文研ブログ

メディアの動き 2017年04月21日 (金)

#75 VICE(ワル)に魅(ひ)かれて...

メディア研究部(海外メディア研究) 柴田 厚

「VICE」(ヴァイス)
というアメリカのメディアをご存じですか?
特に若者に人気があり、いま上り坂のメディアです。

日々、アメリカメディアの動きをウォッチングしていると、時々“引っかかって”くるメディアがあります。VICEもそんなひとつでした。数年前から、まずその名前が気になっていました。「VICEか…。“悪(ワル)”って自ら名乗る人達ってどうよ?」

次にそのコンテンツ。ひと言でいえば“あぶないもの”が多いのです。麻薬、犯罪、戦争…。さらに、リポートの中で人間の遺体を映し出します。しかし、ただの露悪趣味だけではないものがありました。

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シェーン・スミス氏(VICE提供)

そして、その代表。シェーン・スミスというCEO(最高経営責任者)ですが、写真のとおりインパクトがあります。新興メディアの創始者には「品行方正で理知的」というイメージの人が多い中、彼の“異質感”は際立っていました。ちょっとコワそうだけど、会ってみたいと思いました。

さらに、VICE本社の建物。レンガ作りの古い倉庫風で、写真で見た瞬間、「VICEらしい」と思いました。それも多くのメディアがひしめくNYのマンハッタンではなく、川を隔てたブルックリンにあるということにも魅かれました。ここに行ってみたいと思いました。

そんなVICEが、月曜から金曜までの夕方のニュース番組を始めるという情報が入ってきました。「イブニングニュース」と言えば、アメリカのテレビニュースの看板・代名詞です。ABC、CBS、NBCのネットワークがしのぎを削り、かつては「アメリカ国民は夕方6時半のニュースで世界の動きを知る」とか「そのアンカーは大統領より信頼されている」などと言われたものです。そこに“異端児”VICEが参入するというのは、かなりの驚きでした。「ネットからテレビに進出って、今の時代の流れと逆じゃん」とも思いました。

VICEそのものをもっと知りたい、さらにどんなニュースをやろうとしているのかも知りたいとあちこち調べましたが、どれも断片的な情報で総括的なものがありません。「じゃあ、自分で書くしかないか」と(ちょっとカッコよく言えば)腹をくくりました。せっかくなら、2016年10月に始まるという新しいニュース番組に合わせて訪問、取材するのがいいのではないかと準備を始めました。若者の既存メディア離れが日米ともに進む中、VICEの何が彼らを引き付けるのかを知りたいと考えました。

…と、今回なぜVICEを取り上げたかについて述べましたが、それがどんなメディアかについては、『放送研究と調査』4月号の「拡張を続けるアメリカ新興メディアVICEの行方 ~雑誌からネット、テレビ、その先へ~」をお読みください。



本編には書かなかったのですが、ひとつ補足しておくと、VICEは決して「ワルの集団」ではありませんでした。むしろ取材対象に寄り添う“優しさ”のようなものを随所に感じました。働く人は若者が多く、彼らはとても真摯で、真面目にジャーナリズムとアメリカのこれからを心配する人たちでした。英語で言えば、最近ちょっと流行りの「resilient(したたかな、しなやかな)」という感じで、彼らが引っ張る次世代のアメリカのジャーナリズムは(諸々の課題はあるにしても)大丈夫ではないかと感じました。ホントに?とお思いの方は、『放送研究と調査』4月号をご一読ください。文研ホームページでは5月に全文を公開します。

 

調査あれこれ 2017年04月14日 (金)

#74 高齢者の生活はどう変わる? ~2015年NHK国民生活時間調査より~

世論調査部(視聴者調査) 吉藤昌代

先日、実家の父が70歳の誕生日を迎え、長年勤めた会社を退職しました。
父の会社は60歳が定年で、それ以降、父は契約社員として10年を過ごしてきました。
現役時代よりは働く時間を減らし夕方6時30分には帰宅していたようですが、それでも平日は仕事中心の生活を送っていたそうです。

