアジアカップなども行われたりする中で、「見たい競技」の順位や割合がどう変化していくのか。あるいは(少し気が早いですが)大会終了後、皆さんが「見た」と答える競技はどんなものになるのか。今から楽しみです。

というのも…。
今回紹介する2018年3月調査は、韓国・ピョンチャンで行われた冬季五輪の直後だったので、同五輪でどんな競技を「見た」のかを尋ねました。それを開催前の2017年10月に尋ねた「見たい競技」と見比べると、とても興味深いのです!!
本編を楽しくお読みいただけるように、クイズ形式で!

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「見たい」「見た」人が2割以上となった競技を並べてみました。
黄色で塗った「あの競技①」は、事前の「見たい」でも、事後の「見た」でもトップでした。皆さん、おわかりになりますでしょうか。多くの人がメダルを期待し、期待通りに(いや、期待以上だったかもしれません)メダルを獲得してくれた、そう、「あの競技」です!
一方、見比べて面白いのが、緑の「あの競技②」。事前調査では「見たい」が25%だったのに、大会後には70%もの人が「見た」と回答しました。わかりますか?ヒント。女子チームがメダルを獲得し、競技中のやりとりで彼女たちが口にした言葉が流行語にもなった、「あの競技」です。

この「あの競技②」以外にも、スピードスケートも「見たい」37%→「見た」70%、スノーボードも「見たい」29%→「見た」50%と大きく増加していました。日本勢の活躍やメダル獲得に加えて、決勝戦などが連日、テレビなどのメディアで大きく取り上げられたことも寄与しているのではないでしょうか。(かく言う私も、ほとんど知識もなかったスノーボードの迫力とカッコよさに魅せられ、夢中で応援した一人です。)

そう考えると、2020年東京五輪でも、事前の「見たい」が、実際にはどこまで「見た」になるのか。楽しみです!
特に、2020年東京大会から正式種目となる「野球・ソフトボール」「スポーツクライミング」「空手」「スケートボード」「サーフィン」にも注目しています。

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17年10月調査、18年3月調査とも、野球が4割あまり、その他の4競技は2割未満でした。今後、競技や選手への注目が高まる中で、どの競技もどんどん「見たい!」と思う人に増えていってほしいですね!
詳細な分析結果は、『放送研究と調査』11月号で、詳しくご報告いたします(クイズの正解もぜひチェックしてみてください!)。どうぞお楽しみに!

調査あれこれ 2018年11月16日 (金)

#154 パラリンピックに対する障害者の受け止めは⋯

メディア研究(メディア動向) 大野敏明

2020年の東京パラリンピックまであと2年を切りました。
NHKのみならず、民放の番組やCMなどにも「パラアスリート」が登場する機会、増えていますよね。

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この写真に写っている、バトンを次の選手に渡そうとしている左端の女の子。実は大活躍するあの有名なパラアスリート!

…ではなく、知的障害がある私の姉なんです。もう40年以上も前、養護学校(今でいう特別支援学校)時代の運動会での様子です。
姉は学校一と言えるくらい足が遅くて、とても「パラアスリート」になれるような器ではありませんでしたが、一生懸命ゴールに向かう姿には、弟ながらウルッとしたことを覚えています。


ところで、皆さんの周りには障害がある人っていますか?
町で障害者に出会ったら、どんなふうに思いますか?


小さい頃、姉と一緒に歩いていると冷ややかな目で見られたり、心無い言葉を投げかけられて母親が猛然と抗議したりすることがしばしばありました。
姉に対して、幼い私はシンプルに「何も悪くないのに、かわいそうだなぁ」と思う反面、友達に姉のことをからかわれたりすると「恥ずかしい」と思ったり、「人に知られたくない」「障害がない姉ならよかったのに」と思ってしまったことが何度もあります。正直言えば、今だってほんの少しはあります。
そんな自分は心底最低だなと反省しながらも、ダメな自分に少しでも気づかせてくれる姉は、今思うと人生の中で最も影響を受けた人かもしれません。実際、仕事でこんな原稿を書いているわけで。

と、個人的な話はさておき、子供の頃に比べると、近頃は随分と周囲の目が温かくなったように感じます。障害者に対する人々の意識の変化…要因はいろいろとあるかと思いますが、パラリンピックもそのひとつではないでしょうか?

