文研ブログ

メディアの動き 2017年06月23日 (金)

#84 2016年米大統領選でテレビメディアはどう変わったか?

メディア研究部(海外メディア研究)  藤戸あや

アメリカのトランプ大統領の『ツイート』がニュースを賑わすことは、もはや珍しくもなくなりました。大統領に就任したら少しは控えめになるかと思いきや、トランプ節は今も健在です。ロンドンで6月に起きたテロの後にはTwitterでロンドン市長の発言を批判したことを非難されると、「哀れな言い訳」と反論したあげくに「主流メディアはこれを騒ぎにしようとしている!」と、かみつく。敵意むき出しの個人攻撃には、読む側が思わずたじろぐほどです。

そんなトランプ氏の歯に衣着せぬ過激な言動もさることながら、「異例尽くし」といわれた2016年米大統領選で私が驚いたのが、アメリカの主要なテレビ局が多様な経路やプラットフォームで選挙関連の映像ニュースを発信していたことでした。しかもテレビ局だけでなく、ネット上では新聞や雑誌、ラジオなどあらゆるアメリカの主要な報道機関も映像ニュースを発信していて、元の業態の違いはほとんどわかりません。「映像ニュースがテレビの専売特許だった時代は終わった」、そんな強い印象を受けました。

しかもネット上には、名の知られた報道機関だけでなく新興のネットメディアも次々と誕生していて、プラットフォーム事業者も独自にライブ配信を行っていました。加えて事実と異なる情報を意図的に流す『フェイク・ニュース』も入り乱れている・・・。ネット上で一体どの情報を信用すればいいのか。さらにいうと、何が『メディア』なのか?2016年米大統領選はアメリカのメディアと社会に対し、根源的な課題を突きつけたといえるでしょう。

この歴史に残る米大統領選が終わった1か月後、私はアメリカで13人のメディアの専門家にインタビューしてきました。印象的だったのはフロリダ州にあるPoynter Instituteのアル・トンプキンス講師の話です。

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Poynter Instituteのアル・トンプキンス講師  ~宝物のサイン入り写真(後述)の前で~

エミー賞など受賞歴多数、ベテランのテレビジャーナリストでもあるトンプキンス氏は、今回の大統領選報道でテレビメディアが現場での取材ではなく、コメンテーターの論評を大幅に増やし、報道としての質を下げたと指摘するとともに、実は広告収入が落ち込み財政危機にさらされていることがこの問題に大きく影響している、と険しい表情で語りました。インタビュー終了後、宝物だと言って見せてくれた伝説のキャスターのウオルター・クロンカイトのサイン入り写真を眺めながら「(財政難で)解雇される記者の中には僕の友人もいる。この国のジャーナリズムはどうなってしまうのか」と、それまでの熱弁とは打って変わった口調で突然、ポツリと言った時のトンプキンス氏の表情は忘れられません。記者を解雇しなくてはならないほど深刻な財政難に陥っているのに、ネット上での展開を次から次へと拡充していかざるを得ないアメリカのメディアの厳しい現実と、ジャーナリストの苦悩をかいま見た気がします。

財政状況は厳しくても、アメリカのメディアが昨年の大統領選挙報道で多プラットフォーム展開を一気に推し進めていった狙い、成果とはなんだったのか。そして一連の新しい取り組みを行ったことは本業にどう影響し、どんな課題が残されたのかを、テレビメディアを中心にアメリカで取材してきました。関心がある方はこちらからお読みください。

おススメの1本 2017年06月16日 (金)

#83 地域情報を掘り起こす放送局とは

メディア研究部(メディア動向) 関谷道雄

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地方出張時に自身に課していることがあります。各地の放送局のローカル番組を視聴し、地方紙を読むことです。地方紙は東京でも国会図書館などで読めますが、各地の放送局のローカル番組はその地でしか見られません。東京ではなかなか知ることができない各地の話題や地域の問題に触れる。そしてそこに暮らしている人たちと話す。同時代に生きてはいますが、なかなか知り合う機会がない人たちの息吹を体感する一瞬です。

今回の調査は、そうした各地の人たちの息吹を放送局がどれだけ伝えられているだろうかという発想からスタートしました。具体的には各地の放送局がそれぞれの地域の情報をどれだけ発信しているか、つまり、放送局の地域性はどうなっているかという視座です。