平成28年度版 高齢社会白書(内閣府)によれば、就労を希望する60歳以上の割合は71.9%。理由はさまざまでしょうが、全体としては公的年金の支給開始年齢が引き上げられていることが大きな要因となり、実際に60歳を超えても働き続ける人は増加傾向にあります。
『60歳で定年退職したら、そのあとは悠々自適な毎日を送る』……
これまで当然のように思われていた日本の“老後の生活”は、変化の時を迎えているのです。

文研が5年ごとに実施している国民生活時間調査の結果からも、その変化を読み解くことができます。
下の表は、男性60代について、2010年と2015年の調査結果を比較し、差があった主な行動をまとめたものです。
(全員平均時間とは、その行動を行っていない人も含めた時間量の平均です。)

<男60代 2010年と2015年で変化のあった主な行動の時間量(平日)>
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男性60代では、前述の通り、定年後も仕事をする人が増えていることを背景に、5年前より仕事の時間が増えました。
このほかビデオ・HDD・DVDやインターネットの時間も増えています。
一方で、テレビと新聞にあてられていた時間がそれぞれ減少しています。
メディア環境の変化は今や60代にまで及んでいるのが分かります。

さて、冒頭の70歳の父ですが、退職後の毎日をどう過ごしているのか母に尋ねたところ、「とりあえずテレビの番人をしているわよ」との答えが返ってきました。

<50代以上のマスメディア接触、レジャー活動の時間量(平日)>
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生活時間調査の結果をみると、仕事などから離れ自由な時間が増える60代を境に、テレビなどのマスメディア接触の時間量は、男女とも70代後半まで年齢を重ねるごとに増加していきます。
父の生活の変化は70代男性の典型的な変化と言えますが、同調査では、スポーツや行楽・散策といったレジャー活動の時間量も、テレビには及ばないまでも年齢を重ねるごとに増え、70代前半がそのピークであることが分かっています。
健康で活動的な高齢者になってもらうべく、父にはテレビはほどほどに、まずは軽いウオーキングを始めるよう勧めたいと思います。

『放送研究と調査4月号』では、超高齢社会における高齢者の姿と生活の変化を、国民生活時間調査の結果をもとにさらに詳しく読み解いています。是非、ご覧ください。

放送博物館 2017年04月07日 (金)

#73 3.11 その時キャスターは ~命を守ることば~

メディア研究部(メディア動向) 入江さやか

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放送博物館で講演する横尾泰輔アナウンサー(3月12日

「一刻も早く高い所に逃げてください」―。
2011年3月11日の東日本大震災。沿岸部の街が津波に襲われる映像とともに流れたNHKのアナウンサーの声。アメリカの国際放送局、ボイス・オブ・アメリカのスティーブ・ハーマン記者はワシントン・ポスト紙の取材に対してこう答えています。「NHKのアナウンサーのこれほど感情的な声を聞いたことがなかった。“クロンカイトが眼鏡を外して涙をこらえた”瞬間のようだった」と。当時の放送は、アメリカの伝説的なニュースアンカー、ウォルター・クロンカイトがケネディ大統領暗殺のニュースを伝えた時に匹敵するような強い印象を与えたのです。

その時、アナウンサーはどのような思いで緊急報道にあたっていたのか。3月12日、NHK放送博物館(東京都・港区)で、東日本大震災発生時に東京のスタジオからニュースを伝えていた横尾泰輔アナウンサー(現・大阪放送局)の講演会が開かれました。震災から5年目にあたる昨年の春から、横尾アナウンサーは「あの日の放送にしっかり向き合わなければ」と、京都大学の矢守克也教授(災害心理学)のもとで調査・研究に取り組みました。大津波警報が発表された午後2時50分から各地に津波が到達した午後3時20分までの30分間の自らの心理を分析するとともに、その放送を被災地の住民がどのように受け止めていたのか聞き取り調査も行いました。

