文研ブログ

おススメの1本 2018年10月19日 (金)

#149 災害多発の時代 テレビ・ラジオは何ができるのか? ~平成29年7月九州北部豪雨被災地の住民調査から考える~

メディア研究部(メディア動向) 入江さやか


2017年7月の「九州北部豪雨」では、7月5日から6日にかけて、台風と梅雨前線の影響による猛烈な雨が福岡県と大分県の中山間地に降りました。中小河川が氾濫、流域の集落が浸水や土砂災害に見舞われ、死者・行方不明者は42人にのぼりました。


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災害後、私も被災地に入りました。泥に覆われた坂道を30分ほど歩いてたどり着いた福岡県朝倉市の集落は、両側を急峻な山の斜面に挟まれ、川沿いのわずかな平地に建つ住宅や商店は土砂に埋もれていました。発災当時、外は滝のような雨、目の前の川には大量の流木や土石流、背後の山からは土砂が家の中になだれ込む・・・そんな状況が目に浮かびました。「この地域の人たちはどうやって身を守ったのだろうか?」「警報や避難情報は有効だったのだろうか?」当時の状況を明らかにするため、NHK放送文化研究所は、被災した福岡県朝倉市・東峰村、大分県日田市の20歳以上の男女2,000人を対象に世論調査を実施しました。


■「立ち退き避難」は20~29% 川のようになった道路を通って

自宅などから避難場所などに移動する「立ち退き避難」をした人は、朝倉市で20%、東峰村で29%、日田市で21%でした。「立ち退き避難」をした動機は「雨の降り方が激しかった」「周りの道路が川のようになっていた」「近くの川の水位が上がってきた」などの異常な現象でした。土砂災害警戒情報や避難勧告・避難指示などの「情報」だけで動いた人はほとんどいませんでした。
さらに、移動する途上の状況を聞いたところ、半数以上の人が「道路が川のようになっていた」と回答。浸水していない安全な状況下で移動した人は2割程度でした。
気象状況が急激に悪化した九州北部豪雨では、災害が発生するまでの「リードタイム(先行時間)」がほとんどありませんでした。今回の調査では、避難勧告や避難指示が出たときには、すでに浸水などの被害が起きていたこともわかり、「防災情報の限界」を痛感しました。


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■速報は「テレビ」から「メール」にシフト

従来の被災地の調査では、防災気象情報や避難情報を知ったメディアとして「NHKテレビ」がトップにあげられてきました(手前味噌になりますが・・・)。しかし今回の調査では「行政からのメール()」が「NHKテレビ」にほぼ並び、場合によっては「行政からのメール」の方が多いケースもありました。今後はメールや防災情報アプリでこうした緊急情報を得る人の方が増えていくのは間違いありません。 
ネットによる防災情報の伝達が今後一層拡大・充実していく中で、「テレビ・ラジオ」の役割が問われています。
 ※緊急速報メール(エリアメール)や自治体の防災情報メール


■激甚化する災害 テレビ・ラジオだからできることは?

今回の調査では、防災情報や災害報道に関する意見も自由に書いてもらいました。これからの防災報道のあり方を考えていく上で、被災地の方々の生の声は「宝」です。「雨雲のレーダー画像をもっと見せて」「通行可能な道路の情報を伝えて」「停電中や自動車を運転しているときにはラジオだけが情報源。ラジオで避難情報の対象地区名などをきめ細かく繰り返し伝えて」といった具体的な要望も多く寄せられました。また、学校関係者と思われる方から「視聴者が投稿した映像がテレビで流れ、地元の校区内の状況がわかった。現場の映像を見られたことで、学校としても早期に動くことができた」という報告もありました。

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平成最悪の水害となった西日本豪雨、台風20号・21号・24号、大阪府北部地震と北海道胆振東部地震・・・。今年の6月以降、各地で災害が相次ぎました。まもなく終わる「平成」という時代は、阪神・淡路大震災、東日本大震災、西日本豪雨などに代表される「災害の時代」として記憶されるのかもしれません。災害が激甚化していく中で、「テレビ・ラジオだからできる防災・減災報道」をさらに進化させるときに来ているのではないでしょうか。

今回ご紹介した世論調査の内容は11月1日発行予定の『放送研究と調査』11月号に掲載されます。あわせて放送研究と調査』10月号掲載の「西日本豪雨(平成30年7月豪雨)をテレビはどう伝えたか」もご覧ください。

 

メディアの動き 2018年10月12日 (金)

#148 アメリカ公共放送局が生き残りをかける次世代放送規格とは?