文研が実施した世論調査の中で、パラリンピックなどの障害者スポーツについて感じることを聞いたところ、「選手の頑張りに感動する」(70%)、「障害者への理解が深まる」(43%)など、障害者への共感や理解が深まるという意見が多く見られました。そういった意味でも、2020年の東京パラリンピックを機に、障害者の存在をメディアが大きく取り上げることには、大きな意義があると思います。

しかし一方で、障害がある人たちは、このパラリンピックをどう受け止めているのでしょうか?
文研では3月に開催されたピョンチャンパラリンピックの直後、前述の世論調査と並行して、障害者を対象にしたWEB調査を実施しました。パラリンピックに対する声の一部を紹介すると…

「困難を乗り越え競技に取り組む選手たちに感動。自分も出来ることから始めようと思った」(視覚障害)
「前向きな気持ち、チャレンジ精神を思い出せてくれた」(肢体不自由)

こんな風にポジティブな声がある反面、実はネガティブな声も。

「障害者はスポーツをするものだという偏見を植えつけて、とてもウザイ」(肢体不自由)
「聴覚障害者の五輪、デフリンピックも放送してほしい」(聴覚障害)
「メディアのお祭り騒ぎでしかない」(視覚障害)

ひと言で「障害者」と言っても、障害の種類や重さ、発症時期、現在置かれている状況などなど、背負っているものはもちろん人それぞれ違います。パラリンピックやメディアに対する思いもさまざまで、前向きに捉えている人もいれば、そうでない人もいます。
寄せられた声のひとつひとつに、当たり前だけれども大切な「多様性」について改めて気づかされ、同時に、まずはこういうことを包み隠さずに、自由に話せるような社会になることこそ大事なのではないかと考えさせられました。

こうした障害者の皆さんの声を、『放送研究と調査 』11月号にまとめて掲載しました。世論調査の結果も掲載されていますので、お時間がある時に是非ご覧ください。

ちなみにうちの姉、スポーツには全く興味がないようで、もっぱら歌番組ばかり見ています。そういう私もまぁ似たようなもので、宮本浩次×椎名林檎や松任谷由実、あいみょんの出場が決まったばかりの紅白歌合戦、今から楽しみでしかたありません。姉の影響ですかね。

おススメの1本 2018年11月09日 (金)

#153 いのちを守る「黄色いタオル」 ~2017年九州北部豪雨・2018年西日本豪雨の避難行動を考える~

メディア研究部(メディア動向) 入江さやか

■  西日本豪雨 高齢者中心に避難の遅れ 

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写真1 岡山県倉敷市真備町上空からの映像(NHK・2018年7月7日)

7月に発生した「西日本豪雨(平成30年7月豪雨)」では、岡山県・広島県・愛媛県などで死者・行方不明者が232人にのぼりました(2018年10月9日現在)。特に岡山県倉敷市真備町では、町内を流れる小田川などの中小河川が氾濫し、地区の3分の2、住宅約4000棟が浸水(写真1)。51人が亡くなり、その9割が高齢者でした。倉敷市が避難勧告や避難指示を発表したのは7月6日の午後10時以降で、周囲の状況がわからない夜間に大量の水が押し寄せ、避難が遅れたのが原因とみられています。

図1は2017年に倉敷市が作成した真備町の「洪水・土砂災害ハザードマップ」(部分)です。紫色で示された部分が、河川の氾濫で浸水すると想定されていた区域です。これは西日本豪雨で浸水した地域とほぼ一致しています。しかし豪雨のあとの内閣府のヒアリングに対して、住民は「ハザードマップでは自宅周辺まで浸水することを明示していたが、現在は河川改修がなされたこともあって『超えないだろう』と油断していた(原文ママ)」と話しています。

