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調査あれこれ 2023年10月12日 (木)

経済対策は国民の心に届くのか?~内閣改造も政権浮揚につながらず~【研究員の視点】#507

NHK放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 9月13日に行われた内閣改造は、上川陽子外務大臣をはじめ5人の女性閣僚の起用で注目されました。ところが2日後に決まった副大臣と政務官は全員が男性。思わず「艶消し」という言葉を思い浮かべた人もいれば、与党の女性議員の層が薄いと感じた人もいたことでしょう。

 この改造人事の後、最初のNHK電話世論調査が、10月7日(土)から9日(月・祝)にかけて行われました。

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☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。

  支持する   36%(対前月±0ポイント)
  支持しない   44%(対前月+1ポイント)

改造前と比べてほぼ横ばいでした。岸田総理の周辺は、人事によって自民党内での求心力を高め、政策遂行の力を強化するのだと力説していました。しかし、国民の側の評価は冷ややかで、いわゆるご祝儀は舞い込んでこなかったということです。

 岸田内閣の発足は2021年10月4日。新型コロナウイルスの感染拡大が社会を覆っていた時期でしたが、その後は徐々に収束の方向に向かいはじめ、永田町界わいでは「岸田総理はついている」とも言われました。

 ただ、2022年2月にはロシアがウクライナに軍事侵攻を開始し、食糧や資源の流通が滞ったりして世界規模で経済活動に影響が及び、国際社会の秩序も動揺が続いています。

☆岸田内閣の発足から2年がたちました。あなたは、この2年間の岸田内閣の取り組みを評価しますか。

  評価する   40%
  評価しない   54%

これを与党支持者、野党支持者、無党派の別に見てみると、「評価する」は与党支持者65%、野党支持者27%、無党派25%となっています。与党支持者で何とか3分の2を占めていますが、野党支持者と無党派では4分の1にすぎません。野党支持者と無党派では、「評価しない」が7割に上っています。

 この2年間、岸田総理は「新しい資本主義」「異次元の少子化対策」「安全保障の対処力強化」とスローガンを並べ立ててきました。しかしながら国民の目には具体的な優先政策が何で、自分たちに求められる新たな負担は何なのかといった点が腹に落ちていないように感じます。

 とりわけ物価高への対応を柱とする経済対策には厳しい目が向けられています。

keizaitaisaku1012_2__W_edited.jpg9月25日

 内閣改造後の9月25日に岸田総理は官邸で、「近年の税収増加を経済対策で国民に還元する」と強調しました。確かに2021年以降、所得税、法人税、消費税の基幹3税を中心に、財務省の当初の見積もりよりも結果として税収が多くなる「上振れ」が続いているのは事実です。

 ただ、これについては物価高騰で原材料費や人件費が上がった分、製品やサービスの価格に転嫁されたために税収増となっているだけで、経済の実勢が上向いているわけではないというエコノミストの分析も出ています。

☆政府は、物価高対策などを盛り込んだ新たな経済対策を、10月末をめどにまとめる方針です。あなたは、対策の効果に期待していますか。期待していませんか。

  期待している   38%
  期待していない   57%

期待していないが全体の6割近くを占めています。この設問でも、野党支持者と無党派で「期待していない」という否定的な回答が7割に達しています。

 税収が増えた分を国民に還元するということは、国民の不満や不安を解消するために、まず目先の支出、金配りを優先するということでしょう。そうなると、国が抱える多額の借金の返済に充てる財政健全化の取り組みは後回しになる懸念も生じます。

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☆政府は、新たな経済対策を早期に実施する方針です。一方で、防衛費の増額や、少子化対策強化のための財源の確保も課題となっています。あなたは国の財政状況に不安を感じていますか。感じていませんか。

  感じている   75%
  感じていない   19%

この設問に対しては、与党支持者で「感じている」が8割、野党支持者と無党派で7割超という結果になっています。岸田政権の足元を支える与党支持者の方が中長期的な財政状況の悪化を懸念しているのは少し驚きです。

 これまで国会の予算委員会で岸田総理と議論を戦わせた野党幹部に感想を聞くと、こんな答えが返ってきました。「彼は延命と自己保身にはたけているが、目指している国のあり方や国家像を感じたことはない」つまり、岸田総理は足元の出来事への対応に終始しているだけだという痛烈な批判です。

 岸田内閣の支持率が一進一退を続ける背景には、総理大臣から発せられるメッセージに耳を傾けても、近い将来のことさえなかなか見通すことができないという、一種の「もやもや感」が国民の間にあるように感じます。

 10月20日には政府の経済対策などを巡って議論する臨時国会が召集される予定で、その直後の22日には衆議院長崎4区と参議院徳島・高知合区の補欠選挙が行われます。

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 岸田総理は新たな経済対策をてこにして2つの補欠選挙で与党の2勝を目指していますが、どちらの選挙も野党候補が1本化されています。限られた地域の選挙ではありますが、岸田政権2年への評価が示される側面も否定できませんので与野党対決の結果に注目です。

 そして、この選挙結果のいかんに関わらず、物価高に苦しみ、先行きに対する不安をぬぐえない国民に、しっかりした政治のメッセージが届くことに期待せずにはいられません。

 通常国会の閉会から4か月もたっています。臨時国会での久しぶりの本格論戦が、目先のことだけでなく、多くの国民が自分たちの将来について思いをいたすことができるものになるよう、政府・与党にも野党にも期待したいと思います。

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島田敏男
1981年NHKに入局。政治部記者として中曽根総理番を手始めに政治取材に入り、法務省、外務省、防衛省、与野党などを担当する。
小渕内閣当時に首相官邸キャップを務め、政治部デスクを経て解説委員。
2006年より12年間にわたって「日曜討論」キャスターを担当。
2020年7月から放送文化研究所・研究主幹に。長年の政治取材をベースにした記事を執筆。