大津波警報が発表されてから24分間は、NHKが各地に設置したロボットカメラの映像では海の様子に特別な変化はみられず、各地で観測される津波も50センチ以下だったことなどから「空振りにならないだろうか」と、横尾アナウンサー自身も気持ちに揺らぎがあったといいます。住民の聞き取りでも「予想より低い観測値で安心した」という声が聞かれたそうです。

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岩手県釜石港に押し寄せる津波の映像(午後3時14分ごろ)

ところが午後3時14分ごろ、岩手県釜石港に大津波が押し寄せる映像が入ってきた段階から、状況が一変しました。予想される津波の高さが大幅に引き上げられたうえ、マグニチュード7.6の最大余震も発生し、東京のスタジオも大きく揺れました。横尾アナウンサー自身も「スタジオの照明器具が落ちてきてケガをしても仕方ない」と覚悟したといいます。そんな恐怖と、緊急報道を担う重圧に耐えながら、懸命に津波や地震の実況を伝え、避難を強く呼びかけ続けました。
しかし、想定を超える巨大な津波で多くの人が命を失いました。

「いのちを守ることば」はどうあるべきか――東日本大震災の経験と分析を踏まえて横尾アナウンサーは講演の中で、津波に対する危機感を伝えるためのさまざまな表現のあり方を提案しました。「直ちに逃げること!」「津波は内陸にも押し寄せます!」といった「命令調」「断定調」の表現を用いる「3メートルは人の背丈のおよそ2倍」など高さを示す数字のイメージが持てるような伝え方をする過去の教訓や事例を盛り込んだ呼びかけをする、などです。

このうち、「命令調」「断定調」などは、震災発生後の2011年11月からNHKの災害報道に導入されています。また過去の教訓や事例を用いた呼びかけの例としては「東日本大震災を思い出してください!」といった表現も使われています。私も報道局でこれらの呼びかけ方の検討に携わりました。しかし東日本大震災についての人々の記憶が風化してしまっては、これらの「ことば」が十分な力を持つことができません。現在、放送博物館では特別展「東日本大震災 伝え続けるために」を開催しています。当時のニュース映像などを通じて、改めて「いのちを守ることば」について考えていただければと思います。


NHK放送博物館

休館日 :月曜日(月曜日が祝日・振替休日の場合は火曜日休館)、年末年始
入場料 :無料
開館時間:午前9時30分~午後4時30分
所在地 :〒105-0002 東京都港区愛宕2-1-1  
TEL  : 03-5400-6900

特別展「東日本大震災 伝え続けるために」は9月10日(日)まで開催
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***関連記事はこちら***
文研ブログ #68 NHK放送博物館 特別展「東日本大震災 伝え続けるために」

調査あれこれ 2017年03月31日 (金)

#72 世界の"いま"を読み解く国際比較調査ISSP

世論調査部(社会調査) 村田ひろ子

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家庭生活に満足している日本人女性は33%、つまり3人に1人。これを多いととらえるか、少ないととらえるか。参考になるのが世界との比較です。
NHKが参加している国際比較調査グループISSP(International Social Survey Programme)は、世界約50の国・地域の調査機関が、毎年テーマを設定して共通の質問で世論調査を行っています。これまで「社会的不平等」「環境」「職業意識」など多岐にわたるテーマで調査を実施してきました。冒頭のデータは、2012年に実施した「家庭と男女の役割」調査の結果です。家庭生活に満足している日本人女性の割合は、調査を行った31の国・地域の中で、2番目に低い結果でした(詳しくは、「放送研究と調査2015年12月号」をご覧ください)。

ISSPが発足したのは1984年、NHKが参加するようになったのは1993年からです。以降、毎年国内で調査を行い、その結果は各国のデータを集約するドイツの研究機関を通じて、世界の政策担当者や研究者に活用されています。
調査テーマや質問項目は、毎年1回開催される総会で話し合われています。6~7か国から成るドラフティング(調査票設計)グループが練り上げた英語の調査票案について、通訳なしで活発な議論が交わされます。総会で確定した調査票は、それぞれの国の言語に翻訳したうえで調査を行います。

