文研ブログ

2020年10月

メディアの動き 2020年10月27日 (火)

#279 これからの"放送"はどこに向かうのか? ~民放ローカル局の現状と今後の可能性①~

メディア研究部(メディア動向) 村上圭子


 10月11日、日本マス・コミュニケーション学会秋季大会がオンライン開催されました。
私は、「ローカルメディアの課題~ビジネスと公共的事業の両立は可能か?~」というワークショップに参加して報告を行いました。ローカル民放がおかれた現状と課題、そして今後を展望しました。
 報告したのは以下の4項目です。本ブログでは2回に分けて紹介していきたいと思います。
 ①厳しさ増す経営環境
 ②ローカル局改革議論の方向性
 ③ローカル局の公益的機能の今日的状況と課題
 ④地域報道・ジャーナリズムの持続可能性の担保

①厳しさ増す経営環境
 地上波民放(テレビ)の収入で圧倒的な存在感を持っているのがCMによる広告収入です。これは、地上波民放の放送サービスが開始した時から変わっていません。加えて、在京キー局や在阪・名の広域局等では、映画やイベント、不動産、最近では配信サービス等の「放送外事業」にも力を入れてきました。ただ、多くのローカル局は、今も9割近くが広告収入に依存しています。(※キー局のネットワークに属さない独立局についてはもともと自治体や地域の事業も多く、広告比率が7割程度の局もあります。)キー局などの番組を放送することで得られる「ネットワーク配分金」は減少傾向にあり、東京に本社を置くナショナルクライアントと呼ばれる大企業が全国に出稿する広告も、特に非都市部向けが減少する中、ローカル局においても、広告収入依存の体質からの脱却は課題となっていたのです。

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 広告収入といえば、インターネットがテレビの広告費を抜いたというニュースが大きな話題となりました。民放連研究所では広告費の中期予測をしていますが、それによると、2025年に向けてインターネット広告はテレビだけでなくマス4媒体(新聞・雑誌・テレビ・ラジオ)+衛星メディアをはるかに抜き去る勢いで伸びていくとしています。しかし、この予測はコロナ禍以前のものです。今回のコロナ禍で、テレビの営業収入は前年度比で20%近く落ち込むことが予測されています。かねてからのネットシフトに加えて、コロナ禍で広告収入が激減している状況に対して、ローカル局からは悲鳴にも近い声が聞こえてきています。

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 しかし、一言で民放ローカル局といっても、経営体力もビジネス環境も大きく異なっています。下記の資料は122局あるローカル局のうち、20局を抜粋し、売上高や従業員数などの事業規模の差異を示した民放連の資料です。在阪局の売上は600億円超、在名局は300億円前後、一方、大都市部を抱えない地域の局は30億~50億円という規模が相場のようです。

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 次の資料は、民放1局あたりの人口がどのくらいになるのか、県の人口を局数で割り算したものをグラフ化したものです。2007年と2019年の比較も入れています。放送エリアが広域にまたがったり2県のエリアもあったりするため、あくまで参考として見ていただきたいのですが、1局あたりの人数が少ない地域は、それだけ広告収入を得ることも難しいという一つの目安にはなると思います。中でも岩手県や山形県、石川県、愛媛県、長崎県などは、もともと県の人口が少なく、加えて人口減少が著しい地域にもかかわらず1県に4局の民放があるため、経営環境は厳しいです。つまり、ローカル局といっても事情は千差万別であり、もともと経営体力が低く&ビジネス環境が厳しい局は、減収でより厳しくなっているといえるでしょう。

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 こうした状況下で今年大きく進行しているのが放送の同時配信です。NHKはこの4月から「NHKプラス」をスタート、民放でも日本テレビがこの10月から、トライアルで「日テレ系ライブ配信」と称する同時配信をTVerで開始しました。現時点ではNHKも日本テレビも、東京の番組を中心に全国に一斉配信しています。
 同時配信を巡っては、放送エリアと同じエリアに限定して配信する、いわゆる“地域制御”を設けるか設けないかが、ここ数年大きな議論となってきました。東京などから一斉に番組が配信されてしまうと、ローカル局の視聴率や広告ビジネスを棄損してしまうのではないか等の懸念が、ローカル局からあげられていたからです。ラジオについては、当初から地域制御を設ける形で、radiko経由で各局が配信しています。しかしテレビについては、見逃し配信についてはTVerなどを通じて全国配信を実施、またローカル局の一部でも見逃し及び同時配信を全国向けに積極的に実施しているところがあり、部分的に可能なところから五月雨式に配信サービスが開始されてきたというのが実情です。こうした中、テレビ局が足並みをそろえて“radikoスタイル”を選択するという流れはもはや現実的ではない、という声も次第に高まっている気がします。
 もう1つ、同時配信については、国の政策としてこれまで以上に積極的に進めていこうという流れもあり、文化庁においては早期の著作権法改正も検討されています。
 以上のように、民放でも同時配信加速化の機運が高まるということは、ローカル局のビジネスにとって向かい風になるのでしょうか、それとも追い風になるのでしょうか……。