メディア研究部(海外メディア研究) 大墻 敦


今回、『放送研究と調査』10月号に掲載した論考を書くにあたり、自宅のパソコンから、アメリカのワシントンDCやアリゾナ州フェニックスにいる「ATSC3.0」(次世代地上放送規格)の導入に取組む関係者たちのパソコンにスカイプでつなぎインタビューをしました。「自前の伝送路を持たないと、インターネットに負ける」「インターネットと同等の機能をもつ伝送路で勝負!」など、オフィスでの勤務を始めたばかりの彼らの威勢の良い英語が、深夜の私の部屋に響きました。

日本では2011年7月にアナログ放送が停波し、まだ7年。なのに「もう次世代?」と思われる方も多いかと思います。放送局で長年にわたり働いてきた私でも、そう思います。そもそも、アナログからデジタルへ転換する理由も、当時、よくわかりませんでした。私は番組制作が専門で、技術的なことには疎い人間です。
そんな私がこの論考に取り組むことになったきっかけは、昨年12月に行ったAPTS(America’s Public Television Stations、アメリカ公共テレビ連盟)のロナ・トンプソン副社長へのインタビューでした。彼女が「ATSC3.0の導入により公共放送はNetflixなどのOTT企業、YouTube、Amazon、Facebookなどに押され気味の状況を挽回するチャンスだ」と熱弁をふるうのに驚きました。正直、「ATSC3.0って何?」という気持ちでした。しかし、調べていくとアメリカでも地方のテレビ関係者たちの危機感は強く「このまま座してインターネットに敗北するのか」「リスクはあるけれども、うって出るべきか」と悩みが深い現状を知りました。

mr1810cover-140.png今回の論考のタイトルは「次世代放送規格「ATSC3.0」にアメリカ公共放送局はどう取り組んでいるのか?~地方都市における新たなテレビ・エコシステムの構築へ~」と、ちょっと長くて難しそうです。でも、私としては、テレビの将来を考えるうえでは欠かせない視点の提供ができたのではないかと考えています。関係者たちが全員口をそろえて言ったのは「成功するかどうかは分からないけど、前進するしか道はない」という主旨の言葉でした。是非、読んで下さい。




おススメの1本 2018年10月05日 (金)

#147 「トライアル研究」の発表会はトライアルでした

メディア研究部 鳥谷部寛巳

つい2年ほど前まで「アーカイブ研究」なるものをよく知らなかった自分が、こうしたイベントの開催を担うことになるとは思ってもみませんでした。「NHK番組アーカイブス学術利用トライアイル 研究発表会2018」のことです。その模様を『放送研究と調査』10月号掲載の「アーカイブ研究の現在」で報告しました。

NHKは2010年から、NHKアーカイブスに保管されている放送番組を学術利用の閲覧に供する事業(詳しくは公式ウェブサイト参照)を行っています。そこから生まれた成果論文は61本、研究発表(学会等にて)は65件にのぼります(今年3月末時点)。
事業の担当チームは去年末、アーカイブ研究の一層の発展につなげることを趣旨とした研究発表会を開くことを決めました。開催は半年余り後(今年7月)。成果論文の中から5つほどを選考し、利用番組の一部上映を盛り込むなどアーカイブ研究ならではの発表会にしようということになりました。突然ですが、そのときの私の心のつぶやきを以下に。