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2016年にリトアニア・カウナスで行われた総会の様子
(手前右から2人目が筆者)

総会で質問文や回答の選択肢を検討する際、イギリスの担当者に言い回しを確認する場面がたびたびあります。これは、ISSPのおおもとの調査票がイギリス英語で作られているためです。ところで同じ英語でも、イギリス英語とアメリカ英語とでは表現が異なることがあるのは広く知られています。ISSPでも、オリジナル版の調査票で“private creche”(民間の保育所)という選択肢は、アメリカの調査票では”private day care center”となっている例があります。“creche”は、アメリカ英語だと「キリスト生誕の光景」という別の意味にとられてしまう可能性があるからです。
2つ以上の言葉が使われている国では、複数の言語に翻訳して調査を行います。例えば南アフリカは6つの言語、フィリピンでは7つの言語、インドに至っては10もの言語に翻訳されています。調査票には、翻訳上の諸注意が記され、できるだけ原文の意図が伝わるような工夫がなされています。
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「放送研究と調査3月号」では、2013年に実施した「国への帰属意識」調査の結果をもとに、国への愛着と外国人に対する意識の関係について考察しています。日本では各国と比べて、国への愛着が強い人が多いのか。2016年にEUからの離脱を選択したイギリス国民は、3年前の時点で、移民に対してどのような感情を抱いていたのか。排外主義が吹き荒れる2017年の「いま」を占うヒントが結果から読み取れます。ぜひご一読ください。

調査あれこれ 2017年03月24日 (金)

#71 最近の朝ドラはなぜ高視聴率を維持し続けているのか?

メディア研究部(番組研究) 二瓶 亙

<朝ドラを習慣的に見続ける人が増えてきている>

文研の調査で、朝ドラを比較的よく見ている視聴者の中では、作品を問わず朝ドラを習慣的に見続ける人が最近増えてきていることがわかりました。
お気づきになっている人も多いと思いますが、ここ数年の朝ドラは20%を超える高い視聴率1)を獲得する作品が多くなっています。『あさが来た』(2015年度下半期放送)は、21世紀に放送された朝ドラ32作品中の最高視聴率(23.5%)を獲得しましたし、それに続いて放送した『とと姉ちゃん』(2016年度上半期放送 22.8%)は第3位、現在放送中の『べっぴんさん』も先週末(3月18日)までの平均で20.4%と20%を超えています。
<注>1)ここで言う“朝ドラの視聴率”は、すべてビデオリサーチ社の関東地区の世帯視聴率(各作品の全回平均)です。

ビデオリサーチ社の視聴率は、番組が放送される時間帯に、その番組が放送されるチャンネルをつけていたかどうかを機械で測定したテレビ受像の“実態”です。したがって、“テレビでその番組は流れていたが見ていなかった”ということも起こりえます。つまり、視聴率では、その人がその番組を「見た」と意識していたかどうかはわかりません。そこで、文研朝ドラ研究プロジェクトでは、2015年上半期放送の『まれ』から、朝ドラ視聴者がどのように各作品を見て、どう受け止めたのか、朝ドラに対する“意識”を探る視聴者調査を始めました。その調査によれば、図1のように、作品を追うごとに「朝ドラを見ることが習慣になっている」と“意識する”人が増え、『とと姉ちゃん』では8割を超えていました!最近の朝ドラは視聴率だけでなく、視聴者の意識の上でも視聴が増えていることが明らかになったわけです。

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<朝ドラが高視聴率を維持し続ける要因は何か>

では、人びとのテレビ離れが進んでいると言われる中で、このように朝ドラが高視聴率を維持し続けている要因は何なのでしょうか?朝ドラ研究プロジェクトは、その要因を解明することを通して、テレビがより魅力的なものになり今後も多くの人びとに見続けてもらえるようになる一助になることを目指しています。今回、3作品を調査したことで朝ドラ高視聴率維持の要因がいくつか見えてきましたので、文研の月刊誌『放送研究と調査』3月号 「『とと姉ちゃん』と前2作の視聴者調査を通して、朝ドラ高視聴率の要因を探る」にまとめました。例えば、『まれ』『あさが来た』『とと姉ちゃん』の主人公は明るく前向きに突き進む女性ですが、調査では、この“明るく”“前向き”というイメージは視聴者が朝ドラに求めるイメージの上位に位置しているのです。