ローカル局の地域情報の発信量が十分であるかどうかについては、厳しい見方があります。マンパワーや制作費などの制約があるだけに、やむを得ない側面はあるでしょう。ただ、媒体が異なるので簡単には比較できないものの、地元紙の発信量を下回っている局が多いように思います。

「日本全国どこへ行っても、同じ番組ばかり」という指摘を時折耳にします。要はキー局、つまり東京発の情報がテレビを通じて日本全国にあふれていることを、多くの人たちは実感している、そのように受け止めています。その陰で、地元の情報、地域の問題は逆に見えにくくなっているかもしれません。目を凝らしてそうした情報、問題を探し当て、放送を通じて伝える――。これがローカル局に課せられた使命のはずなのですが。

今回、『放送研究と調査』6月号「“地域性”に回帰する民放ローカル局の可能性」で、地域性に回帰した放送局の新たな可能性を3つの事例をとおして見つめました。いずれも印象的でしたが、個人的に最も記憶に残ったのは山陽放送でした。同社OBの曽根英二氏が取材し、1992年に放送した『おっちゃんの裁判』をかつて視聴した記憶がよみがえったからです。先日、四半世紀を経て横浜の放送ライブラリーで改めて見てみました。“おっちゃん”は岡山市で暮らしていた、ろうあ者の方です。600円の窃盗容疑で生涯後半の20年近い歳月を刑事被告人として生きることを余儀なくされました。このような人は日本全国に大勢いるわけではありません。多数の被害者がいる社会問題とは異なります。しかし、“おっちゃん”のような扱いを受ける人が一人でもいるならば、それは見過ごしてはならない問題です。「メッシュを細かくして、地域の情報を掘り起こし、全国へ問題提起していきたい」という同社の原憲一社長の言葉が心に刻まれました。

調査あれこれ 2017年06月09日 (金)

#82 小学校の教室でよく見られている番組は?

メディア研究部(番組研究) 宇治橋祐之

子どものころ、小学校の教室でNHKの教育テレビの番組を見たことがありますか? 店長を目指すチョーさんが町探検をしてその結果を「たんけん地図」にまとめる社会科番組『たんけんぼくのまち』や、テーマソングが印象的な『みんななかよし』『さわやか3組』を覚えている人も多いのではないでしょうか。『ざわざわ森のがんこちゃん』『えいごリアン』など、今も見ることができる番組を思い出す人もいるかもしれませんね。

こうした学校の授業で教師と子どもが一緒に見ることを考え、年間のカリキュラムに沿って制作されている番組を「学校放送番組」といいます。NHKでは1935(昭和10)年から80年以上、ラジオやテレビで放送を続けてきました。最近ではNHK for Schoolというウェブサイトで、番組や関連する動画が見られます。

放送文化研究所では、学校放送番組をはじめとするさまざまなメディアがどのように授業で利用されているのかを継続して調査しています。昨年10月から12月にかけては、「NHK小学校教師のメディア利用と意識に関する調査」を実施し、全国の小学校から6割を超える先生方にご回答いただきました。本当にありがとうございます。

学校のテレビはビデオリサーチの世帯視聴率調査や放送文化研究所の個人視聴率調査の対象外なので、教室で子どもたちがどんなテレビ番組を見ているかが具体的にわかるのもこの調査の大きな特徴です。
今回の調査でもっともよく見られていたNHKの学校放送番組は、小学6年生対象の社会科番組『歴史にドキリ』でした。2012年から放送の番組です。小学校の先生全体でも利用がいちばん多い番組でしたが、全国の小学校6年生担任の先生の61%が、調査期間の2016年度に番組かウェブサイトのいずれかを授業で利用していました。

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番組では歌舞伎役者の中村獅童さんが、卑弥呼や織田信長など、小学校で学ぶ52人の人物に変身します。各時代の学習ポイントをまとめた映像とあわせて、歴史上の人物に扮して歌い踊る「ドキリ★ソング」で楽しく歴史を学べます。例えば「卑弥呼」の回では、「むらからくにへ by卑弥呼」というタイトルで公開されています。
歌や踊りを交えながら、子どもたちが歴史に興味をもって学べるので、多くの先生に利用されているようです。
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小学校の教室で今、どんな映像が見られているか。どんなメディアが利用されているか、そして最近急速に広がっているタブレット端末の利用の様子など調査の報告は、「放送研究と調査」6月号に『進む教師のメディア利用と1人1台端末時代の方向性~2016年度「NHK小学校教師のメディア利用と意識に関する調査」から~』として掲載されています。
(ウェブ上では、7月に文研ホームページで全文を公開します。)