……こういう立ち上げって、誰かがプロデューサー役を担って少々強引に事を進めていかないと、“絵に描いた餅”で終わりかねないんだよな~。それだけにとっても大事な役割。結構大変な役割。個人的にはなるべく、いや何とか避けたいところ。ま、自分はこの事業に関わってまだ1年半と最短だから、免れるかな……

しかしながら結局、立場上&成り行き上(詳細略)、ほとんど買って出るかのごとく私がプロデューサー役を務めることになりました。組織に身を置いて30年。多少は物分かりがよくなっているのです(発表者はじめ関係者の皆さん、実はそんな経緯で申し訳ありません)。

私は番組制作畑の出身ですが、アーカイブ研究についてはほぼ素人。担当チームの先輩たちや審査委員の先生方の意見・指導を仰ぎ、開催の段取りとプログラム内容を少しずつ固めていきました。まさに手探りの“トライアル”だったように思います。
その中でも特に苦心し、印象に残っているのは、発表会のラインナップをバラエティーに富んだものにしようと試みた、「研究分類」です。これは自分のアーカイブ研究への理解を深める意味でもかなり勉強になりました。どんな分類なのかは、冒頭で紹介した報告の中で共同執筆者の宮田章が解説しています。「のっぺらぼうの顔にいくらか目鼻がつく」(=「茫洋としていたアーカイブ研究が分節できる」)ことにつながった、「これまでになかった研究分類」。もともと発表会用の便宜的なものではありましたが、それこそ意味ある“トライアル”になったように思います。今回発表された研究5件の内容(要旨)とともに、ぜひご一読ください。

147-1005-111.pngちなみに、発表会が終了したあとに、発表者・審査委員・来場者が自由に参加できる懇親会を行いました。発表者の皆さんが喜んでくださっている様子、アーカイブ研究に関心のある人たちがつながっていく様子を拝見し、「開催してよかったな」としみじみうれしくなりました。あんなことを思っていたくせに。現金なものです。








おススメの1本 2018年09月28日 (金)

#146 あさどらてれこのほうそく

メディア研究部(番組研究) 亀村朋子

連続テレビ小説『半分、青い。は今まさに最終回を迎えようとしています(2018/9/29(土)最終回放送)。北川悦吏子さんオリジナルの作品ということで、「物語がどのような結末を迎えるのか?」そこを楽しみに見ていた方も多かったと思います。
そんな今日このごろではありますが、朝ドラ研究プロジェクトでは、『放送研究と調査』9月号に、『半分、青い。』の前作である『わろてんか』の視聴者アンケート調査の結果を報告しました。「いまさら?」と思われたそこのあなた!申し訳ありません。放送終了直後の調査結果を分析しまとめるには、ある程度の時間を要するので、どうしても現在放送されている作品との「時差」が生まれてしまうことになります。

『半分、青い。』は、最終週に至るまでジェットコースターのような展開が度々あり、ハラハラドキドキすることが多かったのに比べて、『わろてんか』はそれほど心揺さぶられ過ぎずに、安心して見られた感が強い作品でした。その大きな理由として考えられるのは、『わろてんか』は実在の人物たちをモチーフとして作られた話だったことです。それを承知して見ていた視聴者は多く、「きっとハッピーエンドになる」と分かっているからこそ安心して見ていた…そんな意見もアンケートに多く見られました。