一方、現在放送中の『べっぴんさん』の主人公は明るく前向きと言うよりは“おっとり”していて前3作の主人公とはかなり性格が異なります。しかし、それでも『べっぴんさん』は視聴率20%以上をキープしています。はたして朝ドラ高視聴率維持の要因は何なのか…『放送研究と調査』3月号の論文をお読みいただいた上で『べっぴんさん』の残り1週間を見ていただくと、皆さんにも新たな発見があるかもしれません! ぜひご一読ください。

文研フォーラム 2017年03月17日 (金)

#70 多くの来場に感謝~「文研フォーラム2017」

計画管理部(計画) 安楽裕里子

年に一度、文研の調査研究成果を発表するNHK文研フォーラム
今年は3月1日(水)〜3日(金)に東京の千代田放送会館で、“いま考える メディアのちから、メディアの役割”をテーマに開催しました。海外からのゲストも招いて様々なテーマで行った8つのプログラムには、「フォーラム」という名前になったおととし以降で最も多い、延べ1400人を超える方々にご来場いただきました。

 文研フォーラム2017ポスター
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ここでは、初日と2日目に行われたシンポジウムの様子をちょこっとご紹介します。
初日は“東京2020オリンピック・パラリンピックへ”と題し、世論調査の報告と、シンポジウム「パラリンピックと放送の役割を開催。

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上智大学の師岡文男教授、英チャンネル4のマーティン・ベイカーさん、車いすランナーでパラリンピック金メダリストの伊藤智也さん、NHK2020東京オリンピック・パラリンピック実施本部の樋口昌之副本部長をパネリストに迎え2時間半。リオ大会ではNHKのスタジオゲストも務めた伊藤智也さんからは、「障害者スポーツとして撮るのではなく、アスリートとしてカッコよく撮って欲しい」という率直な発言、また、日英の放送を比較した報告や、登壇者の熱いディスカッションに会場も沸き、2020年に向けた関心の高さが改めて感じられました。

2日目は、「テレビ・ドキュメンタリーにおける“作家性”とは?」として、文研発行の『放送研究と調査』に3年にわたって掲載した「制作者研究」のシンポジウムを2時間半にわたって開催。

ゲストにジャーナリストの田原総一朗さん、テレビ演出家・脚本家の今野勉さん、元NHKディレクターの相田洋さんという3巨匠、コメンテーターに早稲田大学の伊藤守教授を迎え、制作者の作家性などをテーマに自由闊達(制御不能?)なトークが繰り広げられました。

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このシンポジムの様子は、後日、文研ホームページで動画配信を予定しています。どうぞお楽しみに。

また、今回は午後の時間帯に1階ラウンジで、「文研カフェ」をオープン。文研の調査研究内容を紹介した各グループ力作のパネルを見ながら、登壇者やゲストと質疑を交わしていただくなど、交流の場としてにぎわっていました。

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文研各部グループ作のパネルを展示
世論調査部 視聴者調査グループとメディア研究部 メディア動向グループのパネル(クリックすると拡大表示されます)

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シンポジウム終了後の文研カフェ

3日間にわたったプログラムには、応募開始直後から多くの申し込みをいただきましたが、座席数の関係でご来場いただけなかった方も出てしまい、大変申し訳ありませんでした!
そんな皆さんに、会場でお配りした文研作成の資料を、近々「文研フォーラム」のホームページに掲載する予定ですので、ぜひご活用ください。
また、いくつかのプログラムでは、『放送研究と調査』の6月号、7月号等に採録を予定していますので、こちらもぜひご一読ください。
文研フォーラムはここ数年、毎年3月に開催しています。文研の一年間の調査研究成果に、多少のテレビ的演出も加え、分かりやすい発表に努めております。来年度もご期待ください!
ご来場いただきました皆さん、ありがとうございました。

ことばのはなし 2017年03月10日 (金)

#69  「俺はナンバーワンになりたいんだ」 ←誰が言ったことばでしょう?

