文研ブログ

調査あれこれ 2023年10月02日 (月)

メディアは社会の多様性を反映しているか~2022年度調査から ①~テレビの世界は「中高年の男性と若い女性」~【研究員の視点】#505

メディア研究部 (多様性調査チーム) 青木紀美子 小笠原晶子 熊谷百合子 渡辺誓司

 誰もが生きやすい、多様な人々が力を発揮できる社会をつくっていくためには多様性の尊重と、公平性、包摂性の実現が欠かせないという認識が広がってきました。では、社会を映す鏡であると同時に、社会のあるべき姿を示す役割も持つメディアは多様性をどう反映しているのでしょうか?それを把握する一つの方法として、私たちは、テレビ番組に登場するジェンダーバランス、まずは女性と男性を中心に調べてみました。

 その前に、総務省の人口推計によると、日本の人口に占める女性と男性の割合は、女性は男性より多く、2022年時点で総人口の51.4%を占めています。

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 一方、テレビに登場している女性と男性の比率は、2022年度の文研の調査では、番組全般で、女性は半分に満たない約4割でした。これは、番組について放送日時や内容、登場人物などを記録したメタデータを使い、6月の1週間、NHKと民放キー局計7チャンネルで放送された全ての番組(映画、アニメ、再放送を除く)を対象に調査したものです。なお番組全般は、エム・データ社の性別分類で分析しています。

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 さらに、NHKと民放キー5局の夜ニュース報道番組(夜9時~夜11時台に放送)にしぼり、6月と11月のそれぞれ5日間(月~金)で、登場した人物を調べてみると、登場する女性の割合は、番組全般の出演者よりも1割程度少なく、約3割を下回りました。

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 次に年代別にみてみます。日本の人口統計では、50代まで男性が女性を上回っていますが、60代以降は女性が男性より多くなっています。

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 しかし、メタデータをもとに分析した番組全般出演者でみると、女性は20代が最も多く、30代以降は減少します。男性は40代がピークで50代以降は減少しますが、60代、70代とも女性より圧倒的に多くなっています。

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 夜のニュース報道番組でも同じような傾向がみられました。女性は19-39歳で最も多く、40歳以降は減少します。男性は40-64歳が最大で、65歳以降は減少しますが、40代以降、女性よりはるかに多くの男性が登場しています。

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 テレビ番組やニュースに登場する人たちは全体として男性に偏っていることがわかりましたが、ある分野では、女性の方が多い、あるいは女性と男性が半々に近い状況がありました。それが、番組の司会者やリポーターです。番組全般では「アナウンサー・キャスター・リポーター」、夜のニュース報道番組では「レギュラー出演者」という指標に分類して数えています。テレビ番組全般、夜のニュース報道番組とも、登場する数は、男女半々に近く、バランスが取れているようにみえます。

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 ところが、番組全般の「アナウンサー・キャスター・リポーター」や夜のニュース報道番組の「レギュラー出演者」も、年代別、年層別にみると、女性と男性の現れ方の違いがみえてきます。
 番組全般、夜のニュース報道番組とも、女性は20代、30代に大きく偏っています。調査からは、明らかに「中高年の男性と若い女性」という構図がみえてきました。

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 私たちは、2021年度からこの調査を行っていますが、2021年度と22年度、ほぼ同じ傾向でした。22年度は、このようなジェンダーバランスのほか、障害の有無や人種的多様性についても、テレビの登場人物をみる分析指標に加えています。調査結果全体については、「放送研究と調査」10月号で詳しく報告しています。ぜひご覧ください。
https://www.nhk.or.jp/bunken/book/monthly/index.html?p=202310

 また、文研フォーラム2023秋 10月4日(水)13時~ 「メディアの中の多様性を問う~ ジェンダー課題を中心に」では、こうした調査データもご紹介しながら、メディアが社会の多様性推進に向けて、果たすべき役割について、パネリストとともに広く考えます。
すでに事前申し込みは締め切りましたが、その後も多くの方から視聴のご要望をいただいておりますので、今回は当日申し込みも受け付けることにいたしました。当日になりましたら、ぜひ下記リンクからお申し込みください。受付後に視聴用URLを送付します。
https://www.nhk.or.jp/bunken/forum/2023_aki/index.html

なお、同時配信を見逃された方は、10月10日(火)~12月24日(日)まで、上記HPで見逃し配信を予定しています。

 

これまでの多様性調査チームの調査報告は以下からご覧いただけます。

連載 メディアは社会の多様性を反映しているか① 調査報告 テレビのジェンダーバランス
『放送研究と調査』2022年5月号

連載 メディアは社会の多様性を反映しているか② 研究発表「テレビのジェンダーバランス」ディスカッションから
『放送研究と調査』2022年8月号

連載 メディアは社会の多様性を反映しているか③ 将来に向けた危機感を問うアメリカの事例と専門家の提言
『放送研究と調査』2023年1月号

放送研究リポート テレビ出演者のジェンダーバランス~トライアル調査から
『放送研究と調査』2021年10月号

調査研究ノート 海外公共放送とダイバーシティー戦略 "多様性"の指標とは
『放送研究と調査』2021年2月号