2017年12月20日 (水)そのイルミネーション なぜ光る?


※2017年12月5日にNHK News Up に掲載されました。

12月に入り、インスタ映えを狙って、今週末はここのイルミネーション、来週末はここを見に行こうと思いを巡らす人も多いのではないでしょうか。インターネットの特集サイトを検索すると、全国各地で600件を超えるイルミネーション・イベントが。毎晩、全国で何百万個以上の電球が夜空を彩っていると想像されます。SNS上には画像に合わせて感動や喜びの投稿が相次ぐ一方で思わぬ批判の意見も。ただ光るだけでない、イルミネーションの裏側を取材しました。

ネットワーク報道部記者 戸田有紀・後藤岳彦・伊賀亮人

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<始まりは1軒の電飾から>
クリスマスシーズンに全国から注目を集める山あいの集落があります。それが、山梨県身延町西嶋にある集落です。

son171205.2.jpgイルミネーションが始まったのは1997年。住民の1人が孫に見せて楽しませたいと1軒の住宅を電飾したのがきっかけでした。

その後、地区の住民グループも飾りつけをするようになり、毎年、少しずつ規模を広げていき、今では36軒が参加しています。500mの道沿いには実に10万個以上の電球が点灯しています。

son171205.3.jpg住民の1人、望月天さんは「60代、70代と高齢者も多い地域なので、地域を盛り上げるきっかけになっている」と話しています。


<訪問客が2000人に!>
イルミネーションを見るために、土曜日になると、石川県や新潟県、さらには千葉県まで。多いときには県内外からおよそ2000人の見物客が訪れるといいます。

飾りつけは1か月かけて行っていて、すべて住民による手作り。電気代や電球の交換などの費用もすべて住民たちでまかなっていますがイルミネーションの期間中、会場に募金箱を置いているほか、夏祭りで出店した屋台の売り上げなどを運営費の一部に充てています。

son171205.4.jpgイルミネーションはごく普通の住宅地の中の、車のすれ違いも難しい道路沿いに飾られています。高齢化の進む集落に輝く10万個もの電飾は、イルミネーションがすっかり全国各地で定着したことを実感させる地域を“元気づけるあかり”となっています。


<“光る学費”って何?>
集落だけではありません。今、注目を集めているのが大学のキャンパスを彩る華やかなイルミネーションです。学生たちだけでなく、地域の人たちの間でも話題となっています。

ところが、最近、SNS上には、このイルミネーションを「光る学費」、「学費が光ってる?」と否定的な投稿がー。

費用に学費が使われているのではないかとして、「イルミネーションではなく大学の設備に使ってほしい」というのです。

職場で学生の話を聞いてみたところ、すでに数年前から「光る学費」という言葉は使われているのだとか。

なるほど、そうだったのかと新鮮な気持ちを抱きながらも、それでは実際のところどう運営されているのか、SNSにイルミネーションが投稿されていた大学に聞いてみました。

徳島市の徳島文理大学では、2006年から徳島市と香川県さぬき市の2か所のキャンパスでイルミネーションを点灯する、その名も「文理ナリエ」を開催。このうち、徳島市のキャンパスでは35万個のLED電球を使って学内の並木道を照らしています。地域の人に大学を身近に感じてもらおうと始めたそうです。

son171205.5.jpg費用について問い合わせると、「学費は使っていません」という明快な答え。大学を運営する学校法人の運営費を利用、学費とは別会計となっているため、学生の負担にはなっていないと説明しています。

さらに国立大学であるさいたま市の埼玉大学。大学と地域をつなぐ「笑顔の架け橋」にしようと、学生のサークル活動として、2004年からイルミネーションを開催しています。

son171205.6.jpg費用は、学生の自主的な活動を支える「学生後援会」の支援のほか、大学の地域貢献の役割を担う、社会連携室の予算を一部にあてているということです。

ちなみに、学生後援会の事業費は保護者からの会費と教職員からの賛助金でまかなわれ、学費ではないということです。

埼玉大学では「学生の課外活動のひとつではあるが、この活動で積み重ねてきた地域とのつながりは、地域に根ざした大学であり続けるために必要であり、大切にしていきたい」と話しています。


<資金難でも込められた願い>
一方、取材をしてみると、運営費をどうまかなっていくか、悩みを抱えるイルミネーション・イベントも少なくないようです。

その1つが、阪神・淡路大震災で犠牲となった人の鎮魂と復興への思いを込めて、震災が発生した年に始まった「神戸ルミナリエ」です。

son171205.7.jpg例年300万人以上が訪れ、「イルミネーションといえばルミナリエ」と思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。運営に4億円以上がかかっていることなどから、毎年のようにこれ以上、開催すべきではないという意見が寄せられることもあると言います。毎年、開催するかどうかの検討を行っていますが、大震災への思いをはせて開催が続いています。

実行委員会の担当者は「点灯する瞬間に手を合わせる人たちを見ると、さまざまな思いが込められているのがわかる。その願いをつなげていきたい」と話します。
イルミネーションの光に思いを託す人は、東日本大震災の被災地にもいます。宮城県気仙沼市で震災の翌年からイルミネーション・イベントを開催する宮井和夫さんです。

「気仙沼の港に光と子どもたちの笑顔を取り戻したい」 その願いを込めて、友人と3人でイベントを始めました。

son171205.8.jpg必要な運営費は800万円前後。一部は市からの助成もありますが、大半は協賛金でまかなわれています。

イベントを始めて5年たった今、企業などからの協賛金が集まりにくくなっています。

son171205.9.jpg宮井さんは「復興のための工事などが減り地域経済が徐々に弱くなっている中で、地元の企業の方にお願いしにくいところもあります」と話します。足りない分は、地元のタクシー会社の社長でもある宮井さんや仲間が自腹で支出しています。

開催を始めた次の年から行っているクラウドファンディングも、震災から月日がたつにつれ、応募額が少なくなっていると言います。

宮井さんは「意地でも続けたいという思いはありますが、現実は厳しいと感じるのも事実です。それでも気仙沼に観光客を呼び込み経済を活性化するためには街中をぴかぴかに光らせるまで頑張りたい」と話します。


<“光”に思いをはせて>
寒空の下でも家族や恋人と見て心温まるイルミネーション。

son171205.10.jpgそれをお金にまつわる話で考えると夢のないことだと言われるかも知れません。しかし、その光に込められた願いや、どう“光っているのか”に、時には思いをはせてみるのもいかがでしょうか。

投稿者:戸田 有紀 | 投稿時間:17時26分

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