メディア研究部(放送用語・表現) 太田眞希恵

 俺はナンバーワンになりたいんだ
 200mでは世界記録を狙いにいく
   
 俺はやると言っただろう
 自分を誇りに思うよ


これは、リオデジャネイロオリンピックを伝えるテレビ番組に出た、ある外国人選手のインタビューについていた翻訳テロップです。誰のインタビューかわかりますか?

このインタビューの話者は、陸上男子100m、200m、4×100mリレーに出場して3つの金メダルをとったウサイン・ボルト選手(ジャマイカ)です。多くの人がこの選手を思い浮かべたのではないでしょうか。「200m」「世界記録」というのが大きなヒントになったとは思いますが、実はそれ以外にも、多くの人を正解に導くヒントがあります。それは、「」という1人称代名詞や、「~んだ」「~よ」などのことばづかいです。ボルト選手らしいことばで訳されています。
このような“ある人物像と結びついた特徴あることばづかい”のことを「役割語」といいます。ちょっと聞きなれないことばですよね。先行研究にある次のような例題を解いてみると、イメージがつかめると思います。

問題 次のa~hとア~クを結びつけなさい。
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『<もっと知りたい!日本語> ヴァーチャル日本語 役割語の謎』金水敏 著(岩波書店)より (※正解は末尾に)

この「役割語」については、日本語研究の分野でいろいろな研究が進んでいます。漫画や小説などフィクションの世界で使われることが多いのですが、ノンフィクションの分野であるテレビのスポーツ放送でも、外国人選手のインタビューにあてた翻訳のことばにけっこう使われていることがわかっています。最初にご紹介したボルト選手の翻訳テロップもその例です。

さて、「俺」という1人称代名詞や、「~さ」「~よ」「~んだ」などの男性的なことばづかいが似合うボルト選手ですが、リオデジャネイロオリンピックのテレビ放送では、次のような翻訳テロップもありました。

 リオでのゴールと私の夢は同じです
   
 僕はなぜか他の種目より
 200mでいつも緊張するんです
   
 そうです リオが最後です


これらの翻訳テロップでは、「」「」や、「~です」という丁寧な表現が使われていました。このような違いは、なぜ現れるのでしょうか。

こうした、オリンピック放送に使われた翻訳テロップの「役割語」について研究・分析したものを『放送研究と調査』3月号に掲載しました。
 ■再考 オリンピック放送の「役割語」 ~“日本人選手を主人公とした「物語」”という視点から~ 
  『放送研究と調査』2017年3月号

2008年の北京オリンピックの際に分析した下記のものと合わせてお読みいただくと、オリンピック放送で展開される「役割語」の世界について、さらに理解できるかと思います。
 ■ウサイン・ボルトの“I”は、なせ「オレ」と訳されるのか ~スポーツ放送の「役割語」~
  『放送研究と調査』2009年3月号


ぜひ、お読みください。

 …これを「役割語」ふうに言うと、
「ぜひ、読んでくれよな」  (ボルト選手ふう)
「ぜひ、お読みくださいませ」(奥様ふう)
「ぜひとも、読むのじゃぞ」 (博士ふう)
「ぜったい、読んでよね」  (男の子 または 女の子)
…あなたなら、どんなふうに言いますか?