朝ドラは、半年ごとに作品が入れ替わります。『半分、青い。』のように振幅の大きなドラマは、見ていて「面白い」と同時に「少々疲れる」ところもあるのではないかと思います。『わろてんか』の感想には、「見ていて疲れないのが良い」という意見がありました。また、「わろてんか(=笑ってくれないか)」というタイトルどおりに「笑うことにより幸せになれる、という感じがとても好き」という心温まる感想もありました。そんな『わろてんか』の分析結果は、ぜひ『放送研究と調査』9月号「朝ドラ研究 視聴者は朝ドラ『わろてんか』をどう見たか」でお読みください。
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『わろてんか』『半分、青い』に続く今後の朝ドラは、『まんぷく』『夏空』と、「モデルあり」と「オリジナル」とが1作ごとに交互に登場します。朝ドラを長期で楽しんでいる人にとっては、タイプの違う作品を半年ごとに新鮮な気持ちで見ることができるので、「朝ドラという枠は、よく出来ている」と思いますし、そこに朝ドラがヒットしている要因もあると思います。当然、見る人の好みによって好き嫌いは生じますが、例え自分にとってあまり好きではない作品であっても、半年というスパンは、「そのくらいなら頑張って見よう」「次のドラマに期待しよう」と思って見続けられるギリギリの期間なので、離れないお客さんが多いのかもしれない、とも思います。もちろん好きな作品であれば、毎日の15分がささやかな楽しみの時間ともなります。「モデルあり」と「オリジナル」が テレコテレコ(交互)にやってくることも、飽きさせない工夫となっているのではないでしょうか。「朝ドラ・テレコの法則」は成功している、そんな気がするのです。
来年の春、朝ドラ100作を機に、文研の朝ドラ調査は総まとめに入ります。またブログでも報告させて頂きますのでご期待ください。

 

おススメの1本 2018年09月21日 (金)

#145 "カラー写真"は、語りかける

メディア研究部(メディア動向) 谷 卓生

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 73年前の今日。1945年9月15日、終戦直後にマーシャル諸島で撮影された日本軍の兵士たち。・・・ニューラルネットワークによる自動色付け+手動補正。


渡邉さんのツイートより(Twitter @hwtnv)


このツイートは、広島原爆の実相を伝えるデジタルアーカイブズ「ヒロシマ・アーカイブ」などの制作で知られる東京大学大学院の渡邉英徳教授が、今月(9月)15日に、ツイッターに投稿したものだ。元の白黒写真を、早稲田大学理工学術院の研究グループが開発したAI(人工知能)を使って自動でカラー化し、さらに画像処理ソフトも使って自然な感じに仕上げている。

渡邉さんは、元の白黒写真も同時に投稿する。

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2枚の写真を見比べて、皆さんはどのような印象を持たれるだろうか。
渡邉さんは、毎日のように「その日」の白黒写真をカラー化して投稿している。このような日付のシンクロとカラー化が生み出した生々しさによって、私には、73年の時空を越えて旧日本軍の兵士たちが語りかけてくるような気がする。同じように、カラー化された写真に触発された人が多くいるのだろう。このツイートは、3100あまりリツイートされ、およそ3800のが付いている(9月18日現在)。さらには、自分の身内の戦争体験や自身の戦争に対する考えなどが、コメントとして多数つけられている。コメント同士でやり取りが行われることもあり、渡辺さんのツイートから、いわば“小さな言論空間”が生まれたとも言えるのではないだろうか。

渡邉さんは、このようなプロセスを「記憶の解凍」と呼び、3つのフェーズから成り立っているとする。


まず,白黒写真が持つ“凍った“印象が,カラー化によって“解かされる“。次いで,創発する対話によって,人々の記憶がよみがえり“解凍“される。そして,元の写真への社会の関心が高まり,写しこまれた記憶が未来に継承される。


渡邉さんのツイートより(Twitter @hwtnv)


アーカイブされていた白黒写真がカラー化され、“現在のツイッター空間”に投げ込まれることで、写真は死蔵されるのでなく、息を吹き返すのだ(渡邉さんは、フェイスブックやインスタグラムにも、戦争の時代の写真を中心に、同様の投稿を行っている)。

さらに、現在は、写真だけでなく、白黒の“動画”もカラー化することが可能になった。これまでもカラー化は行われてきたが、かなりの時間とコストが必要で簡単に行うことは難しかった。しかし、NHK放送技術研究所(技研)が開発した「AIによる白黒動画カラー化」技術を使えば、容易にカラー化できるようになり、放送にも利用された(8月に放送されたNHKスペシャル『ノモンハン 責任なき戦い』で、ノモンハン事件の記録フィルムのカラー化に使われた)。
この技術が、一般にも広く使えるようになれば、白黒動画の分野でも、「記憶の解凍」が多数行われ、「記憶の継承」に大いに資することになるだろう。