おススメの1本 2017年06月02日 (金)

#81 "放送倫理の番人"の10年

メディア研究部(メディア動向) 塩田幸司

BPO(放送倫理・番組向上機構)の3つの委員会のひとつ「放送倫理検証委員会」(以下検証委)が今年5月に10周年を迎えました。下の写真は10周年を記念して3月に開かれたシンポジウムの様子です。シンポジウムでは、検証委の現役委員で映画監督の是枝裕和さんら関係者が、この10年間に放送倫理をめぐってどんな問題が起き、検証委がどう対応をしてきたかを振り返りました。

81-0602-1.jpeg検証委は、『発掘!あるある大辞典Ⅱ』のデータねつ造事件をきっかけに起きた放送規制の動きに対して、放送の自主・自律を守るために、NHKと民放連が2007年5月に自主的に設立した第三者委員会です。ですから検証委は、放送現場から恐れられる放送倫理の番人であると同時に、放送への圧力に対峙しながら萎縮しないように現場を励ますという面も持っているのです。  

検証委は、放送現場で起きた問題について放送倫理違反にあたるかどうかを話し合い、その判断結果を「勧告」「意見」といった「委員会決定」として、その放送局に伝えるとともに公表してきました。この10年間に25件の委員会決定を出しています。この25の決定文を読んでいくと、しばしば既視感に襲われます。それは同じような事案が繰り返し起き、必然的に指摘される問題点も同じようなものになるからです。具体的には、ニュースや報道番組での証言・インタビューが不適当なものや、バラエティ番組で不正確な事実や不適当な演出が行われた例などです。

こうした同じような問題が繰り返される背景には、委員会決定で指摘されても放送現場に十分に届いていないことが考えられますし、指摘されたことが放送現場の構造的な問題にかかわるために一朝一夕に変えることが難しいのかも知れません。いずれにしても検証委にとっても放送界にとっても重要な問題にかかわっています。この既視感にとらわれる問題を中心に委員会決定を分析し、検証委の今後の課題についても考えてみました。

当NHK放送文化研究所編集の『放送研究と調査』5月号に「立体検証・BPO放送倫理検証委員会の10年」としてまとめましたので、ぜひご覧ください。昨日6月1日から、文研ホームページで全文を公開しています。

ことばのはなし 2017年05月26日 (金)

#80 『NHK日本語発音アクセント新辞典』を使いこなすために・・・

メディア研究部(放送用語・表現) 太田眞希恵

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 「ピンクのきらめきが素敵です」
 「重いけど(程よく鈍器)、これから使うのが楽しみです」・・・などなど、
ちょうど1年前(2016年5月末)に刊行された『NHK日本語発音アクセント新辞典』には、刊行した直後から、ネット上でさまざまな反響がありました。
中には、「重量も・・・989gに増量」と、編集部の私たちでさえ知らなかった重さをわざわざ計って教えてくださった方も・・・。ありがとうございました。
そんな“ピンク色の重いヤツ”(=『NHK日本語発音アクセント新辞典』)は、皆さんの“相棒”としてお役に立っているでしょうか。

今回の『新辞典』は、“アクセント記号を変える”という最大の変更がありました。利用者の皆さんにとっても、やはりこれがいちばん大きな“変更点”だったようで、「記号が変わって読みづらい!」という声から「PCで入力できるから歓迎すべき」という声まで、賛否両論のさまざまな反応がありました。
しかし、慣れるまでは、混乱や誤解もあるようです。例えば
 「『熊』に、頭高のアクセント[ク\マ]が加わったと聞いたけれど、見つかりません!」
という問い合わせもありました(←それもNHKのアナウンサーから!)。