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<小まとめ>
 ここ数年、広告収入依存からの脱却という経営の体質改善に取り組んできたローカル局ですが、多くの局では、放送外事業の成果が見える前にコロナ禍が経営を襲いました。こうしたさなかに進む同時配信加速化の機運は、ローカル局が全国に情報・番組を発信する好機ともいえますが、そのためにはノウハウも人材も必要ですし、何より配信する情報・番組が充実していなければビジネスになりません。経営体力的にもメディア環境的にも厳しい局は、今後、より一層厳しい状況に陥っていくことが想定されるでしょう。これまで、局の規模に関わらず、どの局も等しく日本の地域社会を支える公共的なメディアとしてそれぞれが単独の会社という形で存続してきたローカル民放ですが、こうした共通のマインドを持ち、共通の経営の処方箋を考えていくことは、今後は難しくなっていくのでしょうか。


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②ローカル局改革議論の方向性
 ローカル局はどのような方向に向かっていくのでしょうか。コロナ禍以前、放送政策としては2つの場でローカル局のあり方が検討されていました。少し振り返っておきたいと思います。
 1つ目は、自民党の「放送法の改正に関する小委員会」で、2018年12月に第二次提言を出しました。(第一次提言はNHKの同時配信と受信料制度に関する内容)。この提言における最も大きなメッセージは、ローカル局の放送対象地域の拡大など、これまでの県域免許を見直し、局の積極的な再編を促進すべき、というものでした。
 この提言も受けた形で議論が始まった、総務省「放送を巡る諸課題に関する検討会(諸課題検)」の「放送事業の経営基盤に関する検討分科会」でも、初期の頃は構成員から、県域免許の見直しや県域免許を根拠づける基幹放送普及計画の見直しなどが提起されました。しかし、2020年6月に公表された取りまとめは、再編などの経営判断はあくまで当事者である放送局に委ねるというスタンスでまとめられ、総務省としては再編などに必要な制度改正が放送局から要望されれば環境整備に努めたいとする、政策主導ではなく事業者主導が明確に打ち出されたものとなりました。(※この取りまとめが公表された時にブログを書いていますのでご参照ください。)

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 この総務省の検討分科会と並行して議論が進められていたのが、民放連に設けられた「ローカルテレビ経営プロジェクト」です。議論の成果は今年7月に報告書としてまとめられ、民放内で共有されています。私は民放連に許可をもらって報告書を拝読しましたが、これまでなかなか踏み込めなかった領域にまで議論が及んでいて少し驚きました。たとえば、メディア環境が厳しい地域については、現行法では認められていない「1社(局)2波」も検討していくべきではないかとか、これまでのハード・ソフト一致の垂直統合モデル型の経営から、ハード(施設の整備や維持の業務)を切り離し、ソフト(取材や番組制作)に特化すべきではないか、などの検討です。放送局の数やチャンネル数を削減するといった再編議論が進められる前に事業者自らが取り得る選択肢はないのか、主体的に考えていかなければ将来に向けて道が拓けないという覚悟が感じられる議論が始まっているように思います。

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 この報告が出された後、民放連は9月に開催された諸課題検の「公共放送の在り方に関する検討分科会」である提案を行いました。ローカル局の経営が厳しくなる中、民放のハード(インフラ)の維持にNHKの受信料を充てられないか、というものです。具体的には全国に約500か所ある、「ミニサテ」と呼ばれる電波が届きにくい地域に設置している小規模な中継局の設備を維持・更新するコストを、これまでNHKと民放各局で等分負担していたものを、「条件不利地域へのユニバーサルサービスの維持という発想で、受信料財源を持つNHKがより多く負担するという考え方も成り立つのではないか」、というものでした。この提案については構成員から、ネットにおいて協力義務があるのに(放送の)本来業務に協力義務が全くないのはどうなのか、二元体制が維持されることで日本の言論空間が豊かになることは、視聴者国民にとっての利益、視聴者への還元である、という意見も出されました。


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<小まとめ>
 ローカル局の今後に向けた議論は、設備等のハード機能のコスト軽減・削減の方策と、地域メディアとしてのソフト機能の充実という方策の二本柱がポイントになってきています。こうした文脈の中で、NHKの役割や受信料の用途を考えていくことも問われてくるかもしれません。今後の議論を注視していきたいと思います。

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 次回のブログは、報告項目の③④について紹介していきます。

メディアの動き 2020年10月26日 (月)

#278 コロナ禍の中で力を発揮する「エンゲージメント」を柱にしたジャーナリズム

メディア研究部(海外メディア)  青木紀美子


新型コロナウイルスの感染拡大で、人と人の物理的な距離を保つソーシャルディスタンスが求められる中、市民や読者・視聴者との双方向のつながりを育む「エンゲージメント」に重点を置くジャーナリズムは、孤立の不安を和らげ、市民の疑問に応え、コロナ禍が生んださまざまな問題の解決に資する役割を果たしています。読者の依頼を受けた調査報道、ジャーナリズム・オンデマンド(JOD)を実践する西日本新聞社の「あなたの特命取材班」とJODのパートナーの地方紙やテレビは、23社あわせておよそ8万人に上るLINEの「通信員」やフォロワーとのつながりを強みに、コロナ禍における人々の疑問や困りごとに応える記事を発信してきました。

世界でも、これまでのエンゲージメントのネットワークと経験を活かし、新たなつながりを広げ、コロナ禍の中での情報ニーズに対応する取材・報道が各国で行われています。ここでは2020年10月にバーチャル開催された世界最大級のデジタル・ジャーナリズムの組織、オンライン・ニュース協会(Online News Association)の年次総会ONA20 1)で、秀でたオンライン・ジャーナリズムに贈られる賞のエンゲージメント部門の賞「Gather Award in Engaged Journalism」 2)を受賞した2つのプロジェクトと最終候補に残ったプロジェクトをいくつか紹介します。