西日本豪雨によって「地域の災害リスクの認知」と「高齢者などの迅速な避難」という課題が改めて浮き彫りになりました。現在、内閣府に有識者のワーキンググループが設置され、対策が検討されています。

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図1 倉敷市真備町の「洪水・土砂災害ハザードマップ(部分)」

■  高齢化率41.9%の村で起きたこと

こうした課題に、すでに地域ぐるみで取り組んでいた村がありました。
NHK放送文化研究所では2017年7月の「九州北部豪雨」で被災した福岡県朝倉市・東峰村、大分県日田市の20歳以上の男女2,000人を対象に世論調査を行いました。このデータを改めてみてみると、興味深いことがわかりました。

調査の対象とした3自治体のうち、東峰村は人口約2,000人の小さな山村です。福岡県内で最も高齢化が進んでおり、高齢化率は41.9%(2018年4月1日現在)となっています。ところが、豪雨災害が起きた2017年7月5日に東峰村にいた人のうち42%もの人が、自宅や職場などから安全な場所へと避難していました。さらに避難したタイミングのデータをグラフにすると、立ち上がりが他の2つの自治体に比べて2時間ほど早いように見えるのです(図2)。九州北部豪雨の死者・行方不明者は42人でしたが、このうち東峰村は3人でした。


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図2 立ち退き避難をした時間帯(7月5日午後0時~11時)


■幸福の「黄色いタオル」

これはいったいなぜなのか? 東峰村に取材したところ、その「秘密」の背景がわかりました。豪雨災害に備えて、2015年から毎年村ぐるみの防災訓練を毎年繰り返し、「いかに高齢者をスムーズに避難させるか」に注力していたのです。昨年の九州北部豪雨のちょうど10日前に行った訓練には、村民の半数にあたる1,050人が参加。高齢者の避難を手助けするサポーターを決めておき、実際に避難経路の確認もしていました。

訓練では、迅速な避難を促す東峰村独自の「自分のいのちを災害から守る7か条」が書かれた黄色いタオルが全員に配布されました(写真2)。自宅を離れて避難する時には、このタオルを玄関先などに結び、「避難済み」であることを示すルールになっていて、訓練でも実践しました。ちなみにタオルに黄色を選んだのは、東峰村が俳優の故・高倉健さんのゆかりの地で、主演映画「幸福の黄色いハンカチ」にちなんでのことだそうです。

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写真2 東峰村の「黄色いタオル」


■  「グッド・プラクティス」の共有を

災害が起きると、メディアは自治体などの「あら探し」をしがちです。もちろん、対応が適切だったかどうかを客観的に検証することはメディアの重要な役割です。その一方で、高齢化率の極めて高い東峰村のような取り組みを、他の地域の模範となる「グッド・プラクティス」として積極的に周知・共有していくことも、有効な減災報道だと考えています。

今回ご紹介した世論調査の内容は、11月1日刊行の『放送研究と調査』11月号に掲載されます。あわせて同10月号掲載の「西日本豪雨(平成30年7月豪雨)をテレビはどう伝えたか」もご覧ください。

おススメの1本 2018年11月02日 (金)

#152 8Kで地域の災害を記録し、伝えつづける意味 ~NHK熊本 8K防災ワークショップから~

メディア研究部(メディア動向) 山口 勝


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ハイビジョンの4倍・16倍の高精細映像を使った4K・8K放送が、いよいよ12月1日に始まります。自然や芸術、スポーツ中継など、新たな映像体験が期待されています。
私はこの8Kを「美しさ」だけでなく「命を守る映像センサー」として活用できないかと、8K防災活用の研究に取り組んでいます

きっかけとなったのは2016年の熊本地震。地震直後に8Kカメラで空撮した被災地の映像を解析すると、従来の空中写真や現地調査ではわからなかった断層や亀裂、家屋倒壊や車中泊の様子などが詳細にわかり、防災や人命救助に役立つことが分かりました。NHKスペシャル「活断層の村の苦闘 熊本地震半年間の記録」(2016年10月放送)や、サイエンスZERO「防災から医療まで活用 8K  SHV」(2017年4月放送)、「超高精細映像で災害に挑む 8K SHV」(SHV試験放送2017年4月、5月、6月放送)などの番組にも展開しました。

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熊本地震から2年半となる10月6,7日。NHK熊本放送局の220インチ大型8Kモニターを使って、視聴者のみなさんと8Kワークショップ「8Kでわかった熊本地震の爪痕」を開きました。2日間で定員の2倍以上となる120人が参加。地震や防災に対する関心の高さを感じました。参加していただいた皆さん ありがとうございました!