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技研公開2018

※技研が開発した「AIによる白黒動画カラー化」技術については、『放送研究と調査』2018年8月号「人工知能で白黒フィルムの映像を自動でカラー化」をご覧ください。

メディアの動き 2018年09月14日 (金)

#144 受信料は時代遅れで不公平?-デンマークの選択

メディア研究部(海外メディア研究) 中村美子

4月に、デンマークに行って来ました。

いま、番組研究グループの渡辺誓司主任研究員と共同でパラリンピック放送をテーマに調査研究を進めています。デンマークの公共放送DRのパラリンピック放送を取材することが、デンマークを訪問する第1の目的でした。
ところが、1月に「受信料廃止/税金化」と「DRの予算を5年間で20%削減」の2点について与野党が合意し、4月にはこの政治合意を前提に、政府は2019年から5年間のメディア政策提案を発表しました。いま、ヨーロッパ各国で、公共放送の財源制度や財源規模の見直しが続いています。が、正直に言って、デンマークの動きはノーマークでした。

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他の国に比べると“電光石火”の決定に、いくつもの疑問がわきあがりました。受信料廃止の理由は?税金化のリスクをどれほど考慮したのか?また、DRに「ニュース、教育、文化」に集中することを政府は求めています。公共放送にとってコンテンツを通じて視聴者との関係の構築することがますます重要になっています。ましてや、NetflixやYouTubeなどの利用が高まり、情報や娯楽の選択肢は拡大しています。それなのに、公共放送の範囲を狭める意図は何か?

そこで、パラリンピック放送の現地調査をチャンスに、メディア政策に係る国会議員、メディア・コミュニケーションの研究者、当事者のDRにこうした疑問をぶつけてみました。その答えは、ぜひ『放送研究と調査』9月号 「受信料廃止を決めたデンマーク ~新メディア政策協定と公共放送の課題~」をご覧ください。

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原稿では、聞き取り調査での空気をお伝えすることができませんでしたが、国会議員は、DRを“governmental broadcaster”と呼び、「DRに対する政府のコントロールを維持し続ける」と正直に語るため、内心複雑な思いがありました。また、研究者とDRの幹部職員が、「政治的交渉に立ち入ることができない」と淡々と語る様子も想像とは違ったものでした。

デンマークでは来年総選挙が予定され、左派への政権交代があるかもしれません。その場合、メディア政策の修正も考えられますが、「受信料の廃止/税金化」は与野党合意ですから、よほどのことが起きない限り、これが覆ることはありません。

ところで、デンマークの取材は今回が2回目です。10年余りのブランクがありました。海外のホテルでは滞在中、部屋のテレビのチャンネルをあちこち変えながら、その国のテレビ番組をチェックします。なぜか、公共放送DRが放送する6つのチャンネルしか見ることができませんでした。広告放送のTV2など数チャンネルはあったはずなのに、どうしたのでしょうか。ホテルが悪い? 一応、三つ星には宿泊できました。あとで思い出したのですが、デンマークの地上デジタル放送は、DRのチャンネル以外すべて有料サービスで提供されています。これが、原因かもしれません。

それにしても、DRのどのチャンネルも超真面目。ドキュメンタリーやクラシック・コンサートが目に付き、夕方の子ども向けチャンネルはアニメ、若者向けと思われるチャンネルではテレビゲームの攻略をテーマにしたスタジオ番組でした。最近世界的にじわじわと人気が出てきた北欧ドラマ・ミステリーは、週末を含め5日間の滞在期間中、まったく見ることができませんでした。こんなところに、もうすでに政治の意向が影響しているのでは、と思ってしまいました。

おススメの1本 2018年09月07日 (金)

