文研ブログ

メディアの動き 2023年08月22日 (火)

【メディアの動き】民放ローカル局13 社が系列を 超えて連携,地域の魅力発信のための コンソーシアム設立

7月14日,北海道から沖縄までの民放ローカル局13 社が,地方創生等のライブ配信事業を手がけるLiveParkや楽天グループとともに,地域の魅力を発信するコンソーシアム「のぞいてニッポン運営委員会」を設立,サイトを開設した。
放送エリアに限定されていた各局の番組やオリジナルコンテンツを全国配信することで,地方経済への貢献をめざす。

コンソーシアムのポイントは3 つ。
(1 )系列やエリアを問わない,志を同じくするローカル局による連携。
  これまで数年間のトライアルと議論を通じて,地域に共通する課題の共有と,互いに異なる魅力の発見からつながりを育んできた。
( 2)連携企画やサイト編成,SNS 展開などを横断的に手がける編集部の存在。
  地域コンテンツ流通の重要性は繰り返し指摘されているが,視聴してもらうための方法についてはどのメディアも苦戦中だ。
  地域情報の魅力を最大限引き立てる司令塔をめざす。
( 3)ネットショッピング,旅行予約,ふるさと納税等,オンライン上の総合サービスを手がけるプラットフォームとの連携。
  連携にはさまざまな課題が指摘される中,コンテンツを供給するローカル局にとって持続可能なビジネスモデルの構築をめざしている。

コンソーシアム発起人でLiveParkファウンダーの安藤聖泰氏は,キー局主導でさまざまな枠組みが構築されることが長年の慣習となっている放送業界の中で,ボトムアップで丁寧に組み立ててきたと思われる。
新しい座組みの今後に注目していきたい。

メディアの動き 2023年08月22日 (火)

【メディアの動き】あいテレビの深夜番組のセクハラ発言, BPOが「人権侵害なし」の見解

愛媛県の民放あいテレビで放送されていた深夜番組の女性出演者が,番組内でのたび重なるセクハラ発言で精神的苦痛を受けたと申し立てた問題で,BPOの放送人権委員会は7月18日,人権侵害は認められず,放送倫理上の問題もあるとまでは言えないとする見解を公表した。

問題になったのは,あいテレビが2016 年から2022 年の3月まで毎週放送していた深夜のバラエティー番組『鶴ツル』で,出演者の女性フリーアナウンサーが,番組内で2人の男性出演者からしばしば下ネタや性的な言動を受け,羞恥心を抱かせられ,自身のイメージも損なわれたと申し立てた。

委員会は審理の結果,申立人が番組での性的な言動に長年悩んできたことは「真実」と考えられるが,本人が2021年11月に番組プロデューサーに伝えるまでは,あいテレビがそれに気づくことができたとは言えず,その後の対応にも過失があったとは言えないと判断した。
また放送局の責任を問うことについては,表現の自由の制約につながりうることから「謙抑的であるのが妥当」という考え方を示したうえで,「申立人の人格の尊厳を否定するような言動」があったとは言えないことから,「人権侵害があったとは認められない」と結論づけ,「放送倫理上の問題があるとまでは言えない」とした。

一方で,フリーアナウンサーとテレビ局,男性中心の職場に置かれた女性,という視点に照らし,申立人が圧倒的に弱い立場だったとして,あいテレビに対し,出演者が気軽に悩みを相談できる職場環境やジェンダーに配慮した体制を整備することを要望した。

メディアの動き 2023年08月22日 (火)

【メディアの動き】NHK,NW9の新型コロナウイルス 関連動画をめぐり関係者を処分し,調査結果を公表

7月21日,NHKは5月15日に放送した『ニュースウオッチ9(NW9)』のエンディング動画の中で不適切な伝え方があったとして,取材を担当した職員や上司の編集責任者等を処分するとともに,内部調査の結果を公表した。

動画のテーマは「新型コロナ5 類移行から1週間・戻りつつある日常」。
約1分間の動画の中で3人の遺族のインタビューを紹介したが,実際はワクチン接種後に死亡した人の遺族であったにもかかわらず,新型コロナに感染して死亡した方の遺族だと視聴者に誤認させる伝え方をしていた。