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 4000件を超えるコロナ禍に関わる質問に答えてきた
 カリフォルニアの公共ラジオSCPR(KPCC+LAist)のエンゲージメント・チーム 3)

2019年に続き2年連続でGather Award in Engaged Journalism を受賞したアメリカ西部カリフォルニア州ロサンゼルスを拠点とする公共ラジオSouthern California Public Radio (KPCC+LAist) 4)は、アメリカで感染が急速に拡大した2020年3月に新型コロナとその影響に関わる質問に答えるプロジェクトを立ち上げました。ウェブサイトの投稿フォームのほか、携帯電話を使ったショートメッセージや電話などで質問を受け付け、インターンを含めたエンゲージメントのチーム7人がニュースルームの記者やディレクターと協力して、1件1件の質問にできるだけ具体的な情報を盛り込んで返信してきました。内容は、感染のリスクや予防策、連邦政府や州政府によるコロナ関連規制の内容などから、失業保険、生活費や家賃の助成、食材の支援、住まいを失った人がどこで援助を得られるかまで、多岐にわたりました。その内容から人々の関心や暮らしの中の課題の移り変わりを学んで取材に生かし、関心の高いテーマについては記者が解説して質問に答えるオンラインのセミナーを開催しました。集めた情報を1か所にまとめたウェブサイト 5)も作り、更新しています。インターネットの普及率が低い地域には郵便で情報を届けました。3月から10月のおよそ7か月に、カリフォルニア以外の州や海外からも含め、あわせて4300件の質問を受け、全てに回答。多い時には1分間に10件の質問が届いたこともあったといいます。質問を寄せた人の多くが他では得られなかった重要な情報を入手できたと評価しているということで、エンゲージメントの責任者アシュリー・アルバラードさんは「パンデミックの中で、エンゲージメントが持つ意義はより明確になった」と話しています。


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 ニューヨークの非営利メディアDocumentedのスペイン語の新型コロナ関連情報「リソースガイド」 6)

今回が初めての受賞となるDocumented 7)は、移民のための情報発信を目的に設立されたニューヨークの小さな非営利オンラインメディアで、スタッフ3人が運営しています。スタッフは、移民の人々がどのような情報を求めているかを知るために地域での集まりなどに足を運び、その情報ニーズに大手メディアの報道が応えていないこと、またプライバシーを重視する人が多いことを知り、家族や友人とのチャットに使われているWhatsAppを使ったスペイン語のニュースレターの配信を試みることにしました。WhatsAppはアメリカなどで、日本におけるLINEに近いかたちで利用されているアプリです。スペイン語の発信としたのは、十分な英語力がない中南米からのヒスパニック系の移民が多いためです。当初は利用者がなかなか増えませんでしたが、パンデミックに見舞われ、コロナ禍に関わる情報に焦点を絞った発信を始めてから、利用者が増え、質問や情報が多く寄せられるようになりました。専門家の協力も得て、個別に質問に回答するとともに、寄せられる質問や情報をもとにした調査報道を行うようになりました。また、簡略な説明のグラフィックの記事や、文字が読めない人たちのための音声記事の配信も始めました。役立つ情報をまとめた「リソースガイド」のサイトも作ったところ、読者が他の記事よりも長い時間をかけて読む傾向がうかがえました。移民の間に流布される疑わしい情報も寄せてもらい、スペイン語のテレビネットワークUnivisionの地元局の力を借りて真偽を検証して報告、誤・偽情報を見分ける方法を伝えるオンラインのライブイベントも開催しました。このほか、コロナ禍の中での暮らしの困ったことや、助かったこと、他の人と共有したい話などを音声で送ってもらい、人々の声のコラージュとして配信しました。

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 コロナ禍の前は一方向の発信    →    コロナ禍を受けて双方向に情報が循環するように 8)

オーディエンス・エディターのニコラス・リオスさんは、コロナ禍の中でのエンゲージメントの経験を通して「人々は自分たちがどのような情報を必要としているかを、我々よりもはるかに良く分かっていることに気づかされた」と話しています。以前は一方向だった情報発信が、コロナ禍を受けて、上の図のように双方向に情報が流れる循環に変わったといいます。

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 アルゼンチンの大手紙La Nacionのマルチメディア記事の一部と、
 国外に取り残された個々人の物語を集めたウェブサイト 9)

賞の最終候補に残ったアルゼンチンの新聞La Nacionのプロジェクト 10)は、コロナ禍で政府が国境を閉鎖する「ロックダウン」を実施した際に、アルゼンチンから出たまま、国外に取り残された渡航者2万人あまりが直面した困難の実態を伝えるためのエンゲージメントを試みました。ソーシャルメディアなどを使って配布した調査票に記入してもらうかたちで2000人以上の状況や滞在地、連絡先などの情報を集め、これをもとにデータベースを作り、全体状況を伝える記事をマルチメディアで発信しました。世界各地から情報を寄せる人たちが帰国するまで、およそ2か月にわたってWhatsAppなどで対話し、お金が無くなったり、犯罪被害にあったりしながら、帰国の道を探る140人以上の物語を伝えました。また、アルゼンチンから出国できなくなった海外からの渡航者の取材も同じように行いました。こうした報道の一方で、アルゼンチンに帰国できない人たち、アルゼンチンから母国に帰ることができない人たちを家族や支援者とつなぐ役割も果たしました。