それは、こんな理由によるものです。「熊」ということばの『新辞典』での表示例です。
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このように、『新辞典』では、第2アクセント以降についてはスペースの関係もあって、“フル表示”をすることなく、記号を使って“その直後に下がり目がくる音を□(四角)で囲んで示す”ということにしています。この、第2アクセント、第3アクセント・・・の記号表示がわかりにくいらしく、なかなかこれに気づいてもらえない、という事態がよくあるようなのです。ちなみに、海藻の「わかめ」は、このように載っていますよ。
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・・・ということで、刊行から1年。“ピンク色の重いヤツ”=『新辞典』を使いこなすために、これまで受けた質問などをまとめた「使い方Q&A」を、文研のサイトに掲載しました。
例えば、以下のような質問に答えています。

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同じページからは、『新辞典』改訂に携わった文研の研究員が書いたシリーズ論文「『新辞典』への大改訂」(全11回)や、「ポイント解説」動画(文研フォーラム2016より)にもアクセスできます。

日本語のアクセントについて、もっともっと知ってもらいたい。私たちの「オモイ」を、この「オモイアクセント辞典から、ぜひ感じとってください。

放送ヒストリー 2017年05月19日 (金)

#79 その伝説を知っていますか? オリンピック「実感放送」

メディア研究部(メディア史研究) 小林利行

“災い転じて福となす”
ことわざというのは、本当にあることだから言葉として残っているんだなぁ~としみじみ思いました。

1932(昭和7)年のロサンゼルス五輪。日本で初めてオリンピックを実況しようと、日本放送協会はアナウンサーなど4人の職員を派遣しました。

しかし、主催者とアメリカの放送局の間で放送権料をめぐるトラブルが発生し、開催直前になって実況することができなくなってしまいました。そこで、競技を観戦したアナウンサーがその場でメモを取って、競技場の近くのスタジオに移動してから、海を越えた日本に向けてあたかも実況しているように放送したのです。(ちなみにアメリカの放送局は、ニュース形式で競技の結果などを伝えただけでした)

これは「実感放送」と呼ばれたもので、当時の聴取者に大好評だった上に、その職人芸的な手法から放送史上の一種の伝説となって語り継がれています。もし、普通に実況できていたとしたら、このような伝説は生まれなかったでしょう。
まさに“災い転じて福となす”ですね。

79-0519-2.jpegラジオの前に群がる人々

有名な出来事なのでこれまでも多くの書籍や論文に取り上げられていますが、これらを読んでいるうちに、ちょっと気づいたことがあります。それは、「実感放送」に至る“経緯”の話が中心となっていて、それが生まれた“背景”にはほとんど触れられていないということです。そして、「実感放送」はこのとき初めて生まれたという意味合いで語られているのです。

へそ曲がりの私は、「実況できない状況で実況のように伝える」という行為そのものに着目して、史料を調べなおしてみました。そこには、「派遣された人たちは、本当に都合よくこんなことをその場で考えついたのかな?」という疑問もありました。(大先輩の方々、すみません・・・)

調べてみると、ロス五輪以前にもいくつかの“疑似的実況”が行われていたというではありませんか。しかもその一つには、ロス五輪に派遣されていたアナウンサーも関わっていたのです。これらのことから、ロス五輪の「実感放送」は、それまでに積み上げられてきた試行錯誤の一つの結実点だったと捉えるべきではないか、と考えました。
ロス五輪の「実感放送」では、“災い”が“福”に転じたのですが、それまでの下地があったからこそ“福”をつかめたのだと私は思います。

では、その“下地”とは、具体的にどんな出来事だったのでしょうか?
放送史の研究歴が浅い私は、それらを見つけたときに「え! こんなことやっていたの!! 」と驚いてばかりいました。
例えば、昭和天皇の即位式は、アナウンサーもその様子を直視することが許されなかったというのです。では、そのときどう“実況”したのか・・・・。

気になる方は『放送研究と調査』5月号をご覧ください。
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メディアの動き 2017年05月12日 (金)