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ワークショップでは、まず8Kを防災に生かす方法や事例について解説した後、NHK熊本局制作の「熊本地震 痕跡を未来へ」という20分の8K番組を見ていただきました。この番組は、地方局が独自に制作した初の8K番組です。熊本地震の活断層や破壊された阿蘇大橋、断層が鉄筋コンクリートの建物を引き裂いた東海大学阿蘇キャンパスなど、災害を後世に伝えるために「震災遺構」として保存することが決まった場所を、8K撮影しました。人が近寄ることが出来ない峡谷の壁面に表れた断層露頭は、小型8Kカメラをドローンに乗せて撮影。断層で引きちぎられた建物の床や柱の8K映像は、現場以上に、破壊の様子を鮮明に伝えていました。参加者からは、「立体感や奥行き感があるので驚いた。床の砂ぼこりまで見える」「この8K空撮で、美しい熊本や九州の島々をぜひとって、全国の人に見てもらいたい」などの声をいただきました。

撮影監督のNHK熊本局の中西紀雄チーフエンジニアは、「アマゾン熱帯雨林での自然番組の撮影で使った小型8Kカメラなら、NHK熊本局という地方局でも8K番組が作れる。熊本の震災を8Kで記録することで、自分のふるさと熊本に恩返ししたいと企画した」と制作意図を熱く語りました。防災教育が専門の熊本大学竹内裕希子准教授は、「風化し、失われやすい震災遺構を現物と8Kというデジタルの両方で保存することで、災害を後世に伝えることができる。熊本県が構想する『巡回型震災ミュージアム』の一角に、熊本城に近いNHK熊本局が入り、8Kをはじめとした映像で震災の記録を、多くの人に見てもらえるとすれば、防災教育や復興観光への貢献にもなるのではないか」と述べました。

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今回のワークショップで、最前列で見ていた高齢の女性から頂いた言葉が強く記憶に残りました。番組を見た感想を聞くと「熊本地震の記憶が、よみがえってきました」と涙をこらえながら答えてくださいました。この方は、冒頭に紹介した2016年放送のNHKスペシャル「活断層に苦闘する村 熊本地震半年間の記録」の舞台となった西原村大切畑から、ワークショップのために熊本放送局まで来てくださっていたのです。
地域の放送局が、地域の災害を記録し、伝え続けることの意義を改めて感じました。
震災当時は渦中にいた方たちが、震災から2年たって、ようやく何が起きていたのか知りたくなったのかもしれないと感じました。

「公共放送から公共メディアへ」とNHKは変わろうとしています。新しく始まる8K放送、美しい自然や文化だけでなく、8Kで災害を記録し、放送するだけでなく、こうしたワークショップや上映会、VODなどを使って伝え続けることは、災害などから命と暮らしを守ることが使命であるNHKだからこそできる、新たな公共メディア像の1つではないかと感じました。

 

ことばのはなし 2018年10月29日 (月)

#151 文研・放送用語班の「中の人」はいったい何をしているのか

メディア研究部(放送用語・表現) 塩田雄大


NHKでは、いろいろな職種の人が働いています。その中には、具体的にどんな仕事をしているのか、なかなかイメージしにくいものもあります。放送文化研究所の仕事も、もしかするとそうかもしれません。

このたび、「NHKのさまざまな仕事や内容を、ネット動画で紹介する」という連続企画の第一弾で、放送文化研究所の放送用語班が取り上げられました。
「紹介する」と言っても、働いている本人が出演するのではなく、その仕事ぶりを、プロの演じ手が(かなり)デフォルメして伝えるという形式になっています。
動画の制作担当者と面談を重ねて、放送用語班の仕事と研究員の行動特性を伝え、全体の構成が作られていきました。