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 非営利調査報道メディアThe Marshall Projectが受刑者向けに発行するNews Inside 11)

最後にもう一つ、Gather Award in Engaged Journalismの最終候補で、社会的に隔離された中でのエンゲージメントが、コロナ禍に限らず大きな意味を持つことを示したジャーナリズムの例を紹介します。アメリカの刑事司法制度やその運用面の問題を専門に伝える非営利の調査報道メディアThe Marshall Project 12)のNews Insideです。編集責任者のローレンス・バートリーさんは自身も長年、服役した経験があります。17歳の時に映画館内で起きた少年どうしの争いに巻き込まれて銃を発砲し、人を殺めた罪で27年間、服役しました。2018年の仮釈放後にThe Marshall Projectの記者になり、2019年、受刑者のためのNews Insideを創刊しました。刑務所ではインターネットやテレビ、新聞、書籍など情報へのアクセスが制限されているため、こうした刑務所のルールに抵触しない内容に編集した雑誌として配布しています。刑法の改正や、被告や受刑者の権利、釈放後の社会復帰など、受刑者にとって重要な情報を提供するとともに、受刑者から寄せられる情報をもとに調査報道を行っています。コロナ禍の中では、刑務所での感染拡大の実態や予防策についても情報を発信してきました。創刊から2年に満たないNews Insideはカナダを含め、500以上の施設で配布されるようになり、教材としても使われています。

厳しい状況に直面する人たちのため、新型コロナの危機の中でも力を発揮しているEngaged Journalism。その背景にある考えや多様なエンゲージメントの具体例については、放送研究と調査の2020年3月号でまとめるとともに、実践者の思いや軌跡を6月号7月号8月号の3回にわたって紹介しています。また、今回、紹介したプロジェクトをはじめ、多様なエンゲージメントを試みるジャーナリストが情報交換をする場「Gather」 13)をGather Award in Engaged Journalism賞のスポンサーでもあるオレゴン大学Agora Journalism Center 14)が設けています。



1) https://ona20.journalists.org/
2) https://awards.journalists.org/awards/engaged-journalism/
3) https://medium.com/engagement-at-kpcc/how-kpcc-embraced-its-role-as-las-help-desk-and-what-we-ve-learned-along-the-way-10b548ea23ca
4) https://www.scpr.org/
5) https://laist.com/how-to-new-la/#
6) https://documentedny.com/2020/04/21/guia-de-ayudas-para-inmigrantes-durante-la-pandemia/
7) https://documentedny.com
8) https://medium.com/documentedny/how-we-changed-our-pandemic-coverage-thanks-to-our-audience-c6ef3de39a44
9) https://www.lanacion.com.ar/sociedad/varados-viaje-pesadilla-sin-fecha-regreso-nid2360497
10) https://origenblogs.lanacion.com.ar/projects/original-online-reporting/stranded-abroad/
11) https://www.themarshallproject.org/tag/news-inside
12) https://www.themarshallproject.org/
13) https://medium.com/lets-gather
14) https://agora.uoregon.edu/



放送ヒストリー 2020年10月16日 (金)

#277 「6人目のドリフ」って?

メディア研究部(メディア史研究) 広谷鏡子


 私の兄が大学受験に失敗した年、母は何を血迷ったか、家族全員にテレビ禁止令を発しました。そのため、我が家は1972年4月からのほぼ1年間、『8時だョ!全員集合』(TBS系列)を見ることなく過ごしたのです。月曜日、その話題で持ちきりの教室で、人気のギャグを知っている振りをして過ごすしかなかった切なさを、私はよく覚えています。家庭用ビデオもYouTubeもない時代、生放送を見ずしてそのギャグにはお目にかかれない。それほどの影響力をテレビが持っていた頃のお話です。
「放送研究と調査」9月号に掲載した論考「『6人目のドリフ』は僕らだった」、その主役は「テレビ美術」です。生放送中に派手に崩れていくセット、ちょっとキモ可愛い動物のキャラクターや着ぐるみ、独創的な小道具…。それらはすべて「美術」です。舞台上で、ドリフターズの次に光を放っていたので、「6人目のドリフ」なのです。その美術計画の中心にいた人が、TBSの山田満郎デザイナー。すでに亡くなっているので、このインタビューは、今はいない山田さんがあたかもそこにいるかのように、当時のスタッフに語ってもらうという形で行いました。スタッフの記憶を呼び覚ましたのは、図面やスケッチ、写真など、山田さんの残した緻密かつ膨大な資料でした。

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山田デザイナーによるスケッチ(第242回「ドリフの夢のマイホーム」・山田氏遺族提供)

 お話を聞いている間に、幾度か泣きそうになってしまうことがありました。働き方改革などチャンチャラおかしい当時の現場で、スタッフが流した汗や涙(時には血まで!)に、ついついもらい泣きです。しかし一番ツボだったのは、山田さんのご子息の言葉です。家族も影響を受けていたのです。論考本文の後の(注26)に載せました。よかったらこちらもご覧ください。
 毎週土曜の夜8時、たった54分間のために、スタッフも、視聴者も「全員集合」していた時代がありました。そこで流れた汗はテレビの未来のために無駄ではなかった、と信じたい気持ちになります。