#143 海賊版サイトとブロッキングの問題 最近の動向

メディア研究部(メディア動向) 越智慎司

漫画やアニメなどを無断で掲載している海賊版サイトへの対策として政府が行うとした「ブロッキング」についての論考を、『放送研究と調査』9月号に書きました。ブロッキングとは、ユーザーがインターネットでウェブサイトにアクセスしようとした際、プロバイダーなどの判断で閲覧を遮断することです。国内では児童ポルノについてブロッキングの先例があり、どのような経緯でブロッキングの実施に至ったか、さらにどのように運用されているかを、関係者への取材などで探りました。取材を通じて、「まずブロッキング」ではなく、ほかのさまざまな策とともに考えていくほうが、海賊版サイトへの有効な対策になるのではないかという思いを強くしています。

政府は海賊版サイト対策の実現に向け、ことし6月から出版・動画の業界、通信事業者、法律の専門家などの有識者を集め、検討会議を開いています。9月中旬をめどに中間取りまとめの予定で、8月30日の会議でその骨子案が示されました。案は政府の知的財産戦略本部のウェブサイトで見ることができ、総合対策の案も示されています。この総合対策の中で、ブロッキングについては「ブロッキングに係る法制度整備について(P)」とだけ書かれています。記述の後ろの「P」とは?

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シンポジウムの様子

9月2日、プライバシーや情報法などの研究者で作る情報法制研究所が海賊版サイト対策についてのシンポジウムを開きました。この中で、「P」とは“霞が関用語”で「ペンディング=保留」の意味という説明がありました。つまり、ブロッキングについて検討会議が現時点で示せることは何もないということになります。

シンポジウムには検討会議のメンバーの方々も何人か出席し、ブロッキングも含めた議論が行われましたが、議論を聞くかぎりでは、検討会議での意見集約などがまだ十分でないという印象を受けました。このため、仮にブロッキングを行った場合に誰がイニシアチブをとり、どのようにコストを負担するのかといった議論には行きつきませんでした。

今回執筆した論考のまとめの中で、「インターネットに関わる多くの人たちの知恵を集めなければならない」と書きました。政府は海賊版サイト対策の実現に向けて進んでいますが、これまでほとんど接点のなかった関係者の知恵を集められているのでしょうか。中間取りまとめにある総合対策が決まったとしても、本当に現場でうまく機能するのか、それが心配になりました。

『放送研究と調査』9月号
調査研究ノート 海賊版サイトは “ブロッキングすべき” か ~著作権侵害コンテンツ対策の課題を考える~」

放送ヒストリー 2018年08月31日 (金)

#142 「燃え残り」でも

メディア研究部(メディア史研究) 大森淳郎

今から73年前の夏、日本は戦争に負けアメリカ軍に占領されることになりました。
その直前まで、鬼畜米英、一億特攻を国民に呼びかけ続けてきた旧日本放送協会がまずしたことは、膨大な局内文書の焼却でした。東京・内幸町にあった放送会館は1週間にわたって黒煙に包まれたそうです。

今、NHK放送博物館の倉庫にある戦前・戦中の史料は、その時の焼却から奇跡的に免れたものです。もちろん、その中には、これだけは遺しておこうと考えた人によって守られたものもあっただろうし、秘密裏に所有していた個人から戦後NHKに寄贈されたものもあります。でも基本的には、今、私たちが手にすることができるのは敗戦時の焼却のいわば「燃え残り」なのです。

それでも、そういう「燃え残り」を丹念に読んでゆくと、時々、一つの史料が別の史料とつながって「ああ、そうだったのか」と納得するという経験をします。点と点が線でつながり、その線は別の線と絡み合う。そうして「戦時ラジオ放送」という面が少しずつ浮かび上がってくる。

今回(『放送研究と調査』8月号「シリーズ 戦争とラジオ〈第3回〉踏みにじられた声」)もそんな体験をしました。1932年に逓信省が全受信契約者120万を対象に行ったラジオに対する希望調査。その調査を主導した田村謙治郎という官僚は1934年に日本放送協会の中央集権化を断行しますが、その際に彼が日本放送協会定時総会で行った演説の速記錄、そして日中戦争勃発の翌年に情報局が行った「思想戦講習会」に於ける田村の講義録が残っています。これらがつながって線になるとき見えてくるのは、国民をそうとは悟られないように戦争へと導こうとする田村の放送戦略です。1934年の演説で田村は、放送局の職員は、まず、ジャーナリストの思想を棄てなければならない、とまで言っています。そして、そういう田村の、つまりは政府・軍の放送戦略は日本放送協会の全体で共有されてゆくことになりました。