翌5月16日のNW9では,NHKに遺族を紹介したNPO 法人理事長の反応やSNS 上の批判を受けて謝罪。
7月5日には遺族らがBPO放送人権委員会に申し立てを行い,放送倫理検証委員会でも審議入りが決まっている。

なぜこうした問題が起きたのか。調査報告では,職員等の社会問題に対する認識の欠如,担当者間の情報共有不足,提案・取材・制作におけるチェック不足,取材先や視聴者に対する真摯な姿勢の欠如があるとしている。
NHKは2021年12月放送のBS1スペシャルにおいて,誤った内容の字幕をつけるといった,取材者や視聴者の信頼を損なう問題を起こしている。
再発防止策として,放送ガイドラインに沿って複眼的試写を行うなどのチェック機能の強化が行われたが,再び問題が起きてしまった。
NHKは今後,議論を尽くす組織への改善等を行っていくという。公共放送を担う1人1人の意識が根底から問われている。

メディアの動き 2023年08月22日 (火)

【メディアの動き】オーストリア議会,全世帯徴収型の公共放送の新財源制度法案を可決

オーストリアの議会下院は7月5日,受信機の有無にかかわらず,すべての世帯と企業から公共放送ORFの財源となる「ORF 負担金」を徴収することを定めた法案を可決した。
新財源制度は2024 年1月から施行される。

現行の受信料は,テレビやラジオ受信機を所有する世帯と企業から徴収しており,インターネットでORFのサービスを利用していても,テレビやラジオを所有していなければ徴収対象にならない。
これについてオーストリア憲法裁判所は2022 年7 月の判決で,「公共放送のサービスを利用できる人すべてに財源への貢献義務を課すことも,公共放送の独立性を保障する一側面である」とし,現行制度を違憲としたため,制度改正が必要となった。

ORF 負担金制度は,ドイツの「放送負担金」制度にならって設計され,世帯は住居ごとに一律額が徴収される(別荘は対象外)。
2024 年からの月額は15. 3 ユーロ(約2, 400 円)で,現行の18.59 ユーロ(約2,900 円)から値下げされる。企業からは,従業員の給与の総額に応じて設定された額が徴収される。
また可決した法案は,ORFのインターネットによる番組配信の範囲を拡大する条項も含む。

現在は,番組配信は放送後7日間のみとされているが,今後はジャンルによって30日や6か月などに延長され,放送前の先行配信や,配信専用の番組の制作も可能となる。

また,新聞社の事業を圧迫しないよう,ORFのウェブサイト上の文章記事は週に350 本までに制限され,コンテンツの割合を動画70%,文章30%にするよう定められる。

メディアの動き 2023年08月21日 (月)

【メディアの動き】台風進路予報円 精度良く表示, 災害危険度が高い地域を明確化

気象庁は,台風の進路を予報する際の予報円と暴風警戒域(台風の中心が予報円内に進んだ場合に風速25m以上の暴風となるおそれのある範囲)を,これまでより狭く絞り込んで,精度良く表示する方法を6月下旬に始めた。


数値予報技術の改善などにより実現したということで,台風による災害の危険度が高い地域の明確化につながると期待されている。
この方法が,7月15日に南シナ海で発生し,北西へ進んだ台風4号に初めて適用された。
この方法について,気象庁が2019(令和元)年に東日本や東北で河川の氾濫や土砂災害が相次ぎ,甚大な被害をもたらした「令和元年東日本台風」をモデルケースに検証したところ,3日先以降の予報円と暴風警戒域がこれまでより狭くなり,特に5日先の予報円は,約40%狭くなって,精度が向上したという。
気象庁は「災害の危険度が高い地域をより絞り込めるようになるので,早めの避難などの防災行動につなげてほしい」と話している。


ただ,変わらないこともある。▼予報円の定義が「台風の中心が70%の確率で入ると予想される範囲」(つまり30 %は入らない可能性がある)であることや,▼台風の進路予報が3・6時間おきに発表され,そのたびに変化すること,▼いわゆる「迷走台風」など進路予報の難しい台風については,どうしても予報円が大きくなること,などである。
今回の新たな表示方法の導入をきっかけに,メディアを通じて最新の情報を常に確認することの大切さを,改めて認識する必要があるだろう。