メディアの動き 2020年10月14日 (水)

#276 『テラスハウス』ショック ~リアリティーショーの現在地② 先行するイギリスの状況~

メディア研究部(メディア動向) 村上圭子


 フジテレビ系で放送していたリアリティーショー『TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020(以下、『テラスハウス』)に出演していた22歳の女性プロレスラー、木村花さんが亡くなって、まもなく5か月が経とうとしています。花さんの母親の響子さんはBPO(放送倫理・番組向上機構)に対し、「番組で狂暴な女性のように描かれたことによって、番組内に映る虚像が本人の人格として結び付けられて誹謗中傷され、精神的苦痛を受けた」と人格権の侵害などを申し立てていましたが、先月(9月)15日、BPOは審理を開始することを決定しました。今後BPOの放送人権委員会では、番組を制作したフジテレビにもヒアリングを行っていくことになります。

 10月1日に発行した『放送研究と調査』10月号では、木村花さんの死が社会に提起した様々な問題について考えていくシリーズの第1回を掲載しています。

ここでは、リアリティーショーの誕生から今日に至る歴史を、欧米と日本を比較しながらひも解きました。欧米や日本のこれまでのリアリティーショーの具体的な番組内容や様々な課題について詳細に触れていますので是非お読みいただきたいのですが、かなりの長文になっていますので、そこまではちょっと…と思われる方は、サマリーした内容(10分もあれば読了します!)を先日のブログにまとめていますので、こちらを是非お読みください。

 今後、本ブログや「放送研究と調査」では、BPOの審理の進捗なども踏まえながら、SNS時代のリアリティーショーと番組制作における制作者の責任や、出演者・視聴者との関係性について考えていこうと思っています。今回のブログでは、日本よりもはるかに多くのリアリティーショーが放送されており、同様の問題への対策の議論が先行するイギリスの状況について触れておこうと思います。

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 イギリスでは2019年7月から2020年7月まで、放送やメディアの独立規制機関であるOfcomが、視聴者参加型の番組で出演者を守るためのルールについて、意見募集を行いました。Ofcomでは以下の項目を放送規則に加えることを提案しています。

*放送局側が番組参加者に対し、参加することでどのような損害を被る可能性があり、
 どのような負の影響が出るかなどについて説明し、これに十分な同意を得ること
*“傷つきやすい人々”及び参加することで損害を被るリスクがある人々に対し、十分なケアを提供すること。

なぜこうした提案がOfcomから出てきたのか、意見募集を終えた現在の状況はどうなっているのかについて、ご自身もブログでイギリスのリアリティーショーについて執筆されている1)フリージャーナリストの小林恭子さんに伺いました。小林さんには今回、「放送研究と調査」の論考を書くにあたり、イギリスのリサーチをお願いしています

村上:
 今回Ofcomが提案している規則案は、リアリティーショーの出演者に対する放送局の説明責任や、ケアの必要性について言及したものですが、“リアリティーショー先進国”であるイギリス社会では、いつ頃からこうした問題意識が持たれていたんでしょうか。

小林:
 イギリスでいわゆるリアリティショーのブームを生む契機となったの『ビッグ・ブラザー』(2000年、チャンネル4で放送開始)です。郊外の一軒家(「ビッグブラザーハウス」)に若い男女数人を隔離し、共同生活の様子をカメラで監視し、これを放送するという、当時としては前代未聞の形式が取られた番組で、当時からプライバシーの侵害問題、人間を常時監視することの是非、参加者たちのプライベートな会話の中の中傷あるいは差別的表現、暴力的行為などにどう対処するべきかなど、論争のネタは尽きませんでした。
 ただ、当初は参加者・出演者の心身への負の影響は(同列に語られていたとしても)それほど大きな問題とは認識されていなかったように記憶しています。テレビに出ると途中で脱落しても有名人になれましたし、「普通の人」がメディアに出ることで私生活を切り売りしたり、最後に優勝すれば多額の賞金がもらえたりするなどの行為について、参加者は「私生活が暴かれるのを承知で出ているのだから」という認識がありました。
 この番組が大ヒットとなり類似番組が続々と作られていくようになると、リアリティーショーは「番組形式の1つ」として受けいれられるようになっていきます。日常になってしまったわけですね。それに伴い、番組形式自体に対する批判(監視体制やプライバシー侵害の是非など)は当初よりは目立たなくなり、知識人を含めた著名人が出るスピンオフ番組も数多く放送されるようになってきました。

村上:
 出演を決めた側に責任はある、という世間の受け止めですね。ただ、多くの人達が一斉に視聴するテレビに出演し、名前や顔が一気に広まり“有名になる”ことに伴う様々な影響はあまりに大きく、プラスの効果はなんとなく想像できるしそれを期待して出演を望んだ(受け入れた)というのはあると思うのですが、マイナスの効果についてどこまで想像が及んでいたかといえば疑問ですよね。だから、私は自己責任論には拠りたくないです。しかし、イギリスでもその論調が変わってきた、ということなんでしょうか。きっかけはどんなことからですか。

