文研ブログ

2022年11月

調査あれこれ 2022年11月22日 (火)

#430 サッカーW杯日本代表いよいよ初戦! ドイツ戦せまる!

計画管理部(計画) 斉藤孝信

 日本時間11月23日22時、サッカー日本代表が、カタールでのFIFA ワールドカップ 2022初戦を迎えます!
 対戦相手のドイツは、18大会連続20回目の出場で優勝4回、世界ランキング11位という強豪です。日本はこれまで強化試合で2度対戦し、1敗1引き分けと、まだ勝ったことがありません。初勝利、なるでしょうか!? ドイツ戦はNHKで生中継がありますので、テレビの前で皆さんと一緒に気合いを入れて応援したいと思います!!

サッカー日本代表

 日本は7大会連続7回目の出場、世界ランキング24位。過去6回出場したW杯で3回、ベスト16に進みました。今大会の1次リーグは、ドイツのあとも、コスタリカ(世界ランキング31位)、スペイン(世界ランキング7位)と難敵続きですが、ぜひとも過去最高のベスト8以上への進出が実現するよう祈りましょう!

サッカーW杯 日本代表のこれまでの戦績と今大会の試合予定

 遠くカタールの地で戦う選手たちへのエールの意味も込めまして、今回は、文研の世論調査結果から、特に「サッカー」に注目して、スポーツの話題をお届けします。
 まずは、今年6月第1週に実施した「全国個人視聴率調査」の関東地方のデータから、その1週間(8時~23時)に生中継で放送されたスポーツの試合の視聴率ランキングをご覧いただいます。

スポーツ中継の視聴率ラインキング

 サッカーのキリン杯の日本代表戦がトップ2を占め、ブラジル戦が13.9%、ガーナ戦が7.0%とよく見られました。次いで、陸上、ゴルフの順です。BSは地上波に比べてそもそもの視聴率が低いのですが、それでも大谷翔平選手の出場した日曜のMLB中継が5番目に入っています(MLBについては先日のブログ#429で詳しく報告しています)。

 上位に入った「サッカー(ブラジル戦)」「陸上」「ゴルフ」「MLB」の4つについて、それぞれ、どんな方がよくご覧になったのか、男女年層別にグラフにしてみます。

主な試合の男女年齢層別視聴率 2022年全国個人資料率調査

 サッカーは、男性の各年代と女性の40代以上で10%超となり、他の3つよりもよく見られていました。
 とはいえ、男性の60歳以上では、陸上も11%、ゴルフとMLBも7%とよく見られていますので、"男性の高年層はスポーツ自体をよく見た(その中でも、特にサッカーをよく見た)"と考えて良さそうです。
 一方で、男性50代以下と女性40代以上では、"他のスポーツはあまり見なかったのに、サッカーだけはよく見た"という結果です。たとえば女性40・50代は、サッカーキリン杯は18%でしたが、あとの3つはいずれも1%以下と、ほとんど見られませんでした。
 この結果だけをみると、男性50代以下や女性40代以上は"サッカーをよく見る"、と思いたくなりますが、たった1年(どころか1週間)のデータで決めつけるわけにもいきませんので、文研の得意技として、過去のデータを振り返ってみたいと思います。
 ※ただし、「全国個人視聴率調査」は、2022年は郵送法で実施しましたが、コロナ禍による中断以前の2019年までは調査員がお宅に伺う「配付回収法」でしたので、ここまでとこのあとの視聴率は単純に比較できませんのでご承知おきください!

 同じく調査週にサッカーキリン杯があった2017年の、スポーツ中継の視聴率上位表です。

2017年6月第1週 スポーツ中継の視聴率ラインキング

 この年もキリン杯の日本代表戦がトップでした。しかし、よく見られた「サッカー」「卓球」「テニス」「プロ野球」の男女年層別視聴率をみてみると......、

主な試合の男女年齢層別視聴率 2017年全国個人資料率調査

 さきほどの2022年とは違い、男性40・50代や女性40代以上では、サッカーだけでなく、世界卓球やテニスの全仏オープンもよく見られていました(一方で、プロ野球はそれらに及びませんでした)。

◎男性40・50代: サッカー8%、 テニス6%、 卓球5%、 野球3%
◎女性40・50代: サッカー8% テニス5%、 卓球5%、 野球2%
◎女性60歳以上: サッカー10%、 テニス9%、 卓球11%、 野球4%