メディアの動き 2023年08月21日 (月)

【メディアの動き】韓国KBS,受信料の分離徴収が確定, 施行令改正受け,憲法裁に判断求める

韓国で7月12日,公共放送KBS の受信料を電気料金とともに徴収する方式から分離徴収に改める放送法施行令が施行された。
これを受け,KBSは,改正施行令が憲法に違反していないかなどの判断を憲法裁判所に求めた。

KBSは1994 年以降, 月額2,500ウォン(約270円)の受信料を電気料金とともに徴収してた。
この方式は,KBSに安定した収入をもたらした一方,放送を見ていなくても支払う仕組みとなっていることに対する国民の反発もあり,政府は制度の見直しを行っていた。
今回の改正について,ハン・ドクス(韓悳洙)首相は「国民の料金に対する意識と関連する権利への理解が深まると期待される」と述べた。

一方,KBSのキム・ウィチョル(金儀喆)社長は声明で,「受信料を徴収するために2,000億ウォン(約217億円)以上を浪費せざるを得なくなり,公共サービスのための番組の削減や廃止につながるだろう」との見通しを示し,「国民に多大な損害と混乱をもたらすことが予想されるので,改正を受け入れるのは困難だ」としている。
そのうえでキム社長は,憲法裁判所に判断を求めた目的について,「今回の改正が公共放送の憲法上の価値を損なう可能性の有無を検討し,どのような徴収方式が国民の大多数にとって有益かを判断することだ」と述べた。
同時にキム社長は,「KBSが最善の努力をしてきたにもかかわらず,急速に変化するメディア環境の中で,国民に対し,その価値を十分に発揮できていないことについて,心からお詫びする」と謝罪した。

メディアの動き 2023年08月21日 (月)

【メディアの動き】女子W杯,FIFA 放送権交渉に課題も

サッカー女子の世界一を決める「FIFA女子ワールドカップ2023 」(以下,女子W 杯)が7 月20日,オーストラリアとニュージーランドの共同開催で開幕した。
FIFA(国際サッカー連盟)が2019 年の大会の成功などをふまえ,女子W杯の放送権を男子W 杯と切り離したが,欧州の主要国などとの交渉が難航し,合意が開幕直前までずれ込むなど課題を残した。

FIFAは初の南半球開催となった今回の女子W杯で,参加チームを8 増やして32とした。
FIFAによると,2019 年大会の視聴者数は11億人で女子サッカーの人気は高まっている。
女子W杯の放送権は初の単独での販売となったが,これまで男子W 杯とセットの契約だったこともあり,いわゆる欧州5大リーグがあるイギリス,スペイン,ドイツ,イタリア,フランスの欧州主要5か国で放送権交渉が難航した。

FIFA会長は5月,5か国の放送事業者の提示金額について,男子W杯の1/20 ~ 1/100と「落胆する内容」で,「このままでは放送をやめざるを得ない」と見直しを迫った。
その後,FIFAとEBU(欧州放送連合)が既存の契約を修正し,5か国を含める形で放送が決まったのは,女子W杯開幕のわずか1か月前であった。
日本でもNHK が日本代表の全試合放送を発表したのは7月に入ってからだった。

FIFAは,男女の格差解消に向け,今大会の賞金総額を前大会の3 倍以上の1億5,200万ドル(約215 億円)に増額し,次期W杯で男女同額をめざすとしている。
一方で,経営が厳しい放送事業者の放送権料負担の増加やFIFA が女子W 杯を過小評価してきた問題などを指摘する声も上がっている。

メディアの動き 2023年08月21日 (月)

【メディアの動き】英BBC,国際サービス利用者大幅減

イギリスの公共放送BBCは7月11日,2022年度の年次報告を発表した。
受信許可料の値上げが見送られ,財源削減策を進めたことなどの影響で,国際放送サービスで大幅に利用者が減少したことが明らかになった。