#78 台湾新政権 「財閥のメディア支配」排除に乗り出す

メディア研究部(海外メディア研究) 山田賢一

台湾では、メディアというものは財閥のオーナーなど、お金持ちの所有物というイメージがあります。
そのことを如実に示したのが、2008年にあった中国時報グループの経営権委譲でした。
中国時報グループは、新聞の中国時報・工商時報に加え、テレビの中国テレビ・中天テレビも併せ持つ「クロスメディア所有」のメディアグループですが、当時は経営難に陥っていました。
これを事実上買い取ったのが、なんと食品事業者の「旺旺」(ワンワン)グループ、日本でいうと、明治や森永がTBSやテレ朝を買うという話ですから、「事業の関連性はどこにあるの?」という疑問がわきます。
この疑問を氷解させたのが、その後の旺旺傘下のメディア報道で、「中国を褒めたたえる」ニュースが急増したことでした。旺旺の事業利益の大半は中国ビジネスで上がっていたので、メディア関係者は旺旺のワンマンオーナー、蔡衍明(さい・えんめい)氏が中国政府に配慮して報道を動かしていると見ました。
旺旺はその後もケーブルテレビ大手の中嘉網路をはじめ、旺旺の膨張に反対していたりんご日報まで巨額の資金で買収しようとしたため、学生を中心とする「反メディア集中」運動が起き、蔡氏はこれらの買収を断念せざるを得なくなりました。
この旺旺の事案を契機に、「財閥のメディア支配」に対する厳しい声が強まり、財閥に近いとされる国民党が去年の総統・立法院選挙で共に大敗する一因ともなりました。

78-0512-1.pngのサムネイル画像 NCC(国家通信放送委員会)

最近問題となったのは、遠傳という通信事業者による中嘉網路の買収事案です。
遠傳は遠東グループという財閥の系列会社で、通信・放送融合の時代に合わせ、大手ケーブルテレビ事業者の顧客基盤を手に入れようとしました。
選挙で国民党が大敗することは予想されていたため、おととし7月の段階で計画を発表、国民党政権のうちに買収の承認を得ようとしたようです。
独立規制機関の国家通信放送委員会(NCC)は、選挙が終わった後、新しい立法委員(国会議員)が就任する直前(5日前)に、条件付き承認の決定をしました。
これに対し多数派となった民進党議員の多くは強く反発、最終的な決定を下す経済部(日本の経済産業省に当たる)の投資審議委員会は去年9月、NCCに審査のやり直しを求めました。
国会からの風当たりが強まる中、中嘉網路は今年2月、遠傳への売却断念を発表、民進党新政権の「財閥のメディア支配」排除の意向が貫徹される形となりました。

こうした動向の他に、インフラを受け持つケーブルテレビ事業者による、コンテンツを受け持つチャンネル事業者の買収という「垂直統合」の事案なども含め、メディアの公共性を重視する台湾新政権のメディア政策を分析しました。

『放送研究と調査』5月号に掲載してありますので、どうぞご覧ください。

放送博物館 2017年05月09日 (火)

#77 NHK放送博物館に『探検バクモン』が突撃!

放送博物館 谷内美穂

立ち入り禁止のエリアなどふだんはめったに見られない場所を爆笑問題が訪ねる、NHK総合テレビで放送中の知的エンターテインメント『探検バクモン』(毎週水曜 夜8時15分~)。番組がスタートして5年目の春、満を持して、NHK放送博物館が登場することになりました!

1956年に世界で初めての放送専門のミュージアムとして開館した当館は、放送機器や番組で放送の歩みをたどる展示室など、公開している場所はこれまでもテレビの画面に登場したことがあります。ですが、今回は『探検バクモン』の取材ということで、一般の方は立ち入ることのできない、当館の隠れた一角にもテレビカメラが入りました。

番組の撮影が行われたのは、放送博物館を彩る、東京・愛宕山の桜がようやく咲きかけた頃でした。館内を探検するのは、爆笑問題の太田光さんと田中裕二さんタレントのサヘル・ローズさん、そして、特別ゲストとして、女優の中村メイコさんです。学芸員である私が、みなさんをご案内しました。

中村メイコさんは、幼い頃からNHKの番組に出演し、放送の歴史とともに歩んでこられた方です。タモリさんいわく「動く放送博物館」(!)です。昭和15年、6歳の時には、日本で2番目に制作された『謡と代用品』というテレビドラマに、姉妹の妹役で出演されました。もちろんその頃のテレビはまだ実験段階のため、撮影は技術研究所(現:NHK放送技術研究所/東京・世田谷区)で行われました。メイコさんが当時の思い出を語ってくださいました。

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テレビドラマ『謡と代用品』の撮影の様子(出演者中央が中村メイコさん)