 プロ野球が国内での通常シーズンの試合だったのに対して、サッカーキリン杯、テニスの全仏オープン、世界卓球は、いずれも日本選手や日本代表チームがタイトルをかけて世界の強豪を相手に戦う1年~数年に1度開催される大きな国際大会で、代表選手の知名度も高く、メディアでもさかんに取り上げられて話題となっていたという共通点があります。
 すなわち......、男性40・50代や女性40代以上は、"世界を相手に日本が挑む大きな国際大会"はよく見る、ということなのではないでしょうか(なお、さきほどの2022年については、陸上とゴルフは国内の大会、MLBは通常のシーズンの試合で、"世界を相手に日本が挑む大きな国際大会"にあたるのはキリン杯サッカーだけでした)。
 "世界を相手に日本が挑む大きな国際大会"といえば、まだ記憶に新しい東京オリンピック・パラリンピック(五輪・パラ)はまさにそうした楽しみの詰まった大イベントでした。
 文研はこの大会についても世論調査を行ってきました。当初の開幕予定の"1年前"にあたる2019年夏に実施した調査では、「ふだんテレビやインターネットでスポーツを視聴するか」と「東京五輪・パラを楽しみにしているか」という質問をしました。ふだんスポーツを『見る』と答えた人と、五輪・パラが『楽しみ』だと答えた人の割合を男女年層別にしますと、こうなります。

ふだんのスポーツ視聴と、五輪・パラ「楽しみ」

 まず注目すべきは、女性の50代以下です。ふだんスポーツを『見る』のは4割~5割程度と他の年代よりも低いのですが、五輪・パラを『楽しみ』にしていた人は8割前後と、他の年代に負けず劣らず、大多数を占めていたのです。また、男性40・50代も、ふだん『見る』人の割合(65%前後)よりも、五輪・パラを『楽しみ』にする人の割合(80%弱)が高くなっています。
 やはり、こうした年代は、"世界を相手に日本が挑む大きな国際大会"であり、世の中で話題になっている大イベントを楽しみに思い、その気持ちが視聴行動にも結び付いているのかもしれません。

 さらに、五輪・パラ終了後の2021年秋に実施した調査では、「東京五輪・パラで印象に残ったこと」を複数回答で尋ねました。その結果...、

東京五輪・パラで印象に残ったこと

 全体では「日本が過去最多の金メダルを獲得したこと」(29.7%)と「10代などの若い選手たちの活躍ぶり」(29.1)が同じくらいに多くなりましたが、女性の50代では「日本の金メダル」が37%で最も多く、しかも他の年代よりも高くなりました。また、ふだんスポーツを『見る』人が全体より大幅に少ないはずの女性40代以下でも「日本の金メダル」を喜んだ人は全体と同じくらいに多く、男性40・50代でも「日本の金メダル」を挙げた人が3割超となっています。
 このように、男性40・50代や、50代以上を中心とした女性は、"日本勢が世界に挑む大きな国際大会"は楽しみに視聴するし、勝利の栄冠を勝ち取れば大いに喜ぶ!ということなのかもしれません。
 FIFA ワールドカップ 2022ドイツ戦は、まさに、日本代表が世界に挑む4年に1度の大舞台のスタートです。きっと多くの方がテレビで声援を送ることになるのではないかと、いまから楽しみです!!
 初戦、「日本×ドイツ」は11月23日の22時キックオフ。NHKでは試合の模様を、総合テレビ、BS4K、NHKプラスでお伝えします。ぜひご覧ください!

調査あれこれ 2022年11月17日 (木)

#429 大谷翔平選手、2年連続MVP受賞なるか!?

計画管理部(計画) 斉藤孝信

 明日(日本時間11月18日)、アメリカ大リーグ(MLB)アメリカン・リーグのMVPが発表されます。
 MVPはレギュラーシーズンに最も活躍した選手に贈られ、全米野球記者協会に所属する記者30人の投票によって選ばれます。今年はリーグ記録となる62本のホームランを打ったヤンキースのアーロン・ジャッジ選手と、投手として15勝、打者として34本塁打を記録し、受賞すれば2年連続となる我らが"二刀流"大谷翔平選手が、熾烈なMVP争いを繰り広げていることが、多くのメディアで取り沙汰されています。

saito_2211_0_gettyImages-1233842873.jpg 実際にはもう投票は終わっていますし、いまさら私がここで何を言ったところでどうなるわけでもありませんが、楽しみに待っている日本のファンの皆様のために、今回は、文研ならではの、"これは、もしかして受賞できるのではないか?"と思いたくなるデータを!
 ご紹介するのは、文研が6月最初の1週間で実施した「全国個人視聴率調査」の、NHKBS1の視聴率上位ランキングです。MLBを放送しているBSの視聴率は地上波に比べてそもそもの数字が小さい上に、まだまだシーズン序盤の1週間限定のデータなので、シーズン全体の活躍や視聴の盛り上がりを反映したものではないことをご承知いただいたうえで、あえて、順位だけでお話ししていきます。
 今年のランキング表をみると、なんと、トップ7がいずれも大谷選手の出場したエンジェルス戦。つまり調査週に行われた7試合すべてがランクインしたのです!*1