報告書によると,BBCの受信許可料による収入は,支払い件数が43万7,000 件減少した結果,37億4,000万ポンド(約6,769 億円)と前年比で1.6%の減少となった。
その他の収入は,商業部門の売り上げが28%伸び,19 億8,500万ポンド(約3,593 億円)となったが,インフレの影響やデジタル投資などで支出が増えた結果,グループ全体の収支は1億2,000万ポンド(約217 億円)の赤字となった。
利用実績は,統計の取り方を変えたため前年との比較はできないが,16歳以上の週間接触率は69%だった。
また動画配信サービスiPlayerの利用件数は前年比11%増の73 億件で過去最多となった。
一方,世界でBBCのテレビやラジオ,ウェブなどを利用した人は4 億4,700万人で,前年比9%減となった。
特に2022 年に一部言語のラジオ放送の廃止や人員削減策などを決めた国際放送BBC World Serviceでは,43のサービスのうち29で利用者減となった。
西アフリカで使われるヨルバ語やインドネシア語が70%以上の減となる一方,中国語は26%,ロシア語は19%,ウクライナ語は11%の増となった。


BBCは2023 年から,偽情報対策や同局のブランドを広める効果が低いプラットフォーム経由でなくBBCに直接アクセスしてもらうことを優先するとしたうえで「ニュース環境の変化や,経費削減のために国際放送は今後も難しい決断が必要になる」としている。

調査あれこれ 2023年08月01日 (火)

あなたはコンテンツや情報にお金を払いますか?【研究員の視点】#500

世論調査部(視聴者調査)渡辺 洋子

 インターネットで面白そうだと記事を読み始めたら、「ここから先は有料」の文字・・・。
 あるいは、面白そうな動画を見つけ、見たいと思ったら有料だった

 みなさんは、このような経験をしたことはありませんか。
 こうした時、あなただったらどうしますか。
 お金を払ってでも見る? それとも、お金を払ってまでは見ない?

 世の中の人は、どうなのでしょうか。
 NHKが行った世論調査をもとに、考えてみようと思います。

 こちらは「全国メディア意識世論調査・2022」で、映像コンテンツや情報にお金を払うことについて、どのように思うかを尋ねた結果です(図1)。

図1 お金を払うことに対する意識
graph1_ishiki.png

「映像コンテンツ」と「情報」のそれぞれについて、お金を払ってでも見たい(手に入れたい)かどうかを尋ねたところ、「好きな番組や動画なら、お金を払ってでも見たい」と答えた人が35%、「自分の知りたい情報は、お金を払ってでも手に入れたい」と答えた人が31%で、お金を払ってでも見たい、あるいは手に入れたいという人はともに3割台でした。※「どちらかといえば」を含む

 一方、お金を払ってまで見たい、あるいは手に入れたいと思わないと答えた人が6割以上を占めていて、
好きな番組や動画、自分の知りたい情報に対して、お金を払ってまで見たい、手に入れたいという人は多くないことがわかります。

 回答者全体では、このような結果となりましたが、年齢による違いはあるのでしょうか?
 年層ごとの結果を示したのが下のグラフです(図2)。

図2 お金を払うことに対する意識(年層別)graph2_1_ishiki.pnggraph2_2_ishiki.png

 映像コンテンツでも、情報でも、若い人たちほどお金を払ってでも、見たい、あるいは手に入れたいという意識が強い傾向がみられます。
 特に16~29歳では、「好きな番組や動画なら、お金を払ってでも見たい」と答えた人が52%と半数を超えていて、自分の知りたい情報に対する「お金を払ってでも手に入れたい」の38%よりも高く、「映像コンテンツ」に対して、よりお金を払ってでも見たいという意識が強いことがうかがえます。
 この背景には、何があるのでしょうか。

 いくつか要素が考えられますが、そのうちの1つは、メディアの効用の重要度、つまり自分が重要だと思っている目的や場面に対して、どのメディアがもっとも役に立っていると思うかという意識の違いです。

 まず、下の表に示した「世の中の出来事や動きを知ること」「感動したり楽しんだりすること」などの項目について、それぞれどの程度重要だと思うかを尋ねました。
 「世の中の出来事や動きを知ること」を「とても重要」と回答した人の割合は、16~29歳を除いたどの年層でも、もっとも高い項目の1つで半数を超えています。