そして、『探検バクモン』ならではの「探検」に向かったのが、放送博物館の資料庫でした。当館では、テレビカメラやマイクロホンなどNHKの放送現場でこれまで活躍した機器はもちろんのこと、家庭で使われていたラジオ受信機やテレビ受像機、放送の記録や番組の小道具などの文献・物品など、放送に関わる資料をあわせて約3万点所蔵しています。公開展示しているものはそのうちの一部で、資料庫には、まだまだみなさまにお目にかけていない“お宝”がたくさんあります。

そんな資料庫に突入した爆笑問題の太田さんと田中さんは、威風堂々とした、さまざまな時代の懐かしのブラウン管テレビが居並ぶ中に、持ち運びができる小型テレビを発見!探検のワクワク感いっぱいの面持ちで釘づけになっていました。

どの博物館にも収集した資料を保管する資料庫がありますが、ここはまさに博物館の要の部分で、収蔵資料は常設展の資料同様に、博物館が後世に向けて大切に守っていかなければならないものです。そのため、このスペースは一般の博物館と同じく当館でも非公開ですので、はたしてどんな“お宝”が潜んでいるのか、その映像は必見です!

77-0509-4.JPG ただいま、資料庫を撮影中! 

このブログでご紹介した以外にも、番組には、放送の歩みがわかるさまざまな展示や、道具を使って効果音作成の体験ができるコーナーでのみなさんのチャレンジの様子など、当館の魅力を感じていただける内容が満載です。お楽しみに。

NHK放送博物館が登場する『探検バクモン』は、5月17日(水)午後8時15分からの放送です。番組をご覧になって、「もっと展示が見たい!」と思われたみなさん、そして当館に興味を持たれたみなさんは、どうぞご来館ください。お待ちしています!

※放送は終了いたしました。


NHK放送博物館
休館日 :月曜日(月曜日が祝日・振替休日の場合は火曜日休館)、年末年始
入場料 :無料
開館時間:午前9時30分~午後4時30分
所在地 :〒105-0002 東京都港区愛宕2-1-1  
TEL  : 03-5400-6900
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(ホームページはこちら)  


 

おススメの1本 2017年04月28日 (金)

#76 月を指さす人の「指」

メディア研究部(メディア史研究) 宮田 章

アーカイブに保管されている過去の膨大な放送番組は、放送局の「財産」だとよく言われます。ただ、これが具体的にどういう価値を持つ「財産」であるかはまだはっきりしません。ここではテレビドキュメンタリーを研究する者の立場から、過去の放送番組が潜在的に持っている価値を十分に引き出す研究とはどんなものか考えてみましょう。

現状、放送番組のアーカイブ研究で数的に主流なのは、「テレビが描いた○○」と名付けられるタイプの研究です。「沖縄戦後史」、「水俣病」、あるいは「高度成長期の東京」といったテーマを立てて、それぞれのテーマに関係する番組(ドキュメンタリーが多くなります)を選び出し、各番組がそのテーマをどのように描いているかを見ます。数十年前の水俣病患者の映像・音声が大きなインパクトを持つなどと今更言うまでもなく、過去の放送番組はこうしたテーマ研究の資料として価値を持っています。

ただし、アーカイブの側から見ると上記のようなテーマ研究は、過去の放送番組を使ってくれる大口の顧客ではあるものの、放送番組が潜在的に持つ価値を十分に引き出してくれているとは言えないところがあります。こうした研究では、放送番組全体からいえばごく一部の番組を選択し、選択した番組の中でもテーマに関係する部分だけをいわば「つまみ食い」するのが普通です。しかも、放送番組は研究の主要な資料ではなく、文書や関係者の証言や統計データといった他の様々な資料の中のone of themであることがしばしばです。また、今のところ映像や音声を資料としてどう扱うかについて定見があるわけではないので、諸資料の中での放送番組のプライオリティは必ずしも高くないでしょう。

76-0428.jpgではどんな研究なら、過去の放送番組がもつ価値をもっと大きく引き出すことができるでしょうか。色々アイデアはあるでしょうが、ここではテーマ研究の「逆張り」を考えてみましょう。つまり、放送番組の外に成立しているテーマの解明を目指して放送番組をそのone of themの資料とするのではなく、放送番組そのものの解明を目指してその番組が関係しているテーマをone of themの資料とするのです。様々な指(メディア)がさし示している月(対象)に重点を置いて研究するのではなく、様々な月をさし示している指の方に重点を置いて研究するわけです。メディア研究としてはこちらの方が普通でしょう。もちろん、「指」の研究は、それがさし示している「月」への言及なしに、あるいはその「指」の持ち主である「人」への言及なしには十分ではないので、「月」や「人」を取り上げないわけではありません。