演じていただいたのは、なんと! 超ビッグネーム、友近さんです。
友近さんに、放送用語班の研究員が「憑依ひょうい」したという仮構でできあがったのが、今回の動画です。

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気になることば

放送のことばが気になるのは、放送用語班の研究員として当たり前のことです。加えて、各研究員は、放送のことばだけを気にしているわけではないんです。というか、放送以外のことばも、気になっちゃうんです。

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たとえば、「素爪」ということばがあります。これは、「マニキュアを塗っていない爪」という意味(だそう)です。
では、このことば、「すつめ」と言うのか、「すづめ」と言うのか? 「すづめ」だったら、「すずめ」と同じ発音になってしまうのではないか? 「すずめ」って言えば「半分、青い。」の楡野鈴愛は確かに「素爪」っぽい雰囲気だったな、あれ、「雰囲気」って「ふいんき」だっけ「ふんいき」だっけ、ところで「かに爪コロッケ」は「かにつめ」なのか「かにづめ」なのか、「汚部屋」は「おへや」か「おべや」か、で「猫砂」の発音はいったいどうなるんだ、ちなみに「酢イカ」は「SUICA」と同じアクセントでいいのかい、と、もうやめておきますがこんなふうにとめどなく思いがあふれていっちゃうのが、放送用語班の研究員なんです。これ、ぼくだけじゃないんですよ、ほんとに。

研究員はみんなずっとこんな感じですから、テレビを普通に見ていても、気になるところが自然と耳に残ってくるんです。

いろいろ詳しく言うとネタバレになるので、ぜひ動画本編をご覧ください。Don’t miss it!

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【ザ・ひょ~いドキュメント NHKの中の人の仕事の流儀はどうなのよシリーズ】第1弾!

調査あれこれ 2018年10月26日 (金)

#150 幼児のインターネット動画利用が増加中!? ~2018年6月「幼児視聴率調査」から~

世論調査部視聴者調査) 行木麻衣


先日、我が家の息子(3歳)をスマホで撮影していたら、カメラに向かって「○○チャンネルまた見てね!」と、YouTube(ユーチューブ)に出ているお子さんのまねを始めました。(「○○チャンネル」とは、子どもの名前やニックネームをつけたチャンネルでおもちゃレビューなどを行っている動画です)。インターネット動画が大好きな息子ですが、とうとうYouTubeごっこを始めたのかと驚きました。
近年、小学生の将来なりたい職業でYouTuber(ユーチューバー)と答える子もいると聞きます。小学生にもインターネット動画利用が広まってきていますが、幼児はインターネット動画をどのくらい見ているのでしょうか。

文研では、毎年6月に2~6歳の未就学児(東京30km圏)を対象として「幼児視聴率調査」を実施し、テレビの視聴状況、録画番組・DVDの利用状況などを聞いています。
きょうは、今年6月4日(月)~10日(日)の1週間に実施した「幼児視聴率調査」から、幼児のインターネット動画利用と保護者の意識を紹介します。

「幼児視聴率調査」の付帯質問で、幼児の休日を除くふだんの日1日にインターネット動画をどのくらい再生しているのかを尋ねています。「15分未満」から「2時間以上」まで「見る」と答えた人すべてを足し上げると(視聴計)、インターネット動画を見る幼児は、今年は50%で、2015年以降、増加傾向が続いています。男女別・年齢別でみても、今年はそれぞれ50%前後と性別や年齢による差はみられませんでした。

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また、インターネット動画の再生時間量をみると、インターネット動画を見ている幼児の中では「30分未満」が最も多く、続いて「30分以上1時間未満」でした。2016年と比べて1時間を超える長時間利用者が増加し「ほとんど、まったく見ない」が減少しました。

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インターネット動画の再生時間は「30分未満」が多いものの、1時間以上の長時間利用者が増加しているという現状を受けて、一児の母として、子どもがインターネット動画を見ることに対して保護者の方々はどのように感じているのか気になってきました。
こちらは、付帯質問で「お子様がインターネット動画を見ることについて、どのように思うか」を尋ねた結果です。