 ところが16~29歳では、上位を占めたのは「感動したり、楽しんだりすること」(59%)、「生活や趣味に関する情報を得ること」(51%)、「癒やしやくつろぎを感じること」(49%)で、「世の中の出来事や動きを知ること」は半数に至らず(42%)、4番目でした。

 若年層では「世の中の出来事や動きを知ること」よりも「感動したり、楽しんだりすること」のほうが、重要度が高いと考えている人が多いことがわかります。

表 効用の重要度 (「とても重要」と回答した人の割合)(年層別)chart_kouyou.jpg

 次に、16~29歳で高かった「感動したり、楽しんだりすること」について、どのメディアがもっとも役に立っていると思うか、回答結果をみていきます(図3)。「テレビとYouTube、どんなときに役に立っている?【研究員の視点】#499」参照

 16~29歳では、「感動したり、楽しんだりするうえで」もっとも役に立っていると思うメディアとして、YouTubeが42%で、テレビなど他のメディアを大きく引き離す結果となりました。

 また、YouTubeには及ばなかったものの、テレビやYouTube以外のインターネット動画が続いていて、上位3つはすべて映像メディアとなっています。

図3 「感動したり、楽しんだりするうえで」もっとも役に立っているもの(16~29歳)graph3_media.png

 ここまでみてきたように、若年層にとっては、「感動したり、楽しんだりすること」が重要だと思う人が多く、さらに、その「感動したり、楽しんだりするうえで」、YouTubeをはじめとした映像コンテンツがもっとも役に立つと考えている人が多いため、若年層で特に映像コンテンツに対して、お金を払ってでも見たいという意識が強いという結果になったと考えられます。

 さらに、こうした若年層の意識を知る上で、もう1つポイントになる結果を紹介します。
 それは「好きなものに対する意識」です(図4)。

 「好きになったものには、とことんのめり込む」ことや、「好きなものだけに囲まれて過ごしたい」と思うことについて、あてはまるかどうかを尋ねたところ、若年層ほど、「あてはまる」と答えた人の割合が高くなる傾向が出ています。※「とてもあてはまる」「まああてはまる」の合計

図4 好きなものに対する意識(年層別)graph4_1_favorite.pnggraph4_2_favorite.png※ピンクの文字は、「とてもあてはまる」「まああてはまる」の合計

 このように、若年層ほど、好きなものにのめりこんだり、好きなものだけに囲まれて過ごしたりしたいという思いが強く、そうした意識が、好きな番組や動画に対して、お金を払ってでも見たいという結果につながっているのではないかと考えられます。

 今回のブログでは、年層によって、メディアに対する意識の違いやお金を払ってまでみたいと思う意識の違いをみてきましたが、「放送研究と調査7月号」では、紹介した結果以外にも、コロナ禍以降のメディア利用の変化や、人々の意識とメディア利用の関係について、詳しく報告していますので、ぜひご覧ください。

おススメ記事
2023年7月号
コロナ禍以降のメディア利用の変化と,背景にある意識
~「全国メディア意識世論調査・2022」の結果から~
https://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/20230701_5.html

2022年8月号
テレビと動画の利用状況の変化,その背景にある人々の意識とは
~「全国メディア意識世論調査・2021」の結果から~
https://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/20220801_8.html

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【渡辺洋子】
2001年NHK入局。仙台放送局、千葉放送局でニュースなどの企画制作を担当。
放送文化研究所では10年以上にわたり視聴者調査の企画・分析に従事。国民生活時間調査は2005年から担当。
共著『図説日本のメディア[新版]』『アフターソーシャルメディア 多すぎる情報といかに付き合うか』など。

調査あれこれ 2023年07月31日 (月)

テレビとYouTube、どんなときに役に立っている?【研究員の視点】#499

世論調査部(視聴者調査)行木 麻衣

 みなさんは、世の中の出来事や動きを知りたいと思ったとき、テレビを視聴しますか。新聞を読みますか。それともインターネットの検索サイトを見ようと思いますか。あるいは、癒やされたり、くつろいだりしたいと思ったときは、どのメディアを利用しようと思いますか。

 文研では、人々がどのようにメディアを利用しているのか、その背景にある意識は何か、2020年から「全国メディア意識世論調査」を実施しています。今回は、2022年の「全国メディア意識世論調査」から、メディアの効用、つまりそれぞれの目的ごとに、どのメディアがもっとも役に立つと思うかを尋ねた結果をご紹介します。