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日本放送協会第8回定時総会(1934年)議事速記録

古今東西を問わず、その露骨さの程度に違いはあるにしろ、権力はメディアをコントロールしようとします。だからこそ、私たちは歴史から学ばなければならないのだと思います。

権力はやろうと思えばどこまでやるのか、そしてメディアはどこまで墜ちてゆくのか、「燃え残った」史料は、それでも聞こうと思えば聞こえる声で語っています。

放送博物館 2018年08月22日 (水)

#141 「大阪桐蔭×金足農」決勝戦をパブリックビューイングでお楽しみいただきました!

放送博物館 堀田伸一

北大阪代表の大阪桐蔭が優勝して幕を閉じた、夏の高校野球第100回大会。
NHK放送博物館では10月28日まで、夏の高校野球100回記念展「放送が伝えた白球の軌跡」を開催しています。その関連イベントとして、大阪桐蔭(北大阪)×金足農(秋田)の決勝が行われた8月21日に試合のパブリックビューイングを行い、約230人のお客様にお楽しみいただきました。

正直なところ、これほど多くのお客様にご来場いただけるとは予想しておらず、「おい、朝から何件もお問い合わせの電話が鳴っているぞ。人があふれるんじゃないか?」と心配する上司をよそに、「大丈夫ですよ。家のテレビでのんびり観る人がほとんどですよ。」とのんきに構えていたものの、昼過ぎに会場の前に並ぶお客様の数を見てびっくり。急遽、開場を早め、椅子を増設し、第2会場を用意し…。

どうやら、今回のイベントを秋田県出身の方々がSNSで拡散し、誘いあわせてご来場くださったようで、試合が始まると、金足農の吉田投手がストライクを取ると拍手が、金足農がヒットを打つと歓声が、画面が秋田県からのリポートに切り替わると大歓声が沸き起こる、そんな状況でした。

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試合終了後、秋田代表の金足農は敗れたものの、勝利した大阪桐蔭のナインがアップになると、会場のお客様からも惜しみない拍手が送られ、パブリックビューイングの醍醐味である周りのお客様との「一体感」や、球場にいるかのような「臨場感」は、家のテレビでは味わえないものだと実感させられました。

インターネットを介したSNS全盛の世の中にあって、パソコンやスマホの画面を見て博物館に来場されたみなさんが、リアルな人とのつながりを楽しんでくださったことや、テレビがその中心にあるということはとても興味深く、街頭テレビの時代から変わらない、テレビの魅力ではないかと思いました。
暑い中、わざわざご来場くださったみなさま、ありがとうございました。

これまでの高校野球の熱戦を映像や博物館所蔵の史・資料で振り返る、夏の高校野球100回記念展「放送が伝えた白球の軌跡」は10月28日まで開催中です。ぜひ、ご来場ください。


NHK放送博物館

休館日 :月曜日(月曜日が祝日・振替休日の場合は火曜日休館)、年末年始
入場料 :無料
開館時間:午前9時30分~午後4時30分
所在地 :〒105-0002 東京都港区愛宕2-1-1  
TEL  : 03-5400-6900

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(ホームページはこちら)  

ことばのはなし 2018年08月17日 (金)

#140 放送用語、韓国でも悩んでる ~「MBC韓国語委員会」NHK文研訪問~

メディア研究部(放送用語・表現) 塩田雄大

「ことばの乱れ」、外来語の多用・乱用、耳で聞いたときのわかりやすさ…
放送用語についてのさまざまな問題は、尽きることがありません。

ところで、このような悩みは、日本だけのものなのでしょうか?
いえいえ、そんなことはありません。ほかの国でも、程度の違いこそあれ、似たようなことで悩んでいるんです。

