2017年12月18日 (月)議場に子連れ 広がる議論


※2017年12月4日にNHK News Up に掲載されました。

先月22日、熊本市議会に赤ちゃんを連れて出席しようとして、退席を求められた女性議員。1週間後、市議会は、事前の通告がなく議会の開会が40分遅れたなどとして厳重注意の処分を決定しました。一方、ネットでは今もさまざまな意見が投稿され、議論が広がっています。

熊本局・政治部・ネットワーク報道部

gij171204.1.jpg

<渦中の熊本市議は>
議会の規則に違反するとされながら、なぜ、子どもを連れてきたのか。

彼女の率直な気持ちを聞くために、緒方夕佳議員(42)にインタビューしました。

gij171204.2.jpg緒方議員は、去年、妊娠した時から「議会の仕事と子育てを両立するために子どもを議場に連れて行きたい。もしくは、議会に託児所を作って、傍聴に訪れた市民も利用できるようにしてほしい」と議会事務局に繰り返し、要望してきたといいます。しかし、返ってきた答えは、「議員個人でベビーシッターを雇ってください」というものでした。

ことし4月、長男を出産したあと、緒方議員は体調を崩して6月、9月議会は出席できませんでした。ふだん長女は保育園に預けていますが、長男は自分で見ているため、政治活動などの際には友人などに預けていたといいます。

このため11月の議会の前に改めて議会事務局に交渉しました。ところが回答は変わらなかったといいます。

緒方議員は「議会の開始が遅れたことは本意ではなく申し訳ないと思っている」としたうえで、「子育てと仕事の両立は1人ではできないが、女性1人の責任のようになっている。子育ての当事者として、仕事との両立に頑張っている人たちの声を見える形にしたかった」と話しています。

gij171204.3.jpg熊本市の議会事務局には、先月28日までの1週間で480件の意見が寄せられました。

このうちおよそ6割は緒方議員を支持する意見で「議場に赤ちゃんを連れて行けないことは女性活躍に逆行している」とか「子どもを同伴できるように規則を改正するべき」だったということです。

一方、不支持の意見はおよそ4割で「気持ちはわかるがやり方が間違っている」とか、「市民の税金で議会に託児所を作ることは議員特権ではないか」といった意見だったということです。

市議会は、緒方議員に厳重注意の処分を決める一方、子育て中の女性議員への支援策についても検討したいとしています。


<#子連れ会議OK>
ネットでは今回の緒方議員の行動についてさまざまな意見が投稿されました。

「子連れ議会」の賛否を聞く、今月2日まで行われた「Yahoo!ニュースの意識調査」ではおよそ30万人の投票のうち、8割以上が「認めるべきではない」と投じています。

さらにNHKがネット上の意見を調べたところ、事前に通告がなかったことや、議場に連れていった行為そのものに対しては、「赤ちゃんが議場で泣いたら進行の妨げになるし、他の議員の迷惑だ」、「一般企業の会議に突然赤ちゃんが来たら誰でもびっくりしますね。市議会はアリって思ったのか」といった批判が寄せられていました。

一方、仕事の際に、子どもを同伴するという点では別の動きも出ています。映画監督の紀里谷和明さんが「自分と仕事の際は、子連れでかまわない」と投稿。すると、これに賛同する著名人が「#子連れ会議OK」というハッシュタグをつけて、次々と意見を表明したのです。

gij171204.4.jpgこれを受けて、「どうしても預け先がないという時に『連れてきてもいいよ』という寛容さがほしい」、「職場に子どもを連れていかなくてもいいよう、託児サービスや仕事を休める体制作りが必要」など、子育ての環境整備にまで、議論は広がっています。


<別の地方議会では変化も>
同じ地方議会で、子育て中の女性議員に対して全く別の対応をした議会がありました。

沖縄県北谷町の議会。町議会議員の宮里歩さん(38)は、5月に長女を出産しました。妊娠中から、出産後は町議としての責任をどう果たしながら育児と両立していくか、不安を抱えていました。

gij171204.5.jpg同僚議員が撮影してくれた写真 宮里議員提供
北谷町では保育所に申し込みができるのは生後6か月以降。母親を早くに亡くし、父親も体調が悪く、親に頼ることもできません。

そこで、議会事務局と議長に相談したところ、「子育てしている女性の声を議会に反映していくためにも考えなければいけないね」という反応が返ってきたのです。

出産後、本格的な復帰となった9月の町議会。町議会は、畳のある議員控え室を保育スペースとして開放することを了承し、宮里議員は子育て支援のファミリーサポート制度を利用して、地域の人に赤ちゃんを見てもらいながら、審議に出席しました。休憩時間には授乳したり、寝ている様子を確認したりして、「安心して審議に集中できた」といいます。

宮里議員は「議会中も他の町議から、『子育て大変だから頑張ってね』と声をかけられ、子どもは社会で育てていくものという姿勢を感じてとても心強かった。町民からも『子育てしやすい町のイメージができた』と言われて嬉しかった」といいます。


<国会議員も試行錯誤>
国会でも、本会議場には衆議院、参議院とも、赤ちゃんを同伴しては入れません。しかし、議員会館などに子どもを連れて、議員活動を続けている国会議員はいます。

立憲民主党の西村智奈美衆議院議員は、去年11月、長男を出産しました。毎週のように、長男を連れて、地元の新潟と東京を行き来しています。

gij171204.6.jpgベビーシッターが手配できない時は子どもを連れて議員会館へ。来客に対応する時も、理解が得られた場合には子連れで対応します。取材に訪れた日も、おんぶしたまま、来客者の話を聞く姿が見られました。

gij171204.7.jpg近くのベビーサークルで子どもを遊ばせながら、パソコンに向き合い、書類の作成やメールのやり取りをしています。

実は、議員会館には、保育所がありますが、議員専用ではなく、国会周辺で働いている人も利用しているため、西村議員は子どもを入所させることができませんでした。

gij171204.8.jpg西村議員は「子どもを連れて行けるところと行かないところは自分で線引きしている」としたうえで、今回の緒方議員の行動について「問題提起としては意義があるが、本会議場はまさに議論する場なので、議会事務局や各党各会派などとの事前のやり取りは必要だったと思う。ただ、みんなが安心して子どもを育てられるためには、社会全体で子育てを応援していく仕組みが必要ではないか」と話していました。


<社会の多様性を議会に>
女性の政治参加に詳しい上智大学法学部の三浦まり教授は今回、さまざまな議論が巻き起こったことについて、「子連れで乗った電車で、温かい目で迎えられなかったり、暴言を吐かれたり、周囲にわかってもらえないもどかしさを感じている中で、社会で感じる子育てへの不寛容さと、今回の件がリンクしたから、これだけの議論が広がったのではないか」と分析しています。

gij171204.9.jpgそして、「現在の地方議会は女性や若い議員が少なく、社会の多様性を反映した構成にはなっていない。いろいろな視点が意思決定に反映されることで、バランスの取れた政策が決まっていくので、今後どのように環境整備をしていくのか、社会が考えていく必要がある」と指摘しています。


<子育て支援考えるきっかけに>
熊本市議会が発端となった今回の議論。仕事の場に子どもを連れて行くことの是非にとどまるのではなく、仕事と子育てを両立するために、必要な支援は何か、その仕組みをどのように整えるべきか、広く考えるきっかけになればと思います。

投稿者:らいふちゃん | 投稿時間:16時50分

ページの一番上へ▲