小林:
 ソーシャルメディアが急激に広がり、これによる番組参加者への影響も大きくなり、出演者には以前には見られなかったほどの複雑な問題やリスクが生じる可能性が出てきたんです。こうした中、2019年には司会者が課題を抱える家族同士を対決させる『ジェレミー・カイル・ショ―』(ITV)の出演予定者が自ら命を絶ったり、番組が中止になったりする事件(2019年5月)がおきました。また今年2月には、孤島で8週間若い男女が生活する様子を観察する『ラブ・アイランド』(ITV)で、司会者キャロライン・フラックが自ら命を絶つ事件(今年2月)が発生しました。フラックさんは、同番組への出演者(司会者も含むと)の中では3人目の自殺者です。この番組ではその後も1人亡くなり、計4人が自ら命を絶っています。自殺の背景にどこまで番組への出演の影響があるのかは事例によって異なるようですが、社会的に見逃せない状況になってきているのは間違いありません。こうした事件が起きるたびに、Ofcomには数千、場合によっては数万の苦情が寄せられています。
 加えてイギリスでは近年、メンタルヘルスに対するイメージアップや、幸福感(ウェルビーイング)についての意識が高まるという文化上の変化も起きています。このことによって、番組への出演も含めて様々な体験から生じる心身への危害をもっとオープンにしていこう、そして懸念を発信していこうという動きが出てきていると思われます。


村上:
 なるほど。リアリティーショーという番組そのものが出演者にかける負荷の問題に加えてソーシャルメディアの存在が大きくなってきたということが、今回、Ofcomが動いた大きなきっかけということですね。意見募集は7月に終わったそうですが、現在はどのような状況なのでしょうか。

小林:
 現在、Ofcomは取りまとめに入っているところです。放送業界の反応ですが、リアリティーショーだけでなく、ニュースや時事番組の出演者についても放送局側に「ケアの義務」を課されることになると自由な報道ができなくなる、と懸念しているようです。

村上:
 たしかに放送局の立場からすると、放送規則で縛られるのではなく、局自身が自主的にルールを決め、その内容を社会に示して対話の中で決めていく、そして出演者に対し、出演を決める前から継続的にコミュニケーションをとり信頼関係を構築しながら番組制作、放送を行っていくというのが理想だと思いますが、それはなかなか難しいということなんでしょうか。

小林:
 先の『ラブ・アイランド』など人気が高いリアリティショーを多く放送するITVは、既に「注意義務(Duty of Care)」を文書化しています。最新の注意義務ガイダンスによると、番組制作者は出演者の健康と安全に責任を持ち、番組参加による出演者への衝撃及び放送による衝撃の両方を考慮することが求められています。補則にはリスクの程度に応じて、何をするべきか、リスクをどう判断するかも示されています。
 ローリスクの場合は、制作前の段階として「出演者から同意(インフォームドコンセント)を得る」、「番組の性質、目的、出演者は何を求められるかを説明」、「同意を与える能力に影響を与えるような健康問題などを抱えているかどうかを査定」するなど。撮影中は「ストレスやメンタルヘルス問題の兆候があるかどうかをモニターする」、「ITVのコンプライアンスあるいはリスクチームからアドバイスを得る」など。アフターケアとしては、「放送後の制作側の連絡情報を提供する」、「常にサポートを提供できることを出演者に明確にする」、「ソーシャルメディア上での敵意あるコメントについてのアドバイスを与える」などです。
 ハイリスクの番組の場合は、制作前に「番組出演による負の面、例えばオンラインでの攻撃、知人らがメディアにその人についての情報を売る可能性があることなどを教える」、「これを記録する」など。撮影中は「専門家による心理学上のアドバイスを24時間提供できるようにする」、「出演者の健康を管理する担当者を置くこと」など。アフターケアとして「フィードバックの時間を持つ」、「それまでの生活に戻るため、あるいはメディア報道への対処などを支援する」、「カウンセリングを提供する」など。撮影が終了し、出演者が帰宅する前に出演者の心理状態、番組内でどのような位置づけとなっているか、メディアやソーシャルメディア関連のアドバイス、お金の面についてのアドバイスも提供するようにと書かれています。最後の項目は、出演によって巨額の出演料が入る可能性も高いことを加味してだと思われます。

村上:
 うーん。それを伺うと、細かく決めて配慮を行っている、という印象以上に、そこまでのことをしなくてはならないほどリスクの高い番組って何なんだろう、と感じてしまうのが正直なところです。特にハイリスクの番組については、そもそもこうした番組をあえて制作すべきなのか、とも感じてしまいました。そして、こうした「注意義務」があるにも関わらず、結局は出演者の自殺を食い止められていない、ということなんですね。