2022年 BS1視聴率高位番組

 アメリカ西海岸に本拠地を置くエンジェルスの試合は、ナイトゲームの場合、日本では日中に放送されることもあり、やはりトップ2は多くの人が比較的視聴しやすい日曜と土曜の試合となりました。平日トップとなった6月10日(金)のレッドソックス戦は、大谷選手が先発投手としてマウンドに立ちながら、指名打者として打席にも立つ"リアル二刀流"でした。視聴率は1.2%ですが、じつは、この時間にリアルタイムでテレビを視聴していた人たちを100とした割合(占拠率)は18%にのぼります。つまり、この時間にテレビ放送を視聴していた人の5人に1人が大谷選手の試合を見ていたことになります。
 この「全国個人視聴率調査」は、コロナ禍の影響で2020年と2021年は実施できませんでしたので、残念ながら、初のMVP受賞となった去年のランキングがどうだったのかをお示しすることができないのですが(去年も同じであれば、"だから今年もきっと!"とファンの皆様をさらに勇気づけることができたかもしれませんが......)。
 ご参考までに、大谷選手がMLBでの挑戦を始めた2018年と、翌2019年のデータを紹介します*2。なお、大谷選手は、2018年は打者としては114試合に出場し、打率2割8分5厘、22本塁打。投手としては10試合に登板し、4勝2敗、防御率3.31という好成績で、アメリカン・リーグの「新人王」を受賞しました。2019年は肘の故障で投手としての出場はなく、打者として106試合に出場し、打率2割8分6厘、18本塁打でした。その両年、6月第1週に「全国個人視聴率調査」BS1トップ10に入ったのはいずれも3試合でした。

2018年 BS1視聴率高位番組

2019年 BS1視聴率高位番組

 これだけでも、今年、7曜日すべての試合がトップ10入りしたのがどれだけ凄いことなのかおわかりいただけると思いますが、2001年以降の各年のトップ10中にランクインした試合数を振り返ると......、

BS1視聴率トップ10に入ったMLB中継

 なんと、全7試合がトップ10に入ったのは、今回が初めてだったのです。
 次に多かったのは2001年。この年にはイチロー選手がMLBに挑戦して大活躍。首位打者、盗塁王、最多安打、シルバースラッガー賞、ゴールドグラブ賞のタイトルを同時獲得。新人王、そして、MVPにも選ばれています。あの伝説のイチロー選手MLBデビューイヤーよりも多くの試合がランクインしたのだから、きっと今年も大谷選手がMVPを...。と願ってしまうのは、分析者というよりもファンとしての気持ちがまさってしまい、ちょっと説得力に欠けますでしょうか......。
 ちなみに調査では、今年6月の大谷選手の試合が少なからぬ女性にも見られたことがわかり、大谷選手の活躍を応援する女性ファンの存在も想像できて、興味深い結果でした。
 「全国個人視聴率調査」の結果は『放送研究と調査』10月号に掲載していますので、ぜひそちらもお読みいただければ幸いです!

 果たして、結果はどうなるのか!?皆さんと一緒にワクワクしながら、明日の発表を待ちたいと思います!


*1:マルチ放送(BS101と102で別の番組を放送)の場合、今回はMLB中継を優先して表示しています。なお、ニュースなどによる中断を挟んで、1つの試合が複数の番組として放送された場合は視聴率の高かったほうを優先し、表における開始時刻も該当の番組の開始時刻を示します(試合開始時刻ではありません)。
*2:「全国個人視聴率調査」は、原則6月の第1週、調査相手に5分刻みのマークシートで、視聴した時刻と局を記入してもらっています。2019年までは配付回収法(調査員がお宅を訪問する方法)でしたが、コロナ禍による2年の中断を経て、2021年からは「郵送法」に切り替えました。配付回収法と郵送法の視聴率などの結果は単純に比較できません。
調査あれこれ 2022年11月15日 (火)

#428 暗雲漂う岸田政権の前途 ~外交で挽回は図れるのか~

放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 10月24日、ロシア軍がせきを切ったようにウクライナに侵攻を開始してから8か月になったこの日、日本の永田町では岸田政権の足元で不安視されていた堤の一角が崩れ落ちました。

 山際大志郎経済再生担当大臣が「国会運営に迷惑を掛けたくない」として、岸田総理大臣に辞表を提出し、後任には後藤茂之前厚生労働大臣が充てられました。

 安倍元総理を死に追いやった銃撃犯の供述をきっかけに旧統一教会問題が噴出し、長年にわたる深い関係を指摘され続けていた山際大臣。旧統一教会関連の催しへの出席など、新たな事実が報道で明らかになるたびに「記憶になかった」という言い訳を連発し、辞任は時間の問題とされていました。