 まず、回答者全体の結果をみると(図1)、一番上の「世の中の出来事や動きを知る」ときはテレビが59%と半数を超え、もっとも役に立つと評価されています。また、グラフの2番目「感動したり、楽しんだりする」からグラフの下から2番目の「人のぬくもりを感じる」までについても、テレビに対する評価は、ほかのメディアと比べ、もっとも高くなりました。一方、テレビ以外で、どのメディアを利用しているかをみると、赤色のYouTubeは、グラフの真ん中ほどにある「癒やしやくつろぎを感じる」「退屈しのぎをする」で、テレビに迫っています。

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 全体でみると、多くの目的で、テレビがもっとも役に立っていると評価を受けていましたが、これを16~29歳の若年層に限ってみると、異なった様相がみられます(図2)。 全体の回答でテレビが6割ほどを占めていた「世の中の出来事や動きを知る」は、テレビが31%、Twitterが22%で、テレビとTwitterの間に有意差はなく同程度となっています。「癒やしやくつろぎを感じる」はYouTubeが51%と半数を超え、もっとも評価されています。また、「感動したり、楽しんだりする」「生活や趣味に関する情報を得る」「退屈しのぎをする」も、YouTubeがもっとも役に立つと評価されていました。

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 16~29歳では、「癒やしやくつろぎを感じる」という目的のときに、YouTubeがテレビを大きく上回って半数以上を占めました。この「癒やしやくつろぎを感じる」について、16~29歳以外のほかの年層がどのように思っているのかをみてみます(図3)。テレビは年層が高くなるほど評価が高く、反対にYouTubeは年層が低いほど評価が高く、対照的な結果となっています。この中間にあたるのが40~50代で、テレビとYouTubeが同程度でした。

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 このように、16~29歳では、テレビよりもYouTubeから癒やしやくつろぎを感じている人が多いですが、具体的にはどのような状況や場面で、どのようなコンテンツを見ているのでしょうか。今回の調査に関連して、2023年3月に30代以下の男女18人を対象に、オンライングループインタビューを行いました。その中での発言をいくつかご紹介します。

「癒やしやくつろぎを感じるうえで」(女性28歳 会社員)
(休日の朝にのんびりと、YouTubeでモデルの動画を見るときは)
「すてきなライフスタイルを送っていて憧れじゃないけど、そういう気持ちになれるのでなんか気分が高まる。それが自分のまったりしたい気分、のんびりしたい気分に合っているのかな。」

(女性29歳 パート・アルバイト)
(休日の朝、ご飯のあと、ソファでTwitter、パソコンでYouTube。YouTubeでは)
「このときは流し作業的な感じで、アーティストのライブ映像を流していたと思う。」


 時間に余裕があるときに、YouTubeで好きな動画を見たり、音楽を聴いたりしながら、のんびりとした時間を過ごしている様子がわかります。

 ここまでみてきたように、全体でみれば、テレビは「世の中の出来事や動きを知る」だけでなく「感動したり、楽しんだりする」「人と共通の話題を得る」など多くの目的や場面で、多くの人にもっとも役に立っていると思われています。一方で、16~29歳で顕著にみられたように、「感動したり、楽しんだりする」「癒やしやくつろぎを感じる」「生活や趣味に関する情報を得る」「退屈しのぎをする」といった場面では、その目的にかなう動画や情報をその場で見ることのできる、YouTubeを役に立っていると思う人が多くみられ、役に立っていると思うメディアが多様化している現状を垣間見ることができました。

 『放送研究と調査』2023年7月号では、今回ご紹介したメディアの効用をはじめ、メディアの利用実態、メディア利用と意識などについて、「全国メディア意識世論調査・2022」の結果をご紹介しています。
コロナ禍以降のメディア利用の変化と、背景にある意識~「全国メディア意識世論調査・2022」の結果から~
どうぞ、ご覧ください。

【行木麻衣】
2013年からNHK放送文化研究所で視聴者調査の企画や分析に従事。
これまで、全国個人視聴率調査、幼児視聴率調査、全国メディア意識世論調査などを担当。