小林:
 そうなんです。そのことも今回、Ofcomが規則化を提案する背景にあります。提案が今後どうなっていくのかについては注視していきたいと思いますが、ただ、こうしたリスクが指摘され、議論が大きくなってもなお、リアリティショーは継続して制作・放送されるのではないではないでしょうか。それはやはり、視聴率が高いこと、高額の広告収入が入ることなどの要因があるからですが、根本に「テレビの魔力」があるからではないかと思います。「出てみたい」と思わせるのがテレビです。多くの若い人にとって、リアリティショーに出る人は憧れの対象になり得ます。著名人であっても、一つ上の段階に行くためにテレビに出たがる人は無数にいることでしょう。
 でも、Ofcomが提案書を出す際の理由にも挙げていますが、その負の面も次第に注目を集めることになってきました。いいことばかりではないことが分かってきたのです。リアリティショーをめぐって、私たちは「テレビ」という、いわば魔物を手なずける道を探すべき時に来ているのではないでしょうか。何万もの人の目にさらされることで、自分の傷つきやすい部分が何倍にも拡大されてしまうこと、ソーシャルメディアが発達したことで、視聴者の反応が双方向に広がること、出演者を攻撃する可能性があること、こうしたことに自分は 本当に耐えられるのかを考えてみること
 もし前向きの要素があるとしたら、リアリティーショー出演による負の面を減少させる動きが出演者の側から出てきたことかもしれません。BBCニュースによりますと、リアリティーショーの出演者たちがいかにソーシャルメディアの反応に苦しめられたかなどを告白し始めています。また、今月から、リアリティーショーの番組の出演者を“オーディションする新番組”が放送されるのですが、そこでは、かつて出演者だった人達がオーディションに来た若者たちへのアドバイスをするそうです。「スポットライトの下に出た瞬間、あなたは(人に)判断される。だから、面の皮が熱くないとダメ」と。その出演者たちは、かつて自分たちが制作側から全く何のケアも支援も行われなかったと吐露しています
 リアリティーショーは多くの若者層にとってすでに日常の一部として受け止められていますし、テレビの魔力が続く限り、出演者側が賢くなって「ともに生きる」しか選択肢はないように思っています。

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 木村花さんが亡くなって以降、リアリティーショーのような番組を制作すべきではない、と発言している精神科医や評論家は少なくありません。番組が何らかのきっかけとなって尊い命が失われた以上、こうした論調に大きく傾くのはある意味当然であるとも思います。ただ、放送文化やコンテンツ文化のあり方を考える立場の私としては、リアリティーショーと呼ばれるジャンルを全て一律に括り、制作はやめてしまうべき、という論に安易に与してしまうことは、この問題に対して思考停止してしまうことになると思っており、だからこそ考え続けていかなければならないというスタンスに立っています。そして日本においては、いまもなお数多くのリアリティーショーが、主に現在は配信サービスではありますが、制作されているという状況もあります。
 ただ、今回イギリスの状況を小林さんに伺い、より頭を抱えることになってしまったというのが正直な感想です。日本ではイギリスのような放送局や配信事業者自身によるガイドラインも作られていない状態ですし、仮にガイドラインが作成されたとして、ソーシャルメディアがこれだけ広がっている中で果たしてどこまで有効に機能しうるのか……。
 今回、小林さんに伺ったOfcomの提案の結果や放送局の反応については、改めて「放送研究と調査」で続報を記していきたいと思います。また、日本でのBPOでの審理についても見守っていきたいと思います。




1) 小林恭子「【テラスハウス・出演者死去】英国のリアリティ番組でも、問題続出 私生活露出でもOK?」
  『ヤフー個人ニュース』(2020年6月1日)
  https://news.yahoo.co.jp/byline/kobayashiginko/20200601-00180964/


調査あれこれ 2020年10月09日 (金)

#275 高齢者の「情報ライフライン」としてのテレビ

メディア研究部(メディア動向) 入江さやか


 東日本を中心に記録的な豪雨をもたらした昨年10月の台風19号(東日本台風)からまもなく1年を迎えます。台風19号では84人(災害関連死除く)が亡くなり、65歳以上の高齢者がその6割以上を占めていました1)。NHK放送文化研究所が被災地で行った調査から、高齢者の「情報ライフライン」としてのテレビの重要性が改めて浮かび上がってきました。

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写真1:国土交通省の河川カメラで阿武隈川の氾濫発生を伝えるテレビ画面
      多くの文字・画像が盛り込まれている
     (2019年10月13日午前2時半ごろ NHK総合テレビ)


■「テレビの映像が唯一の頼れる手段です」
 NHK放送文化研究所は、台風19号で被災した長野県長野市、宮城県丸森町・石巻市、福島県本宮市・いわき市で、浸水したとみられる地域の20歳以上の男女計3,000人を対象に、郵送による世論調査を行いました。地元の自治体が発表した「避難勧告」を知った手段を聞いたところ、いずれの自治体でも、年代層が高くなるほど「テレビ」の割合が高くなる傾向がみられました。
さらに今回の調査では「台風19号のような豪雨災害のおそれがある時、テレビやラジオはどのような放送をすべきだと思いますか」という質問に自由に答えてもらいました。その回答には、高齢者からの切実な訴えが数多く記されていました(すべて原文ママ)。高齢者にとってはテレビが情報の「ライフライン」であることに改めて気づかされる内容でした。

 「私達夫婦二人生活 80才近くの者です。テレビとラジオが知るすべてです。あまり難しい
  表現でなくとにかくわかりやすい言い方等で知らせてください」(宮城県石巻市・70代女性)

 「アプリ・ラインなど使えないのでテレビの映像が唯一の頼れる手段です
  (福島県本宮市・70代以上女性)

 「高齢者に情報を届けたいのであれば『スマホを利用して』ということは除外すべき
  持っていたとしても使いこなせていないのが現状」(福島県いわき市・70代以上男性)