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「子どものためになる動画を見せたい」が51%と最も多く、約半数の保護者が「子どものためになる動画」を期待していることが分かります。一方で、約3割の保護者が「動画は子どもに悪い影響がある」と感じています。「その他」を選択した方には具体的に記入してもらいましたが、その中には「時間を決めている」「長時間でなければよい」といった時間制限をしている、「移動中など、仕方なく」といった本当は使いたくないけれど仕方なく使っているなどの回答がみられました。
約半数の幼児がインターネット動画を利用している中で、インターネット動画に対して不安に思う面がある一方、ためになる動画を見せたいという保護者の気持ちや、時間を制限するなどしてインターネット動画と上手に付き合っている保護者の姿が見えました。
今回、上の5つの選択肢に入らなかった「その他」は21%で、想定よりもさまざまな意見があがりました。保護者の方々が「お子様がインターネット動画を見ること」について日ごろから幅広い視点で考えていることの表れだと感じます。今後も幼児とインターネット動画の関係について、保護者の意識がより的確につかめるような調査設計を検討していきたいと思います。

幼児にテレビはどのくらいの時間見られているのか、録画番組やDVD利用の状況…など、今年の詳細な結果は『放送研究と調査』10月号で報告していますので、お読みいただければ幸いです。

 

おススメの1本 2018年10月19日 (金)

#149 災害多発の時代 テレビ・ラジオは何ができるのか? ~平成29年7月九州北部豪雨被災地の住民調査から考える~

メディア研究部(メディア動向) 入江さやか


2017年7月の「九州北部豪雨」では、7月5日から6日にかけて、台風と梅雨前線の影響による猛烈な雨が福岡県と大分県の中山間地に降りました。中小河川が氾濫、流域の集落が浸水や土砂災害に見舞われ、死者・行方不明者は42人にのぼりました。


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災害後、私も被災地に入りました。泥に覆われた坂道を30分ほど歩いてたどり着いた福岡県朝倉市の集落は、両側を急峻な山の斜面に挟まれ、川沿いのわずかな平地に建つ住宅や商店は土砂に埋もれていました。発災当時、外は滝のような雨、目の前の川には大量の流木や土石流、背後の山からは土砂が家の中になだれ込む・・・そんな状況が目に浮かびました。「この地域の人たちはどうやって身を守ったのだろうか?」「警報や避難情報は有効だったのだろうか?」当時の状況を明らかにするため、NHK放送文化研究所は、被災した福岡県朝倉市・東峰村、大分県日田市の20歳以上の男女2,000人を対象に世論調査を実施しました。


■「立ち退き避難」は20~29% 川のようになった道路を通って

自宅などから避難場所などに移動する「立ち退き避難」をした人は、朝倉市で20%、東峰村で29%、日田市で21%でした。「立ち退き避難」をした動機は「雨の降り方が激しかった」「周りの道路が川のようになっていた」「近くの川の水位が上がってきた」などの異常な現象でした。土砂災害警戒情報や避難勧告・避難指示などの「情報」だけで動いた人はほとんどいませんでした。
さらに、移動する途上の状況を聞いたところ、半数以上の人が「道路が川のようになっていた」と回答。浸水していない安全な状況下で移動した人は2割程度でした。
気象状況が急激に悪化した九州北部豪雨では、災害が発生するまでの「リードタイム(先行時間)」がほとんどありませんでした。今回の調査では、避難勧告や避難指示が出たときには、すでに浸水などの被害が起きていたこともわかり、「防災情報の限界」を痛感しました。


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■速報は「テレビ」から「メール」にシフト

従来の被災地の調査では、防災気象情報や避難情報を知ったメディアとして「NHKテレビ」がトップにあげられてきました(手前味噌になりますが・・・)。しかし今回の調査では「行政からのメール()」が「NHKテレビ」にほぼ並び、場合によっては「行政からのメール」の方が多いケースもありました。今後はメールや防災情報アプリでこうした緊急情報を得る人の方が増えていくのは間違いありません。 
ネットによる防災情報の伝達が今後一層拡大・充実していく中で、「テレビ・ラジオ」の役割が問われています。
 ※緊急速報メール(エリアメール)や自治体の防災情報メール


■激甚化する災害 テレビ・ラジオだからできることは?