 この問題と安倍元総理の国葬に対する批判がないまぜになって、各種世論調査での岸田内閣の支持率は、8月以降、下り勾配が続いています。

 そして山際大臣の辞任から3週間足らずの11月11日午後、今度は葉梨康弘法務大臣が辞表を提出しました。法務大臣の重要な職責である死刑執行の署名を、パーティーの挨拶で受け狙いの話のタネに使った軽率さが問題視されていたからです。

 しかし葉梨大臣は、その日の午前中の国会答弁でも「職責を全うする」と繰り返し、辞任する考えはないと強弁していました。前日に岸田総理と会って確認した通りに発言していたということですが、これには自民党内からも反発の声が噴出しました。

 岸田総理は後手に回った事態の対応に追われ、予定していたアジア歴訪への出発を遅らせて、後任に齋藤健元農林水産大臣を充てました。

 11月のNHK月例電話世論調査は、この法務大臣交代のさなかの11日(金)の夕方から13日(日)にかけて行われました。

☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。

 支持する  33%(対前月-5ポイント)
 支持しない  46%(対前月+3ポイント)
 わからない、無回答  21%(対前月+1ポイント)

NHK世論調査での岸田内閣の支持率は、7月に発足以来最も高い59%を記録した後8月から下がり始め、これで4か月続けて最低を更新したことになります。

 相次ぐ閣僚辞任を巡って、自民党のベテラン国会議員たちからは「辞任ドミノを避けたい気持ちがあるのだろうが、人事権を持つ総理の決断の遅さが負のスパイラルを生んでいる」という声が聞こえてきます。

 「聞く力」はあるが「決める力」に欠けているという身内からの厳しい指摘です。

 10月と11月について、与党支持者、野党支持者、無党派の別に内閣支持率を比べてみるとこうなります。

 10月➡与党支持者68% 野党支持者16% 無党派17%
 11月➡与党支持者59% 野党支持者14% 無党派17%

 与党支持者の内閣支持率が9ポイント急落していて、もともと支持率が低い野党支持者、無党派層よりも落ち込みが激しくなっています。言い換えれば与党支持者の中で進む岸田離れの気配をうかがわせるものです。

 自民党の国会議員の中には「衆議院選挙や参議院選挙を控えていれば『岸田降ろし』が表面化しかねないが、当面は来年4月の統一地方選挙だけだからそうはならない」と語る人たちもいます。

 果たしてそうなのでしょうか。私は日頃から地方議会の議員たちとの意見交換を心がけていますが、先月あたりから「このままでは来春の選挙で当選できない」という自民党議員の悲痛な声を耳にするようになりました。11月のNHK世論調査では、こういう質問もしています。

☆旧統一教会と国会議員の関係が、相次いで問題になっています。あなたは、地方議員も関係を点検し、明らかにすべきだと思いますか。それとも明らかにする必要はないと思いますか。

 明らかにすべきだ  71%
 明らかにする必要はない  18%
 わからない、無回答  11%

国民の7割が「明らかにすべき」と答えているところに、旧統一教会を巡る問題に対する国民の厳しい視線を感じます。これに応えないままで国民の政治意識が変化するとは考えにくいというのが正直なところです。

 岸田総理は、葉梨前法務大臣から齋藤新法務大臣へのバトンタッチを見届けて、東南アジア各国で開催されている各種の首脳会議に精力的に臨んでいます。安倍内閣で4年8か月にわたって外務大臣を務めた経験を生かし、国際情勢が不安定化する中で、外交で存在感を示したいという思いが強いのはよくわかります。

 13日にはASEAN関連の首脳会議が開かれたカンボジアで、アメリカのバイデン大統領と日米首脳会談を行いました。厳しさを増す安全保障環境に対応するために、日米同盟の抑止力と対処力の一層の強化を図ることで一致しました。

 ただ、気になるのは日米同盟の強化に必要な防衛費の増額についてです。財源問題を含めて、具体的な内容が国民の目に触れるのは、まさにこれから。財務省は財源確保のためには各種の増税も必要になるという方針をすでに示していますが、そこに国民の理解が得られるかは不透明です。

 周囲を中国、ロシア、北朝鮮に囲まれた日本で、国民の多くが総論では防衛力強化は必要と考えても、増税を伴う各論に理解を得るのは容易な仕事ではありません。

 岸田総理の胸中を推し量れば、来年5月19日から21日に自らの地元の広島で開催するG7サミットに向けて外交・安全保障でポイントゲットを重ねて政権の浮揚を図りたいということでしょう。

 しかし、その前に今の臨時国会での補正予算案審議、年明けの通常国会での来年度予算案審議などを乗り越えなくてはなりません。「政権の体力回復」が必須条件で、そのために国民にどう自らの考えを発信していくのか。正念場です。