「ぜったい、読んでよ! ちゃんと読みなさいよ!」(家で息子に言うときの私…)



「問題」の答え:a-エ,b-ウ,c-ク,d-ア,e-キ,f-イ,g-カ,h-オ

放送博物館 2017年03月03日 (金)

#68 NHK放送博物館 特別展「東日本大震災 伝え続けるために」

メディア研究部(メディア動向) 入江さやか
メディア研究部(メディア史研究) 東山一郎

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2011年3月11日 午後2時46分。
「あの日、あの時」からまもなく6年がたとうとしています。みなさんの心の中ではどのように記憶されているでしょうか。

NHKは地震発生から総力を挙げて災害報道にあたり、今も被災した方々と被災地の姿を見つめ、伝え続けています。今回、災害報道に関する資料の展示という形で東日本大震災を振り返ります。NHK放送博物館では、3月7日(火)から9月10日(日)までの半年間、特別展「東日本大震災 伝え続けるために」を開催します

NHKは昨年、各地の放送局や職員が保管していた東日本大震災に関する資料を収集しました。震災から5年が経過し、散逸するおそれがあったためです。取材ノートや被災地の「前線」での引き継ぎメモなどの資料には、記者やカメラマンをはじめ、あのとき被災した地域に入った者だからこそ、見て、聞いて、感じたことが刻み込まれています。これらは未曾有の大災害を伝える貴重な「記録」であり、伝え続けていくべき大切な「記憶」でもあります。
これらの資料に、当時の映像や写真、そしてこの6年、震災を伝え続けている番組の資料などを加えて今回の特別展を構成しました。記者やカメラマンたちは、何を感じ、何を考えたのか。取材ノートや写真には、甚大な被害を前にした戸惑いや葛藤など取材者たちがつづった手記を添えています。
仙台放送局の「被災地からの声」は、発災まもない時期から継続的に被災者の肉声を伝え続けている番組です。被災した方々が自筆でスケッチブックにメッセージを書き、テレビカメラに向かって思いのたけを語ります。被災した方々の思いが込められた、このスケッチブックもご紹介します。
亡くなった方に寄せる家族のメッセージを思い出の写真とともに伝える「こころフォト」からは、失われた一人一人の命の尊さと、残された方々が震災後の日々をどのように生きようとしているのかがうかがわれ、胸に迫ります。

特別展の準備で数々の資料に目を通す中で、私たちは「あの日、あの時」を忘れてはいけない、そしていつかまた来る大災害に備えなければならないと強く感じました。この展示が、東日本大震災の記憶を風化させず、いまだ傷跡深い被災地に思いを寄せていただく一助になればと思います。

今回の特別展は、9月10日(日)までの半年間に及びます。ぜひ、愛宕山のNHK放送博物館に足をお運びください。


NHK放送博物館

休館日 :月曜日(月曜日が祝日・振替休日の場合は火曜日休館)、年末年始
入場料 :無料
開館時間:午前9時30分~午後4時30分
所在地 :〒105-0002 東京都港区愛宕2-1-1  
TEL  : 03-5400-6900

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(ホームページはこちら)  


 

文研フォーラム 2017年02月21日 (火)

#67 いま「ポッドキャスト」が新しい?

メディア研究部(海外メディア研究) 柴田 厚

3月1日(水)・2日(木)・3日(金)に行われる「NHK文研フォーラム2017」の2日目に『米ラジオ・オンデマンド時代の到来か? ~拡大する「ポッドキャスト」サービス~』の研究発表を行います。

ポッドキャストって、いつの話?」というご指摘は、ある意味ごもっともです。日本のラジオはNHKの「らじる★らじる」、民放の「radiko」で多くの番組のストリーミング配信が聞け、世界的に見てもかなり進んだ状況です。でも、国土が広く、日本ほど通信環境が整備されていないアメリカでは、スマートフォンなど自分の携帯端末にコンテンツをダウンロードして聞く「ポッドキャスト」の“第2(第3とも)の波”が訪れ、いま静かなブームになっています。

その牽引役は、まずは「スマートフォン」。そして、確かな番組作りで知られる公共ラジオ「NPR」です。彼らの特徴は、政治・経済から、音楽、映画、歴史、笑い、クイズ、ドキュメンタリーまでさまざまなジャンルのポッドキャストを提供していることです(全て無料)。1回20分から30分程度、難しすぎず、かと言って薄っぺらくもない内容は、個人的には「万人受けはしないけれど、好きな人にはたまらない“NHK教育テレビ的”だ」と思っています。