『放送研究と調査』4月号に掲載した「テレビドキュメンタリーの音声分析」は、一本一本の番組に含まれる特定の種類の音声の量を手掛かりにしてテレビドキュメンタリーという「指」の解明を試みるものです。このやり方だと一部の番組のつまみ食いではなく全てのテレビドキュメンタリーを対象に、その「指」としての基本的なありようを探ることができます。月を指差す人の「指」の解明を目指すこうしたタイプの研究から、アーカイブに眠る放送番組が持っている価値が徐々に現れてくるのではないかと考えています。 

メディアの動き 2017年04月21日 (金)

#75 VICE(ワル)に魅(ひ)かれて...

メディア研究部(海外メディア研究) 柴田 厚

「VICE」(ヴァイス)
というアメリカのメディアをご存じですか?
特に若者に人気があり、いま上り坂のメディアです。

日々、アメリカメディアの動きをウォッチングしていると、時々“引っかかって”くるメディアがあります。VICEもそんなひとつでした。数年前から、まずその名前が気になっていました。「VICEか…。“悪(ワル)”って自ら名乗る人達ってどうよ?」

次にそのコンテンツ。ひと言でいえば“あぶないもの”が多いのです。麻薬、犯罪、戦争…。さらに、リポートの中で人間の遺体を映し出します。しかし、ただの露悪趣味だけではないものがありました。

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シェーン・スミス氏(VICE提供)

そして、その代表。シェーン・スミスというCEO(最高経営責任者)ですが、写真のとおりインパクトがあります。新興メディアの創始者には「品行方正で理知的」というイメージの人が多い中、彼の“異質感”は際立っていました。ちょっとコワそうだけど、会ってみたいと思いました。

さらに、VICE本社の建物。レンガ作りの古い倉庫風で、写真で見た瞬間、「VICEらしい」と思いました。それも多くのメディアがひしめくNYのマンハッタンではなく、川を隔てたブルックリンにあるということにも魅かれました。ここに行ってみたいと思いました。

そんなVICEが、月曜から金曜までの夕方のニュース番組を始めるという情報が入ってきました。「イブニングニュース」と言えば、アメリカのテレビニュースの看板・代名詞です。ABC、CBS、NBCのネットワークがしのぎを削り、かつては「アメリカ国民は夕方6時半のニュースで世界の動きを知る」とか「そのアンカーは大統領より信頼されている」などと言われたものです。そこに“異端児”VICEが参入するというのは、かなりの驚きでした。「ネットからテレビに進出って、今の時代の流れと逆じゃん」とも思いました。

VICEそのものをもっと知りたい、さらにどんなニュースをやろうとしているのかも知りたいとあちこち調べましたが、どれも断片的な情報で総括的なものがありません。「じゃあ、自分で書くしかないか」と(ちょっとカッコよく言えば)腹をくくりました。せっかくなら、2016年10月に始まるという新しいニュース番組に合わせて訪問、取材するのがいいのではないかと準備を始めました。若者の既存メディア離れが日米ともに進む中、VICEの何が彼らを引き付けるのかを知りたいと考えました。

…と、今回なぜVICEを取り上げたかについて述べましたが、それがどんなメディアかについては、『放送研究と調査』4月号の「拡張を続けるアメリカ新興メディアVICEの行方 ~雑誌からネット、テレビ、その先へ~」をお読みください。



本編には書かなかったのですが、ひとつ補足しておくと、VICEは決して「ワルの集団」ではありませんでした。むしろ取材対象に寄り添う“優しさ”のようなものを随所に感じました。働く人は若者が多く、彼らはとても真摯で、真面目にジャーナリズムとアメリカのこれからを心配する人たちでした。英語で言えば、最近ちょっと流行りの「resilient(したたかな、しなやかな)」という感じで、彼らが引っ張る次世代のアメリカのジャーナリズムは(諸々の課題はあるにしても)大丈夫ではないかと感じました。ホントに?とお思いの方は、『放送研究と調査』4月号をご一読ください。文研ホームページでは5月に全文を公開します。