■テレビ画面にあふれる情報 高齢者に届いているか?
 災害時のテレビ放送について、高齢者からの具体的な要望も多く書かれていました。

 「一覧表が流れる帯状のテロップだと他の多くの地名にまぎれて、自分の地区を見落とした」
 「画面の文字をもう少し長く残してほしい」
 「重要なことは大きな文字で知らせてほしい」
 「高齢者は音を聞き取りにくいので、もっとゆっくり・はっきり話してほしい」
 「『越水(えっすい)』ではなく『水が堤防越しました』など、普段の使い慣れた言葉で呼びかけてほしい」

 今回、改めて台風19号の際の放送を見直してみると、テレビ画面にはL字スーパーやレーダー画像、二次元コードなどのさまざまな文字情報や画像があふれています(写真1)。近年、防災気象情報が高度化・細分化され、放送を出す側も、できる限り地域に密着したきめ細かい情報を届けようと努力しています。それが高齢者にとって見やすい・聞きやすい放送になっているか、今一度立ち止まって考える必要があるのではないでしょうか。

■避難情報の「見逃し」を防ぐ取り組みも
 災害時に命を守るために欠かせないのが避難に関する情報です。避難勧告や避難指示(緊急)の「見逃し」を防ぐ取り組みが始まっています。朝日放送テレビ(ABC)が2017年に全国に先駆けて導入した「災害情報エリア限定強制表示」やNHKが2020年6月から全国展開している「エリア限定地域避難情報自動表示」です。これらのシステムでは、避難勧告などが出た時、対象となる地域にだけ、テレビ画面上に文字スーパーが表示され、視聴者がリモコンを操作しなければ一定時間は消えません(写真2)。放送メディアは、インターネットによる情報発信を展開しながらも、テレビをライフラインとしている高齢者の切実な声にも応えていかなければなりません。

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写真2:NHKの「エリア限定避難自動表示」画面のイメージ
     (画面左側の枠で囲んだ部分が表示される)

 詳しくは、今回の調査の結果をご一読ください。
令和元年台風19号における住民の防災情報認知と避難行動調査報告①(長野県長野市)
令和元年台風19号における住民の防災情報認知と避難行動調査報告②(宮城県丸森町・石巻市)
令和元年台風19号における住民の防災情報認知と避難行動調査報告③(福島県本宮市・いわき市)


1) 内閣府「令和元年台風第19号等を踏まえた高齢者等の避難に関するサブワーキンググループ」
  第1回資料(2020年6月19日)



調査あれこれ 2020年10月02日 (金)

#274 パソコン?スマホ?家庭における学習で利用されているメディアとは?

メディア研究部(番組研究) 渡辺誓司


 
いまだ終息の気配がみえない新型コロナウイルスの感染拡大は、教育の分野にも大きな変化をもたらしました。例えば、オンライン授業や動画教材を配信するなど、児童・生徒が登校しなくても、家庭でインターネットを利用して学習できるような対応を進めている学校もみられます。

 文研では、家庭における学習でどのようなメディアが利用されているのかを探るウェブ調査を、昨日から開始しました。昨年に続き2度目になります。調査の対象は、中学2年生と3年生、高校1年生です。学年の区切りがちょっと中途半端なのは、この調査には、昨年10月、つまりコロナ禍前に実施した同じ調査に協力してもらった当時の中学生たちに、今回も協力をお願いしているからです。調査対象を同一にすることで、コロナ禍前と今との変化を、正確に把握することを目指しています。

 オンライン授業の配信などを考えると、今回の調査は、家庭学習で、パソコンやスマートフォン、タブレット端末などのデジタル機器が利用される割合が高くなることが予想されます。しかし、そもそもコロナ禍前の家庭学習ではどのような機器が利用されていたのでしょうか。次の図は、昨年10月の調査の結果から抜粋したものです。

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 ウェブ調査の対象の中学生(1,168名)のうち、家庭で、「英語、国語、数学、理科、社会、総合的な学習の時間」の6教科のうちいずれかの教科の学習を行っている中学生(1,055名)に、家庭学習で利用している機器を尋ねました。結果は、スマートフォン、タブレット端末、パソコン、電子辞書の利用が多く、ほかの機器の利用は少ないというもので、学年による差はほとんどみられませんでした。
 注目されるのは、図に示したいずれかの機器を家庭学習に利用していた割合は57%で、4割を超える中学生がこれらの機器を利用せずに学習していたことです。この中学生たちの家庭のうち、スマートフォンは73%、パソコンは63%、タブレット端末は46%の家庭で、彼らがそれらを自由に利用できる環境にあったことから、機器を利用できるからといっても、必ずしもそれらが家庭学習に利用されていたわけではないことがわかりました。一方で、教科書や参考書、問題集、塾の教材などの紙媒体を家庭学習の教材として使っていた割合は9割と高く、機器を使えても紙媒体だけで学習している中学生の存在もありました。コロナ禍の前に行った調査の結果が、コロナ禍の真っただ中にある今回の調査ではどのように変化するのか、家庭学習における機器の利用は増えるのかどうか、結果がまとまり次第改めて『放送研究と調査』で報告します。 

 ここでご紹介したデータを含め、昨年実施した調査の結果の詳細は、『放送研究と調査』8月号に掲載しています。また、この調査では、調査対象の中学生の母親にも同時にウェブ調査を行っており、論考では、母親の家庭学習におけるデジタル機器の利用観や、家庭学習からみた親子関係の分析も取り上げています。コロナ禍前の実態を把握したものとして、ぜひご一読ください。