韓国語は、発音の面では日本語とかなり違いますし、また近年は漢字表記をほとんど使わないなど、日本語とは共通しないところが結構あります。
その一方で、文法の構造は日本語とものすごくよく似ていますし、また語彙の構造も「韓国語固有の語・漢字語・外来語」という、日本語と同じ「3層構造」になっているんです。

ことばの構造が似ているということは、また社会の構造に共通項があるということは、いろいろな「言語問題」に対して、お互いの対処方法が参考になるかもしれないのです(キリッ)!


7月13日金曜日、私たちNHK放送文化研究所では、韓国MBC文化放送の「MBC韓国語委員会」の一行8名からの訪問を受けました。

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韓国MBC(Munhwa〔=文化〕 Broadcasting Corporation)は、韓国全域を放送エリアとする地上波放送局です。
そして「MBC韓国語委員会」は、放送でのことばづかい〔=韓国語〕を検討する組織です。
この委員会では、ニュース・スポーツ中継・選挙報道などを対象に、韓国語のさまざまな表現について研究しているんです。
MBCのアナウンサー局を中心として、2003年に発足しました。
メンバーは、言語学・メディア学の専門家と、放送現場の担当者です。

今回の訪問は、放送用語をめぐる日本の現況と対策を知るためだそうです。
この日、「放送用語」という共通の問題と日々格闘している者どうし、悩みを語り合いました。
中でも印象的だったのは、「外来語」の取り扱い方に関する話題です。

韓国でも日本と同じように、「外来語の多用・乱用」が問題視されています。
韓国ではそれぞれの外来語について、「これは『放送で使ってもよい・使ってはいけない』」ということを、一つ一つ定めようと努力しているようなんです。

それに対してNHKでは、かつてはそのような姿勢の時期もありましたが、その後、

外来語に対して個別に使用可否を示す(「個別規定方式」)のではなく、おおまかな指針を提示しつつ判断を使用者(番組・ニュース制作担当者、アナウンサーなど)にゆだねる、という「理念提示方式」とでも呼ぶべき方法に方針が変わっていった
塩田雄大(2007)「放送における外来語-その「管理基準」の変遷」『言語』36-6

 というのが実情です。

その外来語を使わないとどうしても意味・内容が伝えられないという状況であればあえて使うし、ほかの言い方でも差し支えない場合には安易に使わない。それを最終的に判断するのは、ニュース・番組を制作している担当者やアナウンサーです
私たち放送用語担当者は、あくまで助言をする立場です。

また、韓国のインターネット専門チャンネルで流しているニュースのことばづかいは、非常にくだけたものだそうです。
視聴者がこうしたニュースを視聴するのに慣れてきて、最近では、地上波ニュースでの伝統的なことばづかいに違和感を覚える人も出てきているというのが、MBC側での悩みとして伝えられました。


実は、2003年に「MBC韓国語委員会」が発足する前の年に、NHKの「放送用語委員会」の取り組みを参考にしたいので教えてほしいという依頼を受けたことがあります。
当時NHK放送文化研究所では日韓の報道比較研究を進めていたのですが、その成果を公表するソウルでのシンポジウムの日程に合わせて、NHKの「放送用語委員会」の組織体制や活動成果などについて、MBCで説明をしました。
MBC側はさらに詳しく知りたいということで、その翌年、NHK放送文化研究所への訪問がありました。

この2回の会合で中心的な役割を果たしていたMBCの現役バリバリアナウンサーが、「アナウンサー局長」となって、今回ふたたびお越しになったのです。
実に15年ぶりの再会でした。
そういえば前にお会いしたときには「冬のソナタ」もまだ日本では放送されていなかったし(2003年4月にNHK BS2で放送開始)、「韓流」や「チーズタッカルビ」なんてことばも日本語にはなかったなあ。
「防弾少年団」の踊る姿をYouTubeでぼんやり眺めながら、いろんなことを考えました。