今回の調査では、防災情報や災害報道に関する意見も自由に書いてもらいました。これからの防災報道のあり方を考えていく上で、被災地の方々の生の声は「宝」です。「雨雲のレーダー画像をもっと見せて」「通行可能な道路の情報を伝えて」「停電中や自動車を運転しているときにはラジオだけが情報源。ラジオで避難情報の対象地区名などをきめ細かく繰り返し伝えて」といった具体的な要望も多く寄せられました。また、学校関係者と思われる方から「視聴者が投稿した映像がテレビで流れ、地元の校区内の状況がわかった。現場の映像を見られたことで、学校としても早期に動くことができた」という報告もありました。

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平成最悪の水害となった西日本豪雨、台風20号・21号・24号、大阪府北部地震と北海道胆振東部地震・・・。今年の6月以降、各地で災害が相次ぎました。まもなく終わる「平成」という時代は、阪神・淡路大震災、東日本大震災、西日本豪雨などに代表される「災害の時代」として記憶されるのかもしれません。災害が激甚化していく中で、「テレビ・ラジオだからできる防災・減災報道」をさらに進化させるときに来ているのではないでしょうか。

今回ご紹介した世論調査の内容は11月1日発行予定の『放送研究と調査』11月号に掲載されます。あわせて放送研究と調査』10月号掲載の「西日本豪雨(平成30年7月豪雨)をテレビはどう伝えたか」もご覧ください。

 

メディアの動き 2018年10月12日 (金)

#148 アメリカ公共放送局が生き残りをかける次世代放送規格とは?

メディア研究部(海外メディア研究) 大墻 敦


今回、『放送研究と調査』10月号に掲載した論考を書くにあたり、自宅のパソコンから、アメリカのワシントンDCやアリゾナ州フェニックスにいる「ATSC3.0」(次世代地上放送規格)の導入に取組む関係者たちのパソコンにスカイプでつなぎインタビューをしました。「自前の伝送路を持たないと、インターネットに負ける」「インターネットと同等の機能をもつ伝送路で勝負!」など、オフィスでの勤務を始めたばかりの彼らの威勢の良い英語が、深夜の私の部屋に響きました。

日本では2011年7月にアナログ放送が停波し、まだ7年。なのに「もう次世代?」と思われる方も多いかと思います。放送局で長年にわたり働いてきた私でも、そう思います。そもそも、アナログからデジタルへ転換する理由も、当時、よくわかりませんでした。私は番組制作が専門で、技術的なことには疎い人間です。
そんな私がこの論考に取り組むことになったきっかけは、昨年12月に行ったAPTS(America’s Public Television Stations、アメリカ公共テレビ連盟)のロナ・トンプソン副社長へのインタビューでした。彼女が「ATSC3.0の導入により公共放送はNetflixなどのOTT企業、YouTube、Amazon、Facebookなどに押され気味の状況を挽回するチャンスだ」と熱弁をふるうのに驚きました。正直、「ATSC3.0って何?」という気持ちでした。しかし、調べていくとアメリカでも地方のテレビ関係者たちの危機感は強く「このまま座してインターネットに敗北するのか」「リスクはあるけれども、うって出るべきか」と悩みが深い現状を知りました。

mr1810cover-140.png今回の論考のタイトルは「次世代放送規格「ATSC3.0」にアメリカ公共放送局はどう取り組んでいるのか?~地方都市における新たなテレビ・エコシステムの構築へ~」と、ちょっと長くて難しそうです。でも、私としては、テレビの将来を考えるうえでは欠かせない視点の提供ができたのではないかと考えています。関係者たちが全員口をそろえて言ったのは「成功するかどうかは分からないけど、前進するしか道はない」という主旨の言葉でした。是非、読んで下さい。