そして、もうひとつ別の“波”も。世界を揺るがせているトランプ新政権をきびしくウォッチングするために、アメリカを代表するNew York TimesとWashington Postの2大紙が、相次いでポッドキャストを始めました。いわば、異業種からの参入です。NYTは『The Daily』の名の通り、毎日の配信。WPは『Can He Do That?』、(彼にできるの?)というタイトルが痛烈です(週1回の配信)。デジタルの普及でメディアの垣根が低くなっている今、ポッドキャストはさまざまな人が参加できるメディアになっています。

もちろん収益につなげることや、たくさんのコンテンツの中から見つけてもらう難しさなどの課題もありますが、デジタル時代に“個人の息吹を感じとることができるメディア”として、その可能性は今後広がるのではないかと感じています。実際、出演したNYTの記者に「そんなことまでしゃべっていいの?」と驚いたり、WPの記者が言いよどんだりするところで、妙に安心したりしました。ああ、人間らしくていいな、と。テクノロジーの力もありますが、『語りの力』を再認識できるアメリカのポッドキャスト。

まだまだ発展途上の“古くて新しいメディア”ポッドキャストの可能性について一緒に考えませんか。3月2日(木)の研究発表へのご参加をお待ちしています。 

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(参加申し込みはこちらから↓)
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文研フォーラム 2017年02月17日 (金)

# 66 台湾新政権は「メディアの公共性」を実現できるか

メディア研究部(海外メディア研究) 山田賢一

台湾では去年5月、民進党の蔡英文新政権が発足しました。親が政治家でない、かつ女性の最高指導者は、アジアでは珍しいとして注目を集めましたが、この新政権の特色として指摘されるのは、「メディアの公共性」を重視していることです。
従来、台湾では、メディアは財閥オーナーの所有物という側面が強く、2008年に中国時報グループという大手メディアグループの経営権を食品事業者の旺旺が握った際は、中国をほめたたえる報道が急増、中国事業で多大な利益を上げる旺旺のオーナーの意向が働いたとして、メディア関係者や市民の警戒が高まりました。
こうした声に配慮する新政権は、メディア政策として①公共放送の充実②「財閥のメディア支配」排除、の2点に力を入れています。このうち①に関しては、新理事の選出にあたって、多くのメディア関係者や女性を候補者としてリストアップ、これまでより大幅に「若返り」と「多様化」が進みました。また②に関しては、財閥の通信事業者「遠傳」によるケーブルテレビ事業者最大手「中嘉網路」の買収に政府の投資審議委員会が待ったをかけ、独立規制機関のNCC(国家通信放送委員会)に審査のやり直しを求めています。

こうした新政権の政策について、与党民進党や、与党に近い政党の時代力量はおおむね肯定的ですが、商業局や野党国民党それにメディア研究者の一部は、①の公共放送の規模拡大について、民業圧迫や官僚主義による非効率につながると批判しています。一方②に関しては、与野党を通じ「遠傳」の買収に否定的な見方が多く、ある程度のコンセンサスが得られる可能性もあります(その後2月8日に中嘉が売却断念を発表)。
当面新政権のメディア政策で最も大きな課題は、公共放送充実のために必要とされる【公共テレビへの政府交付金増額】と【公共放送グループ(現在は公共テレビを中心に、中華テレビ、少数派住民向けの客家チャンネル、国際放送の宏観チャンネルで構成)の構成員拡大】に向けての公共テレビ法改正です。しかし台湾では現在、年金改革や同性婚合法化といった社会の関心の高い案件が目白押しで、公共テレビ法改正案がいつ立法院(国会)に上程されるかメドはたっていません。政策の実現にはまだまだ山あり谷ありの状態で、今年どのような動きが見られるか注目されます。

詳細は、3月1日から3日にかけて行う「NHK文研フォーラム2017」の最終日(3日)午前10時から報告いたします。ぜひご参加ください。

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